【書籍化】サイバーパンク居酒屋『郷』~チート持ちで転生したけどやることないのでまったり過ごしたい~   作:西沢東

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お待たせしました、3章開幕です!毎週木曜・日曜の週2回更新予定です。


第三章
居酒屋『郷』の異変


 2240年、それは技術と欲望が果てしなく成長を続けた未来。だが過度な成長は歪みを生み出す。その代表例がここ、暗黒街であった。犯罪が多発する超危険地帯にして様々なモノが集まる魔境。

 

 そんな暗黒街の片隅にある居酒屋から本日最後の客が出ていくのを、俺は頭を下げたまま見送る。トキの未来流刑執行から2ヶ月ほどが経過した、10月10日の夜11時。開いた扉からは10月の夜らしい暑い空気が店内に入ってくる。21世紀の異常気象は23世紀にとっての通常でしかないのだ。

 

 俺はエアコンの空気が逃げないよう、開いた扉をしっかり閉める。料理もいい感じに品切れ、これにて本日は居酒屋『郷』営業終了である。俺は個室の仕切りの向こうにいるメス堕ち世襲議員に声をかけた。

 

「個室の片づけ終わったら上がっていいぞー」

「了解なのじゃ!」

 

 仕事の終わりを告げると、嬉しかったのか個室の仕切り越しに明るい少女もどきの声が聞こえる。その声色を聞くに相当やりたいことがあったらしい。まあ日々の楽しみがあるのはいいことである。

 

 そんなことを思いながら、俺はシンクに溜まった皿を片付けていく。とはいっても今は23世紀、俺の前世である21世紀と比べると遥かに技術が発展している。シンクの下に備え付けてある食洗器に突っ込めばそれでしまいだ。

 

 問題は食洗器に入らない調理用のフライヤーや大き目のまな板の方だ。皿が多いということは注文数が多く、それすなわち調理器具の汚れや床への油跳ねが多いということでもある。

 

 結局いくら技術が進んでも、人間という名の自動ロボットの方が導入コストが安い場面は少なくない。例えば殺人をするならドローンを使うより貧しい人に小銭と銃持たせた方がコスパいいのは暗黒街の常識である。23世紀キッズの倫理観が終わっているのは横に置いておくとする。

 

「にしても、繁盛するようになったな……」

 

 食洗器に食器を入れ、洗剤とスポンジで鍋をこすりながら思う。以前は来る客がせいぜいアヤメちゃんくらい、あとは一見の客が大半でリピートも無かった。

 

 それがメス堕ち世襲議員事件や数式ア○メ事件の影響で気づけば大幅に成長。今や居酒屋の収益は黒字である。

 

 その一因が、数式ア○メ女事件の成果である漁船『債務者御一行』の釣果だ。人件費ゼロで釣ってきた鮮魚たちはこの店の仕入れコスト低減に大きく貢献している。太平洋で頑張っている歩くゴールポストたちには感謝せねばならない。

 

 キッチンの壁には漁船の写真と笑顔の債務者たちが写っている。その写真を眺めながらしばらく手を動かしていると、洗い物がようやく全て終わった。まあこの手間も、繁盛した代償と考えれば悪いものではない。

 

 いつの間にか個室の方からは音がしなくなっていた。さすがメス堕ち世襲議員、手際の良さはピカイチである。すでに掃除を終わらせ、自分の部屋に戻ったらしい。

 

 そろそろ俺も寝たいな、と思いながら手を動かすこと10分ほど。綺麗になった調理器具一式を片付けてから俺は階段に向かう。この家は3階立てになっており、1階が居酒屋、2階がメス堕ち世襲議員と数式ア○メ女(未来流刑のためもういないが)の部屋であり、3階が俺の部屋となっている。

 

「……ん?」

 

 きしむ階段を登っていくと、2階の方から音が聞こえてきた。どうやらスピーカーで音を出しながら何やら動画を見ているようだ。なるほど、先ほどテンションが高かったのはこれが理由だったらしい。

 

「まあ楽しんでるならいいか……」

『連続ドキュメンタリー、デスア○メ宮本武蔵第一話!』

「繋がってはいけない単語がフュージョンしてないか!?」

 

 前言撤回どころの話ではない。今すぐ宮本武蔵の墓に土下座した上で五輪の書を100回くらい読み返してほしい。宮本武蔵に許されるのは性転換巨乳化くらいのものだろ。ちなみにデスア〇メとは死の際に性的絶……やめよう、きちんと考えれば考えるほど頭が痛くなってくる。

 

 流石に気になりすぎたので、俺は2階の扉を開けてメス堕ち世襲議員の部屋に入る。やたらと豪華なカーペットの上にはびっくりするくらい上品な箪笥やソファ、ベッドがおかれており、持ち主のセンスを感じさせる。そして壁に投影した画面を見ている美しい少女(?)こそが、この店の店員1号ことメス堕ち世襲議員のシゲヒラ議員である。

 

 背は低いが胸は大きく、金髪碧眼の愛らしい顔に薄手の白いネグリジェも相まり男の欲情を誘うような容姿をしている。そんなシゲヒラ議員はソファに座ったまま俺の来訪に少し驚いたような表情をした。

 

「マスターもデスア○メに興味あるのじゃ?」

「んなわけないだろ。というか何を見てるんだ」

 

 蔑んだ目、最高なのじゃ……などとほざいているメス堕ち世襲議員の隣に座り、壁に投影された映像を見る。23世紀にしては画質の悪い画面の中で、世捨て人のような恰好をした老人が二本の刀を携えて暗黒街を歩いていた。どうやら世界観は23世紀であるらしく、宮本武蔵というのはあくまで通称であるらしい。頭をかしげている俺にシゲヒラ議員は説明をしてくれる。

 

「デスア○メ剣劇アクションの最新作じゃな。密林プライムビデオで配信されているのじゃ!」

「アレ○サにデスア○メ宮本武蔵と言ったら反応する23世紀、最悪すぎるだろ……」

『デスア○メ願望があるのに、体に沁みついた防衛本能が自らに死を許さない! 男は今日も死に場所(デスア〇メポイント)を求め戦場を彷徨う!』

「ちょっと面白そうなのやめろ」

 

 海賊王になりたいのに泳げない、みたいな相反する要素を入れることで面白くなる作品になる、という創作論はあるけどデスア○メで実践するなよ。画面の中では老人が静かに銃を持つ兵士たちの前で仁王立ちし、剣を抜き放つ。そして疾風のごとき動きで銃弾をかいくぐり、次々に敵を倒していく。

 

「ドエムネットワークの有志に勧められてみたら思ったよりも面白くての」

「ま、まあアクションはよくできてるな」

 

 23世紀の映像技術はすさまじい。シンプルにCGの技術が上がったのは勿論のこと、VRで映画の中に入ることのできる技術や触覚を再現することによる体験の増強など、21世紀のころではまだ試験段階だったものが安価かつ高いクオリティで実現されている。

 

 一方で作品のハイコンテクスト化が進んでいるのが問題ではあるが。この前は旧ロシアの雪搾取による国内の技術格差問題みたいな作品を見たがマジで意味が分からなかった。うん、そこでは一般的なのかもしれないけれど、社会が分断されすぎているせいで暗黒街住まいの俺達にはびっくりするくらい共感できないんだ。

 

『ワシが貴様の死神(デスア〇メゴッド)じゃ』

『動きが速すぎる、グレネードで爆死(ボンバーデスア〇メ)を狙え!』

「焦らしプレイなのじゃ……」

「ドM的にはそういう解釈なんだな……」

 

 そんな話はさておきとして、画面の中では意味不明な単語の羅列と共にどんどんシーンが進んでいく。華麗なアクションでビル内の敵を攻略していくデスア〇メ宮本武蔵を他所に、シゲヒラ議員は映像から目を逸らして、そういえばと俺に聞いてくる。

 

「百戦錬磨と名高いマスターに質問なんじゃが、実際にこういう状況ってあるのじゃ?」

「こういう状況って?」

「剣が銃に勝つ状況じゃ」

「……うーん」

 

 俺は少し考える。画面の中では確かに刀二本で銃弾を切り老人が敵をバッタバタ倒している。だが現実としては。

 

「基本的にはない。分厚い装甲を着ている場合や『アルファアサルト』のように身体改造で近接戦能力を高めている場合は例外だが、移動や隠密に制限がでたり金がかかりすぎる場合も多い。この画面内の老人はほぼほぼ身体改造をしてなさそうだから、多分フィクションだな」

「なるほどなのじゃ……」

 

 特に襲撃任務や防衛任務では兵士が生き残ったかどうかよりも、目標がどうなったかの方が遥かに大事である。そのため基本的には1秒でも早く敵を倒せるよう、攻撃と索敵と速度を重視する者が多い。それに早く倒せれば倒せるほど攻撃される機会も減る。攻撃は最大の防御、ただし不死身の敵相手には悪手だが。

 

 そんな話をしている俺たちの前で画面の中のストーリーは粛々と進行していく。年老いた女がデスア〇メ宮本武蔵の前に立ちふさがる。年老いた女性は悲しそうな表情で口を覆う。

 

『武蔵、それはいけません。あなたのそれは『最強』に負けた傷を埋める自傷行為でしかありません。敗者のままではいけません、再び立ち上がるのです」

『アキコ、お前が言える立場ではなかろう。同じ穴のムジナ、せいぜいこの地獄で踊ろうではないか』

 

 何やら格好良い展開である。よほど感情移入しているのかシゲヒラ議員は体を前のめりにして手をぐっと握っていた。交渉が決裂した2人は武器を構え、静かに最後の決戦を始めようとしていた。

 

『君死に(デスア〇メ)たまふことなかれ……』

「与謝野晶子にも土下座する必要が出てきたな」

 

 というかアキコってそういうことかよ。

 

 

 

 

 ◇◇◇ 

 

 

 

 

「面白かったのじゃ!」

死線(デスア〇メライン)を超えた結果がこうなるとは……」

 

 1時間後。日付も変わってしばらくしたころ、俺たちはようやくこの番組を見終えたのであった。いやぁ面白かった、次回は急死(スピードデスア〇メ)した金持ちの遺品争奪戦をやるらしいがもう今から待ち遠しい。

 

 満足感とともに俺はソファにもたれかかり、シゲヒラ議員はチャンスだと言わんばかりに俺の方に頭を預けてくる。シゲヒラ議員の柔らかい体をいつもなら適当に振り払うのだが今日は特別に許してやることにした。名作紹介してくれてありがとな……。

 

「こんな日が続くといいんだがな」

「本当にそうなのじゃ」

 

 シゲヒラ議員は目を細めながら、気持ちよさそうに俺の腕に頭をこすりつける。まあこの変態はさておきとして、今の俺を取り巻く環境はすこぶるよい。居酒屋は繁盛して金も十分入ってくる。面倒事もなく、穏やかな日々が続いている。

 

 そうだよ、こういう日々を待ち望んでいたんだよ。まったり過ごしたいんだ。

 

 だがそんな俺の願いが叶うことはないらしい。シゲヒラ議員は、急に思い出したかのように体を起こし、指を額に当てて何かを思い出そうとする。そして急に手をぽんと叩く。

 

 それこそが、今回の騒動の始まりであったのだ。

 

「先ほど連絡があったのじゃが、漁船『債務者御一行』が海上で突如通信途絶(デスア〇メ)、現在行方不明で捜索中らしいのじゃ」

 

 

 ……え、今なんて?







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