東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~   作:しがない東方二次創作者

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序-6~人里を訪ねて③~

~人里 稗田邸~

 

side-影政

 

 

「...恐らく()()()()()されているだろうから要らないかもしれないが、自己紹介しておこう。『牙門影政』、()()()の剣士だ」

「九代目"御阿礼の子"、『稗田(ひえだの)阿求(あきゅう)』と申します。...えぇ。百年前の事も含め、全てではありませんが()()されています。――本当に、無事お目覚めになられてよかった」

 

 

 人里では敷地が最も大きく、随一の血筋と家格を誇る『稗田家』の邸宅。その客間で"御阿礼(みあれ)の子"の九代目『稗田阿求』と対面する。紫色のセミロングをポニーテールで結っていた()()と違っておかっぱ頭の髪だが、それ以外は初代から殆ど変わっていなかった。

 

 

―――彼女と...いや、()()()()()との出逢いは飛鳥の時代の都、当時権勢を強めつつあった藤原家の当主『藤原不比等(ふひと)』の()が迷子になっていたのを見付け、保護して帰した際の礼として屋敷に招待された時だった。

 

―――『...不比等様、そちらのお二方は?』

―――『おぉ、阿礼か。今日は調子が良さそうであるな。丁度良い、紹介しよう――』

 

 『稗田阿礼(あれい)』―――不比等の側室の一人であり、"求聞持(ぐもんじ)"と呼ばれ女官でありながら宮中の記録全般を受け持つ、帝にも重用されていた人物を紹介された。―――身体の不調が深刻化し始め、宮中から身を引いて療養中だったらしいが、俺達が訪ねた時は珍しく体調が良かったようだった。

 

 同性故か、馬が合う所があったのか、紫は阿礼とすぐに仲良くなり、()()の時に彼女に招待されると喜んで屋敷に向かう程だった。

 

―――『...影政、その...ごめんなさい。今日ね、話し込んでたらうっかり彼女に――()()()()だってつい明かしちゃったの』

―――『...は?お前それは――』

―――『で、でも大丈夫よ!阿礼は"それは私と紫の秘め事にしましょう"って黙ってくれてるから!』

 

―――紫が阿礼に妖怪であること(自身の正体)を明かしてしまったと最初に聞いた時は"()()を辞めて去らねばならないかと覚悟したが、"彼女は記録や口述筆記でしか知らなかった妖怪に興味津々だった様で、最後まで他者に、不比等()にすら明かす事は無かった。人間好きの紫は彼女と益々仲良くなり―――自身の夢(人妖が共存する理想郷)についても話してしまった。が、阿礼はそれに惹かれたようだった。

 

―――『人間と妖怪が共存する理想郷、ですか。私が聞き、記録してきた妖怪はどれも恐ろしいものでしたが、貴女のような人間好きな妖怪も居るなんて初めて知りました。

 そういった妖怪も居るのなら、共存も実現できそうですね。...生い先短い私には見届けられない時間が必要でしょうが』

 

 俺もその時紫と同席していたが、阿礼は既に自分が長くは生きられないことを悟っていた。だが、自身の夢(人妖が共存する理想郷)に賛同してくれた、俺に続いての理解者だった。紫は心底残念そうに阿礼の言葉を聞いていたが―――

 

―――『...決めました。()()見届けられませんが、必ずや貴女がたが創りあげた理想郷へのお力添えに参上します。紫は強力な能力を持っていましたね。そのお力で何か()を作れないでしょうか?』

 

―――彼女は妙な提案を挙げた。紫は彼女の意図が分からず首を傾げつつも、理想郷創造が実現する時に()()()()()()()()()()()()()()()"呼符"を作り、阿礼に渡した。それから少しして、俺達は()()()()()()を辞めて都を離れて夢の実現の為の旅路に戻る事となり、彼女の()()を看取る事は叶わなかった。

 

 

―――それから幻想郷創造が目前に近付いた頃だった。阿礼に託した"呼符"の事を思い出した紫はその効果を発動した。俺達の前に現れたのは、()()()()()()()()()()()()()だった。

 

 

―――『()()()()()ですね、紫様、影政様。"稗田阿礼"の身より()()()()、"稗田阿一(あいち)"と申します。お約束通り、お力添えに参上しました』

 

 

 俺も紫も、そう名乗った少女を見て目を点にした。疑われることを分かっていたのか、阿一は()()()()()()()()を渡してきた。そこに書かれていた内容は、"()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()秘術を成功させた"というものだった。紫が『約束を守るために転生までするって...どんな精神してるのよ彼女』と引き攣った笑みを浮かべていたのは今でも思い出せる。

 

 

 そうして、阿一は実現した理想郷―――幻想郷で妖怪の情報を集め、解説書を作成して人間へ注意喚起を図る活動を始めた。時が経って()()などの出来事も記録されるようになり、何時しか幻想郷の歴史を記す唯一の歴史書―――"幻想郷縁起"が生まれた。

 歴史に干渉できる(が、縁起に記述された内容には干渉できない)()()を持つ慧音と協力し、()()を繰り返しながら今まで"幻想郷の歴史"を記録・編纂し続けている。

 

―――閑話休題。

 

 

「百年も眠っていてすまなかった。先代の最期も看取れず、"御阿礼神事"にも立ち会えず――本当に、すまなかった」

 

 

 そう謝罪して阿求に頭を下げる。

 

―――阿礼が成した()()には代償―――歴代"御阿礼の子"へ()()寿()()が課されていた。歴代で()()()()()()()()()()()()()。阿礼の時代であれば長生きな方だったが、今では五十を余裕で越え、百すら越えて生きられる程に環境が向上している。それと比べれば、"御阿礼の子"の寿命が如何に短いか。

 "御阿礼の子"が亡くなるとその魂は『地獄』へ送られ、()()()()()()()()()()()が行われるまで凡そ百年前後を()()を活用した記録等の仕事をしながら過ごす。()()すれば『地獄』で過ごした記憶は無くなるが、魂に染み付いた経験は無くならない様で、代を継ぐ度に"縁起"の内容はより洗練されていた。

 "御阿礼の子"の()()が決まると、稗田家ではそれを出迎える"御阿礼神事"が催される。俺は紫と共に阿二への()()から始まったこの神事に欠かさず立ち会ってきた。阿礼、阿一を知っているからこそ、()()の真偽を証明出来る立場でもあったからだ。

 

 

「...頭をお上げください。私の神事に関しては紫様が立ち会って下さったので問題ありません。―――ですが、先代についてはどうしようもありません。...私には殆ど()()されませんでしたから」

 

 

 阿求は俺が神事に立ち会えなかった事は許したが、先代を看取れなかったことについてはそう答えて目を伏せる。

 

 

―――八代目"御阿礼の子"の阿弥は、歴代で最も俺との付き合いが多かったと思う。短命故にか体がそれ程丈夫では無かった七代目以前に比べ、彼女は群を抜いて有り余る体力を持ち、活動的であった。

 

 

―――『影政様。歴代の"縁起"を読み返して、私思ったんです。妖怪に関する情報はどれもこれも()()()()()()()です。これでは正確な情報とは言えないでしょう。...そこで!私()()()()()()()()()()()()()、お話を聞いてみようと思うんです!というかそうしますッ!!』

 

 

 歴代で(大妖怪)とも付き合いがあるとは言え、それはあくまで例外だった。歴代でもやはり()()()()()()を抱いていたからこそ、阿弥が俺の下を訪ねて来てそう宣言した時には困惑した。―――積極的に妖怪に近付いたのは、彼女が歴代で初めてだった。

 それから俺は護衛として阿弥に付き添い、()()()()()()()()()()()()()()()()、果ては()()()()()にまで直接会ってインタビューを敢行してきたのを見守ってきた。幸いそれなりに付き合いがある連中が多かったおかげで護衛の役目を果たす機会は殆ど無かった。

 そうしてインタビューを基に妖怪の解説が更新された。特に、()()()()()()()()()()()と呼ばれている()()の評価が大きく変わった。誰からも()()()()()()()()と言われてきた彼女が、そう思われる行動を取った理由が分かった結果、彼女に歩み寄る人間が増えてきた。それ以来、彼女は里の花屋に自身が育てた花を卸したり、種を買ったりと人間に歩み寄るようになった。

 

 インタビューに付き添い続けているとそれ以外での付き合いも自然と増え、食事だったり細やかな飲みだったり、解説内容の更新でアドバイスを乞われたり...いつしか歴代で最も関係が深いものになっていた。だが―――

 

―――『なぁ、影政。お前って阿弥と一緒に居ることが多いよな。...もしかして、()()()があったりするのか?いや、こっちの勘違いなら謝るけど...()()()なら早い内にしろよ』

―――『...影政(マサ)、もし阿弥の奴に対して()()()があるなら、早い方がいいと思うぜ。...()()の癖に数百年、今まで生きてきたお前と違って、"御阿礼の子"の寿命が遥かに(みじけ)ぇのはよく知ってるだろ?』

―――『影政、最近阿弥と()()()()()なってるみたいじゃない。...仮の話だけど、貴方が()()()()をしても、私は応援するわ。...全く、()()()()()には気付けないでいたから、まさかとは思っていたけど...

 

―――俺も阿弥も、互いに友人としての感覚で付き合っていたが、どうも周りは『いつか結婚するのではないか?』と思っていたようだった。俺自身はそのつもりは無かったが、阿弥はそう言われ続けて意識してしまったらしい。ある時から人目に付く所では明らかに恥ずかしそうな様子を見せるようになった。

 流石にそういった様子を見せられると、俺でも考えるようになった。嘗てなら考えすらしなかっただろうが、自覚無くそれだけ付き合いが長く深いものになっていた。そして、()()について阿弥にしっかり意思を問おうと考えていた矢先に―――『吸血鬼異変』が起きた。

 

 阿弥は異変終息から三年後―――()()()()()()()()()()()に亡くなったと、紫から聞いた。阿弥が俺をどう思っていたのか、彼女が生きている内に聞くことは叶わなかった。

 

 

「...ですが、先代は影政様にこちらを遺していました。先代の()()()()()の最後に挟まっていたんです」

 

 

 阿求は着物の懐から一通の手紙を取り出し、テーブルに置いて俺に差し出す。宛先には『影政様へ』と、阿弥の字で記されていた。"御阿礼日記"は、阿一の転生から判明した()()()()()()()()()()()()である事への対策として紫と共に提案したものだ。"縁起"に記録されない、個人的に遺しておきたい記録や愚痴などを記すもので、その中身を見られるのは歴代"御阿礼の子"だけである。阿弥はその日記とは別に、手紙を遺していた。

 

 

「...読んでも構わないか?」

「えぇ、構いませんよ。中身を見るようなことはしていませんのでご安心ください。それから、その手紙は差し上げます。...それは、影政様が持っておくべきものでしょうから」

 

 

 阿求がそう補足したように、手紙の封が切られた痕跡は無かった。封を切り、中の手紙を開く。

 

 

―――影政様へ

 

 この手紙を読まれているということは、私は既に故人となっているでしょう。何とか気力で保たせていますが、果たして()()()()()()()を成せるかどうか。是非はどうあれ、せめて影政様へこの手紙を遺したく、身体に鞭打って書いております―――

 

 

「......」

 

 

 手紙を読み進めていく。最初は"妖怪と直接話して解説を更新する"試みに付き合ってくれた事、それを通して妖怪と友情を結ぶ事も出来た事への感謝が綴られていた。そして―――

 

 

―――『吸血鬼異変』で影政様が吸血鬼と刺し違え、深傷を負って意識不明の重体と聞いた時は胸が張り裂けそうになりました。そして、"神になってしまわれた"と紫様から伝えられた時。私の中には"死ぬことはない事への安心"と、"人間ではなくなった事への不安"が渦巻いていました。影政様が"人間である事"に誇りを持っていた事はよく知っております。その誇りが砕かれたと影政様が知られたらどう思われるのかは分かりません。

 ですが、私はこの手紙を書く前に自覚しました。少なくとも私は"影政様が死にはしない"事が嬉しいのだと。幻想郷創造の立役者としてではなく、歴代"御阿礼の子"らしからぬお転婆な私に文句も無く付き合って下さった大切な人として、それが嬉しかった。

 紫様や慧音さん、妹紅さん。沢山の方々からその関係を"結婚しそう"等と揶揄われ、お恥ずかしながら意識してしまい、度々お見苦しい所を見せてしまいました。でも、不思議と悪い気はしなかったのです。今、この手紙を書いている時になって、私は自覚してしまいました。私は、影政様の事が―――

 

 

「...全く、最悪の男だな俺は」

 

 

 手紙を読み終え、自嘲気味に呟く。吸血鬼異変(百年前の異変)が無ければ直接聞いていたであろう()()()()()()()()()()()()()で記されていた。

 

 

「...手紙の内容については聞きません。ですが、先代の日記の端々から影政様へどのような想いを持っていたのかは何となく分かりました。...歴代でも異端な方だったんですね、色々な意味で」

 

 

 阿求はそう言って羨ましそうな表情を浮かべる。

 

 

「そうだな。だが、後世に伝えるべき行動もしている。阿弥のおかげで、"縁起"も大きく変わった」

「そうですね。...私も、先代に倣って()()()()()()()ようにしているんです。先代ほど体力はありませんが、やはり直接出向くことは大事だと実感しています。まだ更新は続いていますが、"縁起"をご覧になりますか?」

「あぁ、頼む。歴代の各人で"縁起"の書き方は違うからな」

 

 

 阿求の提案に頷くと、彼女は傍に置いていた一冊の本―――『幻想郷縁起 第九版』をテーブルに置いて差し出す。片っ端から妖怪や異変について文章で記しただけだった阿一の初版から、阿弥の第八版では解説の項目が整理され、誰が読んでも内容を理解しやすい文体になった。魂に沁み込んだ歴代の経験は時代を下る毎に"縁起"をより良いものにしていた。

 

 阿求が書く"縁起"がどのようなものか、期待を胸に開いて読み始める。

 

 

「...ほう、絵図が付いたんだな。阿弥も絵図の追加を試みていたが、結局やらなかったな」

 

 

 更新途中と言った通りに歴代に比べてページ数は少ないが、載せられている内容は絵図が追加されて視覚でも分かりやすいものになっていた。歴史書というよりは万人受けする解説書だが、大衆に幻想郷の歴史を知って貰うならこの形式がいいだろう。

 

 『絵や図があった方がもっと分かりやすいですよね!』と阿弥も絵図の追加を試みていた。時間を見付けては描いていたようだが、話題にあげると必ず()()()()()()()。その理由は()()()()()書いていなかったから分からないが。

 

 

「...そうですね。()()ではとても載せられるものではなかったですよ。ですが、教えません。乙女には秘密が付き物です。影政様が知ったとなれば、先代は枕に顔を押し付けて叫ぶでしょうから」

 

 

 阿求は理由を知っているようだったが、何か微笑ましいものを見たような笑みを浮かべるだけだった。...どうやら知らない方が良さそうだ。"縁起"の内容の読み込みに集中する。

 

 

「...『辻斬り異変』についても書いているな。本当に宗二が()()()()()のか」

 

 

 締め括りの『里の鍛冶師"円月宗二"が辻斬りを叩き潰し、異変は無事解決された』という文に()()()()()()()()()()()()()()()()の絵が添えられていた。

 

 

「我ながらよくできた絵だと思います。その現場を描写したかったですが...その、()()()()()()()載せらませんでした」

 

 

 阿求は恐ろしいものを見たような表情で目を反らす。...槌にベットリ付いた血の描写を見るに、恐らく()()()()()()()()()()()()()のだろう。

 

 

「そうか...あぁ、そうだ。百年前の異変...『吸血鬼異変』の記述を見たい。この版ではまだ更新されていないようだが」

「...先代が最後に記録したものだけあって、かなり濃い内容ですよ。原版はお譲りできませんが、印刷された第八版は『鈴奈庵』で借りられますので、そちらを借りて読まれた方がよろしいかと」

「...『鈴奈庵』?」

 

 

 『吸血鬼異変』の記録を読もうと尋ねたら、気になる言葉が出て来た。どうやら貸本屋のようだが、百年前はそのようなものは無かった筈だ。

 

 

「十年程前に、本居家の一部を改装して出来た貸本屋です。そこの看板娘とは―――」

 

<『――お嬢様、()()様と()()()様がお見えになりました。いかがいたしましょうか』

 

 

 ふと、客間の襖越しに女中の声が聞こえてきた。どうやら来客らしい。

 

 

「小鈴と小兎姫が?...分かりました、こちらにお通ししてください」

 

<『承知いたしました』

 

 

 女中は玄関に向かったのか、気配が遠ざかる。

 

 

「...ちょうどいいですね。二人共、私の友人なのです。是非とも影政様にご紹介したいのですが、よろしいでしょうか?」

「あぁ、構わない。...歴代と変わらず、しっかり友人を得ていて何よりだ」

 

 

 阿求の言葉に頷く。()()で都度友人関係が白紙になるとは言え、それでも友人を得る事は歴代"御阿礼の子"の支えとなっていた。歴代は『人里』から殆ど出なかった為、基本的に友人となるのは()()だったが、阿弥は妖怪とも多くの友人関係を築いていた。...やはり、阿弥は例外地味た存在だとつくづく思う。

 

 

『お嬢様、両名をお連れしまsあっ、ちょっ勝手に――

 

 

スパーン!

 

 

阿求(あっきゅーん)!、『小兎姫』様が来てやったわよー!

 

 

―――突然襖が開け放たれ、赤い帯を巻いた白の小袖の上に、赤い花模様を飾った紫色の打掛を羽織った、赤い髪を黄色いリボンでまとめた少女が現れた。

 

 

「ち、ちょっと小兎姫また勝手に――あっ、ご、ごめんなさい!まさか先に来客があったなんて...!」

 

 

 その背後から、飴色の髪を鈴の髪留めでツインテールに結い上げ、紅と薄紅の市松模様の着物に緑色の行灯袴を纏う小柄な少女が出てきて、俺が居合わせていた事に気付いてペコペコ頭を下げてくる。飴色の髪と赤い瞳...あぁ、この特徴は―――

 

 

「あらら?そちらの殿方は初見さんね。...その刀、剣士かしら?ねぇ自警団に来ない?腕に覚えがあるなら歓迎するわよー?私に試合で勝てたら高待遇で雇ってあげる。だから来ない?」

 

 

 赤い髪の少女は俺を見るなり勧誘して来た。どうやら彼女は自警団に所属していて、最後の言葉から考えるに只の一団員では無さそうだ。

 

 

「ちょっと小兎姫、自己紹介も無しにいきなり勧誘は無礼でしょう。...申し訳ございません、影政様」

「影政様?その名前、"縁起"でよく見たような...」

 

 

 阿求は赤い髪の少女を『小兎姫(ことひめ)』と呼び、呆れた表情で注意して俺に謝罪する。飴色の髪の少女―――恐らく本居(もとおり)家の娘であろう少女は俺の名前を聞いて首を傾げる。

 

 

「何、気にするな。礼儀は二の次、自由奔放な性格のようだな。...『牙門影政』、推察の通り剣士だ」

 

 

 ()()()とは言わずに自己紹介をする。友好的な、無害な妖怪が里を出入りするようになっても妖怪(人ならざるもの)を恐れる人間は居る。目の前の少女二人にその可能性がある事を鑑みた自己紹介だ。

 

 

「全く...さぁ、立ってないで入りなさいな」

「はいはーい。そんな堂々と刀を置いてたら分かるわよ。私は『小兎姫』、当代の自警団団長よ。で、このちっこいのが――」

「ま、まだ成長の余地はあるもん!...あ、私は『本居小鈴(こすず)』と言います。貸本屋『鈴奈庵』の看板娘です」

 

 

 阿求に促されて客間に入り、二人は阿求の両隣に座る。小兎姫は少女の身でありながら自警団の長だった。そして小鈴と呼ばれた少女は予想通り本居家の娘だった。

 

―――本居家は百五十年程前から製本と印刷業で有名になり始めた家だ。それ以前は読書家が多いだけの一般的な里人の家だったが、当時は血の気が多かった妖怪が多く、当時の本居家の子供が()()()()()()に遭ったのがきっかけだった。

 人攫いを敢行した天狗は何を思ったのか、その子供に()()()()()()()()()()()()()()()()、二週間程で帰してしまった。ちょうど紫が天狗を懲らしめようと動き出していた、天狗からすれば丁度いいタイミングでの人攫いの解決だった。

 ともあれ、本を安易に手に入れられる技術が里に齎された。これまでは極々限られた人物による写本しか無かったが、活版印刷で様々な本が何冊も刷られた。"幻想郷縁起"も阿弥(当時の御阿礼の子)と紫の許可を受けて印刷による増刷が始まり、住人は手軽に幻想郷の歴史に触れられるようになった。既存の本から()から流れてきた"外来本"まで様々な本を収集し、印刷してきた。

 

―――閑話休題。

 

 

「貸本屋か。本居家は製本と印刷で有名だったが、本を貸せる位に()()()()()()のか」

「そうですね。事業を始める前から、本居家(ウチ)って読書家が多かったんです。だから蔵書の量も多くて。両親が『読破した本は里の皆に貸し出そう』って、書庫を改装して貸本屋を始めたんです」

「今も書庫の蔵書増えてるわよねー。私も偶に『無縁塚』で本の収集の護衛に付き合わされるし」

 

 

 本居家の本への並々ならぬ情熱は変わっていないようだ。集めたものを自分達だけで独占せず、他者に供するのはあの()()()()()()との大きな違いだ。――()は相変わらず使()()()()()()()()しているのだろうか。

 そして、『無縁塚』の()()()()()を考えれば人間が行くべき所では無いが...小兎姫はあの辺りを跋扈する妖獣相手でも戦える腕を持っているようだ。被害が出ていないなら大丈夫だろう。

 

 

「...それで、二人は何か用があって来たのかしら?」

「んー、特にはないわよ。私達ちょうど暇だったから、阿求(あっきゅん)の所で何か駄弁ろうかなーって」

「私は阿求の立場を考えて反対したんだけど...全然聞いてくれなかったから」

「...小兎姫...」

 

 

 小兎姫の答えに阿求は心底呆れたため息を吐く。稗田家は曲がりなりに里で随一の名家である。この二人の様に予定も無く訪ねるのは、本来なら無礼にあたる。しかし阿求は呆れつつも怒る様子は無い。友人だからこそ許しているのだろう。

 

 

「まぁ、仲が良くて何よりだ。阿求もいい友人を得たな」

「えぇ、そうですね。振り回されることもありますが、二人と友人になったことに後悔はありません」

「そうか。...では、場違いな野郎はそろそろお暇するとしよう。友人と過ごす時間は多い方がいいだろう」

 

 

 阿求にそう告げ、"相棒"を携えて立ち上がる。

 

 

「あらら、行っちゃうの?私としては別に居てもいいんだけど」

「影政様はお忙しい立場なのよ。...影政様、今後のご予定は?」

「そうだな。『鈴奈庵』で"縁起"を借りて、今日は家に帰ろうと思う。...小鈴、と呼んでいいか?『鈴奈庵』は今やっているか?」

「はい。今日はお母さんが店番をしてくれているので、大丈夫ですよ」

 

 

 小鈴に『鈴奈庵』の状況を尋ねると、店は開いているようだ。

 

 

「影政様がお帰りになられます。送迎を」

 

<『承知いたしました』

 

 

 阿求が客間の外に控える女中に伝える。

 

 

「では、またな。これからも三人仲良くな」

「またねー。自警団に入りたかったら詰所に来てね。自警団(ウチ)の門はいつでも全開だから」

「またお会いできるといいですね。...あと、『鈴奈庵』を贔屓にしてもらえると嬉しいです」

「影政様、お気を付けて」

 

 

 三人に別れを告げ、客間を出て女中の案内で玄関に向かう。

 

 

<阿求、影政って名前、縁起で沢山見たような気がするんだけど...

<...まぁ、貴女達なら大丈夫ね。教えてあげるわ

<話題どーするか考えてなかったけど、ちょうどいいわね。ほらほら、早く聞かせなさい

 

 

 微かに聞こえてくる三人の仲睦まじい会話の声を聞きながら、玄関でブーツを履いて出る。

 

 

「影政様、道中お気を付けて」

「あぁ、ありがとう」

 

 

 深々と頭を下げる女中に見送られ、『稗田邸』を後にする。阿弥の手紙を呼み込んでいたこともあってか、日は傾き始めていた。『鈴奈庵』で"縁起"を借りて帰れば丁度いい時間だろう。

 

 

―――私からの我儘なお願いです。どうか、"一人で先走る"様な行動は止めて下さい。影政様は私以外にも、多くの方々に良くも悪くも影響を与えています。影政様が常々語っていた"幻想郷を護る意思"は皆が持っているものです。"前に立って"歩くばかりではなく、"皆と肩を並べて"歩んで欲しいのです。

 

 

「...つくづく、最悪の男だな」

 

 

 阿弥の手紙に記された、紫や慧音、宗二と同じような()()を思い出し、苦笑した。―――我が家では()()が俺を待っている筈だ。しっかり頭を下げて謝らねばな。

 

 

 

―――to be continued―――

 

 

 

 

 





今後の物語に向けて出逢いの描写を変えています。...まぁ元ネタとか、今回出ている人物でどの辺りになるかは察せると思いますが()

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