それでは……
本編どうぞ!
パァン!!
病室に響く音。
影が尻餅をついた。
その影を見下ろす
「ママ!?ママ!!」
「アイ大丈夫か!?」
「う、うん……大丈夫、私は平気だよ?だからルビーもアクアも心配しないでね?」
「ママぁ……!」
「アイ……」
倒れたアイに縋りつくルビーと駆け寄るアクア。アイの頬は赤く腫れており、それは叩かれたからだ。
アイを見下ろすアイに瓜二つの少女が彼女を叩いたのだ。
「てめぇ!!なんのつもりだ!?」
何が起こったのか一瞬誰もが理解できなかった。だがアイが叩かれたと脳が理解した瞬間、壱護が少女の胸ぐらを掴み怒鳴った。相手が怪我人でも看過できないことだった。妻のミヤコの方も庇う様にアイ達の前に出る。
「……礼だ」
「……礼だって?」
胸ぐらを掴みながらも壱護は怒りを爆発させないように少女の呟く言葉に耳を傾ける。
「オレが刺されたのはこいつのせい。あのイカレ野郎はこいつを狙ってた」
「……なに?」
「アイ……子持ちの嘘つきアイドルに間違われて襲われたんだよ!!」
少女は苛立った様子で吐き捨てるように怒鳴る。アイと瓜二つながら彼女とは似ても似つかない態度に壱護達はギョッとした。アイに瓜二つの容姿から繰り出される
「なぁ、噓つきアイドル様……どうこの責任を取るつもり?こっちは刺されたんだけど?」
「あっ、えっと……」
少女に睨まれアイは言い淀む。ただならぬ空気が支配する病室に看護師が騒ぎを聞きつけて駆け付けた。
「……話は後だ」
その後は特に騒ぎが大きくなることはなく少女の診察が始まり、警察が事情を聴きに来た。その間、アイは叩かれた頬を冷やしながらかんかんに怒るルビーと壱護社長を宥めながらその時を待った。
そうして再び顔を合わせることになったのは夜になってから。壱護は仕事の会談があると言ってこの場をミヤコに任せて去っていった。仕事も休みだったアイと双子とミヤコが病室に入る。
「がるるるる!!」
ルビーは敵意を剝き出しにしている。大好きな母親が見知らぬ人に叩かれたのだからこの行動は当然のことだろう。アクアも警戒しており、ミヤコも何があれば即座に割り込もうと決めていた。
「へっ、ガキがそう牙を向けるなよ。あの時はむしゃくしゃしてたからね」
「はぁ!?ママを叩いておいてなにその態度?このアマ絶対にぶっこr――むぐっ!?」
「(おいバカ!俺達はまだ子供なんだぞ?いきなり子供がこんなことを言ったら変だろ!!)」
「(で、でもお兄ちゃん!ママが叩かれたこと許すの!?)」
「(許せない……けど……)」
アクアは咄嗟にルビーの口を塞ぎ、二人はひそひそと話し合う。ルビーが言う様に母親であるアイを叩いた少女を許せない気持ちがアクアにはあるものの、少女の顔を見てしまうと『推し』と同じ顔に複雑な感情が芽生えてしまう。
そんな二人のやり取りを奇怪な目を向けるのは少女ただ一人。ミヤコはもう慣れてしまい、アイは残念な思考から「うちの子はやっぱり天才!きゃわ~~~❤」とか思っているのだろう……とはならなかった。
アイはずっと少女を見ており、アクアとルビーのことが目に入っていなかった。あの親ばかのアイに限ってそんなことはないと言いたいが、今日の彼女はどこかおかしかった。
「……ねぇ?」
「これは噓つきアイドル様、なにか用?」
「……名前」
「あん?」
「名前、なんて言うの?私は自己紹介したと思うけど、星野アイだよ」
「……ママ?」
「……アイ?」
アイの様子に違和感を感じるアクア達だが、アイはただじっと少女の返答を待っていた。
「……
「コイちゃんって言うんだ」
「ちゃん付けはやめろ!お前に呼ばれると虫唾が走る!!」
「……ごめんね?」
「……チッ、うざっ」
アイの謝罪もこの少女には意味をなさなかった。アイの一つ一つの行動がコイの感情を刺激しているようで、ルビーもコイの態度が気に入らず敵意が増す。
「まぁいいや。それで話の途中だったな?」
「あっ、そ、そうね」
「おばさんが責任者?」
「――おばっ!!?……私は斎藤ミヤコ、私と一緒にいた人が社長よ。社長は仕事の会談でここには来られないわ」
「別にいなくても問題ない。ただ金の話をするだけだし、社長なら当然金持ってるよな?」
「……そうね」
ミヤコは嫌な予感がした。目の前の少女は邪悪な笑みを浮かべていたからだ。
「慰謝料と口止め料込みで500万払ってもらおうじゃん!」
「ご、500万!!?」
ミヤコは絶句した。500万なんて大金を払えと言ってきた天野コイに軽蔑の視線を向けるほどに。
「なぜあなたにそんな大金を払う必要があるのかしら?」
「ある。なんたってオレはそいつの代わりに刺されたんだからな」
少女が指さした先にはアイがいる。
「オレを襲ったあのイカレ野郎は噓つきアイドル様が子供を産んだことを知ってた。ご丁寧に花束まで用意してあのマンションの前に居たところを偶々通りかかったオレとこいつを間違えたってわけ。子供を産んだことを隠してファンを騙しているのが許せなくなったらしい。でも安心してよ、警察には噓つきアイドル様との交際を迫って断られたから逆上して襲い掛かってきたって話しておいた。オレがアイにそっくりだから間違われたってこともね。子供のことは言っていない」
「そ、そうなのね……」
「まぁオレにとっては犯人が捕まろうと捕まらなくても関係ないけどな。オレを刺したのは許せないが、いい情報を得られたこともあることは事実だし?現状イカレ野郎を除いて噓つきアイドル様に子供がいることを知っている部外者のオレがこの事を話せば……あんたらおしまいってわけ♪そこのところわかる?」
「いくらなんでも500万は……」
「安いと思うけど?そこの子供のこと……バラしてもいいの?そうなれば待っているのは破滅。噓つきアイドル様もおばさんも子供達も……みーんなバッシング間違いない!」
「「「「……」」」」
「子供達の年齢的に……ああ、噓つきアイドル様は一時期何かの理由で活動休止してたっけ。その時に妊娠してそれがバレないようにしていたとしたら?もしそれが世の中に知られたら?ファンは思うだろうなぁ……裏切られたって。あのイカレ野郎みたいな奴に今度こそ殺されちゃうかもしれないね?いや残念だなー♪」
より一層愉快に染まった笑みを浮かべた。これはもう脅しだ。弱みを握り、それを利用するやり口に嫌悪感を抱く。アイと同じ容姿でありながらもアイに似ているのは外見だけだ。内面は汚れていた。
アクアとルビーも母親と同じ顔で同じ声でこんなことされて腹が立っていた。そっくりさんだからと言ってもアイではない。子供の体であっても中身は転生者。アイのファンである二人の堪忍袋も我慢できぬと怒ろうとした時だ。
「ねぇ……」
「あん?なんだよ?」
「なんで私を
「はぁ?そんなもんお前が嘘ばっかしついているからだろ?」
「嘘なんてついてないよ?」
「はい嘘」
「えっ?」
「子供のことは勿論だけど、ステージに立っている時も歌っている時もカメラに映っている時も人と話している時も
「……コイは私の嘘がわかるの?」
「ナチュラルに名前で呼んでんじゃねぇよ。そんなの
「コイも今……嘘ついたね」
「だからナチュラルに名前を……あん?オレが嘘をついただと?」
「うん、
「そんなことは……」
『ない』と言葉は出なかった。コイはアイを見たときにこいつは嘘つきだとわかってしまったのだから。
「ねぇ、私達って凄く似てるよね?アクアとルビーみたい!」
「似てねぇし。誰がお前と似てr……」
「コイ、この子がアクアでこっちの子がルビーって言うの!可愛いでしょ♪」
「おい話聞けよ!!それとナチュラルに名前で呼ぶなって言ってるだろ!!」
「アクアとルビーは双子なんだ。もしかしたら
「無視すんな!大体そんなことあるわけないだろいい加減にしろ!」
アイとコイの間に奇妙なやり取りが展開されてミヤコ達は呆然としていた。だがほとんど会話に混ざらなかったアクアは疑問を口にした。
「だったら調べればいい」
「お兄ちゃん?」
「アクアどうしたの?」
「DNA鑑定でアイと天野コイを調べればそっくりの赤の他人かどうかわかるよ?」
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僕は雨宮吾郎……だった。今は俺、星野アクアマリン……自分で言っていて恥ずかしい名前の子供に転生した。だがこれは『推し』のアイにもらった名前だから受け入れられた……すまん、やっぱり恥ずかしい。
アイとは転生前からの付き合いだ。アイが妊娠していた時は人生の終着駅が見えたが、アイは子供を産むことに迷いはなかった。まだその時は16歳の少女だったのに……俺はアイに元気な赤ん坊を産ませようと覚悟を決めた……決して変な意味合いじゃないからな?
だが俺は死んだ。まだ16歳のアイドルが妊娠なんてスキャンダルにしかならない為、極秘出産という形でごく一部の人間しかこのことは知らなかったが、出産予定日に病院付近で怪しい男に声をかけられて、そいつはアイが病院にいること知っていた。俺は逃げたその男を追った。
そして俺は殺された。
殺されたらアイの子供に転生していたわけだ。『推し』の子供に転生できるとかなにそれ?最高すぎだろ!!もう最高以外の言葉が見つからない!!……さりなちゃんが生きていれば今の俺をどう思うだろうか?
暗い話は今は置いておこう。それで充実した日々を送っているそんな中で……俺達は出会った。
天野コイ……『B小町』のドーム公演日、アイに瓜二つの子が通り魔に襲われて重傷を負った。
本当に驚いた。アイとそっくり……いや、似すぎていた。担架で運ばれていく彼女を一瞬俺はアイと見間違えてしまったほどだ。
アイは天野のことを気にしていたが、ドーム公演は大成功を収めた。
心の奥で不安を宿していたのにアイはやり遂げたんだ。アイはやはり天才だ。異論は認めない。
アイと俺達は天野が入院している病院へと足を何度も運んだ。アイがそうしたいと言ったから。そして数日後に彼女は目覚めた際にアイを叩くという凶行に出た。床に尻餅をついたアイに遅れて俺達は我に返った。斎藤社長も怒って彼女の胸ぐらを掴んで、そこからは騒ぎを聞きつけた看護師がやってきて話は後回しになった。
斎藤社長は仕事の会談でいない中、子供ながら男は俺だけだから何かあってもアイ達は守ろうと覚悟して話を聞いていたが……
アイと全く性格がちがうじゃねぇか!いや、そんなことは当たり前なことなんだが、言葉遣いも荒く、人の弱みに付け込んでお金をせびる不良の印象を受けた。ミヤコさんもそうだが、ルビーは敵意を剥き出しにしていたし、俺もアイの容姿でいいようにされるのが我慢できずにいた時、アイは彼女に語り掛けた。
アイの様子がいつもと違っていた。暴力を振るわれたのに天野に積極的に関わろうとしていて、見ず知らずの相手に叩かれたら怖いと思うはずだ。俺達にはわからない何かがアイにそうさせたのかもしれないと後で思う様になった。
アイと天野のやり取りを傍で見ているとなんだか
だからDNA鑑定を提案した。俺の好奇心と疑問から出た提案だった。
それがまさか……
『推し』も
DNA鑑定の結果、星野アイと天野コイは血縁関係者であることが判明。しかも二人のDNAが一致したことから見ても二人は双子の姉妹であることがわかった。
前世で医者だったが、こんな偶然もあるもんだなと呆然としてしまった。
偶々初めて来た場所を歩いていた天野が、アイを狙った犯人に間違われて、アイが天野を見つけて助けたら自分と瓜二つで実の姉妹だった……どんな確率でアイはこの幸運を引き当てたのだろうか?幸運すらアイの味方についてしまう神のような存在。やはりアイは女神だったんだ。異論は認めない。
アイは「私にお姉ちゃんがいたんだ~♪」って喜んだ。それとアイ?どっちが姉でどっちか妹かまではわからないぞ?まぁアイがそれでいいなら何も問題ないな。だが天野の方は「嘘だ……こんなの嘘だ……」って嘆いていた。
俺とルビーも双子、アイも実は双子だった。俺も他人事とは思えなくなり天野コイのことが知りたくなった。それにアイに対していい感情を持っていない彼女には何かある。それを知るべきだと思った。
通り魔もまだ捕まっていないんだ。またアイと間違えて彼女を襲うかもしれない。今度はアイが襲われるかもしれない。
そんなことはさせない。
俺は……僕は傍で、彼女達を守ろうと思う。
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ママに危険が迫っている。
何とかして
私は星野ルビー、前世は天童寺さりな。
ひ弱な私は人の手を借りなければ碌に生きていけない人生を送っていた。病院で過ごす日々が憂鬱になっていた。
私のお母さんは……私の元に訪れたことはない。
きっと仕事が忙しくて来られないんだ。いい子にしていればお母さんは来てくれる……そう思い込むようにして自分を誤魔化した。辛い気持ちを我慢していればと……
お母さんは私が死ぬ時でも来てくれることはなかった。私は……愛してもらえなかった。
私に寄り添ってくれたのは
お母さんが来てくれなかったのは辛いけど、病院での生活の中でせんせと『推し』に出会った。
アイちゃんは輝いていた。歌って踊れてその姿に惹かれてすぐにファンになった。アイドルってこんなに素敵なんだって思った。相手がアイちゃんだったからファンになったのかもしれない。
もう一度人生があるならせんせとアイちゃんに会いたい……
会えちゃった。せんせは音信不通になっていた。若い頃遊んでいたみたいだし、その関係で何かあったんじゃないかって思ったけど、せんせとはまた会える気がする。どこで何をしているのかわからないけど必ず会いに行くと決めているから……だから待っててね。せんせ?
そしてアイちゃんは私のママになった。『推し』の子に転生できたんだと理解した私は第二の人生は幸せに生きていきたいと願った。既にアイちゃんの子として産まれたから幸せな人生を送れている……はずだった。
ママの前に現れたママに瓜二つの女……天野コイ。
このアマはママを叩いた嫌な奴。すぐにでもぶっ〇したかったけどお兄ちゃん……アクアに止められた。その時は我慢したけど、このアマは性格が終わってた。人の弱みに付け込んでお金を取ろうとするなんて人として失格なのに悪びれる様子もなくて腹が立った。それもママに瓜二つだから余計に腹が立ってぶっ〇そうと思ったら……ママが変なの。
ママから天野コイに近づいた。こんなのに近づいたらママが危ないって思ったけど二人の雰囲気に割り込めなくて、私達を自慢するママが「
天野コイはママの双子の姉妹だった。
私は絶句した。ママに姉妹がいるのはいい。でもこいつはダメだと女の勘(前世12歳)が告げていた。
けどママは喜んでいた。ママはあのアマが退院するまで病院に通う気だ。どうして?ママを叩いたんだよ?ママをバカにしたんだよ?血が繋がっているから?姉妹だから?
このままだとママが取られちゃう。家族が壊れちゃう……そんなの嫌だ。
なんとかしてあのアマからママを助けないと!!
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「う~ん、このお菓子塩っ辛いね?」
「塩っ辛いね?じゃねぇよ!!なんで病室でお菓子食ってんだよ!?」
「コイは怪我人だからお菓子食べれないでしょ?可哀想だから私が代わりに食べてあげるの」
「お前バカか!?いや、バカだったわ……」
「ひどーい!元気出ると思ったのに」
「ただの意地悪だろ。それと毎回言わせてもらうけど名前で呼ぶな!!」
「えー?じゃあお姉ちゃん!」
「うわぁ鳥肌立った!?きもっ!!……っていうかいつまでいる?とっとと帰れよ」
「えっ?なんで?」
「はぁ?なんで赤の他人のお前がオレに付きまとう必要がある?」
「私達は姉妹でしょ?」
「誰がお前なんかと!!」
コイはアイからお菓子の袋を取り上げ投げ捨てた。中身が病室に飛び散り、無残にも床を汚す。
「うざいんだよ!帰れよっ!!」
「……わかった」
アイは俯きながら答えた。病室で外していたサングラスとマスクを着けて変装した姿で病室から出ていく前に一度振り返り……
「バイバイ!」
アイは笑顔で別れの挨拶を投げかけたがコイは目線すら合わせずに知らんぷり。そのまま視線が交わることなくアイは出て行った。
「……なんでオレに構おうとするんだ。うざったいなぁもう……」
病室に残されたコイは愚痴をこぼす。
DNA鑑定で二人が姉妹だと判明してからというもの、アイの方から病院に通うようになった。コイは重傷を負い、今も入院中。まだ安静にしている必要があり、後数日はこの病院のお世話になることになっている。
「……チッ、怪我人に煙草も酒も禁止だって?こんなの生き地獄じゃねぇか……あっ」
コイはアイの接触にストレスを感じていた。彼女は大好物である煙草とお酒を欲したが怪我人にそんなのを与えられる訳がない。大好物を摂取できずにむしゃくしゃしていると気が付いたことがある。
「……あいつ片付けずに帰りやがった」
床にお菓子の袋と散らばる無残な姿のお菓子達。その直後に顔を出した看護師にみっちりと叱られて無茶苦茶鬱憤が溜まってしまうことになった。
「……はぁ、今日もダメだったか~」
アイは病院を出てため息交じりに呟いた。彼女は近場でタクシーに乗り、事務所へと向かう。その途中ずっと外の景色を眺めているが頭の中は一人の事でいっぱいだった。
「コイ、私のお姉ちゃん……助けてあげないと……」
アイの瞳に宿る光が薄っすらと不気味な輝きを放っていた。