東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
豊穣祭編です。
~人里近郊の農地~
side-影政
文字で表すなら"( 農 )"と書かれた覆面を被った『人里』の農家の代表達が、各々の育てた作物を三宝に乗せ、列を成して収穫を控える秋の農地の傍に建てられた、同様に覆面を被った農家全員が囲むように並び立つ祭壇に向かって無言で、粛々と歩ていく。
「...いつ見ても、あの覆面は不気味だわ」
「何言ってるの姉さん!正に"ザ・農家"って分かりやすい見た目でしょ!」
祭壇に立ち、農家達を待つ穣子と傍で見守る静葉のやり取りが聞こえてくる。
―――"豊穣祭"は毎年秋に『人里』で催される。その開幕を彩るメインとなるイベントが、今目の前で執り行われている"
―――この祭が始まったのは、『人里』が少し大きくなり、農作を始められるようになった頃だった。ある時山を訪ね、秋姉妹と世間話をしていた時にその事を話したら穣子から真剣な表情で食いつかれた。
―――『その農作、私に一枚嚙ませてよ。私の御利益は秋に収穫できるもの限定だけど、儀式とかして信仰してくれれば効果覿面よ!...この山でも実りはあるけど、やっぱり
―――『妖怪の山』でも農作は行われている。それ故に穣子は山で農作に従事する住人から信仰を受け、御利益を与えていた。しかし、長命で"
食わねば餓え、命を失う人間だからこそ豊かな実りへの喜びは大きなもので、それは
俺は二人を連れて『人里』に向かい、慧音や当時の『御阿礼の子』、農家達と話し合いの場を設けた。話はとんとん拍子に進み、秋の作物の準備が始まる時期に"
前者は準備で農家達が忙しくなる為儀式単体だが、後者は慧音の提案で祭りも一緒に行う事となり、"
「――豊穣の神、穣子様。今季の我らの実りを、いざ奉らん」
祭壇の前に並んだ代表の一人の言葉を合図に、代表一同が作物を乗せた三宝を祭壇に捧げる。米、リンゴ、栗等々...秋に収穫を迎える作物達の代表が穣子の前に並ぶ。
「...今年も変わらず真剣に、農家の方々は仕事前に祈り、良い事があれば感謝していました。
「...もはや、半信半疑だった最初の頃とは大違いだな。人間から信仰を得られて穣子も生き生きしているし、"豊穣祭"の開催は正解だったな」
俺の隣で儀式を見ているカニンの言葉にそう返す。
「......」
穣子は真剣な表情で頷き、捧げられた作物達を検分する。彼女の御利益は
検分を終えた穣子は考え込むように目を閉じる。十数秒後―――
「――今季の実りも、誠に豊かである」
( 農)<豊作じゃぁぁぁぁぁ!!
―――満面の笑みを浮かべた穣子の宣告に、農家達が一斉に全身で喜びを表現しながら色めき立った。
「...毎年見ても、あの
「いつの間にかあんな覆面を被って儀式に臨むようになったんだが...慧音も知らないらしいし、相変わらず謎だな」
秋姉妹を囲んで色めき立つ農家達を見ながらカニンの言葉に答える。農家達に混ざって色めき立つ穣子とは違って、引き攣った笑みを浮かべてそれを眺めている静葉が可哀想だが、農家達が全身で喜んでいるのを邪魔するのは失礼だろう。
「...兎も角、今季も豊穣を迎えられてよかったですね。主様は、これからどうしますか?」
「百年振りだし、収穫に加わるつもりだ。今晩は秋の味覚で何か作りたいしな。
儀式を眺めていた観衆の中で目立つ淡い水色の装いの人影を一瞥してそう答える。
「
「ほう...そう言えば、広場の演目のプログラムを見ていなかったな」
カニンの言葉で思い出し、開催前に貰ったしおりに記された、『龍神広場』で催される演目を見る。
「――『新ゲスト登場!!禁忌の音色に震えろ!!』...ルーン以外に楽団のゲスト枠が増えるようだな」
『騒霊楽団』のコンサートの演目内訳の中で一際目立つ赤い字体で記された題名を見付けて呟く。一体どんなゲストが登場するのだろうか―――
~人里 龍神広場 特設ステージ裏~
side-フラン
<『さて!一曲終わった所で、お集まりの皆さんにご報告がありまーす!』
「...うぅ、緊張するなぁ」
「フランなら大丈夫だよ。沢山練習したし、自信を持って」
表のステージに立っている、進行役のリリカの声が聞こえてくる。緊張で
「お待たせ、フラン。...緊張しているね」
「お兄様...」
そこに、身だしなみを整えたルーンお兄様がフルートを手にやってきた。いつものような、どこか余裕を感じさせる落ち着いた雰囲気だ。
「大丈夫、フランならやり切れるさ。この日の為に、沢山練習しただろう?」
「で、でも...もし間違っちゃったら...」
「間違ってしまっても、
「間違っても、止めないで弾く...」
お兄様のアドバイスを噛み締めるように呟く。
<『今回は、我ら"騒霊楽団"に新たなるゲストが来てるよ!早速紹介しよう!』
「――さぁ、行っておいで!演奏で大事なのは
「っ...お兄様、行ってくる!」
お兄様に促され、私はカーテンを潜ってステージへと出る―――
『七色羽の吸血鬼!禁忌のショルダーキーボーディスト!"フランドール・スカーレット"だァ!!』
「ふ、『フランドール・スカーレット』!長いから"フラン"って呼んでね!...それじゃあ、早速―――」
―――秋の空の下。『人里』で催されている"豊穣祭"で、初めてのステージデビューが始まった。一ヶ月前に出逢った"相棒"―――
「「......」」
―――観客席の隅に、外行きの装いのお姉様と、日傘を差して控える咲夜の姿を見付ける。今回のコンサートに聴きに来るって言っていた通りだ。緊張が高まって一瞬言葉が詰まる。
「っ...早速ソロでやるよ!禁忌の音色に魅せられろ!」
―――お兄様が言った通り、楽しまなきゃ。緊張を飲み込み、声を張り上げて口上を述べて鍵盤に指を乗せた。
~紅魔館 門前~
side-ルーン
「ルーン様。妹様、フレア様をよろしくお願いします。道中お気を付けて」
「美鈴も、
「...ど、努力します」
「
美鈴は目を逸らし、声を震わせて答える。『紅霧異変』決行前、僕が訪ねた時はしっかり門番の務めを果たしていた。けど、
「まぁ、
「うん!」
「はい、ルーン様」
「い、いってらっしゃいませ...」
フレアを左腕に抱き、右手で日傘を差すフランを連れ、美鈴に見送られて湖の対岸を目指して歩き出す。
―――宴会の翌日、レミリアはフランと二人きりで話し合い、
―――『貴方は私達では解決できなかったことを解決してのけた、"紅魔館"の大事な恩人よ。...フランもよく慕っているし、ね?』
―――ある時『紅魔館』でレミリアとの茶会に臨んだ時に語られた理由だ。主として『紅魔館』の恩人であると言いつつも、恐らくフランから"ルーンお兄様も居なきゃヤダ!"とでも言われたのか、妬みと嬉しさが混ざった表情を浮かべていた。
―――閑話休題。
今回は『紅魔館』が建つ『霧の湖』湖畔のほぼ対岸側にある『廃洋館』にフランとフレアを連れていく。フランは今まで外に出られなかった分、より好奇心旺盛だ。今、彼女の興味を惹いているのは楽器演奏らしく、宴会で僕と"騒霊楽団"の演奏を見て憧れたらしい。それで、"騒霊楽団"の生活拠点である"廃洋館"で色々な楽器に触らせてみようと考え、今回フランを誘った。
「お兄様は、宴会の時に来てた"騒霊楽団"とどういう関係なの?」
「そうだね...正式なメンバーではないけど、偶に参加するゲスト枠ってところかな。本職はあくまで魔法使いだから積極的にとはいかないけど、偶に加わる分には僕も楽しんでるよ」
『廃洋館』を目指して歩きながら(実は霧の湖自体はそこまで広くはない)フランの質問に答える。
「そっかー。私もいつかお兄様達と一緒に演奏できるといいなぁ」
「今日はそれを見極めるために彼女達の所に行くんだ。楽器の適性は人それぞれだからね」
~廃洋館 玄関前~
side-ルーン
「...三人共いらっしゃい。待ってたわ」
「おじゃましまーす!」
「...今日はよろしくお願いします」
「今日はよろしく頼むよ、ルナサ。...入る前に、
「分かったわ。リビングでお茶とお菓子を用意しておくわね」
『廃洋館』に着き、玄関前で出迎えたルナサと挨拶を交わす。中に入る前に、ルナサにそう断って裏手にある庭に向かう。
「...お庭に誰か居るの?」
「――ルナサ達にとって、
フランにそう答えながら洋館の裏にある庭に向かう。
~廃洋館 庭の墓所~
「...ここだよ」
裏手の庭、その奥に造られた墓所の前に立つ。所々錆びている鉄柵で区画された真ん中に大きな墓石があり、『
「...『レイラ・プリズムリバー』?」
「そう。ここに住む騒霊三姉妹を創り出したのは彼女だ。病弱であまり外出できなかった娘だったけど、それでも幸せな人生を送っていたよ」
―――レイラの父、『プリズムリバー伯爵』は貿易商を営む富豪だった。姉三人『ルナサ』『メルラン』『リリカ』は各人がバイオリニスト、トランぺッター、ピアニストとして高い腕を持ち、トリオで演奏すれば『誰もが魅了される幻想的な音色』と評されていた。三人の妹であったレイラは、病弱で楽器を弾く体力も無かったが、三人の演奏を聴くことを楽しみに命を繋いでいたという。
―――しかし、ある時
―――その想いに、父と姉三人を奪った
―――『...貴方は一体...?』
―――『はじめまして。僕は"ルーン・スティルゲイズ"、しがない魔法使いさ。君の傍に居る
―――当時僕は霧の湖を散策中で、突然現れた洋館には驚かされた。そして、それがレイラと騒霊三姉妹との出逢いだった。
洋館に居た使用人達は
―――『はぁぁ...
―――『今度は憑依か。どうやら
―――『...貴女は、何者なの?どうして、この家に取り憑いたの?』
カナは元々、『魔法の森』の深奥に幻想入りした廃墟同然の家に憑いた騒霊だったらしい。しかし、『廃洋館』が幻想入りする数日前に起きた地震で家が倒壊。彼女は
―――『私ができることは何だってやるから...お願い。どうか、追い出さないでこのまま憑かせて...!』
―――『...だ、そうだけど。館の主としてはどうするんだい?』
―――『...追い出すのは可哀想ね。分かったわ、貴女を受け入れましょう』
―――『...あ、ありがとう...!』
―――レイラも僕もいきなり憑かれた事に驚いたものの、"消えたくない"という彼女の切実な願いと、家具を操れる
幻想入りしてから、レイラは十年も生きられなかった。けど、その間に三姉妹も
~廃洋館 リビング~
「――これが、私達の今までの歩み」
「...レイラって人は、本当に幸せだったんだね。ちょっと泣きそうになっちゃった」
「その様な経緯で楽団が結成されたんですね...」
―――墓所でレイラに挨拶をした後、僕達は洋館のリビングでルナサ達の生まれた経緯やレイラについてフランとフレアに聞かせていた。フランは目尻に微かに浮かんだ涙を指先で拭いながら感想を述べる。
「まぁ、『冥界』に行けばレイラには会えるし、暗い気持ちは無いよ。今の私達の目標は、『紅魔館』で宴会やった時みたいに私達の演奏を幻想郷の皆に聞かせて楽しませることだよ」
「あの時は楽しかった!お兄様のフルートも凄かったし!」
「ルーンの腕前は趣味とは思えない位よね~。フルート以外にも色々な楽器を弾けるから、私達の
「はは、そう言われると嬉しいね」
メルランの褒め言葉に少し恥ずかしさを覚えつつも微笑む。。
「...お茶もお菓子もちょうど無くなったわね。片付けて本題に移りましょうか」
「片付けは私がしておくわ。ルナサ達は先に音楽室に行ってて」
「わぁ...食器が勝手に浮いてる!手を使わずに動かせるなんて便利だね!」
カナの
「ふふ、これが私の
フランに
「カナのおかげでレイラの世話や家事も助かったね。ここに迎えられて良かったと思うよ」
「お歌も上手いしね~。それに気付いて楽団の
「歌かぁ...楽器がダメならそれもいいかな」
「それを確かめるためにも、音楽室に行こうか」
「...こっちよ。紅魔館に比べれば狭いから迷わないと思うけど」
僕達はルナサの案内で音楽室に向かった。
~廃洋館 音楽室~
side-フラン
「わぁ...楽器が沢山!」
「こんなに沢山...本当に音楽好きだったんだね」
音楽室に入ると、ケースや布で覆われた楽器が整然と並んでいた。埃も汚れも無く、隅々まで掃除が行き届いているのが分かる。
「...じゃあ、楽器に触る前に私達の得意な楽器について教えてあげるわ。私は弦楽器。特にバイオリンが好みね。基になった
ルナサはそう言って、手にバイオリンを出して軽く弾く。落ち着くけど、聞き入り過ぎると悲しくなっちゃいそうな音色だ。
「弦の長さで出る音が違うから、バイオリンとかはこうやって指で弦を抑えて調整するの。弦が長ければ低く、短ければ高くなる」
ルナサは"ド"から一段上の"ド"まで順番に音を出す。音が高くなると弦を抑える指の位置が近くなっているのが分かった。
「指の位置を覚えるのが大変そうだね...」
「音階と音が一致させられるなら、後は指の位置を調整して覚えるだけよ。...バイオリンみたいな弓で震わせるものがダメなら、ピアノも選択肢ね」
「ピアノって、
「私のは"キーボード"。ピアノは、あそこにあるヤツだよ。鍵盤を叩くのは同じだけど、音の出し方は全然違うよ」
リリカが指差す先には、赤い布で覆われた三本足の大きな楽器があった。ルーンが布を取って蓋を開くと、リリカの"キーボード"と同じように黒と白の鍵盤が並んでいるのが見えた。
「ピアノは弓で震わせるのではなく、押した鍵盤に"ハンマー"が連動して対応した弦を
「なるほどー。私にはこの鍵盤の方が分かりやすいかも」
ルナサが持つバイオリンとピアノを見比べて、ピアノの方が弾きやすそうだと思って意見をあげる。
「見ただけで判断はダメよ~?目も耳も大事だけど、実際に手足や口で演奏してみないとね。じゃあ、次は私よ!私は金管楽器、特にトランペットが好きよ。ちょっと吹き方が難しいけど、上手く吹ければきっと楽しい気分になるわ!」
次はメルランが説明を始める。トランペットを軽く吹くと、ルナサとは違って楽しくなりそうな音色が響く。
「吹き方が難しいって言ったけど、金管はただ吹くだけじゃ音は出ないわ。この"マウスピース"が重要で、口を閉じた状態で息を吹いた時の圧力で唇を震わせて発音するのよ。唇をよ~く見てね」
メルランがトランペットで"ド"の音を長く出す。唇をよく見れば、確かに小刻みに震えているのが分かった。
「トランペット自体は音を出さないの?」
「そうよ~。この管はあくまでマウスピースからの振動を大きくしてるだけなの。後は、このピストンで管の長さを調整して音を変えるわ。長さで音が変わるのは弦楽器と同じね」
メルランが"ド"から一段上の"ド"まで順番に音を出す。それに合わせてピストンを押す組み合わせが変わっているのが分かった。
「うーん、マウスピースの咥え方が難しそうだね...」
「確かに難しいわね~。フルートみたいな空気を震わせるものなら運指を覚えられればいいから、そっちから管楽器界隈に入るといいかもね~」
フルート...お兄様が前に演奏していたっけ。柔らかくて綺麗な音色だったから、吹いてみたいな。
「じゃ、最後は私だね。こう見えて私、
「楽器全般...凄い才能...」
えへんと胸を張るリリカの言葉にフレアが関心したように呟く。確かに凄い才能だけど、演奏だと後ろのあまり目立たない立ち位置に居たような...
「まぁ、私はもっぱら姉さん達の補助役だね。基になった
リリカの傍に、小さな羽が側面に付いた、様々なボタンが並ぶ黒いフレームに鍵盤が並ぶ楽器が現れる。これは
「これはピアノとは違って、
ボタンを幾つか押して鍵盤を叩くと、バイオリンの音が出てきた。
「バイオリンの音だ!見た目はピアノみたいなのに...」
「ふふん、これがキーボードの強みだよ!ピアノを弾く感覚で他の楽器の音を出せるし、オリジナルの楽器じゃ出来ない音の出し方だってできるんだよ!」
リリカは誇らしげに胸を張る。キーボードは他の楽器が及ばない所をカバーできる楽器みたいだ。バイオリンやトランペットが合わなくても、これならいけそうな気がする。
「まぁ、これは
「そうね。さっきのバイオリンの音は、私からすると
リリカの言葉にルナサが頷く。私には違いが分からなかったけど、弦楽器専門のルナサだから分かる違いがあるみたい。
「一応、僕も得意な楽器を教えておくよ。得意なのはフルートとピアノだね。他の楽器も弾けなくはないけど、この二つならしっかり教えられるよ」
「謙遜しちゃってー。私達からすると、ルーンはどの楽器でも凄い腕前だよ。本職の私達ですら魅了されるんだから。是非とも楽団に正式加入してくれたら、私が楽nゲフンゲフン...もっと人気も出て大儲け間違いなしだよ」
お兄様の言葉にリリカが茶々を入れる。『紅霧異変』
「あくまで
「むむむ...まぁ、今のゲスト参加でも儲けは出てるし、サプライズで出るからこその価値もあるよね。でも、心変わりして正式加入したくなったら大歓迎だよ!」
リリカはお兄様の言葉に渋々といった様子で納得する。でも、完全に諦めた訳でもなさそうだった。
「...じゃあ、一通り説明も終わったし、早速触ってみましょうか。フラン、どの楽器から弾きたい?」
「うーん...じゃあ――」
「――これも、何か違う気がする...」
「むむむ...鍵盤にはすぐ慣れたから行けると思ったんだけどなー」
アコーディオンを少し弾いてみたけど、
―――ルナサ達やお兄様に教わりながら、色々な楽器を弾いた。中には
「...適性はあるけど、それだけなのかしら?」
「あら、そんなことってあるのかしら~?」
「...私達には分からない感覚ね。適性はあるのに惜しいわ」
カナの考察に、メルランとルナサも悩ましそうに首を傾げる。適性があっても楽しめない...本当にそうなのかな...
「...あれは?」
―――ふと、部屋の隅に白い布に包まれたものが壁に立て掛けられてるのを見付けた。あれも楽器なら、まだ触れていないものだ。
「あぁ、あれ?結構前に『無縁塚』で拾った楽器だけど、
「...うん、見てみたい!」
「オッケー、持ってくるね」
リリカは頷いてそれを持ってくる。布を解くと―――そこには赤いフレームに鍵盤とボタンが収まった、リリカのキーボードより一回りは小さい、傷と汚れが目立つ楽器だった。
「...リリカ貴女、いつの間にこんなものを...」
「ごめんごめん、弾けるものだったらちゃんと報告するつもりだったんだけど...」
ルナサが半目でリリカを少し責めるけど、私は目の前の楽器から目を離せなかった。リリカは動かせないと言っていたけど、もし動くのなら―――
「ふむ...キーボードとは違う形だね。可搬性を重視してるのかな?」
「『香霖堂』の店主に聞いてみたら、
リリカは楽器の両端から伸びた太く平べったい紐を左肩に提げ、両手で楽器を支える。
「それっぽい感じね~。肩に提げるキーボードだから、『ショルダーキーボード』って所かしら?弾くことができたら良かったのに~」
「...多分、その楽器は
「
お兄様が知らない言葉をあげる。"気"ってことは、何かのエネルギーかな?
「幻想郷では今の所
「へー、そんなエネルギーがあるんだ。私達の霊力みたいなものかな?」
予想通り、ものを動かすのに必要なエネルギーらしい。でも、幻想郷では
「...ふむ...リリカ、その楽器貰っていいかい?」
「え?...もしかして、
「...!」
お兄様は私をチラリと見て、リリカに尋ねる。その提案に私は思わず翼を大きく揺らしてしまう。
「幸い、河童と接触できる
「流石ルーン!それならあげちゃうよ!但し、動かせるようになったら私達に音色を聞かせてよね!」
リリカはあっさりお兄様に楽器を渡す。
「できる限りのことはするよ。――僕も、フランが弾く姿を見てみたいしね」
やっぱりお兄様は私が気なっているものだと気付いていた。...『紅霧異変』の時みたいに、またお兄様のお世話になっちゃう。でも、その好意に応える為にも...!
「ありがとう、お兄様!私、頑張って練習するから!」
「...フラン、まだその楽器が動くかどうかも分かってないよ」
「はは、気が早いよフラン。...でも、その意気だよ。僕も時間があったら練習に付き合うから、頑張ろう」
お兄様はフレアのツッコミに苦笑しながらも、楽しみだと言いたげな表情でそう言った。
―――それから私とお兄様は洋館から帰ってきたけど、美鈴は
~人里 龍神広場 特設ステージ観客席~
side-レミリア
『~♪』
「...妹様、素晴らしい演奏ですね」
「あの楽器が届いてから、ずっと練習していたもの。流石、私の妹ね」
―――『人里』において、毎年秋になると開かれるという"豊穣祭"。祭の恒例イベントだという『騒霊楽団』のコンサートに、初めてフランが参加するということでその演奏を聴きに来ていた。
―――『やぁ、フラン。君に届け物だよ』
―――『お兄様!背中のそれって...!』
―――フランがルーンと『廃洋館』を訪ねてから二週間程経った頃だっただろうか。『紅魔館』を訪ねたルーンが"ショルダーキーボード"なる楽器を持って来た。元々壊れて動かなかったものを、『妖怪の山』に棲む河童に直して貰ったという。
ルーンからそれを受け取ったフランは、翼を揺らして思い切り喜んでいた。お茶の席でルーンから聞いた話によれば、『廃洋館』でフランの
―――『レミリア。パーティーホールにあるピアノ、使っていいかい?楽譜を見せたり、口頭で教えるにも限界があるから、実際に弾いて見せて教えたいんだ』
―――『...そういう理由なら構わないけど、時々練習を見に行ってもいいかしら?』
―――パーティーホールには、お母様がよく弾いていたピアノが据えられている。私を生んでから五年後、フランを生んだ際の産褥熱が深刻化して亡くなってしまったから記憶は朧気だけど、お母様のピアノの音色は何故か鮮明に思い出せた。
お母様が亡くなってからは時々使用人が掃除をするだけで誰も弾かなかったピアノは、数百年経っても調律の必要が無い程に状態が良かった。
―――『~♪...じゃあ、弾いてみようか』
―――『うん!...~♪』
―――ルーンがピアノでメロディを奏で、フランはそれを真似するようにキーボードを弾く。最初はそんな風に弾いていたけど、『紅魔館』でルーンと練習したり、『廃洋館』で楽団と練習したりを続けて二週間経った頃には時々弾き間違いはあるけどフラン一人で短い曲を弾けるようになっていた。
それを皮切りにフランの演奏の腕はどんどん上達していき、一人で聞き惚れてしまうような演奏が出来るようにまでなってしまった。亡きお母様が見ていたら、フランの音楽の才能にどんな反応をしていただろうか。
―――『...お姉様、あのね...お願いがあるの』
―――『"騒霊楽団"から誘いが来てね。このチラシを見てほしい』
―――そして、時々フランの練習に付き合っていた、音楽のプロである"騒霊楽団"が才能を開花させたフランを逃す筈が無かった。"豊穣祭"での楽団のコンサートで、フランがゲストとして参加したいとお願いしてきた。
『紅霧異変』でフランは
―――けど、一ヶ月経つかどうかの日数で、『人里』で人間達の目に触れさせる事に不安があった。吸血鬼であるフランを恐れないか、
―――『可愛い妹の頼みだものね。いいわ、許してあげましょう。――その代わり、私も聴きに行くから。私の妹として、外聞に恥じない最高の演奏をしなさい』
―――『...分かった!私、頑張るから!』
―――でも、目に入れたって痛くない妹の願いを断るなんて出来なかった。フランはそれから一層練習に励んだ。夜更かししてまで練習しようとしたから流石にそれは止めたけど、最高の演奏の為に努力する姿は見ていて飽きなかった。
『~♪...っふぅ...』
『っ...私の演奏、楽しんでくれてありがとうッ!!』
「...見事だったわ。咲夜もそう思うでしょう?」
「はい。今までの練習以上に、素晴らしい演奏でした」
演奏が終わり、フランが息をついたのを皮切りに、満場の拍手が広場に響き渡る。ミスも無く、フランらしい明るく力強い演奏だった。私も咲夜も例外無く拍手でフランの演奏を褒め称える。
拍手を浴びるフランは、感無量と言った、泣きそうな嬉しそうな表情を浮かべ、思い切り頭を下げる。
―――さて、これからの演目にも参加しているあの子の演奏を楽しみましょう。全てやり切って、
「――沢山、褒めてあげないとね」
「...お嬢様?」
「何でもないわ。――さて、フランは小休止みたいね。流石に初めてで連続は辛いでしょうし、妥当な采配ね。...次はルーンが出てくるかしらね。あの魅力的な音色が楽しみだわ」
そうはぐらかし、裏手に戻るフランを見送った。
前作と違って後編の冒頭を繋げました。一応次話を後編で考えていますが、ネタ次第では中編になるかもです。