~『歌聖』の屋敷 門前~
side-影政
―――ザシュッ...
「...あぁ...少し遠いが...あの方が愛し、果てた桜を見て逝けるならば良い...」
義清が"良い歌を詠む"と目を掛けていた若い貴族が鮮血を流しながらそう呟いて動かなくなる。
「...昨日に続いて、か。三年前に比べて頻度が明らかに増している」
呟き、刀の血糊を振り払って鞘に納める。亡骸を抱え、屋敷の敷地外の塚へと向かう。
―――"『歌聖』、『西行の大桜』の下で死す"。
その訃報が周囲に与えた影響は大きく、そして妙なものだった。まず、義清と特に親交が深かった歌人が葬儀を終えたその夜、『西行の大桜』の下で自刃した。
それを皮切りに、義清に深い敬意を持ち、慕っていた歌人や貴族、その子弟等々が毎年、春の盛りに屋敷を訪ねては大桜の下で自刃を図った。
―――『どうか止めないでくれ...!あの方が居ない世など、私には意味が無い!私は独り身だ、失うものはあの方を追う為のこの命のみ...!』
―――『あぁ、いつ見ても美しい桜だ...義清殿が毎年詠まれ、その度に"まだ表し足りぬ"と嘆かれる訳だ。言葉が出ない...こんな桜の下で逝けるならさぞ幸せだろう。私も今、お傍に――』
当然、屋敷で次々自刃等されては外聞に悪いし、亡骸の始末も大変だった。
俺は妖蔵、妖華と共に屋敷を守り、訪ねる者に理由を聞いて義清に殉ずると答えた者は尽く追い返した。嘘を吐いて屋敷に入り、隙を突いて自刃した者が出て来始めた時には来客を完全に止めた。立て看板を屋敷に繋がる道に建て、それを無視して強行突破を図る者は先程のように斬った。
―――それでも、義清に殉じようという者は後を絶たなかった。
「...しかし、とうとう春でなくとも来るようになるとはな」
亡骸を埋め、瞑目して軽く弔ってから屋敷の方へ戻りながら呟く。
―――義清の死から三年程経ったが、春以外の季節でも構わず殉死を図る者が来るようになり始めていた。その者達の表情はまるで魅せられたような、人間とは思えない憑かれた表情を一様に浮かべていた。
「...あら?いい所に戻ってきたわね、影政。紫が貴方を呼んでいたわ。交代するから行って来るといいわ」
屋敷の門を潜ると、丁度屋敷から出て来た妖華と鉢合わせる。
―――去年元服を迎え、魂魄家で代々受け継がれてきたと言う二振りの刀『楼観剣』『白楼剣』を妖蔵から引き継いで魂魄家当主となった妖華。
義清の死以来、次々やって来る殉死を求める者達への対処で彼女との鍛錬や手合わせの機会はめっきり減ったものの、今でも時間があれば付き合わされている。
屋敷を訪ねた当初と比べて大いに腕を上げたが、それでも俺に対して白星を上げた事は無い。一度俺が負けそうになった事はあったが、そこで満足する事は無く"影政に勝つまではやめないんだから!"と彼女との鍛錬や手合わせは続いている。
―――閑話休題。
「紫が?分かった、すぐに向かおう。...引き継ぎだが、先程義清が目を掛けていた若い貴族を斬った。今日もまだ来る可能性がある、気を付けろ」
「分かったわ。...三年前と比べて、明らかに頻度が増えてるわね。根本的な対策が必要だけど、どうしたものか...」
妖華に引き継ぎの報告をすると、彼女は眉間に皺を寄せながらぶつぶつと呟き思案しながら門へと向かう。それを見送り、俺は紫が居るであろう幽々子の自室へと足を向けた。
~『歌聖』の屋敷 幽々子の自室~
「...おかえりなさい、影政」
「ただ今戻った。...幽々子はどうしている?」
「寝所で寝ているわ。...また悪い夢を見たようだから、宥めて落ち着かせた所よ」
幽々子の自室に着くと、縁側から『西行の大桜』を眺めていた紫が俺に気付く。挨拶を交わし、幽々子の状況を尋ねると良いとは言えない答えが返って来る。
―――義清の死による影響を最も大きく受けていたのは、他ならぬ幽々子だった。
自身が産まれてから頻発した親しい者達の死を自分のせいだと考えて物憂げに悩み続けていたが、紫との出逢いで前向きになって本来の性格を取り戻しつつあった最中に、義清の死に直面した。
更に、その影響で殉死を求める者達が相次ぐようになった事で自分が多くの者を死に誘っているという考え方が再燃、そればかりを考える様になり―――幽々子から笑顔が消えた。紫相手にすら、彼女は笑う事が無くなってしまった。
「...悪い夢、か。――本当に、幽々子の能力のせいなのか?」
「前に言ったでしょう?義清が亡くなったのはほぼ間違いなくそのせいよ。...私だって、信じたくなかった。でも、見えてしまったのよ――幽々子が纏う死の境界が、義清を包んだのを」
紫は俺の疑問に対して暗く辛そうな表情を浮かべて答える。
―――『...影政。信じたくなかったけど、信じるしかないことが解ったの。聞いてくれる?――幽々子の思い込みは事実よ。私には今でも見えるの――幽々子を取り巻く死の境界が。彼女が他者を死へ誘う能力を持っているのはほぼ確定よ。
義清が話していたこと、私達が屋敷に逗留してから起きた西行寺家に近しかった者達の死、そして幽々子自身の思考――これらから、幽々子自身制御できない能力でもあると推測したわ。
他の人...妖蔵と妖華に明かすかどうかは貴方に任せるわ。――でも、幽々子には知られないようにして。ずっと隠し通す自信は無いけど...少なくとも、今の精神状態で知ってしまったらどうなるか分からないから』
―――三年前、義清が自刃し果てた姿を見付けた翌日。紫と二人きりになった時に彼女から明かされた幽々子の能力に関する話を思い出す。
俺自身ももしかしたらと考えていた事を紫も同様に考えていて、しかも確実だと彼女は判断していた。
幽々子の能力について知った俺は、妖蔵と妖華にも明かした。幽々子の能力事を知る人数が増えれば漏れる可能性は大きくなるが、俺と紫より遥かに西行寺家と、とりわけ幽々子との付き合いが深く長い魂魄家に明かさない事の方が悪い影響を与えると懸念して明かす決心を付けた。
―――『...そうか...幽々子様と親友である紫が、儂には未だ理解できぬ能力を持つ彼女が言うならば、事実なのであろうな。死へ誘う能力か...生死を操れるならまだしも、人が死に逝く様を止められぬとはなんと惨い...』
―――『幽々子様がそんな能力を持っていたなんて...ずっと暗い表情で悩む訳だわ。しかも制御できないかもしれないなんて酷過ぎる...!あまり信心深くは無いけど、神とか仏とかが本当に居るなら、どうして幽々子様にそんな能力を持たせたのか聞いてやりたいわ!』
幽々子の能力について知った二人は揃って信じられないと言いたげな表情を浮かべたが、俺が思ったよりあっさりと受け止めた。そして、二人もまた幽々子に自身の能力について明かすのは不味いと判断して伏せておく事に賛成してくれた。妖蔵に比べると感情的な妖華が漏らしてしまわないか心配ではあるが、今の所は漏れていないようだ。
―――閑話休題。
「...それで、俺を呼んだ理由は何だ?」
「――『西行の大桜』。義清曰く、西行寺家の開祖が屋敷を構える前から存在している桜の大樹。満開の姿は他の満開の桜が劣って見える程に美しく、義清も毎年歌を詠んでも"表現し切れない"と嘆く程」
紫が俺を呼んだ理由を尋ねると、おもむろに縁側から臨む『西行の大桜』に目を向けて大桜について語る。俺も既に知っている内容だが、あの大桜に何かあるのだろうか。
「...私達がこの屋敷に逗留してから毎年見てきたけど、相変わらず綺麗な桜よね。――義清が亡くなってからは、より一層美しさと魅力を増している」
「...何が言いたい?」
紫の瞳が一瞬、不安そうに揺れる。どうやらあの大桜は義清の死から何か変化があったようだ。
「――義清の死以来、あの大桜は妖怪と化したみたいなの」
side-妹紅
「...一人の人間の死で、桜が妖怪化したのか?」
「...聞いた当初は俺も信じられなかったが、紫は概念の境界も見えるからな。紫が能力で境界を弄って俺にも見えるようにしてくれて――見えてしまったんだ。大桜を取り巻く妖力が」
大桜が『西行妖』に変化したきっかけが信じられずに影政に尋ねると、影政は事実だと言うように答える。
「義清は大桜をこよなく愛していた。"死ぬならあの桜の下で"と常々言っていた程に。
人間が未練で地縛霊や亡霊と化したり、愛憎が増大して生霊と化したりという話は時々耳にしたし、目撃して祓ったこともあった。
――だが、人間の感情によって草木が妖怪化するのはあの大桜、『西行妖』で初めて見た」
影政はそこで一度言葉を切り、何か思い返す様に瞑目する。
「――妖怪と化した大桜は日に日に妖力を増大させ、それに比例するように義清と無関係な者が大桜の下で死のうとやって来るようになった」
~『歌聖』の屋敷 門前~
「...多いな。全員旅装束のようだが、義清と関わりがあった者は居たか?」
「...一人も居らぬ。皆無関係な旅の者じゃな。...この者達と相対した時、皆一様に何かに憑かれた表情を浮かべておった。うわ言のように"あの桜が呼んでいる"と繰り返して、屋敷に入ろうとしよった」
「そうか...昨日のような妖怪相手より精神的に参るな、無関係な人間を相手取るのは」
妖蔵と門前の守りを交代するべく門から屋敷を出ると、十数人の亡骸と鮮血で埋まった門前の道に佇む妖蔵を目の当たりにし、話しかけるとそう答えながら刀の血糊を振り払って鞘に納める。その様子を見ながら、俺はふと感じた気疲れと共に言葉を吐く。
―――『西行の大桜』の妖怪化は、義清の死後の屋敷を取り巻く状況を更に悪化させていた。
今までは大なり小なり義清と関わりがあった者達が殉死を図って屋敷に侵入しようとしていたが―――今は明らかに無関係な者達が取り憑かれた様に次々殉死を図って侵入を試みていた。その人数は日に日に増大していく大桜の妖力と共に増え、妖力を感じてか妖怪まで侵入を図る様になっていた。
「...最早、義清の眠りを守る云々の状況では無い。大桜の妖力をどうにかせねば、妖怪が侵入を図る頻度まで増えてしまう。影政と紫が居てくれているおかげで妖怪相手でも何とかなっておるが、このままでは...」
増大し続ける大桜の妖力への対策として、紫が大桜の周りに結界を張って妖力の拡散を防いでいるが――今では妖力の増大に結界の強度が追い付いけない状況になっている。
結界を破って漏れた妖力は殉死を図る者、妖力に惹かれた妖怪を呼び寄せ、俺達はその対処に追われてまともに休める時間が減りつつあった。
「...大桜を妖怪から元の桜に戻す術があればそれが最善だが、それを模索する時間も暇も無い。となれば――」
対処に追われる最中、脳裏で漠然とではあるが、俺は次善の策を練っていた。それを妖蔵に明かそうとして―――
『駄目よ幽々子!!そんなこと、貴女にはさせられない!!』
――突然、屋敷の方から紫の大声が聞こえてきた。
「――影政」
「――あぁ」
妖蔵にそれだけ答え、二人して幽々子と紫が居るであろう幽々子の自室の方へ駆け出す。
~『歌聖』の屋敷 幽々子の自室 縁側~
「...幽々子、お願いよ...そんな決断、しないでよ...」
「......」
―――幽々子の自室の縁側に着くと、幽々子が纏う単の裾を縋るように掴んだままへたり込んで項垂れ、震えた涙声を零す紫と、それを静かな―――幽を思い起こさせる達観した、覚悟を決めた様な表情で見下ろす幽々子が居た。
「...紫、これしか無いの。――妖怪化してしまった、義清が愛したあの大桜を封じ込め、私のせいで亡くなってしまった方々に償う為には」
「...駄目よ...そんなの...それに、上手く行くかどうかだって...」
「結界や封印に詳しい貴女が居るもの。上手く行くわ。...親友の頼みは、聞けないかしら?」
『親友だからこそそんな頼みは聞けないのよ!!』
紫は目に涙を溜めたまままた声を荒らげる。会話を聞くに、幽々子は妖怪化した大桜に対する策を思い付き、実行する覚悟を決めた様だが...紫がこれ程感情的になって拒絶しているという事は―――
「――紫、急に大声をあげてどうし――どういう状況よ、これ?」
鍛錬中だったのか、木刀片手に妖華もやって来る。それで俺と妖蔵にも気付いたのか幽々子は俺達を見回し―――
「...皆居るなら、丁度いいわ。妖怪化してしまった、『西行の大桜』――『西行妖』と呼びましょうか。私は、あの桜をどうにかする方策を考えたの」
「...お聞かせ願えますかな。紫の反応を見るに、我々も覚悟を決めねばならぬ策のようですが」
「...お聞かせ下さい、幽々子様。その策の内容がどうであれ、西行寺家の従者として私は...」
幽々子の言葉に対して妖華は言葉を途切れさせて俯く。木刀を握る右手に力を込めているのか微かに震えている。妖蔵は普段通りの表情だが、よく見れば眉間に皺を寄せている。
幽々子がやると決めれば、西行寺家の従者としてそれに従わねばならないだろう。だが、個人としては―――
「...幽々子、教えてくれ」
「...三人共、覚悟を決めるつもりのようね。私は――」
~『歌聖』の屋敷 『西行妖』の根元~
「...見事な満開じゃな。妖怪でなければさぞ素晴らしい花見になっただろうに」
「...幽々子の策が成れば、封印が解けない限りは決して咲かなくなる。これが見納めになるだろう」
屋敷に逗留してから、恐らく今まででこれ以上無く咲き誇っている『西行妖』を妖蔵と見上げながら会話を交わす。
「――影政、父上。紫と幽々子様の準備が終わったわ」
背後から妖華の声が聞こえ、振り向くと―――
「...一分の隙も無く満開ね。決行に相応しいわ」
「...グスッ......そう、ね...」
―――妖華の後に続いて、真っ白な襦袢の上に真っ白な単を纏った幽々子と、目を真っ赤にして鼻を啜る紫がゆっくりと歩いて来ていた。
―――『私は、他者を死へ誘う異能を持っているのだと思うの。顔も思い出せない母上、父上と親しかった方々...そして、父上その人。皆、私のせいで死んで逝き、皆に愛された大桜は血と生気を吸い上げて妖怪化してしまった。
丘に聳え、春に咲き誇ってきたあの桜に罪は無い。けど、今も増え続ける妖力は妖怪まで惹きつけるようになってしまった。それは止めなければ、都にも悪い影響を与えかねない。
――だから、私自身と、私の異能を以て"西行妖"を封じるの。私が封印の依代となり、死へ誘う力で"西行妖"の妖力を抑え込む。
紫は人間を依代とした封印を施すことは可能だと言っていた。――"西行妖"を封じるにはこれが最善だと思うの。この忌々しい異能が役立つことで、私の異能のせいで死んで逝った方々への償いにもなる』
―――一週間前、幽々子が俺達に明かした方策を思い出す。"『西行妖』を封じる"事自体は俺も考えていたが、幽々子が依代となる事はまるで考えていなかった。幽々子が自力で死に誘う能力に気付き、それを利用しようと考えていた事に驚き―――紫が拒絶するのも当然だと察した。
幽々子の提案を受け入れる事は幽を喪った紫にとって二度目の親友の喪失に繋がる。幽の時でさえ大泣きした彼女には到底受け入れられないだろう。
―――だが、他に効果的な策が無い事も事実だった。幽々子の能力が妖怪に通用するかは分からないが、人間でも妖怪でも生あるものに死は訪れる。それを鑑みれば、『西行妖』を死へ誘いながら封印する事は実に効果的な方策だった。
―――『私も貴女と永遠に別れてしまうのは辛いわ。...でも、今はこれしか無いの。"西行妖"をこのまま放置することはできない。"西行妖"の妖力にあてられてあなた達まで殉死する羽目になったら...それこそ、私には耐えられない』
―――妖蔵、妖華、俺は幽々子の覚悟を無下にする事は出来ず、彼女の策を受け入れた。紫は最後まで拒否し続けたが、彼女も内心ではそれしか無いと解っていたのだろう。出て来る言葉は感情的なものばかりで、普段の様な理論や理性的な言葉は出ず―――遂に涙をボロボロ零しながら幽々子の策を受け入れた。
「...皆、集まったな。では、決行前に確認するぞ。
まず、幽々子を依代として『西行妖』を封印する。その際に――これを飲め。情報が少なくて探すのに苦労したが、運良く間に合った」
「...これが、件の毒ね」
懐から小さな竹水筒を取り出し、幽々子に渡す。――裏社会の者達と交渉し、手に入れた眠るように死んでいく毒の水薬だ。この毒で幽々子が死を迎えた瞬間に、紫が封印の術式を発動する。発動の機会を逸すれば幽々子の策そのものが崩壊するが、そこは紫の腕と覚悟を信じるしかない。
「...封印が成った時、『西行妖』諸共屋敷の敷地全てを結界で覆って異界として隔離する。これで、封印と結界の二重防護となって『西行妖』のこれ以上の力の増大を封じ込めることができる」
「そしてその後は...いや、まずは封印の成就じゃな。――紫よ。最後に確認するが、覚悟は決めたか?」
「...大丈夫。覚悟は、決めたわ。二度目は無いから、絶対に成功させる」
妖蔵の問に対し、紫は袖で涙を拭って決意を宿した眼差しを金色の瞳に宿す。昨夜、幽々子と一緒に床に就いた時も泣いていたらしいが、覚悟を決めた様だ。
「...では、始めるとしよう」
「...えぇ」
幽々子は『西行妖』の根元に掘られた人一人が横たわれる程度の大きさの穴―――朝方妖蔵と俺とで掘ったものだ―――に入って仰向けに横たわり、上半身を起こす。
「...西行寺家の従者として支え続けてくれた妖蔵、妖華。用心棒として二人と共に守ってくれた影政。――そして、私の初めての親友になってくれた紫。
あなた達と出逢えて、今まで私の異能で死に誘ってしまうことが無くて本当に良かった。...妖蔵、妖華。あなた達には封印が成った後を任せるわ。影政と紫は――本来の目的である人妖が共存する理想郷創造の旅路に戻りなさい。私は見届けられないけど、その夢の成就を応援しているから」
「――お任せ下さい、幽々子様。私達"魂魄家"子々孫々、封じられた『西行妖』を守り抜きましょう」
「当主を退いた身ですが、妖華と共にその使命を果たしましょうぞ」
「...俺からも、感謝したい。幽々子と紫が出逢えたことで、久方振りに紫の素直で明るい笑顔が見られた。旅の仲間として、親友としてこれ程嬉しいことは無い」
「...っ...私、絶対に幽々子のこと、忘れないから。旅の時々でここに立ち寄って、起きたことを報告するから覚悟しなさい!」
幽々子の別れの言葉に各々答える。幽々子は竹水筒の栓を抜き―――
「――本当、別れるのが惜しいわ。でも、この封印は必ず成さねばならない。
―――身のうさを 思ひしらでや やみなまし そむくならひの なき世なりせば―――
...後は...お、ね......が......い.........」
―――水筒の毒薬を飲み干し、横たわって瞑目して十数秒。彼女の意識が徐々に薄くなり―――
「っ...今!!」
―――幽々子が死を迎えた瞬間、紫は瞳を輝かせ術式を発動する。念動で幽々子の身体が地中深くに埋もれていき、同時に結界が『西行妖』を包み込んでいく。
―――花が散り始め、それと共に妖力が弱まっていく。
...サァッ...
―――そして、『西行妖』の花が完全に散ったと同時に妖力を一切感じられなくなった。
「...妖力を全く感じない。封印は上手く行った、ってことでいいのよね?」
「...紫、どうだ?」
「...えぇ、術式は全て、一切の狂い無く発動したわ。これで、『西行妖』は...幽々子は......ゆゆ、こは......」
封印が成功したと答える紫の言葉が涙声で震え始める。幽々子が埋められた地面を見つめるように俯き―――
―――散った桜の花が舞い散る空に、また親友を喪った少女の泣き声が響き渡った。
「...っ...貴女が泣いちゃったら、私まで...!」
「...果たして、これで良かったのじゃろうか。幽々子様の覚悟を重んじたこの選択は、正しかったのか?」
「...悔やんでも幽々子が戻ってくる訳では無い。...俺達にできるのは、封じられた『西行妖』を見守り、封印を維持することだ。それが、彼女の覚悟への答えになると信じよう」
二度目の喪失に耐え切れず、膝を付いて顔を両手で覆い、幽う喪った時以上に泣きじゃくる紫を見ながら、俺は妖蔵にそう答えた。
―――to be continued―――