東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
挨拶回り、幽世勢の来訪です。
~牙門邸 台所~
side-カニン
「...よし、頃合いだな。小皿と一緒に居間に持っていってくれ」
「
主様はそう呟いて出来上がった三十個程の葛まんじゅうを大皿に並べ、一息吐いて食器や道具を洗い始める。
「しかし、お菓子を作られるとは...今日は何方か来られるのですか?」
「いや...今日は何かしら菓子を用意しておくべきだと
「...
大皿と数枚積んだ小皿を持ちながら主様に尋ねるとそんな答えが返ってくる。思わず大皿に並ぶ涼しげな見た目の葛まんじゅうを見ると涎が出そうになって唾を飲み込み、居間に向かう。
―――主様が『香霖堂』『無縁塚』に向かわれた翌日。今日は『彼岸』と『冥界』に挨拶に向かうと、昨夜の夕食の席で聞いている。
―――幻想郷の西方には、
―――これが幻想郷に於ける生死の輪廻だ。『御阿礼の子』の様な
―――閑話休題。
居間に着き、卓袱台の中央に大皿と小皿を置き、先に置いていた急須から緑茶を二人分の湯呑に淹れる。緑茶は主様が好む飲み物だ。幻想郷が元々
主様が好むものだからこそ、特に緑茶はより美味しく淹れられるように練習したし、主様が静かに、でも美味しそうな様子でいただく姿を見ていると嬉しくなる。
緑茶を淹れ終え、湯呑を並べて一息吐いて縁側に目を向け―――
「...ジュルリ」
「――え?」
―――気付かなかった。
―――濃いピンク色のミディアムヘアに白い天冠を飾った水色のナイトキャップ風の帽子を被り、水色の着物に白いフリルを多く飾った襦袢風の着物を纏い、青いリボンを飾ったパンプス―――を縁側の敷石に脱ぎ散らかして白い靴下で居間に上がっている"亡霊"の御令嬢にして―――『冥界』の
「――あ、あの...」
「ぷるぷるしていそうな葛粉の生地から透けて見える餡子。片手で摘みやすくもボリュームたっぷりな大きさと形...正に影政らしい気配りのある作り方ね~。まさか、私が来るのを見越して用意したのかしら~?」
―――我に返って声を掛けると、涎を垂らしたまま葛まんじゅうの外観を分析する。確かに主様は誰かが来るかもしれないと言っていたけど、まさかこのお方が来られるとは...流石に主様も予想外だろう。
「一番大好きな
「――玄関から入らず直接来られるなんて、"閻魔"様らしくありませんわね~?」
―――幽々子様が葛まんじゅうに手を伸ばした刹那、彼女の
「それについては後で
―――"悔悟の棒"の持ち主である、左側が少し長い緑色のショートヘアに青い閻魔帽を被り、白い長袖のシャツの上に肩章を飾った青いベストを羽織り、黒いミニスカートと白い靴下を履き、服の各所に紅白のリボンを飾った"
「今、私はこの涼しげな葛まんじゅうをいただきたい想いで頭がいっぱいですの。――今なら、貴女の
「尚も拒絶しますか。ならば――」
幽々子様の言葉に呆れた表情を浮かべ、映姫様は―――
side-影政
<やりますわね~。これならどうかしら?
死符「ギャストリドリーム」
<くっ...負けてなるものですか!『弾幕ごっこ』の勝敗に関わらず説教をしたいところですが、その勝敗で説教を受けると決まった以上は...!
罪符「彷徨える大罪」
―――庭の上空で
「本当に申し訳ございません、師匠!幽々子様が急に映姫様達と同行すると言い出して、まさかこんな事態になってしまうなんて...!」
『弾幕ごっこ』を眺めていると、卓袱台の向かい側に座っていたボブカットの銀髪にリボンを飾ったカチューシャを付け、襟元に黒いリボンを締めた長袖の白いシャツに青緑色のベストを羽織り、動きやすい膝丈のスカートと白い靴下、黒いストラップシューズを履いた『冥界の庭師』たる"半人半霊"『
「テメェは悪くねぇ。"この匂い...!"とかぬかして勝手に先走って、勝手に
妖夢の隣で頬杖を突いて『弾幕ごっこ』を眺める、黒い短髪をオールバックで纏め、黒縁の眼鏡を掛け、襟元に黒いネクタイを締めた白いワイシャツの上に裾が擦り切れた黒の着物を羽織り、同様に裾が擦り切れた黒い袴と白い足袋を履いた"死神"にしてそれらを纏める『死神頭』を務める『
―――『こんな深い草むらの中にお地蔵様が...ここまで苔だらけで汚れも酷いなんて、どれだけ忘れられていたのかしら』
―――『道そのものも雑草が多い。人が通らなくなって長いようだな...折角見つけたことだ、周りの草を刈って掃除してやろう』
―――映姫は元々閑散とした道の傍で誰にも詣でられず忘れられた地蔵だった。それを見付けた俺と紫は、折角だからと掃除し、すっかり隠していた周りの草を刈り、軽く詣でて去ろうとした時―――
―――『その緑色の髪と瞳――まさかあの時の...!』
―――『えぇ、その通りです。あの時助けていただいて以来ですね。――『四季映姫』、この度"
―――『あら、貴女達知り合いだったのん?この娘が赴任したいってせがんできたのも納得ねぇ』
―――もの言わぬ地蔵からまさか映姫が顕現するとは思わなかった。出逢った時は灰色の着流しを纏い、右手に錫杖を携えた姿だったが、それからしばらくして幻想郷創造が間近に迫った頃―――『地獄』の創造が
―――『...テメェ、
―――そして、命はこの時に
「見たところ幽々子がやや優勢に見えるが、まだ決着は着きそうにないな。――三人共、先に葛まんじゅうを食べていいぞ」
「...よろしいのですか?幽々子様よりも先になんて...」
「影政が食っていいってんだ。俺と
「
俺の言葉に妖夢は心配そうな表情を浮かべるが、命とカニンが葛まんじゅうを手に取り始めたのを見ると、未だ庭の上空で映姫と『弾幕ごっこ』を繰り広げている
―――『...成程。なら、そのお役目引き受けましょう。貴女達は
―――『えぇ。"冥界の管理者"として、
―――『冥界は地獄より治安は良いだろうが、
―――幽々子は、『冥界』創造時に、拠点として移転設置した『白玉楼』に現れた"亡霊"だ。俺と紫は
―――だが"冥界の管理者"として役目を全うする一方で、何者も及ばない美食、健啖家でもある。"亡霊"故か能力の影響故かは不明だが底無しの胃袋を持ち、一日に常人百人分を越える量の食事や間食を取る。それ故従者たる"冥界の庭師"の仕事の大半は食事の用意や食材菓子の買い出しに費やされ、本来本業である『白玉楼』の庭の整備や
―――『こんな突然の形で"冥界の庭師"のお役目を継ぐことになってしいましたが...改めてよろしくお願いします、師匠』
―――その"冥界の庭師"の今代である妖夢は、先代であった祖父『魂魄
―――閑話休題。
「...美味しい...百年も眠っていたのに、そのブランクを一切感じられません」
「幻想郷創造から今までずっとやってきてるだろうからな、すっかり身体に染み付いちまってるんだろうさ。...自炊の延長で作り始めたって割には、本職顔負けの代物をポンポン作るのはやべぇとつくづく思うが」
葛まんじゅうを一口食べて目を見開く妖夢の言葉に、命は呆れた表情を浮かべながらそう言って俺を見る。
「俺としては妙なことは一切やっていないんだがな。作り方に従って、作ったものを食べる者が美味しく満足できるように丁寧な作業を心掛けているだけなんだが」
「...あくまで私の
「それは解る気がしますね。私は幽々子様を相手に料理をしているので、どうしても質より量になってしまって...」
カニンが挙げた予想に妖夢は困った表情を浮かべながら同意する。―――
「そりゃ
「成程...おj――先代のようにお役目を全うするためにも、もっと精進しなければ...まだまだ休む暇は...」
命の言葉に妖夢は自分に言い聞かせる様に呟く。相変わらず
「――妖夢。その真面目さは変わっていないのは何よりだが、
「はい...気を付けます、師匠」
「仕事に真面目なのは結構だが、時々しっかり休まにゃマジで身体と
―――命の言葉を聞きながら葛まんじゅうに手を伸ばすと、庭の上空から大きな声が聞こえて来る。聞こえた方に顔を向けると―――
「私より先に食べちゃうなんて~!ちゃんと私の分も――」
―――俺達が先に葛まんじゅうを食べているのを見咎めたのか、頬を膨らませて自分の分も残せと声を上げる幽々子。
審判「ラストジャッジメント」
「――菓子に釣られて隙を見せましたね。その食への際限なき渇望を改めながら落ちなさい」
―――その背後で、映姫が裁きを下す様に"悔悟の棒"で幽々子を差し示し、
side-カニン
「はむっ...ん~♪美味しいわぁ~♪」
幽々子様は葛まんじゅうを一口食べ、頬に手を添えて瞳を子供の様に輝かせ、満面の笑みを浮かべる。服が映姫様との『弾幕ごっこ』での
「映姫の
「幽々子様...確かに百年振りに師匠お手製のお菓子をいただけるとなれば、嬉しくなるのは私も解りますが」
そんな幽々子様の様子を見て命さんと妖夢さんが揃って呆れた表情を浮かべる。
「...反省しているか疑わしいですが、これ以上騒ぐのも失礼ですからね。今回は大目に見ましょう。――さて、影政。つい先程まで空を騒がせたこと、申し訳ございませんでした」
葛まんじゅうを食べ続ける幽々子様を呆れた表情で見ながら彼女の隣に座った映姫様は主様に謝罪する。
「急に『弾幕ごっこ』の音が聞こえてきて何事かと思ったが...被害は幽々子の被弾痕程度のようだし、謝罪を受け入れよう。――それで、どうして我が家を訪ねて来たんだ?妖夢からは、お前達と『人里』で出会して一緒について行くと幽々子が決めたと言っていたが」
「――今日午前は命と揃って非番だったので、もし在宅であれば影政に挨拶とそのついでに少々
「映姫と命に出会す前は、『人里』で
映姫様が我が家に来られた理由を説明すると幽々子様が補足する様に言葉を加え、また葛まんじゅうを食べる事に集中する。
「...成程、事情は理解した。今日は俺の方から
四人が我が家を訪ねられた理由を聞いた主様はそう言って嬉しそうに口角を上げる。
「師匠こそ、お元気そうで良かったです。――ですが、こうして面と向かうと本当に
「俺も
主様の言葉に妖夢さんは安心した表情を、命さんは嬉しさと呆れが混ざった様な表情を浮かべながら映姫様にそう促す。
「言われずともそのつもりです。――まず、『吸血鬼異変』での『妖怪の山』への救援と鎮圧への多大なる貢献、そして鎮圧直後に動き出した首謀者に決戦を挑んだ末の討伐。正に英雄と謳われるに相応しい活躍でした。――ですが、その決戦でたった一人で吸血鬼に挑み、討伐の代償で刺し違えて深傷を負って昏睡状態に陥り――
既に自身が
――さて。既に多くの者から言われ、釘も刺されているでしょうが関係ありません。――貴方は
命さんの言葉に頷いた映姫様はそのまま主様へ
―――幻想郷を担当する"閻魔"様は二人存在し、二交代制で『彼岸』に渡った魂を裁いている。映姫様はその非番の時に
―――『"閻魔"は一切の私情なく魂の善悪を裁きます。しかし、その中には悪行を働いたことを
―――ある時『人里』で住人に
―――閑話休題。
「...影政は真面目に聞いてるってのに、
「だってとっても美味しいんだもの~。
命さんの呆れを多分に含ませた言葉に対し、幽々子様は申し訳無さを微塵にも感じられないにこやかな表情を浮かべながら既に十五個目に入った葛まんじゅうの残りを口に入れ、美味しさに悶える様に身体をくねらせる。
―――"亡霊"である為かどれだけ食べても
その口と胃袋で『人里』の食事処が催す大食い、早食いチャレンジの悉くを制覇して来た食事ペースは基本的に速い―――というより
―――しかし、幽々子様は主様が作る料理やお菓子
「師匠の料理とお菓子がじっくりと味わいたくなる程に美味しいのは確かです。私もいつかそれ位の腕を目指したいですが、中々料理の研究をする時間が取れず...」
「だったら相談して料理に時間を掛ける機会を貰ったらいいじゃねぇか。
「何度かそうやってお時間をいただいたことはあるんですが...時間を掛けると我慢できないのか、台所までふらりと来て
命さんの提案に対し、妖夢さんは困った表情を浮かべる。相変わらず、幽々子様は
「...ふぅ...妖夢は時間の管理と仕事と私事の配分が甘いのよ~。妖忌は私に食事を用意しながら自分の時間を取っていたし、時々新作を出して評価を求めたりしていたわ~。まだまだ年数も浅いからそこまで強くは言わないけど、日々の仕事の割り振りと、適度な休憩時間の確保を熟せるようになれば一皮向ける筈よ~」
「...師匠にも同じようなことを言われましたね。――分かりました。しっかり休みつつ、これからも精進していきます」
葛まんじゅうを食べながらも話を聞いていたのか、お茶を啜って一息吐いた幽々子様が妖夢さんに顔を向けてそうアドバイスする。主様と同じ様なアドバイスを受けた妖夢さんは真面目な表情で素直に頷く。
「――――重ね重ね言っておきますが、貴方には多くの親友や従者、共に創造に貢献した仲間が居ます。しかし、皆を護ろうという意志が先行するあまり
「あぁ、肝に銘じよう」
―――丁度映姫様の
「お、終わったみてぇだな。映姫も
「...やはり、影政手製の菓子となると普段よりペースを落としますか。幻想郷でも随一の美味であるのは確かですし、毎日でもなく、決まった日に作るということもない気まぐれ故の希少性も鑑みれば味わいたくなるのも道理ですが。――私も百年振りですし、無くなる前にいただきましょう」
命さんに促され、映姫様は座り直して葛まんじゅうを一つ小皿に取り分ける。その間に
「ありがとうございます。では......百年振りというのもあってか、より美味に感じますね」
葛まんじゅうを一口分切り分けて食べた映姫様は一瞬目を見開き、嬉しそうに目を細める。―――普段真面目で厳格な映姫様も、やはり一人の女性なのだろう。
「
「...今季はどれだけの味覚が
幽々子様の音頭で私達は世間話を始める。
―――時々我が家に主様と親しい誰かが訪ね、こうしてお菓子をいただきながら世間話や他愛のない話に興じる。主様の挨拶回りが終われば、本当に日常が戻って来る。後、主様が挨拶すべき場所は―――
という事で、リメイク前では挨拶を飛ばしていた幽世のトップと部下2コンビでした。
次回は挨拶回り最後、『魔法の森』編です。