一番星と屑星のふたつ星   作:てへぺろん

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騒がしい日々が急になくなると寂しくなるよね。


それでは……


本編どうぞ!




寂しさ

「――あちっ!!?」

 

 

 煙草に火をつけていたのを忘れ、指先まで達するまで俺は呆然としていた。

 

 

 斎藤壱護……それが俺だ。夢は自分が育てたアイドルをドームに立たせて、ドームをサイリウムで染め上げることだ。

 

 

 俺の夢……いや、妻のミヤコも夢見たドーム公演は大成功。念願の夢を叶えることができ、次の夢を見ようとしていたが……とんでもねぇ爆弾がやってきた。

 

 

 天野コイ……こいつはアイよりも闇に染まった悪ガキだった。

 

 

 悪ガキを知ったのは()()()()()()()()()()()と情報が流れてきた時は俺とミヤコは訳が分からなかった。何かの間違いだと病院に駆け込んだが、そこには()()()()()()()

 

 

 幻覚ではなく、アイと双子の姉妹のコイだということが後になって知る。あいつがアイを嫌っていることも知ることになるが、初手でアイに手をあげるとは思ってもいなかったぞ。

 

 

 そこまではいい。好き嫌いは人間の特権だからな。アイだって万人に好かれるわけじゃねぇ。

 

 

 ここからだ。ここからが……あの悪ガキが闇に染まっていることを知る出来事があった。

 

 

 母親に捨てられたアイは姉妹のコイに感じるものがあるらしく、仕事が休みの日には病院を訪れていた。その日は俺もアイに同行し、病室に入るなり嫌な顔をする悪ガキとアイを傍で見守っていた……そんな時だ。

 

 

 コイのスマホに電話がかかってきた。悪ガキはトイレに行っていてアイが勝手に出やがった。なにやってんだと注意したが、スマホから漏れる会話に俺は言葉を失った。

 

 

 悪ガキは体を売ってやがった。芸能界は決して明るい話ばかりじゃない。そういう面を俺は見てきたつもりだが、どっぷりと社会の闇を思い知らされた。

 

 

 アイと双子の姉妹ならコイも同じ歳になる。それもアイの奴に瓜二つ、声も同じ、違いは髪の長さと色だろう。そんなあいつが何度も何人もの男と寝ていたと知った時、俺の中で何かが叩き割られたような感覚に陥った。アイも妊娠したが、事情が違うことは会話から伝わってきた。

 アイの奴も電話をぶち切ってスマホを睨んでやがったが……恐ろしい。あのクソアイドルがあんな顔をするなんてな……

 

 

 俺達はコイの闇を知った。だがこれはほんの一部だった。

 

 

 俺はコイを拉致してしまった。いや、これはあのクソアイドルが「協力してくれないとアイドルやめるから」と脅してきやがったんだ!ミヤコの奴にも相談できなかったからアイに協力できるのが俺だけだったが、誘拐するだなんて……どこで教育を間違えちまったんだ!?

 拉致したことがミヤコに知られ、成り行きでミヤコを踏まえて目を覚ましたコイと話し合うことになったんだが……クソアイドルが手錠なんて持ってやがった。おいちょっと待て?お前それどこから入手した?本物だろそれ!?と口には出せず、ヒヤヒヤしながらコイが過去を話し始めた。この時、俺はこいつの闇の深さを何もわかっていなかったと理解させられた。

 

 

 父親の家庭内暴力、学校でのいじめ、我慢していたがある日それが爆発し、父親から逃げるように飛び出した先で社会の闇に関わった。そこを聞いてもいないのに生々しく、詳細に説明するこいつはやはり悪ガキだと思った。ミヤコは耐えられず視線を逸らし、俺は言葉が見つからない。アイの奴は……無表情で話を聞いていたが、俺はアイの目を見れなかった。目を見れば後悔することになりそうだったからな。

 話し終えたコイは俺にあろうことか()らないかと誘ってきやがった。ミヤコがいる前でだ……俺にとってアイは手のかかる娘のようなもの、その双子の姉妹のコイが誘ってきても興奮なんてするか。寧ろ俺は……悲しくなった。

 

 

 闇を知り、闇に染まりすぎた。アイが16歳で妊娠した時よりも前から社会の闇の中で生きて、ずっと苦しんでいたんだろう。立場が逆なら……これがアイだったらと思うと悪ガキを叱ることなんてできねぇよ。

 

 

 アイは俺達と同じマンションに住むことになり、何かあれば駆け付けられる。まだ犯人は捕まっていない……用心しておかないとな。コイのことに関してはアイに任せようと思うが、何もしないなんて薄情な真似はしねぇよ。

 悪ガキが悪ガキのままではダメだ。20歳だが俺からしたらまだ悪ガキはガキのままだ。大人の俺達も手を貸さねぇと旨い酒も不味くなる。俺とミヤコは朝方まで話し合った。

 

 

 結果、コイを雇うことにした。ドーム公演が大成功したおかげでB小町は人気アイドルグループとして世に認められたわけだ。その影響もあり、仕事が舞い込んできて丁度アクアとルビーの面倒に手が回らなくなりそうだったから渡りに船だ。悪ガキは嫌がっていたが、アイやミヤコの押しが強すぎてな……俺もこいつを手放すには惜しいと思っていたからな。

 アイはB小町のあいつらと上手くいっていない。人気アイドルグループとして世に認められたならもう少し仲良くなっておかないといつかお互いの不満が爆発しかねない。アクアとルビーを俺達の事情でアイとあいつらの仲を改善しようと言葉は悪いが二人を利用しようとしたらコイの奴は怒りやがった。

 

 

 『大人の為の便利な言い訳に使うな!!』だと……アイを叩いた悪ガキのことを好きにはなれていなかったが見直した。アイと瓜二つながらクソアイドルとは違う良いところもあると知った。

 

 

 コイにはB小町のあいつらの補佐とミヤコの手伝い、アクアとルビーの面倒を任せて俺は自分の仕事をしていた。一服しに喫煙所へと足を運ぶとコイがいた。

 

 

 丁度二人で話し合いたいと思っていた。俺に気づいたあいつは既に煙草を満喫していたが、アイと瓜二つで少し気が滅入ったと言うか……アイも煙草に興味を持ったらこうなるのかと思うとな。そのことを口走ると睨んできやがった。アイと悪ガキを重ねているだって?そんなわけあるかと内心鼻で笑ったが……

 

 

『悪ガキって……()()社長って自分のアイドルの見分けもつかないの?』

 

 

 噴出した。その拍子に煙を吸い込んじまって(むせ)た。

 

 

 あまりに似ていた……いや、()()()()()()()()。ここに居るのはコイのはずなのに……頭が混乱していた。思わずコイなのか確認しちまった。わざとアイを真似たと言うが、容姿と声は同じだと知っていた俺が驚いたのはそこじゃない。アイが纏うオーラそのものをあいつから感じたからだ。

 

 

 幾多のファンを虜にし、俺も虜になったアイをコイが纏っていた。

 

 

 俺はアイをコイに重ねていないと自負していたが……それは思い違いだった。俺は悪ガキにアイを重ねていたようだ。

 

 

 それから悪ガキの愚痴をただ聞いているしかなかった。

 

 

 アイと重ねられることを嫌っている。

 

 

 アイしか見ていない自分のことを見てほしい。

 

 

 アイが輝いているのが羨ましい。

 

 

 俺にはそう聞こえた。穢れてしまったと言うが俺にはそうは思えねぇ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 『悪ガキって……()()社長って自分のアイドルの見分けもつかないの?』

 

 

 確かに俺はお前にアイを重ねていた。だがそれは顔が、声が同じだからじゃない。

 

 

 お前にもアイと同じく、人を惹きつける魅力があるってことだ。

 

 

「……勿体ねぇ」

 

 

 アイとコイ、双子の姉妹でアイドルユニットを組めたらと思うと……自然と口からそんな言葉が漏れていた。

 

 

 

 ★------------------★

 

 

「やっと終わったのか……」

 

「ごめん待たせちゃった?」

 

「誰がお前のことなんて待つかよ」

 

「じゃあなんで待ってたの?」

 

「このガキどもがいるからだろ!ったく……おばさん、さっさと出してよ」

 

「おばさんじゃないって言ってるでしょ!?」

 

「そんなみみっちいことで車の中で騒ぐなよな。シワが増えるぜ?お・ば・さ・ん♪」

 

「……お給料はなかったことにしてあげましょうか?」

 

「おっ、いいのか?そんなことをしたらどっかの人気アイドルグループの誰かさんにガキがいるって情報漏れちゃうかもよぉ?そうなったら誰かさん達の人生終わっちゃうね!いいんだね?」

 

「ねぇコイ、アクアとルビーのこと……本気で漏らそうって思ってないよね?よね?」

 

「――ッ!!?じょ、冗談に決まっているじゃねぇか何を言っているんだよ嫌だなぁ本気にすんなよ!!」

 

「そうだよね。コイがそんなことするわけないもんね♪」

 

「そ、その通りだ」

 

 

 レッスンも終わり帰宅することになったアイ達。ミヤコが運転席におり、助手席はコイが座って双子とアイは後部座席にいる。斎藤夫妻と同じマンションに住むことになった星野一家は車で一緒に通勤することになった。壱護がここに居ないのは社長である為に他にも仕事を持っていて、遅くなるからと先にミヤコ達を帰らせた。

 

 

 時刻は夕暮れに差し掛かった頃か。車内ではちょっとした不良が軽口を叩いては不気味な光を宿したアイドルの瞳にビビる光景が見れるがそれだけだ。

 

 

 特に事故も何も起こることはなくマンション前に車が到着し、アイ達を降ろしてミヤコは車を停める為にその場を離れた。

 先にマンションに入るわけだが一人足りない。勿論ミヤコではなく、降りたそのままの足でマンションとは別方向へと向かうコイの姿があった。

 

 

 去ろうとするコイの腕を掴んだのはアイ。

 

 

「どこ行くの?」

 

「どこって帰るに決まっているだろ?」

 

「どうして?家はここでしょ?」

 

「そんなわけあるか。お前の頭ん中はお花畑なのか?」

 

「アクアとルビーの面倒は?」

 

「あれは仕事中の契約だ。オレの仕事は終わった」

 

「まだ仕事するべきだと思うな。残業して?」

 

「お前はブラック企業の上司か!!」

 

「残業代出したら文句ないよね?」

 

「そういう意味じゃ……チッ、いいかよく聞けよ?オレは退院したと思ったら誘拐されて、次は金を出すから家に来いと連れていかれ、帰ろうかと思ったらまた連れていかれ、そのまま契約書にサインをさせられて、事務所(監獄)で働かされて……一度も家に帰ってねぇんだよ!!」

 

「帰る必要ある?」

 

「お前は鬼か?それとも悪魔か?」

 

「残念でした。アイドルだよ?」

 

「むかつくっ!!はぁ……もういいわ。相手にするだけで疲れるから帰る」

 

「……」

 

「おい、無言で手錠を取り出すな!!なんなんだよもう!!」

 

 

 お笑い芸人のコントのように繰り広げている光景にアクアは何度目かの憐れみを宿した視線を送り、ルビーはさっさと帰れという意味を込めて手でシッシと追い払う仕草をしていた。コイ本人は帰りたいのに帰らせてくれないアイとの攻防戦もこのままでは通行人の目に留まってしまい、アイは有名人である為にバレたらまずい。

 

 

 そのことをコイは理解しており、苛立ちながらもアイに伝える。

 

 

「家だって放置したまんまだ。帰って色々とやりたいこともあるし、仕事がある日は出てきてやるからそれでいいだろぉ!?」

 

「アイ、ずっと天野さんを拘束するのは良くないよ」

 

「アクア……うん、わかった」

 

「はぁ……ガキ助かったぞ」

 

「いえ、このままだと話が平行線になるかと思いまして」

 

「まぁなんにせよ、オレは帰るぞ。あばよバカ、それにガキども」

 

「あ、はいお疲れ様です」

 

「さっさと帰れアマ」

 

 

 アクアの助けがあってようやくコイは解放された。ルビーには去り際に睨まれたがどうでもよかった。

 

 

「……」

 

 

 アイは去り行くコイの背中を寂しそうに見送っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわっ、汚ったね。久しぶりに帰ると埃まみれか……」

 

 

 コイの住まいは良くも悪くもない都内のアパートだった。一人暮らしには程よい広さだが、どこか寂しい印象を抱くように物が少なかった。彼女は久しく帰っておらず、不在が長く続いてそこらには埃が積もりに積もっていた。

 

 

 アパートに帰るよりホテルに泊まる方が多かった。金払いのいい男となら豪華なホテルで食事もお酒も堪能できるサービス付き、そうでなくてもここよりもいいホテルに泊まれ、全て料金は向こう持ち。どっちを取るかなんて決まっている。

 

 

「掃除は……今からやる気が起きねぇ。これもバカのせいだ」 

 

 

 コイは窓を開け、ベッドの埃を払うと宙に舞う。その拍子に咽るが、誰も埃まみれのベットで寝たくはない。ある程度の換気を済ませると服を放り出し風呂場へ向かう。シャワーだけ浴び、下着を履き替えてそのまま姿ベットに潜り込む。

 

 

 外を見ればもう夜中。今日は満月がよく見える。月明りがカーテン越しに薄っすらと部屋を照らす。

 

「………………………………………………」

 

 

 布団から顔だけ出せばそこに電球以外に何もない天井が視界に入る。時より外から車の走る音が流れてくるが静かな夜だ。

 

 

「……うるさくねぇな」

 

 

 静かすぎて自分以外に誰もいない空間に気持ち悪さを感じた。

 

 

 シャワーを浴びたばかりで体温は高いはずなのに冷めた気分になる。

 

 

 入院してからアイがやってきた。時々斎藤夫妻&双子(大人と子供)付き、おまけにアイのありがた迷惑セットも付いて来た。退院後は拉致監禁、強制雇用とびっくりな体験をした。そこにはいつもアイの姿があった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『初めまして、私は星野アイ。あなたのお名前は……?』

 

 

 アイドルを引っ叩いた。

 

 

『う~ん、このお菓子塩っ辛いね?』

 

『塩っ辛いね?じゃねぇよ!!なんで病室でお菓子食ってんだよ!?』

 

『コイは怪我人だからお菓子食べれないでしょ?可哀想だから私が代わりに食べてあげるの』

 

『お前バカか!?いや、バカだったわ……』

 

 

 アイドルのバカな行動に頭を抱えた。

 

 

『コイ、ごめんね?少しの辛抱だからね?』

 

『おいバカやめろ!!手を放しやがれ!!』

 

『暴れたらダメだよ?走行中の車から出たら危ないから。大丈夫、寝ている間にすぐに着くから』

 

 

 アイドルに誘拐された。

 

 

『私の家に来て』

 

 

 アイドルに買われた。

 

 

『……おねえちゃん……』

 

『……っ』

 

 

 逃げれたのに逃げなかった。

 

 

 コイは天井を見つめながらいつもとは違う日々を送った。それがたった数日の出来事だが記憶にしみついていて離れない。

 

 

 アイドルが絡んできてうざい。

 

 

 アイドルのバカな行動にイライラする。

 

 

 アイドルの笑顔が忘れられない。

 

 

 それが自分に向けられる。

 

 

 だからこそ苦しい。

 

 

 穢れた自分には相応しくない。

 

 

 輝く星が……憎くて恋しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……ちくしょう

 

 

 布団を被り、意識が薄れていく中でコイの瞳から一粒の雫が流れ落ちたのを知るものはいない。

 

 

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