東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
一回目の幻想閑話も最後です。
~冥界 白玉楼門前~
side-影政
「いらっしゃ~い。待ってたわよ~」
「師匠、紫様。ようこそおいで下さいました」
スキマで『マヨヒガ』から『冥界』の管理拠点である『白玉楼』の門前へと移動すると、既に幽々子と妖夢が門の下で待っていた。幽々子はいつも通りのふわふわとした笑みを浮かべて軽く手を振り、妖夢は頭を下げて出迎える。
「あら、お出迎えありがとう。...ごめんなさいね、幽々子。こっちの用事で到着を遅らせてしまって」
「気にしてないわよ~。
「えぇ、勿論よ。今は藍と橙が影政の持ち込み分も含めて確認してるから、二人は少し遅れるわ」
「ならいいわ~。さ、上がって上がって。妖夢、お茶と適当なお菓子をお願いね~」
紫が用事で到着を遅らせた事を謝るが、幽々子は大丈夫だと手を振りながら尋ねる。俺達が手ぶらで訪ねて来たので気になったようだ。幽々子は紫の答えに満足そうに頷き、妖夢に目を向けて指示を出す。
「はい、幽々子様。すぐに――」
「――待て。ささやかだが、菓子ならこれを作ってきた。ついでに出してくれ」
『白玉楼』に戻ろうとする妖夢を引き留め―――袖口に仕込んだ道術由来の収納空間から紙箱を取り出し、妖夢に渡す。
「――あらあらまぁまぁ!流石影政ね~!」
「――影政貴方...作っていたなら言ってくれても良かったのに」
紙箱の中身を察した幽々子は瞳を輝かせ、紫は驚きと呆れが混ざった眼差しを俺に向ける。
「
「...本当、律儀ね。私も貴方のお菓子は大好きだからいいけど」
「妖夢、急いで準備してちょうだいな!あぁ、中身が気になるわ~!」
「は、はい!」
妖夢を急かしながら屋敷に戻る幽々子に続いて紫と共に門を潜る。
―――百年振りに参加する"
~白玉楼 居間~
side-紫
―――元々、冬になるとどうしても
その怠さが
幸い、藍や影政達友人や式神が居るおかげで幻想郷の管理に穴は空かない。でも、永い旅路の果てに創りあげた
―――『紫、そろそろ
―――影政は、私の内心に気付いていた。それを少しでも和らげようと提案され、今まで続けて来たのが"
―――
回復に目処がついたのを確認してから、
それまでは
「はむっ...ん~美味しいわ~♪」
「――本当、貴女って影政の手料理とお菓子は丁寧に味わうわね。その丁寧さを妖夢にも分ければいいのに」
―――幽々子が影政が手土産に持って来た彼お手製の大福を食べ、身体をくねらせ心底嬉しそうな声をあげるのを聞いて、早まった
「だって彼が作るお料理やお菓子は幻想郷一だもの。普段通りの食べ方じゃまともに楽しめないから当然よ~」
丁寧な食べ方を他の人の料理―――主に
「――はぁっ!!」
「――隙だらけだ」
「ぶっ?!」
―――その妖夢は、居間から望める風流な日本庭園の白州の砂利の上で影政に木刀でまっすぐ斬り掛かり、あっさり彼からカウンターをお腹に食らって身体をくの字に折って倒れていた。
―――妖忌が
「...お前のことだ。俺が居なかった百年間も欠かさず鍛錬と修行を積んでいただろう。――
「はい...まだまだ、半人前だなぁ」
「さっきも言ったが、精度はより高まっていた。精度の高さがお前の剣術の強みだ。余計なものを斬らず、狙った箇所のみを正確に斬る――腐らせず磨けば、妖忌や俺を超えられるかもしれないな」
「正確さを、磨く...分かりました!」
影政の講評に妖夢は残念そうに項垂れるけど、二の句の強みを褒める言葉にパアッと明るい表情を浮かべて頷く。
―――妖夢は
影政もそれをよく理解していて、褒めと叱りを適度なバランスで混ぜて指導していた。
「今日はここまでにしよう。――幽々子が全部食べ切る前に大福を食べるといい」
「――はい!」
影政の締めの言葉に妖夢は笑顔を浮かべ、縁側に上がると手を洗いに小走りで土間に向かう。―――妖夢もまた、影政の手料理とお菓子が大好きな住人の一人だった。
「――紫様。
「ふ、不足しているものはありません!いつでも準備して始められます!」
―――妖夢を見送ってすぐ、"すきま"(藍が私の
「分かったわ。二人共ご苦労様。さ、貴女達も手を洗ってきなさい。――影政お手製の大福が幽々子に全部食べられる前に、ね?」
「――分かりました、すぐに」
「大福...分かりました!」
式神二人を労い、手を洗ってから影政の大福を食べるように促す。藍と妖夢は従者として料理もする為、彼の手料理の出来に追い付けるように日々努力してるらしいけど、お菓子については諦めている所がある。一度食べると他のお菓子では味気無くなってしまう程に、影政のお菓子の出来は神がかっていた。
「...ふぅ。これが
「...
お茶で喉を潤し、次の大福を手に取りながら幽々子はそうぼやいて私を見る。
幽々子が言う
そして幽々子のぼやきに対し、私はどうしようもないと返す。―――その
幽々子の言う通り元凶は私だけど、当時
「むぅ...
「...前向きに考えましょう。その分希少性が高いからこそ、
幽々子にそう答えながら、来年の春は
―――私だって、百年振りに
side-藍
「...ふむ...キムチ以外にも貝類の出汁が入っているのか?辛さの中に海鮮の旨味も感じる」
「...師匠、まさか再現するつもりですか?」
「いや、単なる興味だ。キムチの製法は知っているんだが、食材や製法が特殊で作れなくてな...作れれば料理のレパートリーも広がるんだが」
「...はふはふ...んっく...美味しいです!スープが赤いからすごく辛いのかと思ったら、この位なら私でも食べられます!」
「豚バラ肉がよく合うわね~。染みたスープの辛さとお肉そのものの甘さでご飯が進むわ~!」
―――大きな卓袱台の真ん中に、"マイクロ八卦炉"という魔道具を利用した卓上コンロに乗せられた大きな鍋に満たされた赤いスープの中で、肉類や野菜がグツグツと煮えている。
紫様が
一から作ったものではなく、小さな賽子のような固形物を鍋に張った水に混ぜて火をかければ、後は具材を入れて煮立たせるだけという"鍋の素"というものらしいが、かなり便利な代物だ。出汁やガラ、調味料から用意して時間を掛ける必要が無いのは本当に便利だ。
―――現在の
材料や道具を揃え、時間を掛けて作り上げ、それを食べてもらって『美味しい』と喜んで貰う事が重要だと私は思う。幽々子様のような
―――食事はそれが必要な人間や妖怪にとっての
―――閑話休題。
「ふふ、皆に喜んで貰えて何よりだわ。今回は幽々子が居るから
「確かに、便利ではあるな。鍋を味わうことに拘らないなら準備の時間が短くなるのは利点になる。――食事にすら
紫様の安心したような言葉に、影政様がそう答えながらグラスの酒を飲む。やはり影政様も私と似たような考えを持っているようだ。
「
「――妖夢、
「...は、はい!肝に銘じます!」
妖夢のぼやきを含んだ言葉に対し、幽々子様は真剣な雰囲気を纏ってそう諭す。―――言葉を紡ぎながら、鍋からひょいひょいと具材を取り、息継ぎのように食べる姿が無ければ良き主従関係だっただろう。
それは兎も角として、幻想郷随一の健啖家にして美食家である幽々子様に対して、料理の妥協と手抜きは許されない。だからこそ、幽々子様は影政様の手料理と菓子を何より愛しているのだろう。
「分かれば宜しい。...あら、もう具材が無いわ~。ほらほら、次の入れなさ~い」
「相変わらず速いわね...もう少し煮込んでも良かったんじゃないの?」
「私、お肉やお魚なんかの生モノ以外はあまり煮たくないのよ~。食感と素材の味を残して、表面にスープを潜らせる程度が美味しいのよ~」
「あ、私もその方が好きですね。柔らかくなり過ぎたものはあまり好きでは...」
「幽々子と妖夢はサッと煮るのが好みか。俺はじっくり煮る派だな。椎茸や葱は特にスープや出汁が染みるて美味いからな」
「私も影政と同じね。生モノはちゃんと中に火を通さないと
紫様の言葉を皮切りに、鍋の具材の煮方の議論が始まる。百年振りに影政様が居るおかげか、紫様も会話が弾むようだ。―――今回の
~白玉楼 大桜の丘~
side-影政
「......」
酔い醒ましにと鍋を離れ、『白玉楼』の敷地にある桜に囲まれた丘の頂上に聳える、一際大きな桜の樹の前で足を止めて見上げる。
―――『幽明結界』によって現世と幽世は隔たれているが、現世の四季の影響を幽世が受けない訳では無い。一年を通して少し肌寒さを感じる涼しさの『冥界』でも、冬になれば雪が降り、春になれば桜が咲く。特に桜は現世とは異なる美しさで、転生を待つ霊魂達の楽しみになっている。
―――だが、目の前の桜の大樹は春になろうと決して
―――この桜の大樹『西行妖』が
―――『西行妖』は元々無害な美しい桜の大樹だった。だが
「――つくづく残念よね〜。満開で咲いたらきっと、『冥界』最高の美しさでしょうに」
「――幽々子、鍋はもういいのか?」
「まだお腹に
背後から幽々子の声が聞こえ、思考を止めて振り向きながら尋ねる。俺の問に幽々子は普段通りの捉えどころの無い雰囲気で答え―――
「――折角だし、一つ
―――扇を開いて口元を隠し、妖夢を諭した時以上に真面目で理智的な雰囲気を纏い、見定めるような眼差しを向けてくる。
「...俺が答えられることなら、答えよう」
「...紫相手なら、洒落たやり取りもできるのだけど。武人気質の貴方だから遠回しな言い方はしないわ。影政、貴方は――」
「――じゃ、早く戻ってきてね~。あんまり遅いと、私の
普段通りの雰囲気を纏い直した幽々子を見送る。少しして姿が見えなくなり、『西行妖』に向き直る。
「――全く、親友としては心苦しいな。だが、幽々子が
―――脳裏に浮かんだ
「――紫に、
―――『影政、
『マヨヒガ』で紫から貰った
―――
幻想閑話-壱、終了!
分けた回もあってそこそこ長くなったけど、やっと妖々夢に入れる...!