~人里 『円月堂』前~
side-影政
「...この店も、変わらないな」
<キーン...キーン......
『円月堂』の前で足を止める。閉められた玄関の戸には『商い中』の木札が提げられていて、微かに鍛治仕事の音が聞こえてくる。
―――『本業を碌に出来ずおよそ百年。やっとこさ店を構えられるぜ!』
―――『お前には苦労を掛けさせたな。"鬼"の手も借りて頑健に造ってある。存分に腕を奮ってくれ』
―――『円月堂』は里が掘っ立て小屋の集まりから集落へと発展し、物々交換から貨幣経済へと移行した頃に建てられた。それ以前は可搬式の炉や金床を幌のテントを建ててその中で構え、移動しながら鍛冶仕事をしていた。妖怪からも高く評価される神懸かりの腕は引く手数多で、妖怪の需要も考えれば移動式が良かったが、元々店を構えて定住するのが目標だった為、妖怪達は人里に出入りできるようになるまでの間は自分達や河童の鍛造に甘んじたが、アイツの隔絶した腕で造られた金物には敵わない事を実感したという。
害意が無く、人間と友好的な妖怪の出入りが許されるようになってからは妖怪達は挙って『円月堂』に依頼を持ち込み、人里からの依頼も加わってパンクしかかっていた。
―――『依頼が減らねぇ!寧ろ増えてやがる!!だが頼まれた以上は全部やる!!それはそうと妖怪共はちったぁ己等の腕を磨く努力をしやがれちくしょー!!』
ある時偶然聞いたアイツの叫びを思い出す。神懸かりの腕前への畏敬の念は信仰へ転化し、現人神になって神器すら鍛えられるようになった時点で妖怪でも及ばない境地に至ったせいだと思うが、職人気質もあって愚痴りはするが全ての依頼を熟し続けた。
―――閑話休題。
「鍛治仕事の時は店を閉めて集中する筈だが...本当に弟子を取ったのか」
改めて『商い中』の札を見ながら呟く。
アイツが鍛治仕事に取り組む時は、部外者が入ることを嫌う。元々は一人で店を切り盛りしていたため、鍛治仕事に取り組む時は都度店を閉めていた。それでも一度店を開けるだけで依頼が次々舞い込んでくるものだから前述の叫びも出るだろう。
何度か手伝いや、従業員の雇入れを提案したこともあったが、『いらねぇよ。店は食い扶持確保と環境確保のついででやってんだ。俺は俺がやりたいようにやる』と断られていた。
―――だが、鍛治仕事中に店を開けられるという事は、店先の応対を任せられる人手があるという事。...慧音を信じない訳ではないが、それでもアイツが弟子を取った事が素直に信じられない。
「さて、『商い中』とあるから入っても大丈夫な筈だが...失礼する」
少し不安に思いつつも、戸を開けて店内に入る。
アイツは鍛治仕事での集中力が高く、何か結界でも張っているのかと思う程に、呼びかけや肩を叩くことでも一切反応しない。流石に大きな音を出したり強目に頭を叩いたりすると反応するが、"仕事の手を止めさせた"と判断されたら、友人相手でも目に見えて不機嫌になる(が、事情によっては対応してくれることもある)。仕事を依頼しに来た接点が殆どない他人相手だと、よくて雑な応対、最悪一方的に出禁にされる。弟子を取ったならそういうことは無くなっていると思うが果たして―――
「はーい、いらっしゃーい。...ん?お兄さん、初めて見る顔だね」
―――およそ八畳の土間。左右に依頼で仕上げた金物を入れる引き出しと売り物らしき細々とした金物の陳列棚が並び、その奥に帳場がある。そこで帳簿を付けていたらしい少女―――スカイブルーのボブカット、髪色と同じ瞳と真っ赤な瞳のオッドアイ、白の長袖シャツの上に"一つメ"と読めるような黒紐で留めた水色のベストを羽織り、何かの線を模した白いラインを飾る淡い水色のミニスカートを履いた娘が手を止めてこちらを見る。彼女の傍には茄子色の唐傘が置かれているのも見える。...なるほど、特徴的にこの娘が件の"弟子"か。
「『牙門影政』という者だ。この店の主とは友人なんだが...仕事中のようだな」
「うん、そーだよ。師匠は凄く集中するから――待って、今『影政』って言った?」
自己紹介をすると、少女は驚いたように聞き返してくる。
「あぁ、そうだが」
「ちょっと待ってて!すぐ呼んでくるから!」
少女はそう言って立ち上がり、帳場の奥の戸を開けて小走りで駆けて奥に向かう。数秒して、規則的な鋳物を叩く音が止まった。そして、床が僅かに軋む重い足音が聞こえてきて―――
「――ほらほら、師匠!この人でしょ?」
「...おう、コイツで間違いねぇ。――影政、やっと目ぇ覚ましたか」
「あぁ。――久しぶりだな、『宗二』」
「――どんだけ待ったと思ってやがるこの野郎!まぁ大丈夫そうで何よりだが!!」
「すまなかった。...色々話したいこと、聞きたいことがある、上がっていいか?」
「おぅ、構わねぇぞ!...おい、店閉めたら茶を頼むぞ!」
「はーい!」
身の丈は七尺に迫る長身に、鍛治仕事で鍛えられた筋肉質の身体、藍染の作業着の上に焦げ跡や傷だらけの耐火エプロンを下げ、ボサボサの月光のような金髪を手拭いの鉢巻で纏めた偉丈夫の"現人神"━━『円月宗二』は嬉しそうな大声をあげ、快く俺を迎えてくれた。
~『円月堂』母屋 居間~
「はい、お茶だよー」
「あぁ、ありがとう」
"唐傘お化け"の少女は俺と宗二にそれぞれ湯吞を渡し、宗二の隣に座る。
―――店を閉めた後、俺は母屋の居間に通された。相変わらず家具類は最低限で、異性の弟子を迎えても変わらなかった様だ。
―――『...これは...凄まじい腕前だな。見逃すには惜しい人材だ。今は鍛冶仕事の需要は殆ど無いが...それでも構わないなら、歓迎しよう』
―――『...本当に俺を受け入れてくれるんだな?いつか俺自身の店を構えられるってんなら、その位耐えてやるよ。...あぁ、やっと流浪が終わるぜ...!』
―――宗二との出逢いは幻想郷創造の候補地に人間を呼び込み始め、慧音と出逢う前だった。当時流浪の身だった宗二は、定住して鍛冶場を構えられる場所を探していた。"現人神"になったのは幻想郷創造後だが、出逢った時点で既に神懸かりの腕を持っていた。それ故に大半の人間から驚かれるどころか恐れられ、俺達と出逢うまで何処からも受け入れられなかったという。候補地に流れ着くまでは、比較的友好的な妖怪相手に鍛冶仕事をしていたらしい。
将来の『人里』に必要な人材だと紫と共に賛成して快く迎え入れ、そこから俺と宗二の友情も始まった。鍛冶の腕だけでなく、自作したという鋼製の大槌を振るって妖怪とも戦える腕もあり、鍛冶仕事が無い時は一緒に妖怪を迎撃したりもした。―――集落も何も無かったせいで専ら妖怪退治ばかりやらされて常に愚痴っていたが。
幻想郷創造が実現し、『人里』が里らしくなって来た頃から鍛冶仕事が増え始め、今では人妖問わず引く手数多の鍛冶師となった。
―――閑話休題。
「...改めて自己紹介しよう。『牙門影政』、元人間の剣士だ。宗二とは幻想郷創造前からの付き合いがある親友だ」
「『多々良小傘』、"唐傘お化け"だよ。気軽に小傘って呼んでね。お兄さんの事は師匠がよく話してくれたよ。...『吸血鬼異変』ってすごい異変で、酷い傷を負って眠ってたんでしょ?私はその時生まれてすらいなかったから、師匠から聞いただけだけど...無事でよかったと思うよ。この子も喜んでるみたいだし」
互いに自己紹介を交わし、"唐傘お化け"の少女...小傘はそう言って卓袱台の真ん中に置かれた紫色の布の細長い包みを見て微笑む。小傘が店仕舞いをしている間に宗二が鍛冶場から持ってきたものだが、この包みの中身は間違い無く―――
「...百年も待ってたんだ。そりゃ嬉しいだろうよ。――影政、コイツを返すぞ。折れた刃も直して新品同然だ」
「――あぁ。百年振りだな、"相棒"」
宗二が包みを解くと、黒い鞘に収まった刀...俺の"相棒"が現れた。銀の頭と赤い柄巻をあつらえた柄、鞘を持って静かに持ち上げ、ゆっくり刃を抜く。刃長三尺三寸の銀色に輝く刃が現れる。吸血鬼との決戦で折れた部分も痕無く繋ぎ直されていて、嘗て親父から引き継いだ時以上に煌めく刃があった。
「...流石だな。本当にあの時折ったとは思えない出来だ」
「当然だ。俺は幻想郷最高の鍛冶師だぞ。折れた刃を直す程度朝飯前だ」
刃を見ながら褒めれば、宗二は当然だと言いたげに鼻を鳴らす。
「――だが、やはり感じられないな」
「――だろうな。やっぱ影政は宿っていた戦神と融合しちまったんだな。あの吸血鬼野郎...」
「...師匠、どういうこと?」
百年前であれば感じられた筈の戦神の気配を今の"相棒"からは感じられず、改めて自身が戦神になったことを実感して呟くと、宗二の忌々しそうな言葉に小傘が首を傾げる。
「影政は元々人間だったんだよ。神の力を使ってきたせいか妖怪側に結構近かったがな。『吸血鬼異変』で影政が首謀者の吸血鬼をぶっ殺したってのは聞かせてやったな?...その時に吸血鬼の悪足搔きを食らって刺し違えて、その時に戦神と融合して影政自身が戦神になっちまったのさ」
「...だから自己紹介の時に元人間って言ったんだね」
宗二の説明に小傘は納得したように頷く。
「...だが、その様子だと戦神になったことは受け入れたみてぇだな」
「あぁ、いつかはこうなるだろうと覚悟していたからな。人間ではなくなったが、俺はこれからも"幻想郷を護る"。"人間であることへの誇り"はある意味俺の我儘だった。我儘を通すより、"幻想郷をずっと護る"ことを優先するべきだろう」
「...前向きで何よりだ。だが、あの決戦みてぇに一人で先走るのはアレっきりにしてくれや。あの時は状況が状況だったから仕方ねぇ所はあるが、"幻想郷を護りてぇ"のは影政だけじゃねぇんだ」
「...紫にも慧音にも言われたからな。気を付けるさ」
宗二まで紫達と同じ事を言ってきた。俺が皆に与えた影響の大きさを実感しながら苦笑を浮かべて頷く。
「反省してるんならいい。...影政の相棒は戦神が居なくなっても神器であることに変わりはねぇ。今まで以上に大事にして使ってやれ」
「あぁ、勿論だ。刃を折るのはあの決戦が最初で最後だ。...改めて頼むぞ、"相棒"」
宗二の言葉に答えながら"相棒"を鞘に納め、傍に置く。宗二と違って声を聞くことはできないが、百年越しに俺の下に戻って来られて嬉しそうだと何となく感じられた。
「...それで、宗二に聞きたいことがあるんだが」
「おぅ、小傘のことだな?影政は俺の性格を解ってるだろうからな、そりゃ聞きたくもなるわな」
宗二は分かっていたように頷き、言葉を続ける。
「――お察しの通り、小傘は俺の弟子だ。...詳しく話すと結構長くなるが、どうするよ?」
「長いと少し困るな...他にも挨拶回りをしないといけないしな」
「ならそっちを優先しとけ。お前の目覚めを待ち侘びてんのは沢山居るからな。詳しいのは今度飲む時にでも話してやる」
「分かった。...なら、簡単に経緯を教えてくれ」
詳しい経緯は別の機会になったが、ある程度は弟子を取った経緯を聞いておきたい。
「おぅ。――出逢ったのは十年位前、『無縁塚』でだった。いつものように流れ着いた金物やら刃物やらを拾っていた時に、当時生まれたてだった小傘のドッキリに遭ってな。...バレバレだったから驚くもクソも無かったが」
「あ、あの時は驚かせる方法なんて知らなかったもん!」
宗二の言葉に小傘は恥ずかしそうに頬を赤くして言い返すが、宗二は聞き流して話を続ける。
「んで、なんだって驚かそうとしたのか聞いてみりゃ人間を驚かせなきゃ心の餓えを満たせない、らしくてな。...妖怪の方が多い幻想郷じゃ難易度高ぇよな」
「...確かにな」
「...い、今は驚かせる方法があるから大丈夫だもん!」
小傘が言い返してくるが、実際幻想郷において人間を驚かせるのは難しい。小さなもので妖精のいたずらから、大きなものだと紫の能力まで非常識な出来事が日常茶飯事だ。"唐傘お化け"なら"傘から舌を伸ばす"、"ひとりでに傘が跳ねる"様な驚かせ方があるだろうが、その程度で幻想郷の人間は驚かない。妖怪の脅威を殆ど知らない今時の外来人なら可能性はあるが、現状数が少ないので現実的ではない。
「まぁ、今の小傘にゃ確かに驚かせる方法があるが、その話は後だ。俺が驚かせる方法なんぞ知ってる訳ねぇのに、教えろ教えろってしつこくてな。顔面パンチ寸止めでビビらせてその時は別れた」
「パンチ寸止めホント怖かったんだよ?!パァンッ!ってすごい音がして意識飛びかけてたんだよ?!いじめなの?!さでずむなの?!」
「...(さでずむ?)」
宗二のような偉丈夫がいきなり拳の寸止めをすれば、小傘のような生まれたての幼い精神では驚かされるどころか死を覚悟するだろう。
「まぁ、パンチ寸止めはどうでもいいんだ。「どうでもよくないよ?!」あれから一週間位経った頃だった。――『辻斬り異変』って"縁起"にゃ記録されてる、ちょっとした異変が起きた」
「――辻斬りだと?」
宗二の口から物々しい言葉が聞こえ、思わず聞き返す。
「おぅ。原因から言っちまえば、俺が『無縁塚』で拾い損ねた付喪神化しかけた刀が原因だった。その刀を拾ったのが――自警団にとっ捕まっていたが逃げ出して捜索中だった、人傷沙汰を起こしたクソ野郎でな。
ソイツの負の感情にあてられて歪んだ形で付喪神化――ある意味妖刀になってあの野郎の精神を乗っ取っちまって辻斬りをやりまくった。幸い死人は出なかったが――それに小傘が巻き込まれちまったのさ」
「...あの時は本当に死んじゃうかと思った。すごくお腹が空いていて、なりふり構わず驚かそうとしたら...っ...」
小傘は言葉を途切れさせて身震いする。...恐らく驚かせようとして斬られたのだろう。
「その時、俺はちょうど近くに居てな。人が倒れる音がしたから行ってみれば...血塗れで倒れた小傘と、俺を次の標的にした辻斬り野郎が居た。
『無縁塚』に出掛ける予定でいたから、大槌を持っていたのが幸いだった。まぁ、マサの太刀筋にくらべりゃ雑魚だった。すぐに叩き潰してやったぜ。...あぁ、心配すんな。慧音から殺してもお咎め無しって布告が出てたからな。...それに、あのクソ野郎は精神が死んでいた。布告が無くても生かす意味は無かったぜ」
叩き潰したと聞いて慧音が黙っていないだろうと思い、俺がそれを咎めようとしたのを察したのか続けて補足する。人間を護ることに妥協しない慧音が殺害を許すとは、その辻斬りはもはや人間ではなかったのだろう。
「...辻斬りを叩き潰して無事異変解決となったが...小傘は斬られて重傷を負ったせいで人間に恐怖心を抱くようになっちまった。介抱してやった俺や慧音とは話せたんだが、他はダメだった」
小傘は生まれてから今まで十年程しか経っていない。その精神は見た目より幼いだろう。その状態でいきなり斬られて重傷を負って心に傷を負わない訳が無い。
「下手に人前に出せねぇから俺が面倒見てたんだが、鍛冶仕事に興味を持ってな。気晴らしに『博麗の巫女』向けの封魔針を造らせてみたんだが――これの出来が思った以上に良くてな、らしくもなく驚いちまったぜ」
「それで私、人間への恐怖心をあっさり克服できちゃったんだ!ずっとひどい空腹だったのが一気に満たされたし、師匠には本当に感謝してるよ!」
宗二の言葉に小傘は明るい笑顔を浮かべる。
「...それが弟子に取ったきっかけか」
「応ともよ。色々造らせてみたが、数を熟せばすぐにいいものができる腕前だ。特にさっき言った封魔針以外に釣り針やら金物細工やらの小物造りの腕は俺以上だ。釣り針なんかは餌無しで大物が釣れるってんで円月堂の売れ筋商品だ」
「えへへー。小物を毎回買ってくれるりぴーたー?って人も居るんだよ。すごいでしょ!」
師匠から褒められた小傘は照れ臭そうに笑みを浮かべる。小傘には思った以上に素質があるようだ。
「それは凄いな。...多々良...たたら...一本だたら...天目一箇神...ふむ、まさかな」
「影政、どうした?」
「...いや、何でもない」
小傘の性から我が家にある古い文献の記述を思い出したが、憶測に過ぎないだろうと思い誤魔化す。俺の従者も言霊の影響を受けたような変化があったが...憶測は憶測だ。
「まぁ、鍛冶師としてはまだ成長の余地ありだ。...それから、さっき人間を驚かせる方法があるって言ったよな?鍛冶の修行以外に、小傘は里で赤ん坊の世話とか子供向けの読み聞かせとかもやってんだ。これもまた上手いこと嵌ってな。読み聞かせなんかは真に迫った読み方が大人すら引き込むぜ。怪談なんかは特に小傘の掻き入れ時だ」
「...なるほどな。子供なら驚くことも多いか」
非常識が常識の幻想郷だが、知識や経験を吸収する途上にある子供にとっては見るもの聞くものの何もかもが新しく驚くべきものだろう。おかげで小傘の心の餓えは満たせているようだ。
「...っつー訳で、小傘は俺の弟子としても、『人里』の一員としても上手くやっていけてるぜ。...生涯一匹狼とか謳ってたが、それを曲げた甲斐はあった」
宗二は恥ずかしさを誤魔化すように頭を掻く。百年の間に宗二の心情にも変化があったようだ。親友として嬉しく思う。
「小傘についてはそんな所だな。他に聞きたいことはあるか?」
「...いや、特に無いな。...聞きたいことは聞けたし、そろそろお暇する。次は『稗田邸』に行くつもりだ」
「おぅ、そうか。...稗田の所だが、転生で九代目になってるからな。気を付けろよ」
「...紫からは聞いていたが、彼女には申し訳無いことをしたな。分かった。忠告ありがとう」
暇を告げて席を立ち、三人揃って店の土間に向かいながら宗二の忠告に頷く。『稗田邸』に住む彼女は特殊な性質を持っている。記憶の継承はあるだろうが、百年前の感覚で接するのは良くないだろう。
―――『...御阿礼の子は代替わりして九代目よ。彼女の最期の看取りと神事の立会いは私がやったから安心...はできないわよね。吸血鬼異変は、貴方と彼女にとって最悪なタイミングで起きてしまった。
――でも、ちゃんと"稗田邸"には挨拶と報告に行きなさい。きっと彼女は貴方に――想い人に遺している筈だから』
―――脳裏に紫から聞いた言葉を思い返す。少し気は重いが、幻想郷創造以前から繋がりがある以上、挨拶、報告に行かなければならない。
「いいってことよ。...じゃあ、またな影政。挨拶終わってひと段落したら一杯やろうぜ」
「あぁ、勿論だ。小傘も、修行や里での役目を頑張れよ」
「うん、またねー!『円月堂』をご贔屓に!!」
店の戸を開け、小傘の元気な声を背に受けながら『円月堂』を後にする。既に昼時だ。適当な飯屋で昼を済ませてから『稗田邸』に向かうとしよう。
―――to be continued―――