それでは……
本編どうぞ!
「緊急会議を始めます」
「ああ」
『だいにかいきんきゅうかいぎ』とひらがなで書かれた弾幕を掲げたルビーに真剣な眼差しを向けるアクアの二人。
どこかで見た光景がある。アイがコイと遊んだその夜に「デートしてきたの♪」ととんでもない発言をしたせいで開かれた会議、それが再び開かれた。だから『第二回』と弾幕に書かれている。
「お兄ちゃん、いったい何がどうなってるの?」
「いや、俺の方が聞きたい」
以前はアイが誰とデートしてきたのかだったが、今回の議題は違う。アイ関連と言えばそうなのだが実際はコイの事に関してだった。
コイがニノと遊んでいた。今日は仕事も休みなんだから二人が遊んだところでおかしいことではない。アクアもルビーもそこに関しては何も言わなかった。
二人がやったことと言えばゲームセンターで遊んでいた。ラーメン屋で食事をした。公園に立ち寄った。カラオケで歌った。帰りに写真を撮った。ここまでは疑問に思うことなどなかった。仲のいい友人同士が遊んでいる光景にしか見えないが最後にとんでもない爆弾を投下した。
ニノがコイにキスをした……頬にではあるが。
仲が良いと言ってもそこまでするだろうか?と冷静になってから疑問に思う。当初その場面を見てしまったアクアとルビーは目が点になってしまう程に唖然とした。同行していた斎藤夫妻も自分達と同じ表情をしていた。そしてなによりも気にしていることがある。
「「……」」
二人はそっと寝室を除くと……
「コイはわたさないコイはわたさないコイはわたさないコイはわたさないコイはわたさないコイはわたさない……ぶつぶつ」
「「(――怖っ!!?)」」
アイが呪詛のように同じことを繰り返し呟いていた。ちなみに本人は寝ている。寝言が聞こえてきているだけなのだが、アクアとルビーは恐怖心を掻き立てられて扉を閉めた。
「や、やばいよお兄ちゃん!ママがおかしくなっちゃった!?」
「お、落ち着け!こういう時は素数を数えるんだ……1…2…3…4…5…6…7…8…9…」
「それただ数字を言ってるだけじゃん!!」
アイの恐ろしさにアクアもテンパっている様子である。二人はアイの大ファンであるが転生者、アイの子供に生まれ変わっても初めはこのような彼女を見ることはなかった。しかしコイの存在が明るみになるとアイが見せる姿はアイドルというよりも一人の女の子にしか見えなかった。今の姿は……ノーコメントで。
「――はっ!?す、すまない……取り乱した」
「まぁいいんだけどそれは……でもどうしてこうなったの?」
「原因は明らかになっているが、何故ニノが天野にキスをしたのか……」
「そこだよね。壱護さんもミヤコさんも訳がわかってなかったし……大丈夫かなあの二人?」
「ううん……ストレスで倒れないか心配だな。今度温泉の素でも送るべきか?」
二人の心配も最もだった。マンションに辿り着いた時の斎藤夫妻は抜け殻同然だった。脳内でこれから起こる問題を想像したのだろう。まるで操り人形のようにカクカク動きながら部屋に入っていった姿を見送ったのを憶えている。
アイはあの衝撃的光景を目の当たりにしてコイが姿を消すまで石像のように固まっていた。それからマンションに帰るまでずっとぶつぶつと独り言を呟き、アクアとルビーの肩身が狭かった。あのアクアとルビーを甘えさせる親バカのアイが二人のことが目に入っておらず、それほどのショックな出来事だと見て取れた。
問題はまだある。斎藤夫妻が気にかけていることを同じだろうが、今後のアイとニノとの関係である。二人は同じアイドルグループに所属し、個人的な仕事が増えているがライブの時などは同じ舞台に立つ。顔を合わせるわけでどうなるのか想像もつかない。しかもコイはスタッフとして二人とも関わることになる。
コイとアイとニノ、この三角関係が今後のB小町の活動に影響を及ぼすのか……悩ましいところである。
だがその前にニノについて色々と考えなくてはならない。
「俺の認識ではニノはアイに嫉妬していた。それは間違いない。しかし天野と一緒に仕事に向かったその後から彼女は変わった」
「アマに嫌味を言っていたあの時と別人だったよね?ニノちゃんも双子?」
「それは俺も思った。最近はアイみたいに輝かしい姿を放っているし、ミヤコさんから聞いたことだが天野のおかげで彼女は吹っ切れたらしい。真っ向勝負を挑んでいるらしく、他のメンバーのいじめを食い止めてくれているらしい」
「同一人物……なんだよね?」
「……たぶんな?」
「なんで疑問形?」
「そうなるだろあの豹変具合を見たら。しかし天野も恐ろしい子だ。ニノをあそこまで変えてしまうだなんて……やっぱりアイの姉妹だな。人を惹きつけてしまうのは遺伝かそれとも双子だからなのか気になるところだ」
「でもそれでキスすることになるの?」
「それだけじゃないと思うぞ?ニノの姿を見ていたら本当に楽しそうにしていたし、男達から助けてもらったことも影響があったんじゃないか?」
「まぁそうだよね。いいなぁ、言い寄る男から守ってくれる彼氏ってカッコイイよね~!あこがれる~♪」
「天野は彼氏じゃ……いや、あれはどっからどう見ても彼氏彼女のデートにしか……ぶつぶつ」
アクアは色々と考え事をぶつぶつと唱え、ルビーは
「でもこれでわかったね」
「何がだ?」
「あのアマは女たらしって事が」
「女たらしって……天野がか?」
「だってママやニノちゃんがああなったのはアマのせいだよね?きっとアマはママとニノちゃんを手に入れて独り占めにするつもりだ。それで毎日耳元で二人からの囁きライブを堪能するつもりなんだ……許さない!私だってそんなことされてみたいのにっ!!」
「いや、囁きライブってなんだよ?」
「ママに耳元で自分の為だけに囁きながら歌ってくれるって最高じゃない?」
「……一理ある」
「でしょ?」
「……」
「……」
「「……いい♪」」
アイに耳元で囁かれている自分の姿を想像すると快感が全身に伝わる。アクアとルビーは転生してもドルオタだった。
「ニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶすニノをつぶす……ぶつぶつ」
「「……」」
だが現実は非常である。寝室から漏れる呪詛が聞こえてきて想像も塵と消えた。
「ま、まぁ……子供は非力だから、今は斎藤社長とミヤコさんにこの件は任せて俺達は見守るしかなさそうだな!」
「そ、そうだね!」
二人には今のアイを止められる術はない。子供は非力だからと自分達を納得させることにした。怖かったからじゃない……いや、ほんの8割ぐらいは怖かったのだから仕方ない。
いつもなら3人仲良く眠っている寝室も邪気に呑まれて近づけない……というよりも近づきたくない。アクアとルビーはリビングに布団を引いて二人で仲良く寝た。
早朝、リビングで寝る我が子にアイはすっごい謝っていた。