東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
~妖怪の山付近 上空~
side-霊夢
「...あやや、霊夢さんじゃないですか。寒いのが苦手な貴女がそんな装備で出ているのを見るに、
「えぇ、そろそろ動かないと不味いからね。...文はネタ探しの帰りかしら?」
『博麗神社』を発ち、北へ向かって『妖怪の山』の近くを飛んでいると、南の方から文がこちらに飛んで来た。
「当たらずも遠からずって所ですねぇ。――この
「...影政の所に?そっちも
「妖怪と言えども、ずっと食べないままとは行きませんからね。...どう考えても、春の半ばに入るのに
文はそう答えて頭を掻く。どうやら文はこの
「...で、
「――
文の言葉に少しの驚きと、疑念を感じる。影政の実力なら単独行動でも問題無いだろうけど、『紅霧異変』の時と行動が異なるのが気になった。
「しかも影政さんだけじゃなく、家に遊びに来ていた妹紅さんも連れ立って
「妹紅...確か影政とは友人だったわね。それなら誘われてもおかしくはないけど...『紅霧異変』の時と行動が違うのが気になるわね」
続いた文の言葉で更に疑念が深まる。妹紅とは顔を合わせたり会話を交わした事は少ないけど、幻想郷創造に携わった人物達の一人で、『迷いの竹林』の番人をしている
友人関係なら誘いに乗ってもおかしくないし、竹林の番人という『人里』に関わる仕事をしているから、『人里』に影響を及ぼしているこの
「確かに、『紅霧異変』の時とは取っている行動が違いますねぇ。...もしかしたら、影政さんはこの
「...有り得るわね。出会したら聞いてみましょうか。影政達が何処に言ったか分かる?」
「分かってたら山に戻らず追いかけてますよ。カニンさんにも"
私の問に文は肩を竦めながら答える。同じく
「...影政も
「はい、お気を付けて。山に戻って
「その時には
文と別れ、『妖怪の山』の領域を避ける為に北東に飛ぶ。山の哨戒をしている"白狼天狗"の索敵能力は面倒臭い位に優秀だ。うっかり侵入して足止めを食らうのは避けたかった。
「...適当に飛んでるけど、流石に手掛かりも何も無いわね。とは言えどうやって手掛かりを探すか――」
今の所
「あ、やば――」
「――は?」
―――ぶつかると思って顔を腕で覆ったら、
~マヨヒガ 橙の家~
side-橙
「...誰か、入ってきた」
『マヨヒガ』を構成する結界が一瞬
「よ、よし...これだけの数を一気に動かすのは初めてだけど、お願い...上手く憑いて!」
暇さえあれば作っていたら五十枚位できていた
―――上手く行った。一枚残らず全ての
「...まず優先するのは、
私の命令に従って、
「お屋敷には――紫様と影政様の思い出の
緊張を和らげる為に意気込み、
~マヨヒガ 廃村上空~
side-霊夢
「何よここ...結界の中が冬じゃないなんて、
廃村を見下ろしながら、ここがどんな場所なのか思案する。幻想郷の現状とまるで違う環境を作る程に強力な結界...幻想郷を構成する二つの結界の様に、偶然すり抜けた結界は廃村一つを異なる世界として包み込んでいた。
「あの結界は自然にできたものみたいだけど...探索してみましょうか。もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないし」
この小さな異界が
「...あれは、
飛び始めてすぐ、前方で五体の
「っと...!式神が自然発生するなんて聞いたことが無いわね。つまり、ここには
弾幕を躱し、"ホーミングアミュレット"を陰陽玉から撃ち出して
奥に進むに連れて
「――これで打ち止めかしら。って、あれは...」
立ちはだかった最後の
「...明らかに怪しいわね。あの屋敷がこの異界の
―――私と屋敷の間に立ち塞がるように、茶色のショートヘアに緑色の帽子を被り、白い長袖の赤いワンピースを纏い、襟元に白く大きなリボンを留め、白靴下と黒靴を履き、頭には金色のピアスを留めた黒い猫耳、腰には黒い猫又の尻尾を生やした幼い妖怪が現れた。
耳と尻尾を逆立て、赤色の瞳を細め、赤みを帯びた爪を立てて威嚇するように身構えている。
「...あの屋敷の番人、って所かしら。人の形を取れる程に長生きした"化け猫"みたいだけど――妖力以外に
威嚇程度で怖気付く柔い精神は持っていない。けど、化け猫らしからぬ
「...私が
「...人間だけど巫女やってんのよ。妖怪退治を生業にしているから、ただの化け猫じゃないのは解ったわ」
自分から式神だと明かして来た辺り、精神は見た目相応らしい。それでも妖怪らしく人間を見下す物言いをしている事に少しイラつきつつ、一瞬驚いた表情を浮かべてすぐに身構え直した化け猫の言葉にそう返す。
「ふぅん、なるほどね...でも、巫女だろうが知ったことじゃない。――この『マヨヒガ』に迷い込んだら最後、あなたは二度と出られないんだから」
「――『
―――"博麗の巫女"としての結界術の修行の一環で読んだ何かの本に書いてあった、異界の類の名前を聞いて眉を上げる。一度遭遇すると二度と遭遇出来ず、中にあるものを持っていけば幸福になれる希少な異界だった筈。
「...つまり、ここにあるものを持っていけば幸せになれるってことよね。せっかく迷い込んだし、あるだけ持っていこうかしら」
「――それは許さないわ。ここは私を使役する主の思い入れがある場所なの。――あなたみたいな強欲な人間は追い出してやる!」
化け猫は距離を取り、赤い鱗弾を円形に撃って来る。
「っと...!二度と出られないとか言ってたのはなんだったのかしら。兎に角、邪魔するならぶっ飛ばすだけよ!」
鱗弾の弾幕を躱し、"ホーミングアミュレット"を撃ち出す。アミュレットが化け猫に反応して軌道を変えて迫る。
「その程度...って、ずっと追いかけてくる?!」
猫らしい身のこなしで躱そうと動くけど、アミュレットの誘導性能を振り切る程速くは無いようだ。弾幕を撃とうと動きが緩慢になった所に次々アミュレットが当たっていく。
「わっ、ちょ、避けきれnぎにゃっ?!...や、やるじゃん...!こうなったら――鳳凰よ、羽ばたけ!」
被弾が重なって怯んだ化け猫は
「バラバラに交差するのが少し厄介ね。青と緑は鳳凰の極彩色の翼の表現かしら、ねッ!」
「またホーミングする弾幕...!そう簡単には当たらないんだから!」
化け猫は弾幕を展開しながら、隠し持っていたらしい
「へぇ、中々やるじゃない。――でも、それじゃその場凌ぎにしかならないわよ」
高速飛行に切り替えて"ホーミングアミュレット"に変えて撃ち出す。高い弾速で
「うにゃっ?!...ま、まだやれる!――希代の陰陽師よ、私に力を!」
被弾を重ねて怯んだ化け猫は二枚目の
「五芒星...確か安倍晴明とかいう陰陽師の判紋だったっけか。発生源が五つもあってさっきより弾幕が濃いわね...!」
飛び交う鱗弾と丸弾の隙間を見付けて躱しながら"博麗アミュレット"に切り替えて撃ち出す。
「ぎにゃっ?!...つ、強い...こうなったら、本気で相手してやる!」
怯んだ化け猫はそう声をあげると、猫らしい俊敏さで縦横無尽に飛び回り始める。そして、その軌跡から青、赤、黄の順で鱗弾が円形でばら撒かれる。最後に橙色の鱗弾を五発一組で斜めに並べ、円形で撃ち出すパターンを繰り返す。
「乱舞の通り、あちこち飛び回ってるせいで軌道が読みにくいわね...!でも――」
―――化け猫より
「わっ...!私の速度について来るなんて、ただの人間じゃない...!」
「言ったでしょ、妖怪退治を生業にする巫女だって。――ついでにこれを食らいなさい!」
ダメ押しに
「うにゃぁーっ?!」
一発霊撃弾を食らって怯んだのを皮切りに次々霊撃弾が化け猫に当たる。
「イタタ...こ、こんなに強いなんて...私じゃ勝てないかも...」
霊撃弾が全て無くなり、被弾して服をボロボロにした化け猫は少し怖気付いた表情で私を見ながら呟く。過去に何度かやった妖怪退治で偶に見た表情だ。人間と侮った相手の強さを目の当たりにして、敗北を悟った時に浮かべる表情を目の前の化け猫も浮かべていた。
「勝てないなら、さっさと降参して退いてくれる?私も鬼じゃないし、
「...退けるわけない...!私は『マヨヒガ』の守護を任されているの。――負けるにしても、最後まで私はやるんだから!」
降伏勧告に化け猫は応じず、恐らく最後の
「これも単純だけど、さっきより弾が多いわね...!」
速度を落とし、隙間を見付けて抜けていきながら"博麗アミュレット"を撃つ。大量に弾をばら撒いているせいか動きは緩慢で、的当てのようにアミュレットが当たる。
「くっ...ま、まだやれる...!」
被弾を重ねながらも、化け猫は弾幕の展開を止めない。このままアミュレットで押し切れるだろうけど、今後また出会した時に襲われないように"博麗の巫女"の名を刻み付けてあげましょうか。
「誰の式神か知らないけど、化け猫の癖に思ったより強かったわ。――でも、私は当代"博麗の巫女"たる『博麗霊夢』。襲ってくる妖怪は全部ぶっ飛ばすッ!」
とどめを刺すべく
side-藍
「...小休止にするか。橙を可愛がって癒されよう」
"すきま"を展開して『マヨヒガ』に降り立つ。
―――紫様が"冬眠"に入ると幻想郷の管理代行を任されるが故に忙しくなるのは常だ。それには慣れているが―――今回は今起きている
―――『影政には
―――脳裏に"冬眠"前の引き継ぎの際、紫様から今起きている
―――故に、疲れを癒す為に偶に空いた時間を橙と共に過ごす事に充てている。紫様から『貴女も式神、使役してみない?』と提案され、『マヨヒガ』で"化け猫"へ転化したばかりの橙を見付けた時から、あの子が可愛くて可愛くて仕方がなかった。
妖怪として生きている時間もまだ短く、それ故に精神が子供の様に幼い。右も左も解らず、必死に私にものを尋ね、修行や勉強が上手く行けばはしゃぐ様はまるで子育てをしているような心地にさせられる。
修行や勉学は順調で、少しづつ大人びてきているがそれでもまだ橙は子供の域を出られていない。何時になるか分からないが、『八雲』の性を得る―――即ち
―――橙と過ごす時は脳を休めようと仕事や役目の事は頭の隅に置く為、どうしても橙の事ばかりを考えてしまう。今は何をしているのか。ちゃんと修行や勉学に励んでいるのか。きっと世の子持ちの親もこんな感じなのだろう。
「おーい、橙――」
そんな事を考えながら屋敷の傍にある橙の家に向かうと―――
「ぐずっ...えぐっ...守れながっだよぉ~...」
―――被弾痕で服をボロボロにした橙が屋敷の前の広場で泣きじゃくっていた。周りでは猫達が心配そうに見ている。橙を式神にしてから初めて見た姿に一瞬頭が真っ白になる。
「――橙?!一体どうしたんだ?!」
「藍しゃまぁ...ごめんなさい...!ごめんなざい~~~!!」
即座に我に返り、橙に駆け寄って尋ねると私を見るなり謝りながら更に泣いてしまう。
「あ、あぁ...落ち着くんだ、橙!謝ってばかりでは何があったか分からない。見たところ『弾幕ごっこ』で負けたようだが...何があった?」
落ち着かせる為に橙を抱き寄せ、頭を撫でながら尋ねる。『マヨヒガ』には基本的に橙と住み着いた猫達しか居ない。修行の一環で橙と『弾幕ごっこ』をやる事もあるが、ここまでボロボロにさせるような激しさではない。恐らく外部から『迷い家』としての特性に引っ掛かって誰かが入り込み、橙と『弾幕ごっこ』の実戦を行ったのだろう。
「グスッ..."博麗の巫女"って名乗った人間が入って来て...頑張って追い出そうとしたけど負けちゃって...うぇ~~~ん!!」
「あぁ、また...よしよし、橙はよく頑張った。役目を果たそうとしたうえで負けたなら怒りはしない。"博麗の巫女"相手なら負けても仕方がない」
また泣き出した橙の頭を撫でながら優しく話しかける。―――それとは裏腹に、脳内では『マヨヒガ』に
―――恐らく霊夢は偶然『迷い家』の結界に引っ掛かって侵入したのだろう。『迷い家』については紫様が結界によって生まれる異界の類として教えていた筈だ。『迷い家』は迷い込んだ人間に一度だけ
『マヨヒガ』に侵入したのは特性故に仕方ない。しかし、『弾幕ごっこ』とは言えここまで容赦無く橙を負かした事は許せない。妖怪相手には容赦無い性格であることは分かっているが、まだ未熟な橙相手には酷過ぎる。そろそろ霊夢と顔合わせをさせようかと考えていた矢先にこれだ。橙に悪い形で霊夢の印象を植え付けさせてしまったかもしれない。霊夢は人間としては異質な存在であり、霊夢が橙にとっての人間の基準になってしまったら厄介な事になる。霊夢が居る気配も様子も既に無く、既に贈り物を貰って『マヨヒガ』を出てしまったようだが、霊夢への怒りは収まらない。
「負けて悔しいだろう?悔しいなら、泣いてばかりじゃ駄目だ。涙を拭いて、前を向くんだ」
「グスッ...分かり、ました...私、もっと頑張りますッ...!」
グシグシと袖で涙を拭い、泣き腫らした目に新たに決意を宿した眼差しで橙は頷く。
「よし、いい子だ。...だが、『弾幕ごっこ』で疲れただろう?今日は休むんだ」
「分かりました、藍様!」
橙を立ち上がらせ、手を引いて橙の家に向かう。
―――橙を休ませたら、『マヨヒガ』で霊夢に
~マヨヒガの山 上空~
side-霊夢
「手掛かりは無かったけど、私の益になりそうなものは得られたわね。...こんな招き猫で私の願望が叶うか怪しい気もするけど」
『迷い家』の屋敷で見付けて
「...招き猫の効果は後で確かめるとして。
―――ふと、冬らしからぬ
「...高度が高ければ高いほど寒くなるのに、なんでこんなに
空気の流れは
「...流れに沿って西に向かってみましょうか。早速手掛かりが見付かるなんて、幸先いいわね」
招き猫の効果なのかは分からないけど、折角得られた手掛かりを逃すつもりはない。空気の流れに沿い、西へと舵を向けた。