東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

39 / 50
春雪異変-2~迷い家の強盗巫女~

~妖怪の山付近 上空~

 

side-霊夢

 

 

「...あやや、霊夢さんじゃないですか。寒いのが苦手な貴女がそんな装備で出ているのを見るに、()()()()ですか?」

「えぇ、そろそろ動かないと不味いからね。...文はネタ探しの帰りかしら?」

 

 

 

 『博麗神社』を発ち、北へ向かって『妖怪の山』の近くを飛んでいると、南の方から文がこちらに飛んで来た。

 

 

「当たらずも遠からずって所ですねぇ。――この()()絡みで影政さんの所に行ってたんですよ」

「...影政の所に?そっちも()()の影響があるのね」

「妖怪と言えども、ずっと食べないままとは行きませんからね。...どう考えても、春の半ばに入るのに()()()()なのは()()ですよね」

 

 

 文はそう答えて頭を掻く。どうやら文はこの()()に関わる事で影政の下に向かっていたらしい。『紅霧異変』で一緒に()()()()をした際に実力の一端を見たし、何より紫と共に幻想郷創造に携わったという大妖怪に匹敵する存在だ。文も長い付き合いがあるみたいだし、頼ろうとするのも分かる。

 

 

「...で、牙門邸(影政さんの家)に向かったはいいんですけど。留守番をしていたカニンさん曰く()()()()に向かってしまったらしくて」

「――()()()()に?『紅霧異変』の時は神社に来たのに、今回は単独で動くなんて...」

 

 

 文の言葉に少しの驚きと、疑念を感じる。影政の実力なら単独行動でも問題無いだろうけど、『紅霧異変』の時と行動が異なるのが気になった。

 

 

「しかも影政さんだけじゃなく、家に遊びに来ていた妹紅さんも連れ立って()()()()に出たらしいですよ」

「妹紅...確か影政とは友人だったわね。それなら誘われてもおかしくはないけど...『紅霧異変』の時と行動が違うのが気になるわね」

 

 

 続いた文の言葉で更に疑念が深まる。妹紅とは顔を合わせたり会話を交わした事は少ないけど、幻想郷創造に携わった人物達の一人で、『迷いの竹林』の番人をしている()()()()()()()である事、そして影政と友人である事、慧音と親友である事は知っている。

 友人関係なら誘いに乗ってもおかしくないし、竹林の番人という『人里』に関わる仕事をしているから、『人里』に影響を及ぼしているこの()()()()に動く理由もある。

 

 

「確かに、『紅霧異変』の時とは取っている行動が違いますねぇ。...もしかしたら、影政さんはこの()()に関して何か()()()()()()()()()()のかもしれません」

「...有り得るわね。出会したら聞いてみましょうか。影政達が何処に言ったか分かる?」

「分かってたら山に戻らず追いかけてますよ。カニンさんにも"()()()()に行く"としか言ってなかったようですし、行先は不明ですね」

 

 

 私の問に文は肩を竦めながら答える。同じく()()()()に出ている私よりも影政を優先するのは何だか癪に触るけど、今は影政を探しつつ()()()()の手掛かりを探すしか無さそうだ。

 

 

「...影政も()()()()に出てるって分かっただけでもありがたいわ。じゃ、そろそろ行くわ」

「はい、お気を付けて。山に戻って()()を終えたらまた方々回って情報収集するので、もしかしたらまた出会すかもしれませんね」

「その時には()()()()してるかもしれないけど、新しい情報があったら教えなさいよ」

 

 

 文と別れ、『妖怪の山』の領域を避ける為に北東に飛ぶ。山の哨戒をしている"白狼天狗"の索敵能力は面倒臭い位に優秀だ。うっかり侵入して足止めを食らうのは避けたかった。

 

 

「...適当に飛んでるけど、流石に手掛かりも何も無いわね。とは言えどうやって手掛かりを探すか――」

 

 

 今の所()も働いていない為、普段はしない思案をしながら飛んでいたせいか―――徐々に高度が下がって来て『妖怪の山』よりずっと小さい山の山肌が近付いていたのにすぐに気付けなかった。

 

 

「あ、やば――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...フッ...

 

 

「――は?」

 

 

―――ぶつかると思って顔を腕で覆ったら、()()()()()()()()()()を感じた。腕を解くと、視界一杯に雪一つ無い草木に覆われた廃れた村落らしき光景が広がっていた。

 

 

 


 

 

~マヨヒガ 橙の家~

 

side-橙

 

 

「...誰か、入ってきた」

 

 

 『マヨヒガ』を構成する結界が一瞬()()()のを感じ、家を出る。ここに住み始めてから、初めての()()()だ。藍様とずっと練習してきた迎撃の準備を始める。

 

 

「よ、よし...これだけの数を一気に動かすのは初めてだけど、お願い...上手く憑いて!」

 

 

 暇さえあれば作っていたら五十枚位できていた人形(ヒトガタ)を手に持ち、集中して式神を喚び出す。

 

 

...ザァッ...!

 

 

―――上手く行った。一枚残らず全ての人形(ヒトガタ)に式神が憑いた。私の手を離れて浮遊して、私の目の前にズラリと並ぶ。

 

 

「...まず優先するのは、()()()()()()()()()()()()が攻撃してくるなら、()()()()()してから迎撃して。――さぁ、行って!」

 

 

...ザザッ...!

 

 

 私の命令に従って、人形(ヒトガタ)が一斉に全方位に飛んでいく。修行のおかげで、多少は弾幕を撃てる程度の力を持った式神を喚べるようになった。でも、所詮は人形(ヒトガタ)だから強くはない。だから情報収集を優先させた。人形(ヒトガタ)を見て()()()が退くなら一番いい。―――でも、このまま()()()に向かってくるなら、私が相手をしないといけない。

 

 

「お屋敷には――紫様と影政様の思い出の()()には、行かせない!」

 

 

 緊張を和らげる為に意気込み、人形(ヒトガタ)からの報告を待つ。

 

 

 


 

~マヨヒガ 廃村上空~

 

side-霊夢

 

 

「何よここ...結界の中が冬じゃないなんて、()()の類かしら?」

 

 

 廃村を見下ろしながら、ここがどんな場所なのか思案する。幻想郷の現状とまるで違う環境を作る程に強力な結界...幻想郷を構成する二つの結界の様に、偶然すり抜けた結界は廃村一つを異なる世界として包み込んでいた。

 

 

「あの結界は自然にできたものみたいだけど...探索してみましょうか。もしかしたら何か手掛かりがあるかもしれないし」

 

 

 この小さな異界が()()()()()だったら一番いいけど―――それは高望みが過ぎると思い直して廃村を注視しながら飛んでいく。

 

 

「...あれは、人形(ヒトガタ)?」

 

 

 飛び始めてすぐ、前方で五体の人形(ヒトガタ)が立ちはだかるように並び―――弾幕を撃ってきた。青い丸弾を一発ずつ撃ち出すだけだけど、連射が速く、且つ五体居るせいか少し避けにくい弾幕を構成している。

 

 

「っと...!式神が自然発生するなんて聞いたことが無いわね。つまり、ここには()()()()()ってことね!」

 

 

 弾幕を躱し、"ホーミングアミュレット"を陰陽玉から撃ち出して人形(ヒトガタ)を落とす。単純に弾を撃つ程度だけど、それでも攻撃手段を持てる程の式神を憑かせるなんて、ここにいる何者かは結構強力な妖術、或いは陰陽術の使い手の様だ。

 

 奥に進むに連れて人形(ヒトガタ)が現れる頻度や数が増えて来て、一体一体が撃ってくる弾は単純でも人形(ヒトガタ)の数が増えているせいで弾幕も避けにくくなってくる。

 

 

「――これで打ち止めかしら。って、あれは...」

 

 

 立ちはだかった最後の人形(ヒトガタ)を落とすと、パッタリと現れなくなった。一息ついて辺りを見回すと―――これまで見てきた草木に覆われた家屋と違って、()()()()()()()()()()()()()()()屋敷が前方に見えた。廃村の中で明らかに目立って異質だ。

 

 

「...明らかに怪しいわね。あの屋敷がこの異界の()()なのかもしれないわね。早速――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――待てッ!!」

 

 

―――私と屋敷の間に立ち塞がるように、茶色のショートヘアに緑色の帽子を被り、白い長袖の赤いワンピースを纏い、襟元に白く大きなリボンを留め、白靴下と黒靴を履き、頭には金色のピアスを留めた黒い猫耳、腰には黒い猫又の尻尾を生やした幼い妖怪が現れた。

 耳と尻尾を逆立て、赤色の瞳を細め、赤みを帯びた爪を立てて威嚇するように身構えている。

 

 

「...あの屋敷の番人、って所かしら。人の形を取れる程に長生きした"化け猫"みたいだけど――妖力以外に()()の気配も感じるのは妙ね」

 

 

 威嚇程度で怖気付く柔い精神は持っていない。けど、化け猫らしからぬ()()の気配を宿しているのは妙だと感じた。妖怪が神の力を宿すなんて...その分野には詳しくはないけど、()()として使役されているのでも無ければ―――

 

 

「...私が()()だって解るなんて、人間のくせに結構強いみたいね」

「...人間だけど巫女やってんのよ。妖怪退治を生業にしているから、ただの化け猫じゃないのは解ったわ」

 

 

 自分から式神だと明かして来た辺り、精神は見た目相応らしい。それでも妖怪らしく人間を見下す物言いをしている事に少しイラつきつつ、一瞬驚いた表情を浮かべてすぐに身構え直した化け猫の言葉にそう返す。

 

 

「ふぅん、なるほどね...でも、巫女だろうが知ったことじゃない。――この『マヨヒガ』に迷い込んだら最後、あなたは二度と出られないんだから」

「――『迷い家(マヨヒガ)』、ですって?」

 

 

―――"博麗の巫女"としての結界術の修行の一環で読んだ何かの本に書いてあった、異界の類の名前を聞いて眉を上げる。一度遭遇すると二度と遭遇出来ず、中にあるものを持っていけば幸福になれる希少な異界だった筈。

 

 

「...つまり、ここにあるものを持っていけば幸せになれるってことよね。せっかく迷い込んだし、あるだけ持っていこうかしら」

 

 

 ()()()()の手掛かりを求めていたら、それ以上に気になるものがここにはあるようだ。相変わらず懐は寂しいし、お金になるものを持っていこう。降って湧いた幸運に思わず口元が緩む。

 

 

「――それは許さないわ。ここは私を使役する主の思い入れがある場所なの。――あなたみたいな強欲な人間は追い出してやる!

 

 

 化け猫は距離を取り、赤い鱗弾を円形に撃って来る。

 

 

「っと...!二度と出られないとか言ってたのはなんだったのかしら。兎に角、邪魔するならぶっ飛ばすだけよ!」

 

 

 鱗弾の弾幕を躱し、"ホーミングアミュレット"を撃ち出す。アミュレットが化け猫に反応して軌道を変えて迫る。

 

 

「その程度...って、ずっと追いかけてくる?!」

 

 

 猫らしい身のこなしで躱そうと動くけど、アミュレットの誘導性能を振り切る程速くは無いようだ。弾幕を撃とうと動きが緩慢になった所に次々アミュレットが当たっていく。

 

 

「わっ、ちょ、避けきれnぎにゃっ?!...や、やるじゃん...!こうなったら――鳳凰よ、羽ばたけ!

 

 

仙符 「鳳凰展翅」

 

 

 被弾が重なって怯んだ化け猫は()()()()()()を切る。四発一組を斜めに並べ、円形で展開した鱗弾を青と緑でそれぞれ交互に撃ってくる。化け猫の位置が変わる度に展開位置も変わり、青と緑の鱗弾がバラバラに交差して避けにくい弾幕を作る。

 

 

「バラバラに交差するのが少し厄介ね。青と緑は鳳凰の極彩色の翼の表現かしら、ねッ!」

 

 

 ()()()()()()の弾幕を分析しながら隙間を見つけて抜けていき、速度を落として"博麗アミュレット"を撃ち出す。火力と弾速が少し低くなった代わりに、追尾性能を高めたホーミング弾が化け猫を捉えて飛んでいく。

 

 

「またホーミングする弾幕...!そう簡単には当たらないんだから!」

 

 

 化け猫は弾幕を展開しながら、隠し持っていたらしい人形(ヒトガタ)を数体展開して、被弾を防ぐ盾としてアミュレットにぶつけてくる。

 

 

「へぇ、中々やるじゃない。――でも、それじゃその場凌ぎにしかならないわよ」

 

 

 高速飛行に切り替えて"ホーミングアミュレット"に変えて撃ち出す。高い弾速で人形(ヒトガタ)を落としたうえで化け猫へ飛んでいく。

 

 

うにゃっ?!...ま、まだやれる!――希代の陰陽師よ、私に力を!

 

 

陰陽「晴明大紋」

 

 

 被弾を重ねて怯んだ化け猫は二枚目の()()()()()()を切る。大きく五芒星を描くと、五つの角それぞれから水色、紫色の鱗弾が円形で交互に展開され、最後に青い丸弾がばら撒かれる。鱗弾二種と丸弾がバラバラに交差して、一枚目より密度が高く避けにくい弾幕になっている。

 

 

「五芒星...確か安倍晴明とかいう陰陽師の判紋だったっけか。発生源が五つもあってさっきより弾幕が濃いわね...!」

 

 

 飛び交う鱗弾と丸弾の隙間を見付けて躱しながら"博麗アミュレット"に切り替えて撃ち出す。人形(ヒトガタ)も尽きたのか、次々アミュレットが当たる。

 

 

ぎにゃっ?!...つ、強い...こうなったら、本気で相手してやる!

 

 

童符「護法天童乱舞」

 

 

 怯んだ化け猫はそう声をあげると、猫らしい俊敏さで縦横無尽に飛び回り始める。そして、その軌跡から青、赤、黄の順で鱗弾が円形でばら撒かれる。最後に橙色の鱗弾を五発一組で斜めに並べ、円形で撃ち出すパターンを繰り返す。

 

 

「乱舞の通り、あちこち飛び回ってるせいで軌道が読みにくいわね...!でも――」

 

 

―――化け猫より()()()()()()()を知っているせいか、化け猫が飛び回る速度が遅く感じられる。弾幕を躱しながら飛行速度を上げ、"ホーミングアミュレット"に切り替えて撃ち出す。誘導性能の低さは高い弾速で補い、化け猫に反応したアミュレットが軌道を変えて化け猫に飛んでいく。

 

 

「わっ...!私の速度について来るなんて、ただの人間じゃない...!」

「言ったでしょ、妖怪退治を生業にする巫女だって。――ついでにこれを食らいなさい!」

 

 

霊符「夢想封印・散」

 

 

 ダメ押しに()()()()()()を切る。博麗奥義"夢想封印"を拡散重視にしたもので、赤、青、緑の三色の霊撃弾をばら撒く。誘導性能を落とした代わりに弾数を増やしていて、高速で飛び回ろうとも数の暴力で必ず捉える。

 

 

うにゃぁーっ?!

 

 

 一発霊撃弾を食らって怯んだのを皮切りに次々霊撃弾が化け猫に当たる。

 

 

イタタ...こ、こんなに強いなんて...私じゃ勝てないかも...」

 

 

 霊撃弾が全て無くなり、被弾して服をボロボロにした化け猫は少し怖気付いた表情で私を見ながら呟く。過去に何度かやった妖怪退治で偶に見た表情だ。人間と侮った相手の強さを目の当たりにして、敗北を悟った時に浮かべる表情を目の前の化け猫も浮かべていた。

 

 

「勝てないなら、さっさと降参して退いてくれる?私も鬼じゃないし、()()()()中で忙しいから迷い家(ここ)で貰えるもの貰ってさっさと出て行くわよ」

「...退けるわけない...!私は『マヨヒガ』の守護を任されているの。――負けるにしても、最後まで私はやるんだから!

 

 

 

方符「奇門遁甲」

 

 

 降伏勧告に化け猫は応じず、恐らく最後の()()()()()()を切る。青、水、緑色の鱗弾を緩い十字形でばら撒く。単純だけどその分密度が濃く避けにくい弾幕だ。

 

 

「これも単純だけど、さっきより弾が多いわね...!」

 

 

 速度を落とし、隙間を見付けて抜けていきながら"博麗アミュレット"を撃つ。大量に弾をばら撒いているせいか動きは緩慢で、的当てのようにアミュレットが当たる。

 

 

くっ...ま、まだやれる...!

 

 

 被弾を重ねながらも、化け猫は弾幕の展開を止めない。このままアミュレットで押し切れるだろうけど、今後また出会した時に襲われないように"博麗の巫女"の名を刻み付けてあげましょうか。

 

 

「誰の式神か知らないけど、化け猫の癖に思ったより強かったわ。――でも、私は当代"博麗の巫女"たる『博麗霊夢』。襲ってくる妖怪は全部ぶっ飛ばすッ!

 

 

霊符「夢想封印・集」

 

 

 とどめを刺すべく()()()()()()を切る。散の型とは逆に霊撃弾を狙った相手に集中して撃ち込む火力重視の型だ。三色の霊撃弾が次々化け猫に向かって飛んでいき―――

 

 


 

side-藍

 

 

「...小休止にするか。橙を可愛がって癒されよう」

 

 

 "すきま"を展開して『マヨヒガ』に降り立つ。

 

―――紫様が"冬眠"に入ると幻想郷の管理代行を任されるが故に忙しくなるのは常だ。それには慣れているが―――今回は今起きている()()の推移を監視する役目も負っているおかげでより多忙になり、食事や睡眠以外に取れる時間が殆ど無い。

 

―――『影政には()を授けてあるけど、()()()()()が目覚めたらどうなるかは私にも分からない。影政でも駄目なら――どんな手段でも許すわ。即座に私を起こしなさい。()()()()()は何としてでも避けなきゃいけないの』

 

―――脳裏に"冬眠"前の引き継ぎの際、紫様から今起きている()()について聞かされた時の言葉を思い出す。去年から既にこの()()の発生を予見され、対策を打っていたのは流石だと驚いたが、"冬眠"で動けない紫様の代わりを務めるのは今でも大変だ。()()()()()()()()()()に繋がりかねない為、私に課せられた役目の重圧で疲れっぱなしでいる。

 

―――故に、疲れを癒す為に偶に空いた時間を橙と共に過ごす事に充てている。紫様から『貴女も式神、使役してみない?』と提案され、『マヨヒガ』で"化け猫"へ転化したばかりの橙を見付けた時から、あの子が可愛くて可愛くて仕方がなかった。

 

 妖怪として生きている時間もまだ短く、それ故に精神が子供の様に幼い。右も左も解らず、必死に私にものを尋ね、修行や勉強が上手く行けばはしゃぐ様はまるで子育てをしているような心地にさせられる。

 修行や勉学は順調で、少しづつ大人びてきているがそれでもまだ橙は子供の域を出られていない。何時になるか分からないが、『八雲』の性を得る―――即ち大人(一人前)になった時、私はどんな感情を持つのだろうか。

 

―――橙と過ごす時は脳を休めようと仕事や役目の事は頭の隅に置く為、どうしても橙の事ばかりを考えてしまう。今は何をしているのか。ちゃんと修行や勉学に励んでいるのか。きっと世の子持ちの親もこんな感じなのだろう。

 

 

「おーい、橙――」

 

 

 そんな事を考えながら屋敷の傍にある橙の家に向かうと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ぐずっ...えぐっ...守れながっだよぉ~...」

 

 

―――被弾痕で服をボロボロにした橙が屋敷の前の広場で泣きじゃくっていた。周りでは猫達が心配そうに見ている。橙を式神にしてから初めて見た姿に一瞬頭が真っ白になる。

 

 

「――橙?!一体どうしたんだ?!」

藍しゃまぁ...ごめんなさい...!ごめんなざい~~~!!

 

 

 即座に我に返り、橙に駆け寄って尋ねると私を見るなり謝りながら更に泣いてしまう。

 

 

「あ、あぁ...落ち着くんだ、橙!謝ってばかりでは何があったか分からない。見たところ『弾幕ごっこ』で負けたようだが...何があった?」

 

 

 落ち着かせる為に橙を抱き寄せ、頭を撫でながら尋ねる。『マヨヒガ』には基本的に橙と住み着いた猫達しか居ない。修行の一環で橙と『弾幕ごっこ』をやる事もあるが、ここまでボロボロにさせるような激しさではない。恐らく外部から『迷い家』としての特性に引っ掛かって誰かが入り込み、橙と『弾幕ごっこ』の実戦を行ったのだろう。

 

 

グスッ..."博麗の巫女"って名乗った人間が入って来て...頑張って追い出そうとしたけど負けちゃって...うぇ~~~ん!!

「あぁ、また...よしよし、橙はよく頑張った。役目を果たそうとしたうえで負けたなら怒りはしない。"博麗の巫女"相手なら負けても仕方がない」

 

 

 また泣き出した橙の頭を撫でながら優しく話しかける。―――それとは裏腹に、脳内では『マヨヒガ』に博麗の巫女(霊夢)が侵入した事で起きたことを推理する内に沸々と怒りが湧いてきていた。

 

―――恐らく霊夢は偶然『迷い家』の結界に引っ掛かって侵入したのだろう。『迷い家』については紫様が結界によって生まれる異界の類として教えていた筈だ。『迷い家』は迷い込んだ人間に一度だけ()()()()()()()()()()()()()()()。―――強欲な霊夢なら間違いなく食い付くだろう。『マヨヒガ』は紫様の手で少し弄られているものの、『迷い家』としての特性は失われていない。

 

 『マヨヒガ』に侵入したのは特性故に仕方ない。しかし、『弾幕ごっこ』とは言えここまで容赦無く橙を負かした事は許せない。妖怪相手には容赦無い性格であることは分かっているが、まだ未熟な橙相手には酷過ぎる。そろそろ霊夢と顔合わせをさせようかと考えていた矢先にこれだ。橙に悪い形で霊夢の印象を植え付けさせてしまったかもしれない。霊夢は人間としては異質な存在であり、霊夢が橙にとっての人間の基準になってしまったら厄介な事になる。霊夢が居る気配も様子も既に無く、既に贈り物を貰って『マヨヒガ』を出てしまったようだが、霊夢への怒りは収まらない。

 

 

「負けて悔しいだろう?悔しいなら、泣いてばかりじゃ駄目だ。涙を拭いて、前を向くんだ」

グスッ...分かり、ました...私、もっと頑張りますッ...!」

 

 

 グシグシと袖で涙を拭い、泣き腫らした目に新たに決意を宿した眼差しで橙は頷く。

 

 

「よし、いい子だ。...だが、『弾幕ごっこ』で疲れただろう?今日は休むんだ」

「分かりました、藍様!」

 

 

 橙を立ち上がらせ、手を引いて橙の家に向かう。

 

―――橙を休ませたら、『マヨヒガ』で霊夢に()()されたものを確認して仕事に戻ろう。恐らく霊夢なら持ち前の()()()()()()の下に辿り着ける。()()()()を確認したら、その時は―――

 

 


 

~マヨヒガの山 上空~

 

side-霊夢

 

 

「手掛かりは無かったけど、私の益になりそうなものは得られたわね。...こんな招き猫で私の願望が叶うか怪しい気もするけど」

 

 

 『迷い家』の屋敷で見付けて()()()()()()()()小さな招き猫の置物を見ながら呟く。屋敷には幻想郷を一望出来る部屋と、()()()()()()()()()()()()()()があったけど、それらは()()()()()()()()()()が囁いたから手を付けていない。

 

 

「...招き猫の効果は後で確かめるとして。()()の手掛かりがまるで無いわね。本当、どうしたものかしら――」

 

 

...フワッ...

 

 

―――ふと、冬らしからぬ()()()()()を感じた。山の上を飛んでいるおかげでいつもより高い所を飛んでいてかなり寒い筈なのに。

 

 

「...高度が高ければ高いほど寒くなるのに、なんでこんなに()()()のかしら。この暖かさ、まるで()()()()じゃない」

 

 

 空気の流れは西()()()()()()()()。流れも自然ではない。まるで()()()()()()()()()()ような流れ方だ。

 

 

「...流れに沿って西に向かってみましょうか。早速手掛かりが見付かるなんて、幸先いいわね」

 

 

 招き猫の効果なのかは分からないけど、折角得られた手掛かりを逃すつもりはない。空気の流れに沿い、西へと舵を向けた。

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。