東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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原作的にずっと先のが一人、そして旧作キャラがそこそこ出て来ます。




幻想閑話-4~晩夏の花園~

~太陽の畑 入口~

 

side-影政

 

「――晩夏も終わりが近い。見頃はもう過ぎたか」

 

 

 南側に緩く傾斜しているすり鉢状の草原。夏も終わりが間近で、この場所を象徴する景色が望めないのは残念だが、それは来年の楽しみにしておこう。目の前の道を目で追い、その先―――草原の中央に聳える()()を一瞥し、左手に提げた()()()()を一目確認して道に入る。

 

―――『地底』での挨拶回りを終えた翌日。次の目的地をここ幻想郷南部に位置する『太陽の畑』に定めた。少なくとも幻想郷創造時点では南に傾いたすり鉢状の地形というだけの平原だったが、いつの間にか向日葵の種が流れ着き、成長と繫殖を繰り返して草原を覆う程に増えていた。夏になると草原一帯が眩しい程の黄色に覆われ、さながら太陽の様に見える事から『太陽の畑』と呼ばれる様になった。向日葵が繫殖する程の生命力に満ちた場所であり、妖精が多く住み着いている場所でもある。例えば―――

 

 

「――あ、影政!チルノとかサニー達が言っていたけど、本当に目を覚ましたんだね」

「『ラルバ』、百年振りだな」

 

 

―――葉冠を飾った水色の髪に幼虫の触覚の様な小さな角を生やし、幼虫の様な黄緑色のスカート、蛹の様な深緑のシャツに成虫の羽根の様な意匠を肩に飾り、そして成虫の羽根そのものを一対背中に伸ばした"妖精"ラルバこと『エタニティラルバ』が俺に気付いて寄って来る。

 彼女の左手には小さな袋が提げられていて、右手の掌に幾つか向日葵の種が乗せられている。どうやら枯れた向日葵から種を回収していた様だ。吸血鬼異変(百年前の異変)以前からこの時期に行われている作業だが、ラルバは変わらず手伝っている様だ。

 

 

「ここに来たってことは、単に私に会いに来た訳じゃないでしょ?運が良かったね、()()()()()()

「それは良かった。年中()()()()()()を求めて放浪しているおかげで、会おうとすると中々会えないからな。では、邪魔するぞ」

「あ、私も一緒に行くよ!ちょうどこれで全部拾ったからね。今年は何が貰えるかなー」

 

 

 歩き出すと、ラルバは種を袋に入れて口紐を縛りながらついて来る。

 

 

「百年前の異変...『吸血鬼異変』って名前だったっけ?終わった次の日は大変だったよ。急に生命力が幻想郷中で強まって、私含めて妖精達が暴れちゃってね..幻想郷のあちこちがボロボロだったのに、その気はなかったのに建て直しを邪魔しちゃったんだ」

「隠岐奈の話は裏付けられたか...長命な妖怪が多く死んだからな。影響を大きく受けても仕方ない」

「まぁ、私はあっという間に()()()()()()()から、具体的にどんな騒ぎになっていたかは知らないんだけどね。所詮"妖精"、生命力が強くなっても力の差は歴然だったよ」

 

 

 ラルバはそう言って遠い目を見せる。確かに"妖精"は非力だが、今回の目的地である『太陽の畑』に住む()()()は妖怪の中でも別格の実力を有している。生命力が強化された程度では付け焼き刃にすらならなかっただろうと容易に想像出来る。

 

―――『あのアゲハ蝶の妖精、もしかしたら"常夜神(とこよのかみ)"の可能性がある。私的に()()()()()()()奴だから、気のせいで済んで欲しいが...まぁ、頭の隅にでも留めておいてくれ』

 

―――脳裏に、嘗て隠岐奈と世間話をしていた時に聞かされたラルバに関する話を思い出す。"虫である、橘の樹に生る。あるいは山椒に生る。長さは四寸余り、親指ぐらいの大きさである。色は緑で黒点がある。形は全く蚕に似る"―――アゲハ蝶の幼虫は嘗て、貧者を富ませ、病を快癒し、老いを若返らせ、不老不死を齎す御利益を持つ"常夜神"として祀られていた事があったと、個人的に集めている神話や伝承の文献の中で読んだ事がある。

 隠岐奈の疑念が事実なら、強力な妖怪相手でも渡り合える可能性があるが真偽は未だ不明。そんな得体の知れない力の潜在を教えた所で信じないだろうし―――"妖精"のままでも彼女は上手くやっている。それを乱すつもりは更々無い。

 

 

「種族差はそう簡単に覆せるものではない。お前も()()に対して悪意は無かったんだろう?」

「もちろん。()()()()()()ことさえしなきゃ物静かで優しい人だし...って、あれは――おーい、『オレンジ』ー!

っ?!ってラルバじゃない...種集め終わった...って...」

 

 

 ラルバと話している内に()()が近くに見えて来ていた様だ。小さい荷車にスコップや如雨露といった園芸道具を積んで()()の門に向かう―――左半分を先で纏めた赤い長髪に黄色い帽子を被り、黄色いシャツとキュロットスカートの上に緑色のワンピースの上着を羽織る少女―――『オレンジ』はラルバの呼び声に気付いて肩をビクッと跳ねさせながら足を止めて振り向き、ラルバの隣に居る俺を見るなり赤い瞳を点にして固まる。

 

―――『...あ。その赤毛の妖怪、私が()()しようとしたらぴゅーって逃げた奴じゃない。宴会中だけど、ここで再会したのが――』

―――『あら、この娘の言っていた話は本当だったのね。――お生憎様、この娘はこれから夢幻館(ウチ)の園丁になるの。――それでも()()しようと言うなら、こっちも相応の対応をするけど?』

 

―――『悪霊異変』の時、神社から出発した『博麗の巫女』に出会しざまに襲われ、()()から命辛々逃れてそのまま()()に逃げ込み、()()から園丁としての才能を見出されて雇われた経緯があり、()()が『太陽の畑』に居ない時期の草花全般の管理を受け持っている。()()に向かっていたのを見るに、彼女も仕事を終えた様だ。

 

 

「――百年振りだな、オレンジ。お前も変わらず()()として働いているようだな」

「...ま、まぁそれが私ができることだし。...うん、文々。新聞(新聞)で見て知ったけど、目を覚ましたのね。――でも、その()()...本当に()()()()()()になったのね」

 

 

 驚きから立ち直ったオレンジは俺を見つめて少し残念そうな―――()()()()()()()と言いたげな表情を浮かべる。

 

 

「...オレンジ、何か厄介なことでもあった?」

「あった、って言うか...多分、いや間違いなくこれから――」

 

 

 表情に気付いたラルバが首を傾げながら尋ねると、オレンジはため息を吐きながらそう答え―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――ゴォッ!!

 

 

「うわっ?!」

「ぎゃー?!もう気付いて――」

 

 

 

「――百年振りだからか、派手な歓迎だな全く...」

 

神護「イージスプロテクト」

 

 

―――()()の方から魔理沙の主力スペルに似た(既視感がある)白く眩い極太レーザーが二条、高速の白い小、中丸弾が次々飛んでくるが、咄嗟に二人の前に立って()()()()()()で防ぐ。向日葵は枯れているがそれ以外の小さな草花がちらほらと見える為、それを()()()()()様に空へと払う。派手な奇襲攻撃を防ぎ切り、後ろの二人と左手に提げた()()()()の無事を確かめていると―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――スタッ...

 

 

「――お見事。ただ防ぐだけでなく、()()()()()()()ようにする配慮は流石解っているじゃない」

()()()()()()になったおかげで力もより馴染んでいるみたいね。ますます戦い(やり)がいがペシッ!うぐ~...」

戦う(やる)にしても、太陽の畑(ここ)では駄目よ。――百年の眠りによるブランクを感じさせないのは流石ね、影政」

 

 

―――攻撃が治まると、俺達の目の前に人影が三つ―――

 

―――癖のある短い緑髪、俺を見つめて歓心した様に細める深紅の瞳、襟元に黄色いリボンを締めた白いカッターシャツに赤いチェック柄のベストを羽織り、花形のワッペンを飾ったチェック柄のロングスカートを纏う"花好きの妖怪"『風見(かざみ)幽香(ゆうか)』。

 

―――短い金髪にメイドのカチューシャを被り、前掛けを二枚重ねたエプロンを身に付けた青いメイド装束を纏い、好戦的な眼差しを金色の瞳に浮かべるも隣に立つ()に頭を軽く叩かれて冗談めかした涙目で頭を抑えて項垂れる"悪魔"『夢月(むげつ)』。

 

―――短い金髪の後頭部に赤いリボンを結い上げ、襟元に赤いリボンを締めた白いロングスカートのワンピースに茶色のベストを羽織り、背中に天使の様な白い翼を一対伸ばした"悪魔"にして夢月の双子の姉『幻月(げんげつ)』。

 

―――『太陽の畑』の中央に聳える洋館『夢幻館』の主と居候の住人二人。幻想郷の妖怪の中でも上位に君臨する実力を有する者達が現れた。

 

 


 

~夢幻館 庭園の東屋~

 

side-幽香

 

 

「――どうぞ」

「あぁ、ありがとう」

「――ふむ、上々ね。今季の茶葉はとりわけ出来がいい。影政(百年振りの客人)を持て成すに相応しいわね」

 

 

 左右にカールした金髪に赤いリボンを巻いた白い鍔広帽を被り、ロングスカートの赤いワンピースを纏う、『夢幻館』門番を務める"アンクウ"『エリー』が淹れた紅茶を影政と同時に受け取り、一口飲んで出来を評価する。

 

 

「お褒めに預かり光栄です。では、私は仕事に――」

「今は仕事をしなくて良いわ。――百年振りだもの、皆で再会を喜びましょう?」

「...幽香様がそう仰られるのであれば」

 

 

 仕事に戻ろうとするエリーを引き留め、空いている椅子に座るのを確認する。

 

―――今、この東屋には『夢幻館』に住む者達全員...と、ラルバが集まっている。この妖精は住人ではないけど、冬場以外は太陽の畑(ここ)を中心に活動しているし、庭いじりや盛夏の向日葵の維持管理も手伝ってくれる娘だから広い目で見れば住人と見做せる。

 

 

「いきなり三人共会話を止めて門から飛び出して、間髪入れずに弾幕の音が聞こえたから何事かと思ったけど...確かに、百年振りに影政が訪ねてきたならそうもなるわね。

 文々。新聞(天狗の新聞)の一面に影政のことが書かれているのを見てからずっと、何処かソワソワしてたし。――私としては()()()()()()()気が気じゃなかったけど」

 

 

 襟元に赤い大きなリボンを締めた白いカッターシャツ、サスペンダーで釣った黒いロングスカートを履き、背中に大きな蝙蝠の羽根を一対伸ばした、金髪金眼の"吸血鬼"『くるみ』は私と夢月、幻月(夢幻姉妹)を見ながら呆れを含んだ微笑みを浮かべる。

 

 

「そりゃソワソワするよ。――私達が()()()()()()()()()だし、吸血鬼異変(百年前の異変)じゃ妖怪が全然襲って来なくてつまんなかったしねー」

「...()()()()()使()()()()から()()()()()()になってしまったのは残念だけど、寧ろ都合がいいのかもしれないわね。()()()()()()()()()()のが"神"なんでしょう?――()()()()()()()()()()()戦え(やれ)るなら最高ね」

 

 

 夢月の開き直った様な言葉に幻月は頷き、夢月と揃って金の瞳を一瞬好戦的に光らせる。相変わらず()()()()()()()()を好む双子の悪魔。私も影政の事は"花をぞんざいに扱わない人"として以外に"、"全力で戦える強者"としても見ているからその気持ちは分からないでもないけど。

 

 

―――『夢幻館』が、()()()()()()()()『霧の湖』中央の小島に在った頃。()()()に起こした()()で、まさか好敵手と―――影政(神の力を振るう人間)と出逢えるとは思っていなかった。

 

―――『外に悪霊の類を放っているのはお前だな?湖にこんな館があったことにも驚いたが――()()()()()()()()()()()?』

―――『――へぇ、貴方...()()の身で()()()を使っているの?――眠り直そうと思ったけど、眠気も吹き飛んだわ』

 

―――館の中で戦い出し、その騒音で眠っていた私を目覚めさせた仕返しで、騒音の元凶だった()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()使()()を纏めて倒し、眠り直そうと自室に戻ろうとしたら―――背後から聞えた声と、同時に感じた()()で眠気が吹き飛んだ。

 倒した二人を彼に介抱させている間に自室に戻って着替え、私は彼と戦端を開いた。―――あの時の心の昂ぶりは最高のものだった。彼はそんな私を見て"鬼と似た反応だ"と苦笑していたけど、当時"鬼"という種族を知らなかった私でも、その"鬼"の反応に共感出来た。―――()()でありながら()()()を十全に振るって妖怪()と互角に戦えるなんて、昂らない訳が無い。私は全力で、館の内装が破壊されるのも構わず戦った―――全力だったせいで()()()()()()()()()()()()と気付いたのは、影政に負けて気絶していたら()()()()()()()()()()()()を強く感じて目を覚ました時だった。

 

―――『――アッハハハ!!貴方最高ね!!()()()()()の外にこんな人間が居たなんて!!』

―――『夢月、興奮し過ぎよ。でも、その気持ちはよく解るわ...ふふ、あの()()()()()()()()()()()戦った(やり合った)時を思い出すわね。――さぁ、私達を愉しませてみなさい!!

 

―――『夢幻世界』という、()()()()()()()()()()()夢月と幻月(悪魔の姉妹)()()()()()()()。"悪魔"でありながら神の領域に踏み込む程の力を持つ二人が住まう世界と()()()()()()()()()以来、自ら封印して維持していたけど、それが解けてしまった。急いで『夢幻世界』に向かうと―――巫女と魔法使いが呆然として見上げている先で、(影政)(夢幻姉妹)の壮絶な戦闘が繰り広げられていた。介入しようとすれば巻き込まれる―――一目見て悟れてしまう激しさだった。そして、私と戦った時以上に強力な神力を放って戦う影政を見て、改めてその強さに惚れ込んだものだ。

 

―――『幽香、だったわね。あの悪魔二人を封印していたそうだけど、()()()できないかしら?あれ程強大な力、この幻想郷に放たれたら――』

―――『――できるけど、()()()()()()()()()()ことを強くお勧めするわ。あの双子は初めて()()()()()()()()()()と出逢ってしまった。その興奮を抑えようとすれば――寧ろ()()()()()()()するでしょうね。――でも、双子は私の方で面倒を見るわ。貴女の懸念が()()()()()ことがないようにするから』

―――『――分かったわ。でも、あの悪魔二人の手で()()()()()()()()になったら――絶対に赦さないから。それだけは覚えておきなさい』

 

―――『夢幻世界』での激闘が影政の()()で終わり、()()()()となった後の宴会で(境界の賢者)の頼みを断り、影政を出汁にして"大人しくしてないと()()()()()()()()()から"と双子に釘を刺し、今まで双子はその言い付けをよく守って夢幻世界(元々の住処)幻想郷(こちら)を行き来している。尤も、最近では夢幻世界(元々の住処)に戻る方がかなり稀になってしまっているけど。

 

―――閑話休題。

 

 

「...俺としては勘弁して欲しいんだが。お前達と戦うと全力にならざるを得ない。...だが、『弾幕ごっこ』が制定された今ならまだ喧嘩を買う余裕はあると思うが――」

「――ごっこじゃ楽しくないじゃん。『弾幕ごっこ』がこれからの基本になるからって幽香に無理矢理覚えさせられたけど、戦う(遊ぶ)なら全力じゃないと」

「――予想通りの不満だな」

 

 

 心底面倒だと言いたげな表情を浮かべる影政の言葉に対して夢月は不満を隠さず頬を膨らませ、影政は分かってたと言いたげにため息を吐く。

 博麗霊夢(今代『博麗の巫女』)の手で制定された『弾幕ごっこ』に対する数少ない反対者の一人がこの夢月だ。彼女は()()()()()()()()事を嫌う。幻月()が理性的なおかげで反抗する事は無いけど、夢幻世界(元々の住処)と違って()()()()()が無い事を度々愚痴っている。

 その気持ちは解らない訳では無いけど―――"郷に入っては郷に従え"、と言う諺がある様に異なる文化、世界で暮らすにはある程度それを許容する度量が必要だ。

 

 

「ごめんなさい、影政。夢月が相変わらず血の気が多くて...度々言って聞かせてるし、夢幻世界(私達の世界)に戻って好き放題にさせてもいるんだけど――やっぱり、一度貴方と戦わ(やり合わ)ないと不満は晴れないかもしれないわ」

 

 

 申し訳無さそうな表情を浮かべて幻月が謝ると、影政は深々とため息を吐き―――

 

 

「...そうか。――避けられないなら、仕方がn「私と()ってくれるの?!」ごぶっ...

 

 

―――夢月は影政の言葉を遮り、爛々と瞳を輝かせてテーブル越しに影政にズイッと迫って両肩をガシッと掴み、彼は突然の事に口にしかけていた紅茶を軽く吹き出し―――

 

 

ペチィンッ!

 

うぐぐ~...これは本気で痛~い...

「――それなりに親しい仲とは言え、彼は客人よ。ちゃんと言葉も聞かずいきなり掴みかかるなんて無礼過ぎるわ」

 

 

―――刹那、幻月が夢月の頭を引っ叩く快音が響く。結構本気でやったのか夢月は目尻に涙を浮かべ、頭を抑えて縮こまる。それを見て幻月は呆れた表情を浮かべる。

 

 

「す、凄くいい音...初めて見た」

「普段の冗談めかしたツッコみ方じゃなくて、本気(ガチ)のヤツよアレ...」

「本当、幻月が理性的で良かったわ。双子らしく揃って好戦的な所はあるけど、片方が理性で抑えに回れるのは良い関係よ」

 

 

 それを見て、ラルバとオレンジは少し引き気味の表情を浮かべ、くるみは私も感じた事を言葉にする。―――『悪霊異変』を起こす前から『霧の湖』で館の領域に近付く者を()()してきた"湖の番人"から『夢幻館』の何でも屋に役目を変え、館の住人の中で特に危険な夢月と幻月(夢幻姉妹)が暴れない様に常に気を遣っているという彼女からすれば、負担が減ってありがたいことなのだろう。

 

 

「影政、本当にごめんなさい。...でも、欲求不満があるのは正直に言って私も同じよ。圧倒的強者の私達にとって()()()()()()()()こそが至上の悦びなの。貴方は多くの人と繋がりを持っているから、確約しなくてもいいわ。でも何時か、貴方の都合が付いたら――その時は、『弾幕ごっこ』ではない()()()()()をお願いしたいわ」

 

 

 幻月はそう言って影政に深々と頭を下げる。くるみの言った通り、幻月も理性的ではあるけど夢月と同様好戦的な所があり、『悪霊異変』()()以来夢月と幻月(夢幻姉妹)が影政と戦った数は五指に満たない。幻月の言う通り、影政には多くの親友、友人、仲間や従者が居る。独り占めが出来ないと解っていても、幻月も内心では不満を溜めていたのだろう。それを察した影政は数秒瞑目し―――

 

 

「――分かった。今は挨拶回りを優先したいからすぐとはいかないが、都合がついたらお前達と戦おう。『弾幕ごっこ』が基本になるとは言え、それ以前の戦いが否定された訳でもないからな」

「――ありがとう、影政。...ほら夢月、貴女も」

「...確実じゃないのは不満だけど、()ってくれるって約束してくれるならその時まで我慢するわ。――ありがとう、影政」

 

 

 幻月に促され、夢月も影政に礼を述べて頭を下げる。

 

 

「戦うなら幻想郷、少なくとも太陽の畑(ここ)では止めて欲しいわね。影政は兎も角、夢月と幻月(この二人)が本気になって周りに波及する被害を止める自信は一切無いから」

「解っている。夢幻世界(二人の世界)で戦うことになるだろう。――さて、忘れる前にコイツを開けよう。お前達三人の奇襲攻撃(派手な歓迎)で被害を受けなくて幸いだった」

 

 

 影政はくるみの言葉に頷き―――傍に置いていた()()()()を手に取る。私達皆が注目する中で箱の上面が開かれると―――

 

 

 

 

 

「――わぁ、クッキーだ!!」

「...え?この形って...にしてもすごい数...」

「本物より簡素な造形...逆にそれが可愛らしいですね」

「...流石影政。見頃が過ぎてしまったのはコレで補おうって訳ね」

「百年振りの影政のお菓子...!いただきmペシッ!うぐ~...」

「気持ちは分かるけど今はダメよ。――影政と言えばその強さだけじゃない。()()()()()()()()()()()お菓子の腕前...なんで忘れていたのかしら」

「...ふふ、流石影政ね」

 

 

―――箱一杯に詰まった、可愛らしい向日葵の形のクッキーを見て皆の表情が一気に明るくなる。内側の筒状花をココアパウダーを混ぜたのか茶色でしっかり表現し、外側の舌状花を模した普通のミルククッキーの真ん中にはめ込んだ構成で、お菓子らしい適度な再現度と、これを用意した影政の意図に気付いて笑みを零す。

 

 

「晩夏が見頃の向日葵。だが、時期的に見頃を過ぎて枯れ始めているだろうと思ってな。――向日葵は幽香が最も好きな花。百年の(長過ぎる)眠りで迷惑を掛けた詫びとして、今朝方作って持って来た訳だが...皆喜んでいるようで安心した」

「相変わらず律儀ね。貴方が作るお菓子なら何でも美味しくいただけるけど、態々私の好みに合わせるなんてね。その丁寧さが、()()()()()()()()()()()()()のでしょうね。エリーが(こっちで)用意したお茶菓子も無くなっているし、ありがたくいただくわ」

 

 

 エリーに目配せし、テーブルの真ん中に置かれている空の大皿に向日葵クッキーを盛り付けさせる。お菓子も料理も夢幻館(ウチ)で一番食べる夢月が居る事を考慮してか、五十枚程のクッキーが同心円状―――太陽の畑(ここ)が見頃の時を彷彿とさせる様に並べられる。エリーも私を喜ばせる方法をよく解っている。

 

 

「...あら、紅茶もこの一杯で終わりね。エリー、淹れてきてくれる?」

「承知しました」

 

 

 空になったカップに紅茶を注ぐと、丁度ポットの紅茶も空になってしまい、エリーに追加で淹れるように指示する。席を立ち、館のキッチンに向かう足が速く見えるのは、やはり彼女も影政のお菓子が楽しみなのだろう。

 

 

「...まだ?まだダメなの?」

「ダメよ。クッキーだけじゃ口の中が乾いてしまうでしょう?普段も飲み物そっちのけで食べてばかりなんだから。...飲み物は喉に詰まらせた時の備えじゃないのよ、全く...」

「...夢月は相変わらずのようだな」

 

 

 夢月と幻月(夢幻姉妹)の会話に影政は苦笑を浮かべる。

 

 

「――あ、戻ってきたね!」

「...普段より早くない?夢月に先にゴッソリ食べられたくないんだろうけど...」

 

 

 トレイに新しいポットを二つ乗せたエリーが館の玄関から出て来るのが見えてラルバが声をあげる。普段から要領良く家事を行う為、門番以外にも館の使用人(夢月は見た目だけで家事は最低限すら怪しい)としての役目を持つエリーも普段より手早く済ませる程に、私含め皆が百年振りの影政のお菓子を楽しみにしていた。

 

 

「――お待たせしました」

「全然待たせてないわよ。――皆に淹れたら、いただきましょうか」

 

 

 エリーはポットを一つテーブルに置き、残り一つを持って各人のカップに紅茶を淹れていくのを見守る。

 

―――百年の眠りから覚めた、私の友人にして最高の好敵手『牙門影政』。彼が戻って来たおかげで幻想郷は本当の日常を取り戻すだろう。思わず笑みをこぼしながら、カップに口を付けた。

 

 

 

―――to be continued―――

 

 





という事で、自分を一般妖精と思っている常夜神(仮)と旧作より『東方幻想郷』の皆様の登場です。

オレンジ、くるみについてはキャスティングに悩みました。原作において異変と無関係だった前者、湖を守っていた後者。悩んだ末にこうなりました。

次回は再び人里、そして香霖堂...の、予定。
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