東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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挨拶回り、幽世勢の来訪です。



幻想閑話-7~幽世からの来訪者達~

~牙門邸 台所~

 

side-カニン

 

「...よし、頃合いだな。小皿と一緒に居間に持っていってくれ」

はい(Ja.)

 

 

 主様はそう呟いて出来上がった三十個程の葛まんじゅうを大皿に並べ、一息吐いて食器や道具を洗い始める。

 

 

「しかし、お菓子を作られるとは...今日は何方か来られるのですか?」

「いや...今日は何かしら菓子を用意しておくべきだと()が働いた。小休止の間に何事もなければ予定通り幽世に向かうつもりだが...まぁ、誰も来なかったら食べて構わないからな」

「...承知しました(Ich habe es.)

 

 

 大皿と数枚積んだ小皿を持ちながら主様に尋ねるとそんな答えが返ってくる。思わず大皿に並ぶ涼しげな見た目の葛まんじゅうを見ると涎が出そうになって唾を飲み込み、居間に向かう。

 

―――主様が『香霖堂』『無縁塚』に向かわれた翌日。今日は『彼岸』と『冥界』に挨拶に向かうと、昨夜の夕食の席で聞いている。

 

―――幻想郷の西方には、幻想郷(現世)と幽世を別け隔てる『幽明結界』が存在する。現世の生者が幽世に入る事を拒み、現世で死し、幽世に入った霊魂が()()()現世へ戻る事を拒む力を有している。

 

 幻想郷(現世)で死し、肉体から離れた魂は西方へ漂い、『三途の川』を渡って『幽明結界』を越え、『彼岸』に在る『是非曲直庁』に導かれ、そこで"閻魔"様の裁きを受ける。

 ()()と裁かれた魂はその罪業に応じた『地獄』へ落とされ、()()と裁かれた魂は『冥界』へと送られ、定められた年数を過ごして幻想郷(現世)へと()()する。

 

―――これが幻想郷に於ける生死の輪廻だ。『御阿礼の子』の様な()()()()()を行う者も居るけど、幻想郷に住まう()()()()()人妖全般と、『無縁塚』に流れ着き、妖獣や人喰いに()()()()死した()()()はこの輪廻に組み込まれている。

 

―――閑話休題。

 

 居間に着き、卓袱台の中央に大皿と小皿を置き、先に置いていた急須から緑茶を二人分の湯呑に淹れる。緑茶は主様が好む飲み物だ。幻想郷が元々()()()()―――『日本』という国の中にあった土地であり、主様はそこで生まれ育ったからその文化のものが馴染むらしい。

 主様が好むものだからこそ、特に緑茶はより美味しく淹れられるように練習したし、主様が静かに、でも美味しそうな様子でいただく姿を見ていると嬉しくなる。

 

 緑茶を淹れ終え、湯呑を並べて一息吐いて縁側に目を向け―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...ジュルリ」

「――え?」

 

 

―――気付かなかった。

 

―――濃いピンク色のミディアムヘアに白い天冠を飾った水色のナイトキャップ風の帽子を被り、水色の着物に白いフリルを多く飾った襦袢風の着物を纏い、青いリボンを飾ったパンプス―――を縁側の敷石に脱ぎ散らかして白い靴下で居間に上がっている"亡霊"の御令嬢にして―――『冥界』の()()()を務める『西行寺(さいぎょうじ)幽々子(ゆゆこ)』様が卓袱台の前に座っていて、髪色と同じ瞳を幼い子供の様に輝かせて葛まんじゅうを見つめながら、はしたなく涎を垂らしている。

 

 

「――あ、あの...」

「ぷるぷるしていそうな葛粉の生地から透けて見える餡子。片手で摘みやすくもボリュームたっぷりな大きさと形...正に影政らしい気配りのある作り方ね~。まさか、私が来るのを見越して用意したのかしら~?」

 

 

―――我に返って声を掛けると、涎を垂らしたまま葛まんじゅうの外観を分析する。確かに主様は誰かが来るかもしれないと言っていたけど、まさかこのお方が来られるとは...流石に主様も予想外だろう。

 

 

「一番大好きな()()じゃないのは残念だけど、百年ぶりに()()()()()()を食べられるならなんだっていいわ~。じゃ、早速――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――パシンッ...

 

 

「――玄関から入らず直接来られるなんて、"閻魔"様らしくありませんわね~?」

 

 

―――幽々子様が葛まんじゅうに手を伸ばした刹那、彼女の()()()()振り下ろされた"悔悟の棒"が焼饅頭に伸ばされていた幽々子様の手であっさり受け止められる。いつもの様な、掴み所が分からない微笑みで"悔悟の棒"を振り下ろしたその主を煽るような言葉を掛ける。そして―――

 

 

「それについては後で()に謝罪します。――今は、フラリと先に向かったと思ったら()が、この家の主がこの場に居ないのに勝手に上がり、許可もなくその菓子を食べようとしている、礼儀を欠いた無遠慮な行いを()()のが先です。――直りなさい。悔悟の棒(我が罰)を受けなかったので更に説教です」

 

 

―――"悔悟の棒"の持ち主である、左側が少し長い緑色のショートヘアに青い閻魔帽を被り、白い長袖のシャツの上に肩章を飾った青いベストを羽織り、黒いミニスカートと白い靴下を履き、服の各所に紅白のリボンを飾った"楽園の閻魔(ヤマザナドゥ)"『四季(しき)映姫(えいき)』様は、緑色の瞳に怒りを宿して裁き(判決)を下す様に言い切るも、幽々子様は不敵に微笑む。

 

 

「今、私はこの涼しげな葛まんじゅうをいただきたい想いで頭がいっぱいですの。――今なら、貴女の()()()だって阻止できそうですわ~」

「尚も拒絶しますか。ならば――」

 

 

 幽々子様の言葉に呆れた表情を浮かべ、映姫様は―――

 

 


 

side-影政

 

<やりますわね~。これならどうかしら?

死符「ギャストリドリーム」

<くっ...負けてなるものですか!『弾幕ごっこ』の勝敗に関わらず説教をしたいところですが、その勝敗で説教を受けると決まった以上は...!

罪符「彷徨える大罪」

 

 

―――庭の上空で幽々子(親友)映姫(友人)が『弾幕ごっこ』を繰り広げている。葛まんじゅう作りに使った道具や食器を洗い終えたとほぼ同時に弾幕が飛び交う音が聞こえ始め、何事かと居間に向かったらこの状況だった。今の所は幽々子が少し優勢な様だ。

 

 

「本当に申し訳ございません、師匠!幽々子様が急に映姫様達と同行すると言い出して、まさかこんな事態になってしまうなんて...!」

 

 

 『弾幕ごっこ』を眺めていると、卓袱台の向かい側に座っていたボブカットの銀髪にリボンを飾ったカチューシャを付け、襟元に黒いリボンを締めた長袖の白いシャツに青緑色のベストを羽織り、動きやすい膝丈のスカートと白い靴下、黒いストラップシューズを履いた『冥界の庭師』たる"半人半霊"『魂魄(こんぱく)妖夢(ようむ)』が俺にバッと頭を下げて謝罪する。

 

 

「テメェは悪くねぇ。"この匂い...!"とかぬかして勝手に先走って、勝手に葛まんじゅう(コイツ)を食おうとして映姫に止められ、映姫の罰に抵抗してる幽々子(大食い亡霊)が悪い。...ったく、映姫も映姫で説教しようとムキになりやがってよ」

 

 

 妖夢の隣で頬杖を突いて『弾幕ごっこ』を眺める、黒い短髪をオールバックで纏め、黒縁の眼鏡を掛け、襟元に黒いネクタイを締めた白いワイシャツの上に裾が擦り切れた黒の着物を羽織り、同様に裾が擦り切れた黒い袴と白い足袋を履いた"死神"にしてそれらを纏める『死神頭』を務める『十三塚(とみづか)(みこと)』が赤い瞳に呆れを含ませて妖夢を擁護し、幽々子の弾幕を躱していく映姫を見ながら愚痴る。

 

 

―――『こんな深い草むらの中にお地蔵様が...ここまで苔だらけで汚れも酷いなんて、どれだけ忘れられていたのかしら』

―――『道そのものも雑草が多い。人が通らなくなって長いようだな...折角見つけたことだ、周りの草を刈って掃除してやろう』

 

―――映姫は元々閑散とした道の傍で誰にも詣でられず忘れられた地蔵だった。それを見付けた俺と紫は、折角だからと掃除し、すっかり隠していた周りの草を刈り、軽く詣でて去ろうとした時―――

 

―――『その緑色の髪と瞳――まさかあの時の...!』

―――『えぇ、その通りです。あの時助けていただいて以来ですね。――『四季映姫』、この度"楽園の閻魔(ヤマザナドゥ)"を拝命しました。貴女がたがこれから創り上げようとしている"人間と妖怪が共存する理想郷"で死した者の魂を裁きましょう』

―――『あら、貴女達知り合いだったのん?この娘が赴任したいってせがんできたのも納得ねぇ』

 

―――もの言わぬ地蔵からまさか映姫が顕現するとは思わなかった。出逢った時は灰色の着流しを纏い、右手に錫杖を携えた姿だったが、それからしばらくして幻想郷創造が間近に迫った頃―――『地獄』の創造が()()話を聞き付けた()()()()()()()()()()によって成された時に彼女が今の服装を纏い、"楽園の閻魔(ヤマザナドゥ)"として赴任して来た時には紫と揃って驚いたものだ。

 

―――『...テメェ、()()の癖に神の力を使うのか。道理で妖怪(人じゃねぇもの)に近しい気配を感じる訳だ。...面白(おもしれ)ぇ。これからよろしく頼むぜ、影政』

 

―――そして、命はこの時に()()()()()()()()()()から餞別として()()()()()()()と共に赴任して来た。命は当時()()だった俺に興味を持ち、そこから俺との友情が始まった。口調は悪く、上司である映姫にもため口を平然と使う性格だが、死神達を纏める『死神頭』としての仕事振りは優秀で、『彼岸』で働く者達や()()()()()()の霊達から慕われている。

 

 

「見たところ幽々子がやや優勢に見えるが、まだ決着は着きそうにないな。――三人共、先に葛まんじゅうを食べていいぞ」

「...よろしいのですか?幽々子様よりも先になんて...」

「影政が食っていいってんだ。俺と妖夢(お前)()()()()()は百年ぶりだしな。ありがたく食おうや」

ありがとうございます(Danke)、主様。では...」

 

 

 俺の言葉に妖夢は心配そうな表情を浮かべるが、命とカニンが葛まんじゅうを手に取り始めたのを見ると、未だ庭の上空で映姫と『弾幕ごっこ』を繰り広げている幽々子()を一瞥して葛まんじゅうを一つ手に取る。

 

 

―――『...成程。なら、そのお役目引き受けましょう。貴女達は()()()()()()()みたいだけど...私自身は初対面だし、これからよろしくお願いするわ』

―――『えぇ。"冥界の管理者"として、()()()()()としてよろしくお願いね、幽々子!』

―――『冥界は地獄より治安は良いだろうが、()()を待つ魂が()()()()()()()()可能性がゼロとは断言できないしな。――冥界をよろしく頼む、幽々子』

 

―――幽々子は、『冥界』創造時に、拠点として移転設置した『白玉楼』に現れた"亡霊"だ。俺と紫は()()()彼女と親交があったが、()()()()で彼女を喪っていて、まさか"亡霊"として再会するとは思ってもみなかった。幽々子は()()からより強化された『死を操る程度の能力』という強力な能力を持ち、更に死霊や魂を自身の支配下に置く特性も併せ持っていたおかげで『冥界』が今まで荒れた事は無い。

 

―――だが"冥界の管理者"として役目を全うする一方で、何者も及ばない美食、健啖家でもある。"亡霊"故か能力の影響故かは不明だが底無しの胃袋を持ち、一日に常人百人分を越える量の食事や間食を取る。それ故従者たる"冥界の庭師"の仕事の大半は食事の用意や食材菓子の買い出しに費やされ、本来本業である『白玉楼』の庭の整備や幽々子()への剣術指南に中々手を付けられない有様となっている。

 

 

―――『こんな突然の形で"冥界の庭師"のお役目を継ぐことになってしいましたが...改めてよろしくお願いします、師匠』

 

―――その"冥界の庭師"の今代である妖夢は、先代であった祖父『魂魄妖忌(ようき)』の()()()()()により、仕事も殆ど分からないまま"冥界の庭師"を引き継ぐ事になってしまった経緯を持つ。

 妖忌(祖父)の手伝いをしていたおかげで家事は出来たが、庭師としての仕事は妖忌(祖父)から殆ど教えられておらず、彼が遺していた日記や、ある程度仕事の様子を見ていた藍や俺の手で手探り状態で教え、何とか自力で腕を磨いて行ける所まで持って行く事が出来た。

 

―――閑話休題。

 

 

「...美味しい...百年も眠っていたのに、そのブランクを一切感じられません」

「幻想郷創造から今までずっとやってきてるだろうからな、すっかり身体に染み付いちまってるんだろうさ。...自炊の延長で作り始めたって割には、本職顔負けの代物をポンポン作るのはやべぇとつくづく思うが」

 

 

 葛まんじゅうを一口食べて目を見開く妖夢の言葉に、命は呆れた表情を浮かべながらそう言って俺を見る。

 

 

「俺としては妙なことは一切やっていないんだがな。作り方に従って、作ったものを食べる者が美味しく満足できるように丁寧な作業を心掛けているだけなんだが」

「...あくまで私の予想(Vorhersage)ですが、料理やお菓子作りへの丁寧で真摯な向き合い方が()()()()()とまで言われる程のものを作っているのではないでしょうか」

「それは解る気がしますね。私は幽々子様を相手に料理をしているので、どうしても質より量になってしまって...」

 

 

 カニンが挙げた予想に妖夢は困った表情を浮かべながら同意する。―――妖忌(祖父)同様、妖夢も幽々子の胃袋を満たす為の食事の用意や買い出しに百年経っても変わらず日々忙殺されている様だが、幽々子は妖夢が未熟である事を解っている為か妖忌(祖父)に課されていた程の無茶振りは無い様に見える。

 

 

「そりゃ仕方(しゃー)ねぇよ。あの底無し胃袋を相手にしてりゃぁそうもなる。毎日幽々子(アイツ)の胃袋を満足させられてるだけでもすげぇもんさ。だが、妖忌(先代)はそれを熟しながら庭の整備やら鍛錬、休みも上手いこと取ってプライベートも取っていた。お前もそれ位できるようになって一人前、ってところだろうな」

「成程...おj――先代のようにお役目を全うするためにも、もっと精進しなければ...まだまだ休む暇は...」

 

 

 命の言葉に妖夢は自分に言い聞かせる様に呟く。相変わらず妖忌(祖父)譲りの真面目振りだ。幽々子に聞いてみなければ実際は分からないが、この様子だと休暇は殆ど取っていないだろう。―――師として釘を刺しておかねば。

 

 

「――妖夢。その真面目さは変わっていないのは何よりだが、()()()()()に気を付けろよ。働き過ぎて()()()()()、働けなくなるとそれこそ幽々子()への負担につながる。限界を感じたら、隠さず我慢せず幽々子()に報告して休ませてもらえ。...それが無理なら俺やカニンに打ち明けろ。いいな?」

「はい...気を付けます、師匠」

「仕事に真面目なのは結構だが、時々しっかり休まにゃマジで身体と精神()を壊すぞ。ウチの()()()()を見習えとは言わねぇが――」

 

 

 

 

 

 

 

 

あ~っ!!

 

 

―――命の言葉を聞きながら葛まんじゅうに手を伸ばすと、庭の上空から大きな声が聞こえて来る。聞こえた方に顔を向けると―――

 

 

「私より先に食べちゃうなんて~!ちゃんと私の分も――」

 

 

―――俺達が先に葛まんじゅうを食べているのを見咎めたのか、頬を膨らませて自分の分も残せと声を上げる幽々子。

 

 

審判「ラストジャッジメント」

 

「――菓子に釣られて隙を見せましたね。その食への際限なき渇望を改めながら落ちなさい」

 

 

―――その背後で、映姫が裁きを下す様に"悔悟の棒"で幽々子を差し示し、()()()()()()を発動する。円形に"悔悟の棒"と赤い粒弾が幽々子に向けて飛んで行き―――

 

 

 


 

side-カニン

 

「はむっ...ん~♪美味しいわぁ~♪」

 

 

 幽々子様は葛まんじゅうを一口食べ、頬に手を添えて瞳を子供の様に輝かせ、満面の笑みを浮かべる。服が映姫様との『弾幕ごっこ』での()()で所々焦げているものの、それを一切気にしない程に主様が作った葛まんじゅうが楽しみだった様だ。

 

 

「映姫の()()が終わってすぐこれか...相変わらずだなコイツ」

「幽々子様...確かに百年振りに師匠お手製のお菓子をいただけるとなれば、嬉しくなるのは私も解りますが」

 

 

 そんな幽々子様の様子を見て命さんと妖夢さんが揃って呆れた表情を浮かべる。

 

 

「...反省しているか疑わしいですが、これ以上騒ぐのも失礼ですからね。今回は大目に見ましょう。――さて、影政。つい先程まで空を騒がせたこと、申し訳ございませんでした」

 

 

 葛まんじゅうを食べ続ける幽々子様を呆れた表情で見ながら彼女の隣に座った映姫様は主様に謝罪する。

 

 

「急に『弾幕ごっこ』の音が聞こえてきて何事かと思ったが...被害は幽々子の被弾痕程度のようだし、謝罪を受け入れよう。――それで、どうして我が家を訪ねて来たんだ?妖夢からは、お前達と『人里』で出会して一緒について行くと幽々子が決めたと言っていたが」

「――今日午前は命と揃って非番だったので、もし在宅であれば影政に挨拶とそのついでに少々()()をしようと思い立ち、命と共に向かっていた所『人里』の茶屋に『冥界』の二人が居まして。此方の目的を伝えた所、幽々子が同行を提案し、それを受け入れて共に向かって――先程の状況に至った訳です」

「映姫と命に出会す前は、『人里』で()()食べ歩きでもしようかと思っていたのだけど。映姫から影政の家に挨拶に向かうと聞いて――"今行けば()()()()()()にありつけるかも"って、()が囁いたから同行を提案したのよ~。こうして見事に的中して良かったわ~♪」

 

 

 映姫様が我が家に来られた理由を説明すると幽々子様が補足する様に言葉を加え、また葛まんじゅうを食べる事に集中する。

 

 

「...成程、事情は理解した。今日は俺の方から幽世(そっち)に行って挨拶しようと考えていたんだが、手間が省けた形になったな。――四人共、壮健のようで何よりだ」

 

 

 四人が我が家を訪ねられた理由を聞いた主様はそう言って嬉しそうに口角を上げる。

 

 

「師匠こそ、お元気そうで良かったです。――ですが、こうして面と向かうと本当に()()()()()()になってしまわれたのが解ってしまいますね。私としては、これからも教えを授かれることの方が嬉しいですが」

「俺も妖夢(半霊庭師)に同意だ。親友(ダチ)としてはあの深傷からよく死なずに回復できたもんだと思うと同時に、こうして再会できて嬉しくも思うぜ。――だが、吸血鬼異変(百年前の異変)()()の時みてぇに()()()()()()のはもうやめろよ。影政には親友(ダチ)やら従者(部下)やら大勢居るんだ。もっと頼りやがれってんだ。――丁度いい。映姫、()()してやれ」

 

 

 主様の言葉に妖夢さんは安心した表情を、命さんは嬉しさと呆れが混ざった様な表情を浮かべながら映姫様にそう促す。

 

 

「言われずともそのつもりです。――まず、『吸血鬼異変』での『妖怪の山』への救援と鎮圧への多大なる貢献、そして鎮圧直後に動き出した首謀者に決戦を挑んだ末の討伐。正に英雄と謳われるに相応しい活躍でした。――ですが、その決戦でたった一人で吸血鬼に挑み、討伐の代償で刺し違えて深傷を負って昏睡状態に陥り――()()()()()()となってしまった。そのことを悔やみ、いつまでも目覚めないことを心配する者がどれだけ居たか。

 既に自身が()()()()()()となったことは受け止め、前を向いているようですね。そして、百年という長い眠りによって多くの者に迷惑を掛けたことを自覚し、各所に挨拶回りを行っているそうですね。実に善い行動です。

――さて。既に多くの者から言われ、釘も刺されているでしょうが関係ありません。――貴方は()()()()()()()()()。多くの者と密接な関係を築いていながら――――」

 

 

 命さんの言葉に頷いた映姫様はそのまま主様へ()()を始める。

 

―――幻想郷を担当する"閻魔"様は二人存在し、二交代制で『彼岸』に渡った魂を裁いている。映姫様はその非番の時に幻想郷(現世)に出て、誰かしらに()()を行っている。

 

―――『"閻魔"は一切の私情なく魂の善悪を裁きます。しかし、その中には悪行を働いたことを()()()()()()()()()()者が度々居るのです。ですから、こうして幻想郷(現世)で説教しているのですよ。――死後、後悔なく己の行いに基く裁きを受け入れられるように。善行を積み、冥界へ逝けるように』

 

―――ある時『人里』で住人に()()を行った後の映姫様に何となく理由を尋ねた際に返された言葉を思い返す。"閻魔"として私情も情状酌量も一切排除して公正に魂を裁く一方で、映姫様個人としては『地獄』に落ちる者は出来る限り減らしたいのだろう。だから生きている内に改心させ、善行を積ませようと()()をしているのだと言う。

 

―――閑話休題。

 

 

「...影政は真面目に聞いてるってのに、幽々子(この大食い亡霊)()()なんざ受けなかったみてぇにひたすら食ってやがる。相変わらず()()()()()菓子やら料理やらはゆっくり食うんだな」

「だってとっても美味しいんだもの~。妖忌(先代)譲りの食べなれた妖夢のお料理も悪くないけど、影政のお料理とお菓子は見るだけでもひしひしと食べる者への気配りを感じられるし、実際口にすれば食べる者をできる限り喜ばせようって真心が伝わってくるもの。だから味わって食べないとね~。はむっ...ん~♪

 

 

 命さんの呆れを多分に含ませた言葉に対し、幽々子様は申し訳無さを微塵にも感じられないにこやかな表情を浮かべながら既に十五個目に入った葛まんじゅうの残りを口に入れ、美味しさに悶える様に身体をくねらせる。

 

―――"亡霊"である為かどれだけ食べても()()()()()()、ある意味女性が羨む体質を持ち、幻想郷随一の健啖家として『人里』の食事処や茶店を恐れ慄かせている幽々子様。

 その口と胃袋で『人里』の食事処が催す大食い、早食いチャレンジの悉くを制覇して来た食事ペースは基本的に速い―――というより()()である。米一合程度は()()()()()()()()()()、普通の人が使う様な食器に盛った料理は()()()()()()()()()()()()()()()()。その為、先代(妖忌様)も妖夢さんも、幽々子様に料理を供する時は大皿や鍋、釜()()()()()()()()出している。

 

―――しかし、幽々子様は主様が作る料理やお菓子()()()()()()()()()()()ペースで味わいながら食べる。その理由は先程命さんに対して答えた通りだけど、それでは毎日三食に加えて気まぐれで要求される間食も作っている妖夢さんが可哀想だとつくづく思う。

 

 

「師匠の料理とお菓子がじっくりと味わいたくなる程に美味しいのは確かです。私もいつかそれ位の腕を目指したいですが、中々料理の研究をする時間が取れず...」

「だったら相談して料理に時間を掛ける機会を貰ったらいいじゃねぇか。幽々子(コイツ)も従者の料理が美味くなるってんなら認めるだろ」

「何度かそうやってお時間をいただいたことはあるんですが...時間を掛けると我慢できないのか、台所までふらりと来て()()()()()してしまうんですよね。その上"まだ影政には及ばないわね~"なんて評価を下されて...」

 

 

 命さんの提案に対し、妖夢さんは困った表情を浮かべる。相変わらず、幽々子様は妖夢さん(従者)に対して厳しい所があるらしい。私や藍さんですら主様が作られる料理やお菓子の出来に未だ及ばないと言うのに、妖夢さんは普段の料理に多くの時間を費やし、僅かな合間にしか研究や研鑽の時間を取れない。それなのにまだまだだと厳しい評価を下されれば妖夢さんのやる気も無くなってしまうだろう。

 

 

「...ふぅ...妖夢は時間の管理と仕事と私事の配分が甘いのよ~。妖忌は私に食事を用意しながら自分の時間を取っていたし、時々新作を出して評価を求めたりしていたわ~。まだまだ年数も浅いからそこまで強くは言わないけど、日々の仕事の割り振りと、適度な休憩時間の確保を熟せるようになれば一皮向ける筈よ~」

「...師匠にも同じようなことを言われましたね。――分かりました。しっかり休みつつ、これからも精進していきます」

 

 

 葛まんじゅうを食べながらも話を聞いていたのか、お茶を啜って一息吐いた幽々子様が妖夢さんに顔を向けてそうアドバイスする。主様と同じ様なアドバイスを受けた妖夢さんは真面目な表情で素直に頷く。

 

 

「――――重ね重ね言っておきますが、貴方には多くの親友や従者、共に創造に貢献した仲間が居ます。しかし、皆を護ろうという意志が先行するあまり()()()()()()のではその繋がりも無意味です。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。その事実を確と胸に刻み、これからは一人で全てを熟そうとせず、他者に頼るように。――貴方に頼られれば、皆も嬉しいでしょうから」

「あぁ、肝に銘じよう」

 

 

―――丁度映姫様の()()も終わった様だ。静かに、真面目な表情で聞いていた主様はしっかりと頷く。

 

 

「お、終わったみてぇだな。映姫も葛まんじゅう(コイツ)を食っとけ。()()の間に半分以上無くなっちまってるからな」

「...やはり、影政手製の菓子となると普段よりペースを落としますか。幻想郷でも随一の美味であるのは確かですし、毎日でもなく、決まった日に作るということもない気まぐれ故の希少性も鑑みれば味わいたくなるのも道理ですが。――私も百年振りですし、無くなる前にいただきましょう」

 

 

 命さんに促され、映姫様は座り直して葛まんじゅうを一つ小皿に取り分ける。その間に()()中に度々飲んで喉を潤わせていた為殆ど空になっていた映姫様の湯吞に緑茶を淹れる。

 

 

「ありがとうございます。では......百年振りというのもあってか、より美味に感じますね」

 

 

 葛まんじゅうを一口分切り分けて食べた映姫様は一瞬目を見開き、嬉しそうに目を細める。―――普段真面目で厳格な映姫様も、やはり一人の女性なのだろう。

 

 

()()()も終わったし、何かお話しましょうか。そうね~...そう言えば、もうすぐ秋に入るわね。秋は食欲の秋。今季の"豊穣祭"が楽しみだわ~」

「...今季はどれだけの味覚が幽々子(コイツ)の胃袋に飲み込まれるんだろうな。祭恒例の早食い大会にゃ確実に出るだろうし、豊作になりゃいいが」

 

 

 幽々子様の音頭で私達は世間話を始める。

 

―――時々我が家に主様と親しい誰かが訪ね、こうしてお菓子をいただきながら世間話や他愛のない話に興じる。主様の挨拶回りが終われば、本当に日常が戻って来る。後、主様が挨拶すべき場所は―――

 

 

―――to be continued―――

 

 

 





という事で、リメイク前では挨拶を飛ばしていた幽世のトップと部下2コンビでした。

次回は挨拶回り最後、『魔法の森』編です。
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