【書籍化】サイバーパンク居酒屋『郷』~チート持ちで転生したけどやることないのでまったり過ごしたい~   作:西沢東

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さあ伏線回収していくぞ~(ミドリガメによりボコボコに破壊されたプロットを見ながら)


ビーチで宴会!

 ミドリガメ襲来翌日。夜のダークワカヤマ海岸に明かりが灯る。多くの債務者と人と戦車が酒を片手に語り合い、飯を食べる。

 

 パーティーというには粗雑なので、これは宴会とでも言う方が正しいのだろう。助けられた債務者たち、宮本武蔵やドエムアサルトなどの関係者が砂浜に座り会話を繰り広げている。

 

「あれなんだったんだよ……」

 

 結局昨日の顛末は、人質救出には成功したけれど『鉄菌竜樹』に脅迫される→急に出てきたミドリガメが『鉄菌竜樹』を撃破、というあまりにも酷いものであった。サプライズニンジャ理論ならぬサプライズミドリガメ理論にしても限度があるだろ。

 

 我らが博士(のだ口調の方である)に何度も「あれ『不死計画』や俺関係の生命体じゃないんだよな!?」と連絡を取ったが、帰ってきた回答は「サンプルを調べたが違ったのだ!」という恐るべき返事であったりする。嘘だろ一般ミドリガメである方が恐ろしいんだが。どうなってるんだよあいつ。

 

 なおそんなミドリガメは戦闘後どこかへ飛び去り、サノア博士は戦闘の余波である高波に呑まれ行方不明。俺とドエムアサルトは何とか捕まっていた人々を助け出し離脱したというわけであった。

 

 債務者はこちらで引き取り、一緒につかまっていた他の船の人々は各々の所属企業に連絡、無事元居たところに戻ることができていた。また漁船も少し傷がついてはいるが機能的には問題ない状態で回収できたので、ハッピーエンドと言っていいだろう。これで刺身の価格を再び下げることができるぜ! ……常連客から刺身はそこまで人気ではないという事実は見なかったことにする。

 

 そして今、各企業ではこんな話が流れているらしい。

 

「空を飛ぶミドリガメ、『鉄菌竜樹』だった!」

「各企業がマッハ2で飛ぶ『鉄菌竜樹』を追いかけて殺到!」 

「ミサイル全弾迎撃ミドリガメ型『鉄菌竜樹』!」

「トーキョー・バイオケミカル社の空母をハイジャック! 恐るべし『鉄菌竜樹』!」

 

 うん、全部勘違いなんだよ。今頃『鉄菌竜樹』は泣いてるぞ。因みに当のミドリガメはいまだにこの近辺を飛翔し続けているらしい。ニュースにある通り周囲に被害を巻き散らしながら。

 

 というか何でこんなところにミドリガメいたんだよ。そういえば目撃情報あるってノウミは言ってたけどさ。誰か外来種を持ち込んで離したりしてるのかもしれない。アヤメちゃんもダークワカヤマ海岸に俺を持ち込んだわけだし。

 

「ほーい皮塩焼けたぞー」

「「「ケミカルバーくださーい!」」」

「この23世紀キッズどもが……」

 

 ため息をつきながら俺は次々に料理を作り、砂浜の上に置かれたパイプ式のテーブルに並べていく。するとシゲヒラ議員がとてとてと走ってきて皿を受け取り、中央にあるバイキングスペース(俺命名)に持っていってくれる。料理を置くついでに空き皿を回収しながら、シゲヒラ議員は債務者たちに対して声を上げた。

 

「さあて皆、居酒屋『郷』ダークワカヤマ海岸支店閉店セールじゃぞー!」

 

 そう、元々この支店はダークワカヤマ海岸でモヒカンを捕獲するためのものであり、既にその意味を失っている。期間短すぎではあるのだが、モヒカンが逃げるのが早すぎるのだ。話に聞くと首輪爆弾だとか6重の警備網だとか山ほどトラップがあったのに、するりと抜けてるの化け物過ぎるだろ。お前とミドリガメこそ真のファンタジー生命体に他ならない。

 

 因みにこのダークワカヤマ海岸で長く営業を続けることも一瞬考えたのだが、よく考えなくてもここはビーチ。冬になれば需要激減だ。ましてや店員がシゲヒラ議員のみという人手不足の現状において、2店舗を同時経営など現実的ではない。今は自称アヤメちゃんの母に何とかしてもらっているから大丈夫だけれど、あまり頼りすぎると何かの外堀が埋められていく気もするので早々に終わらせておきたいという切実な事情もある。

 

 シゲヒラ議員が皿を食洗機に入れながらボソッとつぶやく。

 

「というか今回居酒屋要素少なすぎると思うのじゃ?」

「投稿サイトに怒られた時のために、この章だけ削除しても大丈夫なよう意図的に居酒屋の話は進めていないんだよ。下ネタ強度高すぎるんだよな今回」

「なんの話なのじゃ!?」

 

 まあ水着イベント回だと思ってほしい。ソシャゲとかでよくあるじゃん、期間限定キャラが暴れるだけのメインストーリーが全く進まないイベントシナリオ。問題はマッハ2で走るミドリガメは常設なところなんだけれど。期間限定キャラ『鉄菌竜樹』が霞んでいるのが悲しすぎる。もっと運営はてこ入れしてやってくれ。

 

 適当に喋りながら俺は焼き鳥やら刺身やら、シンプルかつ大量に作りやすい料理を準備しガンガン提供していく。因みにこれらの費用は今部屋で絶賛徹夜作業中のアヤメちゃん持ちである。

 

 というのも拘束されている期間、十分な食料が充てられていなかったようなので皆少しやせていて、しかしこの近辺にある安くて飯を提供できる場所といえば……ということで俺の店が選ばれたというわけだった。

 

「やっぱ刺身だぜ!」

「お、バイスにゴールポスト。お前ら刺身食えるのか」

 

 珍しく刺身を理解する声が聞こえたぞ、と料理の手を止めて見るとそこに座っているのは我らがギャンブラーバイス班長と足の生えたゴールポスト操縦者ことソラであった。わりと23世紀では刺身アンチが多いはずなのだがなぜこいつらがいけているのか。

 

「いや実はですね、ゴールポストにかかった魚のうち、居酒屋に提供予定のないやつをこっそり食べてたんです。その影響で慣れちまいやして」

「ピピピ、最近はソルベ」

「俺より食通なのでは!?」

 

 バイス班長の三下口調を久しぶりに聞いた気がする。バイス班長は牙統組の持つ債務者収容所にいた男であり、命すらかかるギャンブルで大敗した男である。まあ所詮は血液とかダメージとかだからな、俺からしたらノーコストでギャンブルできる稼ぎ場である。ロシアンルーレットとか銃弾効かない以上、複数回やれば必ず勝てるし。

 

 がそんな男も流石にそろそろ出所したかったのか、この漁船で働いていたという訳である。一緒にソラもいるのは意外だが。どういう組み合わせなんだこれ。漁師と網の関係とかそんな感じなんだろうか。うわさに聞くとゴールポスト漁なる方法を使ってるらしいし。サッカーしろよ。

 

「ピピピ、まあそんな感じで楽しくやれてるから。またほとぼり冷めたくらいで出所するのでよろしく」

「おう、その時は出所祝いでも送ってやるよ」

 

 まあソラが前を向いているようで何よりである。数式ア〇メ女に「約束破ったな!」とか言われるのは嫌だし。……というかこのソラの態度の変わりよう、もしかして「1000年後への未来流刑なんてかわいそう! → 1000年後でも生きてそうなやついるし意外と1000年後でも上手くやれるんじゃない」みたいな感じっぽいな。嫌だぞ俺は100歳くらいで大往生するんだ。多分。きっと。機能だけなら1万年でも1億年でも生きれそうという事実からは目を逸らすものとする。

 

 そんな話をしながら料理を焼いては売り、切っては売りの大宴会。全体としてみれば相も変わらずケミカルレーションやらよくわからん合成酒ばかり売れてしまうのは残念ではあるが。在庫も参加者の腹の容量もいい感じになってきたので、後片付けを一旦シゲヒラ議員に任せて俺は砂浜を歩く。

 

「ここ肛門日光浴の名所だよな。出所したら観光で来たいぜ」

「やめとけ、昔妖怪が出てだな。気づかぬうちに穴に手を突っ込まれるという……」

「食事中になんて話をしてやがる馬鹿野郎ども……」

 

 債務者たちは楽しそうに話しているが、それは彼らに未来があるからだ。この漁船に乗ればどこかで借金を返し、船から降りて新たな生活を送ることができるから。過去を(もちろん全てではないが)清算し、未来にたどり着くことができるからだ。

 

 では、彼女はどうだったのだろう。そう思っていた時に2人と1戦車が目に入った。銀髪の少女は涙を流して三角座りをし、それを慰めるような形で老人と機動戦車が立っていた。

 

「ひっぇぇぇん」

「大丈夫です~、あなたもこれで実質人妻戦車ですから~」

「それは何一つ慰めになっていいないと思うぞ」

「何してるんだお前ら……」

 

 そこにいたのは奇妙な3人組。すなわちノウミ、人妻戦車、そしてデスア〇メ宮本武蔵である。ノウミは割と元気溌剌だった記憶があるので泣いているのは珍しい。しかもそれをデスア〇メ宮本武蔵とシスタンクが慰めているのはもっと意味が分からない。とりあえず話を聞いてみることにする。

 

「泣くなんてどうしたんだよ」

「ノンデスア〇メスタイルを強要されそうになってるんです……!」

「グレコローマンスタイルみたいな言い方で言うんじゃねえ」

 

 と、そこで思い出す。そういえばこいつは確か。

 

「お前も『鉄菌竜樹』の仲間、でいいんだよな」

「らしいです……道理で過去がないしダークワカヤマ社に就職できるはずです……」

「遺体に『鉄菌竜樹』亜種を植え付けるとこんな感じです~」

 

 まあ何となく分かっていた話といえば分かっていた話ではあるが。記憶喪失がダークワカヤマ社に雇われていて、見覚えのある性癖を示している。つまり『鉄菌竜樹』の亜種、アポトーシス制御の実験体。確かに運び屋としては非常に便利だし、企業としても壊れた社員の再利用という意味では凄まじく価値があるものなのであろう。問題はアポトーシス制御故の弱点、死に惹かれるという部分が変わっていないところであるが。

 

 まあこの辺りを上手く使ってサノア博士は裏工作をするつもりだったのだろうが、ミドリガメのせいで全てご破算。お役御免になったノウミは砂浜でダダをこねるように転がりまわる。

 

「だって人妻戦車エキス吸ったら生きる意味がなくなるんですよ!」

「人の言語を話してもらえるかな?」

「『鉄菌竜樹』由来のアポトーシス制御副作用緩和成分をくれるのはいいんですけどそうなると私のこの目的意識や高揚も消えてしまうんです! それにアポトーシス制御による生体拡張機能まで低下すれば、価格や性能面でクローン人間の下位互換になってしまいます!」

「人の言語を話すのやめてくれないか?」

「今です、ぷす~」

 

 そうやって叫んでいるノウミの隙をついて、シスタンクの脇から出た細いアームがぷすりとノウミの肌に刺さる。するとビクンビクンとノウミが痙攣し、しばらくしたあとうつろな目でつぶやいた。

 

「死に逆行することこそが快感、サバイバルアクメ……?」

 

 うん、元気そうでよかった。二度と姿を見せないでほしいこの変態女。でもお客さんとして来る分には大歓迎。と、そこで思い出したことも聞いてみることにする。

 

「そういえばシスタンク。お前が完全体の鍵、みたいなのってこれの話?」

「ええ、アポトーシス制御による副作用の緩和です~ただしデメリットもありまして」

「緩和ってことは能力が下がるのか」

「だから私は不死でもないし兵器にもなれなかったし、旦那様は性能を拡張しきってから私を迎えに来たんですよ~」

「ミドリガメに撃墜されたけどな」

 

 そして明かされるどうでもいい事実。うん、重要だとは思うよサノア博士やその関係者にとっては。でもミドリガメに『鉄菌竜樹』が破壊された以上マジでどうでもいい研究結果に過ぎないんだよ。ゲームのアイテムに説明文あるからってわざわざ全部読むか? ……読むこともあるな。これはたとえが悪かった。

 

 シスタンクの隣でノウミを介抱しているデスア〇メ宮本武蔵に俺は語り掛ける。

 

「これでサノア博士の計画は終わりってことでいいな?」

「ああ。奴の手札はほぼすべて消えた。名声もじきに地に落ちる、そうなれば計画は完全に破綻して終わりだ。協力に感謝する、『龍』」

「いいってことよ」

「巨大化した『鉄菌竜樹』と儂は相性が悪い。実際できたこといえばせいぜいミドリガメを捕まえてきてここらで離すくらいだったからな。助かった」

「あいつお前が捕まえたの!?」

 

 衝撃の事実が判明してびっくりするが、それは第一巻の内容なので一旦置いておくとする。俺が聞きたいのはそこではなかった。もう二度と突っかかられたくないという個人的な事情もあるが、何よりこの海岸で彼だけが浮いていた。

 

 彼だけが、未来を見ていない。

 

「で、お前はどうなんだ」

「……」

「サノア博士は再び終わった」

「……」

「あまり年上に説教するものでもないけどさ、お前も負けて、終わって。そのままか?」

 

 宮本武蔵は答えない。

 

 

 

 ◇◇◇◇◇◇◇◇

 

 

 

 宴会が終わった後の深夜。シスタンクは一人ダークワカヤマ海岸の隅を歩いていた。

 

 そうすれば彼が来ることを知っていたから。自身の母はそうせざるを得ないことを知っていたから。

 

「旦那様は不死を目指して作られたもんね~」

「Gluuuu」

 

 波打ち際より一体の黒い人型の生命体が出現する。『鉄菌竜樹』。ミドリガメに敗北し、海底に沈み、それでも生きていた不死を目指して作られた生命体。デモンストレーションに失敗し、もはや商品とも抑止力ともなりえない失敗作にして、それでもサノア博士が保有する最大戦力。

 

 そしてもう一人、木陰より人が現れる。老人は、白装束を纏って静かに言った。

 

「『竜』よ。儂とワシと決闘(バトルオブデスア〇メ)せよ」

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