東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
後編です。改訂する箇所が少なかったので連続投稿です。
~焼けた集落 広場跡~
side-紫
「...ぅ...ん...」
「...起きたか」
―――目を覚ますと、視界一杯に満天の星空が広がっていた。沢山泣いて、泣き疲れていつの間にか眠ってしまったようだ。影政の声が聞こえて、その方に目を向ければ大きく燃え上がる炎に照らされて座る彼が私を見ていた。
「...眠っちゃったみたいね。...あの炎は?」
「住人皆の火葬だ。...
「...そっか。...夢だったら、良かったのに...」
影政が敷いたらしいゴザから上半身を起こし、周りを見回せば炎に照らされた
「...私達、これからどうしたらいいのかな。集落を建て直すなんて、私達だけじゃ到底無理だし...」
「...仮に建て直しができたとしても、また存在を認知されれば今回の二の舞だ。現実的ではないな」
「...そう、よね...」
影政の冷静な返しに何も言い返せず俯く。それに集落を建て直しても、大好きだった皆が戻って来る訳ではない。―――
―――『
――改めてこの光景を見てみよ。人間と妖怪が仲良くしておって、何なら結婚して血が混ざった子供まで成していて、特段悪影響は無いじゃろう?確かに妖怪達の力が弱まっているが――共存するにはそれが丁度いいようじゃ』
―――影信は常日頃そう言っていたから、その影響もあるかもしれない。集落の住人になってからずっと、疑問として心に残り続けていて、今は―――
「――そうだ。実はまだ、親父が遺した手紙を読んでいない。お前宛てでもあるからな、先に読むのもどうかと思っていた」
「...態々私が目を覚ますのを待っていたのが、影政らしいわね」
懐から幽が守っていた手紙を取り出す影政の言葉を聞いて思考を一端止める。どうやら私と一緒に手紙を読むつもりで待っていたらしい。手紙の宛名に私の名前もあったからと律儀に待つのが影政だ。私だったら先に読んでいただろう。―――特に、沢山のものを喪った今は縋りたい思いだった。影信が手紙に遺したものに。
「今、読んで大丈夫か?」
「...うん、大丈夫」
「分かった。...もう少し傍に寄れ。その距離だと見えないだろう」
皆を火葬している炎があるから明かりは問題ないけど、影政の傍に寝かされていたとはいえ今の距離だと手紙の文章は見にくい。私は素直に影政の隣に、寄り添うように座る。
「...」
影政は私も手紙を読める位置に座ったのを確認すると、早速手紙を開いた―――
―――影政と紫へ
この手紙を読んでいるという事は、儂は故人だろう。これは集落が"最悪の事態"に見舞われた際に、お前達二人に遺すべくしたためたものだ。何故お前達二人のみに向けたかは、ぶっちゃけ儂の勘だ。影政はちょうど戦神に身体を慣らす為に洞窟籠りをしておるし、紫は能力を使えば隠れられる。酷い言い方だが、お前達二人の生存率が高いのもあって二人に向けて遺す事にした。
まず、お前達二人に感謝したい。影政よ、儂の後を継ぐに相応しい男によく成長してくれた。お前は集落を立ち上げた牙門家の開祖に迫る素質を持っておる。戦神の力をより十全に扱えるであろう。
そして紫よ、この集落の住人となってくれてありがとう。外から住人を迎えるのは久方振りだったが、すぐに馴染んで愛着も持ってくれて嬉しかった。特に、幽と親友になってくれた事に感謝したい。皆と知り合い以上の関係を持たなかった彼女が、お前と親友になった事には驚いたし、何よりそれが嬉しかった。
さて、この手紙で何を遺すかだが。単刀直入にでかでかと書く。
集落を脅かした者達への復讐をしようが、再建を目指そうが、全てはお前達次第だ。大事なのは、"過去を糧に前に進む"事。後ろを向いたまま前に歩くのは、種族の特性なりで物理的にやる以外に到底出来ない芸当だ。大概は前にあるものを先に見つけられず、"過去になった"時に気付いてまた悔いての繰り返しになる。
集落が存在した。大好きな住人達が居た。初めて出来た親友が居た。それらを思い出すなとは言わぬ。その思い出を糧に新しい事をやって欲しい。お前達なら出来ると、確信している。
最後になるが、集落、そしてこの手紙の始末はお前達に任せる。もう一度書き置くが、"過去を糧に前に進め"。進み続ければ、いつか報われる時は来る。時代は移ろうもの。"人妖が共存する在り方"が受け入れられる時も来るだろう。儂はそれを見届けられぬが、お前達がそんな時代を迎えられる事を切に祈る。
「..."過去を糧に前を向け"、か」
「......」
手紙を読み終え、影政が呟くのを他所に私は心の中に湧き上がる
―――『...いやいやw何冗談を――あ、マジですかそうですか。紫ちゃん、それは絶対無理ですって。この集落の在り方は異端中の異端です。こうして隠れていないと速攻潰されちゃうんですよ。――私がここの住人になる前に、目の当たりにしましたから』
―――『...夢として語り続けるなら何も言わないよ。でも、実現しようと行動するのはやめな。それは
―――『...そう、随分大きな夢ね。――紫、それは夢のまま留めておきなさい。実現は無理よ。妖怪は
―――住人に話しても、親友からすら否定された
―――でも、影信が手紙で言っていたように前に進まないといけない。この集落は外の人間と妖怪に見付かって滅びてしまった。―――でも、"これが現実だ"と諦めたくなかった。
「...ねぇ、聞いてくれる?」
「...なんだ?」
「――私ね、夢があるの」
―――意を決して、私は
「...親父、皆。俺達はこれから外に旅立つ。
「幽、影信、皆...どうか、安らかに眠って。皆の分も、私達は生き抜くから」
―――翌日。住人皆の遺体を火葬し終え、遺骨を埋めた上に据えた、集落の住人全員の名前を刻んだ天然の岩の墓石の前で影政と二人して哀悼の意を捧げる。
―――脳裏に私が影政に拾われてから、住人として受け入れられて、初めて親友ができた、かけがえのない日々を思い浮かべる。この集落に拾われたおかげで、私は沢山のものを得られた。
「...紫、改めて確認する。これから
「えぇ、決心に変わりはないわ。...影政こそ、
「無論だ。乗り込んで漕ぎ出した舟から降りるつもりはない」
哀悼の意を捧げ終え、私達は互いに意思を確認する。私も影政も、昨夜付いた決心に揺らぎは無かった。
「――"
「...仮にそうなったとしても進めるように、影政以外の仲間や賛同者を集めないとね」
影政が重ねた決意の言葉にそう返す。
―――『いいんじゃないか?
―――人間である影政と、遥かに長命な妖怪である私とでは、生きられる時間は異なる。本音では影政に―――
「なら、まずは仲間集めだな。――大っぴらに探すのは危険過ぎる。何気なく振る舞いつつ、本音を見出していく必要があるな」
「そうね...難しいだろうけど、頑張るわ」
影政の言葉に力強く頷く。今の時代では、私の
「...そろそろ出発しよう。――改めてよろしく頼むぞ、紫」
「――こちらこそよろしくお願いするわ、影政」
互いに確認するように挨拶し、握手を交わす。―――私の手より大きくて力強く、けど優しい温もりを感じられる手だった。
~『妖怪の山』付近の山~
side-影政
「わぁ...なんて大きな山!山頂が雲で霞んで見えないわ」
「遠目に見ても、人が入った気配は無いな。――噂通り、
それほど高くない山の麓で足を止め、そこから南西に聳える遥かに巨大な山を眺める。
―――
紫はまるで吹っ切れたように、旅路の時々での修行を経てめきめきと
―――『...あっという間に我を超えおって。紫、其方は百年――否、千年に一度の逸材じゃ!其方ならば
更に彼女は頭脳も明晰だった。―――ある時結界の類に詳しい妖狐と知り合い、その妖狐が紫の才を見込んで弟子に取った所
紫の成長が著しい一方で、仲間集めは一向に進んでいなかった。旅路でもしかしたらという人間や妖怪に出逢えども、
―――だが、紫は諦めなかった。賛同する者を求め、様々な噂や出来事の情報を集め続けた。紫が諦めない以上、俺が諦めるつもりは無かった。時々紫と別行動を取り、人間から情報を集めた。紫に単独行動を取らせても問題無い程に、彼女は成長していた。
―――『...あぁ、そういや南の方だったっけな。"
―――『妖怪の山』と呼ばれている山の噂話を得たのは、そんな情報収集の最中でだった。奇しくも紫も妖怪から似たような情報を得ていて、満場(二人だけだが)一致で件の山を探してみる事にした。
妖怪が多く棲むならば、一人か二人は
「...とは言え、遠目に見ていては詳しくは分からないな。少し近付くか?」
「えぇ、そうしましょう。...道も無いし、目の前の山を越えて行くのが最短かしらね」
紫が周りを見回しながら俺の提案に頷く。彼女が言う通り、周りに道らしい道は無い。『妖怪の山』に近付くには、目の前の山を越えるしか無さそうだ。
「じゃあ、出発よ!『妖怪の山』は果たして名前通りか否か――この目で確かめるわ!」
「...分かっているだろうが、妖獣や知性が無い妖怪の類には気を付けろよ」
鼻息荒く息巻く紫に軽く注意し、目の前の山に入った。
「――待って」
―――山の中腹辺りに入った辺りで、不意に紫が足を止める。金色の瞳を微かに光らせ、彼女は目の前の木立を見つめていた。
「...何か見付けたか?」
「えぇ。――目の前に、
「...俺にはただの木立にしか見えないが、紫が言うなら確かに在るんだろうな」
紫が妖狐に師事していた際、俺もついでにと結界について学んだが紫が得た学びの半分も修められなかった。故に、紫には見えているであろう結界はまるで見えなかった。
「どうする?避けるか、それとも――」
「勿論、
即答だった。―――今は亡き
「...分かった、付き合おう。油断はするなよ」
「えぇ。――
紫が
「――ま、開いたならいっか。さぁ、行くわよ!」
「あぁ。――さて、鬼が出るか蛇が出るか...」
紫に続いてスキマを通り、結界の中に入り込む。スキマを出ると―――
「...ここ、は...」
「...村のようだが、
「えぇ。...でも、変ね。初めて来たのに――
―――草木に覆われてとうに無人と化した、知らない筈なのに
~マヨヒガ~
side-紫
「...この
「...言われてみれば確かにな。――だが、家屋の配置や滅びてからの年数を鑑みても、
影政の言う通り、似ているのは廃村から感じられる感覚だけだ。でも、どうして無関係な廃村なのに集落のような懐かしさを感じるのだろうか。
「...『迷い家』、かもしれないな。人間の間で少し噂になっていた、"迷い込んだ者の願望を一度だけ叶える空間"の特徴に似ている気がする。
人気が無い山や森に存在し、"迷い込んだ者の願望や欲望に応じた贈り物を一度だけ齎す"――そんな特徴だった筈だ」
「そんな噂があったのね...でも、私達の
影政の『迷い家』についての話で私はハッと気付いた。
―――既に滅びてしまったけど、拾われ、住人になって過ごした集落での日々を忘れる筈が無かった。それ故に、
「...なるほどな。なら、少し探索してみるか。――あの屋敷は明らかに異質だしな」
影政が指差す先を見れば、草木に覆われていない
~マヨヒガ 廃屋敷~
「...変な屋敷ね。
「...そう言えば、『迷い家』には"誰も居ないのに誰かが住んでいるように見える家屋"がある。なんて噂もあったな。こっちは噂の規模が小さくて忘れかけていたが」
「へぇ...だとしたら、この屋敷が『迷い家』の中心なのかもね」
埃一つ無い室内、丁寧に洗われた食器や道具、歩いた痕跡が目立つ廊下や床板...私達以外に気配を感じないのに、屋敷には
万が一先住者に出会した時に備えて影政が前に立って屋敷の探索を進めているけど、先住者所か生き物も見ていない。
「...この部屋が最後だな」
「屋敷とは言え、規模は小さかったわね。...目ぼしいものも無かったし、あの
「さて、どうだろうな。...開けるぞ」
影政は襖の取っ手に手を掛け、襖を引いた―――
「...普通の部屋ね。寝室とか、私室に使う感じ」
「そんな感じだな。...南側を障子戸にして明かりを取っているのもいいな」
襖の先は、八畳程の広さの普通の部屋だった。私達の興味は南側の障子戸に向く。
「障子戸、開けてみる?」
「あぁ、そうしてみようか。...一応、気を付けろよ」
「えぇ。さて、何が出る――」
障子戸を開けるとそこには縁側があり、木々一本無い開けた空間の先に―――
―――『妖怪の山』であろう大きな山を右側に、手付かずの
「...わぁ...!」
「...これは、まるで
影政はあまり感動していないように見える。でも私は―――私の目には、
―――ここだ。この、景色だ。
「――影政。私、決めたわ」
「...急にどうした?」
~マヨヒガ 廃屋敷 望郷の間~
side-影政
「...最初に聞いた時は戸惑ったが、本当にこの景色に創ってしまうとはな」
「初めてこの景色を見た時に、
「ほわぁ~...すごいですね。ここ『マヨヒガ』がそんな重要な場所だったなんて...」
途中で茶と猫達のおやつを用意し終えて戻ってきて、俺と紫の話に興味を抱いて混ざってきた橙が驚いたような、萎縮したような表情を浮かべる。住処兼修行場として利用していた場所がまさか
「...紫、橙に概要すら話してなかったのか」
「だ、だって聞かれなかったし...それに、変に気負わせて修行を空回りさせてもいけないじゃない」
「...黙っていて後で教えるよりは、先に教えて覚悟させた方が良かったと思うがな」
紫に呆れを含んだ半目の視線を送り、彼女が手にしている一枚の古い紙―――
発起人 八雲紫
賛同者
牙門影政
┇
―――
―――『場所が決まったし、賛成してくれた人達の名簿を作るわ!
―――あの時の紫は本当に嬉しそうで、楽しそうだった。
だが、『マヨヒガ』で得られた贈り物で、
「...改めてありがとう、影政。貴方が私の
「親友として支えるのは当然のことだ。...
紫の謝意にそう返す。挨拶回りを経て、俺の今までの行動の不味さを―――独りで前に立ち続けていた事の愚かさを思い知った。大切なものを、幻想郷を護ろうという意思は親友や仲間達皆が持っている。これからは独りではなく、皆で肩を並べて歩んでいくと改めて自分の中で決意する。
「ふふ、挨拶回りは充分堪えたようね。――改めて確信したわ。貴方になら、任せられる」
微笑みから一転、紫は真剣な表情を浮かべる。
「...思い出話が本題、という訳ではなさそうだな」
「本題ではないけど、貴方の意思の確認をしたかったから意味はあったわ」
「...私、席を外しましょうか?」
紫の雰囲気が変わり、橙はおずおずと彼女に尋ねる。
「いいえ、橙。貴女にも知っておいて欲しいの。――これから話す事は私と影政、藍以外には他言無用よ」
「...厳重だな。幻想郷に深く関わるものか?」
「...そう、ね。今は
紫は橙にも話を聞くように言い、少し具体的な時期を示した。幻想郷に深く関わるものと言うのなら、彼女は
「わ、分かりました...心して聞きます!」
「...教えてくれ。何を掴んだ?」
「...橙には分からないと思うけど、影政なら解る筈よ――」