まだ日常回が続いていますね。そろそろシリアスも復活の時かも……
それでは……
本編どうぞ!
「ゴホッゴホッ!」
「無理はするな、ほらゆっくり飲め」
「……うん」
昼下がりでの星野家での光景だが、この場にいるのはアイではなくコイがいた。いつもと違う点はルビーがベッドの上でぐったりしていたところだろう。
ルビーが風邪を引いた。
今朝から様子がおかしいことに気づいたアクアがアイに伝えると大慌て。初めてのことだったので動揺した彼女はすぐさま病院へと連れて行こうとしてもアイドルである自分の子供だとバレたらまずい。今の時代、どこから情報が洩れるかわからないのだから。けれども子供の緊急事態になりふり構わず連れて行こうとするとアクアが「天野さんに連絡しよう」と提案、本日は生憎斎藤夫妻は外出中で頼れる相手がコイしかいなかった。アイはすぐに連絡を入れるが、何度もしつこいメールや電話にうんざりしており無視されることが多々あった。しかし今回は緊急事態、何度も繋がるまで電話し続けてようやく鬱陶しそうな返事が返ってきた。
そんなコイに第一声が「ルビーが死んじゃう!!助けてお姉ちゃん!!」と子供の危機を伝えると電話の向こうでドタドタと慌ただしい音がしてすぐに扉が開くような音が聞こえ、マンションに辿り着いた時のコイは汗だくで息も絶え絶えだった。
そこからコイも同行して病院へと向かい診察を受けると風邪であることが発覚、風邪薬を貰って今日は安静にしておく必要があるが、アイが昼から仕事だった。斎藤夫妻の説得にも「私がいない間にルビーが死んじゃったらどうするのっ!?」と駄々を捏ねたアイだったが「ルビーの面倒はオレが見ておいてやる」とコイが言うと心配はあるが仕事へと向かうことにして現在に至る。
コイはぐったりとするルビーをゆっくりと起こして水が入ったコップを近づけて飲ませた。
「もう十分か?」
「……うん」
「それじゃまだ寝てろ」
「……」
「あん?どうした?」
去ろうとしたコイを引き留めたのは小さな手、ルビーがパーカーを掴んでいた。
「……ママは?」
「バカは仕事だ。だから寝てろ」
水を少し飲んだルビーはぼんやりとした表情で辺りを見回す。アイを探しているんだろうが肝心のアイは仕事でいない。それを理解すると寂しい表情を露わにした。風邪で辛い時に母親が傍にいないのは精神的にも苦痛だろう。いくらコイでも弱っているルビーに高圧的な態度を取ることはなく、掴んだ手が自然と離れるまでその場から動こうとせずに待った。
「……」
諦めたルビーの手が離れて自由となったコイは「何かあれば呼べよ」と言葉を残して部屋を出る。
「どうでしたか?」
「薬は飲ませたし、後は寝ていれば勝手に効果が表れる。そうすれば今よりも楽になるだろうな」
先で待ち構えていたアクアは中の様子を扉の隙間から覗いていたのはコイが接触を禁止したからだ。アクアにも風邪が移ってしまわないように配慮した為であり、アクアもそれに賛同して距離を置いている。コイもマスクを着用して感染予防をしっかりと守っていた。
「すみません、ご迷惑をおかけして」
「風邪は誰でも引くもんだから気にすんな。それよりも昼飯の準備をしなくちゃな」
「手伝います」
「お前はゆっくり読書でもしてろ」
「いえ、ルビーが苦しんでいるのにゆっくり読書なんてできませんよ。だからお願いします手伝わせてください」
「チッ、本当にガキらしくねぇ……わかった。それじゃ手伝ってくれ」
「はい」
風邪でダウンしているルビーの為に
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ルビーの奴が風邪を引きやがった。バカから連絡が来たときは鬱陶しいと思って無視し続けても鳴りやまなかった。電源を切って放置してやろうかと思ったが、文句言ってからぶち切ってやろうとしたらあいつの鬼気迫った声が聞こえてきて……オレはいつの間にかマンションに居て、ぐったりとしたルビーが視界に入ったのは憶えていた。そして気づいたら病院の長椅子に座っていて、隣にはアクアがこちらを見つめていた。汗だくのオレを心配していたが、そんなことよりもここに至るまでの経緯を聞いてみたところ「憶えてないんですか?」なんて言われた。
ほとんど憶えていない。マンションに付くまでの記憶がないし、バカと何か話していたと思うがそれも記憶にない。おそらく無我夢中だったんだろう……今の自分の姿が汗だくだったことから窺える。ガキ如きにこんな無我夢中になってしまったのかわからなかった。
アクアから経緯を聞かされてオレがルビーを病院へ連れてきたらしい。バカもついてきており、今は診察室でルビーの容態を見てもらっているところのようだ。しばらくして診察室からルビーがバカに抱っこされており、オレは足が勝手に動いていた。診断結果は風邪だったが、たかが風邪と侮るのは良くない。大人なら大したことなくても免疫力の弱い子供にとっては馬鹿にできない。風邪薬を処方してもらい、ここでおっさんおばさんの登場だ。アクアが事前に知らせていたらしく、病院まで迎えにきてくれたらしい。
合流して車でマンションへと到着、ルビーをベッドに寝かせて休ませる。昼からバカは仕事へ行かないといけない。しかし「私がいない間にルビーが死んじゃったらどうするのっ!?」とか駄々を捏ねて中々仕事へ行こうとしない。おっさんおばさんも説得したが頑なに拒み続ける……余程心配なんだろうな。一向に態度を崩さないバカに埒が明かないと思ったが、だからって「ルビーの面倒はオレが見ておいてやる」なんて言ってしまったんだ。それを聞いたバカは先ほどの態度を崩して「ルビーをお願い」と言い残して名残惜しそうに仕事へ向かった。
付き合いがオレよりも長いはずのおっさんおばさんの説得も虚しい努力だったのに……あいつにそこまで信頼されているのがわからない。オレとお前は赤の他人(姉妹では断じてない←重要)なのによ、約束しちまったからそれは守ってやるけどさ。それにガキどもだけで何かあれば後味が悪い。それに今日は家でずっと寝てようと思ってから暇つぶしには丁度いいと思う様にした。
ルビーに薬を飲ませ、昼飯時にアクアが手伝いを申し出てきた。妹の為に自分の時間を割いてまで手伝いをすると言った時はガキらしくないと思ったがそういうの嫌いじゃない。ガキの癖に男らしくなんだか誇らしくなったのは何故なんだろうな?アクアが大人になった時はどんな男になるのか見て見たくなってしまったのはおかしい。オレがそんなことを思うなんてまるで親バカのあいつみたいじゃないか。余計なことを考えていた頭をリセットして、昼食の準備に取り掛かった。
「できたぞ、起きられるか?」
「……うん」
アクアは焼き魚に味噌汁それと玉子焼きと白ご飯を作ったがルビーは風邪を引いている。だからおかゆを作って持ってきたところだ。薬で少し楽になったのか自力で起き上がる。これなら自分で食べれるだろうと思い、食器を手渡ししようとしたがルビーはそれを受取ろうとしない。
「どうした?早く受け取れよ」
「……食べさせて」
「なに?」
なんでそんなことを……しかもオレのことが嫌いなはずなのに。こいつは何がしたいんだ?
「……」
そんなオレの内心を知ってか知らずか、ルビーの奴はジッと見つめてくる。
「……チッ、わかった。ほら食え」
「……熱いからフーフーして」
「はぁ?なんでそんなことしなければならないんだ?」
仕方なしに食べさせてやろうとしたら今度は追加注文と来た。こいつ甘えているのか?オレに?こんなオレよりもバカに甘えて……そうだった、こいつはバカの事が大好きだったな。仕事でいないあいつの代わりに瓜二つのオレをバカの代わりにしているのかもしれない。腹が立つが、そんな思いを知らぬルビーの奴がずっと見つめてくる。それも弱々しく見つめてくるのが鬱陶しい。
「……」
「……わかった、わかったからそんな目で見んな!冷ませばいいんだろっ!!」
代わりにされるのは気分が悪い。だが風邪のガキ相手にむきになるなんてことはしたくない。オレは我慢しておかゆを冷ましてルビーの口に持っていくとすんなり受け入れやがった。熱で少し火照った顔で「おいしい」なんて言いやがっていつもはバカの方が美味いと言うくせに都合がいい奴だ。
それからおかゆを食べ終わるまで同じことの繰り返しだった。全部食べ終えてタオルで汗を拭いてやり、後はまたぐっすりと寝ていればバカが仕事から帰って来る。そうすればオレの役目は終わる。
ベッドに寝かせる前に食後の薬を準備する。粉薬なので嫌な顔をするが我慢して飲ます。苦くてもちゃんと飲まないと治らないからな。ちゃんと飲んだのを確認してから布団をかけてやり、オレはアクアも食べ終わっている頃だろうから食器を片付けにリビングに戻ろうとしたら腕をルビーの小さな手が掴んだ。
「ママぁ……」
「オレはバカじゃねぇって」
寝ぼけている様子だった。夢の中までバカの代わりにされるとか嫌になる。
「パパぁ……」
「いや、そういう意味じゃねぇっての」
今度はパパだと……誰がパパだよ!?バカのことをママと呼ぶルビーだが、パパだとオレのことになるのか?いつお前の親になったんだよ!!オレは一応女だって!!なんてことを思っているとルビーの小さな手に力が入るのを感じた。
「パパぁ……ひとりに……しないで……」
アクアはいるがやっぱり親が居なくて寂しいんだろう。風邪を引いて心の方まで弱っているのかもな……チッ、世話のかかるガキだ。
「オレはパパじゃねぇって……ったく、寂しがり屋かよ。おいアクア、聞こえるか?」
「はい、どうかしましたか?」
オレは声をなるべく抑えてアクアを呼ぶと扉から顔を出した。
「悪いがこの食器をそっちに持って行ってくれ。ちょっと動けなくてな」
「わかりました。天野さんはルビーの傍にいてやってください。片づけはやっておきますから」
「いいよ置いておけ、後でオレがする。お前の身長じゃ
「ですが……」
「心配すんな、それなら洗濯物を畳んでおいてくれ。それも手伝いになるだろ?」
「わかりました。お言葉に甘えさせていただきます」
「ガキらしくないな……あいつ」
少々予定は狂ったが、もう少しここにいよう。ほんの少しだけだ、ルビーがその内に手を放してくれるだろう。それまでは待ってやるとするか……
「それは大変だったね」
「ほんとそれな。ルビーの奴がいつまで経っても離してくれなかったから、結局見たくもない顔を見る羽目になっちまった」
「見たくもないって……社長?もうダメだよ社長の顔があれだからってそれは酷すぎるよ?」
「ちげぇお前のことだよ!!」
現時刻は夜、オレはリビングのソファで酒を片手に隣に居る面倒な奴の相手をしていた。無論その面倒な奴と言うのはバカだ。
元々バカが帰ってきたら入れ替わりで帰るつもりだった。しかしルビーが手を離してくれず、食器の片付けもしなければならないのに動けなくなってしまった。すぐに手を離すかと思っていたんだが、まさかバカが帰って来るまで拘束されるとは思わなかった。ガキ相手だから簡単に手を引き離すことはできる。実行に移そうとしたんだがその度に「パパぁ……」なんて弱々しい声で呟きやがって……結局そのままだった。べ、別にルビーのことを思ってやめたとかそんな理由ではないからな!!ただアクアにオレがするはずだった片づけを結局手伝ってもらうことになっちまったし、他のことも動けないオレに変わってやってくれた。大人のオレが自分でやると言っていたのに後からガキに頼むとか自分が情けない。悪いアクア、今度何か作ってやるからそれで手を打とう。
それで拘束から解かれることなくバカが帰ってきた。バカの声が聞こえ、本能的なものが刺激されたのか一瞬まだ夢の中にいるルビーの手が緩んだ隙にオレは抜け出した。これで拘束が解かれてアクアへの詫びは今度にしてさっさと帰ろうとしたが当然バカが立ち塞がる。強制的に夕食に付き合う流れになって流されるまま現在の状況に落ち着いたってわけだ。
「はぁ……お前の相手は疲れる。酒飲み終わったら帰る」
「泊っていってよ」
「嫌だ」
「折角コイの為に新しい布団買ってあるのに……」
「なんでオレが泊まる前提なんだよ」
「あっ、もしかして私達と一緒のベッドが良かった?それか……私と二人っきりが良かった?」
「お前は何を言っているんだ気持ち悪いぞっ!!おいバカ、ルビーは風邪なんだ。お前が傍にいなくて寂しがっていたんだ。オレじゃなくルビーに構ってやれ」
「うん、わかってる。でもコイも一緒に居てほしいと思ってるよ?」
「お前が仕事している間、ガキどもの面倒を見てやったんだ。それもプライベートでだ。こっちはタダ働きなんだぞ?」
「夕食をご馳走してお酒も飲ませてあげてそれでタダ働きは違うと思うけど?」
「――うぐっ!?ま、まぁ何がともあれオレは帰る。ただ一つ忠告しておくぞ、ルビーはまだ風邪が治ったわけじゃねぇ。くれぐれも移ったりしないようにマスクをつけるなり感染予防の対策はしろよ?仕事に支障をきたすからな」
「心配してくれるんだ♪」
「だ、誰がお前のことを心配するか!チッ、オレはもう帰る!!」
ああもうやっぱりこいつはうざい!すぐに調子に乗るし馬鹿な発言にイライラさせられる。
オレは酒の残りの飲み干してバカに見送られながら帰った。
「……へっ、誰がパパだよ」
ルビーの戯言……オレをパパなんて呼びやがった。もし妻があのバカとか地獄なんて生ぬるい拷問だ。そもそもオレは一応女だし、バカと夫婦とか気持ち悪くて吐く……考えているだけで気持ち悪くなってきやがった。もうこの話はやめて、ルビーのことだがもう大丈夫だろう。あのバカはともかくアクアがいるんだ。さてと帰る前にコンビニで煙草でも買って帰るかな。
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「うぅ……うぅ……!!!」
ママが帰ってきた。けど今は顔を合わせたくない……恥ずかしくて布団から出られないし、唸り声だって出ちゃうよ!!
今日の私はどこかおかしかった。ママが仕事でいないし、風邪で頭がボーっとしていたからだと思う。きっとそうだ、だってそうじゃないと……
「
「うぅぅぅう!?や、やめてよママ!!!」
アマのことを『パパ』なんて言うわけなかったのに。
目覚めた時にはママが帰ってきていた。ママを見つけたけど何か足りない感じがして「パパはどこ?」なんてママに聞いてしまった。それでママにアマのことをパパなんて呼んでしまったことがバレちゃった。お兄ちゃんも私が目覚めるまで何度も「パパぁ……」なんて言っていたのを聞いたみたい。
もうなんで!?なんであのアマのことをパパなんて言っちゃったの!!?ママも揶揄うのはやめてよっ!!?
でもボーっとしていない今ならわかる。ママがいない、お兄ちゃんも風邪を引いている私に近づくのは風邪を移すことになるから接触するのは控えていた。アマがそうしろと言ったってお兄ちゃんから聞いた。お兄ちゃんと私は転生しているけど、体は幼稚園児だから風邪に免疫力が大人と比べてないことは理解している。アマはお兄ちゃんに風邪が移らないようにしてくれて、私の看病をしてくれた。
ママを叩いた、ママを馬鹿にした嫌な奴だと思っていた。けど私達の面倒は見てくれるし、ママを支えてくれる。気を遣ってくれて口では文句を言っていてもわざわざ看病までしてくれた。いい人だと思う、思うけど……どこか受け入れられない。やっぱりママを叩いたのは許せないから……
「ごめんね?」
「ううん、ママが帰ってきてくれたからいいよ♪」
「もうルビーって優しいね♪」
ママが抱きしめてくれる。このぬくもりが忘れられない……前世じゃ母親のぬくもりなんて感じられなかったから。
「嬉しくなっちゃったから頬っぺたにチューしてあげるね♪」
「あははっ!ママくすぐったいよ♪」
ママとイチャイチャしているのをお兄ちゃんが悔しそうな表情で「うらましけしからん」とか言っていたけどどういう意味だろう?
「ゴホン……アイ、ルビーは風邪なんだからそっとしておいてやってよ」
「ええ~、ママともうちょっとだけこのままがいい!」
お兄ちゃん絶対に嫉妬してる……ふっ、私だけこんな良い思いしちゃってごめんね?でもこの優越感は渡せないね♪
「我儘言うなよ、アイに風邪が移ったらどうするんだ?」
「うぅ……」
それを言われちゃうと強く出れないよ……折角いい気分に浸っていたのに。
「ルビー、風邪が治ったらうんと抱きしめてあげるからね?」
「……わかった。それまで我慢する」
「うんうん、偉いぞ♪それじゃルビーのご飯持ってくるから待っててね?」
それから寝るまでママが傍に居てくれた。お兄ちゃんも顔を出してくれて風邪で辛くてもこの時間がとても幸せだった。
けれど……前まではこれで満足できていた。けど最近物足りないって感じるのは気のせい?
「……」
しきりにアマのことを思い出すのは……どうしてなの?