それでは……
本編どうぞ!
「ママぁああ!ママぁあああ!なんでママがいないの!!」
ある平日、星野一家が住むマンションの一室で一人の幼稚園児ことルビー(前世12歳)は現在の状況に悲観し泣きわめいていた。
「なんでママがいないのにアマはここにいるの!?ママとチェンジしてよぉ!!」
ルビーの母親のアイは今日もB小町のメンバーと共に仕事で外出中であり、人気アイドルの彼女は最近は家に居る時間が大幅少なくなっている。比例してアクアとルビーとの時間も少なくなっていて、愛する我が子との時間が少なくて悲観に暮れていたが、表面では二人は自分の子供ではない扱いなので我慢しなければならない。今日も今日とて仕事に行く手前「やっぱりアクアとルビーの傍を離れたくない!」と駄々を捏ねたが壱護に強制連行されてしまった。
幼稚園が休みの日はよく事務所に顔を出すようになったアクアとルビー。今日は平日であり、おやつ時まで幼稚園に居た。中身が転生者である為、幼稚園児とは程遠い二人だが、迎えが来るまで幼稚園児としての充実した時間を送っていた。しかし迎えに来た人物が人物である為、アクアは問題ないがルビーの機嫌は悪かった。
迎えに来た人物はコイだった。アルバイトスタッフの彼女だが、アクアとルビーの面倒も見なければならず、どちらかと言えば二人の面倒を見ることが優先的だ。壱護とミヤコは多忙につきアクアとルビーの面倒が見れずにコイが代わりに保護者として付き添っている形である。アイ自身も人気アイドルである為に最近ではコイの方が二人と関わっていることが多い。ルビーはそれが気に入らない。
コイの印象はアイを叩いた性悪女、自分達からアイを奪おうとする(本人はそのつもりはない)泥棒猫。アイLOVEのルビーにとって看過できるものではなく、そんな相手にお世話されるのは
B小町は只今遠征中で、本日から数日は泊まりでアイもミヤコも帰って来ない。壱護は社長である為に他の仕事でアクアとルビーまで手が回らず、時間を見つけて顔を出すと言っていたがどうなることかわからない。早い話は数日はコイとアクアとルビーの主に三人で生活しなければならない状況なのだ。これにはルビーも我慢できなくなったというわけだ。
アイLOVE成分を摂取できないことで泣きわめいているルビーを冷やかな目で見ていたアクアはルビーを宥めようとするが、今日のルビーはとても我儘だった。
「お兄ちゃんもママがいなくて寂しくないの!?おっぱい欲しくないの!!」
「アイがいないのは寂しいって、おっぱ――ッ!?……ゴホン、確かに寂しいが遠出の仕事が入ってしまったんだから仕方ないことだ」
「それはそうだけど、せめてミヤコさんじゃないと嫌!!」
「我儘言うなよ、数日我慢すればいいだけなんだから」
「嫌だっ!!ママがいい!!アマ嫌い!!早くママ帰って来て!!私をオギャバブランドに返してよー!!!」
「……はぁ」
ダメだこれはっとアクアは宥めることを諦めた。アイLOVE成分を補給できないルビーの我儘は自分では止められないと実感し、視線を別の方に向けるとソファーに腰かけ、ビール片手に苛立ちを隠そうとしていないコイが目に入る。
「おいうるさいぞ!!泣きわめいている暇があるなら遊びに行け!!」
「はぁ!?誰のせいかわかっているの?」
「オレのせいだって言いたいのか?こっちは仕事でお前達の面倒を見なければならなくなって、これが仕事じゃなかったら好き好んでこんなことするか」
「そう言っているけどソファーでくつろいでんじゃん。手に持っている
「チッ、見られてたか。だがこっちはわざわざこんなところまで来てやってるんだ。これは必要経費だ」
「誰も来てほしくないんだけど?帰ってよ」
「おいルビー、子供だけで数日間を過ごすのはよくない。大人がいない状況は流石にまずいぞ」
「お兄ちゃん、でもこのアマと数日間一緒に暮らすの精神的にきつくない?周りに悪影響を及ぼす存在なんだよ?私までグレちゃうかもしれないんだよ?」
「お前……流石に天野さんをディスり過ぎじゃね?」
「このアマはディスられて当然の存在なんだけど?」
「……」
ルビーの不満を聞いているアクアでも流石に思うことはある。そこまでコイのことが嫌いなんだなと思う一方で、この二人の仲を良くしなければ事あるごとに言い争いが勃発しかねないのは勘弁してほしいと思っている。ルビーとコイに挟まれている身にもなってほしいアクアであった。
「……ん?もう空か。酒は……もうなかったな。しゃあねぇ、買ってくるか」
「天野さん、お出かけですか?」
「酒を買って来るだけだ。ガキどもは大人しくしてろよ」
「さっさと出て行って帰って来ないで。はぁ……ママのライブ映像でも見よ」
「おいルビー、天野を一人にするのはまずい……って、あれ?」
コイに興味を無くしたルビーは録画したB小町のライブを見ようと準備に取り掛かり、ビールを飲みほしたコイはソファーから立ち上がって玄関へと向かう。アクアはなるべくコイを一人にするのは避けたかった。まだ捕まっていない犯人が現れるかもしれない不安があるが、仕事上ずっとアイとコイと傍に居続けることは不可能。それでも可能な限りは傍に居ることを心掛けているアクアだったが……コイが戻ってきた。忘れ物でもしたのか?とアクアは思ったが違っていた。
「おいガキども、お前達も出かけるぞ」
「はぁ?なんで?」
「お前達はずっと部屋の中に引きこもっているつもりか?」
「なに?なんか文句あるの?」
「ガキは外で遊べ。バカのライブなんて見ている暇があるなら遊んでいたほうが時間を有効活用できる」
「はぁ?ママのライブを見る価値をわかってない?これだからド素人は……」
「オレはバカのライブなんて興味ないし、見たくもない。そんなことよりもだ、ガキどもだけで留守番させたことをおっさんおばさんに知られたら面倒なんだ。お前達ガキどもがオレのいない間に悪さしないとも限らない」
「私はお兄ちゃんと違って良い子だもん」
「俺が悪い子みたいな言い方するなよ」
「まぁそこはどうでもいい。お前達ガキどもは賢いのはわかるが、ガキらしくなくてもガキだ。ガキだけでは対応できないことは世の中うんとある。目の届かないところに置くよりも届くところに置いた方が安全だ」
「ええ……一人で行ってきてよ」
嫌そうな顔で返答するルビーにアクアは耳打ちする。
「ルビー、約束しただろ?アイと天野を守るって。常時とはいかなくとも出来るだけ一緒に居た方がいい。まさか約束を破るつもりか?」
「うぅ……わかってるよ……」
さっさと準備しろとジェスチャーで伝えてくるコイに今からB小町のライブを見ようとしていたルビーは不服の表情を露わにする。そうしている間にもアクアは外に準備を進めており、ルビーは渋々お出かけ用の服に着替える。
家の戸締りをしっかりして近くのコンビニへとやってきた。その間もルビーの機嫌は直っていないが、お菓子に目が行く。前世では入院生活を余儀なくされていたこともあり、子供ならお菓子に目が行ってしまうのは仕方のないことだった。ジッとお菓子を見ていると横から声がかかる。
「これが欲しいのか?」
「えっ?」
意外にもその声の主はコイでひょいとお菓子を籠に入れて適当に他のお菓子も入れていく。アクアの方にも声をかけて飲み物を選ばせていた。その後はレジで会計を済ませてアクアとルビーはそのままマンションに帰ると思っていたが、コイがアクアとルビーを連れてきたのは公園で、彼女はそこら辺に空いているベンチに腰かけて二人は状況に置いてけぼりだった。
「天野さん、なんで公園なんて来たんですか?」
「あん?ガキは外で遊ぶもんだ。ほら遊んで来い」
アクアの質問も適当に返してコンビニの袋から買っていたのだろう煙草とお酒を取り出して堪能しようとするが、まだ目の前にアクアとルビーが居て早く遊んで来いとの意味を込めてシッシと追い払う。二人は言う通りに公園で遊ぶと言う選択肢はあったが、アクアはどちらかと言えば体を動かすより読書を好む。それに中身は成人をとっくに過ぎていてブランコや滑り台で遊ぶには抵抗があった。ルビーの方はそうではないが気分が乗らず、躊躇していると煙草とお酒を堪能したコイが近づいて来た。
「なんで遊ばない?」
「いや、その……僕は読書の方が好きでして」
「ルビーはどうした?」
「……そんな気分じゃない」
「……チッ、だからガキの相手は面倒なんだ」
コイはそういうとアクアとルビーを抱きかかえた。先ほどまで煙草を吸っていたのでそのにおいが鼻に付き、二人は顔をしかめた。
「うわくさっ!?このアマ離れてよ!!」
「そんなに嫌か~?」
「嫌に決まってる!!早く下ろしてよ!!」
「はいはい、ところで今から鬼ごっこするぞ。オレが鬼な」
「あ、あの天野さん、話の流れが理解できないですけど?」
「アクア、鬼のオレから逃げろ。ただし公園の中だけだぞ?外に出たら車とかあって危ないからな」
「何故鬼ごっこするのか説明してほしいんですけど?」
「捕まったら煙草のにおいをたっぷり堪能させてやるから覚悟しろよガキども」
「「えっ!?」」
「10数え終わる内に逃げろ。それじゃ……1……2……」
いきなり始まった鬼ごっこ、説明も無しに捕まったら罰が待っているという理不尽に困惑するアクアとルビーだが、煙草のにおいを堪能するのは勘弁してほしいのですぐさま逃げる。
「ちょっとあのアマいきなり意味不明なことしてんの!?」
「さっきの話の流れから俺達が遊ばないことに業を煮やしたと考えられるな」
「だからって幼気な子供に対して煙草のにおいとか何考えてんの?」
「とりあえず捕まらないようにしないと罰が待っているのは確定している。どうにかして捕まらないようにしないとな」
「どうにかってどうすればいいの?アマは大人なんだよ?」
ルビーの疑問は最もだ。幼稚園児と大人の体格差もありすぐに捕まってしまうと想定する。ならばとアクアは公園の遊具を利用しようと考えた。コイも小柄だが、こっちは子供なので上手く遊具を使えば捕まらずに済む。走って逃げても追いつかれるのはわかりきっているのでこれしかない。
「……9……10っと。よっしゃ、ガキども覚悟してろよ!」
「ルビー、何としてでも逃げ延びるぞ!」
「うん!!」
子供VS大人の戦いが始まった。
★------------------★
最近幼稚園以外に外出することが少なくなったガキども。見かねて公園で遊ばせるために鬼ごっこに強制的に参加させてやった。嫌々ながらの仕事だが、ガキどもの面倒を見ているとわかったことがある。
アクアはインドア派、ルビーはアウトドア派のガキだとわかった。聞けば、ルビーの方は幼稚園でも活発に遊んでいるらしいが、アクアの方はキョウゴク何とかと言う知らん人物の本を読んであまり活発ではないと知った。人の趣味も好みも自由だが、バカもおっさんおばさんも忙しくてガキどもを外に連れ出せないでいる。休日は
B小町(バカとニノを含む)とおばさんは泊まりがけの仕事が決まったそうだ。おっさんも別件で忙しく最近まともに顔を合わせていないし、頼めるのはオレだけだと。バカもガキどもに会えなくなるのが寂しいとかほざいていた。そういうわけでガキどもの面倒を見ることになったが、バカがいないとこんなにも気分がいいとは思わなかった。適当にガキどもはガキどもで勝手にしていればいいし、冷蔵庫には酒があってラッキーと思って後はのんびりと過ごしていればいいと考えていたがそう楽じゃなかった。
バカがいないことに不満が爆発したルビーがうるさく、更にはオレにいちゃもんをつけてきやがる。仕事じゃなきゃ来ねぇよこんなところ!イラついたが、酒がもうないとわかると買い出しに行こうと思った。しかしだ、ガキどもだけで残らせて何かあったら流石にマズイ。無理にでも連れ出して近くのコンビニへと足を運んだが、不貞腐れていたルビーがお菓子をジッと見つめていた。
欲しいらしいが、相手がバカなら躊躇せずに買ってと強請っただろうな……まぁ、無理に連れ出したんだ。これぐらいは奢ってやる。適当に他にもガキどもが好きそうなお菓子を選んで、アクアの方も欲しいものを買ってやった。煙草と酒も買ったが、そのまま帰らずに公園へとやってきた。どこかに出かけることをしていないと気分が滅入るだろうとオレの親切心だ。別に煙草と酒が我慢できなくなったからではない……いや、少しは我慢できなかったこともあるけど、ガキどもは好き勝手に遊ばせておけば仕事をしていることになる。オレは煙草と酒を堪能できてハッピー、ガキどもは気分転換にも遊べてハッピーに……なればよかったんだけどなぁ……
遊ぼうとしない……遊べよ。ガキは遊ぶのが仕事だぞ?ガキどもがなにか言っているが……知ったことか!オレの親切心を無駄にしようとした罪は重い。ガキどもを抱きかかえて、煙草のにおいを嗅がせてやると顔をしかめやがった。そのままの勢いで鬼ごっこをすることにした。困惑しているが知ったことか。オレが鬼役、ガキどもが逃げる。10数え終わるまでにガキどもは何やら話し合っているが……どう捕まえてやろうかな?捕まったら煙草のにおいをたっぷり嗅がせてやる罰が待っている。ふっふっふっ、覚悟してろよ!!
「はぁ……はぁ……」
「つ、つかれた……つかれたよー!!」
中々頑張ったが勝負はついた。息切れするガキどもは遊具を利用してオレの追走から上手く逃れやがった。ジャングルジムや滑り台などは子供に適したサイズではオレが小柄であっても厳しかった。だが体力の差ではオレの方が上だった。ガキなんぞに体力で負けるわけないが、鬼ごっこを初めてから結構経った今ようやく捕まえたところだ。ガキどもは汗だくで活発なルビーですら地べたに大の字で転がっている……砂が付くからそんなところで転がるんじゃない。
「ほら、のどが渇いただろ。ゆっくり飲め」
コンビニで買っておいた飲み物をガキどもに渡すとゆっくり飲めと言っていたのを無視してがぶ飲みしやがる。今回は大目に見てやるか。そういえば公園で遊ぶなんてオレに今まであったっけ?もう憶えていないや。
鬼ごっこやかくれんぼはいつも眺めているだけだった。友達もできなくて、クソ親父とは遊んだことなんてあったかどうか……ガキどものようにオレにもそんな過去があれば良かったな……って何を考えているんだ。もう昔のことなんてどうでもいいよ。
頭につまらない考えが浮かんだが切り捨てる。賢いガキどもに悟られぬようにオレは振る舞う。
「どうだ、思う存分運動して楽しめただろ?特にアクア、インテリ系&インドア派のお前には今までにない経験だったでしょ?」
「ぷはっ、流石に疲れました。若々しいと言っても子供の体では体力が持ちませんから」
「……」
ガキのくせして若々しいとか……アクアお前ってもしかして中身実はおっさん男子なんじゃ……い、いや、そんなオカルト的なことなんてあるわけがない。きっと大人びているからだ、そうだそうに違いない!不吉な考えを想像したオレは自分自身を納得させることにした。そうでもしないとガキの中身がおっさんとか恐ろしくて夜も眠れなくなる。
「だが楽しんだならいい」
「一番楽しそうにしてたのアマだったじゃん」
「はぁ?オレが楽しそうにしてたって?」
「はい、天野さん子供のように楽しんでいましたよ」
「……そうか」
楽しんだ……か。まぁ運動もできたし、悪くはなかった……のかな?
「……遊んだし帰るぞガキども」
体温が上がっていくのを感じる。ガキどもにそのことを知られまいと背を向けてマンションへと歩を進める。
捕まえて煙草のにおいを嗅がせてやるとオレは意気込んでいた。しかし疲れるまで遊んだアクアとルビーはそのことをすっかり忘れているようで、そもそも捕まえてもそんなことをするつもりはなかった。子供に煙草はにおいでも禁止だ。親切心を無視して遊ぼうとしないこいつらを脅しただけ、罰があったと思い出させないようにオレはそそくさとマンションへと向かった。
マンションに着いた時には体温も元通り。すっかり時間を忘れて遊んでいたせいで夕食の準備がまだだった。出前を頼んでもいいが、買い込んである食材がある。それを使わないと勿体ない。
ガキどもには帰ってきたらちゃんとうがい手洗いを忘れずにやらせた後、お菓子を少し与える。食事前だがルビーが物欲しそうにしていて夕食をお残ししないなら食べていいと伝えると喜んで食べていた。一袋全部ペロリと平らげて夕食を食べられるのかと思った。たぶん無理だろうな、ガキは大人の言うことを聞かないのはよくあることだ。仕方ねぇ、ルビーとアクアの分量を変えてやるか。食べきれるようにしてやらないとバカのように無理やり食べようとすると逆に体に良くない。適切な量を守るから食事ってのは上手いんだ。腹を満たすだけの食事なんてつまらないだろ?さてと、ちゃっちゃと作るか。
「ほら、いただきますをしろ」
「「いただきます」」
夕食はハンバーグしかも出来立てだ。サラダとコーンスープをつけて、アクアは大盛り、ルビーはお菓子を一袋全部食べてお腹が少し膨れているだろうから少し控えめにしておいた。オレ?自分の分を作っているが、プラスで酒とつまみがついてくる。寧ろそっちがメイン、当然だよな?ガキどもの視線が突き刺さるが知ったことか、オレはこれがないと頭がおかしくなって死ぬんだよ。視線をこっちに向けている暇があるなら冷めないうちに食べちまえ。
オレの視線の意味を理解したのか食べ始めた。それでいい、ガキはよく遊んで、よく食べて、よく寝る。それがガキの仕事、それ以外のことは徐々に身に着けていけばいいんだから……ってなんだよ?意外そうな顔をしてハンバーグとオレを二人して見比べていやがる。
「……ねぇ、これ本当にアマが作ったの?」
「あん?冷凍食品だと思ったのか?」
「いえ、そうではないんですけど……天野さんって料理お上手なんですね。美味しいです」
「ぐぬぬ……お、美味しいけどママには負けるけどね!!」
意外だみたいな顔で見てくるガキども。ルビーはバカの方が上手いと言うが、負け惜しみにしか聞こえない。ちなみにオレが料理をこいつらに披露するのは初めてのことだ。いつもは外食か出前で済ましていた。まる一日ずっと面倒を見ているわけではなかったからな。しかし今回はそうはいかない。外食や出前ばかりでは栄養分が偏るし、買い込んである食材を使わないと質が落ちる。勿体ないし、食わずに捨てるなんて罰が当たる。
「アイのも美味しいけど、天野さんのは店に出しても問題ない味だと思います」
「お兄ちゃん、アマのこと褒めすぎ!!」
「いや、事実を言ったまでなんだが……上手くないのか?」
「うぅ……な、内緒っ!!」
ガキどもからは高評価らしい。そんなに褒めたって何も出ないからな?まぁ……美味しくなければいけなかった。だから上手くなっただけのことだ。
「別に上手くない。美味しくなかったらクソ親父にひっくり返されてダメにされたり、殴られるのが嫌だったから必死に覚えただけだ」
「「……」」
「……あっ」
しまったうっかり喋ってしまった。食事中にこんなことを言ってしまうとは……一気に冷めた空気が漂うのを感じた。気になってガキどもを見れば視線が先ほどとはまるで違っていた。
双子の瞳にはそれぞれ片方に星が宿っている。その星が酷く悲しげな光を放っていて表情も悲しみが籠っていた……そんな顔すんなよ、もうオレにとっては過ぎた過去なんだ。お前達には関係ないし、気にする必要はない。
「……オレの話はどうでもいいんだ。それよりもさっさと食べろ、手が止まっているぞ?」
「あっ……はい」
「ルビーもだ。冷めるから早く食べろ」
「……うん」
その後の食事は……暗かった。オレが余計なことを言ったからガキどもはだんまりで手と口を動かすだけだった。原因を作り出したオレも何か話題を出すこともせずにそのまま時間が流れ、後片付けをしていたら誰かが服を引っ張った。視線を向けた先にはアクアとルビーがいた。
「あん?なんだ?」
「あの……天野さん」
「……ママのライブ……一緒に見よ」
「はっ?」
アクアとルビーがオレと一緒にバカのライブ映像を見たいと言った。アクアはまだわからないこともないが、ルビーがオレを誘うのは意外だと思った。ただなんとなく食事中に失言したことでオレに同情したんだろう。大人達だけでなく、こいつらガキどもにも同情される日が来るとはな……
「バカのライブは見ない。お前達だけで見ろ」
「天野さん、お願いです。一緒に見ませんか?」
「嫌だ。興味もないし、バカを生で見ているだけでもこっちはイライラさせられるのに、映像の中でも見ないといけないだと?罰ゲームじゃんか。それにルビーがオレと一緒にだなんてアクア、お前ルビーに何を言ったんだ?」
「何も言っていません。そもそもルビーからあなたを誘うっと言ってきたんです」
「なんだって?」
意外も意外なことにオレをライブに付き合わせようとしたのはアクアではなく、誘うと言ったのはルビーの方だった。やっぱり同情だろうな、オレが可哀想だから構ってやろうってわけか。散々オレのことをボロカスに言っておいて同情すれば優しくするなんて身勝手なガキだ。へっ、そんな優しさでオレがそれでいいよって言うわけが……
「……っ」
……チッ、そんな今に泣きそうな顔するなよ。わかった!心底嫌だけど今回はオレの失言のせいで最悪のムードの食事だったし、特別だからな?
「……見るならさっさと準備しろ。見終わったら風呂入って歯磨きして寝るぞ」
「――ッ!!その態度も今の内よ!ママの凄さをたっぷりと教えてあげるからね!!」
「はいはい」
「違う!!そこはもっと大きく振って!!」
「天野!!それじゃあアイに俺達の熱意が伝わらないぞ!!」
「なんでオレがこんな目に遭わなくちゃいけないんだっ!!?」
面倒だと思いつつもソファーで寛ぎながらバカのライブ映像鑑賞会が始まり、オレは適当に眺めているつもりだったが、アクアとルビーによる解説実況付きとは聞いていない。しかもライブ映像を複数視聴するだなんて聞いてなかったぞ?更には解説がヒートアップし、オタクのように熱烈に語るガキどもに両脇を固められて逃げられずにいた。途中からトリップし始めたアクアにさっきまでさん付けだったのに呼び捨てにされたり、何故かヲタ芸を一緒に踊らされる羽目になり、ガキどもから厳しい指導まで受けることになってしまった。滅茶苦茶疲れて、風呂や歯磨きを済ませて奈落の底に落ちていくように寝た。