東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

32 / 50

豊穣祭の続きです。キャラが色々出て来ます。



幻想閑話-9-2~豊穣祭にて~

~人里 屋台通り~

 

side-小傘

 

 

「はいよ、焼き芋一本!」

「おじちゃん、ありがとー!」

 

 

 焼き芋の屋台を構えている八百屋のおじちゃんから古新聞紙に包まれた焼き芋を受け取る。包みを剥けば、ホカホカと湯気を立てる紫色が顕になる。

 

 

「あむっ...んー、美味しい!」

 

 

 一口齧れば、ホクホクした食感と甘さが口の中を支配する。秋の味覚と言ったらやっぱりサツマイモだね!また一口齧りながら、里の住人や里の外から来た妖怪で賑わう通りを歩き出す。

 

 

―――"豊穣祭"が始まって、『妖怪の山』に住んでいる豊穣の神様も加わって収穫された秋の味覚が屋台に届けられ始めた午前。焼き芋以外にも色々な秋の味覚を使ったお料理やお菓子、秋らしい小物やアクセサリーが並ぶ屋台を見て回るだけでも楽しく感じられる。

 

 

「師匠も楽しんでるかなー」

 

 

 舞い込まない日が無い依頼をこなして忙しい師匠も、こういったお祭りの日は炉の火を落として参加する。一人でブラブラしてる事もあるけど、大体は親友の人達と一緒に歩く。

 今日は影政さんとも親友だという()()()()()()()と歩いているはずだ。いつも無愛想な顔で、射殺せそうな鋭い目付きと眼鏡もあって怖い印象があるけど、師匠曰く"公私の切り替えがしっかりしてるいいヤツ"らしい。

 確かに悪そうな感じはしないけど、仲良くないと名前で呼んでくれないのはちょっとイヤだ。いつか"唐傘のガキ"って呼ばれなくなる日を実現する為にももっと仲良くならないとなぁ。

 

 

「さぁさぁ、寄ってらっしゃい見てらっしゃい!『妖怪の山(お山)』の秋の味覚に河童謹製の最新道具!商売だから無料(タダ)は無理だけど、『妖怪の山(お山)』の恵みが豊穣祭(お祭り)特価でお安いよー!」

 

 

 通りに並ぶ屋台の中で、露店を広げて客寄せをしているたかねさんを見かける。普段から時々『人里(ここ)』に来て『妖怪の山』で作られた色々なものを売っている行商人で、"豊穣祭"では毎年ああやって普段より安い値段で売っている、と師匠がいつだったか言っていた。普段はそこそこ値が張って手が出せないものがかなり安く手に入る数少ない機会だから、結構な数の人間が露店の前に集まっている。

 

 

「いっぱい居るなぁ。何を売って――」

 

 

―――ヒュゥッ...

 

「――ん?今何か...」

 

 

―――ふと、私の傍を一瞬()()()()()()()が通り過ぎたのを感じて足を止めて振り向く。

 

―――振り向いた先には、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の後ろ姿と、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()の後ろ姿が歩いて行くのが見えた。女の人は歩き方がすごく上品で、後ろ姿だけでも気品を感じられる。でも―――

 

 

「――あんな人達、人里(ここ)に居たっけ?」

 

 


 

side-翔琉

 

「...今年も盛況で何よりだ。穣子も例年以上に生き生きとしていた。今季の実りは例年以上のようだな。...何か食べ歩かないか?」

「...いや、いい」

 

 

 隣を歩く飛鳥に尋ねると変わらない表情のまま変わらない答えが帰って来る。細く凛とした赤い双眸には未だ警戒の眼差しが宿っている。

 

―――『天風飛鳥』は『妖怪の山』を治める長"天魔"にして、現状唯一の"古天狗"―――()()()()()()()()()だ。『九天の社』に住まい、祭事や御前公務以外では山の住人に姿を見せず、その時も御簾越しの影でしか姿を見せない。そんな"天魔"の務めを―――()()()()()()()()()社会構造を、()()()()()()()()()()()()()()()()今も継続している。

 

―――『()()()()()()()()()を知るのは私だけだ。多くは今の階級社会を当たり前のものだと認識している。故に、私の役目――"天魔"の役目は必要だ。姿を極力晒さず、力を示すことで畏れを抱かせ、今の社会構造を統制、維持する。...だが...時々、この役目を()()()()()()()()()()()()。階級に縛られたこの在り方は――私には窮屈過ぎる』

 

―――飛鳥自身は、内心でその役目を窮屈だと感じているというのに。だから、私と同じ様に()()()()()()()()()()()()()()()()龍の許可を得て、度々()()()に連れ出してやりたい事をやらせて気分転換を図っている。だが―――

 

 

「...こうして連れ出している度に言っている気がするが。折角()()()に出てきたんだ――()()()()()()いいんだぞ」

「...射命丸も居た。下手なことをして私の事がばれてしまっては...」

「...文は飛鳥の姿を知らないし、この隠形術で妖力も完璧に隠されている。...仮に見抜かれても、文は黙っていてくれる。...これも何回か言った気がするが」

 

 

 私の言葉に飛鳥は最早聞き慣れた答えを返し、思わず眉を八の字に曲げてしまう。

 

―――このお忍びの外出を始めた当初と比べると素直に連れ出される様になったが、文やにとり、たかねと言った山の住人に自身の正体がバレる事を警戒し続け、ただ歩いて回るだけになってしまっている。連れ出す度に大丈夫だと言っているが、それでも飛鳥は気を緩めようとしない。

 

 

「...自分の役目を果たそうという心意気は結構。...問題は、その役目が飛鳥に合っていないことだ。"役目だから"、そう理由を付けていても限界は来る。――"天魔"が倒れる。そんな最悪な事態を防ぐ為にも、飛鳥には――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()には、心に余裕を持って欲しい」

 

 

 そう言って飛鳥の―――母上の瞳を見つめる。

 

―――私は()()()()()()()()()。赤ん坊の時、山の中にあった打ち捨てられた小屋で泣いていた所を母上に拾われ、彼女の手で育てられたと聞いている。"鴉天狗"の様な翼と"白狼天狗"の様な尻尾を持ち、翼も尻尾も髪も、黒でも白でも無く()()である唯一種族"灰天狗"。山に住むどの天狗にも当てはまらないその異質さ故に天狗(同胞)達から白い目で見られ、いびられ虐められたが、差別せず寧ろ興味を持った龍や文、はたてと交友関係を結べたおかげで少しずつ受け入れられ、母上はそれを静かに応援してくれた。

 

―――だからこそ、()()に縛られている今の母上の心に余裕を持たせてあげたい。私を育てていた時の様に、物静かながら外で遊ぶのに付き合ってくれたり、お忍びで()()()に出て色々なものを見せてくれた活発さがあったあの姿を見たい。

 

 

「――母と呼ばれるのも久しぶりだな。...お前が独り立ちしてから今まで、そう呼ばれたことはなかった。...不思議なものだ。懐かしいのは勿論だが、心が暖かくなる」

「...母上が私を育てていたことで陰口を叩く者が少なからず居たからな。――吸血鬼異変(百年前の異変)でそういった者達が軒並み死んだおかげだ」

 

 

 久方振りに母上と呼んだおかげか、少し柔らかくなった表情で微かに口角を上げる。

 

―――彼女の権威を傷付けぬ様にと、私が独り立ちしてから今まで息子としてでは無く"天魔"として接していた事が図らずも彼女に不安を与えていたのかもしれない。

 

 

「...息子の頼みだ。これからは少し、()()()()()()みよう。...む。あの屋台、随分人が並んでいるな」

「...どの屋台も()()の筈。それでもあんなに並ぶ程に人気か...気になるな」

 

 

 母上が指差す先を見れば、随分と人が並ぶ屋台があった。

 

―――"豊穣祭"では『人里』で商売を営む者や有志達が収穫された秋の実りを利用した料理や菓子、工芸品を作って()()で祭への参加者に供する。祭が計画された当初は"利益を得られない"と商人達が難色を示したが、穣子が『秋の恵みは皆仲良く享受するべきよ!お金を取って恵みを受け入れられない人が出るなんて言語道断よ!』と強く主張した事で()()提供が慣例となったと、祭の計画に携わった影政(親友)から聞いている。

 

 

「...ふむ、この匂いは栗だな。あの屋台では栗を使ったものを供しているようだ」

「...栗か。少し覗いて――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「影政様、茹で終わりました!」

「そのまま切って実のくり抜きに移れ!渋皮を入れないようにな!」

「っと...ら、藍様!影政様!追加で栗が来ました!」

「思ったより早いな...!橙はその栗を茹でろ!火の扱いには気を付けろよ!」

 

 

―――並ぶ人々の隙間から覗くと、栗きんとんを作って置台に陳列しながら指示を飛ばす影政(親友)と、それに従って慌ただしく動く藍と橙(八雲の式神二人)が居た。

 

 


 

side-藍

 

「栗の追加も無い...落ち着いた、か?」

「...そうみたいだな。今の内に一息吐こう」

「はい。――お疲れ様です、影政様。橙もよく頑張ったな」

が、頑張りました...

 

 

 行列が無くなり、暫くは大丈夫だろうと判断して長椅子に座り、ゼェゼェと息を吐きながらお茶を飲む橙の頭を撫でてやる。

 

―――紫様からお休みをいただき、橙と共に"豊穣祭"を楽しもうと歩いていたら、屋台で栗きんとんをお一人で何十個も作っている影政様に出会してしまった。理由を聞く前に、明らかに人手が足りないと分かって咄嗟に橙と共にお手伝いに加わった。

 加わった当初客は数人だけだったが―――影政様が作られる菓子は幻想郷随一である。その絶品振りが参加者の間に広まって次々と集まって列を成し、出来上がらせて並べた端から品切れになる多忙振りになってしまった。

 

―――『...誰かと思ったら影政だったか。道理で人が並ぶ訳だ。...いくつか貰おう。手伝いは――藍と橙(八雲の式神二人)が居るなら大丈夫だな』

―――『...!...成程、これは実に...これ程並ぶのも道理だな』

 

―――『わぁ、影政のお菓子!ある分全部ペシッ!うぐ~...』

―――『私達の後ろにも沢山人が居るんだからダメよ。...まさか貴方が屋台を構えていたなんてね。二個ずつ...へぇ、冷やした状態での持ち帰りもできるのね。お土産に夢幻館()の皆分も貰おうかしら』

 

―――『あら、影政じゃない。随分繫盛してるわね。一つ試しに...!...成程ね...ふむ、持ち帰りで紅魔館(うち)の住人全員二つずつで貰おうかしら』

―――『...!これは...ルーン様のお話は事実のようですね』

 

―――『――よし、できたぞ。これを並べてくれ』

―――『はい!――ん?いつの間にこんなに無くなっていたんだ?持ち帰り用の箱と冷却符も一つずつ...*1

 

―――『行列ができていて何だと思ったら、君か。これは栗きんとん、とかいう菓子だったか。行列ができるのならさぞ...!ほぅ、これは...』

―――『...何という美味しさ...まさか影政さんにこのような才能があったとは...!』

 

―――屋台には見知った者達も多く並び、栗きんとんの美味しさに驚き、土産にと持ち帰ったりしていた。忙しくはあったが、多くの者が喜んでいたのを見ていると此方も嬉しくなる。こうして作り甲斐が生まれるから、影政様は常に手を抜かず菓子を作られているのだろう。

 

―――閑話休題。

 

 

「――しかし、何故屋台で菓子作りを?豊穣祭(この祭)では飛び入りでの屋台設置も許されていますが...」

「...最初は"謝穣の儀"を終えた後の収穫に参加していた。俺は栗の収穫を任されたんだが――そこで同じく参加していた幽々子と妖夢と居合わせてな。収穫中に、"収穫が終わったら、この栗でお菓子を作って欲しいわ~。ちょっと食べ歩いたら取りに行くから~"と頼まれて、飛び入り参加用の屋台の資機材を借りて作っていたら――」

 

 

 

 

「――大繫盛だったわね~。()()()()()()するだけであの行列。流石影政ね~」

「――お前か。()()は頼んでいなかったんだが...まぁいい。――で、妖夢が居ないようだが?」

「妖夢にはお昼を取りに行かせてるわ~。色々頼んだからちょっと時間が掛かると思って、こっちに来たのよ~。――で、ちゃんと()()()は作ってあるわよね~?」

「あぁ、ちゃんと分けてあるぞ。――ほら、持っていけ。ちゃんと妖夢にも分けてやれよ」

 

 

―――幽々子様がふらりと屋台の前に立ち、私達に声を掛けてくる。それに気付いた影政様は呆れた表情で幽々子様を見る。どうやら彼女は何か()()()をした様だ。屋台の下に隠す様に置いていた冷却符付きの紙箱を影政様から受け取り、目を輝かせる幽々子様に尋ねる。

 

 

「――幽々子様、一体何をされたのですか?」

「別に妙なことはしてないわよ~。ただ、参加者に"紅装束の男が美味しいお菓子を作っている"ってちょっと触れ回っただけよ~」

「――あぁ、間違いなくそれが原因ですね」

 

 

 幽々子様の答えに思わず半目で睨んでしまう。どうやら自分の為の菓子作りを頼んでおきながら、頼んでいない客寄せを勝手にした様だ。それで影政様の負担を増やすとは...幽々子様に加虐趣味は無い筈だが。

 

 

「そんな睨まないでちょうだいな~。幻想郷随一の影政のお菓子を独占するなんて、皆が可哀想じゃない。『人里』の人間はごっそり世代交代しているし、新たに幻想郷の住人になった娘達も居るから、影政のお菓子の美味しさを知ってもらいたかったのよ~」

「尤も...でもないですね。影政様のご負担を増やすだけでしょう。私と橙が手伝っていなければどうなっていたか...」

 

 

 どうやら影政様の菓子の美味しさを周囲に広める為にやった様だが、影政様のご負担を増やす理由にはならない。百年前までの様に、手伝いを求めずお一人で全てをやろうとしていたら―――

 

 

「...確かに大変だったが、『地底』で"鬼"連中の宴会の為に一人で大量の料理を作った時に比べればかなり楽な方だ。そう目くじらを立てる必要はない」

「...その件はいつだったか紫様に愚痴っていましたね。――しかし、親友関係であるとはいえ甘すぎるのでは?趣味であるとはいえ、多忙を極めて倒れてしまったり、特に腕を()()ことになってしまっては...時には無理だと拒否するべきです」

 

 

 幽々子様をあまり責めるなと影政様は仰るが、そう意見を挙げる。菓子作りだけでなく料理もするのであれば、腕と手は重要だ。酷使が過ぎて料理や菓子作りが出来なくなってしまったら、どれだけの人が悲しむ事になるか...

 

 

「影政の腕を酷使するつもりは毛頭ないわ~。これでも限界は見極めているつもりよ~。...とは言え、無理なら無理と言ってもいいのよ~?――その腕が何より大事なんだから、ね?」

「あぁ、分かっている。必要なら手伝いも求めるし、藍と橙のように手伝いを申し出てきたら受け入れるつもりだ」

 

 

 影政様は幽々子様の言葉に素直に頷く。―――百年前までであれば『お前達に負担は掛けられない』と断られていただろう。改めて、吸血鬼異変(百年前の異変)による影響をよく理解して反省されている事を実感して嬉しくなる。

 

 

「じゃあ、私は広場に行くわ~。改めてありがとうね~影政」

「あぁ、またな。祭を楽しんでくれ」

 

 

 ひらひらと手を振って屋台を離れていく幽々子様を見送る。

 

 

「――さて、手伝ってくれた礼だ。お前達も食べるといい」

「わぁ...!」

「...いつの間に私達の分を?」

「お前達が手伝いに加わってくれた時点で少し選り分けておいたものだ。――元々祭を楽しむ為に来ただろう?それを邪魔してしまったことへの償いでもある」

 

 

 影政様は幽々子様の分と同じ様に隠していた箱を取り出し、手が空いていた橙に渡す。箱の中には栗きんとんが八個程入っていて、驚きながら尋ねるとそんな答えが返って来る。―――相変わらず、律義で気配りが上手い方だ。

 

 

「...では、ありがたく頂戴します」

「ありがとうございます、影政様!」

 

 

 橙と揃って礼を言い、早速栗きんとんを一つ手に取って一口食べる。―――砂糖を少なめに混ぜた、栗を引き立たせる甘さが口に広がった。

 

 


 

 

~人里 特設ステージ裏手~

 

side-フラン

 

 

「...皆、お疲れ様。はい、これ。お茶とリンゴよ」

「ありがとう、『アリス』。態々こっちに来て用意してくれたんだね」

「『アリス』...?」

 

 ルナサ達楽団メンバーが演目終了の挨拶をしている合間に、お兄様、フレアと一緒に裏手に戻ると―――ウェーブがかかった短い金髪にフリルを飾った赤いヘアバンドを付け、青いロングドレスのノースリーブのワンピースの肩に白いケープを羽織り、首周りと腰にフリルを飾った赤いリボンを巻き、茶色の革ブーツを履いた―――お人形がそのまま人間大になったような綺麗な人が、折り畳み式テーブルの上に緑茶と切ったリンゴを用意して待っていた。傍には二体のお人形が浮いている。

 

 

―――演奏は大成功だった、と自分では思う。最初のソロ演奏を乗り越えたら、後はお兄様が言っていたように楽しんで演奏できた。カナの歌の伴奏をしたり、お兄様と二人で演奏したり、裏手で見ていたフレアが飛び入りで参加して来て、カナと同じくらい歌が上手なのが分かったり―――本当に楽しかった。帰ったらお姉様と咲夜に感想を聞いてみようと思う。『客観的な意見も大事だよ』ってお兄様が言っていたけど、どんな感想を言われるか少し不安だ。

 

―――閑話休題。私はフレアと一緒にお兄様から『アリス』と呼ばれた人と相対する。

 

 

「そろそろお昼だけど、疲れたでしょうし何か口に入れた方がいいと思ったのよ。...さて、ルーンから話は聞いていたけど、貴女達と直接会うのは初めてになるわね。私は『アリス・マーガトロイド』、『魔法の森』に住んでいる"魔法使い"よ。彼とは同じ魔法使い(同業者)だから、()()()()()()()()()()()があるの。気軽に"アリス"と呼んでね」

「へぇ、お兄様の知り合いなんだね。私は『フランドール・スカーレット』、"吸血鬼"だよ。名前がちょっと長いから、"フラン"って呼んで欲しいな」

「...私は『フレア』。"人形"で、フランの友達」

「フランにフレア、ね。よろしくね。...ふむ、この子が...興味深い...

「...?」

 

 

 お互いに自己紹介すると、アリスはフレアを見つめて青い瞳を細めて何か呟く。アリスの傍で浮かんでいる二体とは違って、感情や人格を持っているフレアが気になるみたいだ。

 

 

「...あぁ、ごめんなさい。ちょっと思考に耽りかけたわ。観客席で見ていたけど、初めての参加であんなに素晴らしい演奏ができるなんてね。"騒霊楽団"もいい人材を掘り出したわね」

「えへへー。お兄様がこの"相棒"を直してくれたおかげだよ。この子で弾くと、私も楽しくなれるんだ」

 

 

 アリスに褒められ、恥ずかしさと嬉しさにはにかみながら肩に提げていた"相棒"を見せる。『廃洋館』で見付けた、()()()()()()()()"ショルダーキーボード"。

 お兄様は"河童"に頼んで壊れていたのを直してくれただけでなく、私のスペルカード『禁忌 レーヴァテイン』からアイデアを貰ったと言う()()()()のような装飾を加えてくれた。

 私によく似合う見た目も好きだし、リリカのキーボード程ではないけど色々な音を出せるから、どんな演奏にも合わせられてもっと楽しくなる。

 

 

「ふふ、素晴らしい"相棒"を得られて良かったわね。私もこの子達を"相棒"として大事にしているからよく分かるわ」

《シャンハーイ》

《ホーラーイ》

 

 

 アリスに応えるように、右側に浮く青いワンピースのお人形と、左側に浮く赤いワンピースのお人形が機械的な、でもどこか愛嬌を感じられる声を出す。

 

 

「青い服の方が『上海(シャンハイ)』、赤い服の方が『蓬莱(ホウライ)』よ。私は"人形遣い"でもあるから、人形を操ったり、作ったりするのだけど、この子達は思い入れもあるし、私の()()に一番近い存在でもあるの」

()()?」

「えぇ。――"()()()()()()()()()"。糸を繋いで操る、命令を一々出す必要も無く、()()()()()()()()()()()()()()()()()。そんな人形を実現するのが私の最大の目標なの」

「それって...」

「...私みたいな、もの?」

 

 

 アリスの()()がどんなものか分かり―――フレアを見る。フレアは言葉も話すし、自分の意思で動いている。―――正にアリスが作ろうとしてる人形が、目の前に居た。

 

 

「その通りよ。ルーンからフレア(その子)については聞いていたから、直接見てみたかったの。...今ここに来たのも、それが目的でもあったのよ。気を悪くしたなら、ごめんなさい」

「ううん、大丈夫だよ。パチェだってフレアを見た時は似たような反応だったし、乱暴なことをしないならいいよ。ね、フレア?」

「うん。...私が普通の人形じゃないのは解ってるから、興味を持たれて当然。でも、無理矢理アレコレされるのは嫌、かな」

 

 

 私達に謝るアリスに対してそう返す。フレアは私の大事な友達だから、友達が嫌がるようなことをしないなら大丈夫だ。

 

 

「なら良かったわ。...本当なら家に招いて色々調べたいけど、今は"豊穣祭"を楽しんで欲しいからまた今度にしましょう」

「そう言えばアリス、今回は()()()はやらないんだね?祭りのチラシの演目に無かったから少し驚いたよ」

「...人形劇?上海と蓬莱みたいなお人形を使うの?」

 

 

 お兄様が気になる言葉をあげる。アリスは"人形遣い"でもあると言っていた。どんなものなのか気になってアリスに聞いてみる。

 

 

「...フランは『人里』に来るのは今回が初めてだったわね。なら知らないのも仕方ないか。私は"人形遣い"でもあるけど、これは私の()()――『人形を操る程度の能力』に由来するの。上海と蓬莱だけじゃなく、ごく普通の人形すら自在に、何十体でも()()()()()()()()()()()で操ることができるわ」

「何十体も同時に...すごい()()だね!」

 

 

 アリスはすごい()()の持ち主みたいだ。()()を使っている様子を見てみたいけど、今は見れなさそうなのが残念だ。

 

 

「ふふ、お褒めの言葉ありがとう。...その()()を利用して、私は主に『人里』で"人形劇"を催しているの。脚本も小道具も舞台も衣装も人形も...偶にルーンや他の魔法使い(同業者)にも手伝って貰うこともあるけど、基本的には()()()()()用意しているわ」

「一人で全部?!それって大丈夫なの?」

「実際大変だけど、私がやりたくてやってることだから。それにやり甲斐もあるから大丈夫よ。必要なら手伝いも求めるしね」

 

 

 一人で全部用意して"人形劇"をやっていると聞いて驚いたけど、アリス自身が大丈夫だと言うなら大丈夫なのだろう。

 

 

「...で、この"豊穣祭"でも"人形劇"を毎回催しているんだけど、今回は()()()()()()()()間に合わなかったわ。匿名希望だから名前は伏せるけど、『人里』の住人から脚本ネタの持ち込みがあったから、それの用意を進めているの」

「珍しいね。普段なら脚本はすぐに出来上がらせるのに」

「...脚本のネタを()()()()()()()()()()()()()()()()とも依頼されてるのよ。今までの歴史や童話を基にしていたのとは違って、創作が入るから難しいの」

 

 

 お兄様の言葉に、アリスは困ったように眉間に皺を寄せて答える。どうやら脚本に詰まって今回は"人形劇"が出来なかったらしい。一体どんな内容なんだろう...

 

 

「...でも、何とか脚本は形になりそうだから大丈夫よ。そうね...アンコールの劇をやることもあるし、"魔法使い"としての活動もあるから、諸々の準備も済ませることも考慮して...来年には見せられるかもしれないわね」

「来年...一人でやるならそれ位は掛かるよね。でも、私もその劇見てみたいなぁ」

「私も、見てみたい...!」

 

 

 フレアと揃って、アリスの"人形劇"に興味が湧いた。一体どんな劇をやるのかすごく気になる。

 

 

「ふふ、開催の目処が立ったら指名して招待してあげるわ。...それからさっきも言ったけど、アンコールで他の劇をやることもあるから、それを見て私の"人形劇"がどんなものか知ってくれると嬉しいわ」

「それがいいね。いつ見てもアリスが一人で何体もの人形を精巧に操る様には驚かされるよ。劇を開くなら、僕がフラン達に伝えよう」

本当?!ありがとう、お兄様!

「おっと...」

 

 

 お兄様の提案に嬉しくなって抱き着く。『紅霧異変』が終わってから、お姉様もずっと昔みたいに私を可愛がってくれるけど、お兄様も同じくらいに私を可愛がってくれるし、私が分かりやすいだけかもしれないけど、本当の兄妹みたいに私の考えていることを読める。―――()()を克服できて、フレア(友達)もできたし、本当にお兄様に出逢えて良かった。

 

 

「ふふ、兄妹みたいに仲が良いわね。...懐かしいわね。私も昔は...

 

 

 お兄様のお腹に頭を擦りつけていると、その様子を見ているアリスが何か呟いていたのが聞こえた。でも、何を言っていたかは分からなかった。

 

 

「ふぃー、二人共お疲れー...って、アリスじゃん」

「...そう言えば、観客席に居たわね」

「あらあら~、フランちゃんはお楽しみ中だったかしら?」

「...あっ、これはその...!」

 

「四人共、お疲れ様。素晴らしい演奏だったわ」

「ふふ、ありがとう。アリスはルーンとフランに会いに来たのかしら?」

「えぇ、そんな所よ」

 

 

―――そこに、楽団の皆が挨拶を終えて戻ってきた。メルランからちょっとからかわれて、慌ててルーンから離れる。その隣でアリスがカナと会話を交わしている。

 

 

「皆、お疲れ様。...改めて、今回はフランを招いてくれてありがとう。フランも楽しめたようだし、コンサートも大成功で終えられて良かったよ」

「皆...本当にありがとう!

「ありがとう...!」

 

 

 お兄様の言葉に続いて私はフレアと揃って楽団の皆に頭を下げる。

 

 

「...こちらこそ、招きに応えてくれたことを感謝するわ。楽団に新しい音色を迎えられて何よりよ」

「私達も楽しめたから良かったわ~。これからも、一緒に演奏(セッション)しましょう!」

「全く、正規メンバーに加えられないのが残念だよ。...でも、演奏(セッション)を楽しんでくれるなら、これからも一緒にやろうね」

「フレアも歌が上手だって分かったし、私達が得られたものも大きかったわ。...ありがとう、二人共」

 

 

 楽団の皆はそれぞれ笑みを浮かべながら答える。―――『紅霧異変』が終わった後の宴会で興味を持ってから、"相棒"を見つけて沢山練習して、今回のコンサートへの参加。私の我儘に応えてくれたお姉様とお兄様、私の為に親身になってくれた楽団の皆―――本当に、出逢えて良かった。

 

 

「...もうお昼になるわね。ルナサ達も来たし、追加でお茶とリンゴを用意するわ。小休止して片付けたら、祭りを回りましょうか」

「気が利くねぇアリス。じゃあ、そうしよっか」

「午後からは焼き芋の大食い大会だったわね。...確か()()()()()()()()()()はずよ」

「...あらあら~」

「...もう結果が目に見えてるわね」

「...ルナサとメルラン、何だか遠い目をしてる...?」

 

 

 アリスの提案に皆賛成して、追加のリンゴとお茶が用意されている間に少し片付けながら、そんな会話を交わしていた。

 

―――片付けてお昼を食べ終えた午後に大食い大会を見たけど、すごかった。紅魔館(うち)だと美鈴が一番食べるけど、それすら足元に及ばない量を食べていた。あの身体のどこに入ったんだろう...?

 

 


 

~人里 西門~

 

side-影政

 

 

「ふふ、沢山食べれて満足だわ~。妖夢、夜は()()()でいいわよ~」

「...分かりました。...()()()()()()()()()まだ食べる余裕があるなんて...」

「...マジでどんな腹してやがんだコイツ」

幽々子(コイツ)が参加するとどうしても()()()()な。余りは欲しいヤツが貰えるからそれ狙いの連中も居たろうに...」

 

 

 "豊穣祭"がお開きとなった夕方。俺は里の西門でカニン、命、宗二、小傘と共に幽々子と妖夢を見送っていた。藍と橙とは昼頃に屋台を畳んで別れたが、祭を楽しめていただろうか。

 

―――大食い大会は案の定幽々子が圧倒的な記録を残して優勝した。二位は夢月だったが、ダブルスコアを優に超える差を付けていた。メダルと賞品授与の際に穣子が引き攣った笑みを浮かべていたがそんな反応になるのも当然だろう。

 その後は祭りで出ていた料理や菓子の屋台を一軒一軒回って、()()()()()()()()()食べ尽くした。恐らく祭りに供された秋の実りの()()()()は幽々子の腹に収まっただろう。相変わらず、際限を知らない胃袋の持ち主だ。

 

 

「大皿に何十本も盛られていたのに、()()()()()()()()()()()()()なんて...大会の後も屋台を回って沢山食べてたけど、お腹大丈夫なの?」

「大丈夫よ~。いつもに比べたら()()()()()()()()()()()けど、お夕飯くらいは余裕よ~」

「...相変わらずの食欲で安心したと言うべきか、少しは加減しろと言うべきか...」

 

 

 小傘の問いに答えた幽々子を半目で見ながら呟く。

 

 

「...あの様子だと、賞品(Preis)のお米もすぐに無くなりそうですね。折角の新米なのに...」

「心配しないで~。流石に新米は味わうわよ~。穫れたてだからお夕飯で一俵分(少し)炊いてもらうけどね~」

 

 

 苦笑するカニンの言葉に、幽々子は妖夢が持つ荷車に積まれた米俵二十俵を見ながらそう答える。

 

 

「...幽々子様、そろそろ帰りましょう。夕食をいただくのであれば早く帰って仕込まないといけませんし」

「そうね~。じゃあ――あ、そうだわ。影政、()()()()()を預かっているわ~」

「...俺に伝言?」

 

 

 妖夢に帰宅を促された幽々子は思い出したように眉を上げて俺を見る。

 

 

「え~と確か..."()()()()()は『白玉楼』でやる"、らしいわよ~」

「...珍しいな。今までなら『八雲邸』でやる筈だが」

「偶には親友の家でやりたいらしいわ~。今は()()()()()()()で忙しくて直接会えないらしいから、確かに伝えたわよ~。その日が来たら妖夢を使いに出すわ~」

「あぁ、分かった」

 

 

 幽々子の伝言を受け入れ、頷く。―――百年振りに()()に加わるな。幽々子も加わるなら持ち込む食材は増やさねば。

 

 

「――あぁ、そうか。(スキマ)()()()()に入るか。影政が寝てた百年間はそれすら抑えて動き回ってたからな。その反動でちっとばかし時期が早くなってるらしいぜ」

 

 

 幽々子の言葉で察した命が補足するように言う。確かに目覚めた当初、紫がそんな事を言っていたな。

 

 

「...伝言も伝えたし、今度こそ帰るわ~。皆、さようなら~」

「皆様、またお会いしましょう。...では」

 

 

 幽々子は軽く手を振り、妖夢は俺達に頭を下げてから荷車の手摺を持って引き始める。俺達は帰路につく二人を見送った。

 

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 

*1
影兄(かげにぃ)のお菓子、すっごく美味しかったから皆の分も貰ったよー!byこいし





豊穣祭後編でした。次回は影政と紫の出逢いの追憶編です。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。