東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
原作的にずっと先のが一人、そして旧作キャラがそこそこ出て来ます。
~太陽の畑 入口~
side-影政
「――晩夏も終わりが近い。見頃はもう過ぎたか」
南側に緩く傾斜しているすり鉢状の草原。夏も終わりが間近で、この場所を象徴する景色が望めないのは残念だが、それは来年の楽しみにしておこう。目の前の道を目で追い、その先―――草原の中央に聳える
―――『地底』での挨拶回りを終えた翌日。次の目的地をここ幻想郷南部に位置する『太陽の畑』に定めた。少なくとも幻想郷創造時点では南に傾いたすり鉢状の地形というだけの平原だったが、いつの間にか向日葵の種が流れ着き、成長と繫殖を繰り返して草原を覆う程に増えていた。夏になると草原一帯が眩しい程の黄色に覆われ、さながら太陽の様に見える事から『太陽の畑』と呼ばれる様になった。向日葵が繫殖する程の生命力に満ちた場所であり、妖精が多く住み着いている場所でもある。例えば―――
「――あ、影政!チルノとかサニー達が言っていたけど、本当に目を覚ましたんだね」
「『ラルバ』、百年振りだな」
―――葉冠を飾った水色の髪に幼虫の触覚の様な小さな角を生やし、幼虫の様な黄緑色のスカート、蛹の様な深緑のシャツに成虫の羽根の様な意匠を肩に飾り、そして成虫の羽根そのものを一対背中に伸ばした"妖精"ラルバこと『エタニティラルバ』が俺に気付いて寄って来る。
彼女の左手には小さな袋が提げられていて、右手の掌に幾つか向日葵の種が乗せられている。どうやら枯れた向日葵から種を回収していた様だ。
「ここに来たってことは、単に私に会いに来た訳じゃないでしょ?運が良かったね、
「それは良かった。年中
「あ、私も一緒に行くよ!ちょうどこれで全部拾ったからね。今年は何が貰えるかなー」
歩き出すと、ラルバは種を袋に入れて口紐を縛りながらついて来る。
「百年前の異変...『吸血鬼異変』って名前だったっけ?終わった次の日は大変だったよ。急に生命力が幻想郷中で強まって、私含めて妖精達が暴れちゃってね..幻想郷のあちこちがボロボロだったのに、その気はなかったのに建て直しを邪魔しちゃったんだ」
「隠岐奈の話は裏付けられたか...長命な妖怪が多く死んだからな。影響を大きく受けても仕方ない」
「まぁ、私はあっという間に
ラルバはそう言って遠い目を見せる。確かに"妖精"は非力だが、今回の目的地である『太陽の畑』に住む
―――『あのアゲハ蝶の妖精、もしかしたら"
―――脳裏に、嘗て隠岐奈と世間話をしていた時に聞かされたラルバに関する話を思い出す。"虫である、橘の樹に生る。あるいは山椒に生る。長さは四寸余り、親指ぐらいの大きさである。色は緑で黒点がある。形は全く蚕に似る"―――アゲハ蝶の幼虫は嘗て、貧者を富ませ、病を快癒し、老いを若返らせ、不老不死を齎す御利益を持つ"常夜神"として祀られていた事があったと、個人的に集めている神話や伝承の文献の中で読んだ事がある。
隠岐奈の疑念が事実なら、強力な妖怪相手でも渡り合える可能性があるが真偽は未だ不明。そんな得体の知れない力の潜在を教えた所で信じないだろうし―――"妖精"のままでも彼女は上手くやっている。それを乱すつもりは更々無い。
「種族差はそう簡単に覆せるものではない。お前も
「もちろん。
「っ?!ってラルバじゃない...種集め終わった...って...」
ラルバと話している内に
―――『...あ。その赤毛の妖怪、私が
―――『あら、この娘の言っていた話は本当だったのね。――お生憎様、この娘はこれから
―――『悪霊異変』の時、神社から出発した『博麗の巫女』に出会しざまに襲われ、
「――百年振りだな、オレンジ。お前も変わらず
「...ま、まぁそれが私ができることだし。...うん、
驚きから立ち直ったオレンジは俺を見つめて少し残念そうな―――
「...オレンジ、何か厄介なことでもあった?」
「あった、って言うか...多分、いや間違いなくこれから――」
表情に気付いたラルバが首を傾げながら尋ねると、オレンジはため息を吐きながらそう答え―――
「うわっ?!」
「ぎゃー?!もう気付いて――」
「――百年振りだからか、派手な歓迎だな全く...」
―――
「――お見事。ただ防ぐだけでなく、
「
「
―――攻撃が治まると、俺達の目の前に人影が三つ―――
―――癖のある短い緑髪、俺を見つめて歓心した様に細める深紅の瞳、襟元に黄色いリボンを締めた白いカッターシャツに赤いチェック柄のベストを羽織り、花形のワッペンを飾ったチェック柄のロングスカートを纏う"花好きの妖怪"『
―――短い金髪にメイドのカチューシャを被り、前掛けを二枚重ねたエプロンを身に付けた青いメイド装束を纏い、好戦的な眼差しを金色の瞳に浮かべるも隣に立つ
―――短い金髪の後頭部に赤いリボンを結い上げ、襟元に赤いリボンを締めた白いロングスカートのワンピースに茶色のベストを羽織り、背中に天使の様な白い翼を一対伸ばした"悪魔"にして夢月の双子の姉『
―――『太陽の畑』の中央に聳える洋館『夢幻館』の主と居候の住人二人。幻想郷の妖怪の中でも上位に君臨する実力を有する者達が現れた。
~夢幻館 庭園の東屋~
side-幽香
「――どうぞ」
「あぁ、ありがとう」
「――ふむ、上々ね。今季の茶葉はとりわけ出来がいい。
左右にカールした金髪に赤いリボンを巻いた白い鍔広帽を被り、ロングスカートの赤いワンピースを纏う、『夢幻館』門番を務める"アンクウ"『エリー』が淹れた紅茶を影政と同時に受け取り、一口飲んで出来を評価する。
「お褒めに預かり光栄です。では、私は仕事に――」
「今は仕事をしなくて良いわ。――百年振りだもの、皆で再会を喜びましょう?」
「...幽香様がそう仰られるのであれば」
仕事に戻ろうとするエリーを引き留め、空いている椅子に座るのを確認する。
―――今、この東屋には『夢幻館』に住む者達全員...と、ラルバが集まっている。この妖精は住人ではないけど、冬場以外は
「いきなり三人共会話を止めて門から飛び出して、間髪入れずに弾幕の音が聞こえたから何事かと思ったけど...確かに、百年振りに影政が訪ねてきたならそうもなるわね。
襟元に赤い大きなリボンを締めた白いカッターシャツ、サスペンダーで釣った黒いロングスカートを履き、背中に大きな蝙蝠の羽根を一対伸ばした、金髪金眼の"吸血鬼"『くるみ』は私と
「そりゃソワソワするよ。――私達が
「...
夢月の開き直った様な言葉に幻月は頷き、夢月と揃って金の瞳を一瞬好戦的に光らせる。相変わらず
―――『夢幻館』が、
―――『外に悪霊の類を放っているのはお前だな?湖にこんな館があったことにも驚いたが――
―――『――へぇ、貴方...
―――館の中で戦い出し、その騒音で眠っていた私を目覚めさせた仕返しで、騒音の元凶だった
倒した二人を彼に介抱させている間に自室に戻って着替え、私は彼と戦端を開いた。―――あの時の心の昂ぶりは最高のものだった。彼はそんな私を見て"鬼と似た反応だ"と苦笑していたけど、当時"鬼"という種族を知らなかった私でも、その"鬼"の反応に共感出来た。―――
―――『――アッハハハ!!貴方最高ね!!
―――『夢月、興奮し過ぎよ。でも、その気持ちはよく解るわ...ふふ、あの
―――『夢幻世界』という、
―――『幽香、だったわね。あの悪魔二人を封印していたそうだけど、
―――『――できるけど、
―――『――分かったわ。でも、あの悪魔二人の手で
―――『夢幻世界』での激闘が影政の
―――閑話休題。
「...俺としては勘弁して欲しいんだが。お前達と戦うと全力にならざるを得ない。...だが、『弾幕ごっこ』が制定された今ならまだ喧嘩を買う余裕はあると思うが――」
「――ごっこじゃ楽しくないじゃん。『弾幕ごっこ』がこれからの基本になるからって幽香に無理矢理覚えさせられたけど、
「――予想通りの不満だな」
心底面倒だと言いたげな表情を浮かべる影政の言葉に対して夢月は不満を隠さず頬を膨らませ、影政は分かってたと言いたげにため息を吐く。
その気持ちは解らない訳では無いけど―――"郷に入っては郷に従え"、と言う諺がある様に異なる文化、世界で暮らすにはある程度それを許容する度量が必要だ。
「ごめんなさい、影政。夢月が相変わらず血の気が多くて...度々言って聞かせてるし、
申し訳無さそうな表情を浮かべて幻月が謝ると、影政は深々とため息を吐き―――
「...そうか。――避けられないなら、仕方がn「私と
―――夢月は影政の言葉を遮り、爛々と瞳を輝かせてテーブル越しに影政にズイッと迫って両肩をガシッと掴み、彼は突然の事に口にしかけていた紅茶を軽く吹き出し―――
「うぐぐ~...これは本気で痛~い...」
「――それなりに親しい仲とは言え、彼は客人よ。ちゃんと言葉も聞かずいきなり掴みかかるなんて無礼過ぎるわ」
―――刹那、幻月が夢月の頭を引っ叩く快音が響く。結構本気でやったのか夢月は目尻に涙を浮かべ、頭を抑えて縮こまる。それを見て幻月は呆れた表情を浮かべる。
「す、凄くいい音...初めて見た」
「普段の冗談めかしたツッコみ方じゃなくて、
「本当、幻月が理性的で良かったわ。双子らしく揃って好戦的な所はあるけど、片方が理性で抑えに回れるのは良い関係よ」
それを見て、ラルバとオレンジは少し引き気味の表情を浮かべ、くるみは私も感じた事を言葉にする。―――『悪霊異変』を起こす前から『霧の湖』で館の領域に近付く者を
「影政、本当にごめんなさい。...でも、欲求不満があるのは正直に言って私も同じよ。圧倒的強者の私達にとって
幻月はそう言って影政に深々と頭を下げる。くるみの言った通り、幻月も理性的ではあるけど夢月と同様好戦的な所があり、『悪霊異変』
「――分かった。今は挨拶回りを優先したいからすぐとはいかないが、都合がついたらお前達と戦おう。『弾幕ごっこ』が基本になるとは言え、それ以前の戦いが否定された訳でもないからな」
「――ありがとう、影政。...ほら夢月、貴女も」
「...確実じゃないのは不満だけど、
幻月に促され、夢月も影政に礼を述べて頭を下げる。
「戦うなら幻想郷、少なくとも
「解っている。
影政はくるみの言葉に頷き―――傍に置いていた
「――わぁ、クッキーだ!!」
「...え?この形って...にしてもすごい数...」
「本物より簡素な造形...逆にそれが可愛らしいですね」
「...流石影政。見頃が過ぎてしまったのはコレで補おうって訳ね」
「百年振りの影政のお菓子...!いただきmペシッ!うぐ~...」
「気持ちは分かるけど今はダメよ。――影政と言えばその強さだけじゃない。
「...ふふ、流石影政ね」
―――箱一杯に詰まった、可愛らしい向日葵の形のクッキーを見て皆の表情が一気に明るくなる。内側の筒状花をココアパウダーを混ぜたのか茶色でしっかり表現し、外側の舌状花を模した普通のミルククッキーの真ん中にはめ込んだ構成で、お菓子らしい適度な再現度と、これを用意した影政の意図に気付いて笑みを零す。
「晩夏が見頃の向日葵。だが、時期的に見頃を過ぎて枯れ始めているだろうと思ってな。――向日葵は幽香が最も好きな花。
「相変わらず律儀ね。貴方が作るお菓子なら何でも美味しくいただけるけど、態々私の好みに合わせるなんてね。その丁寧さが、
エリーに目配せし、テーブルの真ん中に置かれている空の大皿に向日葵クッキーを盛り付けさせる。お菓子も料理も
「...あら、紅茶もこの一杯で終わりね。エリー、淹れてきてくれる?」
「承知しました」
空になったカップに紅茶を注ぐと、丁度ポットの紅茶も空になってしまい、エリーに追加で淹れるように指示する。席を立ち、館のキッチンに向かう足が速く見えるのは、やはり彼女も影政のお菓子が楽しみなのだろう。
「...まだ?まだダメなの?」
「ダメよ。クッキーだけじゃ口の中が乾いてしまうでしょう?普段も飲み物そっちのけで食べてばかりなんだから。...飲み物は喉に詰まらせた時の備えじゃないのよ、全く...」
「...夢月は相変わらずのようだな」
「――あ、戻ってきたね!」
「...普段より早くない?夢月に先にゴッソリ食べられたくないんだろうけど...」
トレイに新しいポットを二つ乗せたエリーが館の玄関から出て来るのが見えてラルバが声をあげる。普段から要領良く家事を行う為、門番以外にも館の使用人(夢月は見た目だけで家事は最低限すら怪しい)としての役目を持つエリーも普段より手早く済ませる程に、私含め皆が百年振りの影政のお菓子を楽しみにしていた。
「――お待たせしました」
「全然待たせてないわよ。――皆に淹れたら、いただきましょうか」
エリーはポットを一つテーブルに置き、残り一つを持って各人のカップに紅茶を淹れていくのを見守る。
―――百年の眠りから覚めた、私の友人にして最高の好敵手『牙門影政』。彼が戻って来たおかげで幻想郷は本当の日常を取り戻すだろう。思わず笑みをこぼしながら、カップに口を付けた。
という事で、自分を一般妖精と思っている常夜神(仮)と旧作より『東方幻想郷』の皆様の登場です。
オレンジ、くるみについてはキャスティングに悩みました。原作において異変と無関係だった前者、湖を守っていた後者。悩んだ末にこうなりました。
次回は再び人里、そして香霖堂...の、予定。