気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 黄色のカタツムリに遭遇。紆余曲折あり襲撃を回避した。探索を再開する。


14 Run?

 

 廊下から入った部屋は、中央に太い柱が聳えるピンク色の部屋だった。

 そこそこ広いが、それ以外特に気になる物は無い。…いや、ドローンの作業台があった。ハンマーを再び拝借しておく。

 

 その先に広がる部屋を見て、私は目を瞬いた。

 

 海だ。―――いや、正確にはビーチを模したプレイルーム。

 

 一階分ほど高く設置された鉄の足場の上から、その部屋を見渡す。

 カラフルなパラソルとビーチチェア、小舟と、砂浜、ヤシの木。青い海は本当の水ではなく色が付いた床だが、でも海!海だ!

 

 一歩足を踏み入れると、カモメの鳴き声が聞こえる。

 部屋の真ん中を渡るように設置された足場を進む。足場の中央には、大砲が4つ設置されていた。フィドルが居た部屋にあったものとよく似ている。

 大砲の近くのボタンには、黄色のキーカードが必要そうだ。押してもエラー音が出て反応しないので、ひとまず通路を渡って下に降りる。

 砂浜!…残念ながら本物の砂ではなかったが、波立つ模様の床は踏んだ感触が新鮮だ。ややざらついたゴムのような感覚。転んでも砂まみれにならなくていいかもしれない。

 

 今までいかにも建物内部というような窓のない空間を見てきたこともあってか、ここにきてやや開放的な雰囲気をもつ部屋に気持ちが明るくなる。

 あちこち見て回る私の目に、壁の文字が止まった。

 

『!!Stinger Flynn Mission!!』

 

 どうやらここは、あの橙色のクラゲのキャラクターのアトラクションらしい、と思い至る。…その割に姿は見えないが…。文字をよく読むと、スティンガーフリンは貝殻をチェストに集めるのが好きらしく、よって8つ見つけて横の宝箱に入れると景品がもらえるらしい。

 そういえば、と大砲の近くに落ちていたホタテのような貝殻を鞄から取り出す。完璧な形のそれを眺めた。…クラゲの食事はもっと小さいオキアミなどのプランクトンだったと思うので、純粋にコレクションとして好きなのかもしれない。

 

 

 あちこちを探し回って8つの貝殻を見つけた。ついでにパラソルの上に帽子があるのを発見し、傘を閉じた後にちょっと傾けて転がり落ちたところで回収。

 無事にミッションをクリアし、開いた棚から黄色のキーカードを入手した。

 

 さて、これで大砲近くのスイッチが利くようになるはずだ。

『大砲ゲーム』のルールをよく読んでから、私はそのボタンを押した。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ルールは単純だが、上と下を行き来するのがやや大変だった。スタミナ配分に苦労しつつ何とか3ラウンド目のクリアの音を聞く。――――奥の橙の扉が開かれる。

 大砲の弾であるロケット花火は、まだ箱の中にたくさん残っていた。しばらく悩んで一つ拝借。これでリュックの中には弾が2つだ。背中で誤爆しないことを祈る。

 

 橙の扉を入った部屋は、薄暗い。明かりは点いているので、これが通常の状態のようだ。プレイルームを見渡せる大きなガラスがはめ込まれている。…暗い場所から明るい場所は見えやすく、逆は見えにくい。この部屋は、向こうを一方通行でよく見るための作りだ。

 部屋をさらに観察する。…ガラスとは反対の壁に大きなホワイトボードがあった。

 

 書かれている表を見る。「ひっぱたく」の下に縦線が4つ、「握手」の下に縦線が3つ、「刺す」の下に10…。ホワイトボードを眺めるように椅子が4つ並んでいる。

 …、…。後ろを思わず振り返る。『Sting(刺す)』…。否応が無しにあの橙色のクラゲのキャラクターが脳裏に思い浮かぶが、未だ点を線で結ぶのは難しい。わかるのは、向こうのプレイルームで観察された何かを、数人がここで評価ないし検討していたのだろうという事だけだ。

 一番物騒な「刺す」の数が最も多いのが気になるところだが…。

 

 離れた机に書類も発見した。報告書だ。

 どうやらCase1、ジバニウムそのものに関しての報告書だ。ケースタイプは1で、更新番号は2。一連の実験の初期に書かれたものだろう。ざっと読んでみる。

 

 

 ―――以前の報告書で言及されたCaseは、ほんの一瞬、まるで人工神経が働いたかのように腕を動かした。

 予想に違わず、タイプ5のケース3とケース6を結合させたとき、ジバニウムは血液と同じ働きをするようだ。哺乳類の循環器には効果がない。

 以前の報告のタイプ2のケースにも、奇妙な物質的な影響が見られた。ジバニウムは、流れるよう設定された場所の大きさを、拡大させると思われる。その結果、Caseの体に無数の静脈が発生し、さらに体の大きさを著しく成長させた。どちらの増大も、若者にとって不快な印象を与えるリスク以外には、いかなる悪影響も及ぼしていない様子。

 今後は、以前の報告のタイプ2のCaseに、より多くのタイプ5のCaseを加え、さらに生きているかのような動きを再現していく予定だ。

 ジバニウムに関する研究は続けられる。

 

 

 …、…。

 オピラやフィドルらの背中の傷は、おそらくジバニウムの循環をつくるための手術跡だったのだな、と察する。他の動くキャラクターにも同じような手術跡があると考えていいだろう。…そういえば、セリーヌにも跡があったな、と思い出す。あの時はそれどころでなかったので気に留めなかったが、確かに背中にあった。ジバニウムは通過した物質を大きくする作用があることも、覚えておこう。

 

 私は報告書を鞄にしまいつつ、置かれていた水色のキーカードを手にした。さぁ、次へ進もう。

 

 

 廊下にあった水色の扉を開けて進む。

 

 下り坂を進んだ先に広がっていたのは、なにがしかのアスレチックだった。吹き抜けの空間にはカラフルな足場が大量に設置されており、どうやら上へ上へと続いている。

 ちょっと下を覗いてみる。案の定、底が見えないほどの真っ暗闇だ…。壁の文字に目をやる。

 

『エクササイズがあるから、息を整えるのがいいよ!』

『あなたの番を守らないと、全員落ちて死ぬよ!』

 

 死ぬよ!じゃないが???

 どういう…どういうアトラクション設定なのか?いったい何のためにこんなもんを設置しているのだろうか。

 幼稚園に何とか雰囲気を寄せつつも不釣り合いなそれらに混乱しながら、近くに見つけた紙を拾いあげる。―――手紙だ、それも、子どもの字。

 

 おかあさんへ

  ぼくはだいじょうぶ、それからクレアもだいじょうぶだよ :)

 いいクラゲさんが、おおきなとりや、わるいあかいおとこから、たすけてくれたんだ。

 ぼくたちは、クラゲさんのおうちにいくよ。

 

 手紙には、絵が付いている。『Me』『Claire』と書き込まれた子どもと橙色で描かれた『Jellyfish』が、()()している絵…。

 読む限りでは、おそらくスティンガーフリンが、二人の子どもを保護してくれているように見受けられる。オピラやバンバンと思われる存在を悪いものと扱っている点が気になるが…バンバンは兎も角、オピラは子どもに攻撃的でない…はずではなかったか?

 一旦手紙を回収して…あ、いや、これはもしかしなくても「母宛て」の手紙だ。私が持って行っては駄目だろう。そっと元の位置に戻す。資料として写真だけ撮っておこう。

 

 さて、とアスレチックを見つめる。意を決して、足場に向かって跳んだ。壁の言葉を信じるなら…本来であれば、辿り着いた足場の位置によって、床がせり上がってくるのかもしれない、などと考える。じゃあなんで今そうなっててくれないのかは考えても仕方ない。なるべく下を見ないまま進む。

 

 途中、ビデオテープと帽子を発見した。

 …、ここまで来たのにテレビまで戻る葛藤がなかったわけではないが、重要な資料かもしれないそれを、見ないという選択肢はない。

 一旦戻って…、…戻って…、この先にテレビないかなぁ…。

 いや、やらない後悔よりやる後悔だ。私はコムスセクターまで戻ることにした。

 

 再生したビデオには、ある実験の様子が記録されていた。

 

 手のひら大の緑色の何か。形は…頭と体、手足に見えなくも、ない。医療用手袋をした指がその形を整えるのを見るに、緑のそれは粘土のような質感に思える。注射器の針が刺されて、緑色の液体が注入される…。『Stop』と声。

映像はそこで途切れた。

 

 …、…。おそらくジバニウムの実験だ。姿形と色から、ジャンボジョッシュか彼に類似したCaseの実験と思える。ジバニウムの作用により、あの後に注射された実験対象は肥大しただろう…。もし映像の存在が、私が目撃したあのジャンボジョッシュであるなら、相当の比率で巨大化することになる…。

 ジバニウムに通る場所を拡張する効果があるのなら、その内部には相当の圧力がかかると想像するのは容易い。成長や発達が早い、と言えば聞こえがいいが、中の広がりに外身が追いつかなければ、当然無理が出る。疑似的な血管、あるいは神経、肉体そのものを無理やり押し広げて膨らませるような働きと仮定すれば、全身を襲う激痛も然るべきと思われるが…いや、ド素人の憶測であって何の意味もない考えだ。深掘りせずそのまま置いておくのがいい。

 

 …、…。成果を急がれた成長とその苦痛…高度な教育を期待された幼稚園との嫌な符号の一致だ。…いやいや、ちょっと流石にナイーブが過ぎるだろう、と頭を振る。

 

 私はコムスセクターを後にし、再び危険なアトラクションに戻った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 アトラクション最後の大ジャンプは、私の足を大いに竦ませた。正直一回落ちて死んだ。

 

 …、…。

 …嘘だ。数回死にました…。

 

 復活するだろうとわかっていても、怖いもんは怖い。命綱があってもバンジージャンプにスリルがあるように。

 胸を叩く心臓の音を感じながら、足元に落ちている書類を拾い上げて読んでみる。

 報告書だ。

 

 Case10、通称『鳥』についての報告書。タイプは2で更新番号は4。

 ジバニウムと「ダチョウ」の遺伝子情報を混ぜ合わせた…とそこまで見て、おや、と読み進めるのを止める。リュックを探って以前発見したCase10の報告書を取り出した。

 …やはりそうだ、更新番号2の報告書には「フラミンゴ」と書いてある。

 するとCase10は複数の鳥類の遺伝子情報を持っている…いや?それなら「ダチョウ」と「フラミンゴ」「ジバニウム」は並列で報告されるはずだ。…遺伝子情報は、後から取り除いたり追加したりすることが、可能なのだろうか?

 真偽は置いておき、報告書を読み進める。

 

 …Case10の大人に対する攻撃性の理由は不明のままである。調教も、以前の報告のように効果は薄い。

 しかし、Case10の目が充血した目になるという、一見不規則のように思える事象の理由が発見された。血のような目は、非常に高い攻撃性と関連性があるようだ。

 これらの行動は、Case10A,Case10B, Case10C ,Case10D, Case10E, Case10F(色違いのものも含む)と子どものような属性を持つ全て個体の苦痛を、目撃、または聞いた事が直接の原因と考えられる。

 前述の子どものような属性については、2回目の報告で説明されている。

 

 

 …、…。

 オピラバード、目は赤かったっけ?記憶を思い出してみるが、いまいち確証がない。かなり至近距離でよく顔を見ていたはずだが…はて…。

 高い攻撃性のある充血した目、と読んでむしろ思い出したのは、誤答した生徒をシメる先生のピンクの目だった。オピラよりか明らかに色に変化が起きていたように感じる。

 先生の場合は、生徒の問題行動が怒りの原因だったが、しかしオピラは、子どもっぽい誰かが傷つけられたと感じることが怒りの起因らしい。…誰であっても否定できない母性的な優しさと責任感だ。攻撃対象が問答無用で大人なら誰でもな点を除けば…。

 坊主憎けりゃ袈裟まで憎いのかもだろうが、先程雛たちを撫でさせてくれた彼女の様子を鑑みるに、私を歯牙にかける存在でないと判断したと思いたいところである…。

 

 『Winners Corner』 のメッセージの下を潜る。

 

 

 

 長い、長い橙色の廊下を進んでいった先。大きな部屋に辿り着いた。

 

 全体的に赤みが強い橙色のその部屋を見渡す。

 これまで絵で見てきたキャラクターが描かれた幾つもの扉が、周囲の壁や天井に張り付いている。どれもが口をぴたりと閉じて動きはない。

 中央にはテーブルとホールケーキが置かれていた。近づいてみると、蝋燭が6本立ったそのケーキの真ん中に、金色のオブジェが設置されている。バンバンとバンバリーナが手を取り合ったそれは、かすかに聞こえるオルゴールの音楽に合わせてゆっくり回転していた。

 

 妙な光景だ。

 

 一体誰が何の目的でこれを置いたのか?

 

 じっとそれを見つめる私の視線のさらに向こうから、何かがせり上がってくる。

 

 硝子の向こう―――おそらくエレベーターだ。徐々にそれに乗っているだろう何かが見えてくる。

 

 2つのパーティーハット、そしてそれを被っている、赤い姿。

 

 

 意識を失う前に確かに見たその姿を認識した私は、素早く自分が入ってきた道が閉ざされていないことを確認して視線を外さぬまま3歩後退した。

 

 構える私と、エレベーターに乗った相手の目が、確かに合う。

 

 …さて、何用か?

 一回殴り倒された経験のある私は、問うた。

 

 

「要件は?」

 

 

 




P1: 海も山も好き。喜んで走り回る。普段であれば初対面の相手に対して敬語は標準装備。

赤い姿の声の主:苦労して探し回った相手にハチャメチャに警戒されている。
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