気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
ピンクリボンの素敵な先生と多分ちょっと仲良くなったぞ!
通路を進む。
廊下の先に、グラサンをつけたバスケットボールの生徒が座っていた。
『サボってんの先生にチクらないでくれよな、ガムやるから…』
書いてあるそれを見て思わず笑う。これを設置しただろう人物のユーモアは、少し好きかもしれない。
クールな生徒は大目に見てもらえるかもしれないが、ほどほどに、と手を振る。授業を時たまサボるのも、まぁ青春かもしれない。
先生との会話を思い出し、明るい気持ちで曲がった角の先に、――――それらはいた。
…おおん…。
既視感。この度は複数形となった真っ黒の目はやっぱりこっちをじぃっと見つめている。小さい6つのそれら。くちばしのある、5つのピンクに1つの水色。非常にオピラバードを彷彿とさせる頭が、曲がり角の先からこちらを覗いていた。
…、…。この先に似たようなオブジェクトがあっても、無許可でべたべた触るまい、二度と。
ひとまず鳥たちがいる方とは反対の行き止まりを見てみる。…一応、オピラバードの雛?らしきもの達に動きがないことを確認しつつ歩き、辿り着いた先には、床に赤いゴムプールらしきものが置かれていた。
…「鳥の巣」?と唐突に、脈絡なくその言葉を思いつく。
後ろを振り返る。…やはり、雛たちはじっとこちらを見ている。あれらをここへ集めてくるのではあるまいな、と妙なひらめきを得て怪訝な顔をしながら、私は慎重に前に進んだ。
雛たちは、近づくとやはり角の向こうへ引っ込む。
…、…。
角を曲がって坂を下りた先、人工の木々が置かれた広場らしきその場所を、雛たちは歩き回っていた。
こちらの姿を視認すると、雛たちはピヨピヨと鳴き声をあげて素早く駆け回る。
…逃げている。もしかしたら、巣が空っぽなのも、私の気配を察知したから、なのかもしれない。
せっかく許しを貰ったというのに、この状況をオピラバードが見たら高確率でまた怒られるだろうと容易に想像できる。私は事態の収拾を図ることにした。
…。無許可でべたべたと…二度と…。
早くも回収されそうなフラグの予感を覚え、しょっぱい顔をしながら解決法を探す。
子どもを触られるのは嫌だろう、と苦悩しつつリュックから上着を引っ張り出して両手で広げた。ノータッチ判定かは怪しいが、許されてくれ。
なかなかすばしっこい彼らに苦戦しながら、やっと近くの一匹をつかまえた。持ち上げて眺めると、本当にオピラバードによく似ている。しかし小さい。親に似た嘴は先端が鋭利だったが、その小柄さゆえにそこまでの脅威を感じられない。力いっぱい突き立てられたら多分容赦なく刺さるだろうが。
巣に置くと、雛たちは落ち着きを取り戻す様だ。腰を下ろして、丸い瞳でじっとこちらを見上げる様は、無害なのも相まってかわいらしい印象を抱く。
無駄に点いたり消えたりする照明に苦労しつつ、何とか6羽すべてを巣に戻した。まとまってこちらを見上げる姿を見つつ、そういやオピラバードに食べさせた卵も6つだったなと…いや、深掘りしなくてよい点かもしれない。
ともかく事態の収拾はついた。広場に降りて、見つけた帽子とオレンジのカードを回収。扉を開ける。
開いた先にいたのは、親鳥だった。
おお…ん…。
知らぬうちに一歩後退する。いや、やましいことはしていない、ほんとに。
オピラバードはこっちを視認しつつも、大して気にした様子もなく、そのまま坂を上がって雛の声がする巣の方向へ向かっていった。
よかった、特に怒ってはいないようだ。
息を吐いて、扉に向き直る。
一歩足を踏み出そうとしたところで、引っ掛かりがあってつんのめった。
おや、と振り返る。
―――巨鳥の黄色い嘴が服の裾を咥えていた。
真っ黒い目がこちらを見つめている。
…、…。
「すみませんでした何かお気に触りましたか!」
反射的に謝罪の体勢に入ったが、オピラバードはこちらを見つめてうんともすんとも言わない。服をしっかり咥えたまま、その足が後ろへ動く。確かな力だ。餌にされる?これ持ち帰って餌にされようとしてる??
恐々としつつよく観察する。即座に攻撃されるわけではない…ようだ。オピラのその細い脚は、私が死ぬ気で抵抗したらおそらく瞬間的にはバランスを崩せるだろうが、そこまでして逃げるべきかは疑問だ。下手に踏ん張った所で自分が転ぶだけだろうし、そこで追撃が来たら笑えない。逃げるならタイミングを見計らうべきだ、と私はあくまで姿勢を保つためのみの抵抗をするにとどめた。
急いではいないが確かな力で、半ば引きずられるように私は移動することとなる。
巣まで連れていかれてようやっと嘴が離された。オピラは頭でぐいぐいと私の背中を押す。え?なに?
「…なんでしょう…?」
素直に聞いてみたところ、オピラはパクリと私の手を咥えた。…一瞬肝が冷えたが、力加減は適度だった。安堵する。そのまま彼女は私の手を動かし、雛たちの近くまで導いた。
…、…おや?
…、…ええと?
「…お子さんを、撫でても?」
ひと声、オピラは鳴いた。雛と親鳥の双方から見つめられ、私はそうっと手を伸ばす。
ピンクの一羽に伸ばした手は、特に抵抗なくその頬や頭を撫でるに至った。よかった、手を近づけた途端ピラニアの群れにつつかれたみたいな結果にならなくて…。
撫でられる雛の様子も注意深く見つめたが、特に嫌がる様子は見られない。大人しいものだ。不快そうでなくて何より。…いや、よくよく見るに、まん丸の瞳がやや横長の楕円になっている。
これは大丈夫なやつか、と親御さんを伺うと目が合う。しばし見つめあう、が拒絶はない。許されたと思おう。…たぶん、おそらく、メイビー。
しばらく一羽を撫でていると、唐突に雛は、ぴよ!とひと声鳴いて移動した。嫌なところに触れたか、と謝罪とともに両手を上に上げる私をよそに、スライドするように別の一羽が目の前に座る。
…、…ん?
察しの悪いやつにそうするように、オピラバードは私の手をまたぱくりと咥えて、新たな一匹に近づけた。
ええと。
「撫でても?」
当初こそ緊張していたものの、ぴよぴよ鳴くかわいらしい雛たちに無駄な力は抜けた。ただただかわいい。謎解きのための冷静な思考を取り戻すのに時間がかかりそうだ。
6羽を完全に撫で終わるまでオピラの監視の目は続いた。
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親子に別れを告げ、先程オピラが出てきていた扉の先へ進む。
オピラバードは雛を撫で終えた私を見届けると、こちらを気にする素振りもなく自分で雛を構い始めので、私は軽く礼を言って、手を振りつつ探索に戻ったのであるが。
パネルがオレンジだった割にピンクっぽい扉だったなと思いながら、見覚えのある廊下を見渡し――――
左手突き当りに、巨大なカタツムリを発見して私は停止した。
―――スロウセリーヌ、だろう。看板を思い出す。
あの目の形は『止まれ』だ。
ゆっくりと、その大きな体は廊下を進んで近づいてくる。
動いたらどうなるか、は今考えるべきではない。私は相手を見つめる―――。
じりじりとその時を待つ私の眼前、廊下の左右にある扉の手前で、それは止まった。
『Hello~?』
反響するような、不思議な声だ。ここが広い廊下であるから、だけではない。聞いた限り、女性的な印象の声。
スロウセリーヌは、そのまま両目のある触覚を広げて、左右にある扉の隙間をのぞき込む。
―――今に違いない。『動け』だ!
視線を外さぬまま、なるべく早く後ずさる。
―――触覚が元の位置に戻る。『止まれ』。
…なるほど、だるまさんがころんだ、だ。スロウセリーヌは再びゆっくり前進しだす。
『どこに、かくれているの~…?』
こちらを探しているらしい。なぜ?―――いや、余計な思考だ。
動かぬように細心の注意を払う。息さえ止まりそうな緊張感が続く。
ふたたび触覚が開く。私は速やかに後ずさり、
『…おねがい…いたいの~…』
…、…。聞こえた声に思わず、立ち止まる。
…立ち止まって、しまった。
彼女は進むごとに扉の前で止まる様子だ。今、彼女と自分の間に扉はない。
つまりこの「止まれ」の段階で追いつかれるだろう、…「だるまさんが転んだ」ならば、詰んでいる。
冷たい汗が伝う。捕まってどうなるのか―――無駄な想像力を追い払う。今やるべきことを、やらねばならない。思考を止めるな。
ダメ元で、触覚が元に戻る寸前、私は口を開いた。
「こ、こんにちは…」
ぴた、と中途半端にスロウセリーヌの動きが止まる。
『…そこにいるの~…?』
触覚はすでに元の位置に戻っている。目は前方、つまり私の方向へ向いているにも関わらず、直ちに襲い来ることはない。返答からしてこちらをまだ認識できていないようだ。…音による位置の特定は困難なのか?
「い」
瞬間、私の視界にはカタツムリの巨体が迫ってきていた。
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いや、そこの動きも駄目なんかい…。
見覚えのある位置、私はスロウセリーヌの前にいた。廊下に立ち入った所からだ。直前の景色から考えるに、どうにも高速で体当たりされて死んだらしい。なるほど、動いては駄目、かぁ…。
『Hello~?』
最初の呼びかけの間に、持っていた上着で素早く口周りを覆う。よし。
さあ、見えない部分の動きはどうか?
「こんにちは」
ぴた、とやはり中途半端にスロウセリーヌの動きが止まった。
『…そこにいるの~…?』
「います」
今度は突撃されなかった。本当に「動き」を視認されると駄目らしい。瞬きはセーフなようだから、なんとも曖昧だが。触覚の位置を戻し、スロウセリーヌが言った。
『ああ、いるのね…。…おねがい、いたくて…』
ほんのすこしの安堵をのせて、その声は続ける。
『くすりを…痛み止めを…くださいな…』
その切実な声をきいて、そして自分の答える事柄に打ちのめされて、私は静かに告げた。
「ごめんなさい、私は薬を、持っていません」
『…そう、なの~…』
短くも落胆と酷い悲しみに暮れた声は、私の心を刺す。
「…在りかをご存知ですか。取ってきます」
『…いいえ~…もう、ずいぶん…使ってしまったの…あなたがもっていないのなら、ないのよ…。あぁ…かれら…痛くないって、やくそく…したのに…』
口調こそゆっくりで穏やかであったが、その声は悲哀に満ちていた。話しかけるべき、だったのだろうか…ただ彼女に儚い希望を見せただけの私の行為は罪深いと思われた。
「何か…お手伝いできることが、ありますか…」
絞り出した声に、スロウセリーヌは答えた。
『…あぁ…どうか、困らないで…。酷く痛いけど…一時的なの…。…しばらくひとりでじっとしていれば…よくなるわ~…』
困っているのは…助けが必要なのは、明らかに目の前の彼女の方だ。気を遣わせている点で罪を重ねている。
…ただただ痛みにひとりで耐える…それは…なんとも…。
「…あなたの近くに寄っても、よろしいですか」
『ええ…?ああ、いえ、だめよ~…たぶん、わたし、かけよってしまう…』
「…動くのが見えたら、と?」
『…そう…あなた、とても困っているし…酷く痛いときは、特に…我慢できないの…』
本能みたいなものか?痛いときは、それに抗えないということだろうか。…よく考えなくても、激痛に苛まれている時に周囲を鑑みることなどできないだろう。暴れ回って然るべきだ。
わかりました、と私は言う。無力な通行人なりにできることをしよう。
「今一度、左右の扉を覗こうとしてくださいませんか。…何も、本当に、何もしてさしあげられませんが、せめて痛む箇所を確認してみます」
『…、…おねがい~…』
スロウセリーヌはこちらの提案に異を唱えなかった。触覚が開いている間に、その横を潜り抜ける。
「ありがとう、辿り着きました。…痛いのはどちらですか」
『こしの…よこ…』
―――腰どこ???
殻とその下部に目線を向ける。動揺しつつ、失礼、触りますよ、と声を掛ける。
「ここですか?」
『もっと、上…』
「ここ…?」
『そう…もう少し…』
「ここ?」
『そう…そのあたり…全体…』
大丈夫かこれ?よくわからなくなってきた。
ぺたぺたした感じの表面を触りつつ検分する。見たところ外傷は…ない。その旨を伝えると、そうよね~…と意外でもなさそうな声が返ってくる。
こちらの体温より、ひんやりした質感だ。そしてオピラを触った時よりも、ぴたぴた?している。水分が多いのか?心配になって聞く。
「触って熱くありませんか」
「ええ…あつくはないわ~…」
外傷のない痛み。一時的。
―――報告書が頭をよぎる。実験後の彼らを蝕む、原因不明の激しい痛み…。
物悲しい気持ちになって、せめて、と思いそうっとその部分をゆっくり擦った。
そんなことしかできない。
ゆっくり、ゆっくり、掌で幾度も、そうっとさする。
『…少し…よくなってきたかも~…』
相変わらず不思議と響く声はゆったりした調子だったが、少し湿っている気が、した。少し…良く…。
そうだったらいい、ほんとうに、そうだったら。
うまく答えられずに私は、しばらくそうやって唯、隣にいた。
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どれくらいそうしていたかは定かではないが、声を掛けられはっと顔を上げた。
『もうだいじょうぶ~』
もう一度、スロウセリーヌはのんびりと言った。声色に滲んでいた悲しみは、随分減ったように感じないでも、ない。
…「大丈夫」が本当に大丈夫なのかはわからないが、失礼のないよう、手をひっこめる。
「御加減は」
『へいき~…だいじょうぶよ~』
ゆったりした声の中にもある種の頑なさを感じて、私はそれ以上の食い下がりをやめた。穏やかな声は続ける。
『…ありがとう~』
微笑んでいるような調子の、ゆっくりした声で彼女は言った。
『…あなた、ほんとうは、ご自分の用事があるのよね~…お先に進んでくださいな~』
…、…。
「痛み止めを…もしこの先見つけることがあったら、貴女の分を考えます」
『ありがとう~…わたし、このまま前を向いて進んでいくから…あなたは、後ろの扉をあけて、先に進むといいわ~』
「…はい。ありがとう」
『もうそんなに困っていないみたい…大丈夫だと思うけれど…一応、見ないようにするから…きっと、無事で行ってね~』
「はい」
おだいじに、と浮かんだ言葉は軽薄に思えて、声にならずに宙に溶けた。
スロウセリーヌは、ゆっくり廊下を進んでいく。
その背を最後まで見送って、私は近くのオレンジの扉をキーカードで開けて中に入った。
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しんみりしてしまった。
部屋の電気がついたことではっとなりつつ、頬を叩いて気合を入れ直す。
さぁ切り替えて、次へ進もう。
P1:小学生のとき生き物係。
ピンクの巨鳥:子どもに庇護的。
雛たち:順番がわかる。
黄のカタツムリ:痛みは多少治まった。少なくとも問答無用で駆けよらないくらいには。
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書き溜めた分がなくなってきたので、次からはじわじわの予定。おそらく新章が出てから内容によっては書き直す。
原作未完の二次の連載に手を出すべきでないとわかってはいたが、我慢できずに放出。鉄は熱いうちに打っておこう。