一番星と屑星のふたつ星   作:てへぺろん

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とある人物と出会ったコイ、その人物とはいったい何者なんだ!?(すっとぼけ)


それでは……


本編どうぞ!




血の繋がった他人

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

「……痛むか?」

 

「……大丈夫よ」

 

「……そうか」

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

 

 ……気まずい。どうやらオレは運がついていないようだ。

 

 

 何もしないただ時間を無駄に過ごしていた。今日もこの数日間、入り浸っているネットカフェに戻ろうと歩道橋を渡り終わった時に階段から足を踏み外した女と遭遇した。印象はどこか疲れた表情をしていて人生に苦しみを感じているタイプの人間とわかった。元々は美人だった面影はあったが、それも埋もれている憐れな女だった。そんなのを相手せず無視すればよかったんだが……何故か気になった。散らばった食材と缶ビールを拾い女に押し付けてはいさよならするつもりだった。女がオレをバカと()()()()()()()()。だが女はオレのことをハッキリと名前で呼んだ。

 苺プロダクションのスタッフか?こんなスタッフ居たかと思った。そもそも憶える気はないので確証は持てないが、女に意識が向いたのは確かだ。その女は踏み外した拍子に足を痛めてこのままにしておくのは気が引けた。家が近くらしいので送ってやるだけのつもりだった。

 

 

 人通りの多い場所から人気の少ない裏路地を通り、見えたのは小さくて安っぽいアパートが女の住処のようだ。さっさと送り届けて終わり、そう思っていた……思っていたのに。

 

 

 部屋番号の下に書かれた住人の名前……そこにはあのバカと同じ『星野』と書かれていた。

 

 

 偶然、そう偶然だ。きっとそうだ、だって『星野』なんてありきたりな名前探せばいくらでも見つかるはずだ。だから気にせずそのまま女を置いて帰ればよかった。なのに現状ではオレは部屋の中に居て、女の足を見てやっている……なにやってんだよ。やっていることが思っていることと違うじゃねぇか。

 それだけなら何も気まずくなることはなかった。だが先ほどの通りこの女はオレの名前を知っていた。それに加えて『星野』と言う名前……それを確認するのが恐ろしい。女の方もさっきから必要最低限のことしか返さずオレも一言しか話さないので会話が途切れてしまう。

 

 

 気まずいがもうこのままでいい。女の足を冷やして包帯を巻けば後は自分でできるだろうからオレは帰る。何も聞かず、構わなければ何も起きることはない……それがいい。あと少しで包帯を巻き終わる。それでさよならだ。

 

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

「………………………………………………」

 

「……聞いて……いいかしら?」

 

「――ッ!?な、なにを……だ?」

 

「……名前を……教えてくれないかしら?」

 

 

 心臓の鼓動が跳ね上がるのを感じた。包帯を巻いていた手も止まり、急激に活発化した鼓動の音が聞こえる。女になんて返そうかと悩む余裕すらなくなっていた。

 

 

「……天野……コイ……」

 

 

 だからだろう、口が勝手に名前を語っていた。余裕があれば偽名を名乗れたかもしれなかったのに……もう後戻りはできないと悟った。恐る恐る視線を見上げると女がオレを見下ろしている。その瞳には悲しみが宿っていた。

 

 

 やめろ、そんな目でオレを見るな。オレとあんたは何の関係もないだろ……だから視線を逸らしてくれよっ!!

 

 

 何故か視線を逸らすことができない。女の方も悲しい瞳でオレを見つめ返す。お互いに何も言葉を出すことができずに時間だけが過ぎていく。そのまま時間だけが過ぎていくのかと思われたが、女の口が僅かに動いた。

 

 

「………………………………………………そう」

 

 

 ただそれだけ、それだけで会話は終わった。それがきっかけとなり釘付けになっていた視線を逸らすことができた。オレは残っていた包帯を巻く作業を終わらせて何も言わずにそのままここから去ろうとしていた。ここに居ると知らなくてもいいことを知ってしまいそうで恐ろしかったから。だから()()を見つけてしまった時は後悔した。

 

 

「……これは……」

 

 

 テーブルの上にそれはあった。B小町のCDケースが()()()()()()()()。しかし気づいたのはそこではない。片方のCDケースのジャケットには7人のバカとニノを含んだアイドル達が写っていたが、もう片方は数が少ない。そのジャケットには4人しか写っていなかった。バカとニノも今よりも幼さがあり、これは初期の頃に発売されたものだとすぐに理解した。アルバイトスタッフとして働いているからグッズに関して多少は知っていた。B小町が売れる前のファンの間ではレア物扱いにされているものだった。

 まだ地下アイドル時代にバカ達がこれから輝いていくのを期待して金もただではないのに自腹で作ったものだとおっさんが自慢げに語っていたっけ。枚数もほとんど生産されず出回ることも限られた品物だ。売れなきゃ無駄な時間と金を捨てたことになるのにおっさんはそれほどB小町に夢を見ていた……まぁその夢は叶ったみたいだが。それがここにあると言うことは導き出される答えは一つしかない。

 

 

 この女はその当時からB小町を……バカを知っていた。譲り受けた可能性も否定できないが、オレは違うと断定した。心の奥底でもう確信を持っていたんだろう。だからCDケースに写るバカを見つめてしまい去ろうとしていた足が止まっていた。

 

 

「……その子は……娘なの」

 

 

 薄っすらと抱いていた確信が明確な確信へと変わった。

 

 

「……娘はね……双子なの」

 

 

 知ってる。認めたくないけど知っている。あんたの娘を知っているから。

 

 

「……もう一人の娘は離婚した夫に連れていかれてずっと会っていなかったの」

 

 

 離婚して正解だったかもな、あいつはクソ親父だったから。

 

 

「……新しくできた男、結婚まで考えていた男がいたの」

 

 

 そうか、クソ親父以外に男がね……あんた意外とモテるんだな。

 

 

「……でもね、その男が娘に色目を使い始めて……まだ8とか9にはもう女性らしく恐ろしいぐらいに美しく育っていたわ」

 

 

 その男はロリコンだったのかバカに魅力があり過ぎたのか……おそらく後者だろうな。

 

 

「……私、それでおかしくなっちゃって娘に……酷いことしたの」

 

 

 バカから聞かされたよ。あいつ今も受けた仕打ちの数々を鮮明に憶えているぞ。

 

 

「……私が悪いのに娘のせいにして、けちな窃盗で捕まって……捨てたわ。娘は悪くないのに」

 

 

 捨てた……か、オレは捨てられたし、オレもクソ親父を捨てたよ。

 

 

「……後で迎えに行くつもりだったとか言い訳を考えていた。捨てた癖に……娘がアイドルやってるって知ってもう関わってはいけないと思っていても小さなライブ場にこっそり出向いて……衝動的にCD(それ)を買っちゃって懲りずにまた買っちゃったわ」

 

 

 衝動的にね、今そのレア物CDの方をネットに出せば言い値で売れると思うぞ。

 

 

「……今更何様のつもりなのかしらね。酷い母親だと思わないかしら?」

 

「……そうだな、酷い母親だ。父親の方もクソだったぞ」

 

「……そう……あの人がね」

 

「殴られて蹴られて、料理が美味しくなかったらダメにされた。いつも家を綺麗にしていないとすぐに汚くなるし、酒ばかり飲んで八つ当たりしてどこかにふらっと出て行って帰ってきたら……知らない女を招き入れていたよ」

 

「……痛かったわよね」

 

「ああ……体も心もな」

 

「……あの人も変わってしまったのね」

 

「元々どんな奴だったかは知らんって言うか知りたくもない。あいつがクソだったのは事実だし」

 

「……ごめんなさい」

 

 

 女は俯き呟いた……悔いるような声で。なんであんたが謝るんだよ。オレはあんたなんて憶えていないんだぞ。

 

 

「……私は酷い親だったし娘に酷いことをした。もう一人の娘は私なんかに育てられなくてきっと今頃幸せに暮らしていると……思っていた。けど違ったのね」

 

「………………………………………………」

 

「……どうしようもないダメな親でごめんなさい。今更謝っても許してもらえるとは思っていないわ。何も目的もなく、ただ息をしている生活をしていた時にこうして会えたのは娘に謝るチャンスを神様が与えてくれたんじゃないかって思って……その……」

 

 

 言葉を繋ごうとするがそれ以上何を言えばいいのか口は動くもののハッキリとした言葉が出て来ない。

 

 

 女は後悔していたがオレには関係ないことだ。この女は母親でもなんでもない……オレの名字は『天野』であんたは『星野』だ。あのバカと同じであんたとは赤の他人なんだからよ。

 

 

 うっかり足を止めてしまったがもうここにいる必要はなくなった。オレは女が必死に言葉を繋ごうとしているのを尻目に背を向け玄関に向かう。

 

 

「――ま、待って!!」

 

 

 待てるか、ここで止まったらまた余計な考えが浮かんでしまう。その前にここから去るべきだ。女の声を無視して扉に手を掛けた。

 

 

「――ああっ!?」

 

 

 ガタン!と何かが倒れる音がした。振り返れば女が倒れていた。足を痛めていることを忘れて駆け寄ろうとしたんだろうが、ふらついて体を支えられずに倒れてしまったようだ。オレは無視し続けることができたのに足は玄関の外へと向かず、女の下へと駆け寄ってしまっていた。

 

 

「だ、大丈夫か?」

 

「え、ええ……あ、あり……が……とう」

 

 

 女を抱き起していた。もう自分自身が嫌になってくる……考えていることが行動と矛盾していることに。女も女だ、足も痛めているのにオレに執着するなんて……そんなことを胸に秘めていると女はオレの袖を掴んだ。無意識にやってしまったことなんだろうが、女はそのことに気づいていなかった。

 

 

 ほとんど会ってもいない赤の他人に入れ込むほど親子揃って馬鹿な奴だ。人様にどれだけ迷惑かけたら気が済むんだよ……うざったいなもう!!

 

 

「おい」

 

「――な、なに……かしら?」

 

「夕飯まだだろ?」

 

「え、ええ……まだ食べてないわ」

 

「なら勝手に食材は使わせてもらうぞ」

 

「えっ?」

 

「あんたは安静にしてろ」

 

 

 女を座らせて戸惑う視線を背に受けながら買ってきた食材と冷蔵庫の中身を確認、ほとんど何もなかったがこれならなんとかなるな。

 

 

「アレルギーとか苦手な食べ物はあるか?」

 

「えっ、えっと……特にはない……わね」

 

「そうか」

 

 

 それだけ確認すればもう会話は不要だ。オレは早速準備に取り掛かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっさと食え」

 

 

 野菜と白米、そしてカレールーの残りがあったのでそれでカレーライスを作ってやった。これを嫌いだという奴はそうそういないだろうし、大人も子供にも人気な料理だ。それをテーブルの上に水と一緒に女の前に並べてやると唖然としてカレーライスを眺めていやがる。

 

 

「………………………………………………」

 

「食わねぇと冷めちまうぞ?」

 

「……これをあなたが?」

 

「オレ以外の誰がいるってんだよ」

 

「……そうよねこれをあなたが作ってくれたのね」

 

「そうだ、さっさと食えって!」

 

「えっ、ええ……」

 

 

 女は恐る恐るスプーンを片手にカレーライスを掬い口に運ぶ途中にその手が止まった。

 

 

「……白米か」

 

「あん?どうした?」

 

「……昔、腹が立ってグラスを投げたことがあるのよ。それで白米にグラスの破片が入って娘が怪我をして……」

 

 

 ああ聞いたよ、白米に辛い思い出があるって……ガキどもの面倒を見た日、真夜中に帰って来るバカにおにぎり作ってやったことがあった。途中で食べてくることはわかっていたし、無理で残したとしてもガキどもに食わせられるように塩握りにしていたが失敗だったか?だがあいつは気にしてはいなかったし良かったんだろう。

 

 

 女の手は止まって動かない……後悔しているんだろうが、それでオレが折角作ったカレーライスを食べないつもりかよ!?

 

 

「後悔していても過ぎたことだ。忘れろとは言わないが、今はそんなことは考えずに食べろ。気が沈んでいる状態で食事しても味もわからなくなるし食材に失礼だろ。食事は楽しく食べて味わうもんだ」

 

「……そ、そう……なのね。久しく食事を楽しんだことはなかったから……」

 

「ええい!!そうやってグチグチ言っている暇があったら食えってのっ!!」

 

「……ご、ごめんなさい。いただくわ」

 

 

 どうこう言おうとそれを黙らせると女の手を動き出した。口に触れた瞬間熱さを感じて一瞬だけ唇から離れるが一口で食べる。ゆっくりと咀嚼して味わっている様子を眺めていたら……急に女が泣きだした。留めなく流れ出る涙が滴り落ちてカレーと交わるのをオレはその光景をただ眺めるしかなかった。

 

 

「う、うぅ……美味しい……美味しいわ……とっても美味しいわっ!!」

 

「……あ、ああ」

 

 

 女は涙を流して……何度も美味しいと繰り返しながら嗚咽を漏らし続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ごめんなさい」

 

「落ち着いたか?」

 

「ええ……恥ずかしいところを見せちゃったわね」

 

 

 女は目を赤く腫らしながらそう言った。感情が高ぶってしまったようだが……高まり過ぎだろ。ただカレーライスにそこまで何が感情を高ぶらせたのかは何となくわかる。味が美味しいからではない、オレが作ったからだ。だってこの女はオレの……いや、よそう。また余計なことを考えようとしていた。

 だがこれでもういいだろう。明日には足の痛みも引いていることだろうし、もうオレがやることはなくなった。これで心置きなく帰れるだろう。

 

 

「あの……あなたは今どこに住んでいるの?」

 

「教えない」

 

「あっ、そ、そう……」

 

 

 住所を知られたくなかった。知らせてしまえばまた関わりを持ってしまうかもしれないと思ったからだ。

 

 

「だが今は帰っていない。適当にネットカフェに入り浸っているところだ」

 

「えっ?ど、どうして?」

 

「色々と訳がわからなくなってな……それで家出中だ」

 

 

 何故オレは素直に話してしまったのか今もこの時の行動に疑問を感じた。だって素直に話さず嘘で誤魔化せばよかったのによ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……いただきます」

 

「さっさと朝食を食って仕事に行ってこい」

 

 

 家出中と知ったら泊ることになってしまい、専業主婦のように女に朝食を作っていた。

 

 

 こうして女とオレとの奇妙な共同生活が始まった。

 

 

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