それでは……
本編どうぞ!
「なんでオレがこんな役をやらなくちゃいけないんだよぉ!!?」
絶叫が車内に響く。オレだって狭いこんなところで絶叫なんて上げたくなかった。だけどこれには訳があるんだ。長くなる話だが聞いてほしい。
今日も仕事で苺プロ(監獄)に向かう手筈だったが、おばさんから電話がかかってきた。取ると「すぐにマンションに来てちょうだい!」と慌てている様子で訳も言わずに切られて只事ではないと悟りマンションに向かった。そこでおっさんおばさんの部屋を訪ねたが留守でおかしいと思い、嫌々ながらもバカの部屋を訪ねてみればアクアが出迎えた。オレを待っていた様子でおっさんおばさんの姿も発見、こっちに居るならそう言えよと思ったが慌てていたので伝え忘れていたようだ。
でだ、なんでおっさんおばさんがバカの部屋に居るかだが、ベッドに見たくもない奴が顔を真っ赤にして冷えピタなんて貼っていた。もうこの光景を見た時点で理解した。
バカが風邪を引いた。
ルビーの風邪が移ってしまったようだ。アクアの話だとマスクを着けずにルビーと接触していたことが原因で自業自得だったが何度もルビーが謝っている姿を見てしまった。だから「お前のせいじゃない、感染予防しておけと言ったのにしなかったこいつが悪い」と言ってもルビーは納得できなかったから頭を撫でてしまった。何故オレもこんなことをしたのかわからなかったが、少しだけルビーの表情がマシになった。慌てて手を引っ込めると今度はルビーが不服な表情をする……なんでだよ?まぁルビーのことは大丈夫そうだからいいが、問題はバカの方だ。
今日はバカは休みじゃない。仕事が入っていたのを思い出した。だがこんな状態では仕事なんてできるわけがない。仕事は中止にすればいいとオレは言った。
中止すれば相手側の予定も狂うだろうが風邪なんだ。自然の摂理と一緒で風邪を引かない人間はいない。馬鹿は風邪引かないと言うが現実は違う。バカが馬鹿であっても例外ではない。仕事は大切だろう。だがそれ以上に仕事に努めている人間を大切に扱うことが成功に繋がることだと思う。だから中止しようかとオレは進言するがバカがそれでも仕事に出向こうとしやがる。熱があるのに無理に体を動かそうとしてふらついた。咄嗟にオレはバカを支えたが服の上からでも火照っているのがわかった。どうしてそこまでするのか聞くと「アクアとルビーの為にも……頑張らないといけない……から」なんて言うもんだからアクアとルビーが涙ぐむ姿を拝む羽目になっちまった。
……オレはおっさんおばさんに条件をつけた。給料アップと特別手当を支払うこと、そしてすぐさま
少々衣類をパクリ、バカとガキどもはおっさんに任せて、オレとおばさんは苺プロ(監獄)へ向かい準備する。金髪の髪を触り、この下に存在する気に入らない元の色に戻さないといけないと思うと手が止まってしまうが時間は止まってくれない。深呼吸を何度も繰り返し、意を決して長らく共にあり続けた金髪とは一旦おさらばだ。パクってきた衣服を眺める。お気に入りのパーカー以外を着るのは久しくなかったし、あのバカが着たものを着用するのに抵抗があったが我慢した。
鏡を見る。そこには憎み、憎んで、羨み、羨んだ気に入らない存在が映っていた。これは金の為にやるだけ、あいつの為じゃないと自己催眠のように何度も自分に言い聞かせた。そして顔を上げて鏡を見ればそこには……
大っ嫌いなバカと元々瓜二つ、だから髪を金髪に染めてショートヘアだったのが
今回の仕事も撮影のようだ。アイドルなのに多忙な奴だと心の中で思い、バカがやるはずだった役を確認する為に台本を読み進めていると……オレは溜まらず絶叫を上げたところなんだ。
「コイさん、仕事だから仕方ないのよ」
「あいつこんな役をやるつもりだったのか!?これ嫌々受けていただろ?」
「そんなことないわ。アイさんは意外と乗る気だったみたいよ?」
「なんでだよ!!?」
アイドルがドラマに出演することは珍しくもなんともない。オレが言いたいのは役の方だ。何故オレが絶叫するほどものとは……
「なんで男から女を寝取る悪女役なんだよ!?この設定おかしいだろぉ!!?」
そう、バカの役は悪女という設定だ。これまた学園もので、クラスのみならず学園一の美少女で男達から好意を寄せられており人気者。だが内心は腹黒く男に興味を持っていない。そんな美少女は実は寝取るのが大好きな女で、男ではなく男達から彼女を寝取るというとんでもない設定の悪女役だ。人気アイドルのあいつにこんな役をやらせようとしたのは誰だよっ!!?いや、あのバカはアイドルの皮を被った化け物だからこの役はお似合いか……って何納得してんだよオレは!?バカがやるなら勝手にやっとけってレベルだが、これを演じるのがオレだ。
ひじょぉぉぉうに不愉快だっ!!女たらしとおばさんに言われたがそんなレベルじゃない。台本を読んでいるとこの美少女(変態)に鳥肌が立つ。一般人のオレがそれを演じなければならないとか……絶望だ。
「やっぱり中止しよう。これは嫌だわ」
「今更何言っているの。もう着いちゃったわよ?」
「ああぁ嫌だよぉぉぉお!なんでこんな目に遭うんだよぉぉぉお!!」
「相当嫌なのね……でもここまで来ちゃったんだから覚悟を決めなさい」
「うぅ……恨んでやる!あのバカ絶対恨んでやるからなっ!!!」
もうどうしようもないし覚悟を決めた。
「おはようございます監督!」
「……」
「?あの……監督?」
「――はっ!?す、すまん。今回の撮影頑張れよ」
そいつは五っさん監督だった。なんでここにいるかは知らん。バカとは一度会っている程度だから挨拶はこのぐらいでいいだろう。
今回の監督は別の知らない人物だったはず、何故ここにいるのか聞きたいが今のオレは
挨拶が終われば準備に取り掛かる。撮影用の学生服に着替えようとするが……女子高生役なので学生服は下がスカートだ。めっちゃ嫌だっ!!!なんでオレがこんなのを履かなくちゃいけないんだよっ!?オレには絶対似合わない学生服、それを着なくちゃいけない屈辱を味わうことになるなんてな。超嫌々ながら履くと思った通りだ、鏡で自分の姿を見ると気分が悪くなる。パーカーが恋しいよぉ……
もうどうにでもなれとやけくそになったが、学生服を着たオレを見たおばさんの視線が優しかった……腹が立った。でも我慢したオレって凄くない?そして次だが、オレが危惧していたメイクの時間だ。役者はスッピンで姿を現すことはまずない。エキストラやちょい役ならまだしもメインの役者にメイクは必須だ。だからかつらを被っていることがバレるのでは?と心配している。何とか誘導して髪は触らないようにお願いした。運よく髪はそのままで大丈夫だったらしく、プロの中には一度の撮影の為だけに体系を変えたり、髪を切ったりする人もいるらしいがあくまで一般人のオレには難易度が高い。もしバレた時の言い訳に髪を短く切ってしまったからかつらを被っていることも用意していたけど無駄になって良かった。
撮影が始まった。出番が近づくにつれて逃げ出したい衝動に駆られる。マネージャーとしておばさんが傍に居てくれるが時よりオレと話したくて近づいて来るスタッフ兼役者がいる。そいつらの相手をしないといけないのとボロを出さないようにしないといけないので大変だ。オレはバカのような馬鹿ではないから大丈夫だろうが、あいつの友好関係なんてわからんから初対面だと思って話したら以前にも会っていたとかで疑われる可能性だってある。細心の注意を払いながら会話していると遂にオレの出番がやってきた……気が滅入る。
おばさんに行きたくないと視線で訴えても目を逸らしやがる……ちくしょう、わかったよ!やってやる、これは演技なんだ。それにオレが失敗してもバカのせいになるんだから全力でやってやるよっ!!!
最初のシーンはただの女子高生、どこにでもいるけど美少女だから男達の視線を釘付けにする。女達からは嫉妬の視線を向けられているが、興味のない男達に視線を向けられても内心ではつまらないと感じている。シーンが進むに連れて徐々に抑えていた欲が抑えきれなくなっていき、やがて悪女としての姿を現すことになる。
……っというところまで撮影が終わった。ここからだ、ここからが悪女本来の姿を見せなくてはならない。それが滅茶苦茶嫌だ!!なんとか今まではどこにでもいるけど美少女の女を演じていたが、悪女を演じないといけないと思うと……うぐぐっ!!
「
「そうかな?
周りにはまだ他人の目がある。おばさんもオレもここに居るのは
「おい、ちょっといいかお二人さん?」
「どうしたんですか監督?」
五っさん監督がオレとおばさんを人気のない場所に連れてきた。丁度良かった、挨拶した時の反応がおかしかったからそのことについて聞こうとしていたが中々その機会が訪れずに難儀していたところだった。そのことを含めて探りを入れていると五っさん監督はオレがバカを演じていることを知っていた。それもアクアが五っさん監督に電話で伝えていたらしく、何かと個人的な付き合いがあるみたい。五っさん監督はこのドラマの監督とは知り合いで現場を見に行くことをアクアに話していたんだとか。アクアは五っさん監督の事を信頼しているんだなぁって言うか、幼稚園児と個人的な付き合いがあるって凄いな。アクアもガキの癖に手を回すのが早い……子供かどうか確かめる必要があるかもしれないね。
でもこれで気が少しだけ緩められる。五っさん監督の前ではオレでいられるからな。でもどうしてあんな反応を示したのか聞けば、現場に現れたオレを見て知っていたが脳がバカだと錯覚してしまったらしい。雰囲気も口調も仕草もまったく同じで声をかけられて何とか脳が正常に働いたと聞かされた。
やっぱりどいつもこいつもバカしか見えてないんだな……むかつく!だが我慢だ、こんなことでキレるほどオレは短気じゃないからな。何がともあれ、今は気を抜こう。ずっとバカに成りすましていたら精神が狂いそうになってくる。
「はぁ……疲れた。女口調が辛すぎる」
「辛いってお前は女だろ?」
「一応な、でも男口調の方が慣れているから辛いんだよ。辛いから煙草くれ」
「いやお前それはやめとけって」
「そうよ、誰かに見られでもしたらアイじゃないってバレちゃうわ」
「ちくしょう……今日は厄日だ」
愚痴をこぼしてもどうにもならないことはわかっている。だけど煙草ぐらい吸わせてくれよ……
「
「何言ってんの?心配要らなかったとか心配事しかないんだけど?」
「何言ってんの?はこっちのセリフだ。お前演技上手いじゃないか。大根役者だったらどうしようかヒヤヒヤしていたんだぞ?」
「オレの演技が上手い?」
「ええそうよ、アイさんの演技そのものみたいで私も驚いたんだから」
「マネージャーの言う通りだが、何人もの役者を見てきた俺から付け加えるとするならアイよりも良かったぞ」
「はぁ?それは嘘だろ。あいつの方が何度もテレビ出演しているから上手いに決まってる。オレただの一般人なんだぞ?」
「いや、アイは確かに人を惹きつける演技をするが並……良く言えば並の上って位だが、お前の場合は上の位に入り込んでいる。ハッキリ言えばお前の方がアイよりも上手だってことだ」
「お、オレが……か?」
「ああ、一般人の癖にやるじゃないか!
「そ、そう……か」
五っさん監督に褒められた。バカよりも上手いか……な、なんだかこそばゆいな。まさかこんなことで優越感に浸れるとは思っていなかった。
「アイさ~ん!そろそろ出番ですよ」
「あっ、はい今行きます!」
スタッフに呼ばれてすぐさま
「……凄いな、一瞬でアイになりやがった」
「
唖然とする五っさん監督とおばさんを無視して撮影現場へと向かう。そこではこれから寝取らなければならない相手役の女性が待っていた。幼顔で小柄のオレよりも少し背が低くて可愛い、命名可愛い子ちゃんに決めた。しかし演技だとしても可愛い子ちゃんを寝取らなければならないと思うと気が滅入る。でも以前……あ……あり……あり何とか言うガキをたきつけたことがあった。その時に手を抜くなとか何とか言った気がする。言った手前、自分がそのことを守っていないとガキに鼻で笑われてしまう。それはむかつく、だから手を抜くつもりはない!!
「ケンジ君に近づかないで!」
撮影が始まった。オレは可愛い子ちゃんに呼び出され言いがかりをつけられている場面だ。ケンジと言う学生と付き合っている可愛い子ちゃん、だがケンジは美少女のオレに夢中になっておりそのことに嫉妬して言いがかりをつけられている。美少女がケンジを狙っているのではない。本来の美少女の目的は……
「違うの、私はケンジなんて興味はないわ」
「嘘!だってケンジ君は……!」
「ほんと、だって私が興味があるのは……君なの」
「……へっ?」
可愛い子ちゃんだ。ケンジから可愛い子ちゃんを寝取る為にケンジに近づいただけ。遂に悪女としての本来の姿を見せ始める肝心なシーン。その演技をしているが……実際に演技をしていて思うことがある。
足りない、この後のシーンは可愛い子ちゃんを
だから……可愛い子ちゃんを壁まで押し付ける。台本にない行動に可愛い子ちゃんは動揺するが流石役者、すぐ役に戻る。
「な、なんのつもり!?」
「君がいけないんだよ?君が可愛いから
美少女の本来の一人称は僕だ。美少女で僕っ子で変態とかこのキャラクターを生み出した人間の性癖が詰め込まれ過ぎて引く。台本読んでいて鳥肌が立つとかヤバ過ぎだろ。おっといけね、今は演技に集中しないと。
可愛い子ちゃんを壁に押し付けるのはアドリブ、この後のセリフは「ケンジなんかに君は渡さない。君を僕のものにする」だがこれでは味気が無さ過ぎる。もっとこの変態女ならエロ路線で攻め立てじっくりとねっとりと口説くはずだ。ここまで来た、来てしまったんだからやるしかない!!
可愛い子ちゃんを壁に押し付けたオレはそのまま可愛い子ちゃんの腕を掴み拘束する。当然可愛い子ちゃんは抵抗するが力ずくで抑え込んで両手を使えなくしてしまう。そしてその状態のまま耳元に近づいて……
「ひゃん!!?」
耳を舐めた。わざわざ彼氏持ちの彼女を寝取る変態女ならこれぐらいしないとおかしいだろ?可愛い子ちゃんもオレの意図を悟ってくれたのかわからないが驚きを含んだ色っぽい声を出してくれた。でもこれで終わりじゃない。そのまま攻撃の手を緩めることはしない。今度は耳の穴に息を吹きかける。
「んぁ❤」
可愛い子ちゃんの体が震えた。感じているのだろう小さく声が漏れる。マイクにギリギリ拾われるかどうかの細い声だがとても色っぽく出ていた。それでもまだ攻撃を緩めてはダメだ。耳の次は髪を攻める。匂い、髪質、色を褒めながら髪を舌で舐め、次は首元を攻めてやる。ここがポイントだ、ゆっくりと吐息を首元にかけながら匂いを嗅ぐが舌は使わない。
触れる感触をお預けされると体が気持ちよさを求めて敏感になり、そうなると脳が正常に働かなくなり快感を得ようと思考が疎かになる。そうすることでここで例のセリフをぶつける。
「ケンジなんかに君は渡さない。君を僕のものにする」
そしてアドリブで一言追加する。
「僕のものだ!!僕のものになれっ!!!」
強くハッキリと主張する。こうすることで相手に逆らう意思を持たせないようにする。
「ふぁ、ふぁい……わたしは……あなたのものになりましゅ……」
とろけた表情で可愛い子ちゃんは言った。これで寝取ることが成功したわけだ。可愛い子ちゃんも流石役者だ。本物のようなとろけた表情を晒して即興のアドリブに対応してくる演技力の高さに驚いた。
男を抱いているとこういった変態プレイを求めてくる奴もいた。女に攻められることを求める変態野郎、そいつは金払いが滅茶苦茶良かったので嫌々ながらもやってやると同じようにとろけた表情をして気持ち悪かった……思い出したくない思い出だ、正直吐きそうになる。だがそんな変態プレイ体験がこんなところで役立つとは……役立ちたくなかったけどな!でもこれでこのシーンはお終い。ふぅ、後でこんなことを何度も演技しないといけないとか精神がおかしくなりそうだ。
「………………………………………………」
お終いのはずだが一向にカットの言葉が聞こえない。おかしいと思って視線を監督の方に向けると頬を赤くして呆然としていた。他のスタッフもそうだ、五っさん監督とおばさんも……どうなってる?
「あの……監督?」
「――はっ!?か、カットー!!!」
五っさん監督の知り合い監督が我に返りようやくこのシーンが終わった。滅茶苦茶緊張したし疲れた……って可愛い子ちゃん大丈夫か?とろけた表情のまま腰を抜かしていた。
「だ、大丈夫ですか?」
「ふぁ、ふぁい……だいじょうぶ……れす……」
「大丈夫じゃないようにしか見えないですけど?」
オレが心配していると慌てた様子で可愛い子ちゃんのマネージャーらしき女性が駆け寄って来て他のスタッフと共に可愛い子ちゃんを連れて教室から去っていった。そこでオレは気づく。スタッフが大勢いたのに少ないと感じた。おばさんに聞けばトイレに行っているらしい……もしかして刺激が強すぎたのか?五っさん監督は知り合い監督となにやら話し込んでいるようで、真剣そのものだったから声を掛けづらかったが、しばらくすると監督二人が揃ってオレの下にやってきた。
話を纏めると最高の演技だったらしく、変態女のキャラクターが押し出されていたとか。大絶賛されてしまった……その後のシーンでも同じようにどんどんやっちゃってくれ!とお願いされた。マジか、刺激強すぎてR18に制限されたりしないのか?まぁ良いんならやるけどさ。
五っさん監督だけは渋い顔をしていたけど……いったい何を考えていたんだろうな。
その後結局同じように相手役の女性達を寝取っていく。その度に全員とろけた表情を晒すんだよなぁ……ここまでくれば流石に気づく。役者が役を演じていなかった。あのとろけた表情はガチだと気づいた頃には最後の一人を口説き落とした後だった。なんでオレは気づかなかったんだ!だが後悔してももう遅い。撮影は全て終了し、これでオレの出番は終わった。短編ドラマだったからこれで済んだわけだけど、共演した相手役の女性陣がオレを見る目が熱く感じたが気のせいにしておく。これはやり過ぎた……反省しよう。もう二度とバカの代わりに演技はしたくないと思った。
「なぁお前……もしかして
「はぁ?」
おばさんが車を取りに行っている間に五っさん監督はやってきて早々意味のわからんことを言った。いや嘘だ、
「五っさん監督って凄いね。多分思っていること間違ってないよ」
「……いつからだ?」
「う~ん、初めては中学生時代だったね。それがなに?もしかして
「馬鹿なこと言うな……アイはこのこと知ってんのか?」
「知ってる。オレが最近まで男を抱いていたってね。それを知られたせいでスマホをダメにされたんだ。あの時のことを思い出すとイライラしてきた!」
「そうか……
「あん?ガキから何を聞いているんだよ?」
「お前がアイの双子の姉妹ってことを聞かされた」
「違う、オレには姉妹なんて存在しない」
「そう言うだろうと知らされていたわ。なるほど、親子揃って心配するわけだな」
五っさん監督との会話で今聞き捨てならないことを耳にした。
「おいちょっと待て、今親子って言ったよな?」
「――おっ!?やべぇ……」
「まさかバカとアクアが……」
「……親子だって薄々気づいていた。アイの奴、俺に
「なに?詳しく聞かせろ」
五っさん監督が言うには15歳になったアクアとルビーに未来に向けたビデオレターを渡されたようだ。それでただの関係じゃないことを察してビデオレターなんてものを渡すもんだから親子ではないか?と感づいたようだ。そりゃそんなもの渡されたら気づくわな。こいつバカから信頼されているんだな。こいつがアクアとルビーの父親なら良かったのに……なんてオレらしくもないことを考えちまった。ふざけたことを考えるなんて今日もオレはどうかしているようだ。
気分を変える為にもちょっと用を足しに行くことにした。
「五っさん監督、ちょっとここでおばさんを待たせておいてくれ」
「おいどこ行くんだ?」
「トイレだよ、なんなら一緒に来る?」
「はぁ……お前なぁ……」
「冗談だ、本気にすんなよな」
揶揄ってからトイレに向かう。おばさんが車を回して来るまでに戻らないと……と思っていた時だ。トイレの傍で話し合う男達を発見。スタッフだろうな、顔なんて覚える気もないから知らんけど。
「なぁ、今日のアイめっちゃエロくなかった?」
「ああ、見ているだけでヤバかった。アイってあんな演技もできるんだなぁ」
バカだと思っているのであいつに関する話になっていた。ちょっとやり過ぎた感があるがそれもこれもあいつが風邪を引くのが悪い。さっさと用を足そうとトイレに入ろうとしたら会話の続きが耳に入ってしまった。
「俺さ、やっぱりアイって売春していると思うんだよね」
オレは何を思ったのかトイレの入り口で足を止め、離れれたらよかったのに男達の会話に耳を傾けてしまっていた。
「そんなわけないだろ?」
「いや、俺の友達の友達が言ってたんだけど男とホテルに入っていくのを昔見たって」
「嘘じゃないのか?」
「いや、他にも昔から噂があって何人もの男と密会しているって噂だ。それに体験した奴がネットで自慢げに語っていたらしいぜ?」
「マジ?あのアイドルのアイが!?どこに載ってるのそれ?」
「もう残ってない。運営側に消されたかアイの秘密をばらしたくなくて事務所が削除依頼を出したかどっちかじゃないか?」
「うわーマジか!?俺アイのこと好きだったのに……幻滅だわぁ」
「もしかしたら頼めば
「やめとけって。バレたらお前もスキャンダルの巻き添えになるだろ。それにアイドルが何人も男と寝たビッチとか萎えるわぁ」
「まぁな、可愛いのに……残念だわ。もしかしたらそれで仕事を貰ってきているのかもな」
「他の連中もそうだったりするかもな。そうじゃなかったとしたら他の連中が可哀想だ。自分達のセンターがビッチとか真面目に引く」
「確かに。でも
「おいおい……」
下品な会話だった。誰だって内なる欲望を表に出すことは悪いことじゃない。でもこの会話は胸に毒針を刺したような感触を与えた。
用を足すこともせずに早々と駆けた。車が止まっていて五っさん監督とおばさんが待っていた。だけどオレは言葉を交わさずにさっさと扉を開けて乗り込んだ。様子がおかしいと気づいた二人が言葉をかけてくるが今は何も答えたくない。ただ一言だけ「出して」と伝えて戸惑っていたがおばさんは何も言わずに従ってくれた。
車の中でかつらを脱ぎ捨て、持ってきていたパーカーに着替える。フードで顔を隠して窓の外をぼんやりと眺めている。そんなオレに対しておばさんは声をかけるが全て知らんぷり、今はただ構わないでほしかった。おばさんも諦めてただ沈黙が支配し、苺プロ(監獄)まで帰ってきた。オレはそのままアパートに帰ろうとしたがこれだけは言っておかないといけない。
「……おばさん」
「えっ?あっ、何かしら?」
「しばらく仕事は休ませてくれ」
「えっ?ど、どうしたの?何かあったのかしら?」
「いきなりこんなことを言って悪いとは思うが頼む。その分の給料は引いていいからさ……じゃ」
「ちょ、ちょっとコイさん待って!?」
おばさんが呼び止めるが無視し、それだけの言葉を残してオレはその場を去った。
「………………………………………………」
洗面所で顔を洗う。でも気分が優れないし、何よりも……胸が苦しい。
なんでこんなに胸が苦しいのか……わからない。
苛立ちではない。じゃあこの苦しみは一体なんなんだ?
「……バカ……ごめん」
待て、オレは今なんて言った?
無意識にわけのわからない言葉を口にしていた。
バカに謝った?
何に対して?
オレは悪いこと何もしていないはずなのに……
『俺さ、やっぱりアイって売春していると思うんだよね』
男達の会話が脳裏に浮かび上がる。
『うわーマジか!?俺アイのこと好きだったのに……幻滅だわぁ』
『もしかしたら頼めば
『やめとけって。バレたらお前もスキャンダルの巻き添えになるだろ。それにアイドルが何人も男と寝たビッチとか萎えるわぁ』
『まぁな、可愛いのに……残念だわ。もしかしたらそれで仕事を貰ってきているのかもな』
『他の連中もそうだったりするかもな。そうじゃなかったとしたら他の連中が可哀想だ。自分達のセンターがビッチとか真面目に引く』
思い出したくもない会話が浮かび上がってくる……苦しい。
何故苦しくなるのか理解できない。
「………………………………………………っ!!」
鏡に映る自分の姿を見た。金髪ではない
「……あれ?」
何度も見たことのあるバカと瓜二つの顔が歪んでいた。いや、歪んでいたのは瞳の方……液体が流れ落ちていた。
それは涙……なんで涙が流れてくるんだよ!?意味わかんねぇよっ!!
「どうして……どうして止まらないんだよぉ!!?」
何度拭っても留めなく溢れ出てくる涙に困惑が止まらない。胸も苦しくて頭が混乱してしまい訳がわからないから叫ぶ。
いつまでそうしていただろう……目も真っ赤になって何度も拭っていたからヒリヒリする。喉もからからで未だに胸が苦しい。けど少し冷静になれた。蛇口を捻り水道水を胃に少しだけ入れて、フラフラする体を何とか支えながらベッドに倒れ込む。冷静になった脳で今の状況を考えてみるとおかしな結果に辿り着いてしまった。
「……オレが……バカに……罪悪感を抱いている……?」
何故その結果に辿り着いてしまったのかは思い出せない。だけどおかしい、ニノ達は百歩譲ってもあのうざったいバカに罪悪感を抱いているなんてあり得ないことだった。
うざくてめんどくさい憎くて羨ましくて嘘つきなアイドルの皮を被った化け物、あいつのやることにいつも巻き込まれ迷惑している。刺されたのだってこっちが被害者だ。光の中に生きていて比べてオレは闇の中。天と地よりも差があって好きになれる要素があるのか疑わしい。オレはあいつのことが嫌い……これは本当のこと。だから罪悪感を抱いているなんて馬鹿馬鹿しいことのはずなのに……理解しがたい答えだった。
だけどただ一つだけ納得した結果がある。
オレはあのバカのせいでどこかおかしくなってしまっていたんだ……っと。