それでは……
本編どうぞ!
「なんでこうなるんだよ……」
現在撮影現場にいる。オレを出すなとおばさんに言っていたんだけどオレがここにいることはおかしい。しかしこれには理由がある。その理由の元は隣のこいつ……
「天野さんどうかしたんですか?」
ニノがいるんだよ。そう、こいつのせいだ。
以前、ニノが初めての映画出演の際に付きそうはずだったスタッフが風邪を引いた。その代わりにオレが一緒に現場に向かい、そこで色々あって仕事は終わった。それからだ、ニノの奴が距離を縮めてきてよく会話をするようになった。それを無表情で眺めてくるバカだが見なかったことにした。そうしなければオレの精神が持たない……なんで瞬き一つもしないんだよ怖すぎるっ!!
何が言いたいのかと言うと、ニノに気に入られてしまった。それの何がいけないのかだと?それだけならバカが恐ろしいだけだが、ニノの出た低予算映画が意外にもヒットしてしまった。更には主人公の友人役が好評で、その役はニノだった。そのおかげかニノの名が売れてアイドルグループだけでなく、個人での仕事も増えたことで更に忙しくなった。そこで付き添うスタッフの選別だがニノの奴、オレが良いとか言ったそうでおっさんがそれを了承した。仕事が空いている場合はオレがニノに付きそうことになった。
ええっ?なんでこんなに好感度上がってんの?ただバカのフリしただけでこんなに上がるものなの?もしかしてこいつ意外とチョロいのか?バカよりはマシだからいいんだけどだからってオレを現場に向かわせないで!付き添いだから仕方ないんだけどさ、オレって不良だから会社のイメージダウンになるのわかってんの!?そんな叫びも虚しく現在現場に居る……こんなのため息出るわ。
「どうもこうも、オレがここに居るのは間違いなんだよ」
「わたしにはそうは思いませんけど?」
「そもそもお前のせいだからな?」
「あっ、ごめんなさい。でもスタッフさんの中では天野さんが一番安心できるし、こうして気軽に話しかけられるのでわたしは嬉しいですよ?」
「……そ、そうか」
おいおいおい、初めはショック受けるぐらいにビビっていたのになんだこれ?あなたはどちらさまですか?散々バカに嫌がらせをしていたくせに最近では真っ向から立ち向かっているって聞いたぞ。それに他のメンバーの嫌がらせを食い止めてるってことも聞いた……マジで?お前の中で一体何が変わったんだよ?
もうわからんので今は気にしないでおく。そんなことよりも現実を見よう。今回もまた低予算映画に出演って言うかニノが出た映画の続編が決定してその撮影を早速お願いされた。それに伴い、二度と会うことがないだろうと思っていた人物に遭遇する。
「スタッフA、何を落ち込んでいる?」
「
そう、おっさん監督だ。まさかこいつと再び出会うことになるとは思ってもいなかった。しかも早すぎる……以前フラグでも立ててしまったのか?
おっさん監督……不必要と思っていた名刺には五反田泰志と書かれていた。だけどその名前で呼ぶことはない。
「その名で呼ぶのはお前ひとりだけだぞ?」
五反田泰志+おっさん+監督=
あと、オレが口が悪いと気づいたので口を滑らせてうっかり言っても怒らないどころかそのまま受け入れているとは……意外と寛大なんだなって知った。まぁ
「おっといけね。ゴホン……それで監督、ニノさんの出番は次ですか?」
「コロッと態度変えやがるな。お前の答えにイエス……っと言いたいところだが、もう少し待ってくれ」
「おや、どうかしたんですか?」
「子役の子が怪我をしたことは知っているな?その代役が少々交通渋滞に巻き込まれてな、今こちらに向かっているところだ」
ほう、ガキ役が変更になっていたのか。知らんかった。関係ないからどうでもいいことだな。オレは興味を無くして適当に会話を耳に入れるだけにした。
「五反田監督さん、その子役の子は大丈夫だったんでしょうか?」
「怪我はそこまで大きいものではないから大丈夫。ただ代役の方がなぁ……」
ニノの奴が子役を心配していやがる。アクアとルビーが
一方で
「スタッフA、有馬かなって子役なんだが知ってるか?」
「知らん。あっ、知らないです」
「……もう素の口調でも構わないぞ?」
おっ、いいのか?そっちがいいならオレは遠慮なくいかせてもらう。
「それで?オレが知るぐらいに有名なガキなのか?ほらガムやるよ」
「思った通り口調悪いなお前、それとなんでガム?」
「なんだよ?素の口調でも構わないと言ったのはそっちだろ?今更文句あるのかよ?後それは感謝料だ」
「感謝料?よ、よくわかんねぇが……まぁ俺が素の口調でも構わないと言ったからそれは別にいいんだが、本当に知らないんだな。有馬かなは一時期売れっ子だったんだぞ?」
有名と言ってもオレにとっては無名同然だからそう言われても知らんものは知らん。まずどんなガキなのか説明してくれよ。チラリと視線でニノを見ればオレの意思が伝わったのか説明してくれた。
10秒で泣ける天才子役と呼ばれ相応しい才能と実力の持ち主のガキらしい。へぇ~としかオレは思わない。だって興味なんて湧かないし、どうでもいい。それとピーマン体操ってなんだよ?動画をニノから見せてもらったが、これがヒット曲か……まぁガキだからいいんじゃね?別に酷いわけではない。この曲がヒットしたこともあって有名らしいがガキを見たことがなかった。ついさっき動画で見たばかりで本当に有名なのか?いや待てよ、
有馬かなはまだガキなのにすっかり大御所気取りで強すぎた自己主張で周りを困らせていた。実力は本物だったが、扱いにくく旬が過ぎて今人気が下がっているのだとか。そうか……天狗になっちまったか。まぁ実力はあるみたいだし、自分と他人を比べて勝っていると言う優越感を得たいのは誰だってそうだしそうなっても仕方ない。でも人間って飽きやすい生き物だし、有馬かなは飽きられてしまったわけだ。しかしこうして代役を貰っているんだし良くね?そのことを聞いてみた。
「それがな……俺は以前に有馬の奴を作品で起用したことがあってな。それで顔見知りとはいかないが、有馬のことは知ってたんだ」
「ふむふむ」
「今回の代役を探していた時に偶然、有馬の母親に見つかって娘を使ってくれと迫られて……」
「断らなかったのか?」
「……そうだ」
「何故だ?仮でも一応監督だよな?」
「仮でも一応でもねぇよ、ちゃんとした監督だ」
「それならちゃんと断ればよかったじゃん。監督の権限で何とでもなるはずだぞ?」
「有馬の実力は知っていた。だから別に有馬でもいいと思ったんだが最近のあいつは実力を出せないでいて俺の求める役をこなせるか心配だったんだ」
「実力を出せない?どういうことだ?」
「それがわかったら苦労しない。それで悩んでいると有馬の母親に何度も迫られて……まさか自宅にまで電話がかかって来るとは思ってもいなくてよ。つい了承してしまったわけだ」
「「……」」
隣で黙って聞いていたニノもちょっと不憫に思ったのか眼差しが温かくなった。そうか……それは仕方ない。怖いよね……本当に気持ちはよくわかる。オレはどっかの噓つきバカアイドル様に迫られている自分の姿と重ねてしまって同情してしまった。断れなかった経緯はわかった。まぁ相手が誰でどんなガキだろうと関係ないしニノの奴が適当に対処するから大丈夫でしょ。
「……っ」
……っと思っていた。悔しそうに唇を噛みしめている例のガキが居た。しかもオレの目の届く場所でだ。なんでここに居るんだよ?しかもこの展開どっかで見たぞ。
代役として母親と一緒に現れた有馬かな。ガキながらプライドが高そうな雰囲気を感じた。遠くから眺めていると一瞬目が合った気がしたが、気のせいだとしておこう。こういうプライドの高い奴とは関われば面倒だから。
到着が遅れていた為にすぐさま撮影に入ったがまだガキだぞ。ニノとのコミュニケーションも取らずにいきなりで大丈夫か?と心配したが杞憂だった。流石は天才子役と言われるだけあって棒読みなんて無縁で演技力もいい。素人のオレから見てもいい演技なんだからプロの連中からしてみればその良さがわかるはずだ。ニノも負けじと磨かれた自分自身を曝け出していく。以前よりも演技が上手くなっていて驚いた。これならこのガキを選んで正解だったじゃないかと何も心配することはないと判断し、もうやることがないので煙草を吸いに撮影現場から離れた場所で堪能していると誰かがやってきたのを感じた。視線を向けるとそこにはガキが居たんだ。
何があったんだよ?母親はどうした?なんでオレのところに集まってくる?前回はニノ、そして今度はガキだ。面倒事の方からやって来るとかやめてくれと思いつつ、ガキが近くに居るので煙草を消す。何があったのか知らないが、オレは関わりたくないのでそのままガキの隣を素通りしようとした。
「……ねぇ」
ガキの方から声をかけてくるとは……しかも不良のオレに。ガキ相手に無視するのもあれなんで一応返答してみる。
「なんだ?」
「煙草なんて吸っていいと思ってるの?」
「あん?」
「ダメよ、煙草なんて吸ったら体を壊しちゃうのよ」
なんだこいつ?煙草なんて誰が吸おうと自由だろ。オレはちゃんと20歳……まぁ、未成年で煙草は吸っていたが時効だ。だからオレが煙草を吸っていようと文句はないはずだぞ?それをまるで悪い言い方するなんて納得できない。お前の前では消したんだからそんなことを言われる筋合いはないはずだ。
「煙草を吸って悪いのかよ?」
「勝手だけど、あなたはアイドルでしょ。アイドルなのに煙草なんて吸って体に悪影響が出たらどうするつもりなのよ。だから悪いことは言わない。やめておいた方がいいわ」
「……」
ああ……そういうことか。こいつはオレのことをバカだと思っていやがる。それは訂正しておかないと後々イライラがするからな。教えといてやろうか。
「おいガキ、教えておいてやるがオレはアイじゃない」
「えっ?」
「オレはあんな奴とは違う。ただのスタッフAだ」
「えっ……ええっ!?」
ガキが驚いていた。瓜二つだから間違われるのはわかるがバカだと思われるのは毎回腹が立つ。オレをバカだと思い込んでいたガキは煙草を吸っているオレを見かねて声をかけたってわけか。アイドルが煙草をやってるなんて印象が良くないからな。それをこのガキは注意してくれたようだが残念ながら人違いだ。オレはあんなイカレた奴じゃないから今度は間違えるなよ?今度こそオレはこの場を去ろうとする。
「そういうわけだ。あばよガキ」
「ま、待ってよ!」
「なんで呼び止めんだよ。まだ何か用でもあるのか?」
「あ、あなたアイ……じゃないの?」
「違うと言っているだろ」
「で、でも……」
このガキは中々信用してくれないようだな。その小さい体でフードの中を必死に覗こうとしている……仕方ねぇな。
フードを取ればバカと瓜二つの顔が現れ、それを見たガキは首を傾げていた。見た目で違うところは髪型と金髪なところだけだからな。口調と性格は全然違うが見た目では判断できない。ガキ相手にオレがバカではないと説明しないとこいつは納得しなさそうだ……面倒だなぁ。
「アイはアイドル、オレとは似ても似つかない赤の他人だ」
「顔が同じなのに違うの?もしかして双子の姉妹とかだったりするの?」
「断じて違うからなっ!!」
そこだけは強く主張しておかないとバカが喜ぶだけだからな。誰があのバカと姉妹だと認めてやるもんか!!
オレはガキにある程度ぼかした内容で分かりやすく説明してやった。ナイフで刺されたとか物騒な言葉は使わず、事件に巻き込まれた際に偶然出会い、偶然にも顔が瓜二つだっただけのこと。成り行き(強制)でアルバイトスタッフとして雇われたことも話しておいた。これでわかっただろ?オレとバカは何の関係もないただの赤の他人なんだよ。
これでオレはこの場を離れられると思っていたらガキが進行方向へ回ってきた。逃げる、しかし回り込まれてしまった……RPGゲームに出てくるボスキャラか?冗談はさておき、こいつはまだオレがバカだと思っているのか?もしそうだとしてもなんで関わろうとするんだよ?この状況に理解できずにいるとガキの方から口を開いた。
「……かな、全然ダメだった」
「はっ?何の話だ?」
「かなの相手役の人……輝いていた」
ガキの相手役はニノだ。ニノが輝いていた……か。そういえばパフォーマンスに磨きがかかったとおばさんが喜んでいたな。オレがお節介を焼いた後からだ。ほんとあの件で吹っ切れたんだな。しかしこのガキは何が言いたいんだ?
ガキはポツリポツリとまるで誰かに聞いてほしかったと言う様に勝手に喋り出した。
ガキはオレのことをバカだと思い込んだ。ガキは以前バカと共演したそうだが、本人とは直接的な接触はほとんどなく、なんとアクアの奴と接触していた。あいつ子役なんてしていたのか?その撮影の時も
周りの視線を気にして演技する自分とは違い、ニノは自分自身を表に出して全力で演技を披露する姿が羨ましいんだと。自分も全力で演技がしたいのにできない。それで共演者として名が載っていないのに現場にいたバカに胸の内を聞いてほしかったそうだ。そもそもなんでバカに聞いてほしかったのかというと……
以前バカが出演した際は急遽決定したことで、コネで役をもらったと見下していた。しかしバカと共演後、その認識を改め、売れるべくして売れた『本物』だと実感した。そんな『本物』の意見を聞こうとオレの元に来たってわけだが……別人だったわけだ。
芸能界ってめんどくさい連中ばかりなんだな。一般人のオレからしたらわからない悩みだ。しかもアクアとほとんど変わらないガキが自分がどうしたらいいのかわからなくなるぐらいに悩んでいる。それでも一般人のオレがわかったことがある。
このガキは役者が好きなんだな。好きじゃなかったらこんなことでは悩んだりしないし、この歳で自分よりも大人を優先するなんてこの業界にしがみつきたいって言っているようなもんだ。だってそうだろ?嫌ならやめればいい、やめれない立場にいるわけでもないのに気に入られるように振る舞うということはそういうことだ。
演技に対する熱意や執着は誰よりも強そうなガキだ。それなのに周りの視線に自分を曝け出せないでいる……まったく、芸能界って恐ろしいわ。まだこんな子供なのに社会の厳しさを教え込ませてしまうんだから。
胸の内を曝け出したガキはスカートを握りしめていた。悔しいと表情が語っている。オレにとっては知ったことではないんだが、天才子役であるからNGは出さないものの
「おいガキ」
「な、なによ」
「ニノは輝いていたと言ったな?その輝きに応えないつもりか?」
「ど、どういうことよ?」
「お前が全力で演技してくれないとニノの奴がくすんでしまうってことだ。片方が全力でやっているのにそれに応えないのは失礼に値する。スポーツでもそうだ、手を抜いて勝ちを譲られても納得できないのと一緒。お前が全力でぶつかってきてくれればニノの演技が更に輝き、魅力が増すわけだ。その為にも協力してくれ」
「で、でも……かなはおかあさんに……」
「母親なんて関係ない。お前がどうしたいかだ。周りの視線なんてものはどこにでも付きまとうものだから諦めろ」
「……」
「役者は好きか?」
「……好き、だから負けたくない」
「好きならお前のやりたいようにやれ。自分というものを現場の連中に見せつけてやれ。周りがどうこう言おうとお前の演技は凄いんだろ?」
「うん、かなの演技は凄いんだから!けど……」
「見返してやりたい奴がいるんじゃないのか?まさか……そいつの前でも手を抜くつもりか?」
「――ッ!!手なんか抜くつもりはない!かなはあいつを見返してやるんだから!!」
「それでいい。
「言われるまでもないわ!かなの全力を見て驚きなさい!!」
「終わったな」
「そうですね」
あのあと、元々天才子役と呼ばれるだけあってガキは見違えるように演技がよくなったらしい。えっ?なんでらしいかだと?オレ演技見てない。ニノから教えてもらったんだよ。なんだよ文句あるのか?見に行こっかなと思ったけど、相手役がニノだったし、ガキ自身の顔も良くなっていたから別にいいやって感じで煙草を堪能した。おかげで全部吸い終わってしまって暇だから昼寝でもしようかと思っていたらニノの奴が現れて事の経緯を話してもらったところだ。
「わたしの時のようにかなちゃんに何か言ったんですか?」
「まぁ……な。あのガキの方から関わってきて面倒だったから適当に受け答えしてたらなんか納得しやがった」
「ふふっ、そういうことにしておきますね」
「お前……」
気持ち悪っ!!と言葉に出しそうだったのを飲み込んだ。清純キャラ化しつつあるニノは初めオレのことをバカと間違えて嫌味を言ってきたイメージがあるから今のこいつが別人に見えて気持ち悪い。ま、まぁそれは置いておこう。本日の撮影はこれで終わり。次回はまた別の日なのでこれで帰れると思って近場でタクシーを拾おうとしていたらガキがこちらに気づいたようだ。母親は遠くから軽く会釈し、ガキが近づいて来た。
「あっ、かなちゃん」
「ニノさんお疲れさまでした」
「お疲れ様です。これから帰るの?」
「はい、帰る前に一つ聞きたいことがあって寄らせていただきました」
「聞きたいこと?」
ニノと会話していたガキがオレに向き直った。なんだ?と思ったが、お礼を言われた。オレは別に何もしてないんだけどな、ただ絡まれたから適当に応えただけだったのに。それと怒られた。ガキが演技をしている時にオレの姿を探しても見当たらず、どこで見てたの?と聞かれた。見てないと素直に答えたら面倒なことになると思ったので、見ていなかったことを誤魔化そうとしたらニノがそのことをバラしやがった。それでガキに怒られた……ちくしょう、後で憶えてろよ!
その罰で名前を教えろとか言われた。だからスタッフAと伝えたらまた怒りやがった。そしてまたニノがオレの名前を勝手に教えやがった。勝手に教えんなって!それにガキはなんでそんなにこだわる?オレはただのアルバイトスタッフなんだけどな……
ガキは何度も「有馬かな、有馬かなよ!ちゃんと憶えなさいよ!!」とオレに何度も名前を教えて帰っていった。なんだったんだ?ニノの奴は横でくすくすと笑っていた。訳がわからん。
ちなみに
まぁそんなこんなで撮影は無事に終了したわけだが、あれからあのガキがちょくちょくテレビに映っていた。それを見てアクアが興味を示していた。ただルビーが「重曹だ!!」とか言っていたが……いったい何のことかわからなかった。