一番星と屑星のふたつ星   作:てへぺろん

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コイとB小町のあの子とのお話です。


それでは……


本編どうぞ!




引き立て役B

 アイドルグループ『B小町』のドーム公演以来仕事は増えた。

 

 

 グループでの仕事の数々、個人宛ての仕事も増え、更に人気を上げるB小町の快進撃は現在進行形で進んでいる。

 

 

 コイを襲った通り魔は残念なことに警察の捜査も虚しくまだ捕まっていない。初めは弱小事務所だった『苺プロダクション』は力をつけ大きく成長した。そのおかげで警備員を雇うこともできたおかげかアイは忙しいながらも平穏な日々を送ることができた。そして一か月の月日が流れたそんなある日の出来事だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

――ひぃ!?

 

 

 アイだと思い込み嫌味を言ったニノと嫌味を言われたコイが同じ現場にいた。

 

 

 ★------------------★

 

 

 バカのせいでスマホがダメになったが、おばさんが連絡するのに無いと不便だからと新たにスマホを買ってくれた。真面目に働いているご褒美らしいが、オレはほとんど手伝いしかしていない。内職やメンバーの水分補給にスポーツドリンクを買いに行ったりと簡単なことだけ。後はガキどもの面倒を見ておくと言っても無駄に賢い奴らだからB小町の連中から可愛がられたり、オタ芸を披露しているのを眺めていたりと手間がかからないのがまだいい。問題はやっぱりあのバカだ。

 

 

 バカと関わってから何もかも変わった。

 

 

 毎日のようにバカが絡んできて鬱陶しい。仕事が忙しくても休みはある。それもごく僅かの時間だったが、それでもオレに会いにわざわざアパートまで押しかけてきやがる。マンションでガキどもとゆっくりしていればいいものに……本当にバカなアイドル様だよ。仕事で忙しい時は新しいスマホにメールが届くのだが、バカからなので無視していた間に件数が999となっていた時は目を疑った。唖然としていると突如スマホに電話がかかってきた。着信相手がバカだとわかってもすぐに取ることでなかった……滅茶苦茶怖かったんだからねっ!!

 連絡先を交換したくはなかった。オレは嫌だったが、新品のスマホのはずなのにバカの連絡先が入ってた。勝手に入れてやがったから、連絡先を消去したら消したバカの番号で電話がかかってくるから着信拒否したら今度は知らない電話番号でかかってきた。出たらバカだった。すぐさまその番号も拒否すればまた別の知らない電話番号がかかってきて……怖かった。

 

 

 相変わらずB小町のメンバーとの関係は遠い。バカが絡んできてオレがキレる。その光景を見ている連中はビビって避ける。オレはその関係性で構わないが、バカが連中とオレを絡ませようとするのは本当にやめてほしい。仲良くなるどころか余計に拗れる。それに仕事中はただのアルバイトスタッフとして扱えと言っても聞かないどころか「コイは歌もダンスも上手いんだよ!」って自慢しようとしやがったから全力で口止めした……ハーゲン〇ッツを4つも奢らせやがってっ!!

 それとガキどもから聞いたんだが、バカと遊んだ次の日にプリクラで撮った写真をガキどもに自慢しやがった。絶対見せる意思を崩さないバカを一時的止めておく処置としてオレが土下座し、写真を自慢するのを先延ばしにしてもらい、その間にこっそりと写真を盗んで燃やしてやる計画だったが……翌日に暴露しやがった!?黒歴史確定の写真を見られたとかふざけんなっ!!あいつマジでイカレてやがる!!!

 

 

 あのバカをぶん殴ってやりたいが報復された時が怖い。拉致監禁までした奴だから何をされるのか……アイドルっていったい何だっけ?

 

 

 ま、まぁそんな話はやめてだな……日が経つにつれて男どもを抱いていた時が遠い過去のように思えてくる。今やっていることなんて大した金も得ることもできない仕事だ。慰謝料や口止め料に迷惑料は次第に払うと言っているが、ちょっと疑わしい。オレをここに繋ぎ止めておく為の言い分かもしれない。それにバカの相手にガキどもの面倒とB小町の連中に恐れられる謎の三角領域に挟まれた重労働でも逃げ出していないオレって凄くない?今までのオレならこんなところすぐに去っていたのになんでなんだろう?オレ自身もよくわかっていないんだ。

 

 

 煙草と酒には金が要る。それも沢山得るなら金は沢山必要だ。金を得る為に男を誘ってホテルで過ごしていたのに今はそんな気分になれない。

 

 

 いつもバカが傍にいて鬱陶しいと思っても離れてくれない。うざったいあいつがいない方が珍しかった。

 

 

 そして今、その珍しい状況に困り果てていた。

 

 

 金を手に入れる為には働かないといけないのが自然の摂理。今日も重い足取りながらも『苺プロダクション』(監獄)へ辿り着くとおばさんが忙しそうにしていた。その光景はここ最近珍しくないのだが、バカとB小町の連中も姿が見えない。

 バカは別の仕事でおっさんと出かけており、アクアとルビーは幼稚園で先生に任せられるので、オレの仕事はないなということで帰ろうかと思ったが、そうは問屋が卸さないようだ。おばさんがオレに仕事を与えてきた。

 

 

 B小町の連中も仕事でいない……一人を除いて。その一人も仕事があるのだが、本日そいつに付き添いでいくはずだったスタッフが急に熱を出して来られなくなったようで代役でオレに頼むとのことだった。

 

 

 おい無茶言うなと思った。バカはともかく、B小町の連中には恐れられているのになんの罰ゲームだよ。それにオレはアルバイトスタッフ、更には不良だ。そんな奴が仕事場にいたら異様だろ。それでもおばさんが必死になって頼んでくるのでどんな仕事内容か気になって聞いてみれば、次々に生徒が失踪する廃校でその謎を解き明かそうとする主人公の友人役をもらったのだとか。学園ホラー映画で、映画の題名を見せてもらったが低予算映画によくある題名だった。人気上昇中のアイドルグループに振る仕事か?と思うだろうが、当の本人は初めての映画出演のこともあり出たいと言ったので出演することになったそうだ。

 それで当日になったわけだが、スタッフが熱で来られず、人気アイドルの一員なので一人で向かわせるのは気が引けるのだとか……おばさんの言い分はわかった。

 

 

 引き受けてやると言うとおばさんは一瞬ぽかんとしたがすぐに喜んだ。元々仕事をしに来たんだからこれぐらいは引き受けてやるよ。オレはスタッフとしてそのメンバーと仕事の付き合いで接すれば最低限の会話はできるはずだと自身に言い聞かせて、早速準備に取り掛かろうとするとおばさんが「いじめないであげてね?」と言ってきた。なんのことだ?とその時は思ったが、ぼっちで待ち惚けをくらっていたメンバーと会ってみるとおばさんが言っていた意味がわかった。

 

 

 小さな悲鳴を上げられた。強制的に雇われた日、オレをバカと間違えて嫌味を言ってきやがった奴だった。初めは憶える気なんてなかったが、バカが確かニノとか言っていたな。同じメンバーの名前すら憶えていなかったあいつが憶えていたそいつだった。

 

 

 いじめてなんかいねぇよ、こいつが勝手にオレに怯えているだけだって!!だがもうおばさんに言ってしまった手前、後戻りはできない。怯えているそいつを無理やり急がせて現場に向かうことにしたが、タクシーに乗っている間ずっと隣で震えていやがった。タクシー運転手が不審にこちらを見つめていて居心地の悪い中、一切の会話もなく現場についた。

 既にスタッフが何人かいるが、思った通り低予算の現場だと一目瞭然でわかった。パッとしない撮影風景を遠くから眺めていたが、仕事をさっさと終わらせて帰りたいので現場で一番偉いお方に挨拶しなければならない。

 

 

 挨拶は大事、不良のオレでもわかる。挨拶ができないとどんな世界でも生きていけない基本中の基本、オレから距離を取るニノの奴に付いてこいと視線を送るとまたビビられた……ついバカにするように睨んでしまったが不可抗力だ。だが謝ってやんね、こっちはオレとバカを間違えたこと根に持ってんだからな!

 スタッフの中で一人のおっさんが気怠(けだる)そうな顔してやがった。低予算の監督にはお似合いの顔をしていた野郎が居たからこいつが監督だろう。雰囲気がまさにそれだった。ニノの奴に挨拶させようとした時におばさんにきつく言われたことを思い出す。「挨拶はちゃんとしなさい」だと……わかってる。でもアルバイトスタッフとはいえ、オレも()()()()挨拶しないといけないだなんて……うぐぐっ!!

 

 

 お気に入りのパーカーを着込み、フードで顔を隠しているが挨拶の時は顔を見せないとダメだ。二度三度深呼吸を繰り返して素顔を晒しておっさん監督に声をかける。

 

 

「おはようございます!あなたが監督さんですね?」

 

 

 ()()()()笑顔を振りまく。背後でニノの奴が唖然としている光景が伝わってくる……オレは嫌なんだけど仕方ないだろぉ!?って言うか唖然としている暇があるならお前も挨拶しろよ!!

 

 

「ん?ああ……ってアイ?なんでお前がここに居る?」

 

 

 気怠(けだる)そうな顔がオレに振り向き視線が重なる。そうなると予想通りの回答が返ってきた。

 

 

 チッ、やっぱりこいつもあのバカとオレを重ねるのか。ま、まぁ……この野郎とは初対面だから我慢、我慢してやる……よっ!!

 

 

チッ

 

「あっ?今……舌打ちしたか?」

 

「いえいえ、そんなことしませんよ?それにあたしはアイじゃありません」

 

「アイじゃないだと?どこからどう見てもアイだろ?まさか双子の姉妹……」

 

あんなバカと一緒にすんじゃねぇよ。双子でも姉妹でもなんでもないっての……お前の目は節穴かよこのゴミがっ!

 

「い、今なんか俺のことをゴミとか聞こえた気が……」

 

「何のことでしょうか?そんなことよりもあたしはアイじゃありませんし、姉妹でもない赤の他人のスタッフAですので、そこのところお間違いのないようにしてくださいね?」

 

「お、おう……わかった」

 

 

 危ない危ない。つい本音が出たけど何とか誤魔化せたな。おっさん監督以外にもオレの存在に気づいたのか「アイじゃね?」「でも違うって」とかコソコソ話してんじゃねぇよ!どいつもこいつもバカと間違えやがって!!イライラしてきた……が、まだ我慢だ。やることがあるからな。

 

 

「監督、こちらがニノさんです」

 

「ニノです!本日はよろしくお願いします!」

 

 

 唖然としていたが、一応は人気アイドルグループのメンバー。オレよりも現場慣れはしている。おっさん監督以外にも挨拶が済んだらニノの奴は準備に取り掛かる。

 撮影が始まる。初めは野外での撮影で、人数も少ないスタッフとニノを含めた数名の役者が演技を披露する。流石にニノの奴も震えが止まっており、自分自身の役をこなしていく。アルバイトスタッフのオレは出しゃばらずに邪魔にならないように徹するだけ。その証拠にフードで顔を隠して影を薄くする。挨拶済んだし別にいいだろ?もうオレの役目終わったんだから。撮影が順調に進んでいき、のんびりと煙草を吸って待っていようとしていたら問題が訪れやがった。

 

 

「……っ!」

 

 

 ニノの奴が苦虫を嚙み潰したよう顔で悔しがっていた。オレはクソ面倒だなと思いつつ、オレと距離を開けて椅子に座るニノを盗み見ていた。そもそも何があったのか……簡単に説明するとバカが原因だ。

 

 

 現場のスタッフの一人が「アイの方が良い」なんてほざいた。ニノの奴はバカのことをどう思っているのか傍で見ていたからわかる。こいつは加害者で被害者な負け犬。

 バカの才能に負け、嫉妬し、憧れていやがる……B小町の初期メンバーだとおばさんが言っていた。バカとは昔からの付き合い故に徐々に力量の差が開いて絶望したってわけだ。へっ、噓つきバカアイドル様は敵が多いですね。まっ、オレには関係ないことだからどうでもいいけど。

 

 

「……っ!!」

 

 

 拳を握りしめても悔しさをぶつけられない状況に多大なストレスを感じている様子らしい。

 

 

 今は野外の撮影は終わり、廃校内での撮影中。私情で苛立ちを誰かにぶつけようもんなら即アウト、関係のないスタッフに迷惑をかければ一生仕事なんて回って来なくなる。事務所の評価も下がり、ぶっ倒れることになりかねない。こいつもそのことを理解しているのか我慢して悔しさを内に押し留めようとしていた。

 そうやって今までずっと我慢して来たんだな。バカをいじめることで少しはストレスを解消できるだろうが、何の解決にもならない。そんなことをしている合間にもバカは力をつけていき、置いていかれる……それが嫌だったんだろうな。

 

 

 なんとなく気持ちはわかる気がする。だけどオレは関わらない。オレはバカじゃないんだし、こいつには嫌味を言われたからな。そこで一生悔しがってろ。

 

 

 そう思っていたが、こいつ演技の質が落ちやがった。滅茶苦茶演技が上手いわけでもないがいいと思う。初めての映画出演にしては上出来だとオレは思っていた。だがさっきまでは順調だったのにNGを連発、頭にバカのことがチラついているんだろう。「アイの方が良い」なんて言われてバカよりもいい演技をしようとしても空回っているってところか。

 それにニノの役は平凡な自分自身を嫌っていて、心の内では優秀な主人公に嫉妬している。それでも昔からの友人である主人公を支えている。主人公はそんな友人が支えてくれているから立ちふさがる恐怖に打ち勝てるという設定らしい。

 

 

 似ている。バカとこいつの関係に……バカが名前を憶えているメンバーはニノだけだった気がする。しかし最近まではおぼろげだったようだ……オレの知らないところで何かあったな。まぁそれはどうでもいいが、丁度いい役だったのに崩れてしまっている。このままだといつまで経っても撮影が終わらないね。そう思っている内にまたNG出しやがった。煙草終わるまで持つかな?なんて眺めながら考えていると……

 

 

「おいスタッフA」

 

「うわっ!?」

 

 

 いつの間にか隣におっさん監督がいた。ニノの奴を眺めていたからおっさん監督が近づいて来るのにオレが気づかなかっただけみたいだな、びっくりさせやがって。それにスタッフAって誰のこと……ああ、オレがそう言ったんだったな。それでおっさん監督は何か用か?まぁ、大体予想はついているが……

 

 

「あいつに何があった?」

 

「さぁ?あたしはただのスタッフAですから彼女の内面なんて知りませんよ?」

 

「……そうか、お前ならわかると思ったんだが」

 

「何故あたしにわかるとお思いに?」

 

「お前がニノを同情した目で見ていたから何かを知っていると思ってよ」

 

「……」

 

 

 同情……ね。おっさん監督はいい目をお持ちらしい。ニノの奴に同情したなんて思いたくもないが、バカよりはマシだ。バカの相手はマジでしんどいからね。

 おっさん監督もこのままだといい映画を撮れずにその原因となったニノに仕事を振らない可能性が出てきた。仕事を頼んでおいてそれはないだろと思うかもしれないが、世の中は結果が全てだ。金にならない奴なんて映す価値がないんだよ。別にオレ的にはそうなっても問題……あるか。

 

 

 ニノの奴はバカを意識しすぎている。それが枷となっているのを何とかしないといけない。もし何もしなかったらおっさんおばさんに後でどうこう言われるな絶対……うぐぐっ!!わかったよ!なんとかすればいいんでしょ!?これは金の為だ、決してこいつの為じゃないから!!

 

 

「おい、おっさん監督」

 

「お、おっさん監督!?」

 

 

 やべっ、口が滑った!!()()()()……()()()()接しろ。

 

 

「ゴホン……監督、ニノさんの調子が悪いようなので少し休憩にしませんか?」

 

「あ、ああ……まぁそうだな。少し休憩するか。休憩したら再開するが……大丈夫か?」

 

「彼女のことはあたしに任せてください。何とか……できたらします」

 

「……ああ、頼むぞ」

 

 

 おっさん監督は一同に休憩することを伝えた。スタッフも役者達もNGを連発するニノのことを何人かは心配してくれるが、今欲しい言葉は慰めじゃない。

 

 

 意気消沈しているニノの手を取って無理やり人気のない場所へと連れてきた。いきなりオレに人気のない場所に連れて来られて何かされると思っているのだろう。ビビるのは大目に見てやるが、なんで体を守る仕草をする?スカートまで庇っていると……まるでオレがお前を()()()()()()みたいじゃん!そんなことするわけないでしょ!?お前もバカみたいな反応するなっ!!

 

 

 落ち着けオレ……今はそんなことよりも目の前のこいつを何とかするのが先だ。苛立ちを無理やり抑えて冷静に対処することにした。

 

 

「なんださっきの演技は?」

 

――ひぃ!?

 

「お前がNGばっか出すからオレの仕事が終わらないんだよ。さっさと終わらせろ」

 

「そ、そんなこと言われても……こっちは一生懸命にやってr……や、やってます」

 

「一生懸命ね。それはいいが、演技をやっている最中にバカのことばかり考えているだろ?」

 

「……」

 

「それが邪魔してんだよ。お前はバカのことなんて考えず、自分自身そのままを出せばいい。下手に取り作った演技じゃあのおっさん監督は満足しない。このままだとオレがおっさんおばさんに怒られんだよ」

 

「……っ」

 

 

 唇を噛みしめて我慢している。オレのことが怖いんだろうな。反論すれば殴られると思っているのかもしれない。初対面でビビらせたことが効いているようだが……ああもう!面倒だな、最終手段を使うか。

 最も手っ取り早くニノを立ち直らせる方法だが……心底嫌な方法だ。マジでやりたくないけど、さっさとオレは帰りたいし、こんなことで時間を潰したくないんだよ。ちくしょう、この恨みは必ず晴らしてやるぞ!!

 

 

「……今だけはオレをアイ(バカ)だと思え」

 

「はっ?」

 

 

 何言ってんだこいつみたいな顔をされた……わかってる。だけどこうでもしないと撮影が終わらない。フードで隠していた顔を曝け出すとビクリと震えやがったが、瞳の中は嫉妬で燃えていた。

 

 

「鬱憤溜まってんだろ?」

 

「……」

 

「このままだとクソ下手な演技で見ていられない。鬱憤を晴らして自分の演技をしろ」

 

「……」

 

「お前はアイ(バカ)じゃない、お前はお前だ。あいつに言いたいことがあるならこの場で言え」

 

「……っ」

 

 

 ()()()()()では無理か。なら……なりきれ、なりきるんだ。うざくて、憎くて、羨ましくて、本当は寂しがりな噓つきに……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうしたの?()()?」

 

「――ッ!!?」

 

 

 オレは……今だけは星野アイ(バカ)だっ!!

 

 

「辛そうな顔してるよ?悩み事とか?もし歌とかダンスでわからないことがあったら……私が相談に乗るよ?」

 

 

 星野アイ(バカ)になれ。鏡なんかじゃ真似できない星野アイ(バカ)自身になれ!!

 

 

「私達は同じB小町の仲間でしょ?」

 

 

「……なによ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あんたに何がわかんのよっ!!

 

 

 大声を上げやがった。怒りを孕み、憎しみの籠った声が辺りに響く……それでいい。周囲には誰もいない。いるのはお前と()()()()だけ、だから胸の内を曝け出せ。

 

 

「むかつくのよ!!一人だけどんどん先に行っちゃって……追いつきたいのに追いつけないで置いていかれる身にもなってよっ!!」

 

 

 ニノの口から今まで胸の内が秘めていた我慢が爆発した。

 

 

 バカと変わらないスタートだったのにいつの間にか遠い存在になっていた。メンバーが増えていく一方で、辞めていく仲間を見送るのが辛い。初期メンバーが4人だったのにバカとニノの二人だけになった。このまま自分を置いて行ってしまうのではないかと思うと怖い。他のメンバーの嫉妬や嫌がらせに迷惑している。そう思いつつも自分も加担していることに自分自身が嫌になる。弱い自分が嫌になる。バカと比較されて自分が劣っていると認識してしまうことが悲しい。バカに死ねと言ってしまった。何でも持っていると思っていたけど、ニノは持っていてバカには持っていないものを知り、死ねは言い過ぎたと謝って許してくれて、名前で呼ばれるようになって少しだけ気持ちが楽になった。けどやっぱり周りは自分は添え物だと認識していることに腹が立つ。

 

 

 バカが眩しくて……輝いている姿に憧れている。自分もバカの後ろじゃなく隣を歩きたい。

 

 

「初めから一緒なのに名前を憶えていなかったなんてある!?あんたに意地悪していたのは確かだけど名前ぐらい憶えていてよ!!こっちはあんたの出たテレビも録画して、雑誌も全部買ってるのに最近まで名前がおぼろげだったなんて知ったら……むかつくに決まっているじゃない!!!」

 

 

 ニノの愚痴は止まらなかった。途中から支離滅裂なことを言っていたり、同じことも何度も繰り返しが続いていた。それでもまだまだ止まらず、本人ではないのにこんなことをぶつけられる側でもキレずにいられるのはこいつの気持ちがわかるからだろうな。

 

 

 輝いて近づけば近づくほどに焼かれてしまう。遠ければ遠い程、その輝きを求めてしまう。

 

 

 『一番星』の輝きにこいつは焼かれてしまったんだな……

 

 

 オレはニノの愚痴を受け止め続ける。この愚痴が終わる頃にはこいつは少しはマシになっているだろうと思いつつその時を待った。

 

 

「わたしはあんたの……引き立て役じゃないんだからねっ!!!

 

 

 ニノが手を振り上げた。

 

 

 ………………………………………………

 

 

 

 

 

 …………………………

 

 

 

 

 

 

 

 …………

 

 

 

 

 

 ――ちょ、ちょっとまっt!!?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんとか終わったな」

 

「……そうですね」

 

「……大丈夫か?」

 

「……なにがです」

 

「紅葉型の跡が残ってるぞ?」

 

「……なんでもないです」

 

 

 撮影は終わった。低予算の映画なので時間もそれほど確保できない。今日でニノの役は全て取り終わった。そう、無事に終了した。NGを連発していたニノだったが、吹っ切れて最後はおっさん監督が満足する結果となった。これでオレの仕事は終わったんだ……その代わりとぉっっっても痛い目にあった。

 おっさん監督がオレを心配しているのはフードで顔を隠しても頬は見える。そこから見える紅葉型の跡……それはニノの奴がオレを引っ叩いたからだ。何故か?オレがバカに成りきったことで鬱憤を晴らす為に愚痴を吐き出させた。そうしている内にオレをバカだと完全に意識し、むかついて叩いてしまった訳だ。まさか叩かれるとは思ってもいなかった。我に返ったニノは真っ青になって滅茶苦茶謝られたが、別に構わないと言っておいた。それでも渋っていたので「バカを超えたきゃさっさと撮影を終わらせて来い」と言うと感謝されて現場に戻っていった。

 

 

 ……正直マジで痛かった。一瞬意識飛びかけた……余程の鬱憤が溜まっていたみたい。オレがこんな仕打ちを受けたのもバカのせいだ。絶対この分を含めてぶっ叩いてやるからなっ!!

 

 

 その前に一つ気になっていたことがあった。おっさん監督にだ。

 

 

「一つ聞いてもいいですか?」

 

「ん?なんだ?」

 

「何故ニノを選んだんですか?聞きましたよ、おb……ミヤコさん(マネージャー)からバk……アイと以前仕事したことがあって面識があったと。以前は違いますが、今は人気アイドルのセンターだから予算的なものもあって出演を見送ったとか?でもそれならニノも人気アイドルの一員ですからそれはおかしい。アイではなくニノを選んだのは何故です?」

 

 

 そうだ、このおっさん監督はバカではなくニノに出演を依頼して来た。そこが疑問だった。

 

 

「ああ、そのことか。それはな……」

 

 

 おっさん監督が語るのはこうだ。

 

 

 今回の主人公の友人役はバカには向いていない。バカなら演じ切るだろうが、もっと最適な人物を見つけた。それがニノだった。おっさん監督も例のドーム公演を生ではないが見ていて、そこでニノがバカに向ける感情を直感的に見抜いたそうだ……が、ほとんど勘頼りで、役を決める時は悩んだが勘を信じて実際に役をやらせてみると何かが一歩足りないと感じていたらしく、例のスタッフの発言で演技の質が落ちて焦ったそうだ。吹っ切れた後は満足したようで、このおっさん監督は人を見る目があるようだ。なんでそれで低予算映画の監督のままなの?まぁオレには関係ないから別にいいけどね。

 

 

 疑問が晴れたのでさっさと帰ろうとしたらおっさん監督に呼び止められた。

 

 

「こいつを渡しておく」

 

「……名刺ですか?」

 

「俺の名前知らないだろ?」

 

「お前の名前なんてどうでもいいのに……あっ、いえ、わざわざありがとうございます!また何かあれば頼らせていただきますね!」

 

「……お前って本当は口悪いな?」

 

「さ、さぁなんのことやら……あっ、もうこんな時間だ!それではおっさん監督、あたしはこれにて失礼させていただきますっ!」

 

「おっさん監督ってハッキリ言ったぞ今!?」

 

 

 何か言っているが無視だ無視。もう二度と会うことはないだろうからな。ニノの奴を拾ってさっさと帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「天野さんおはようございます!今日もお仕事頑張ってくださいね」

 

「あ、ああ……」

 

 

 低予算映画の撮影が終わったその後からだ。ニノの奴との距離が近くなった気がする。目を合わせるだけでビビっていたのに挨拶をしてくるようになったし、スポーツドリンクやタオルをわざわざ自分から受け取りに来るようになった。

 ちょっと世話を焼きすぎたようだ。オレを頼れるお姉ちゃんキャラにされている気がするが気のせい?他のB小町の連中から奇怪な目で見られるようになったし、おっさんおばさんには「弱みでも握っているのか?」とか言われた。そんなことしてないよ!!そして極めつけは……

 

 

お姉ちゃんが……コイが取られちゃう!コイは私のお姉ちゃんなんだよ?例えニノでも渡さない。そうだ、社長にも手伝ってもらって地下に幽閉すればいいかな?でも地下なんてここには無いし……無いなら作ればいいよね!流石私だ~♪

 

 

 ぶつぶつと独り言を言っているバカ……怖いからオレは見なかったことにするしかなかった。

 

 

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