東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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幻想閑話-壱
幻想閑話-1-1~百年振りの日常~


~牙門邸 庭~

 

side-影政

 

 

「...よし」

 

 

 朝の鍛錬を終え、"相棒"を鞘に納める。酒の酔いは完全に消えている。

 

―――『紅霧異変』(阿求が名前を決めたらしい)終息後の宴会の翌日。今日は我が家で一日ゆっくりする予定としている。()()()()()で変わった予定を戻した形だ。カニンが何が欲しいか、まだ聞けていないしな。

 

 

...バサッ!

 

 

ども、『文々。新聞』でーす!おはようございます、影政さん」

 

 

 中に戻ろうと玄関に足を向けると、羽音が聞こえて文が目の前に降り立った。紅葉色のジャケットを羽織り、同色のキュロットズボンを履き、キャスケット帽をかぶり肩にショルダーバッグを提げた、中性的な記者らしい装いで、人里で人間に扮する際の格好だ。右脇には新聞の束を抱えている。

 毎朝我が家を含めた購読者の下に新聞を届け、里の新聞屋に卸すのが彼女のルーティンだ。実は新聞以外に仕事を持っているが、その仕事―――幻想郷中で情報を集めて管理報告する事―――が新聞と噛み合う為、自由奔放に見えて仕事をしっかり熟している優秀な天狗だ。

 

 

―――閑話休題。

 

 

「おはよう、文。一面は『紅霧異変』か?」

「当然じゃないですか。百年ぶりの大きな()()且つ、初めて『弾幕ごっこ』を適用した()()ですよ!記事にしない理由がありません。はい、どうぞ!内容には自信ありますよ」

 

 

 文から新聞を受け取り、一面を流し見る。『紅霧異変』の発生と解決の経緯が綴られ、解決に寄与した『弾幕ごっこ』についても俺や霊夢、魔理沙、『紅魔館』の住人へのインタビューを挙げて有効性がアピールされていた。―――『弾幕ごっこ』を戦う写真は無いが。

 

 

「...あ、気付きましたね。誠に残念ながら、『紅霧異変』では情報収集を優先して写真にまで手が回らなくて。インタビューの量で誤魔化してるんですよ。そこは記者として反省すべき所ですね」

 

 

 俺が指摘する前に、文は残念そうな表情を浮かべて頭を搔く。本当は写真も添えて視覚でも分かりやすくするつもりだったようだが、そこまで手が回らなかったようだ。

 

 

「本当に久しぶりの大きな()()だったしな。霧に含まれていた妖気の影響もあった。混乱や暴走もあっただろう」

「えぇ、そうですね。あまり力が無い妖怪でも混乱や戸惑いでてんやわんやでしたから。ですが、妖怪達にはいい発破になるでしょうね。レミリアさん達()から来たばかりの妖怪ですら、『弾幕ごっこ』に適応できたんです。先住の妖怪にできないことはないでしょう。"争いは拳や牙ではなく『弾幕ごっこ』で"。霊夢さん様々ですね。―――っと、あまり話し込んでると配達と卸しが遅れますね。では、失礼します!

 

 

...バサッ!

 

 

 文はキャスケット帽を被り直し、隠形術で隠した翼をはためかせて飛び立つのを見送る。

 

 

「...あぁ、百年振りの日常だな」

 

 

 そう呟いて玄関に向かう。

 

―――百年前なら当たり前だった事が、百年という長い年月の空白を経てありがたいものに感じられた。

 

 


 

 

~牙門邸 居間~

 

side-妹紅

 

 

―――『牙門邸』の特徴は何かと聞かれれば、私は庭だと答える。日本庭園と洋風の庭の両方の要素をいい感じに組み合わせた、四季折々で風景が変わるのが特徴だ。庭には広い草地が敷かれていて、遊び場だったりちょっとした宴会場だったりに利用出来る。

 

 そんな庭が出来たのはこの邸が()()()()()()()を受けた時だ。一回目では影政が寝泊まりしか出来ない小屋で生活し始めたのを慧音が見かねてマトモな一人暮らしが出来る家に増改築した。

 けど、私のように暇さえあれば訪ねて来ては駄弁ったり飲んだりする連中が増え、そういう時に手狭だと影政は当時思っていたらしい。その意を汲んで、私達は影政が遠出している間に二度目の改装を行った。それが現在の邸の姿だ。二回の改装のどちらでも、改装後の様変わりした家を見た影政は困惑していたけど、なんだかんだ受け入れてくれた。

 

 

―――『だから、その花壇は庭園の景観を損ねると言っておろうが!』

―――『そっちこそ、そんなお庭じゃ寂しいじゃない!もっと彩りが必要よ!』

 

 

 二回目の家の増改築ついでに庭を作ると決まった時、先代()()()()()()()()()()()()()が口論しながらもなんだかんだいい感じに調和した庭を作り上げたのを思い出した。目指す形が互いに違うのによく合わせたなと思う。

 

 

―――何故庭が出来た経緯を思い出したのか。それは、その庭で遊んでいる連中を眺めていたからだ。

 

 

<おりゃー!チルノスペシャルー!

<ふん、こんなボーr冷たッ?!

<へっへー!ボールを落としたからアウトだぞ!

<異議あり!チルノあなた、能力でボールを凍らせたでしょ!

<"のーりょく使うな"って言われてないから問題ないでしょ?!

<...カニンさん、審判としてはどうなのかしら?

<確かにルール(Regel)で定めていませんが...能力を使うと楽しく遊べないと思いますよ?

<むむ...楽しめないのはダメだな。分かった、のーりょくは使わない!

 

 

「...相変わらず、妖精共は楽しそうだな」

「百年振りにお気に入りの遊び場で遊べるようになったんだ。喜びもするさ」

 

 

 晩夏の日が南天に昇り始めた午前。庭で遊ぶ妖精と妖怪達―――『霧の湖』を縄張りにするチルノと大妖精と、『博麗神社』の敷地を囲う林にある大きな樹に住む『光の三妖精』と纏めて呼ばれている、『サニーミルク』、『スターサファイア』、『ルナチャイルド』の妖精三匹。そして今日は読み聞かせも鍛冶修行も無いらしい小傘達のボール遊び(最近来た()()()が広めた"ドッジボール"なるものらしい)を慧音と二人して眺めている。

 

 

―――影政は殺生を好まない。()()()()()()()()性質で()()()()()()()()()()()()()()()妖精すら気絶させる程度で済ませ、妖怪と戦う時でも気絶か戦意喪失を優先するのが影政だ。それでも殺す時は殺すけど、その選定眼はしっかりしている。歴代『博麗の巫女』含め、大半の力ある妖怪が()()()()スタンスだったのと比べると大違いだ。

 

 そのやり方のせいかおかげか、影政は子供のような精神を持つ妖精や妖怪からよく懐かれている。遊び場を提供して、しかも影政お手製の菓子まで振る舞われる。考え無しに好き放題いたずらを仕掛けるチルノですら、"影政はあたいの友達だ"といたずらを仕掛けようとはしない(影政が誰かと同行している場合は、その誰かを狙ったいたずらに巻き込まれるらしいけど)。

 

―――影政が眠っていた百年間は懐いている妖精や妖怪達も来ず(チルノはある理由で偶に来ていたけど)、どこか味気ない雰囲気があったけど、こうして庭で楽しげに遊んでいる光景を見ていると日常が戻って来たと実感する。

 

 

「...よし、できたぞ」

「おー、影政ありがとー。()()()()()()()()がなくなったのだー」

 

 

 影政はルーミアの髪に付いたリボンを結び終え、ルーミアは見た目相応の幼い笑顔で嬉しそうに礼を言う。

 

―――今でこそ幼い見た目だけど、嘗てはもっと大人びた少女の見た目で、大妖怪に匹敵する力を持った人食い妖怪だった。()()も今より十全に扱えて、度々人間を襲って食っていた。けど、ある出逢いが切っ掛けで()()()()()()()()()()()()。存在意義を喪いかけた結果、本能が暴走して()()を起こした。全体の犠牲は少なかったけど、大きな犠牲―――当時の『博麗の巫女』の命を代償に()()出来た。

 ()()()()後、ルーミアは()()()()で殺されず()()―――髪を飾る赤いリボンを付けられた。その結果が今の姿だ。()()を含めた記憶の大半、()()の一部を封印され、その影響か見た目と精神まで幼くなった。今は積極的に人間を食う事は無く(それでも存在意義の維持の為に『無縁塚』で偶に食っているという)、影政が作る料理や菓子ですっかり懐いている。

 

 

「ほら、庭に言って遊んでこい。ついでに、これを皆に配ってやれ。独り占めはするなよ」

「わーい、飴玉なのだー!」

 

 

 影政はルーミアに色とりどりの飴が入った小瓶を渡し、庭に送り出す。ルーミアは満面の笑みを浮かべてフワフワと庭に飛んでいく。

 

 

「...あの飴、昨日作ったのか?」

「あぁ。そこまで酔いの影響はなかったし、百年のブランクを確かめたかったのでな。氷室が維持されていたのは幸いだった」

 

 

 真夏の『牙門邸』での大人気スポットが、台所から地下に降りた所に掘られた氷室だ。これのおかげで生の食材や腐り()が早い料理の長期保存が出来て、尚且つ避暑には最高な場所になっている。

 

 氷室の設置はチルノと仲がいい影政だからこそ出来る芸当で、百年の間も偶にチルノが氷室の氷の維持を行っていた。"この氷の部屋を溶かさないようにすれば、影政も喜ぶでしょ!あたいったら天才ね!"と息巻いていたのは今でも思い出せる。バカではあるけど、その分感覚が鋭いんだろう。

 

―――閑話休題。

 

 

「流石影政、菓子の腕は相変わらずだな。この煎餅も緑茶によく合う」

 

 

 慧音は卓袱台の真ん中の皿に積まれた、十数枚の影政お手製の醬油煎餅から一枚摘まみながら一口齧る。

 

―――影政が作る菓子は和洋問わず種類豊富だ。自炊の為に料理のレパートリーを増やすついでに作り始めたらしいけど、ついでとは思えない美味さだ。相手に合わせたものを振る舞う選定眼も確かなもので、私達には茶に合う煎餅を、妖精達や幼い妖怪達相手には甘い飴を出したりと喜ぶものを分かっている。このお手製の菓子も精神が幼い妖精や妖怪達に懐かれる大きな要因だろう。

 

 

「口に合ったようでよかった。やはり、そうして喜ばれると作り甲斐がある」

 

 

 影政は嬉しそうに口角を上げ、湯吞の茶を啜る。

 

 

<私も混ざるよー

<あれ?ルーミアが加わるとチーム人数合わないわね

<...カニンさんに加わってもらうとか、どうかな...?

<ですが、それでは審判(Schiedsrichter)が居なくなりますね...

 

 

「...あの子達の所に行ってくるよ。恐らく人数が合わないだろう」

「あぁ、分かった」

 

 

 慧音はドッジボールを止めて話し合っている妖精や妖怪達の様子を見ていたけど、そう言って庭に向かう。私達は止めることなく彼女を見送る。

 

 

<やはりルーミアが加わると奇数になるな。ここは私が審判になろう

<慧音さん...よろしいのですか?

<里の子供達の間でもそのボール遊びは最近流行っているからな。審判役には多少心得がある

<じゃあそうしよっか。これで四人チームが組めるよ!

 

 

「...そう言えば、カニンに贈り物をあげるんだってな?」

「あぁ、朝に聞いた。...『妖怪の山』でやるべき事が増えた」

 

 

 慧音が審判役になって再開したドッジボールを眺めながら尋ねると、影政はそう答えた。牙門邸(ここ)を訪ねた時、私達を出迎えた彼女と少し話した時に"主様(影政)からGeschenk(贈り物)をいただけることになりました"と嬉しそうに言っていたのが気になっていた。どうやらカニンが欲しいものは『妖怪の山』でなければ出来ないものらしい。

 

 

「贈り物か...彼女からしたら、影政が戻って来ただけでも十分過ぎると思うけど?」

「カニンもそう言っていたが、それだけだと俺が満足できなくてな。形ある贈り物もあればと考えたんだ」

 

 

 私の問いに影政は実にらしい答えを返す。相変わらず律儀な性格だけど、そこがいい所でもある。

 

 

「影政らしいな。...で、山に行く必要がある贈り物ってどんなものなんだ?カニンは秘密だって言ってたけど」

「...俺も明かすつもりはない。ただ、()()()()()()ものだとは言っておく」

 

 

 カニンは言わなくても、影政(友人)ならと思って聞いてみるも駄目だった。一体どんなものを贈るつもりなんだろうか。

 

 

「影政に聞いてもダメか...なら仕方ない。その時を楽しみにしてるよ。...で、話は変わるんだけどさ」

 

 

 影政がカニンに贈る物については引き下がる。私はここに来てから考えていた事を切り出した。

 

 

「...牙門邸(ここ)で軽く飲み、やらない?『紅霧異変』解決後の宴会で飲んだ後だけど、やっぱり私は牙門邸(ここ)で駄弁りながらちびちびやるのが好きなんだなって実感したんだ」

 

 

―――私は牙門邸(ここ)で主に慧音と、偶に知り合いを二、三人集めて影政の手料理や肴で飲むのが好きだ。影政が居ない百年間は、慧音と屋台や『鯨呑亭』とかの居酒屋で飲んだりしたけどどうにも味気無かった。

 百年は()()()()の私からすれば短い方だ。でも、私の舌は百年も影政の手料理と肴を待てなかったようだった。私もすっかり影政の手料理の虜なんだと自覚して苦笑する。

 

 

「...以前と同じように、足りない食材の買い出し、準備の手伝いに加わるならいいぞ。宅飲みなんて牙門邸(ウチ)じゃよくある事だったしな。...それに、百年振りだ。やるなら腕によりをかけよう」

よっし!じゃ、やる方向で決まりで。私は鳥を絞めるついでに『迷いの竹林』産の筍も持ってくるよ」

「あぁ、それはありがたいな。百年振りなら飽きた味も美味く感じられるだろう」

 

 

 私の自宅...というよりは庵と言うべき家は、『迷いの竹林』の外縁にくっ付きつつある(後数年で独立性は無くなって『迷いの竹林』の一部と化すだろう)、(できもの)みたいな小さな竹林の中にある。迷いの竹林(お隣さん)での筍掘りや、飛んでくる野鳥を狩って絞めたり、竹林の傍を流れる川で魚も釣れる、一人暮らしに向いた立地だ。

 

 そして我が家のお隣さんの『迷いの竹林』はその名の通り、入った者を迷わせる広大な竹林だ。霧や犇めく竹で方向感覚が狂い、しかも竹の成長がかなり速く一日経てば竹林の構造が様変わりしてしまう。

 『人里』がマトモに里としてやっていけるようになった時から住み始めたけど、未だに『迷いの竹林』の踏破は成せていない。竹林の主である()()()の方がよっぽど詳しいけど、あの兎には出来るだけ頼りたくない。

 

 そんな竹の迷宮に誘惑させるのが、『迷いの竹林』産の筍だ。私からすれば慣れた味だけど、里の住人からは入手しにくい高級品と見られている。長く暮らしている私ですら迷うのに、普通の人間が入ろうものならすぐに迷って最悪野垂れ死にだ。私が竹林の傍に庵を構えたのも、竹林踏破なんて挑戦(馬鹿な事)に挑む連中の足止めと、頼まれた時の外縁の案内(少しだけ入った外縁で筍はたっぷり掘れる)をする為だ。自発的にやり始めた事だけど、慧音から大いに感謝されて"竹林の見張り人"として里では名が知れている。

 

―――閑話休題。

 

 

「あぁ、今から楽しみだなぁ。出来れば慧音と影政とだけで飲みたいけど...」

「...厳しいだろう。()()()()()()()()()()()便()()()()()()が居るからな」

 

 

 私の願望に、影政は仕方ないと苦笑して答える。こうして影政と二人で話して決めて動いても、()()()()()()()()()()()のが牙門邸(ここ)での飲みの常だ。

 十中八九、()()()()()()()()()()()が来る。知り合いだったり、知り合いが連れてくる初見さんだったりと規則性はない。新しい出逢いがあったりするけど、本来の目的である"友人三人でちびちびやる"事が出来た回数は十指に満たない。

 

 

「まぁ、百年振りに牙門邸(ここ)で飲めるなら構わないよ。今回は誰が聞きつけて来るやら...」

 

 

 私はそう呟きながら煎餅を齧った。

 

 

<...そこです(Dort)

<避けrぎゃん?!

<サニーミルク、アウト。赤チームの勝ち!

<やっぱりカニンさん強すぎる...百発百中だわ

<これじゃ試合になんないぞー!ちーたーだ!

 

 

―――尚、ドッジボールはカニンが加わったチームが圧勝だった。()()無しでも飛び道具を当てる技能は流石だった。

 

 

 


 

 

side-影政

 

 

―――スタッ

 

「よっ、影政!酒が飲めると聞いて来たぜ!」

 

 

 夕陽が沈み、夜空が夕焼け空を追いやり始めた頃。居間に出来上がった鶏の唐揚げを盛った大皿を運んでくると、開け放った縁側から見える庭に魔理沙が箒で降り立つのが丁度見えた。箒から降りた魔理沙は瞳をキラキラさせて此方に歩いてくる。

 

 

「入るなら玄関からだ、魔理沙。それから、牙門邸(ウチ)で飲みに加わるならまず準備の手伝い、可能なら後片付けも手伝ってもらうぞ」

 

 

 縁側から居間に上がろうとする魔理沙を止め、我が家での飲みにおける決まり事を説明する。―――妹紅の懸念は案の定的中したが、よくある事だから気にはならない。

 

 

「あぁ、その位は構わないぜ。じゃ、お邪魔するぜー。箒は玄関でいいか?」

「あぁ、そこで構わない」

 

 

 魔理沙は鷹揚に頷き、玄関に回る。

 

 

「おぉ、外観通り広い家だな。じゃ、手伝ってくるぜー」

 

 

 居間に入ってきた魔理沙は興味津々といった様子で居間を見回し、そう言って台所に向かう。

 

 

<よぉ、お前ら。私も酒飲みに来たぞー

<あやや、魔理沙さんじゃないですか。何所から聞きつけました?

<妹紅が妙に嬉しそうだったから聞いてみたら、ここで飲みやるって言ったんだ

<...妹紅、自分からバラしたのか

<し、仕方ないだろ!やるって決まって本当に嬉しかったんだから!

<午前中、私達が休憩で居間に来た時から凄くウキウキしてたよねー

 

 

 台所に向かった魔理沙と、今回の飲みの参加者―――妹紅、慧音、文、小傘の会話が聞こえてくる(無論カニンは給仕も兼ねて参加する)。どうやら妹紅が自分からバラしてしまったようだ。らしくもなく気を抜くとは、余程今回の飲みが嬉しいようだ。

 因みに、文は飲みの準備を始めてすぐに"逃せない匂いを感じました!宅飲みとは百年振りですねぇ"とやって来た。小傘は偶然俺と妹紅の会話を聞いていたようで、帰る前に参加を打診して来た。師匠(宗二)が許すなら構わないと言って一度帰したが、午後の半ばに戻って来た。宗二は『紅魔館』での宴会の酔いが未だ醒めず参加を見送ったらしい。

 

 

「多めに作って正解だったな。これから参加者が増えないで、余ったら欲しい奴に持たせるか」

 

 

 大皿の唐揚げを見ながらそう考え、台所に戻る。後は料理と食器類を並べるだけだ、魔理沙も加わればすぐだろう。

 

 

 


 

 

side-慧音

 

「...んー!筍のお刺身、美味しいね!」

「里じゃ滅多にお目にかかれない『迷いの竹林』産だからな。私的には慣れた味だけど」

 

「唐揚げも美味しいですねぇ。あ、魔理沙さんレモン汁掛けます?」

「私は掛けない派だぜ。...けどいいのか?(同族)の肉だろこの唐揚げ」

「ほぅ、魔理沙さんは掛けない派ですか...というか、天狗とその辺の鳥を一緒にしないで欲しいですね。確かに鴉の要素はありますが、似て非なるものなんですよ!」

「ほーそうかそうか。じゃあ食べ比べでもするか。文、どの部位が美味い?」

「そうですねぇ、腿なんk私は唐揚げになりませんよ?!

 

 

 

―――百年振りの『牙門邸』での飲みが始まって三十分が過ぎた。皆他愛もない会話を交わしながら、影政の手料理や肴を酒と共に味わっている。そんな光景を眺めていると、百年振りに日常が戻ってきたと感じられる。妹紅程ではないが、私もこの風景を眺める時を待ちわびていようだ。

 

 

「...慧音さん、どうかしましたか?」

「...いや、皆楽しそうだと思ってな」

 

 

 カニンにそう答えながら、焼き茄子を頬張る。醬油と生姜がよく合っている。

 

 

「...こうして影政の手料理を食べるのも百年振りだな。相変わらず、そして久しぶりなせいかより美味しく感じる」

「口に合ったようでなによりだ。百年振りで腕によりをかけた甲斐があった」

 

 

 影政は嬉しそうに口角を上げる。

 

 

「妹紅が"一度食べてみろ"って言ってたが、なるほどこいつは嵌まりそうな美味さだ。私も料理はできるが、こりゃ自信無くしそうだぜ...」

「そう自分を卑下するな。料理は最終的に"相手に美味いと思ってもらいたい"という思いを籠めることに尽きる、と俺は思う」

「魔理沙さんは努力の天才ですからね。料理も魔法と同じ、数を熟しての研鑽ですよ」

 

 

 魔理沙が眉を下げるが、影政と文が自信を持てとフォローする。文の言う通り、魔理沙は人間でありながら魔法使いとしての高みを目指して努力している。それで天賦の才を持つ霊夢に追いすがれるのだから相当な努力家だ。

 

 

「...確かに、そうだな。毎日ずっとやってきたから、レパートリーも増えたしな。なら、これからも努力して影政の料理を超えてやるぜ!」

「その時を楽しみにしておこう」

 

 

 自信を取り戻した魔理沙は影政に料理の腕を超える宣言をする。

 

 

「...まぁ、それはそれとして。これからも牙門邸(ここ)にちょいちょい顔を出す理由ができたな。宴会でパーッと飲み騒ぐのもいいが、偶にはこうやって肴と酒を味わうのもいいな」

「あやや、魔理沙さんも分かりますか。新しい飲み仲間が増えましたねぇ」

「私も偶に来てみよっかなー。師匠が"一度行けばハマる"って言ってた意味が分かったよ」

 

 

 魔理沙と小傘が牙門邸(ここ)での飲み仲間に加わり様だ。

 

 

「...また便乗参加の可能性が増えたけど、歓迎するよ。飲み仲間が増えるのはいいことだ」

「今回の魔理沙さんに限っては、妹紅さんの自爆でしょう?」

「そ、それは...本当に嬉しかったんだから仕方ないだろ」

 

 

 ニヤニヤ笑う文の指摘に妹紅は恥ずかしさを誤魔化すようにグラスの酒を飲み干す。

 

 

「久しぶりで嬉しいことも、飲み仲間が増えたことも、俺にとっては料理の作り甲斐が増えるものだ。...そうだ、魔理沙。作って欲しいものがあるなら、飲む時に食材を持って来たら作ろう」

「お、マジか!これからが楽しみだぜ」

 

 

 影政の言葉に魔理沙は嬉しそうに瞳を輝かせる。食材を持ち込むという条件はあるが、気にっている料理があれば影政は注文に応えてくれる。牙門邸(ここ)での飲む際の楽しみの一つだ。影政の献立に任せるのもいいが、偶に気に入った料理を指定して作ってもらうのもいいものだ。

 

 

「...さて、まだ料理とお酒はあります。ゆっくり味わいましょう」

「お、そうだな。ついでの肴になりそうな、何か面白い話とか無いか?」

「そうだな...じゃあ、牙門邸(この家)の庭を造った二人の話でもするか」

「遊べる位広いし、綺麗なお庭だよね。そのお話気になる!」

「よし分かった。まず、発端は――」

 

 

 飲みはまだ続く。百年振りに、新たな飲み仲間を迎え入れた日常の一部は、本当に楽しいものだった。

 

 

―――百年振りに、私達の日常が戻って来たと改めて実感出来た。

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 





自宅での日常、後編に続く!
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