【書籍化】サイバーパンク居酒屋『郷』~チート持ちで転生したけどやることないのでまったり過ごしたい~   作:西沢東

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ヘラクレス・ランバー!

「なあマスター、チ〇ポ擬人化コンテストに出ようと思うんだが」

「ランバー、人が悩んでいる時に意味の分からないことを言うのはやめてくれ……」

「政府のスポーツ助成金対象だぞ」

「オフィシャルチ〇ポ擬人化コンテスト……?」

 

 漁船『債務者御一行』が消息を絶ったというニュースの翌日。そこから続報が来ることは無く、俺はハラハラしたまま店を開店する羽目になっていた。昨日と変わりなく居酒屋『郷』にはそれなりの人が入っている。とはいってもカウンターに座る客は少ない。……まあ冴えないおっさんよりはメス堕ち世襲議員の方がいいよなぁ。

 

 店内は防音設備になっており、BGMのレトロなクラシック音楽以外に大きな物音はない。時たま呼ばれてメイド服のメス堕ち世襲議員がとてとてと客の元に行ったりキッチンの料理を取りにきたりするくらいである。

 

 足の生えたゴールポスト襲来の際に、店が多少壊れてしまっていたが今はその跡は一つも残っておらず。綺麗に磨かれた床が、安物ではあるが雰囲気のあるダウンライトの光を少し反射していた。

 

 そんな話はさておきとして、昨日とは違う点が一つあった。

 

「ここしばらく珍味が安かったのに急に値上がりしてるな。悩みってのはそれか、マスター?」

「ああ、鮮魚の仕入れ先が消息不明でな。ひとまず在庫の減りを抑えるべく値上げしているんだ」

 

 この23世紀において、味覚が21世紀とは大きく異なるため昔ながらの料理は好まれない。例えばトマトの臭みがダメ過ぎてナポリタンすら食べられない人が多数いるほどだ。……これについては、22世紀にあった戦争や身体改造によるホルモン変化などに伴う味覚の変化も大きいらしい。代わりに人々はペースト状の食料を好んだりする。

 

 そんなわけで俺は鮮魚やそれに類する物を「珍味」と称して店で提供しているのであった。サーモンの刺身が珍味扱いは凄い違和感があるがそれはさておくとして。ランバーみたいな23世紀キッズにとっては鮮魚が仕入れられないのはどうでもいいことらしく、ふーんと言いながら合成酒の入ったグラスを傾ける。

 

「生臭い鮮魚なんかよりも加工食品の方が圧倒的に人気なんだし、別にいいんじゃねえか?」

「これだから23世紀キッズの味覚は……。あと、俺の食べる分がなくなるんだよ」

「私利私欲じゃねえか」

 

 ランバーの言う通り、鮮魚は加工食品の原料としての需要はあるのだが、刺身などといった使用法への需要はごく一部のみ。そして資本主義の常、大量に仕入れれば安くなる、という概念の逆で、現在の鮮魚価格はすさまじいことになっている。生産数が少ないからコストが上がってしまっているのだ。

 

 というわけで俺はその問題を人件費ゼロの漁船、債務者御一行を使用するということで解決したというわけである。太平洋では足の生えた魚捕りゴールポストも頑張っているらしい。今更だけどなんだよ足の生えた魚捕りゴールポストって。

 

「せっかく初めての黒字到達だったのに……」

 

 俺はカウンターでうなだれる。俺の手元には端末と、シゲヒラ議員が記入してくれた居酒屋の収支記録があった。今までは基本赤字で、シゲヒラ議員投入後から改善、しかし鮮魚のコスト高で黒字転換できず。そしてこの度漁船のおかげでついに黒字転換した、という記録がはっきりと残っている。

 

 頑張って成し遂げた成果が一瞬で泡になったショックは大きく、加えて続報が無いのも非常に気になる。この時代、漁船なら人工衛星からの映像ですぐに見つかるはずなのに、こうも連絡がないということは何かがあった可能性が高い。

 

「というわけで仕事が手につかないんだ」

「全く心配性すぎるぜマスターは」

「だって俺以外の生命、貧弱すぎるんだもん……」

「それはマスターが強すぎるだけじゃねえか……?」

 

 ランバーはそう言いながら合成酒の缶を追加注文する。俺が冷蔵庫から出した、キンキンに冷えた合成酒をランバーは綺麗な二つのグラスに注ぎ、片方を俺に差し出してくる。どうやらランバー流の慰めらしかった。ランバーはにっと笑う。

 

「マスター、果報は寝て待て、だ。オレも似たような経験はあるが、心配が物事を良い方向に進めてくれるわけではないからな。まずは現場を信じて自分の周囲に集中する、それからだろう?」

「……ああ、そうだな。すまん、心配させて」

「いいってことよ」

 

 全くランバーに諭されるとは、俺もヤキが回ったらしい。苦笑しながらグラスを軽くぶつけて、一気に飲み干すのであった。

 

 少し苦い、青酸カリの味がした。ええ……。

 

 

 

 

 ◇◇◇◇

 

 

 

 

「で、チ〇ポ擬人化コンテストの話についてなんだが」

「上手く誤魔化せたと思ったのに……」

 

 合成酒『青酸カリ風味』を飲み干した瞬間、ランバーはそう切り出す。俺は渋い顔をしながら空になったグラスをカウンターに置く。合成酒、やっぱ好きになれないんだよな。薬品臭さが消えてなくて子供のころに飲んだ飲み薬思い出しちゃうんだよ。

 

「オレ、ここしばらく仕事でいなかっただろう?」

「トキの件、お前マジで空気だったもんな」

 

 2か月ほど前にあった大事件、『未来流刑』。タイムマシンを完成させた数式アクメ女のひと悶着に、一般転生者である俺が巻き込まれたという話。最終的に黒幕が感度3000倍数式ア○○巨乳メス堕ちエンドを迎えたというわけだが、その際にランバーは仕事で消えていた。

 

 まあこういう長期任務の仕事はちょくちょくある話なのだが、ランバーはその中であることに気づいたらしかった。

 

「任務中、3本目のチ〇ポが思ったより邪魔でな。3コアから2コアに戻そうと思ってるんだ」

「PCのCPUみたいな話やめろよ。4コア2.4GHzみたいな感じでチ〇ポを語るな」

「40Hzな」

「バイブレーション機能の話は聞いてない!」

 

 ランバーの特徴の一つが、何故か多いチ〇ポ。ヘラクレスオオチ〇ポなどと呼ばれる彼の股間である。

 

 2240年では、身体改造は極めてカジュアルに行われる。自身の能力を拡張し、なりたい自分になれる。脳を改造すれば天才に、筋肉を改造すればアスリートに。金さえあればなんにでもなれる、そう歌う身体改造を提供するメーカーと、急激な治安の悪化に伴う護身能力の必須化は身体改造を著しく普及させたというわけだ。とはいってもチ〇ポはわけわかんないんだけど。

 

 しかもメス堕ち世襲議員の件が終わった際に味を占めたのかコーカサスオオチ〇ポに再改造していたらしい。いやサラッとそういうこと言われた覚えは確かにあるけど。

 

「というかなんで三本にしたんだよ」

「三本の矢ということわざは知っているだろ?」

「ああ、一本や二本じゃ簡単に折れるというやつだろ」

 

 ランバーが2本の指を立てながら語るその言葉は有名な毛利元就の名言である。子供たちに協力を説いたその言葉は、なるほどこの23世紀にも伝わっているらしかった。

 

 ランバーは顔を引き締め、静かに3本目の指を立てる。

 

「しかし三本だと気持ちいい!」

「擦れてるだけだろそれ……」

 

 心の奥底から毛利元就に謝ってほしいと思ってしまう。それはそうとして、ランバーの話に一応付き合ってやることにする。好みではないとはいえ酒を奢ってもらった形だからな。このままぶった切るのはさすがに無しだ。

 

「で、一つずつ解決していこう。まずチ〇ポ擬人化とはなんだ」

「今回はサノア菌鉄式増殖法だな」

「もっと根本的な話について聞いてるんだよ!」

 

 一部の大学教授のごとく(偏見)、俺がチ〇ポ擬人化有識者だとして前提をふっとばした話をするのは勘弁してくれ。そんな俺の心の叫びが届いたらしく、「ふ、『未経験」なのか……」などとウザい顔で語り始める。

 

 逆だろそれに詳しい方が恥だろ。FA〇ZAに詳しいのがそんなに自慢にならないのと一緒だよ。いや一部界隈では尊敬されるしだろうけど。俺の内心をスルーして酔いで顔が赤くなってきたランバーは義手を振るいながら熱く語る。

 

「まずチ〇ポの別称は息子だ。そこで着想を得たのがチ〇ポ擬人化!」

「そこで、が全くつながっていない!」

「予備チ〇ポを切り落とし、菌につけ特定の方法で培養すると擬人化完了!」

「予備あるの前提かよ!」

「いや、別に細胞の一部でいいぜ。なんならチ〇ポである必要もない」

「じゃあなんでチ〇ポなんだよ……」

 

 ランバーは意気揚々と国際チ〇ポ擬人化連盟なる組織のホームページを見せてくる。そこには30cmほどの肉の塊に、電極と親(?)であるおっさんの顔写真が張られた奇妙な肉人形の姿があった。どうやらチ〇ポから培養できる細胞では脳を作れないらしく、代わりに電気信号を加えることで制御するらしい。

 

 肉人形は肌色で大の字のような形をしている。あくまで筋肉と脂肪の塊らしく臓器のようなものは見当たらないが菌糸のような白い糸がところどころが走っているのが見える。良くわからないがこの菌糸が神経代わりであるらしい。これを擬人化と呼んでいいのかは甚だ疑問ではあるが、確かに手や足と呼べそうなものはあり、実際に頑張れば二足歩行もできるらしかった。

 

 そんなの制御できるわけないだろ、とも思うが菌糸が自然とそういった疑似神経を構築するとのこと。人間に近い動作を実現するような疑似神経を組む、という話だった。23世紀の菌糸はすげえもんである。

 

 何というか、アリに寄生するキノコ、アリタケを思い出す姿であった。確かあれ、脳を操って胞子を飛ばしやすい位置までアリを移動させるとかいう洗脳能力があるキノコだったはずだ。今回はアリの代わりにチ〇ポらしいが。チ〇ポタケと呼ぶことにしよう。

 

 なんで食事中にこんな汚物を見せてくるんだよ、と思いながらホームページを軽く覗くと、そこには意外とまじめな話があった。

 

「外部脳と筋肉培養の連携、か」

 

 描かれていたのは昔企業間であった戦争の被害者たちだった。殺傷力のある兵器の増加により、手足の欠損した人々が多数発生した。そして、資本主義の権化である企業が弱者にわざわざ手を差し伸べることは無く……代わりに、サノア博士率いるチームが現れたということらしかった。写真はどれも痛々しく、しかし術後の患者は皆揃って笑顔であった。

 

「おう、もともと戦後で下半身麻痺や手足が欠損した人たちを救えないか、ということで始まったプロジェクトだな。当時の技術だと神経再生は高価で普及が難しかった。そこで雑にできる筋肉の培養と、外部からの電気制御による身体制御で安価に体を修復しようとしたわけだ」

「今と違ってサイボーグ化も安価じゃなかっただろうしな……」

「DNAを弄った菌糸で、自然と神経系を構築できるようにすることで、開発費は高くとも施術費を大幅に抑えることに成功した、それがサノア博士の偉業ってわけだな」

 

 実際、この手法のおかげでいわゆる貧困層も欠損や麻痺を克服し、なんとか生きていけた例も少なくないと記事に書いている。なるほど、この技術は極めて尊い理念と高い実績を誇っていることは間違いない。それはそれとして。

 

「じゃあなんでチ〇ポなんだよ」

「その方が面白いからだぜ! 最強のチ〇ポで戦うチ〇ポバトル! くらえカワ〇ミハッグ!」

「ムシ〇ングみたいにいうのやめてくれない!?」

「赤いLED付きのやつはア〇ーコレクションと呼ばれているぜ!」

「懐かしすぎるだろアダ〇コレクション! というかチ〇ポのア〇ーコレクションとか一生見たくないんだが!」

 

 友達にリッキーブルーを盗まれた記憶が蘇ってくる。ああいうカードを集める系の奴、いつの間にか下火になっていたよな。デジ〇ンカードダスとかも好きだったんだけど……。でもこんなタイミングで思い出す羽目になるの最悪すぎるだろ。

 

「チンむすが撃チンされないように気を付けないといけねえんだよな」

「艦〇す、みたいに言うのをやめろ!」

「あと昨年の優勝者はすごかったんだよ、ジェントルマンチ〇ポ」

「いったいどこでナニを競うんだよ!」

「スーツをきっちり着込んでるし礼儀正しくて」

「本当にチ〇ポの話だよな!?」

 

 馬鹿な話をしながら夜が更けていく。その日の晩は、消息不明の漁船のことを忘れてぐっすり眠ることができたのであった。

 

 

 

 

「Zzzzzz……いけ、グラントシロチ〇ポ……」

 

 ただしもっと最悪な夢を見てしまう、という副作用もあったが。俺の思い出を汚しやがって、ランバーのやつ絶対に許さねえからな……! 

 




グラントシロカブト、なんか知らないけど好きだった記憶。
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