東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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幻想閑話-3-3~忌避される者達の楽園③~

~地底西方 聖輦船 船室~

 

side-影政

 

 

 『聖輦船』は一から船として建造されたものではない。素体となっているのは木造の穀物倉―――()()()()()()()()()()"飛倉"だ。形としては大きな船の甲板に倉を乗せたようなもので、法力により()()()()()という。―――その力を発揮する前に()()()()()()()()()が。

 

 

「...お久しぶりです、影政殿。さとり殿から吸血鬼異変(百年前の異変)については聞いていましたが...本当にご無事でよかった」

「......壮健のようで何よりじゃ」

()()()()()()と刺し違えたって聞いた時は、ちゃんとお経覚えなかったのを後悔したよねぇ...無事でよかったよ、ホントに」

「...仏教って、死後の極楽、転生を祈るものだよね?お経唱えるんじゃ死なせてない?」

「縁起でもないこと言わないでよー。影兄(かげにぃ)はちゃんと生きて私達の目の前に居るんだから」

 

 

 そんな船の船室で、俺はこいし(()()無しに、さとりの許しを得てついて来ている)と共に()()()()()()()()()()二人(と入道)―――

 

―――水色のセミロングの髪に所々擦り切れた紺色の頭巾を被り、首には赤い珠の首飾りを身に着け、主張の少ない雲のように白い長袖の上着を纏い、履いているスカートは上は白、下は藍色の二色に分かれていて、境目は富士山を思わせる様な紋様が施されている。そして灰色の靴下に、黒靴を履いている"入道遣い"『雲居(くもい)一輪(いちりん)』と、彼女の相棒たる"雲入道"『雲山(うんざん)』。

 

―――ウェーブのかかった黒のショートヘアーに少し小さい船長帽を被り、白の布地に青緑色の縁取りがされ、青緑の生地には各所それぞれに3本の白いラインが引かれた水兵服を身に着け、服に合わせたデザインのキュロットスカートと白い靴下、黒い靴を履いた"船幽霊"『村紗(むらさ)水蜜(みなみつ)』。

 

 

 

 そして、船に居候する()()()()()()()()()()―――

 

―――右側が跳ねた黒いショートボブの髪、襟元に赤い大きなリボンを締めた、裾に赤い渦巻型の模様のある黒地のミニスカートワンピースを身に着け、黒いニーソックスと赤い靴を履き、背中からは赤い鎌のような三枚の右翼と、青い曲がった矢印状の左翼を三枚生やした"(ぬえ)"『封獣(ほうじゅう)ぬえ』。

 

 

―――以上三人と相対していた。ぬえと出逢ったのは『聖輦船』を見付けた時だったが、一輪と村紗とはそれ以前―――幻想郷創造以前、()()()()()()に出逢った。

 

 

―――出逢いは今から千年以上前、幻想郷創造の為に仲間集めの旅をしていた時だった。『妖怪を救おうとしている尼僧がいる』という噂を耳にして、『もしかしたら私達の思想を共有できるかも!』と紫が言うので彼女達が潜むように暮らす廃寺を探して訪ねた。

 その尼僧―――『(ひじり)白蓮(びゃくれん)』は、実際俺達と同じような思想の持ち主だった。一輪達はいきなり訪ねてきた俺達を警戒していたが―――

 

 

―――『..."聖"?そう言えば、その()()()()()は見覚えがあるな』

―――『...まさか、弟をご存知なのですか?!』

 

 

 十数年前、()()()()と俺が出逢い、知り合っていたおかげですぐに打ち解けた白蓮を見て警戒を解いてくれた。

 

 紫と白蓮はずっと二人して話し込み、俺は一輪達から白蓮と出逢った経緯を聞いたりしていた。経緯を聞いて白蓮が本気で妖怪をも救おうとしていると感じ、俺達以外にも同じような思想を持つ者が居たことへの驚きと―――その思想が()()()()()()()()()()()()()()()()で、実際に実行してる分周囲...特に人間社会から()()されやしないかという不安を覚えた。日が暮れるまで二人は話し込み、俺と紫は一晩泊めて貰って廃寺を後にした。

 

 

―――そして、その日の夜だった―――()()()()()()()()()のは。

 

 

 紫が『()()()をあげるのを忘れた』と廃寺に戻るべく近くの町に入った時に、"妖怪の味方をした尼僧と妖怪達を封じた"という話で持ち切りだったのを目の当たりにして、呆然とする紫を引っ張って廃寺に駆け付けたが―――そこに居たのは()()()()()()()()()()()()"毘沙門天の弟子"たる妖怪と、その従者の"妖怪鼠(実際は毘沙門天から遣わされた目付け役だが)"の二人だけだった。白蓮も一輪達も、廃寺の裏に隠されていた『聖輦船』も無くなっていた。白蓮は()()()()で、一輪達は()()()()()()()されてしまったという。

 

 "毘沙門天の弟子"は白蓮達を()()()()ことを酷く後悔して自刃を図っていて、従者がそれを阻止しようとして揉めていた。俺も加わってどうにか説得して落ち着かせ、彼女は()()()()()()()ことを決めた。紫が二人に()()()―――()()()()()()()()()()()()()()()()()を託して俺達は廃寺を去ったが、この時程不安一杯で幼子のように怯えていた紫は居なかっただろう。

 

―――自身と同じような思想を持った者に降りかかった()()()()()を知り、諦めかけていた。

 時間は掛かったが説得の甲斐あって紫の心を持ち直すことができ、白蓮の為にも理想郷創造を成そうと紫は再度決意した。

 

 

―――幻想郷創造後、まさか『地底』が一輪達の封じられた場所だったとは予想外だった。事前調査で旧都(歓楽街)で情報を集めていた際に、"西に変な船がある"という話を聞き、そこに向かったら『聖輦船』と一輪達、そして彼女達と交友を結んで間もないぬえと出逢った。

 それから今まで、俺は『地底』を訪ねる度にこの船も訪ねていた。『幻想郷』―――白蓮と同じような思想を持った妖怪()が創った、人妖の理想郷の今を話して聞かせるために。

 

 

「一輪達も壮健そうで良かった。...相変わらず、封印に変化は無しか?」

「はい。相も変わらず、聖輦船(この船)はうんともすんとも動きません」

()()()()()()()()でもぶつかれば動きそうだとは思うんだけどねぇ。...多分動くかどうか以前に壊れるかもだけど」

 

 

 俺の問いに一輪と村紗はそう答えながら仕方ないと肩を竦める。

 

―――嘗て紫と共に船と二人に施された()()を調べた事があった。()()もあって結界や封印の類に詳しい彼女ですら()()()()()()、強固で異質な()()だった。

 

―――『封印の術式自体は人間らしい単純なものよ。でも...それに"憎しみ"、"恨み"、"恐怖"...色々な()()()()が雁字搦めになっていて、下手に解いたら何が起きるか分からない。こんなに強固なのに、歪んで不安定な封印は初めて見たわ』

 

 それが船と二人に掛けられた()()に対する紫の評価だった。せめて二人と船の紐付けは解き、ぬえのように『地底』であれば自由に動けるようにしたかったが、それすらも不可能だった。

 

 

「つくづく、この船と二人に掛けられた()()の強固さと異常性を実感するよね。聖って尼僧はどれだけ恨まれてたんだか...」

「...恨まれていた、というよりは()()()()()()()と言った方が正しいだろう。あの当時、彼女の思想は()()()()()()ものだったからな」

「あの時代の妖怪は総じて"人間を脅かす恐ろしい存在"だったものね。私だって都を大いに震え上がらせていたし、当時は人間なんて雑魚だと思っていたしね。...()()()()()()()()()()()()()()()()けど」

 

 

 ぬえは当時の事を思い出したのか、眉間に皺を寄せる。

 

―――"鵺"は本来、"トラツグミ"という夜行性の鳥の名前だったという。夜故に姿は見えず、ヒョーヒョーという不気味な鳴き声だけが聞こえる事から平安の世の人々を震え上がらせていた。

 ぬえはそれを利用し、()()()()()()()()()()()()を創り出して"鵺"として名を大いに広めた。"鵺"という妖怪そのものは別に存在していたが、後世に伝わった"鵺"のイメージはぬえが創った()()に大きく依っている。

 

 ぬえは度々当時の都に()()をけしかけ、恐れ慄く人々や、()()を討伐して名を馳せる武士を遠くから見て楽しんでいた。多くの人々を畏れさせた結果、直接何かせずとも大妖怪に相応しい実力を手にしていた。

 

―――だが、同時に慢心と油断も大きくなっていたらしい。ある時()()を創り出した瞬間を偶然近くに居た人間に見られてしまい、散々都を脅かした()()()()()()()()()()()()。隙だらけだったぬえはあっという間に捕らえられ、『地底』に()()されてしまった。()()の弱点と、彼女の慢心が組み合わされた呆気ない最後だった。

 

 人間を脅かす事が出来なくなり、『地底』に移住して来た()()()()()()()()相手に驚かそうとしても殆ど通用せず、()()されてから千年以上経った今ではかなり力を失っていた。自由を制限された孤独な時間が長かったせいか、いたずら好きでありながら人懐っこい一面も持っている。

 

 

―――閑話休題。

 

 

「...まぁ、過ぎた昔の話はいいんだよ。聖輦船(ここ)に来たってことは、挨拶ついでにお話しに来たんでしょ?地上(うえ)のこと、色々聞かせてよ」

「ぬえ、影政殿は目覚めてから日が浅いのよ。流石に話題になるようなことは...」

 

 

 一輪がぬえを窘める。一輪の言う事は尤もだが、今回は()()()()()ものがある。

 

 

「...話題なら一応あるぞ。――数日前に『紅霧異変』という()()が起きてな、俺はその()()に加わっていた」

()()が起きていたのは私が証言できるよー。妖気を含んだ()()()地上(うえ)を覆っていたんだー」

「...マジ?目を覚まして早々に()()()()に参加したの?」

「流石影政というか、運が悪かったのか良かったのか...詳しく聞かせてくれる?」

「あぁ、いいぞ。あれは、『人里』で挨拶を終えた翌日だった――」

 

 

 三人に『紅霧異変』を()()に導いた経緯を話して聞かせる。()()()()()()吸血鬼異変(百年前の異変)との繋がりがあった事、初めて『弾幕ごっこ』適用下での戦闘...彼女達にとっては初めての事ばかりで、無言で集中して話を聞いていた。

 

 

「―――という訳で、思わぬ展開はあったが()()()()は成り、新たに住人を迎え入れた」

「流石影政殿。目を覚まして早々の()()()()してしまうとは...しかし、吸血鬼異変(百年前の異変)の首謀者の娘が同じように()()を起こすとは...不思議な縁ですね」

()から来て日が浅い妖怪でも『弾幕ごっこ』に適応できたんだねぇ。...私達もさとり経由で教えてもらったけど、()()()()()()()()からなぁ」

()()()()()()()()力があれば誰でも戦えるってのがいいよね。ルールもあるから実力差も埋めやすいし、大きな変革だよ。発案したっていう当代『博麗の巫女』はさぞ凄い人間なんだろうねぇ」

「...あぁ、素質は初代に迫るものがあるな」

 

 

 『紅霧異変』について話し終え、三人の感想を聞く。ぬえは『弾幕ごっこ』を提案した当代『博麗の巫女』(霊夢)に興味があるようだが、賽銭乞食の一面については伏せておく。

 

 

「『紅魔館』の人達にも興味あるなー。特に『フランドール』って娘は何だか仲良くなれそうな予感がするし。...『霧の湖』なら妖怪の山()から近いし、今度行ってみようかなー?」

「...こいしはいいよねぇ。私も吸血鬼には興味あるし、会ってみたいけども...あーあ、何かの拍子に()()解けたりしないかなぁ」

 

 

 こいしの言葉を聞いたぬえが羨ましそうな表情を浮かべ、後頭部で手を組んで椅子の背もたれに背中を預けて天井を仰ぐ。

 

―――ぬえの()()は一輪達と違って異質さも無い"異界送り"系の()()で、強力だが()()()()()が広い分拘束力が低く、外部から手を加えて()()()()()事が可能だと紫が言っていた。しかし、曲がりなりにも()()前は都を脅かした大妖怪だった彼女を地上に放つ事による、パワーバランスの変化を懸念して紫は()()()()()()事を伏せている。

 俺としては『弾幕ごっこ』が制定された今であれば地上に出しても問題無いと考えているが、()()()()()()()()二人の為に居候して食料や生活用品の買い出しを行っている千年来の関係性を壊すのは良くないだろうと、変わらず紫に合わせて伏せている。

 

 

「...ぬえ。もし封印が解けたとして、()()()()()()()地上(うえ)に行っちゃうの?二人共友達でしょ?それに、ぬえが居なくなったら誰が二人の為に色々なものの買い出しをするのかなー?」

「...分かってるよ、こいし。独りで地上(うえ)に出ても何もできないだろうしね。...それに、友達を置いて行くなんてできない」

「分かってるならよろしい。そんな友達想いのぬえには、宴会に参加する権利を進ぜよう!」

 

 

 ぬえの言葉をこいしが咎めると、彼女は冗談だと言いたげに肩を竦める。満足そうにこいしは頷き、ぬえを宴会に誘う。

 

 

「宴会?...あぁ、そっか。()()()()だものね、宴会をやらない訳がないか。でも、いいの?私は吸血鬼異変(百年前の異変)で何もできなかったし...」

「だいじょーぶ!宴会なんだから、人が多ければそれだけ楽しくなるよ!」

 

 

 ぬえは頭に疑問符を浮かべるが、すぐに納得した表情を浮かべる。

 

 

「...こいしがそう言うなら、参加するよ。でも、何処でやるつもり?宴祭区(南側)はヤダよ。あそこは喧嘩ばっかりでマトモに飲めやしない」

「今頃『地霊殿』で嶽丸(タケ)達が宴会をどうするか考えているはずだ。その結果―――」

 

 

ドンドンッ!!

 

 

―――突然、外から船を力強く叩く音が聞こえてきた。

 

 

うひゃッ?!何、急に何なの?!」

「落ち着け。少なくとも壊れてはいないはずだ。...外に出るぞ」

()()()()()()()()()()()()だったねー。行ってみよっか」

 

 

 突然の事に驚いた村紗を落ち着かせ、こいしと共に船室を出る。

 

 

 

~聖輦船 甲板~

 

 

影政(まさにぃ)~!!」

「ぐおっ...っと...!」

 

 

―――甲板に出ると、いきなりお空が腹に突っ込むように抱きついて来た。()()が出てきそうな衝撃をどうにか受け止めて抱き留める。

 

 

「あれ、お空だ。どうして聖輦船(ここ)に来たの?」

「うにゅ~...影政(まさにぃ)、私ちゃんとお仕事終わらせて来たよ!」

 

 

 お空は目を輝かせて報告してくる。こいしには気付いていないようで、彼女が聖輦船(ここ)に来た理由が分からない。さとりがお空に単独行動させる筈が無い。誰かしら同行している筈だが...

 

 

「――私が説明するよ。...流石お空、影政のおかげで先走っても迷わないねぇ」

「あ、勇儀!凄い大荷物...」

「――これは勇儀殿、何故ここに?」

「うわ、何その背中のデッカイ袋...」

「お空も居るじゃん。相変わらず、影政大好きだね」

 

 

 そこに、背中に()()()()()()()()()()()()()()()を担いだ勇儀が降りてくる。ほぼ同時に一輪達も甲板に出てくる。

 

 

「お、一輪達も来たならちょうどいいね。宴会の件なんだけどね――()()()()()ことになったよ」

「...どういうこと?」

 

 

 甲板を見回す勇儀の言葉にこいしは首を傾げる。穀物倉を乗せた船である為、甲板は結構広い。大人数でもなければ宴会は可能だと思うが...何故聖輦船(ここ)でやる事になったのか。

 

 

「嶽丸が思い付いたのさ。"聖輦船の連中も一緒に巻き込んでやろう"ってね。聖輦船(ここ)の連中だって影政と繋がりがあるからねぇ。仲間外れにはできないさ。()()()()()()()()なら、()()()()()()()()()って訳」

「なるほど、嶽丸らしい考え方だね」

「...いい考えではあるが、料理はどうする?酒はどうせ大量に持ち込むだろうから問題ないだろうが」

「...コイツを見てくれれば、察せるんじゃないかね」

 

 

 勇儀は袋を下ろし、結び目を解く。中身―――肉や野菜といった大量の食材の小山が露わになった。...いつだっただろうか。この光景を何処かで―――

 

 

―――『影政(マサ)!そういや料理が得意だったよな!材料は持ってきたから酒に合うヤツ作ってくれや!結構集まるだろうから沢山作っといてくれ!』

―――『凄まじい量の食材だな...手伝える人手はあるのか?一人で全部は――』

―――『あ?俺ら鬼にそんなのできるヤツが居る訳ねェだろ。じゃ、頼んだぜ!』

―――『あ、おい...!――一人でやれと言うか。どれだけ集まるのか...』

 

 

―――あぁ、そうだ。鬼達の宴会に招かれた時に、嶽丸(タケ)から唐突に料理を作れと言われたんだ。嶽丸(タケ)も他の鬼達も手伝おうとせず、俺一人で大量の料理を作ったんだったな。翌日になっても疲れが抜けず、『地霊殿』でさとりに愚痴ったら()()()()()()()()()()で説教しに行った。どんな説教をしたのかは分からないが、嶽丸(タケ)が俺に土下座して謝ってきたから相当な説教だったんだろう。

 

―――閑話休題。

 

 

「...あぁ、そういうことか。...一応聞くが、やろうとしてる宴会は()()()()だよな?」

「当たり前じゃないか。...でも、あの時みたいに、影政一人にはやらせはしないから安心しな。百年振りだからねぇ、久方ぶりにお前さんの手料理を食べたいんだ」

影政(まさにぃ)のご飯!私も沢山食べたい!」

影兄(かげにぃ)のお料理は美味しいもんねー。宴会ももっと楽しくなること間違いなしだよ!」

 

 

 嶽丸(タケ)や勇儀、こいし達『地底』の住人も俺の手料理を気に入っている。勇儀の話を耳にしたお空も顔をあげて眩しい位に瞳を輝かせる。

 

 

「...分かった、そこまで言うなら腕によりを掛けて作ろう。だが、聖輦船(この船)に台所では力不足だぞ」

「影政殿の言う通り、この船の台所ではその量の食材を料理として捌くのには耐えられないと思います」

 

 

 俺の懸念に一輪が頷く。『聖輦船』は大きな船だが、それでも内部の使える空間には限りがある。故に、船内の台所は二、三人分の料理を作るのが限界の規模だ。勇儀が持って来た量の食材を料理したら途中で捌き切れなくなるだろう。備えている食器や調理器具も少ないから尚更だ。

 

 

「それについては心配いらないよ。そろそろ――おぉ、来た来た」

 

 

 勇儀が東側を見上げて声をあげる。目を向ければ―――

 

 

「お、勇儀とお空もちゃんと着いてるな。()()()をさっさと据えてさっさと準備だ!」

お、重い...死体満杯より重いぃ...詰め込み過ぎたぁ...」

「お燐、大丈夫かい?やっぱり私も少し持とうか?」

「...辛いなら、私の釣瓶に入れてもいいよ?」

「...『聖輦船』で宴会をしようという発想はいいですが、影政さんの料理を食べる為にここまでするとは...」

 

 

―――縄で纏めて縛られた《大型の調理器具らしきもの》を余裕綽々で担ぐ嶽丸(タケ)、普段は死体を詰めている荷車に()()()()()()()()()調()()()()を詰め込んだお燐、ヤマメとキスメ、そしてさとりまでもがこちらに向かって来ていた。さとりは嶽丸(タケ)が担ぐ調()()()()()()を見て呆れたような表情を浮かべている。

 

 

「さとり殿まで来られるとは...本当にここで宴会をやるつもりのようで」

「嶽丸が担いでるの...アレ、()じゃない?」

 

 

 一輪達が戸惑っている内に嶽丸(タケ)達が甲板に降り立つ。

 

 

「よォ、影政(マサ)!『聖輦船』の台所じゃ力不足だろうからな、()()()()()()()()持ってきたぜ!」

「ふぃ~重かった...影政(まさにーさん)、『地霊殿』で料理作ってくれる時によく使ってた道具、持てるだけ持って来たよ」

「...俺の手料理の為にそうまでするか」

「――それだけ影政さんの料理を食べたい、ということですよ。地上(うえ)よりも私達がいただける機会は少ないですし。...()()()()()()()()()()と聞いた時は耳と目を疑いましたが」

 

 

 各々持って来た荷物を降ろしながら誇らしげに報告してくると、最後に降り立ったさとりが苦笑しながら理由を話す。

 

 

影政(マサ)美味(うめ)ェ料理の為に最高の環境を揃える、当然だぜ。百年振りでもあるしな、影政(マサ)にゃ頑張ってもらいてェのよ!」

「...あぁ、()()()()()()()()()()()なら嶽丸(タケ)達からすればさぞ最高だろうな」

 

 

 嘗て嶽丸(タケ)が俺に強いらせた所業の事を挙げて、冗談めかして嫌味を言ちる。過ぎた事だから追及はしないが、あの時は過労死を覚悟した位には休む間も無く大変だった。

 

 

「...あん時はマジですまんかった。酔ってたのもあったが、親友(ダチ)として酷ェことを強いらせちまった。今回はしっかりやれることを手伝うから勘弁してくれ...」

「あたいも...というより、皆手伝うつもりだから安心してよ」

 

 

 嶽丸(タケ)が珍しく素直に謝ってくる。あの時のさとりの説教が効果覿面だったようだ。

 

 

「...そういう訳で、船を少し騒がしくさせることになりますが、大丈夫ですか?」

「...これ程の大荷物を持ってこられては、断るのも忍びないですね。私達もお酒は大丈夫ですよ。仏門の身ですが、姐さんは"節度を守るなら咎めません"って言ってましたから」

「私は大歓迎だよ!宴会なんていつ振り...いや、多分初めてだし!」

「二人が大丈夫なら、私も大丈夫だよ。こいしに招待されたしね」

 

 

 さとりの言葉に一輪達は頷く。

 

 

「よォし!じゃ、早速台所を据えるぞ。勇儀、手伝ってくれや」

「はいよ。すぐに済ませるけど、影政は何を作るかでも考えておいとくれ」

「あぁ、分かった」

 

 

 嶽丸(タケ)と勇儀が準備を始める。さて、見たところ適当にあるものあるだけを持って来たようだが...何を作ろうか。

 

 

 


 

 

~地霊殿 影政の客室前~

 

side-さとり

 

 

「...」

 

 

 皆が寝静まった夜中。お盆に乗せた徳利とお猪口、宴会で余った影政さんお手製のおつまみを盛った小鉢を落とさないようにしながら、影政さんが居る客室の扉をノックする。

 

―――『地霊殿』二階の南側にあるこの客室は、ある意味地霊殿(ここ)における影政さんの自室のような扱いになっている。泊りがけの用事がある度にこの部屋を使わせていたら、こいしやお燐から"いっその事影政さん専用にすべき"と提案されてその通りにした結果だ。

 今まで欠かさず、お燐やペット達に部屋の掃除をさせていて良かった。百年振りに部屋の主が入ったけど、快適に過ごせている筈だ。

 

 

<『...開いてるぞ』

「...失礼します」

 

 

 扉越しに影政さんが入室を促す声が聞こえてくる。扉を開けて部屋に入ると、腰に黒い帯を締めた紅色の着流しを身に着けた影政さんが、『旧都』を一望できる大窓の傍に据えられたテーブルに添えられた椅子に座っていた。

 

 

「...先程沢山飲んで食べたばかりですが、私の我儘に応えていただきありがとうございます」

「気にするな。こいしに言われたのもあったが、元々お前との晩酌に付き合うつもりでいたからな」

「...相変わらず、こいしは影政さん絡みだと()()()()()()()()んですね」

 

 

 影政さんの言葉に苦笑交じりに答えながら、お盆に乗せているものをテーブルに移す。

 

―――こいしは()()()()()()()()事で()()()()力を失っている。けど、何故か影政さん絡みだとあの子は()()()()()()()()()()()()()。姉妹としての繋がりがそうさせているのか、それとも別の理由があるのか...未だに解明出来ていない謎だ。

 

 

「...では、始めましょうか」

「あぁ」

 

 

 影政さんの向かい側の椅子に座り、徳利からお酒をお猪口二つに注ぐ。

 

 

―――『聖輦船』での宴会は、私でも充分に楽しめた。

 

 

―――『この台所、いっそのこと船に据えちゃわない?千年使ってるせいか今の台所、あちこちボロボロなんだよね』

―――『そりゃァいい!また船で飲むって時に使えるしな!余り時間が無ェから、最低限煙路と換気系だけこさえて据えるぞ。しっかり据えるのは明日以降だ』

―――『え、ちょ勝手に...いやまぁ、台所がボロボロなのは事実だしいっか。"キャプテン・ムラサ"が許可する!』

―――『...いつか姐さんに怒られても知らないわよ』

 

 

―――嶽丸さんが持って来た台所一式が『聖輦船』のものになったり。

 

 

―――『よし、切れたよ』

―――『...できたよ』

―――『二人共、手際が良いな。それを鍋に入れてくれ』

―――『はいよ。...住処は手狭だから台所なんて無くてね。こうやって包丁握るのもいつ振りかねぇ』

―――『住みにくいなら、旧都()に移っても...あぁ、()()で駄目なのか』

―――『...ちゃんとヤマメは操れるのに、皆先入観で嫌ってるから...』

―――『こればっかりは仕方ないさ。影政や嶽丸が仲良くしてくれてるだけでも充分嬉しいよ』

 

 

―――船に新しく据えられた台所に立つヤマメさん、キスメさんと影政さんのやり取りを聞いてしまったり。...ヤマメさんについては『地底』の管理者として解決してあげたい所だ。

 

 

 

―――『影政(まさにぃ)が作った唐揚げ、美味しいね!』

―――『...ねぇ、嶽丸。あの唐揚げになった鶏肉って、何を使ったの?』

―――『あ?そりゃ『地底』の鳥っつったら"地獄鴉"しか居ねェだろうよ。その辺飛んでたのを何羽か絞めた新鮮なヤツだぜ』

―――『...共食いかぁ...』

 

 

―――ぬえさんが何故か乾いた笑みを浮かべていたり。

 

 

 

―――《にゃ~ん♪》

―――《カ~♪》

―――『...酒の弱さは相変わらずだな』

―――『グラス一杯だけでコレって...ちょっと予想外なんだけど』

―――『まぁ、いいんじゃないかなー。百年振りだし、酔った勢いでこのまま甘えさせてあげよっか』

 

 

―――恐らく『地霊殿』で一番お酒に弱いであろうお燐とお空が各々猫と鴉の姿になって影政さんに思い切り甘えたり。

 

 

 

―――『...っはぁ...耐えた...!』

―――『くっ...私を飲み比べで負かすとは...坊主の癖にやるじゃないかい...

―――『流石一輪。普段飲まないのに鬼と飲み比べして勝つんだから、隠れた酒豪だよね』

―――『おぉ、やるじゃねェか!...じゃァ、次は俺と勝負しようや』

―――『......雲山』

―――『......』ボフン...

―――『あっ、ちょっ、コラ。無言で引っ込まないで助けて!!』

 

 

―――一輪さんが鬼二人と飲み比べで勝負して、一勝一敗の結果を出したりした。

 

―――鬼二人が参加していたことで酔った勢いで喧嘩が起きやしないか心配だったけど、杞憂に終わった。お酒と喧嘩を好む鬼ではあるけど、曲がりなりにも頂点に君臨するからこそ良識があるのだろう。

 宴会は、一輪さんと村紗さんが泥酔し、お燐とお空が酔って熟睡してしまった以外には特に問題無く終わった。勇儀さんが持って来た食材は少し余ったものの、それらはぬえさんが『聖輦船』に引き取った。

 

 

―――『...影政さん。その...一つお願いがあるんです』

―――『...晩酌だな?喜んで受けよう。俺が借りている客室でいいな?』

―――『...え?そんなにあっさり――なるほど、こいしが...』

 

 

―――私は宴会ではお酒はあまり飲まなかった。()()()()()鬼二人からの"まぁ飲めよ"攻勢を躱し、百年振りの影政さんの手料理を味わったり、お話に加わったりして過ごした。

 

―――私が好きなのは、今始まった影政さんとの細やかな晩酌だから。ある時、影政さんが一人で静かに飲んでいるのを見かけ、それに何気なく付き合い始めたのがきっかけだった。彼と飲んでいると、『地底』の管理者としてではなく、『古明地さとり』個人としての面を素直に出せてしまう。

 それが不思議と悪い気がせず、晩酌をすると気分も晴れやかに翌日を迎えられるから、彼が大丈夫そうな時は毎回晩酌に誘っていた。

 

 

―――閑話休題。

 

 

「...貴方が居ない百年間は、思ったより辛いものでした。こいしも地上(うえ)に出る頻度が大きくなり、お燐もお空も本調子が出ず、勇儀さんや嶽丸さんも常に酔っていて...私達がどれだけ貴方から影響を受けていたのかを痛感しました」

「...百年間心配させてすまなかった。全く、つくづく長く眠り過ぎた影響の大きさを実感するな」

 

 

 私の愚痴るような言葉に、影政さんは苦笑交じりに謝って返す。

 

 

「分かっているなら、それでいいですよ。地上(うえ)でも散々言われているようですし、これ以上は言いません。...ですが、今回は少し長く付き合って貰いますよ。百年間分の愚痴も溜まっていますから」

「分かった。それくらいは甘んじて受け入れよう」

「ありがとうございます。...さて、何から聞かせましょうか――」

 

 

 私の言葉に影政さんは素直に頷き、私は早速愚痴を零していく。

 

―――本当に、影政さんは優しい人だ。()()前、私達が初代『博麗の巫女』に襲われた時から、彼は私達を気に掛けてくれていた。()()()()()()事も平然と受け入れ、こうして私の愚痴も文句の一つも無く聞いてくれる。ずっと嫌われ続け、友人なんて居なかった私達が『地底』で友人を作れたのも、偏に影政さんが持つ繋がりのおかげだった。

 

 

―――『何故自分達を気に掛けてくれるのか、か。...最初は(初代『博麗の巫女』)に理不尽に襲われたことへのフォローのつもりだった。師として弟子のやらかしの後始末を付けるべきだと考えていた。

 だが、こうしてお前達と会っている内に、それとは関係無く付き合う事自体を楽しく感じられるようになってな。こいしやお空達にもかなり懐かれた。今更この関係を断つつもりもない』

 

 

―――いつかの晩酌で、何故私達を気に掛けてくれるのかと聞いた時の答えを思い出す。本当に、優しい人だ。彼の話を聞いただけで見た訳ではないけど、きっと地上(うえ)でもその優しさで多くの繋がりを得て楽しく過ごしているのだろう。

 地理的に隔絶されているせいで、地上(うえ)よりも影政さんと触れ合える機会が少ないのが妬ましく思える。『約定』の意義を考えれば、私達が地上(うえ)に自由に行き来できないのは仕方が無い事だけど...酔いが回ってきたせいか、『古明地さとり』個人としての感情が表に出て来てしまう。

 

 

「...地上(うえ)の人達はずるいです。私達より影政さんと多く付き合えるんですから。影政さんは、私達を嫌って追い出した妖怪の山()の人達とも付き合いがあるでしょう?流石影政さんと言いたいですけど...正直、妬ましいです」

 

 

 普段なら表に出さない感情で、思わず愚痴ってしまう。―――けど、影政さんは真面目な表情を浮かべていた。

 

 

「...『地上と地底の相互不可侵』。鬼やパルスィ、ヤマメのような、強力な力を持つ妖怪が山を降りて拡散し、幻想郷のパワーバランスを崩しかねないことを懸念して結ばれたものだ。――だが、それも変えるべき時なのかもしれないな。

 『人里』も最初は妖怪を一切入れない、文字通りの()()()()だった。半妖も居たが、里への貢献を鑑みてあくまで例外で許されていただけだった。――だが、歴代『御阿礼の子』の努力もあって妖怪への理解が進んだ今では無害な、友好的な妖怪は自由に出入りできるし、何なら里の住人として暮らしている者も居る。

―――先入観はどうしても認識を歪めてしまう。さとりとこいしも、害意は無くとも"覚だから"というだけで嫌われていただろう。...ある『御阿礼の子』の受け売りだが、『伝聞だけに頼らず、直接触れ合うこととも重要』だと思う。嶽丸(タケ)達も最初はお前に内心隔意を持っていたが、今は友人として気さくに付き合っているだろう。()()()()()()()ことで生まれた結果だ。

 すぐにとは行かないだろうが、紫と話して『約定』の緩和を考えてみる。幻想郷創造から六百年だ、『弾幕ごっこ』が制定されたように、『地底』と地上の関係も変革を迎えるべきだろう」

 

 

 影政さんの言葉に、私は声が出なかった。―――あぁ、本当にどこまでも優しい人だ。ただ愚痴を聞くだけでなく、私達の為に出来る事を考えてくれるなんて。影政さんと紫さんは幻想郷創造以前から付き合いがある、親友という表現すら当てはまらない深く永い関係だ。『約定』の緩和は実現するだろう。

 

 

「...本当に、優しい人ですね。こいしやお空、お燐が慕う訳です。でも、私だって...」

 

 

 喉から出かかった言葉を飲み込むようにお猪口のお酒を一気に呷る―――あ、まずい。一気に酔いが...

 

 

「...顔が赤いぞ。そろそろお開きだな」

「いえ...まだ、夜は......もっと、話しましょうよ――」

 

 

―――私の意識は眠りに就いてしまった。何か言った気がするけど、朧気な意識では覚えられなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「...()()()、か。ルーンもフランからそう呼ばれていたな。こいしの言葉は事実だったか。...運ぶか。皆熟睡中だしな」

 

 

 


 

~大風穴 地底側出入口~

 

side-影政

 

 

「また寂しくなっちゃうねぇ。...まぁ、百年も待つことが無いだけマシかね」

「...また、来てね」

「会いたくなったら地上(うえ)に出て会いに行くから、その時はよろしくね、影兄(かげにぃ)!」

「あの、それやられるとあたいが怒られるんですけど...」

 

 

―――『聖輦船』での宴会、さとりとの晩酌を終えた翌日。『大風穴』の出入口でヤマメとキスメ、こいしとお燐の見送りを受けていた。

 さとりは珍しく二日酔い、お空は仕事("帰らないで~!"ともの凄くぐずつかれたが、どうにか説得できた)嶽丸(タケ)と勇儀は眠りこけていたが、一応朝方に『聖輦船』の面々も含めた皆に挨拶はしておいた。それから、パルスィにも旧都()で買った酒と、宴会で余った手料理のつまみ(常温でも保存できるものだ)を土産に渡しておいた。妬ましさの欠片も無い、困惑しながらもどこか嬉しそうな表情で受け取ってくれた。

 

 

「...そろそろ行くとしよう。いつかまた訪ねた時に、元気でいてくれよ」

「勿論さ。地上(うえ)で何かあったら、そのお話を聞かせておくれよ」

「...またね...影政...!」

影兄(かげにぃ)、またねー!」

「またね、影政(まさにーさん)!皆にもよろしく言っておくよ!」

 

 

 四人と別れ、地上へ向けて飛び立つ。

 

 

―――一泊二日の滞在になったが、より長く感じられる位に濃密な時間だった。百年間心配させた影響は『地底』でも大きかった。

 

 

―――挨拶回りはまだまだ続く。次は何処を訪ねるべきか。

 

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 

 





地底編、終了!

次から数話、新規の話となります。
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