東方護郷譚・廻~幻想を護る者達~ 作:しがない東方二次創作者
~人里近郊の丘 麓~
side-影政
「...この道も、変わっていないな」
我が家がある小高い丘への道を歩きながら呟く。
―――『鈴奈庵』で"縁起"を借り(応対してくれた小鈴の母親が本居家の血を引いていた。三十路で背丈は小鈴と比べ一寸程高いだけで、小鈴の背丈の将来を思って心の中で合掌した)、偶然催されていた小傘の読み聞かせを聞いていたら夕方から夜に入ろうかという時間になってしまった。宗二の言った通り、大人ですら引き込まれそうな声の演技が印象的だった。言葉だけで脳裏に情景を浮かばせるのは驚くべき才能だ。
―――閑話休題。
丘は『人里』の近く、北東に十分程歩いた所にあり、里の外観を一望出来る高さがある。里がまだ掘っ立て小屋の集まりだった頃から、ここに自分の生活拠点を置くことを決めていた。
最初はただの寝泊まりするだけの小屋だったが、今ではそれなりの数の来客を迎えられる、一人暮らしには些か大き過ぎるちょっとした邸にまで増改築
「...時間的に、夕食の準備中か」
夕焼けが濃紺の夜空に追われつつある空を見上げて呟く。緩やかな上り坂の道を歩いていると、黒漆が塗られた木壁と門が見えてきた。百年経っているが、変わらず我が家の敷地を守っているようだ。
「...さて、どう謝ったものか」
閉じた門の前で足を止める。脳裏に従者―――長い金髪に長い兎耳を伸ばし、白いワイシャツの襟元に赤色のネクタイを締め、上に黒色の近代軍服風のブレザーを羽織り、赤色のミニスカートと黒色のブーツを履いた、色白の肌の"玉兎"の姿を思い出す。
紫や慧音達から釘を刺されたから解ってはいるが、俺が
「...うじうじ考えても意味はないな。兎に角まず謝る。後はそれからだ」
思考を止め、門扉を開けた。
~牙門邸 台所~
side-???
「...はぁ...」
今日の夕食で最後の準備になった豚汁の煮え具合を見守りながら、思わずため息をつく。―――
<―――『血が止まってねぇぞ!テメェちゃんと治療してんのか?!』
<―――『やってるよ...!兎に角包帯なり布なりで止血し続けるんだ!』
―――『藍さん!主様は...主様はどうなったんですか?!』
―――『カニン?!...今は駄目だ!まだ予断を許せないんだ、だから――』
―――『お願いします!せめて一目だけでも!』
―――『あ、おい――』
―――今でも、ふとした時に思い出してしまう。"主様が吸血鬼と刺し違えて深傷を追った"。そう聞いて居ても立ってもいられず、藍さんの制止も振り切って目の当たりにした―――
―――『――あ、るじ、様...?』
―――『......』
―――懸命に治療活動を行うご友人の方々に囲まれ、
―――『あぁ、目を覚ましたか!お前までこのまま目を覚まさないかと思ったぞ!
―――『藍、さん...主様、は...?』
―――『...っ...いいか、カニン。落ち着いて聞いてくれ。影政様は――』
―――実に一年以上、私は気を失っていたらしい。藍さん、紫様、多くのご友人の方々の懸命な治療の甲斐あって、私が目を覚ました時には主様の深傷は治っていた―――
でも、私はその
―――でも、主様は目を覚まさなかった。命は繋いだけど、意識が回復する兆しは一向に見られなかった。主様と同じく『八雲邸』で療養していた私は、毎日主様を見舞った。けど、藍さん、紫様から私が快復したと判断されるまでに、結局主様の意識が回復する事は無かった。
私は主様と共に暮らしていた我が家である
毎日家の掃除をして、時々庭の手入れをして、時には老朽化した家具や道具の交換をしたりと今まで―――百年間続けた。一人でやり切るには大き過ぎる家だった為、慧音さんや妹紅さん、藍さん、
「...うん、よく煮えてる」
思考を目の前の豚汁に戻し、味見して煮え具合を確かめる。今までで一番上手く出来た気がする。
―――『すまないな、こんなもので。口に合うといいんだが...』
―――墜落するように不時着して、気絶していた私を拾い、看病してくれた主様が私に作ってくれた、
それから地上での暮らしに慣れてきてからも、私にとっての好物は豚汁とおにぎりで変わらなかった。地上で生まれ育った者ですらない私を、恐れない所か心配して看病してくれた思いが詰まったあの味は決して忘れられない。好物だから、こうして偶に作ることはある。...でも今日は何故か"これを作るべき"だと勘が囁いていた。私が地上での人生を過ごす事を決めた切っ掛けになった、思い出の料理。
「...主様...」
脳裏に主様の姿を思い出してしまう。元々
―――玄関の戸が開いて、主様が帰って来るのを出迎える。主様の事を考えていると、そんな事を夢想してしまう。...
「...あ。いけない、忘れてた...!」
玄関の戸締まりを忘れていたことを思い出した。来客が無ければ、基本的に夕食前には玄関に鍵を掛ける。今まで忘れてこなかったのに、初めて忘れてしまった。火はしっかり止めて後始末して、小走りで玄関に向かい―――
「...え―――」
玄関の引き戸の鍵に手を伸ばした瞬間、引き戸が開かれた。そこには―――
「...戸締まりの直前だったか。タイミングがいいのか悪いのか」
―――後頭部でポニーテールに結い上げた黒く長い髪。振袖のような袖口の白いシャツの襟元に紅いネクタイを締め、紅い肩衣を羽織り、紅い袴と黒革のブーツを履き、腰に刀を差した、男性の剣士。私を見て、苦笑いを浮かべる
「...ぁ...ぇ...?」
―――突然の事過ぎて、声が上手く出ない。藍さんや紫様からは何も連絡が無かった。だから、
「...まぁ、驚くよな。紫からは何も聞いてないだろう?...だが、俺は確かにお前の目の前に居るぞ。お前も我が家も、変わりないようで何よりだ」
―――ずっと、聞いてきた声。ずっと聞きたかった、低く落ち着いた優しい声。
「...ぁ...あぁ...」
―――目にこみ上げてくるものが、止まらない。従者として無礼な事なのに、止められない。
「...百年も待たせてしまったな。...本当に、すまなかった」
―――滲む視界で、主様が私に頭を下げている。...我慢、出来ない。こみ上げて来たものが溢れて頬を伝う。
「...ぁ...あ、るじ...さま...」
「――ただいま、『カニン』」
「――あぁぁぁぁぁぁ~~~~!!主様ぁぁ!!ずっと...ずっと...!私はぁ...私はぁぁぁ!!」
「あぁ、好きなだけ泣け。百年も待たせたツケだ...」
―――私は思いっ切り、主様の胸に飛び込んだ。生涯で初めて、自分の中の全部をぶつけたと思う。ちゃんとした言葉にならなかったけど、私の思いの丈を主様は私の頭を撫でながら全部聞いてくれた。
~牙門邸 居間~
side-影政
「...美味いな。もう俺より上の出来じゃないか?」
「そ、そうですか?
―――初めてカニンがあそこまで泣いた事に驚きつつも落ち着かせ、俺は居間で彼女と共に夕食を摂っていた。
大きめの椀に盛られた豚汁を一口食べる。別に美食家ではないから大した表現は出来ないが、俺よりもずっと上の出来だと感じた。―――二百年程前の満月の夜。丘の麓で倒れていたのを見付けて拾い、看病していた時に出したのが、今の献立の豚汁と塩を振ったおにぎりだった。
―――カニン...『カニーヒェン・
彼女は元々"玉兎"―――
―――『――御札から伸びる光は
―――『なら、行きましょう。――これが、
―――最初の出逢いは
その玉兎達を率いていたのが、当時は名前も無かった
―――『...人間、いや...兎耳があるなら妖怪か?なんだって空から...』
―――『頭部の怪我が酷そうだ。仮に妖怪であってもこの怪我は...兎に角運ぼう。影政は先に戻って治療道具の準備を頼む』
―――『あぁ、分かった』
―――次の出逢い...いや再会は、幻想郷創造後のある十五夜だった。慧音と妹紅と共に月見酒に興じていると、丘の麓に
何事かと三人で麓に降りると、浅いクレーターのような窪みの中で横たわって動かない、
―――『ここ、は...
―――目を覚ました
更に詳しく聞こうとすると、
―――それから詳しく
翌日紫を呼んで情報を共有した結果、不明瞭な点が多いものの、その
―――『...分かりました、引き受けましょう。私は逃亡先を求めて幻想郷へ勝手に侵入した身です。その位はしなければ...』
―――『
―――『...俺なんかでいいのならその願い、引き受けよう』
―――『ありがとうございます。...これからよろしくお願いしますね、"主様"』
こうして、『月戦争』が起きる翌年の十五夜まで
当初は逃げ出した
―――『...兵役にある玉兎がどんどん動員されているようです。演習を行う時以上の規模に膨れ上がっているとも。...まさか、本当に...』
―――その言葉を受け、紫と共に幻想郷中を回って妖怪達を呼び集めた。『地底』からも一度限りの特例で少数精鋭を集め、翌年の十五夜に
―――『穢れに満ちた地上の者共よ!貴様ら如きが玉兎風情と言えども
『月戦争』と記録されてはいるが、その実態は
―――『...そこの剣士、貴方は一方的に殺られていないわね。...私の相手になりなさい』
俺は
―――
―――此方の負けだったが、月人側は
―――『主様。私は"ウササカ"の名前を改めようと思います。
―――『...そうか。...そうだな...名前は―――』
―――その事実が、『ウササカ』の名前を変える決心を付けさせた。彼女の願いで、俺は名前を―――『カニーヒェン・宇佐坂』の名前を与えた。"カニーヒェン"はドイツ語の
―――閑話休題。
「...ご馳走様、美味かった」
「お粗末様でした。では、片付けますね」
カニンとの出逢いから今までを思い出しながら、夕食を終える。本当は俺自身で片付けをしたかったが、『従者として、やらせて下さい。それを百年待ってたんですから』と真面目な表情で言われては任せるしかなかった。玄関での再会で思いの丈をぶつけたせいか、百年前より自己主張が強くなった様に見える。
「...やはり、謝罪の他に何か贈り物をすべきか」
そう呟いて湯吞の緑茶を啜る。カニンは謝罪を受け入れてくれたとは言え、俺の中では不十分だった。百年前なら固辞されていたかもしれないが、自己主張が強くなった今なら何か欲しい物があれば言ってくれそうだ。
「金は有り余る程あるし、何をお願いされても大丈夫だが...」
今まで彼女の方から贈り物を望んだ事が無かった為、一抹の不安がある。
「...主様、何か考え事ですか?」
考え込んでいると、カニンが戻ってきていたのに気付かず声を掛けられて思考を止める。
「...カニンに何か贈り物をしたいと思ってな。言葉での謝罪だけでは俺が不安でな」
「...百年待たされたとは言え、こうして帰って来てくれましたし、私としてはそれだけでも十分過ぎる
「...遠慮はいらないからな。俺ができる範囲で応えよう」
カニンが提案を受け入れてた事に安堵して息をつき、釘を刺しておく。
「分かりました。...ところで主様、今後のご予定は?」
「そうだな...明日は家でゆっくりしようかと思う。カニンが欲しい贈り物が何か聞いておきたいしな。明後日からは挨拶回りだ。『人里』は終わったが、まだ回るべき所はあるからな」
「...そうですね。
カニンに予定を尋ねられ、明後日からの予定も伝えると彼女は少し呆れたように半目で俺を見る。従者にまで言われるか...恐らく俺が眠っている間にも親友や友人達が我が家を時々訪ねていたのだろう。
「全く...百年の眠りは長過ぎたとつくづく実感するな。...だが、明日位はゆっくりしたい。百年もカニンを一人にさせたことへの、主としての償いだ」
「...百年経っても変わらず、主様はお優しいですね。その優しさに何度救われたことか」
俺の言葉にカニンは微笑む。
「...明日ゆっくり過ごす為にも、サッパリしないとな。風呂は入れているか?」
「はい。夕食の準備と盛り付けの合間に入れておきましたので、すぐに入れますよ」
「分かった。ありがとう、カニン」
カニンに礼を言い、立ち上がって風呂場に向かう。明日には彼女も欲しい物を考え付く。それにも備えて、早めに寝るとしよう。挨拶回りもまだ終わっていないが、それが終われば百年振りに普通の日常に戻れるだろう。
―――呆れ返る程平和ではなく、適度に喧騒に満ちる幻想郷の日常。俺はこれからも、それを護り続ける。一人ではなく、親友や友人達、創造を志した時からの仲間達と共に。
カニーヒェンが生まれた経緯
はえ~、儚月抄の前に一回月と戦争してるのね
↓
書くにしてもきっかけをどうするか...
↓
せや、ウドンゲとレイセンみたく玉兎使うか!
~ざっくりオリキャラ解説~
名前:カニーヒェン・宇佐坂
(ドイツ語のウサギ:Kaninchen、ウ(兎)+ササカ※兎の名の起源の一説サンスクリット語)
性別:女性
種族:玉兎
能力:見たものを狙い撃つ程度の能力
解説
影政と紫と交戦した時は『イーグルラヴィ』隊長だったが、その後戦闘技能と経験を見込まれて『月の都』で訓練教官に抜擢され『ウササカ』の名前を得る。しかし、暫くして
そこで影政に拾われて介抱され、彼の従者となる。一年後に起きた『月戦争』では幻想郷に攻め入る口実に利用されたが連れ戻される事は無く、改めて名前を影政から貰って