気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 赤い声の主から伝えられた、青いクモの対処法のためジバニウムの手術を行う。
 橙のクラゲから再度引き返すよう警告を受ける。
 大した主張はできず、意識はそのまま暗闇に飲まれた。



19 In the same boat

 

 気が付いた時…、私は、車の中にいた…?

 

 流れる景色と体に感じる振動は、それが移動中であることを示している。

 

 

 

「―――あぁ、ようやく目が覚めたようだね」

 

 声を掛けてきた相手を見つめる。赤い、声の主だ。隣に座った彼は鷹揚に続けた。

 

「寝てしまったのも無理はない。僕らは長い間この車に乗っていた気がするしね」

 

 砂地が続く窓の外を眺めつつ、声の主が言う。

 

「それで…スティンガー。いつ『ビーチ』とかいう場所に到着するんだ?」

 

「道に迷ったようだ」

 

 運転席のスティンガーフリンが答える。その長い触手で器用にハンドルを握っていた。

 ―――助手席のオピラバードが返事のようにひと声鳴く。

 大きな声だ、同調かツッコミか。

 

 声の主が窓枠に肘を掛けた。

 

「そりゃあいい。君はどうやってかたった一つの仕事をしくじったわけだ」

 

 当たり強ないか?運転手にはもっと優しくしてあげて欲しい。

 スティンガーフリンが、心持ち億劫そうに返答する。

 

「―――お前に意見を求めた者を探すのに苦労している」

「見つかったかい?」

「誰もいないと言いたかったが、伝わらないようだ」

「見つけられなかっただけかもしれないな」

「お前にとってはその方が良いだろうな」

 

 ぽんぽん飛ぶ言葉に私は目を行ったり来たりさせる。と、いうか、随分、二人とも遠慮ない物言いだ。横に座る赤い彼は、かなりリラックスした様子だし、気の置けない仲なのかもしれない。

 スティンガーフリンとバックミラー越しに一瞬目が合う。

 

「…あるいは、稀有な者が一人」

 

「―――まぁいずれにせよ、しばらくここにいるようだし音楽でもかけてくれないかな」

 

 スティンガーフリンは無言で音楽のスイッチを入れた。

 

「いいね。オピラもそう思うだろう?」

 

 勢いよくオピラが返答する。語気が強いので多分、めっちゃいいか全然ダメかのどちらかだ。

 

 

 …流れる音楽を聴く。

 私は周囲に視線を巡らせた。右隣に赤い彼、その前方の助手席にオピラバード、運転席にスティンガーフリン。で、私の左隣に、藤色の小柄な…ええと、たぶん、キャプテンフィドルズ…?

 はじめまして、と軽く頭を下げる。小さな彼は頷いて左手を振った。

 後ろを振り返ると、青いクモの彼が車についてきている…。チラリと車のメーターを確認し、再度背後を見る…いや速…だいぶ速いな…。

 

「―――良い音楽だ、なぁ、キャプテン。…キャプテン?」

 

 小さな彼は赤い彼の言葉にやはり手を振る。

 

「まぁ…まともな返答かな」

 

 赤い彼はいったん口をつぐんだ。喋る相手が居なくて退屈していそうだ。

 

 …、…。

 

 

 

 …ええと。これはなんの集まりでしたっけ…?

 

 

 

 と、いうか、私は直前まで何をしていたのだったか。

 記憶を探る。確かスティンガーフリンに再度警告を受けて、そして、眠っていろと言われて…。すると、ここは彼の精神世界か回想、幻覚だろうか。

 …直前の会話では圧を感じた割に、私は彼の車の後部座席に乗せてもらっているようだ。運転席へ声を掛ける。

 

「貴方の車に乗せてくれるのですね」

「勝手に積載量が増えていた」

 

 即答だ。思いあがりだったようだ。

 

「…、…。…すみません…降ります…」

 

 スティンガーフリンはため息を吐く。

 

「この砂漠の真っただ中にか。あと少し早く聞ければ違ったかもしれないが。…手を掛けさせないでほしいものだな…」

「…重ね重ねすみません…」

 

 降ろしたら死ぬ以上、乗ってしまったからには放り出しはしないと?良心的がすぎるな…。 

 

 気軽い声で赤い姿の彼は言う。

 

「自分の手は汚したくないようだね、スティンガー」

 

 ちょ、…っとそれは流石に挑戦的ではなかろうか?気の置けない仲っていうか、もしかして貴方も例によって精神世界で口が軽くなってないか???

 赤い彼の声はフラットゆえその意図はないのだろうが、内容は煽り感がある。

 

「…少しだけその声を出すのをやめられないか。道に集中したい」

 

 重たい声が言う。あの温かな海を心安らぐ場としていた彼にとって、水の一滴もない砂漠はこの上なく好ましくない場所だろう。感じるストレスは推して知る。

 

「道に集中するってどういう意味だい?僕らは何時間も同じ場をぐるぐるしているみたいだけどな。なあ、オピラ」

 

 周囲は日中の砂漠だというのに、車内の温度が急激に下がる気配を感じる。

 

 運転手に過剰なストレスを与えてはいけない。私は慌てて口をひらいた。もし静かにするよう言われたら、以降は貝のように口を閉じよう…。

 

「あの、―――あの、スティンガーフリン。ええと、海、目指すべき海について教えてください。きっと素晴らしい場所だろうと思いますが。…温かい方が好きですか?サンゴ礁は?」

 

 

 車内にはほんのちょっと沈黙が落ちた。サボテンが横を通り過ぎる。

 

 

「…、…温かい方が良い。サンゴ礁は…気にしたことがなかったな…」

 

 怒気のない声が返ってきたことに安堵しつつ、会話を続ける。

 

「良いですね、温かい海。そうでしたらサンゴ礁も良いかもしれません。小さな甲殻類も多いと思います。もちろん、波と空を眺めるのも心地が良いことと思いますが」

「あまり多くは望まない。…しかしまぁ、考えておこう…」

 

 スティンガーフリンの声は、穏やかさを取り戻しそうな気配を感じる…。

 

「君、スティンガーに大層丁寧な話し方をしているね。僕にもそうだった?」

 

 ちょ、静かにしててくれ今だけでいい。

 横から注がれる視線を無視できず早口で返事をする。

 

「畏まるべき相手を選んでるだけだからちょっと待っててほしい」

 

 初対面で殴られたので敬語がフェードアウトしただけだ。いま言葉を選んで説明できない。

 赤い彼は、きょとりとやや考えた様子だった。

 

「つまり僕たちは遠慮のない仲ってことかな」

 

 もうそれでいいかもしれない。

 

「…ある意味では…」

 

 そうか、と返事した声はほんのちょっと嬉しそうだったので謎に罪悪感に襲われた。…嘘にはならないはずだ…嘘には…。

 

 …ええと、と私は運転手のメンタル安定に思考を戻す。

 

「たしか…エビが好きだとおっしゃっていましたね、他には何か?貝はお好きですか」

「…実際には食べたことがない。そうしたい、というだけだ。しかし、そうだな―――日差し。きっと、それは、好きだろう」

 

 

「日差しならそこにあるよ、行ってきたらどうだい?」

 

 

 赤い彼が指で窓の外を示す。びっくりする程フラットな声だ…なぜだ…どうして…。

 

 スティンガーフリンは沈黙している。これは嵐の前の静けさであって穏やかなそれではない。

 

「さ、サンラウンジャーもいいですね」

「自らグリルされに?僕らに日焼け止めなんてものが効けばいいね」

 

 

 …、…今のは煽りだろ!いや違うのか!?それとも実はそういう計算だったりするか!?

 

 

「…えっと、あの、…、…海…、…楽しみですね…」

 

 私の声は萎んだ。…無力だ…。もっと口が上手くて話し上手だったらよかったのに…。

 肩を落とす私の背を、キャプテンの手がちょんちょんと撫でる。よかった…ここで雰囲気に耐えかねたお子さんが泣き出したら、収拾がつかない。帰省ラッシュ車内の地獄再現とか、切実に回避したい。

 

「しかし海の気配の欠片も感じないが。道案内をオピラに任せてもいいのかい」

「…私が…!しましょうか!地図は有りますか、あるいは方位磁石か」

「ランドマークはさっきの砂山かな。何十回か見た気がするけどね」

 

 

「―――退屈で…仕方がないらしいな…」

 

 

 頼むから喧嘩しないでくださいこんな狭い場所で!

 

 地を這うような低い声に体を縮める私をよそに、赤い彼はカラリと言う。

 

「スティンガーの運転で目的地にたどり着くといいが。―――クラゲを信用してはならない、そうだろオピラ?」

 

 私が返答を捻じ込むより、スティンガーフリンが限界を迎える方が早かった。ぐるりと彼が振り返る。

 

 

「貴様がまた口を開いたら、その馬鹿げたパーティーハットに全身を詰め込んでやるからな!!」

 

 

 

 前方に緑の巨大なサボテンが迫るのは同時だった。

 

 

 全てがスローモーションに見え、車は宙を舞い―――

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 気が付いた時…私は覚えのない場所に座っていた。

 

 

 

 …なかなか…趣深い罵倒だったな…。

 

 私は頭を押さえてのろのろと半身を起こす。どうやら、目の前の机に突っ伏していたようだ…。

 幻覚から目が覚めたらしい。あのドライブの後はまたスティンガーフリンの姿で高速移動する的当てミッションをしたような気がしないでもないが、頭がぼんやりしている…。

 

 

「―――あら、やっと起きたのね!」

 

 

 聞こえた声に、寝ぼけた頭が急激に覚醒した。

 視線の先には、ピンクリボンをつけた白い姿。

 

 

「長く寝ていたわね、平気?」

 

「―――先生!」

 

 思わず声が上がる。慌てて駆け寄って確認するが、とくに怪我は…なさそうだ。至って普通の様子。

 

「ご無事でしたか、よかった」

「そりゃあね」

 

 彼女は笑った。

 

「言ったでしょう、私強いのよ?」

 

 異論はない。しかし私は首を振った。

 

「存じております。…貴女の身を案じるのとは、別ですよ。先生」

 

 自分としては真面目に言ったのだが、彼女は一瞬ぽかんとした後くすくすと笑った。

 自分より遥かに脆弱な生き物に心配されても、変な気持ちにしかならないかもしれない…。まぁ…いっか…。

 

「私を…あの時助けようとしてくださって、ありがとうございます。貴女の足手纏いにならずに済みました」

「そんなつもりもなかったけれど…いいえ、ここはどういたしまして、かしら?まぁ、あなたがここに来るのが少し遅くなったくらいしか変わらなかったようね」

 

 私は周囲を見回した。椅子に、机…カラフルな家具が揃えられている。

 

「ここは…ジャンボジョッシュの部屋だ、と聞きました。何かご存知ですか?」

「あの緑の大きなアイツね?」

 

 先生は頷いた。

 

「アイツに捕まって、ここに放り込まれたんだけど…本当に退屈だったのよ。そこいる奴はあまり話さないし」

 

 そこ、と示された先に視線を向けて、ようやっとその存在に気が付く。ナブナブだ!

 

 かつてなく近い位置にいる彼を凝視するが、その姿は机に突っ伏したまま動きはない。…気絶している?酷い怪我は…今のところなさそうだが。

 

「あの緑の男は、ここにいる私たちを監視しているみたい。人形か何かだと思っているのかも。…逆に言えばそれを利用して脱出できるかもしれないわ。ここにあるパズルを解いていくと、出口の扉が開く仕組みのはず。つまり…」

「気が付かれないように、少しずつパズルをクリアしていく、ということですね?」

 

Correct(正解)!」

 

先生はにっこり笑った。

 

「アイツが近づいてくるとあのライトの色が変わるわ。窓から見える範囲の部屋を元通りにして、椅子に座れば完璧よ」

 

なるほど、と私は頷いた。

 

「それでは私はパズルを見てきます。先生は、ライトの確認を。色が変わったら声を掛けていただいてもよろしいですか?」

「もちろん。正直、パズルはどこから手を付けていいのか困っていたの、あなたが来てくれて助かるわ」

 

「では早速…と行きたいところですが、2つほど用事が。先にそれらを済ませても?」

「どうぞ?急いでいないわ」

 

 返答をもらい、まず私は慎重に、ナブナブに近づいた。ピクリとも動かず、机に突っ伏して腕を伸ばしている。…やはり、ジバニウムの色は見当たらない。大きな外傷はなさそうだ。私と同じで寝ているのか。

 …緊急を要することはなさそうだ。寝ている虎の尾っぽを踏んづけることになってもいけない。そっとしておこう。

 

 

 続いて最初に座っていた椅子に戻り、私は鞄から紙とペンを取り出した。赤い声の主も言っていたが、捕えられている今は、ある意味余計な横槍が入らず安全とも言える。

 …一度先送りにしてやらかしたので、時間があるうちにスティンガーフリンに伝えるべき話を整理しておこう。

 

 先程の罵倒にも思うところだが、彼の話には含みが多分にあるので、私はそれを瞬時に理解できず結果的に沈黙して話が流れてしまいがちだ。あらかじめ言いたいことをまとめておいた方が良いだろう。

 ひとまず思いつくままにメモをする。…しかし、全部を言うのは長すぎる。何を、どの順で言うのか。

 

 頭をひねる私の手元を、先生がのぞき込む。

 

「手紙?」

「いえ、話のメモ書きのようなものです。相手にちゃんと伝えたいことなので整理をしています」

「ふうん?」

 

 先生は散らばった文をしばらく見つめた。―――白い指が、すっと文字を指さす。

 

 

「主張と提案、言いたい事と、言うべき事」

「えっ」

 

「似ているようで違うわ。選択しなくちゃ。誰に、どう伝えたいの」

 

 …なるほど?

 

 私は、メモに印をつけていく。

 

 

『子どもたちが消えた事件の手がかりを発見するため』に『進みたい』、これが主張の大枠だ。これを言わねば始まらない。

 

 ただし、付け足しがある。

『スティンガーフリンの邪魔をしたいわけではない』こと。

『できるだけ誰かを害さない道を選びたい』こと。

 これらは伝えたいことだ。

 

 上の二つから、私は『スティンガーフリンの願いを否定せず邪魔をしない、しかし進ませてほしい。道中の誰かを手助けしてしまうかもしれない』と最初に主張した。そしてそれは危険を理由に却下された。

 スティンガーフリンはおそらく、面倒事を避けたい。積極的に殺したくはないし、かといって引っ掻き回されるのはもっと避けたい。だから、私に帰るよう促した。本当のところどうなのかは、聞かねばならないが、一応その線で考えてみよう。

 

 次点で伝えるべきことはなんだろうか?

 

 スティンガーフリンの言う通りに撤退するという選択肢は…多分、ない。いや、できないと言った方がいいかもしれない。スタート地点であるエントランスへ戻って施設外へ出られたとしても…本当の意味で帰れなどしないだろう。何より、私の頭のどっかで『ラストまで進むべき』と奇妙な確信が騒めいている。なんか最後まで行かなきゃいけないんだろう…多分…。

 撤退の選択肢がないなら、却下された主張を、却下されないように改善しなければならない。

 

 スティンガーフリンの『危惧を減らす』か『危惧を上回る利点がある』提案…目指すべき形が見えてきた。

 残った要らない文章…『ひとりでこれらを計画したのか』とか『人間をどう思っているのか』等々を線で消す。これらは言わなくていいことだ。

 私は、頭をひねって、いくつかの文章を書き足した。

 

 

 …、…。

 

 

 出来上がったメモを持ちあげて眺める。なかなか良いのではなかろうか?

 

「ありがとうございます先生。用事は済みました」

「良いニュースね。―――あら続いて悪いニュースよ、ライトが点いたわ。すぐに片づけて座りましょう」

 

 素早くリュックに一式を突っ込んで、椅子に腰かける。

 

「机に倒れてた方がいいですか、先生?」

「ええ。…そう、そんな感じで両腕を軽く伸ばして…OK。―――来るわ」

 

 

 

 

 ―――低い、唸るような音。一拍遅れて、ゆっくりと、その巨大な緑色の彼は現れる。

 

 

 

 

 伏せて机との間にできた隙間から、私はそれを覗き見た。

 

 部屋にある大きな穴あき窓から、彼はこちらをじいっと眺めている。

 

 

 …バレてはならない、と思うとどうしても緊張はする。昔から隠し事や嘘は苦手なたちだ。

 …黒い瞳と目があったような錯覚に陥る…。

 

 ―――聴こえるか否かの微かな声が、大丈夫よ、と私を宥めた。

 

 

 

 間も無くして、ジャンボジョッシュは満足したように暗闇に引っ込む。

 

 

 

「もう平気ね」

 

 先生の声を聞いて、私は息を吐いて机に突っ伏し直した。緊張した…。

 

 

「お疲れみたいね。大丈夫?」

「はい、問題ありません」

 

 

 私は顔を上げて気合を入れなおす。

 ―――さぁ、謎解きの時間だ。

 




P1:ギスギスにあまり耐えられない。何とかしようとした。結果は遅延のち集束。

赤い声の主:周囲の雰囲気はあまり気にならない。探索者の人間との心理的距離が他勢力と比較して近いことは、計画の進行上良いことと考えている。

橙のクラゲ:本来なら堪忍袋の緒はもっと切れにくい。長時間の運転に疲弊している。

青いクモ:ショックで突っ伏している。

ピンクリボンの先生:生徒との再会と事態が好転する予感から気持ちは明るい。


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時間がかかってすべりこみ投稿。
次回分の書き溜めがないので、次回投稿は期間が開く予定。
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