気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
―――景品であるサングラスをかけて、私は教室に戻った。
先生はその様子に目を輝かせ、しかしすぐに澄ました顔をして言う。
「まぁ、新しい転入生!そうよね?あなたは人気者だから、そうね、こちらの机!」
なるほど、と、彼女のアトラクション、つまりこの授業の設定がわかってくる。要するにロールプレイングを求められている、のだろう。ちょっと転入生が底辺から成りあがっていくサクセスストーリーみがあって、おもしろいかもしれない。
クールなグラサンの生徒な私は、ゆったりと椅子に座った。
「OK!みなさん、次は理科よ」
理科!奇遇にももっと勉強しておけばよかったと思ったばかりだ。膵臓についてもお教え願えるか期待して、彼女を見つめる。
「はい、先生」
「よろしい。前回の数学と同じように、今学期最初の授業なので、復習をします」
「はい、頑張ります」
「大変よいお返事!じゃあやる気いっぱいだから、さっそく問題にしましょう!」
にっこにこの先生は一問目を出題した。
「太陽はどれくらい熱いでしょうか」
うーん、と首をかしげる。何℃か、と聞かれていないところにちょっとした違和感を覚える。部分的にも温度は違うだろう。もしかしたら『My life』ばりの奇をてらった解答を求められているのか?机を眺め、お仲間の前に書かれた名前を読む。様子見を含めて、機械の一つを押した。選んだのは…。
「『俺ほど熱いものはないね!』」
ワイルドな一休さんか?
勇気ある回答に思わず拍手してしまったが、音声には沸き上がる笑いまでが録られていた。よくわからないが、謎に一杯食わされた気分になる。
先生が可笑しさと呆れをないまぜにしたような、いたずらっぽい顔で言った。
「笑ったから許してあげるわ。それにあなた、カッコいいしね。…その超クールなサングラスのことよ?」
正解…だったのだろうか?こうなると本当の太陽の温度が気になるところだ、機会があったら調べてみよう。
「次の問題よ。タコの心臓はいくつ?」
私は、そわりと顔を上げた。
―――知っている、3つだ。ちなみにイカも。そして脳は9つ。昔の記憶、水族館の子供向けコーナーを思い出す。滅多に行けないから夢中で眺めて回った説明文のひとつに、それは載っていた。
…、…。目の前にある『Sea life Lover』にちょっと親近感を覚えながら、再生ボタンを押す。
「『スティンガーフリン!』」
抱いた親近感は数秒で消し飛んだ。おい!タコの足は8本でしょうが!
怒れる先生の制裁が飛んでくるかと視線を飛ばしたが、彼女は肩を竦めた…だけだった。
「うーん…半分正解。スティンガーフリンはタコに近いけれど、彼はクラゲなの。でも、あなたカッコいい子だから、許してあげる」
一限目に比べると随分優しい反応だ。正解を寄せてくれているようですらある。サングラス効果、すごすぎないか?常用を検討し始める私に、先生は解説を付け足す。
「通常、タコは3つの心臓をもちます。私たち人間は1つ、スティンガーフリンは…実はよくわからないんだけど、次の問題にいきましょう」
…、…。彼女も赤い彼と同じように、自身を人間と認識しているようだ。と、いうことは彼女もその人格元がいるわけだなと気に留めておく。Case6の報告書で読んだようにならないよう…つまり、人間ではないよ、と突きつけないように配慮しておこう。
「私たちは五感をもっています。視覚、嗅覚、触覚、味覚、最後の一つは?」
流石に自分で答える気になった。挙手。指名されたので答える。
「はい。聴覚です、先生」
「正解!今、私にそれを使わせたわね」
先生はウインクした。私がクソつまらん解答をしたために、先生が頓智を利かせたようだ。尊敬を込めて彼女に拍手する。先生は胸を張った。
「えっへん。…残念ながら、本日の理科の授業はここまでです。2回目の休憩にはいって、終わったら次の授業をはじめるわ」
再び明かりのついた部屋へやってきた。大きく変化はないようだが、生徒の配置や壁の文字が変わっている。
『一緒に遊びたいって?じゃあご飯代頂戴!』とボウリングピン。…ほかに、台詞らしきものはない。部屋を見て回るとそれぞれの生徒らの近くには、お金が置かれていた。
なんとかしてお金を用立てろ、ということらしい。
なにかあっただろうかとリュックを開く。…うーん…。
端っこにいたボウリングピンとその横のお金は、まとめてご飯代を求めているピンの傍に置いた。お仲間だから一緒にいても問題あるまい、仲良くお金を分け合ってくれ。続いて、床にただ落ちているお金も回収。
さて、残るはあと3つだ。
丘の上にいる2人のバスケットボールな生徒に近づく。
ちょっと悪ぶりたい、そんな君たちにほんのり大人なアイテムをどうぞ。
…、…。
カウボーイハットをかぶったグラサン生徒とコーヒーカップを携えたグラサン生徒が誕生した。
うん、なかなかカッコいい。
やってることは押し売りに他ならないが、交渉が不可能なのでやれることといったらこれくらいだ。対価がないよりましだろう。…失礼してお金を受け取る。
続いてジョウロ達に近づく。4人でお金を守るように囲ったグループが2つ。
…、…。彼らに何を差し出すか、正直悩んだ。
…まず自分が掛けていたサングラスを外して、グループの真ん中に置いた。世界はどうもクールな奴に甘いらしいので、うまく使ってほしい。残念ながら1つしか持ち合わせがないので仲良く交代で頼む。
続いて―――…本当に、悩んだのだが。
ハンマーをそうっと置く。凹んだり歪んだりした体を直すのに、ぜひ役立ててくれ。…それから。かがんで、彼らに身を寄せた。小声で告げる。仲間と自分を守るためだけに使うと約束だ。サンタ帽やカトラリーより、彼らにとって良い物であると願いたい。…返答はもちろんなかったが、信じよう。
集めたお金を台座に置くと、棚が開いた。中のアイテムを回収していると、同時に、やはり放送が鳴る。
『…あー、みなさん、よくお聞き下さい。2回目の休み時間の終わりをお知らせします。すみやかに教室へ戻るように。…あと例の生徒の目撃情報があれば、至急』
景品の赤いボウリングピンを携えて…流石に装飾には使えなかったので小脇に抱えつつ教室に戻る。
「あらあら!3人目の転入生!」
ノリノリの先生は笑った。
「一人は地味でヤな子、もう一人はクールな子、そして意地悪な子!―――ようこそ!あなたの場所である左のテーブルに座ったら始めましょう」
おなじみの流れだ。ボウリングのピンを横に置き、着席した私はやる気をもって前を向いた。
「次の授業は、健康と親切についてです。数学と理科と同じように、今回も復習の授業よ」
「はい、先生」
「よいお返事!でも…でもね『意地悪な』あなた?リフレッシュのために一般的常識から始めましょう」
先生は教室を見回した。
「誰か、不親切な人の例を教えて」
…、…。机の機器を見回す。いじめっこグループのテーブルなだけある名前が並んでいる。タコの心臓問題で録音への信用がほんのり下がっていた私は挙手をした。
絶対の正解がないのが道徳のいいところ。考えを交わす、深めることが目的なら、いくらでもやりようはある。
「困っている人を放っておく人です」
先生は微笑みと共に小首を傾げた。続きを、促されている?
…私は今、「いじめっこグループ」の生徒であることを思い出した。汗が滲む…私はいじめっこ、いじめっこ…。
「つまり…隠された大事なものの在りかを知っていて、探す人をただ眺めることです」
「すばらしいわ!」
フル回転した脳味噌はそこそこの働きをしたようだ、息を吐いて席に座る。危ない危ない、設定を忘れるところだった。
「次よ、親切な人の例を教えて」
さて、少し難しくなった。「いじめっこ」のテイストを残して、親切を語るならどうするのがいいのか?壁のバンバリーナの台詞を思い出す。いじめっこが、フリーに、振りまいてしまえるもの。
挙手。指名を受ける。
「敏感に対象を見つけて声を掛け、ちょっかいに労力を割く人です」
「いいわ、完璧ね!」
若干の不安ある回答に、先生は笑顔で答えてくれた。喜びに思わず微笑み返す。
「他人になにかを与え、何も見返りを求めないことが親切よ。これはとっても素晴らしい授業になる予感がするわ!でも―――…でも、用意された問題は一旦ここまでだから、終わりにしましょう!」
やりきった笑顔を浮かべ、先生は恭しく一礼する。私は拍手した。しばらく、彼女はじっとして…
「…あー!楽しかった!!」
大きく伸びをして、先生は言った。どうやらこのアトラクションは終わりを迎えたようだ。
「私も楽しかったです、先生」
「―――本当!?やったわ!…ついに!」
素朴だが本心からの感想に、相手は飛び跳ねて喜ぶ。
腰に手を当て、胸を張った彼女は言った。
「私…いい先生になるのよ!」
楽しげな様子で彼女は語る。
「みんなに好かれて尊敬される、すてきな先生になるの」
弾むような声は喜びに満ちている。今にもくるくる踊りだすのではないか、と思う程。
ふふ、と小さく笑って、彼女は続けた。
「楽しい授業ができてよかった。―――あなたが授業をうけてくれてうれしいわ!」
その頬は決してピンクに色づきはしなかったけれど、瞳は夢見て希望に輝いていた。
だから私は頷いた。
「あなたはすてきですよ、先生」
胸を張って、希望に満ちて、夢を語る人はすてきだ。先に生きる人がその姿を見せてくれるなら、それはとてもすてきな先生だろう。
一拍。
耳をつんざく声が聞こえて一瞬死んだかと思ったが、なんてことはないただ彼女が自らの頬に両手を当てて叫んだだけだった。
続いてその両手は今度私に伸ばされて、両脇をがっしり掴むと難なく持ち上げられる。そのまま彼女はくるくる回りだした。遠心力で私の足は空中ブランコのようにぶんぶん回る。
…制止をかけようとしたが、あまりにご機嫌な様子だったのでそのままにしておくことにする。なお、その微笑ましい様を眺める代償に私の三半規管は犠牲となった。
「…で、ええと、先生、恐れ入りますが」
「なあに?…どうしたの?体の芯がどっかいっちゃった?」
「いえ、大丈夫です。…じつは、子どもたちを探しているんです。上から落ちてきたんじゃないかと思うんですが、最近見ましたか?」
彼女は不思議そうに首を傾げた。手で机の方を示す。
「彼らじゃなく?」
「あぁ…ええ。もっとこう、…私を小柄にした形です。見かけましたか?」
「いいえ?でも、そうね、ここの誰かが何か知っているかも」
「ありがとう。先に進む道をご存知ですか?」
彼女は少し黙ってからドアを指さした。
「あっち側をずっと進めば奥へは行けるけれど。…他のやつらには気を付けた方がいいかもね」
「何から何までありがとう」
眩暈が治まり立ち上がる。先生の視線が私を追った。
「…いっちゃうの?」
「え、はい」
私は振り返った。軽く手を振って微笑んだ。
「またどこかで、先生」
「…そうね。私も…次の準備をしなくちゃ。またね!」
返ってきた声はさっきより明るかったので、ちょっとはたぶん、仲良くなれたと思う。
P1:学びの楽しさに気が付くこの頃。幼少時はアニメごっこ遊びを好んで行った。―――たぶんTRPGとか好き。
先生:良い返事の生徒がいたため、用意した台本は色々省略変更されている。授業が盛り上がり外の音は聞き逃した。