成り行きで居候生活を送ることになったコイと住人の女との日常回。
それでは……
本編どうぞ!
カチャカチャと食器を洗う音と水の流れる音が耳に入ってくる。
「……はぁ」
自分でも何をやっているんだろうなと思う。その証拠にため息が漏れてしまった。
女……名前を星野あゆみとわかった。
星野あゆみはやっぱりバカの実の母親だった。そしてオレの……
偶然にしても嫌な偶然だ。運命だったら尚更だ。これが神様の仕業ならやっぱり碌でもない存在だよ。この出会いが一瞬で終わるものかと思えばアパートに居候することになってしまった。ネットカフェに泊るより狭くて安い建物だが金は節約できる。その代わり家事はオレが必然的にすることになり、これではまるで専業主婦だ。
星野あゆみはパートでいない。朝食を作ってさっさと追い出したが「……いってきます」なんて寂しそうに言いやがって……調子狂うんだよっ!!もうイライラしてきたから煙草吸わないと!!
「ふぅ……♪」
誰もいない一人部屋で煙草を吹かす。冷蔵庫には缶ビールが入っておりそれを拝借して飲む。この瞬間が幸せだぁ♪
「………………………………………………」
ふっとテレビのリモコンのスイッチを入れる。するとニュース番組が流れてくるが何とも思わない。暇つぶしにチャンネルを変えていると手が止まってしまった。
『それではB小町のアイさん、この答えはなんでしょうか?』
『えーっと……なんだろう?』
『ヒントは地図にも載っていますよ』
『あっ!わかった!郵便局のマーク!!』
『残念!不正解です!』
『ええ~!?正解だと思ったのに……』
「へっ、間違ってやんの」
チャンネルを変えて映し出されたのはクイズ番組の再放送だった。そこにバカがニノと他のB小町の連中と共に映っていた。そして出された問題を間違えていた。可愛らしくおどけた仕草と表情で見る者を釘付けにしていた。オレはそれを鼻で笑ってやった。
気がつけば番組を終わるまで見てしまった。見る気なんてなかったのにバカがラスト問題で見事正解して逆転、チームB小町が勝利したのを見届けた。番組が終わってチャンネルを変えても他の番組は見る気力が湧くことはなくテレビを消した。
……バカやニノ達は今頃何をしているんだろうなんて思ってしまった。おばさんに休むと身勝手な理由で伝えるだけ伝えていつ戻るかなんて言わなかった。そもそもオレは戻る気があるのだろうか?もうこのまま帰る気力すらなくなって二度とバカの前に姿を現さないかもしれない。何故オレは家出なんて真似をしたんだ?
最近自分自身のことがわからなくなってきていた。ガキどもの世話をしたり、アルバイトスタッフとして仕事したりと言いなりになったり、バカと遊んだり食事したり、カラオケなんてやってしまった。ニノも同じように遊んで、二人のミニライブに付き合わされた。なんでオレがこんなことをする羽目になったんだろうな?
それを考えれば辿り着くのはあの日のこと……バカに間違われて刺された日。バカに会ったのもあの時だ。あの時から何もかも変わった。極めつけはバカに間違われることが嫌なのにあいつの代わりとして撮影に強要されたわけでもなくオレの意思で出向いてしまったことだ。
煙草に火をつける。気持ちを落ち着かせるために……あの日以来歯車が狂いだした。でもそれが結果的に悪かったのかと聞かれたら……悪いとは言えなかった。男を抱いてただ金の為に過ごしていた日々が星の光に照らされた。今まで知らなかった日常がそこにあった。闇と光は交わってはいけないと思っていても心の奥底では結局オレは救いを求めていたんだ。
『……私は酷い親だったし娘に酷いことをした。もう一人の娘は私なんかに育てられなくてきっと今頃幸せに暮らしていると……思っていた。けど違ったのね』
『……どうしようもないダメな親でごめんなさい。今更謝っても許してもらえるとは思っていないわ。何も目的もなく、ただ息をしている生活をしていた時にこうして会えたのは娘に謝るチャンスを神様が与えてくれたんじゃないかって思って……その……』
住人の女も心のどこかで光を求めていたんだな。オレに対して謝る必要なんてないのによ……
「チッ、鬱陶しいのは遺伝ということか。めんどくさい親子だ……」
吸い終わった煙草を吸い殻入れに捨て、女が帰って来るまでにやることをやっておこうと思う。
まず部屋の印象は寂しいだ。物も必要最低限の物しかなく、女の一人暮らしにしては華やかさがなかった。それは年齢的なものもあるから仕方ないとして、ゴミ箱が溢れていて部屋の隅っこには埃が固まっている。掃除が行き届いておらず疎かになっていた。だからまずは
「……た、ただいま……」
「帰って来たか」
「あっ……あなたその髪はどうしたの!?」
「あん?ああこれか、金髪に染め直しただけだ。元々の色はいけ好かないからな」
「……そうなのね」
女が帰って来てオレの髪を見て驚いた。紫がかった黒髪をいつまでもそのままにしているわけにはいかなかったからな。オレはあの色は好かない、やっぱりこの色が落ち着く。なのに女はどこか寂しそうな表情をして見つめていた。この金髪はオレが天野コイである証、それに対して寂しさを向けられたら否定されているのと一緒だから腹が立った。
「あんたはオレだと言う証の金髪よりもどっかのアイドル様と同じ髪の方が好きらしいな」
「ご、ごめんなさい、あなたを否定したつもりはないのよ」
謝る姿を見ているとイライラする。それが後悔の表れだとしても下手に出ているように思える。
「あんたとはなんでもない
「ご、ごめんなs……」
「それ以上謝るな。チッ、まぁいい。さっさと入れよ」
これ以上謝罪されるとまるでオレが悪いみたいで気分が悪くなるから会話を終わらせた。無言になった女を招き入れて外出用の服を着替えさせる。それから小さなテーブルへと誘導して用意していた夕食を出す。今日は髪染めを買いに行ったついでにスーパーがあったから寄って来た。そこで必要な材料を購入してビーフシチューを作ってやった。勿論二人分、オレも食べるからな。
小さなテーブルに二人分のビーフシチュー、おっと酒を忘れていないぞ?これがないとやってられねぇからな!そしてお互いに向かい合いながらの食事、お互いに「いただきます」と食材に感謝を告げるのを忘れない。しかしその後はずっと無言だ。特に話す話題もないのでオレは別に気にしていないが女がチラチラとこちらの様子を窺っていて食べづらい。しばらくは無視していたが我慢できなくなってきた。
「さっきからなんだよ!」
「い、いえ……結構お酒を飲むのね?」
「あん?これぐらい普通だが?」
言われて数えてみても缶ビールを5本飲み終えていた。そして片手には6本目の缶ビール……普通じゃねぇのか?まぁそんなのは個人の感覚だからどうでもいい。元々未成年の頃から飲んでいたからこんなものは味の付いた水と変わらない。あんただって人のこと言えないと思うが?2本目を開けたところじゃんか。
「あんたも飲んでるだろ」
「私まだ2本目よ?飲むスピードが早いわ」
「そう言われてもな、こんなの水と変わらん。飲みなれているからそんなもんだ」
「飲み慣れているからってそれ飲んだらまた飲む気なの?」
「そうだが悪いかよ?」
「……私が言えたことじゃないけど飲み過ぎは体に悪いと思うわ」
「体に悪いって酒は未成年の頃から飲んでたし煙草もやってたから今更って感じだな」
「――えっ!?」
女の顔に驚愕が現れた。何をそんな驚いt……しまった。未成年とか迂闊なことを言ってしまった!?未成年の飲酒喫煙は法律で禁止されている。そんなのをやっていたと言ったら誰も良い顔はしないだろう。特にこの女にとっては……な。
まずいな、気が緩んでいたようだ。不必要な情報を与えてしまうと後々怖いし面倒なことになりかねない。女を観察すれば食事していた手を止めていて何かを言いたそうにしている。
「もう時効だ。だから酒も煙草を飲んで吸っても合法だ」
「……あ、あなた未成年の頃は何をしていたの?」
「……」
ほらきた、不必要な情報を与えてしまうと要らぬ考えを持たれる。きっと女は見た目不良なオレのことを内心では優しい子とか思っていたりしたんだろうが……ハズレだ。オレは見た目通りの不良、優しくもなんともないクズだ。あんたに料理を作ってやったのは……その、あれだ、気まぐれだ。ともかくクソ親父のことは知られているから仕方ないとしても金の為に男を何度も抱いたとか知られたくない。
「……別に。クソ親父のせいで人生滅茶苦茶だったから偶然酒と煙草に出会ってそれで相棒になっただけだが文句ある?」
「い、いいえ……そうなのね」
誤魔化すことにした。詳細は語らず、女に威圧感を与えて黙らせた。女の方もそれ以上何も言ってこなくなった。
それからは会話もなく、缶ビールを更に4本飲んで食事の時間は終わった。明日も女はパートの仕事なので風呂に入らせている間にテーブルを避けて布団を引く。部屋が狭いから布団を引けば足の踏み場が僅かとなる。勿論布団は一人分しかなく女の専用だ。ならオレはどうするのかって?オレは台所で毛布に包まって寝る。それで昨日女と少々もめたが、無理やりにでも布団に寝かせた。元々ここにはオレの場所じゃないからそんな場所にオレが占領するわけにはいかない。
女が風呂から上がり、入れ替わりでオレが入る。簡単にシャワーだけで済ませて上がると異変に気づいた。
布団に枕が二つ……元々枕が二つあったのは知っていたが何故それが出ている?オレは押し入れから出した憶えはないし必要じゃないはずだが?しかも一人用の布団に置かれていることが訳がわからん。問いただすと台所で毛布一枚に包まって寝ているオレを見てせめて布団で寝れるようにとのことだった。憐れみを向けられていると感じた。だからってあんたと一緒の布団で寝るとか死んでも嫌だぞっ!!
「なんで狭い布団にあんたと寝なければならないんだよ。こっちはそんなこと嫌だからな」
「……そ、そうよね。わかってたわ。で、でも台所でなんて風邪を引くわ。だから布団を占領していいから台所では寝ないでお願いっ!!」
「……」
気持ちを伝えると女は落ち込みやがった。台所で寝ることはやめろとそれだけは譲らない様子で訴えかけられたが嫌なものは嫌なんだ。だからそんな悲しい目で見つめてくんなよっ!!
バカの母親はバカとは違うベクトルでうざくて面倒だとわかった。親子揃ってオレなんかに構いやがってよ……ああもう!!
「わかったからそのうざい視線を向けるな!!いいよ、台所じゃなくここで寝てやるよ!!その代わり突き飛ばされても文句言えないからなっ!!」
「――ッ!?ええ、それでいいわ!」
なんでこの女は喜んでんだよ。こんなの調子狂うに決まっているじゃねぇか……
「………………………………………………」
「………………………………………………」
……ぜんぜっっっん寝れねぇよっ!!布団が狭いからオレも女も少し飛び出てんじゃんか。一人用の布団に二人が入る前提とかないからこうなることはわかってた。それが原因で寝れない訳ではない。女の背中がすぐオレの背中にあることで意識して寝れないんだよ。もう静かすぎてこの状況が嫌になる。男と寝た方が意識せずに寝れたとかどうかしているよ……まったく。
「……あ、あの……いいかしら?」
「――ッ!?な、なんだよ?」
いきなり話しかけられて体が飛び跳ねそうになった。
「……あ、あなた呼びは失礼だから……な、名前で呼んでも……」
「ダメだ」
この女には名前で呼ばれたくない。これ以上入れ込まない為にも関係は深くならない方が身のためだから。
「………………………………………………そう」
それだけでまた静かな空間へと戻った……もううざったい女だなっ!!
「……明日も仕事だろ。そんなことを考えているよりも……パート頑張れよ」
「――ッ!?ええ、頑張るわ!」
うざかったからちょっと声をかけたらこれだ……チッ、やっぱりバカとは違うベクトルでうざかった。
「……チッ、いい顔で寝やがって」
朝起きて寝ぼけた頭で何気なく女を見てみる寝返りを打ったのか顔が見え、その表情はどこか疲れたものではなく安らかな寝顔だった。
昨日は余計なことを言ってしまったと思いながら、台所で顔を洗い朝食の準備に取り掛かった。