気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
探索を続け、ビーチを模したプレイルームのミッションをクリア。アスレチックの先、たどり着いた部屋で、登ってきたエレベーターの中に、あの赤い人物の姿を見つける。
互いが互いをそうと理解している、「観察する視線」が交わる。
「…さて、」
バンバンの姿をした―――自己申告をまだもらっていないが自身をウスマンドクターと認識している可能性が高い―――彼は、話し始めた。
「通常なら、君は、僕が立っているこの硝子の中の安全な場所にいるはずなんだ。動物園で動物を見ているみたいにね。…つまり、互いに危害は与えられないからそう構えなくも良いと…伝えておこう」
一旦信じて体の力を抜く。視線は外さないで相手の動きをよく見ておこう。
「…動物園と言えば、そろそろここの全ての扉が開いて、集会の時間になる。手短に済ませなくては」
わかった、と頷く。周囲の扉の絵を見るに対応するキャラクターがやってくるのだろう。…ナブナブが天井にある扉なのは納得だ。するとスロウセリーヌとまだ見ぬスティンガーフリン、トードスターも壁のぼりが可能なのだろうか。
口数少ない私の様子を見て、彼はやや視線を逸らした。
「ええ、と。殴って申し訳なかった。でも、わかってほしいことがある。君が意識を失っている間にしか得られないものが必要だったんだ、鎮痛剤も使い果たしたしね」
その『必要だったもの』が何か濁すあたりが信用しきれない点だが、それよりも気になる点があった。
「鎮痛剤の場所を知っている?」
突然の発言に彼はじっとこちらを見た。
「それは僕を含めたこの場所の誰もが知りたい情報だ。存在するならだが。…どこか、痛むのかい?」
「いや、渡したい相手がいただけだ。話の腰を折ってごめん、続けてほしい」
「…そうか。…僕の姿を見たら、君は信用しないだろうとも思った。カメラ越しに君の落ち着きを見て、対話も考えないでもなかったが…」
それこそ言っても信じないかもしれないが、と私は腕を組んだ。
「一応貴方がどんな姿でも話をするつもりだったが。今みたいに」
「それは…すまない。賭けに出るだけの自信は…僕にはもう、なかったよ」
覇気のない声だ。
眉を下げて私は組んだ腕を降ろした。ビデオで見た彼の扱いを思うに責められまい。
「怒っていない。信用はまだ難しいけど、もう謝らないで大丈夫だ」
「そう、か。騙す真似をして悪かったが、ひとつだけ嘘をついてない点もある。―――それは、君が『なぜここにいるか』を、僕が知っているということだ」
私は驚きで固まった。―――まじまじと、彼の黒い瞳を見つめる。
『
ゲームを起動し寝落ちして、ここは…私の夢だ。そのはず…だった。
夢の住人が…それを指摘するだろうか?
その赤い姿を見る。…自分が思いつきもしないだろう、キャラクターたち。ゲームの説明画面でわずかに見た程度のはずの、そのディテールを。本当に私は『これ』を想像できるか?
思考がぶれる。
心臓が音を立てる、手が冷たい。
重大な秘密を握っているだろう、目の前の人物を見つめる。
―――沈黙する私の様子をじっくり見ながら、確かめるように、ゆっくりと彼は告げた。
「―――君の、子どもたちのためだろう?」
いや、思ってたのと違うやつだったわ。
止めていた息を吐く。
とはいえゲームのプレイヤーであれば、その設定で間違いあるまい。
拍子抜けする私の様子を少し眺めて、彼は肩を竦めた。
「動揺しないね」
それはまぁ…。
「僕も、子どもたちが助かるよう動くよ。君が信じてくれればいいが」
「それは今後の様子次第だけど…信じたいとは思う」
そうなるよう努力するよ、と答えた声が、でも、と続けた。深刻そうな声が言う。
「誰か他の者が、彼らを確保している。僕や君より遥かに強い、深淵にいる誰かだ」
「心当たりがある様子だ」
「ああ―――」
唐突に鳴ったチャイムに会話が途切れる。
一瞬上を見上げた彼は、すぐに私を見た。
「―――ダメだな、行ってくれ。オピラバードの通路にエレベーターがある。それを使って、また下で話をしよう」
「わかった」
詳しい話をさらに聞きたいところだが…主に彼が何の目的で動いていてなぜ私に協力しようとしているのか、だが…それは下に辿り着いてからだ。
私は周囲を見回して動き出そうとし―――まだ猶予があると見て、疑問にぴたりと止まる。
「ちょっと待ってほしい。こっちに貴方でそっちのエレベーターに私を誘導すれば、より円滑だったのでは?」
短い沈黙。
「…君を…捕捉するのに時間がかかった」
とても言い辛そうに、相手は言葉を選んだ様子だった。
明言は避けられたが理由はおそらく、私が動き回っていたからに他なるまい。
…、えーっと…。
「そいつは…すみませんでしたね」
誰もいないマットを見つけたときの彼の心情を再度考えると申し訳なさが募ってきた。
気まずい沈黙。
「…いや…。えっと、早く行った方がいいんじゃないかな」
キャラクターの絵が描かれた扉が一斉に開く。忠告にお礼を言って、今度こそ私はオピラバードが描かれた扉に駆けだした。
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桃色の扉に飛び込む。しばらく進んだところで背後から、あら、と声が聞こえて振り返った。
「―――あぁ、やっぱり!転入生!」
真白い体にピンクのリボン。歩いてこちらにやってくる人物には見覚えがあった。
「…先生!先程ぶりですね」
「ええ!移動してる時、開いた扉の先にあなたが見えた気がして…やっぱりね!」
「またお会いできて嬉しいです。集会はよろしいのですか」
「遅刻はしないわ。あなたと話す時間ぐらいあるわよ。それで、どこへ行くの?」
「この先のエレベーターへ」
やや考えて、結構距離があるわね、と彼女は言った。
「迷いそうなところもあるし…途中までついて行くわ。良い?」
「ありがたい申し出ですが、良いんですか」
「もちろん!」
「ありがとうございます、先生」
心強い同行者を得て、私はピンクの廊下を進むこととなった。
「…行き止まりですね」
「そうね、分かれ道まで戻る?」
…、…。道案内は、してくれないらしい。
しばらく通路を進む。道すがら、先生と話をすることにした。
「先生は…ここにいる他の方について、ご存知なことがありますか」
「他のひと?」
きょとん、と彼女はこちらを向く。
「知らないわけじゃないけど、大して詳しくないかも。そんなに興味がないし」
「そうですか。先生から見て、力がある存在はいらっしゃいますか」
「力がある…?」
「…失礼、抽象的が過ぎましたね。ええと、強そうなひとです。該当するひとを探しています」
先生は怪訝そうな雰囲気でしばらく考えて言った。
「つまり、あなたは強そうなひとが気になるってこと?」
「はい、まぁ」
「強いほうがいいのね?」
「え?はい」
もう少し説明が必要そうだ。言葉を付け足す前に先生が口を開く。
「私強いわよ?」
「えっ?」
???存じてます、と返事をする前に―――唐突に、音が聞こえる。
それは、低い、地響きのような音。
短い唸り声のような。
記憶を参照し終える前に、目の前を横切って、壁に緑の何かが叩きつけられた!
「ちょっと!」
先生が緑のソレに抗議の声をあげる。彼女の安否を確認しようとして、そうか、申告通り先生は私よりずっと強かったなと思い至る。今吹っ飛んだ扉でも死ねるだろう自分の心配をすべきだ。
「先生!急ぎます!」
「えぇわかった!」
緑の腕を避け、左に曲がって駆ける―――壁の扉がふっ飛ばされ、緑の腕が生える。
前方に右腕、後方に左腕。真横の暗がりから緑の巨人、ジャンボジョッシュの顔が覗いてこちらを見つめていた。―――あ、とついその体を見る。あの時エレベーターに押し潰されていた体には、今目立った損傷は見られない。無事治療を受けられたのか。
「私の生徒になにするの!」
先生の声が効いたのか、あるいは壁の柱が邪魔で手が届かなかったのか否か、ジャンボジョッシュはこちらを見つつも腕を引っ込める。
出来た隙間をすり抜けるように走る。
天井に設置されていた扉から降ってきた手をしゃがんで避ける。…手の動きは明らかにこちらを捕まえようとしている!
「先生!この先まだ追って来そうですか!?」
隣に追いついた彼女に問うと答えが返ってきた。
「エレベーターはあいつが来れるほど広くないわ!そこまで走って!」
扉を見かける度に衝撃を覚悟しながら走り抜けて、とうとう、橙色のライトが付いた扉を発見する。
キーカードを使って…開かない。―――違う、あちらだ!横の壁のパネルにカードを使う。扉に駆け寄るが、開いて、いない…?
―――では、一体何のスイッチだったのか?と後ろを振り返って、同じく不思議そうな先生の頭上…天井の扉が、開いていることに、気が付いた。
声をあげる前に、そこから緑の手が降る。
「きゃあ!?」
先生が巨大な手で床に押さえつけられる。すぐさま持ち上げられようとするその体に駆け寄って、伸ばした手は彼女の白い手に届いた。
私の体重ごときではジャンボジョッシュの動きは止まらない。当たり前だが先生を掴んだ私の体もそのまま持ち上がろうとする。
一瞬、先生と目が合った。
―――あ、と何かを感じて、制止をする前に、
「―――行って!」
私の手は、彼女によって、振りほどかれる。
体が浮遊した。緑の手が引っ込んでいく。
白い姿が、遠ざかる。
上を見上げたまま、私は床に落ちた。
…、…。跳ね起きるように立ちあがる。頭上の穴を見つめる。高い、届かない。何か、足場になるものを…。
走って目の前の扉を開けて部屋を覗く、ドラム缶が転がっているが自分で動かせそうもない。では来た道を戻って何か、何かを…。
通路を走る。吹き飛んだ扉、はすぐには足場として使えそうもない。―――なぜかストレッチャーが転がっていた。奥に青い例の彼も見えるが、床の遮蔽物ではクモは防げないはずだ。
「ごめんコレ貰っていく!」
急いで引きずって穴の下に設置する…駄目だまだ届かない。
息せききって通路を戻る。
…、…ナブナブは、まだそこにいた。
…。…。
「足場を…探したいんだ、通して、ほしい」
息を切らしつつ言う。相手は動かない。
ストレッチャーのあった位置まで進む。
ナブナブはまだ、動かない。
「上に連れてかれた人を、追いたいんだ、おねがいだ…」
進む、まだ、動かない。
じり、と一歩また踏み出そうとし―――瞬間。ナブナブの足が壁を掴み、力が入ったのを見て、止まる。
…、…。駄目、だ。恐らくこれ以上近づいたら、あの壁にかかった足で勢い良く上まで登り、天井を伝ってこちらに迫ってくるだろう。相手の雰囲気は『来るな』と明確に示している。
じりじりと互いの出方を伺う膠着が続く。
―――時間が惜しい。
ナブナブに無理を言ったことを謝って、私は踵を返した。
…、…。設置したストレッチャーに上って天井の暗がりを見つめる。見える範囲で、中に明かりはない。
…、…困難を悟って、冷静になってきた。もし仮に…登れたとして、私はどうするつもりだったのか、と自問自答する。ナブナブのように壁を登れるでも無しに、ジャンボジョッシュの動きからしてあちこちに繋がっているだろう穴を通って、どうやってどこかもわからない目的地まで辿り着くつもりなのか。…現実的でない。
そしておそらく先生の判断は正しい。私が彼女と共に連れていかれたとしても、足手纏いだっただろう。
高所から落下しても足に怪我の無かったオピラバード、エレベーターの下敷きになっても現在動き回れるジャンボジョッシュ…彼らはおそらく生身の人間よりよっぽど耐久性に優れ、回復も早い。で、あれば、今私がすべきは…先生の強さを信じて、先に進み、別の道を探すこと、だ…。
…、…。
断腸の思いで、天井の暗闇から視線を外す。
私は、前を、向いた。
―――進もう。
P1:目の前の問題に逐一立ち止まる性質。
赤い声の主:弁明成功。ひとまず大きな拒絶なく協力を取り付け、計画運営に滞りはない。
先生:自分の強さに自覚がある。生徒と時間は守らねばならない。
緑の巨人:対象の一人の捕獲に成功。
青いクモ:自分のペースでなら近づけるが、相手に距離感は保ってほしい。