東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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人里での挨拶回り編です。


序-4~人里を訪ねて①~

~八雲邸 居間~

 

side-藍

 

 

「...眠っていた時間を含めれば実に長く、世話になったな。ありがとう」

「ちゃんと目を覚ましてくれたから、逗留期間百年はそれでお相子よ」

 

 

 卓袱台を挟み、私達と相対する影政様の謝意に紫様は微笑みながら応える。

 

―――お二方が『博麗神社』を訪ねた日から三日が経ち、影政様のお身体に異常無しと判断した紫様が出立の許可を出した。こうして別れの挨拶を交わしてるが、私達の役目上この邸にずっと居る訳ではないので、幻想郷の何処かで会うこともあるだろうから重い気持ちは無い。

 

 

「もう行ってしまわれるんですね...あ、いえ!影政様がこれからお忙しくなるのは分かっています!」

「あらあら、橙もすっかり影政に懐いちゃったわねぇ」

 

 

 橙が寂しそうに耳を垂らすが、すぐに耳をピンと立てて大丈夫だと言いたげに言い繕う。影政様が目覚めた当初はガチガチに緊張していたが、逗留中に修行や『弾幕ごっこ』の練習に付き合ったことでそれも解れたようだ。...影政様が"何もしないよりはご褒美があれば"と作ってくれた菓子の影響もあるだろうが、それが懐く大きな要因ではないと信じたい。

 

 

「...で、降ろすのは『人里』でいいのね?」

「あぁ。言われた通り()()を回収したいし、挨拶すべき者も多いからな。今日一日はそれで潰れるだろうな。後の挨拶回りは家に帰ってから考えるとしよう」

「...家に帰ったら、ちゃんとカニンにも謝りなさい。今も貴方の帰りをずっと待っているんだから」

「...あぁ」

 

 

 影政様の従者の事を紫様が半目で指摘すると、影政様は申し訳なさそうに頭を搔く。

 

―――"吸血鬼と刺し違えて深傷を負って昏睡状態"、その報を聞いて一番ショックを受けたのは彼女だろう。気絶から目を覚ました後も、()()()()()()()()()()()を見た瞬間を悪夢に見ていて、私達でサポートしても立ち直るのに結構な時間を要した。どうにか立ち直った後は、影政様のご自宅の維持をしながらずっと主の帰りを待っていた。

 

 

「それじゃあ、そろそろ送りましょうか」

「あぁ、頼む。藍、橙、世話になったな」

 

 

 お二方が立ち上がり、私達もそれに続く。

 

 

「此方こそ、橙共々お世話になりました。お気を付けて」

「影政様、どうかお気を付けて!...あと、その...機会がありましたらまたお菓子を...」

「あぁ、分かった。その代わり、修行はしっかりやれよ?」

「はい!」

 

 

―――橙の返事が私が修行をつけてる時よりしっかりしてる気がする。やはり、橙は影政様に餌付けされたのだろうか。未だ、菓子類の腕は影政様に敵わない。

 

 

 

 


 

 

~人里 大通り~

 

side-影政

 

「...この里も変わっていないな。住人や道行く人は結構変わっているが」

 

 

 人がひっきりなしに往来し、平和な喧騒に満ちる大通りを歩きながら呟く。

 

―――幻想郷の中央に『人里』は位置する。人間が住む集落としては最大規模であり、幻想郷における"人間の象徴"であり、他に集落も無い、現状唯一無二の()()()()()()である。

 中央故に他の場所へのアクセスが良く、それは逆に妖怪にとっても狙いやすいということでもある。幻想郷創造当初、『博麗神社』に続いて創られた里だが、ここに人間を集めた結果、必然的に妖怪が積極的に襲うようになった。幻想郷そのものが創られたばかりであり、何もかもが足りない中で里の人間を護る為に奔走していた。最初は最低限雨風を凌げる家とも言えない小屋ばかりだった集落は、今では妖怪の侵入を防ぐ防壁に囲まれ、多くの店や家が立ち並ぶ街へと成長していた。

 

 最初は人間だけだった住人や来訪者も、今は人間と友好的な、或いは仲良くなりたい妖怪や半妖が増えて来ていた。更には、装いが幻想郷の文明にそぐわない()()()もちらほら見える。道行く人々が時々俺を見るがすぐに興味を無くして視線を戻す。流石に百年経てば俺を直接知る者も居なくなっているようだ。

 

―――だが、今向かっている目的地に居る()()は間違いなく俺を忘れていない。

 

 

「...看板も変わっていないな」

 

上白沢塾

 

 

 その目的地に着き、門の梁に打ち付けられた『上白沢塾(かみしらさわじゅく)』の看板を見上げる。嘗て寺子屋を開いた記念に俺が拙いながら彫ったものだが、今も役目を務めている様だ。

 

 

「...ふむ。ちょうど授業は休みか。母屋に居るといいんだが...」

 

 玄関が締め切られた寺子屋に人の気配は無く、今日は授業が無いと察してすぐ傍の細い路地を通って裏路地に入る。

 

 ()()は人里の子供が増え始めた頃からこの寺子屋を営んでいる。授業は概ね不評(子供たち曰く"説明ばかりでつまらない"らしい)だが、学ぶ余裕が無い者ばかりだった創造当初に比べれば住人の教養はかなり向上している。そのおかげで、住人は自発的に法制度を敷き、自警団を組織して自衛できるほどになった。

 

 

「...」

 

 

 寺子屋の裏側、大通りに面する店の母屋が並ぶ路地に出て、『上白沢』の表札がある玄関の戸を叩く。すぐに足音が聞こえてきて―――

 

 

...ガラッ...

 

「どなたk......な...か、影、政...?

「――百年振りだな、()()

 

 

 戸が開き、腰まで伸びた青のメッシュが入った銀髪、白い半袖、青いロングスカートの裾に半円の装飾を施したワンピース風の服を身に着けた、()()()()()()()()()()()()()()()を感じられる()()は俺を見るなり赤い瞳を点にして震えた声を出す。すぐに俯き、わなわなと肩を震わせ―――

 

 

――百年も音沙汰無しで心配だったんだぞ!!吸血鬼異変(あの異変)を終息させて以来全く目を覚まさず、ずっとあのままかと思っていたんだぞ?!何を平然と『百年振りだな』だ...!そういうお前には――こうだッ!!

 

 

 目頭に涙を浮かべて、怒っているのか嬉しいのか分からない表情で『上白沢(かみしらさわ)慧音(けいね)』...俺の友人の一人にして幻想郷創造の立役者の一人でもある彼女は珍しく大きな声で捲し立て―――

 

 

―――ゴチンッ!!

 

 

―――彼女が得意とする強烈な頭突きが脳天を直撃した。

 

 

 


 

 

~上白沢塾母屋 居間~

 

 

「...まだ痛むな。慧音の頭突きを食らったのはいつ振りだろうか」

「当然の罰だ全く...だが、本当に目を覚ましてくれてよかった。...本当に、心配だったんだぞ...!

「すまない。...全く、百年間は長すぎたな」

 

 

 擦るだけで鈍い痛みを感じる頭頂部から手を離し、また泣きそうな表情を浮かべる慧音に頭を下げる。慧音の頭突き(お仕置き)を食らった後、落ち着いた慧音の案内で居間に上がって卓袱台を挟んで会話を交わしている。

 

―――彼女との出逢いは、幻想郷を創る候補地に人間を呼び込み始めた頃だった。故郷を追い出されたり、妖怪に滅ぼされたりして行き場の無い人間を探して回っていた時に、行き倒れていた彼女を見付けた。介抱して話を聞けば、彼女は前者の経緯だった。

 

 後天的に"ハクタク"の血が発現して半人半妖の"ワーハクタク"となり、生まれ故郷の住人から追い出されたという。元々両親が不明な拾い子だったが、その時までまさか自分が半分妖怪(人ならざるもの)だったとは彼女ですら知らなかったようだ。

 それまで自分を大事にしてくれた育て親ですら彼女を拒絶し、住人達から袋叩きにされ、何も持たせてもらえずに外に放り出されたという。絶望と人間からの拒絶を恐れて物乞いも出来ず彷徨い、行き倒れていた所を俺に拾われた訳だ。

 

 当時は俺も人間だった為に慧音から怖がられたが、偶然合流した()()()()()()()のおかげで打ち解けることができた。候補地に着き、集まっていた人間達に拒絶されず迎えられたことで彼女は"人間を護る"ことを誓い、今までその姿勢を貫いてきた。

 

―――閑話休題。

 

 

「しかし、いつ目を覚ましたんだ?『八雲邸』で紫の世話になっていたなら、彼女から連絡があっていいはずだが...」

「目を覚ましたのは五日前だな。病み上がりで異常が無いと認められるまで目を覚ましてからも逗留していた。...連絡については、"直接挨拶した方が感動も大きいでしょ?"って理由で()()()()()()()()()そうだ。『博麗神社』で霊夢、魅魔、玄爺、魔理沙に会ったが、そこでも紫が"影政()のことは言うな"と釘を刺していたな」

「...あの賢者は...まぁ、その方がいいだろうな。各地に挨拶して回って、お前が目覚めなかったことを皆がどれだけ心配していたか思い知るといい」

 

 

 慧音の問いに答えると、呆れたような表情を浮かべるがすぐに納得したように頷き、真剣な眼差しでそう言って湯吞の茶を飲む。紫と同じようなことを言う辺り、本当に誰も彼も心配させたようだ。

 

 

「...さて。私の所に来たということは、百年の間に人里(ここ)で起きた変化が知りたいんだな?」

「あぁ。"縁起"には記述されないような変化があったなら教えてほしい」

 

 

 慧音は話題を変え、俺が挨拶以外で訪ねた目的を察して聞いてくる。彼女は幻想郷創造から今までずっと『人里』の住人であり、()()もあって生き字引のような存在だ。里で起きたことを詳しく知りたいなら、慧音に頼るのが確実だ。

 

 

「分かった。――まず、吸血鬼異変(百年前の異変)での被害は殆ど無い。何ヶ所か防壁が少し崩れた程度で、人的被害も軽傷者が出た程度だ。紫や()()『博麗の巫女』...多くの加勢を得られたおかげだ」

 

 

 慧音は吸血鬼異変(百年前の異変)での『人里』の被害を伝える。確かにあの時、絶望しかけていた紫に発破をかけた後、藍に()を任せて紫自身は真っ先に里に向かっていたな。人間好きな紫らしい行動だった。

 

 

「そうか、里の被害が軽微で済んで良かった。俺が『妖怪の山』に向かった選択は間違いではなかったな」

「紫から聞いたが、山の被害は()()()()だったそうだな。影政の加勢が無ければ()()()()()()とも聞いた」

「あぁ。...里と山はそれぞれ"人間"と"妖怪"の象徴だ。双方護り抜けて良かった」

「そうだな。...次に移ろう」

 

 

 慧音の言葉に頷き、次の話題に移る。

 

 

「次に、『円月堂』なんだが...あぁ、そうだ。出来れば――いや、必ずあそこには行くんだぞ。彼はずっと、暇さえあれば手入れをする程にお前の"相棒"を返す日をずっと待っていたからな」

「あぁ、勿論だ。刀以外が使えない訳では無いが...やはり"相棒"無しはしっくり来ないからな。紫にも言われたし、ここでの用を終えた次に向かうつもりだ」

 

 

 慧音の言葉に頷く。やはり()()()はずっと"相棒"を見てくれていたようだ。鍛冶師としては至上の腕前だ、新品同然に直してくれてるだろう。次の目的地は『円月堂』だな。

 

 

「...それで、『円月堂』についてはそれだけか?」

「いや、お前の"相棒"については、目を覚まして私を訪ねてきた時に必ず言おうと忘れないでいただけだ。――本題は、十年程前に()が弟子を取った事だ」

「...()()()が弟子をか?」

 

 

 慧音の言葉が一瞬信じられず、思わず聞き返す。

 ()()()の鍛冶師としての腕は『神の御業』と謳われ、只人では足元にも及ばないものだった。それを自覚している事と、元来一匹狼な性格だった事も相俟って『生涯弟子は取らねぇ』と常日頃話していた。そんな()()()が弟子を取るとは...

 

 

「あぁ。その弟子は人間ではなく"唐傘お化け"...唐傘の"付喪神"なんだ。その時にその娘絡みで小規模な()()があって、()()()してくれた。弟子に取ったのはその後だ。何が()の琴線に触れたのかは分からないが、人手が増えたのもあって『円月堂』は一層繁盛しているよ」

「付喪神、それに()()か...()()()に会ったら聞いてみよう」

 

 

...トントン

 

 

 ふと、玄関から戸を叩く音が聞こえてきた。

 

 

「む、誰だろうか?すまない、少し席を外すぞ」

「あぁ。もし重要な客だったらお暇するとしよう」

 

 

 玄関に向かう慧音を見送る。

 先述のように、慧音はこの人里の中心的な存在であり、今もなお多くの住人に頼られている。寺子屋での授業が無ければ自警団や長老達の寄合に出て助言をしたり、住人の相談を受けたり、喧嘩や金銭問題、諸々のトラブルの解決や仲裁をしたりと多忙だ。あくまで復活報告と百年間の状況把握で訪ねて来た俺が長居することはないだろう。

 

 

<...おぉ...か。ちょうど...

<...した?...

 

 

 居間と玄関はそう離れてはいないため、微かに会話が漏れ聞こえてくる。どうやら知り合いが来たようだ。口調からして親しそうだ。慧音と親しい間柄というと...ん?よく聞けば聞き覚えがあるような気が...

 

 

<実は...影政...

え?!影政がッ?!

 

 

<ガタッ...ダダダダダダダッ!

 

 

 

「――お前だったか。百年ぶりだな、()()

「...本物、だよな?」

「大分付き合いも()()から、分かるだろう?出会して開幕、"妖怪か、s「それは言うな!!」すまん。...だが、これを知っているのは俺と紫だけだ」

「あの時は本当にすまなかった。...でも...本当に目覚めたんだな、影政...本当に、良かった...――とりあえず一発殴らせろッ!!

 

 

―――バキィッ!!

 

 

 

 靴を脱ぎ捨ててここまで駆けて来たのか、俺を見るなり感極まったような、心底安心したような表情を浮かべた、白い長髪に白地に赤の入った大きなリボンを頭頂部に一つと、毛先に小さなリボンを複数つけ、半袖のカッターシャツに赤い指貫袴風のもんぺをサスペンダーで肩に吊るして履いた大人びた少女―――『藤原(ふじわらの)妹紅(もこう)』...慧音と俺の友人であり、同じく幻想郷創造に携わった立役者の一人が、いきなり拳を俺の頬に叩き込んだ。

 

 

 


 

 

「...元々殴る気は無かったよ。でも、百年経ってさ...私的には短いけど、半妖の慧音には結構辛い長さなんだ。表向き気丈に振る舞って、裏では不安そうにしてたんだよ、慧音は。――だから、"影政が目覚めたら一発殴る"て決めてたんだ」

「そうか...いや全く思い知らされてばかりだな。...二人共、すまなかった」

 

 

 慧音、妹紅と卓袱台で改めて対面して、妹紅が殴った理由を聞いて頭を下げる。まだ痛む頭頂部に加え、右頬が痛むが、百年の眠りの代償として受け止める。

 

 

―――『――髪と瞳が違うが...その顔は見覚えがあるぞ』

―――『...お前、まさか()()()()...()()の筈なのに何故百年以上経っても生きて...あぁ、でもどうだっていい。お前等はここで私に殺されるんだからな――!』

 

―――妹紅との()()()()出逢いは初手が戦闘だった。当時は今と全く異なる、何者も近寄らせない荒んだ性格だった。後で彼女から聞いた()()に起因して衝動的に妖怪退治をしていて、当時紫と仲間集めの旅をしていた時に出くわした。

 妹紅は不滅の魂を持つ()()()()だ。四肢を斬り飛ばし、肉体を消し飛ばそうが、()()()()()()()ため炎のように蘇る。それ故に()()()()()()()()()()()()の妖術や格闘ばかりで苦戦を強いられた。

 

―――『っち...しぶとい奴だ。だが、私は何時までも戦えるぞ。決して消えないこの()()()()()でお前等を――』

―――『――妹紅、その憎悪は――』

 

 丸三日戦い続け、妹紅の()()に気付いてそこを突いて止めることができた。"不老不死(永遠の命)を護ることに使わないか"―――止めた後の説得で俺はそう誘った。傷心状態だった彼女はあっさりと誘いに乗った。それから共に旅をする中で友情が芽生え、俺と妹紅は友人となった。

 その後慧音と出逢った時に、打ち解けるきっかけを作ったのが妹紅だった。妹紅と慧音は"後天的に妖怪(人ならざるもの)"になった共通点を持っていた。故に互いに苦しみや辛さを理解でき、親友となるのに時間は掛からなかった。その関係は、妹紅が幻想郷創造後『迷いの竹林』外縁の飛び地の竹林に構えた庵に移住して距離が離れた今も続いている。

 

―――閑話休題。

 

 

「まぁ、反省してるならいいさ。――それより、その瞳と()()...本当に、()()になったんだな」

「お前が吸血鬼と刺し違えて倒れた後の治療と経過で、紫から聞いていたが...」

 

 

 俺の()()()を見て二人は辛そうな表情を浮かべる。友人関係である二人も当然、俺が"人間であること"に誇りを持っていたことを知っていた。妖怪(人ならざるもの)になることの苦しみや辛さを解っているからこそ、そんな表情を浮かべられるのだろう。

 

 

()()になったことはもう受け止めている。あの吸血鬼としては最高の形で()()()()()んだろうが、俺としてはこれからも"幻想郷を護っていける"から問題は無い」

「...前向きだなぁ。私は()()()()になったことを乗り越えるのに時間掛かったのに。...でも、辛いなら言ってよ。飲みの時でも聞いてあげるからさ」

「...影政は強いな、全く...だが、辛くなったら隠さず打ち明けてくれ。私達は友人なんだから。

 その"幻想郷を護る"想いだって、私達も持っている。――吸血鬼異変(百年前の異変)での()()のように、一人で先走るのは止めてくれ」

 

 

 二人は真面目な表情で心配してくれる。―――全く、いい友人に恵まれたな、俺は。

 

 

「あぁ、その時は頼らせてもらおう。...改めて、二人共よろしく頼む」

「こっちの台詞だよ。これからも一緒に、"幻想郷を護り"ながら仲良くやっていこう」

「よろしく頼むよ、影政。友人として、"幻想郷を護る者"として、共に歩もう」

 

 

 互いに手を差し伸べ、握手を交わす。

 

 

「...じゃあ、妹紅の来訪で中断していた百年間の『人里』が絡んだ出来事を話そうか」

「あ、そんな事してたんだ。変なタイミングで来ちゃったなぁ私...」

「気にするな。挨拶回りで妹紅の庵も訪ねるつもりだった。それが省けたから渡りに船だ」

「あ、そう?じゃあ、私も知ってることがあったら補足していくよ」

 

 

 改めて互いの友情を確認し、『人里』絡みの出来事把握を再開する。

 

 

 

 

「――さて、これが最後になるな。つい最近...でもないが、一ヶ月程前から『霧の湖』湖畔の『廃洋館』の対岸側に()()()()()()()()()が現れてな...度胸試しだと里の若者達の何人かが侵入を試みたことがあった。勿論、その馬鹿者達には私が頭突きをし(灸を据え)たおかげですぐに度胸試しは無くなったが、連中曰く"入っても()()()()()()()()()"らしい」

「あぁ、そんなこともあったね。人間でも比較的対処しやすい"妖精"達の縄張りだけど、妖怪が居ない訳じゃないし、人間が護衛も無しにホイホイと行って良い場所じゃないからな、『霧の湖』は」

 

 

 二、三件『人里』絡みの出来事を聞いた次に挙げられたのは、幻想郷北東部に位置する『霧の湖』で起きた出来事だった。

 

―――『霧の湖』という名の通り、一日中湖面に霧が漂い、特に昼間の霧の濃さは前後不覚になりかねない程で、それを利用して人間相手に悪戯を仕掛ける"妖精"達が縄張りにしている。妹紅の言う通り、人間が護衛無しに出歩いて良い場所では無いが、危険を冒す事が格好良い事だと考える馬鹿者はどうしても出て来るらしい。

 

 

()()()()()()()()()か。誰かしら原因を調べたりはしたのか?」

「いや、特に誰かが調べたという話は聞いていないな。その場所に近付かなければ何も影響は無いし、その内元に戻るだろうと『博麗の巫女』(霊夢)が判断してそのまま放置している」

「私も一度見に行ったことがあったけど、(ここ)の馬鹿共みたいに侵入しようとした妖精達が"嫌な気配がした"って言ってたな。正直調べず放置はどうかと思うけど、実際今まで実害は出てないしね。皆やる事もあるし、優先する程のものではないと思うよ。その内暇な誰かが調べるだろうさ」

 

 

 誰も調べず放置というのは気になるが、紫曰く歴代で群を抜いて()()()()らしい霊夢(当代『博麗の巫女』)が放置しているなら問題は無いのだろう。...俺としては調べてみたいが、今は方々への報告、挨拶回りを優先せねばならない。調べるにしてもそれが終わった後になるだろう。

 

 

「成程な...頭の隅に留めておこう。『人里』絡みの出来事はこれで全部か?」

「あぁ。これ以上は特段目立った出来事は無い」

「そうか。...では、そろそろお暇するとしよう」

 

 

 これ以上聞くべき事は無いと判断し、次の訪ね先へ―――『円月堂』へ向かうべく立ち上がる。

 

 

「...影政。改めて言うが、本当に目を覚ましてくれて良かった。これからは、吸血鬼との刺し違え(あんなこと)はしないでくれ」

「私達は友人だ。一人で厳しいなら、遠慮せず私達を頼ってくれよ。できる限り応えるからさ」

「あぁ、そうさせてもらおう。...全く、俺は良い友人を得たとつくづく実感するよ」

 

 

 玄関に向かいながら、二人から改めて釘を刺される。これからの報告、挨拶回りでも同じ様な事を言われるだろうが、そうしたくなる様な行動を俺は取っていた。長年そうして来たせいですぐに改善出来る自信は無いが、これ以上親友や友人、仲間達を心配させる訳にはいかない。二人の言葉を心に刻み込む。

 

 

「...では、またな」

「あぁ、また――あぁ、一つだけ言い忘れていた。挨拶回りは今日一日で全部は済ませられないだろう?帰宅したら――()()()にしっかり謝るんだぞ。紫と並んで...いや、彼女以上にあの娘はお前のことを心配していたんだからな」

「時々家事とか掃除の手伝いに行ったけど、いつもふとした瞬間にため息を吐いてたからな。...本当、お前はとんでもないことをやったな」

「...あぁ、()として始末は付けるさ。――改めて、またな」

「またな、影政」

「落ち着いたら、家に遊びに行くからな。あの家には、やっぱり影政が居てこそだ」

 

 

 二人からまた紫と同じ様な事を言われ、思わず苦笑いを浮かべて頷き、二人に別れを告げて『上白沢塾』の母屋を辞して表の大通りに出る。

 

―――次の目的地は西門方面へ歩けばすぐだ。昼時が近付きつつあり、往来も増えているがそれでも前方の視界の中で目立つ、里を囲う防壁に点々と聳える見張り櫓を越える高さの石造煙突の根本―――そこが()()()が営む鍛冶屋『円月堂』だ。

 

 

「...天涯孤独を謳っていた()()()が弟子を取るとは、な。一体どんな心変わりがあったのか...」

 

 

 煙突を見ながら呟き、歩き出す。

 

―――報告、挨拶回りは始まったばかりだ。

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 

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