ニノの心境がわかる回です。
それでは……
本編どうぞ!
「……やっちゃった」
夜遅くまで遊んで家に帰ったらお母さんとお父さんに怒られる……なんてことはない。両親とは離れて暮らしている。別に仲が悪い訳でもない。わたしがアイドルをする為に一人暮らしをしているだけだから家には自分以外誰もいない。
わたしはニノ。アイドルグループ『B小町』初期メンバー。
最初は4人だったけど初期メンバーで残ったのはわたしとアイちゃんだけ。今は7人だけど仲がいいかと言われたら微妙。だってアイちゃんが凄すぎるから……ってのは言い訳だね。
アイちゃんはいつもセンター、誰もがその輝きに惚れて嫉妬する。いじめや悪口なんて当たり前の環境になっていた。初めはアイちゃんと同じだったのに差が開いていく。こっちは置いていかれる身でそのことが我慢できずにいじめに加担した。つい「死んじゃえばいいのに」なんて酷いことを言ったけど、謝るなんてできなかった。言ってしまった後悔とそっちが悪いと決めつけて知らんぷりをしていた。
そんなある日、アイちゃん……正確にはアイちゃんじゃないそっくりな人、天野コイさんが事務所に現れた。初めはアイちゃんと瓜二つだったから間違えてしまった。双子ちゃんが居たけどわたしは胸のムカムカを吐き出したくて嫌味を言ってしまった。子供の前なのに……それでもその時のわたしはそれでも構わないと無意識に思っていたんだ。嫌味を言いたいだけ言って、何も反応を返さないことにますますムカムカして、部屋を出ようとしたら一瞬何が起きたのかわからなかった。
アイちゃんがわたしを恐ろしい目で睨んで胸ぐらを掴まれた。そのことが理解できなくてあのアイちゃんがこんな顔を見せるだなんて信じたくなかった。怒鳴られてわたしは怖くなった。あの怒ることさえ知らないようなアイちゃんが牙を剥き出しにした狼みたいにわたしを睨んで訳がわからなくなった。
後で知ったけど、それは天野さんだった。アイちゃんとは双子の姉妹だって知る。本人は否定しているみたいだけど。
社長達が養子として迎えたアクア君とルビーちゃんも双子、どこかアイちゃんと天野さんに似ていた……もしかしてどっちかの子供?なんて思ったけど、アイちゃんはそんなわけないし、天野さんかな?髪も
天野さんのことは怖いと思った。だって出会いがあれだったから……悪いのはわたしなんだけどね。
アイちゃんを見たら体が震えた。胸ぐらを掴まれて睨まれた時の記憶を思い出してしまう。だからメンバーのみんながアクア君とルビーちゃんに夢中になっている時にアイちゃんから声をかけてきた時は殴られると思った。アイちゃんと天野さんって髪型と髪の色しか見分けがつかないもん。まさかアイちゃんの方から声をかけてくるとは思わなかったけど、何も話さないのはなんか違うと思って……思い切って聞いてみた。
アイちゃんにとって天野さんってどんな人か。怖い人だったら関わりたくなかった。けど、アイちゃんから返ってきたのは……
『……家族になってほしいなって思ってる』
それを聞いておかしなことを言っていると思った。姉妹なら家族じゃないの?って……けどアイちゃんは天野さんに嫌われているって知った。嫌われているなんて思ってもいなかったから。
アイちゃんは語ってくれた。
ドーム公演の日にアイちゃんが刺されたって聞いた時、胸が非常に苦しくなった。でも刺されたのは別の人で良かったと安堵してしまったけど、それは天野さんだったんだ。アイちゃんに間違えて天野さんが刺された。それが出会いだって、もし刺されたのがアイちゃんだったら……そう思うとわたしは怖くなった。でもアイちゃんはここにいる。それが嬉しかった。
そこからお互いが双子の姉妹だってわかって、煙草とお酒が好きでお父さんから暴力を受けていて、学校でもいじめにあっていた。そんなある日に我慢できずに家出したんだって話してくれた。暗い過去だった。だからあんな不良なんだって納得した。そんな人にアイちゃんが嫌われているのはやっぱりアイちゃんは恵まれているから嫉妬しているのかもね。そう思うと他人のようには思えなくなってしまって興味が湧いた。
『お母さんに捨てられたから……今度は捨てられないように頑張るつもりなの』
アイちゃんは天野さんと仲良くしたいと思っている。そういえばアイちゃんは施設育ちだったとこの時に思い出した。
昔話を語るその時のアイちゃんはアイドルグループ『B小町』のセンター『アイ』と同一人物に思えなかった。暗い過去を持つただ一人の女の子、わたしにはお母さんとお父さんがいるのにアイちゃんと天野さんにはそれがない。わたしには持っているものを持っていない二人、だからなのかな?
アイちゃんはなんでも持っていると思っていた。でも違ったんだ。ただ人よりも頑張っていただけなんだって。アイちゃんもわたしと何も変わらないちょっぴりめんどくさい子なんだってわかったら……罪悪感が湧きあがってきて謝った。何のことかわかっていなさそうだったから、前に「死んじゃえばいいのに」って言ってしまったことを謝罪した。
その言葉を口にすれば、胸に引っかかっていたものを吐き出していた。言い訳かもしれないけどそうしないと後悔すると思ったから。それにアイちゃんはわたしにとって憧れなの。歌って踊れて可愛いくて演技もできて誰からも愛される完璧なアイちゃんじゃないと自分が許せない。そんな完璧なアイちゃんの隣に立ちたい、後ろを歩くなんてしたくない。嫌味は言うかもしれないけど、これは本心だった。本人には聞こえていないと思うけど。
そしてその時に知った。アイちゃんがわたしの名前をうろ覚えだったって……えっ?わたしの名前憶えていなかったの?初期から顔合わせていたよね?意地悪したけど……名前ぐらい憶えていてよ!!?
ちょっとって言うか滅茶苦茶そのことに苛立ったけど我慢した。折角話し合えたんだもの、その代わりにいつか必ずアイちゃんの隣を歩く為、アイちゃんを倒すために強くなって見せるんだ!!
そう新たな決意を抱いていたある日、わたしに映画の出演依頼が入った。低予算の映画みたいだけど初めての映画出演の依頼だったから当然受けると答えた。そして当日ハプニングが起きた。わたしに付きそうはずのスタッフさんが風邪を引いてこられなくなって代わりの人が付きそうことになった。けどまさか天野さんとは思ってもなかったから悲鳴を上げてしまった。現場に付くまで震えが止まらなかった。けど監督に挨拶する時の天野さん……別人に見えた。第一印象が強すぎて怖い人のイメージがあったから唖然としてしまった。おかげで震えも止まっていたから良かったんだけど、撮影が始まって少ししてわたしは嫌な気分になった。
スタッフさんの一人が「アイの方が良い」って……わかってる。アイちゃんの方が顔も演技もいいってことぐらい。でもわたしだって頑張っているのに比較されて悔しくて……NGばかり出してしまってもう嫌になっていた。そんな時に天野さんがわたしを人気のないところに連れ出された。二人っきりの状況に怖くなってもしかしたら
『……今だけはオレを
何を言っているのか訳がわからなかった。天野さんはアイちゃんのことを『バカ』って呼ぶ。なにがあったかは日頃からの絡み具合からよくわかる。アイちゃんが天野さんに絡んで鬱陶しそうにしているのをよく見かけているから。でもなんでアイちゃんだと思う必要があるのか?
わたしがアイちゃんに嫉妬していることを天野さんには見抜かれていた。だから瓜二つの自分をアイちゃんだと思わせて鬱憤を吐き出させるつもりみたい。でもそんなことできない、だって天野さんはアイちゃんじゃないんだからっと思っていたのに……
『どうしたの?
そこにはアイちゃんが居た。天野さんは?そう思ったけど……どんどん胸の奥底から嫉妬が湧きあがってくるのがわかる。こっちの気も知らないで言いたいことを言ってくるアイちゃんにわたしは我慢できなかった。
鬱憤を吐き出した。もう滅茶苦茶だったと思う。自分でも何言っているのか途中からわからなくなって手を上げてしまった。
その時ハッとした。アイちゃんじゃない、この人は天野さんだったって……そのことを理解した瞬間血の気が引いた。殺されると失礼ながら思って何度も謝った。でも天野さんは「バカを超えたきゃさっさと撮影を終わらせて来い」って送り出してくれた。わたしはお礼を言って撮影を再開すると自分自身の演技ができた。おかげでNGを出さずにやりきることができた。
胸につっかえていたものが取れたようで気持ちが楽になっていた。天野さんだったからわたしの悩みと苦しみをわかってくれて解放してくれたんだって……そう思うと嬉しかった。
天野さんは怖い人だと思った。でもそんなことはなくて、とても優しい人だった。天野さんは頼れる人でアイちゃんとの違いは髪の長さと金髪なところ。不良っぽいけど心は温かく、こんな人をお姉さんに持つアイちゃんが羨ましくなった。
わたしはそれから天野さんと仲良くしたいと積極的に関わるようになった。そしてアイちゃんに真っ向から勝負しようと決めた。いじめや悪口を言っている暇があったらもっと自分を高めることに集中しよう。他のみんなはわたしには逆らわないようにする。初期メンバーの生き残りだし、実力はみんなよりも上だと認められている。アイちゃんには劣るけど、対抗する為にはわたしが必要だから、このわたしがみんなを制御すればいいだけ。
それに天野さんに嫌われるようなことはしたくない。きっとあの人は優しいからなんだかんだ言いつつもアイちゃんの面倒を見ているに違いない。アイちゃんがあそこまで意識を向けているんだから間違っていないはず。そんなわたしに他のみんなから「な、なにか弱みでも握られたの?」と心配されたけどそれはない。天野さんがそんなことをするわけないから!!
天野さんと交流が始まってからしばらくして初出演した映画の続編が決定した。低予算ながらもヒットしたみたいでまたわたしが出演することになった。わたしは主人公の友人役だったんだけどそれが好評だって聞いた。個人の仕事もおかげで増えて嬉しかった♪あれも天野さんのおかげだったんだよね。やっぱりあの人は凄いと思った!だから天野さんをスタッフに選別してほしいと社長に頼むと了承してくれてやった!ってまた天野さんと一緒だって嬉しくなった。
気軽に話せてスタッフさんの中で一番安心できる人が天野さんだった。そんな人と一緒に仕事できると思うとやる気が湧いて、自分自身でもパフォーマンスがパワーアップしたのを感じ取れた。これも天野さんが居てくれるからできることだった。
今回の続編映画でわたしはかなちゃん……有馬かなって子で一時期売れっ子だったけど、色々とあって最近あまり見かけなかった女の子が相手役だった。その子は天才子役と言われていて演技も凄かった……はずだった。なんだか演技することを我慢している気がした。五反田監督さん、この映画の監督さんなんだけどその人も物足りなさそうにしていた。
アクア君とルビーちゃんと同じくらいの女の子のかなちゃんがどこか辛そうにしていて……胸が締め付けられてしまった。どうにかわたしにできることがあるのかなぁっと思って悩んでいると、かなちゃんがどこかに向かうのを見てこっそりと後をつけるとそこには天野さんがいて、かなちゃんと天野さんが何やら話し合って……天野さんなら任せても大丈夫だと信じているから撮影に戻った。しばらくして、かなちゃんが現れてその顔を見た時は心配事なんてなくなっていた。
天野さんがなんとかしてくれたみたい。やっぱり天野さんは凄かった。かなちゃんにも好かれたようでやり取りを見ていてついおかしくて笑ってしまった。
そんな優しい天野さんとある日遊ぶ約束をした。何故か?それはB小町として遠出でアイドルとして仕事をしていた時のこと、アイちゃんが何かを見つめていた。その時のアイちゃんの顔が凄く良かったのを憶えている。何を見ているのか気になってつい声をかけてみたらプリクラで撮った写真だった。意外にもそこに映っていたのはアイちゃんと天野さんだった。そこからアイちゃんの自慢話が止まらなかった。
二人でゲームセンターで遊んだこと、ラーメンを食べたこと、カラオケで歌ったこと、その中でプリクラで一緒に撮った写真を詳しく見せてもらうと手でハートマークを作って満面の笑みを浮かべるアイちゃんと驚いた表情をしていた天野さんのツーショット写真。その写真のアイちゃんはとても可愛かった。
最近輝きを増したアイちゃん。以前から輝いていたけど比べ物にならないぐらいに笑顔が素敵でわたしも他のメンバーも魅了された。その日が天野さんと遊んだ翌日だとわかると一つの考えが浮かんだ。
わたしも天野さんとアイちゃんのように遊べば……輝けるんじゃないかって。
邪な考えだと頭を振ろうとしたけど、アイちゃんが強くなったのは天野さんがいるからだ。アイちゃんが輝きを増したのは事実なんだし、天野さんともっと仲良くしたかったわたしは邪な考えに乗っかってしまった。
おしゃれをして変なところがないか確認して家を出る。ちょっと浮かれすぎて待ち合わせの時間よりも早くついてしまったけどそこには天野さんが居てくれた。どこかに向かうか悩んでいる天野さんにわたしは邪な考えを隠しながら「アイちゃんと遊んだ時と同じところに行きたい」と言ってしまった。嫌がられるかなと思ったけど了承してくれた。
ゲームセンターについてアイちゃんと同じ順番で遊んでいると楽しい。アイちゃんもこの楽しさを体験したんだと思いながら、プリクラがあったので視線を向けると嫌がっていた。だから無理強いはしない。嫌がっていることを他人に押し付けるのは悪いことだってお母さんとお父さんから教えられていたから……アイちゃんに意地悪していたわたしが言えることではないんだけどね。
天野さんは煙草を吸ってくるって言って一度別れた。そうしている間はちょっと寂しいけどアイドルだから煙草なんてにおいがついたら変な噂が出回るかもしれない。変装はしているから大丈夫だろうけど、バレたらあまりよくないことに繋がるから暇つぶしに自販機で飲み物でも買おうとしたら二人組の男の人に絡まれた。
見るからにチャラっぽい人たちだった。わたしはこういう人は苦手だった。一時期は彼氏がいたこともあったけどフラれた。わたしよりも可愛い子がいたからフラれたってだけ……むかつく。この人たちもわたしが一人だったから声をかけたんだろうなってわかるし、遊ぶだけじゃなくそれ以上のことも望んでいるって伝わってきて嫌だった。穏便に誘いを断っていると段々機嫌が悪くなるのがわかって怖くなった。無理やり連れて行こうとしてきて腕を掴まれて嫌がっても離してくれず怖くて誰か助けてほしかった。けど他のお客さんも関わりたくない様子で遠目で眺めているだけで助けてくれない。
誰か助けて……そう願った。そんな時に天野さんが現れて助けてくれた。
怒っていた。嫌味を言ってしまって怒った時と同じ、初めて出会った時を思い出した。けどその時とは違う。天野さんはわたしの為に怒ってくれていた。そのことが嬉しくてその姿がとても格好良かった。こんな彼氏がほしいと思った。
怒った天野さんは暴力を振るいそうになってそれは流石に止めた。このままだと天野さんが悪者にされてしまいかねないから。二人は逃げ出して、わたし達もこのままゲームセンターに残ることはせずに気分転換にラーメン屋さんに向かった。そこはわたしも食べたことがあるラーメン屋さんで、天野さんと同じものでアイちゃんも頼んだ濃厚ラーメンを食べたけどやっぱり美味しかった。アイドルだって油の乗ったものが好きなんだから。
それから公園でわたしの昔話を語って、次はカラオケだ!って向かうけど天野さんは音楽系や写真関係が苦手みたい。
嫌がる天野さん、さっきまでのわたしなら無理強いはしなかったけどあんな姿を見せられたら我慢できない。
『
わたしを悩みや苦しみから解放してくれた。不良っぽいけど優しい人、アイちゃんのお姉さんで頼りになって格好いい。同じ女性だけど、男口調がより刺激を与えてくれる。
この人ともっと一緒に居たいと思った。だから一芝居した。わたしだってアイちゃんに負けないように演技の練習をしてたんだ。涙を流す練習をしてたことが功を制して天野さんを騙したことに罪悪感が湧いたけど、もっと一緒に入れるなら為なら仕方ないと思うことにした。
涙を流すわたしにあたふたする天野さんが可愛くて微笑みそうになるのを我慢した。策に嵌った天野さんと一緒にカラオケ店に入ることは成功したけど、歌ってくれない。けどここで引くわけにはいかない……あなたのことをもっと知りたいから。
本音を言った。嘘のない本心を語る。そして一時の気の高ぶりか「ナンパされていたわたしを助けてくれた時の天野さん……とても素敵でかっこよかったです!」なんて言ってしまって恥ずかしかったけど、その後で一緒に歌うことができて良かった。それに意外な事実を知った。
歌もダンスも凄く上手で驚いた!ダンスもノリノリでアイちゃんがそこにいるようだった……けど天野さんはアイちゃんじゃない。アイちゃんにも負けない魅力を天野さんは持っているんだって気づいてその魅力に惹かれた。今、とても幸せな時間を過ごしているんだと感じられた。
我に返ってから恥ずかしがる天野さんの姿にキュンとした。ギャップが強すぎてノックダウンしそうになったけど耐えきった。萌え要素も持っているとか強すぎる。天野さんと一日中遊んで、別れる前にプリクラで撮れなかった写真を撮ろうと誘ったけど頑なに拒否されてしまう。わかっている、今日という日を一緒に過ごして天野さんの魅力を多く知った。どこが弱点かも見抜いた。だから涙を流して嘘泣きを披露すれば、なんだかんだ言っても見捨てずに応じてくれた。この優しさがとても素敵だった。
写真も撮り終えて今度こそ別れようってなった時……寂しくなった。仕事で会えるけど、アイドルとスタッフとしての関係でそれ以上はない。なんだかそのことが悲しくて、アイちゃんの輝きの秘密を知る為の行動だったのにいつの間にか天野さんと楽しむことを心から優先していたことに気がついた。
ただのアイドルとスタッフとの関係で終わらせたくなかった。もっとあなたのことを知りたい、一緒にいたい、色々とお話したい……自分でもよくわからない複雑な感情がこの時のわたしをどうにかしてしまったんだ。
天野さんの頬にキスしていた。
突如の行動に天野さんは唖然として、わたしはお別れを言ってその場から逃げるように去った。
顔が熱い……なんてことをしてしまったんだと思った。
けど後悔はしていない。不思議な感覚で、天野さんのことを思うと気分がフワフワする。今もベッドの上で枕を抱きしめながら今日のことを思い出していると……
『
「――うぇへ♪」
天野さんに想われていると感じたら変な声が出た。咄嗟に口を塞いだけど一人暮らしだから何の意味もない。何なんだろ?こんな変な感覚に陥っている自分って?
そんな時だった。スマホがメールを受信したようで癖でついそのメールの相手が誰か確認せずに開く。
『ああ……なんだか様子がおかしかったけど無理だけはするな。何かあるなら相談でも乗るぞ?』
「――ふひぃ♪」
天野さんからのメールだった。前に連絡先を交換しておいて良かったと思う一方で、キスしてしまって気まずいはずなのに心配してくれていることがわかるとまた変な声が出てしまった。なんでこんな変な声が出るのだろうか……そんなことを考えていると元カレの事を思い出した。
元カレからのメールが来たときは嬉しかった。彼からメールが届いたら他のことをそっちのけでメールを返していたなぁ……その時によく似ていた。だからわかってしまった。
わたしって……天野さんに恋をしている?天野さんの下の名前はコイだった。天野コイさんに恋してるってなんのギャグ?って思ったけど、苦しい時に支えてくれて、あの人の優しさを知り、今日のことを思い出せば自ずと答えが出た。
「そっか、わたしと天野さんは
そう、わたしと天野さんは
『ありがとうございます。何かあればお願いします』
先ほどのメールに返信した。そして後からもう一通送る。
『天野さんのこと、好きですから❤覚悟しておいてくださいね?』
メールが送信されたことを確認するとスマホに保存された天野さんとのツーショット写真、それを待ち受け画面にする。
「よし、これで毎日顔を拝めるね♪」
抱きしめていてシワシワになった枕を気にせず本来の役割に戻す。嬉しくて目がパッチリしてしまっているけど布団を被り、瞳を閉じると天野さんの姿が浮かぶ。
アイちゃんと瓜二つだけど違う。とても格好よくてアイちゃんのように輝いている素敵な人、傍に居てほしいと思える大切な存在。
らしくない行動の数々はきっとおかしくなってしまった証。
天野さんがわたしをおかしくしてしまった。
あの人の過去を知った。暗い過去、そしてアイちゃんを嫌っている。それは何故か……きっと輝くアイちゃんと比べられるのが嫌なんだ。誰も天野さん自身のことを見てあげなかったんだ。だから嫌いになったんだ。
アイちゃんに嫉妬し、輝きに惹かれている。わたしと同じだ……そう思うと嬉しいって感じるのはおかしいことかな?
わたしにとってのアイちゃんは可愛くて憎くてとても輝いている憧れ、なら天野さんは?そう聞かれたらこう言いたい。
『恋人』って。
アイちゃんと天野さんとの関係がお姉さん止まりなら、赤の他人のわたしが恋人になっても文句はないよね?
コイちゃんって言ったら怒るかな?コイさんって呼ぶことになるのか、それともコイと呼び捨てにしていいのか……恋人同士になったら天野さんなんて他人行儀な呼び方じゃ満足できなくなる。
わたしなら天野さんを見てあげる。アイちゃんじゃない、天野さん自身を見つけてあげる。
誰よりも輝いてあなたを振り向かせてみせる。
もう引き立て役なんて言わせない。
だからどちらが真のセンターに相応しいか……勝負しよう?
「アイちゃん……ううん、
初期の頃、ちゃん付けなんてしない対等だった頃の呼び方。
今度は対等どころか追い抜かしてあげるから。
「わたしは勝つよ」
最新刊を呼んでニノがアイをちゃん付けにするのはちょっと違和感が生まれて修正しました。こっちの方が宿敵らしくていいかと思いましたので。