東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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自宅での日常、後編です。

"なんでこの絡みを書いていなかった自分"...的な回その①です



幻想閑話-1-2~再会を肴に~

~牙門邸 居間~

 

side-影政

 

「ふぅ...湯が良かったおかげか少し酔いも醒めましたね。では、私は先に寝ます。影政さんも、明(・)日(・)の(・)こ(・)と(・)があるんですから早めに寝てくださいよ。では、おやすみなさい」

「あぁ、分かっている。おやすみ、文」

「布団は既に敷いてあります。ごゆっくり、おやすみください」

 

 

 風呂から上がってきた文と就寝前の挨拶を交わし、彼女があてがわれた部屋に向かうのを見送る。

 

 

―――『...成程。でしたら、飲みが終わったら牙門邸(ここ)に泊まっても大丈夫ですかね?せっかくです、明日は私が山までエスコートしますよ』

 

―――午後の準備中の世間話の中で明日の用事を尋ねられ、挨拶回りを再開して『妖怪の山』に向かうと答えたら文が我が家に泊まりたいと頼んできた。

 我が家には俺とカニンそれぞれで自室としている部屋の他に空き部屋が三つあり、それらは今回の様な飲みで酔い潰れて帰れない者や、何かしらの用事で泊まりたい者の為に解放している。今回文は後者で利用している訳だ。

 

―――閑話休題。

 

 

「...『妖怪の山』は吸血鬼異変(百年前の異変)で、最も凄惨な戦場だったと聞いています」

「あぁ。――山(・)の(・)住(・)人(・)の(・)八(・)割(・)以(・)上(・)が(・)叛(・)乱(・)を(・)起(・)こ(・)し(・)た(・)。俺が駆け付けた時点で、山全体が地獄の様な有様だった」

 

 

―――あの時の光景はハッキリと思い出せる。天狗や河童、山の住人同士で争い、剣戟の音や爆発音、阿鼻叫喚が山中に響き渡っていた。賢(・)者(・)達(・)によって行われた妖(・)怪(・)の(・)活(・)動(・)抑(・)制(・)の影響を最も受けていたのが『妖怪の山』だった。

 

―――『...叛乱側が混乱し始めたな』

―――『彼(・)女(・)の(・)密(・)告(・)は事実だったか。――この機を逃さず決めるぞ』

 

 あの光景を目の当たりにした時、俺一人が加勢した所であの状況を好転させられるのかと不安になったが、山に住む天(・)狗(・)の(・)親(・)友(・)や、山を護らんとした住人達の力もあって叛乱を鎮圧する事が出来た。

 

―――その足で俺は、急に動き出した吸血鬼(異変の首謀者)との決戦に臨み、今に至った訳だが。

 

 

「...文さんをはじめ、『妖怪の山』の方々も主様がずっと目覚めないままで不安だったそうです。主様が山に入れば、きっと大騒ぎになるでしょう」

「...流石に"天魔"が混乱を招かないように統制しているだろう。だが、俺が長らく目覚めなかったことで迷惑を掛けたのは事実だ。喜びも怒りも、しっかり受け止めるつもりだ」

 

 

 カニンの言葉にそう答え、戸締り前の開け放たれた縁側から見える夜空に目を向ける。月に微かに掛かる薄く細い雲の情景は風情があるが―――

 

 

「...そろそろ縁側も閉めますね。文さんが言った通り、明日は忙しく――」

「――そうしたい所だが、少し待ってくれ」

「――主様?」

 

 

 カニンの言葉を遮り、夜空を見据え―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――今になって気(・)配(・)を(・)漏(・)ら(・)す(・)とは。眺(・)め(・)て(・)い(・)る(・)だ(・)け(・)で(・)は(・)我(・)慢(・)で(・)き(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)ようだな――『萃香』」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――サァァ...

 

 

「――そりゃそうだろ。ようやっと目覚めた大の親友が、楽しく飲んでたのを見てりゃ私じゃなくとも我慢できなかったろうさ。――態々私が見てたのを看破して呼び付けたってことは、付き合ってくれるんだな?」

 

 

 縁側から漂う様に霧(・)が居間に流れ込み―――霧(・)は赤い大きなリボンを飾り、先端で纏めた長い薄茶色の髪。両側頭部から伸びる一対のねじれ角。袖無しの白いシャツと紫色のロングスカートを纏い、腰のベルトから三角錐、球、立方体の分銅を吊るす小柄な"鬼"―――嘗て『妖怪の山』の鬼(・)の(・)四(・)天(・)王(・)と恐れられ、俺と紫の親友でもある『伊吹(いぶき)萃香(すいか)』の姿を形取り、彼女は俺の向かい側にドッカリと胡坐をかいて深紅の瞳を嬉しそうに輝かせ、右手に提げていた紫色の瓢箪―――酒虫の力で無限に酒を生み出す鬼の宝具『伊吹瓢(いぶきひょう)』を掲げてニカッと笑みを浮かべた。

 

 


 

side-萃香

 

 

―――私達"鬼"は人間を、特に持てる力を全て使って挑む人間を好んでいた。鬼(私達)より遥かに非力な癖に時には思わぬ力を発揮する姿が、勝負事を好む種族特有の性分的に実に好ましいものだった。そんな人間達に勝負を持ち掛けるべく、鬼(私達)は"鬼の人攫い"を敢行した。適当な人間を見繕って根城へ攫い、そいつの返還の是非を賭けて救出に来た人間との真剣勝負を楽しんで来た。

 

―――でも、鬼(私達)としては充分手加減していたつ(・)も(・)り(・)だった勝負は、それでも人間からするとかなり分が悪いものだったらしい。力で勝てないと判断した人間は知(・)略(・)を(・)絞(・)り(・)始(・)め(・)た(・)。

 一対一の勝負を持ち掛けられて誘われたら数十人に袋叩きにされたり、勝負に集中し過ぎて根城から離れてしまった隙を突かれて攫った人間を取り返されたり...人間は力(・)を(・)使(・)っ(・)た(・)勝(・)負(・)を挑まなくなっていった。

 人間の戦い方が変わっていくに連れ、鬼(私達)の中で人(・)間(・)へ(・)の(・)幻(・)滅(・)が広がり、鬼(私達)が持つ力の発散が出来なくなって行った。

 

―――そしてある時、腹いせの様な形で"天狗"が支配していた『妖怪の山』に攻め込み、天狗共を下して支配者として君臨した。私は鬼(同胞)の中でもとりわけ仲が良かった三人と共に『鬼の四天王』として頂点に君臨し、力(・)で以て階級社会を築き上げた。

 

―――"天狗"は人間より遥かに強かったが、それを下した時には嘗ての人(・)間(・)と(・)の(・)真(・)剣(・)勝(・)負(・)の時のような快感は無かった。実務は天狗共に任せ、私達は適当に命令を下しつつ、嘗ての人(・)間(・)と(・)の(・)真(・)剣(・)勝(・)負(・)を懐かしみながらやけ酒を呷る日々を送っていた。

 

 

 

 

―――『"鬼"がこんなに...厳(・)佐(・)さんは"鬼は殆ど見なくなった"って言っていたけど、この山に集まっていたのね』

―――『そのようだな。...まず、この山に侵入したことを謝ろう。この山は妖怪ばかりが棲む山という噂を聞いて、俺達はあ(・)る(・)目(・)的(・)の為にこの山を訪ねた。どうか俺達の目(・)的(・)を聞いてくれないだろうか』

―――『ほぅ、目(・)的(・)か。...あぁ、聞いてやってもいいが、その前に――』

 

 

―――そんな時だった。紫(妖怪)を連れた人(・)間(・)が―――影政が山に侵入したのは。堂々とした姿で、鬼(圧倒的存在)を前にしても一切萎縮しない姿に、私達は真剣勝負に応えた人間(嘗て好んだ人間達)を思い出し―――我慢出来ず勝(・)負(・)を(・)吹(・)っ(・)掛(・)け(・)た(・)。

 

 

―――『その力、神力かい?人間がそんな力を使うなんて――面白い!!コイツは本(・)気(・)で応えないとね!!』

―――『...久しぶりね。こんなにも心が昂るなんて...いいわ、"奸佞邪智の鬼"の力、見せてやろう!!』

―――『――面白(おもしれ)ェ!!まだお前(めェ)みてェな人間が居たなんてな!!世の中捨てたモンじゃねェ、なッ!!』

 

 

―――あの時の勝負は、お互い一(・)切(・)手(・)加(・)減(・)無(・)し(・)の文字通り真(・)剣(・)勝(・)負(・)だった。あの時の心の昂ぶりは生涯で最高だった。"もう人間は真(・)剣(・)勝(・)負(・)に応えてくれない"―――そんな諦めかけていた心に、影政は大きな火を灯してくれた。

 

 

―――『いやァ参った参った!久方振りの真(・)剣(・)勝(・)負(・)だったとは言え、まさか俺らが負けるとはなァ!――いいぜ、お前(めェ)らの目(・)的(・)とやら、詳しく聞かせてくれや』

―――『...鬼に勝つなんて、貴方本当に人(・)間(・)?』

 

 生涯最高の真剣勝負は三日三晩続き、勝ったのは影政だった。影政が勝ったのを目の当たりにした紫が、困惑した表情(かお)で影政を見ていたのはハッキリ思い出せる。

 私達は負けたけど、それでも気分は晴れやかだった。―――そして、私達は影政と紫が実現しようとしていた夢(人間と妖怪が共存する理想郷)に協力する事を決め、そして友情を結んだ。友から親友になるのにはそれ程時間は掛からなかった。

 

 

―――『...本当に、山(・)を(・)降(・)り(・)る(・)のか?やっと幻想郷(人間と妖怪が共存する理想郷)ができたってのに...』

―――『おぅ、そうだ。山の連中はどいつもこいつも鬼(俺ら)を恐れて萎縮しっぱなしだ。...その抑圧の捌け口が、嫌(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)連(・)中(・)への迫害や攻撃だ。鬼(俺ら)のせいでそんな構図が出来上がっちまったなら、鬼(俺ら)が責任を取ら(ケジメを付け)にゃァな』

 

 

―――幻想郷(人間と妖怪が共存する理想郷)が実現して間も無く、ア(・)イ(・)ツ(・)の決意で鬼(私達)が山(・)で(・)嫌(・)わ(・)れ(・)て(・)い(・)た(・)妖(・)怪(・)共を連れて『地底』へ移住してからも、影政は度々『地底』に降りて来ては私達と呑んだり、偶に喧嘩に付き合ってくれたりしてくれた。

 地理的に隔絶されてもずっと、私達との友情を絶たないでいてくれる影政を、私は益々好ましく思う様になっていた。

 

 

―――『...紫、噓はやめてくれよ。影(・)政(・)が(・)人(・)間(・)じ(・)ゃ(・)な(・)く(・)な(・)っ(・)た(・)?...アイツが、"鬼"を下せる程に強いアイツが、そんなことになる訳が――』

―――『――私だって、噓だと思いたかったわ。でも、こ(・)れ(・)は(・)事(・)実(・)よ。"鬼"である貴女ならそれが――』

 

―――だからこそ。吸血鬼異変(百年前の異変)が終息した後、影政が戦(・)神(・)に(・)な(・)っ(・)た(・)と聞いた時は信じられなかった。この時程、嘘(・)を(・)見(・)抜(・)く(・)"鬼"の特性を恨めしく思った事は無かった。影政を妖怪(人ならざるもの)に変えた異変の首謀者(吸血鬼)が生きていたら、この手で縊り殺してやりたかった。

 

―――そんな怒りで腸が煮えくり返る一方で、影政が、親友が少(・)な(・)く(・)と(・)も(・)死(・)に(・)は(・)し(・)な(・)い(・)事に大いに安心してもいた。

 

―――そして今、目の前には百年の(長過ぎる)眠りから目覚めた親友が居る。当代『博麗の巫女』が就任した年に『地底』から出て来て凡そ六年。あ(・)い(・)つ(・)ら(・)より一足先に再会の喜びを享受出来る。だが、その喜びと同時に―――

 

 

「...こうして改めて面と向かうと、嫌でも解るね。――本当に、戦(・)神(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)に(・)な(・)っ(・)ち(・)ま(・)っ(・)た(・)ん(・)だ(・)な(・)、影政」

 

 

 影政の紅(・)い(・)瞳(・)を見つめながら『伊吹瓢』の酒を影政のグラスに注ぎ、改めて残(・)酷(・)な(・)現(・)実(・)を――影(・)政(・)本(・)人(・)か(・)ら(・)静(・)か(・)に(・)放(・)た(・)れ(・)る(・)神(・)力(・)を実感してため息を吐く。

 

 

「萃香に――お前達"鬼"にとって、戦神になったこと(俺の変化)は業腹ものだろう。――だが、俺はそれを受け止めている。いつかはこうなるだろうと覚悟していたし、何より――これからも幻想郷を、実(・)現(・)し(・)た(・)紫(・)の(・)夢(・)を護っていけることが嬉しいんだ」

「――そう、か」

 

 

 私の内心に反して、影政は既に己の変化(現実)を受け止めて前を向いていた。揺るがない決意を宿した瞳を見つめていると―――影政(大の親友)が妖怪(人ならざるもの)になってしまった未練をウジウジと引き摺っている自分がバカらしくなってくる。

 

―――親友が前を向いているんだ。私も前を向かないでどうする。未練を飲み込む様に『伊吹瓢』の酒を一気に呷る。

 

 

「...ぷはっ...影政。私達はこれからも、ずっと親友だよな?」

「当たり前だろう。どれだけお前達と付き合って来たと思っている?――今更断てる訳がない」

「――その言葉が聞けて安心したよ。でも、約束してくれ。――"一人で先走る(あの決戦みたいなこと)はもう止めてくれ。同じく幻想郷を想うなら――親友なら、肩を並べて歩かせておくれよ」

 

 

 影政の瞳を見据え、『伊吹瓢』を置いて右手を差し伸べる。

 

 恐らく―――いや、間違いなく紫(もう一人の親友)や影政の傍に控える従者の兎(カニン)...影政が繋がりを持つ奴らは皆、今までた(・)っ(・)た(・)一(・)人(・)で(・)前(・)を(・)歩(・)き(・)続(・)け(・)た(・)影政の背を見ていてもどかしく、不安だっただろう。

 吸血鬼異変(百年前の異変)の影(・)政(・)の(・)孤(・)独(・)な(・)決(・)戦(・)では、その心配が影政の戦神化(最悪な形)で的中してしまった。

 

―――もう、そんな不安の的中は味わいたくない。親友なら、仲間なら―――肩を並べて歩いて行きたい。それが私の...私達の切なる願いだ。

 

 

「――あぁ、約束しよう。改めて、よろしく頼む――我が親友(とも)よ」

「鬼(・)と(・)の(・)約(・)束(・)だ。――守らなかったら許さないからな」

 

 

 影政が差し伸べた右手を握る。――あぁ、男らしい大きく力強く、不思議と優しい温もりも感じる懐かしい感覚だ。――本当に、影政が戻って来たんだ。

 

 


 

side-影政

 

 

「...しかし、いつ幻想郷(地上)に戻って来たんだ?約(・)定(・)が無くなった訳じゃないだろう」

「当代『博麗の巫女』...確か霊夢、だったか?ソイツが就任した年に出て来たんだ。...恥ずかしい話だけど、どうしても幻想郷(地上)が恋しくなってね。巫女就任の報告に来た紫と話して約(・)定(・)の(・)例(・)外(・)入りを許してもらったのさ」

 

 

 空になったグラスに酒を注がれながら萃香が幻想郷(地上)に居る理由を尋ねると、そんな答えが返って来る。

 

―――『地上と地底の相互不可侵』。萃香達"鬼"が山(・)の(・)嫌(・)わ(・)れ(・)者(・)達(・)を連れて『地底』に移住する際に定められた約(・)定(・)。"鬼"含め、『妖怪の山』に住んでいた妖怪達には強力な力を持つ者が多く、幻想郷のあちらこちらに拡散して移住し、パワーバランスが変わってしまうことを防ぐ為に移住者達が『地底』から出ない様に、また一方で幻想郷(地上)の住人...特に妖怪が『地底』に入って混乱を齎す事を防ぐ為に相互不可侵が結ばれている。

 賢(・)者(・)や『地底』の住人と深い交友関係を築いている俺を含め、約(・)定(・)の(・)例(・)外(・)とされている者も居るが、萃香はその例外に加わった様だ。だが―――

 

 

「――紫がよく許したな?人間と妖怪のパワーバランスを考えれば、鬼一人が幻想郷(地上)に戻って来るだけでも大きな影響が出ると思うんだが」

「私が話を切り出した時は良い顔をしなかったね。でも、少し考え込んだ後にあっさり許してくれて拍子抜けしたよ。――幻想郷(地上)に出て、鬼(・)の(・)存(・)在(・)が(・)殆(・)ど(・)忘(・)れ(・)ら(・)れ(・)て(・)い(・)る(・)ことを知って、あっさり許した理由を察したけどね。...人間が"鬼"を、最も密接で脅威で在り続けた存在を知らないなんてショックだったよ」

「...鬼(萃香)達は幻想郷創造からすぐに『地底』へ移住してしまったからな。――創造から六百年、鬼が実際に居ないとなれば口伝も風化して忘れられてしまうか」

 

 

 萃香は俺の疑問にそう答えて『伊吹瓢』の酒を呷る。

 

―――"鬼"含め、妖怪にとって存(・)在(・)意(・)義(・)は重要だ。"鬼"は"人攫い"を行い、人(・)間(・)か(・)ら(・)の(・)畏(・)れ(・)を糧として存(・)在(・)意(・)義(・)を維持していた。

 しかし、人間の変化に幻滅して関わりが薄くなり、尚且つ『地底』への移住によって人間との関わりが完全に断たれた事で忘れられてしまったのだろう。他の妖怪が認知している為、鬼(・)の(・)存(・)在(・)が(・)消(・)え(・)る(・)事はまず無いだろうが、"鬼"からすれば嘗て好んでいた人間が自分達の存在を忘れている事実の方が余程ショックだろう。

 存(・)在(・)意(・)義(・)の弱化はそのまま妖怪の弱化に繋がる。嘗ての様に"人間に畏れられた"時と比べて大幅に(それでも妖怪の上位に君臨する程に強大だが)弱化していたから、紫は萃香の願いを聞き入れたのだろう。―――無論、永い付き合いがある親友からの願い、という事もあっただろうが。

 

 

「...だから、私は疎ら(霧)になって幻想郷をあっちへこっちへふらふらして、ヤケ酒を呷っていた。それにも飽きて不貞寝して、ふと目を覚ました時に――お前が目覚めていたのに気付いたんだ」

 

 

 萃香の気配―――希薄だが此方を見ている様な感覚を感じたのは飲みの準備中だった。その時は何となく知っている気配だと漠然と思っていたが、飲みが進むに連れ気配が強まり、先程萃香を呼び付けた直前に彼女だと確信した。

 

 

「...幻想郷(地上)がそういう状態だから、また『地底』に戻ろうかと考えていたら百年の(長過ぎる)眠りから目覚めたお前が居た。――戦神(人間じゃなくなった)とは言え、大の親友が居るならこのまま幻想郷(地上)に居るつもりだよ」

「そうか。なら親友として、偶にこうして呑む位なら付き合おう。...毎日は流石に勘弁してほしいが」

「嬉しいことを言ってくれるねぇ。...でも、それより――」

 

 

 萃香は真剣な眼差しで俺を見据え―――

 

 

 

 

 

「――お前が目覚めたことを祝しての大宴会とかやらないのか?というかやるべきだろ。吸血鬼異変(百年前の異変)での影政の貢献は皆がよーく知ってる。そんな英雄が目覚めたってのに、幻想郷は普通のまま。おかしいだろ?」

「俺としてはやってもやらなくてもどちらでも構わないが...明日から各所への挨拶回りを再開するからな。仮にやるにしてもその後にしてほしいものだ」

「そんなの宴会に呼んでまとめてやればいいじゃん。宴会やって皆喜ぶし、影政も挨拶すべき連中に纏めて挨拶できるし、互いに利があるだろ?」

「確かに一理ある。あるが――」

 

 

 萃香は不満そうに頬を膨らませる。確かに萃香の言にも一理あるが、百年の(長過ぎる)眠りで多くの者に迷惑を掛けた身としては、丁寧に各所を回って挨拶と報告をすべきだろうと思っているし、何より―――

 

 

「――単にお前が宴会を楽しみたいだけだろ」

「いーじゃんいーじゃん。私は"鬼"だよ。飲み騒がないでどうするのさ」

 

 

 萃香の本音を指摘すると、開き直った様に笑って『伊吹瓢』の酒を呷る。

 

 

「...宴会をやるやらないに関わらず、俺は明日から挨拶回りだ。だが――仮に宴会となったら参加するから安心しろ」

「――言ったな?言質は取ったぞ」

 

 

 俺の言葉に萃香はニヤリと笑う。―――幻想郷に宴会は付き物だ。『紅霧異変』の時の様に異(・)変(・)解(・)決(・)の度に宴会をやるのは当たり前で、誰かが適当に理由をこじ付けて宴会を催す事もよくあった。俺自身はどちらでも構わないが、もしかしたら誰かしらが俺の目覚めを祝した宴会を催すかもしれない。その時は必ず参加しよう。俺の為に催されて当人が出ないのは失礼だしな。

 

 

「――さて、そろそろお開きだ。明日があるからな、そろそろ寝なければ」

「えー、私はまだまだ素面(シラフ)だぞ?...でも、今回はア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)より先に影政と再会できたことでよしとするか。『地底』に挨拶しに行ったら、ア(・)イ(・)ツ(・)ら(・)に私は幻想郷(地上)で上手くやってるって伝えておいてくれ」

「あぁ、確と伝えよう」

「じゃ、またなー」

 

 

―――サァァ...

 

 

 萃香は座ったまま霧(・)となり、縁側から外へと出ていく。

 

 

「...まさか萃香様が幻想郷(こちら)に来られていたとは思いませんでした。紫様は何も仰っていませんでしたし、気配すら感じ取れませんでした」

「『密と疎を操る程度の能力』。この能(・)力(・)で萃香は存在を限りなく疎らなものにできるからな。相当集中しなければ分からない。俺も、萃香が自分から気配を漏らさらなければ"何となく知っている気配"程度で流していただろう」

 

 

 気配を感じ取れなくなり、ずっと居住まいを正して傍に控えていた緊張を解いたカニンの言葉に頷く。嘗て何度かカニンを同行させて『地底』を訪ねた事があり、そのおかげで彼女も萃香を含め地(・)底(・)の(・)親(・)友(・)達(・)を見知っている。とは言え、"鬼"という妖怪の中でもとりわけ強大な存在を前にして緊張せざるを得ないのは仕方が無い事だが。

 

―――萃香の能(・)力(・)は"鬼" らしく強力なもので、限りなく密となれば山をも越える巨人となり、限りなく疎らとなれば前述の通り気配を悟られぬ霧となる。恐ろしいのはこれすら能(・)力(・)の一端に過ぎず、他(・)者(・)の(・)意(・)識(・)を(・)萃(・)め(・)て(・)意(・)の(・)ま(・)ま(・)に(・)導(・)く(・)芸当も可能だと当人は豪語している。

 

―――改めて萃香の能(・)力(・)を見ると、彼女一人だけでもその気になれば幻(・)想(・)郷(・)を(・)動(・)か(・)し(・)得(・)る(・)規格外の存在であり、"鬼"を『地底』から出られない様に相互不可侵を結ばせた理由が解る。

 

 尤も、紫や俺達と永く付き合って来たせいかおかげか、萃香も幻想郷をこよなく愛する者の一人であり、自(・)身(・)に(・)よ(・)る(・)幻(・)想(・)郷(・)の(・)支(・)配(・)等微塵も考えていないだろうが。

 

―――閑話休題。

 

 

「予想外ではあったが、紫が許している以上は受け入れなければな。親友でもあるし、これからも度々飲みや宴会を求めてふらりと訪ねてくるだろうから、その時はもてなしてやってくれ」

「承知しました。(Zur Kenntnis genommen.)...今度こそ、おやすみになられますか?」

「あぁ、そうしよう。戸締りと最後の片付けは任せるぞ。――百年振りだからこそ朝まで呑まされそうだと覚悟していたが...萃香も少しは分別を付けるようになったのか、ただの気紛れか...」

 

 

 カニンの言葉に頷き、卓袱台から立ち上がる。

 出会えば二の句に"さぁ飲もう!"と継ぎ、『鬼殺し』や『神便鬼毒酒』と言った鬼(・)に(・)と(・)っ(・)て(・)毒(・)と(・)な(・)る(・)酒の危(・)険(・)性(・)す(・)ら(・)愉(・)し(・)む(・)程に無類の酒好きである萃香。そんな彼女が文句を垂れつつも引き下がった事に驚きつつ、カニンに後を任せ自室へ向かう。

 

 

―――明日からは各所への挨拶、報告回りだ。百年の時を経て変わらなかったもの、変わったものを確かめねばな。

 

 

―――to be continued―――

 

 

 





 という事で、萃香との絡みでした。前作で妖々夢編の終わりが見えてきて、萃夢想編の構想を練っていた時に忘れていた事に気付きました()

 これから書いていく話の中にもこういった忘れていた絡みや描写が度々出てくるので、ご承知おきください。
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