気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

20 / 73

 前回のあらすじ

 幻覚の砂漠では、車はサボテンに追突し大破した。

 緑の巨人の部屋と思われる場所で目が覚め、そこで囚われていたピンクリボンの先生とも合流。
 脱出のためにパズルのクリアを試みることとなる。



20 Permutation,Combination

 

 謎解きの手掛かりを探して、部屋を見回してみた。

 

 左手に橙色の扉が3つ、背面にスイッチのない緑の扉、正面の壁には文字が描かれている。

 

 何かのヒントかもしれない、と壁に寄って文字を読む。

 

『超秘密のジャンボジョッシュラウンジ!君は十分クールかな?』

 

 サングラスをかけた、色違いのジャンボジョッシュたちの絵だ。黄色、緑、灰色の3人。

 …緑の彼にも、フィドルズのように似た姿の仲間がいるようだ。

 

 仲間と言えば、と、ここに来るまでの経緯を思い出す。スティンガーフリンに眠っているよう言われた後にここに運ばれたという事は、彼とジャンボジョッシュは手を結んでいると見てよいのだろうか。直前に感じた揺れや、特徴的な音を考えても、彼らでナブナブを捕まえた可能性も高い。施設内でも何らかの派閥があるのかもしれない、覚えておこう…。

 

 近くの穴をふさぐカラフルな立方体のブロックを横に避けて中に入る。入った小部屋には、両手で抱えられるサイズの橙色のブロックが2つ、それからミニテーブルと椅子が置いてあった。テーブルの上にはコーヒーカップ。『君は十分クール!』と壁に歓迎の文字。…隠れた休憩所っぽくて良いつくりだ。なるほど、『超秘密の』場所らしい。

 ひとまず、一通り他の部屋も見て回る。どうやらこれらの立方体のブロックを使ったパズルのようだ。ブロックを階段状に積み上げて登り、各部屋の高い位置にある橙色のブロックをゲットしていけば良いらしい。

 

 秘密のラウンジにあった橙のブロック2つを取り出す。入り口を元のように4色のブロックでふさいで戻そうと…。

 

 …しまった、考え事をしながら動かしたおかげで順番を覚えていない。

 

 とりあえず入れてみる。黒、赤、緑、黄…。

 

 少し離れて眺めてみる。

 …、…。いや…なんかちょっと違う気がするな…。

 

 首をひねりつつ懸命に思い出そうとする私の背に声がかかる。

 

「赤と緑」

 

 振り返ると先生が何気ない様子でこちらを見ていた。

 

「逆よ。左上から時計回りに、黒、緑、黄、赤の順」

 

 思いがけぬ助力に私は目を瞬かせた。

 

「ありがとうございます、先生」

「いいえ?」

 

 本当になんでもなさそうな感じだ。私はふと彼女の授業を思いだす。すらすらと出題された一問目の数式…。

 

「先生は…記憶がお得意で?」

 

 丸い瞳は、きょとん、としている。…ピンと来ていなさそうだ。私は鞄の中からクレヨンと紙を手にした。

 

「ブロックの順番をよく見ていらしたのですか?」

「いいえ?まあ、退屈だったから部屋はなんとなく眺めていたけどね」

「この部屋に来たのは初めてですよね」

「そうね、初めてだし最後にしておきたいわ」

 

 なるほど、と私は頷く。持っていた紙を伏せた。

 

「…ところで、先程少しだけ見せた数字が何か言えますか?」

「70103202よ」

 

 すごいな。

 私は手元の紙を確認する。数字に間違いはない。ではもう一丁。

 

 

「ちなみに、数字の色は言えたり?」

 

 ―――さらりと彼女は、それぞれの数字の色を言い当ててみせたのだった。

 

 

 

 

「すごい記憶力です」

 

 率直に私は言った。

 

「これはお願いになるのですが…もし元に戻した部屋に間違いや違和感があったなら、言ってくださいませんか。…どんなに些細でもかまいません」

 

 彼女を窺う。

 

「私に教えていただきたいのです、先生」

 

 見つめる先で、彼女はほんの少し身じろぎした。

 

「いいわよ。だって、私…あなたの、先生だもの」

 

 よかった、とても助かる。はにかむ彼女に微笑み返す。

 

「ありがとうございます」

 

 ちゃんと意思疎通が成立してちょっと感動している。

 ああ、この半分でもスティンガーフリンと会話…できたらいいな…。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ねえ、ちょっと手伝ってくれないかしら」

 

 声がかかったのは、パズルも中盤まで終わった頃だった。先生の協力もあり、ジャンボジョッシュの襲来は現在まで問題なく凌げている。

 明るい声からして危機的なものでもなさそうだ、とそちらの部屋を覗くと、彼女はホワイトボードの前にいた。白い手が書かれた記号を示す。

 

「これ、どう思う?」

 

 手書きのそれは…インテグラル…スマイル…イコール…無限…に見える。先程までなかったこれは、彼女が書いたものに間違いないだろうが…。

 

「何かの方程式…でしょうか」

 

 なんだろうかコレ。∞のマークはジバニウムにもつけられていた気がする。すると、ジバニウムに関する積分の方程式…?ジバニウムと笑顔が結びつくか…??

 

 頭をひねるがいまいち確証がもてない。積分は確か、細かい集積から全体像を求める…みたいな感じ…だったか?

 するとこれは…ジバニウム実験の積み重ねは、個々の結果はともかく全体的には笑顔につながるよ!ということ…?

 よくわからないが、いずれにせよ興味深い式だ…。

 

 しばしその式を見つめ、これを書いた人物を窺う。先生―――報告書のCase7、遺伝子情報提供者である人の記憶をもつ存在…。

 

 貴女はどこでこれを―――

 

 と、言いかけた瞬間、ライトが点灯する。

 

「アイツが来るわ。戻りましょう」

 

 

 先生と目配せして急いで椅子に戻り…まもなくして窓から緑の姿が見えた。

 

 何度やってもこの時間は緊張する。自分1人ならともかく、他者の安全も掛かっているとなると、殊更落ち着かない。

 ジャンボジョッシュ自体に悪意や敵意は感じないのだが、いかんせん意思疎通が難しそうなのと、身体と力の大きさが脅威的だ。先生が言っていた通りに我々を人形だと思っているのだとしたら、精神性は他のマスコットたちより幼いのかもしれない。

 …そう考えてみると、彼は拾ったおもちゃを自分の部屋に持ち帰って、時々ちゃんと元の場所にあるか確認している訳か…ちょっと微笑ましいかもしれないな…。なんとかして我々が人形ではなく個々の意思がある存在だと伝えられれば、糸口が見つかるかもしれないが…現状では難しそうだ。

 

 考え事をしつつ覗き見ていた彼の動きは、ふいにピタっと止まった。

 

 おや?

 何か不穏な気配を感じる私の隣、先生がぽつりと言う。

 

「…私、余計なことをしたかも…」

 

 ん?え?

 

「式…」

 

 ―――あっ!?

 私が書かれたままの記号に思い至るのと、扉が外から吹っ飛ばされるのは同時だった。

 

 

 癇癪を起こした腕が部屋に押し入ってくる。

 

 もう人形のふりをしている場合ではない、椅子を蹴飛ばす勢いで逃げようとする。が、攻撃範囲デカすぎて回避しきれるかコレは!?

 

 

 迫り来る緑の腕と、なんとか避けようとそれを注視する私の間に、―――ぱっと白い色が躍り出る。

 

 

 は、と思いがけないそれに思考が止まる。

 全てがはっきりと、スローモーションに見えた。

 

 

 腕を伸ばし、間に入ろうとするその背中は間違いなく先生で―――

 

 

 

 ―――駄目だろそれは。

 

 

 

 私は回避の動作を捨てて彼女に体当たりした。悲しいことにフィジカル差から大して体は動かず、そのまま緑の巨大な質量を伴ったものが迫り―――

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 気がついたとき、私は数式の前にいた。先生が微笑んでいる。

 

 

「これ、どう思う?」

 

 

 私は、止めていた息を吐いた。

 脱力するのを気合いで耐える。

 

「…大変…興味深いです、先生、」

 

 彼女は首を傾げた。

 

「これが証明できたら良いと思うの」

「はい、あの、ぜひお手伝いしたいところですが…一つ、その、提案が…」

「なあに?」

 

 私は何とか言葉を探した。

 

「今後何か危険が及んだ時…自身の安全を第一に考えましょう」

 

 唐突だろう提案に、ちょっと考えた彼女は微笑んだ。

 

「ええ。あなたはそれで良いわ」

「いえ言葉足らずでした"お互いに"です」

「心配しないで。…顔色が良くないわね、大丈夫。教師は生徒を守るものよ」

 

 先生は胸を張った。

 

 

「あなたは私が守るわ」

 

 

 私は膝から崩れ落ちた。

 

 言葉を選んだのに一番避けたい台詞が引き出された…どうして…。

 

 

「Hey,大丈夫?」

「大丈夫です…自身の無力を噛み締めているだけなのでお気になさらず…あなたは素晴らしい先生です…」

 

 先生がしゃがんでこちらを覗き込んでいる。目の前で奇行を見て心配だろう…。

 

 

 …教師としての彼女の言動は、賞賛されるべきだ。フィジカル弱者が後方に控えるのも理にかなっている。…庇わないで、私の代わりに傷つかないでくれ、というのは私の個人的な心情から来る我儘でしかない。そして、彼女の信念を曲げてしまえるような力も関係性も、私にはない…。

 で、あれば、できることは…。

 

「…わかりました。そういう危険な状況にならないよう…十分に努めます…」

 

 絞り出した声に、先生はまだこちらを気にかけてくれている。

 

「心配なの?大丈夫。やるべきことは、パズルと人形のふりだけよ。パズルはあなたになら難しくないし、部屋の原状復帰は私も手伝える。万が一アイツが手を出してきたとしても、任せて。…上手くいっているわ。元気出して?」

 

 これ以上心配させるのは駄目だろう。私は返事をして立ち上がる。…タイミングよく、ジョッシュの襲来を告げるライトが点いた。

 

「ありがとうございます、先生。ご心配をおかけしました。…ひとまず、彼が見る前にボードは綺麗にしますね」

 

 青いライトに照らされた彼女は頷いた。

 

「あらそうね!これはまたの機会にしましょう」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 続くパズルは、ドローンの操作にやや苦戦したものの問題なく進んだ。

 無事に黄緑色のキーカードを入手し、『End Training』のスイッチを押す。

 

 出口が開いた。

 

「先生!終わりました」

「Great! やったわね!」

 

 部屋の照明が消えたので、ジャンボジョッシュに気が付かれるのは時間の問題だ。私は急いでナブナブの様子を窺う。まだ動かなそうだ。

 

「すみません先生!彼も外へ運びたいのですが」

「え?そう?」

「はい…!」

 

 抱え上げようとし…その重さに半ば引きずる形になる…。見かねた先生が手伝ってくれ、なんとか部屋の外へ運び出した。廊下の壁に彼の背をもたれさせる。少なくともこれで、すぐさまジョッシュの大暴れの巻き添えになることはないだろう…。

 

 

 拾っていた白黒のパーティーハットを近くに置いて、早足でその場から離れることにする。

 

 

 扉を抜けた廊下の壁には、やはり『To』の文字とジャンボジョッシュの絵が描かれていた。…スティンガーフリンはなぜ我々をここへ閉じ込めようとしたのだろうか?『無駄にはしない』という主旨の彼の台詞を思い出す。つまり何かに使おうという事だ。彼自身の計画については準備が整っていると言っていたから、私を『もっと必要としている』らしい『古い友人』に対する交渉材料として使うつもりだったのかもしれない。あとは単純に動き回るなというところだろうか。

 …そう考えると脱出してしまって悪いような気がしてくる。はやいところ本当にちゃんと話をする必要があるだろう。

 

 

「私たち良いコンビかもね」

「ありがとうございます、先生のおかげです」

 

 会話をしつつ長い廊下を進む。

 左右にはマスコットキャラクターの絵と扉が並んでいる。

 

 フィドルズ…バウンセリア…バンバン…バンバリーナ…。『独房』と描かれた黒い扉もあった。…監視カメラがあったので手を振ってみる、が反応はない。近くに先生がいるので放送を控えているのだろうか。隣を歩く彼女を見上げる。

 

「先生はこれからどちらへ?」

「そうね、授業の準備があるから教室に戻るわ」

 

 エレベーターに辿り着いた彼女が振り返る。

 

「あなたは?」

 

 私は立ち止ってそれを見る。

 

「この先へ。手がかりを探しに」

 

 彼女は頷いた。

 

「そうよね。…ねぇ、私からも、一つ、提案があるのだけれど」

 

「はい。何でしょう」

 

 

 予想のつかない言葉に、私は先生を待つ。

 見つめる先で…彼女は少し沈黙し、やがて小さく首を振った。

 

「―――いいえ。やっぱり一つのお誘いにするわ。…授業の準備をしているって言ったでしょう?内容をね、ちょっと考え直しているの」

 

 一度地面に落ちた視線は、そっと私に向いた。

 

「4限目を、きっと楽しいものにするつもり。あなたの全ての用事が終わったのだとしたら…。…ねぇ、逃す手はないって、思わない?」

 

 

 私は、微笑んだ。

 

 

「―――是非に。楽しみにしています、先生」

 

 

 

 ぱっと彼女の表情が華やぐ。

 

 

「―――きっとよ!他の生徒も待っているから私は行くけど…。それじゃあ、また。無事でね!」

 

「はい先生。また」

 

 

 エレベーターが昇っていく。

 

 手を振って、私たちは別れた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 エレベーターが見えなくなるまで見送って、私は一息つく。

 さて、やることをひとつずつ整理しなくては。

 

 カメラに手を振ってみる。…反応はない。ちょっと前の地面の揺れで通信が駄目になったのか、それとも声の主に何かあったのか。…ジョッシュの部屋に一緒にぶち込まれていなかったので、スティンガーフリンに捕まったわけではないと思っていたのだが…。すぐさま解決はできそうにないが気にかけておくべきだろう。

 

 続いて、鞄からビデオテープを取り出す。先程の長い廊下で見つけたものと、トードスターの部屋で見つけたもの。ちょうどテレビがあるので、今見ておくのがいいだろう。

 

 真っ黒い画面に映像が映る。

 

 1つ目は…最初の階にあったプレイルームの映像に思える。

 子どもと…フィドル?がひとりずつ。色味がややわかりにくいが、子どもは黒っぽい頭髪にピンクのシャツ、青っぽい半ズボン。フィドルは…白飛びしていてさらにわかりにくいが、色味は明るいはずだ。周囲の色と見比べても、藤色でキャプテンか…?

 フィドルは後ろ手をついて、片足をぱたぱたと動かしている。子どもは立ってそれを眺めている様子。

 雰囲気は不穏ではなさそうだ。

 

 2つ目のビデオ。映し出されたのは、灰色の部屋だ。床に点線が描かれた部屋の様子は、Case6が映っていた部屋によく似ている。収容室か独房か。部屋でぴょんぴょんと動き回っているものは…黒っぽい…カエル?左端には机があり、上には同色っぽい濃い色の何かが置かれている…。

 

 

 真っ黒に戻ったテレビの前で私は頭をひねった。いずれも興味深いビデオだったが、得られた情報は推理するには未だ曖昧だ。あのフィドルは子どもと居ても問題がなさそうだった。たったひとりで映っていたあの子は、クレアか母への手紙の子どもだろうか。そしてカエルはトードスターの遺伝子情報提供元…?

 

 

 ひとまず置いておいて、先へ進もう。

 

 新たに入手した黄緑のカードで、進める場所が増えているはずだ。…なんか、『まだ開かないな』と思った部屋が道中でいくつかあった気がする。…ええと、スティンガーフリンの後ろにあった扉…は、白だったな。あとは…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 私はメディカルセクターの扉の前にいた。ナブナリーナの手術を行ったフロアだ。その端っこに…あった、黄緑の扉。

 

 キーカードを使う。

 開いた扉の先には、6つのボタンと閉じられた棚があった。

 

 

 壁にあるボタンは、カードで反応するいつものそれだが、違う点が一つ。それぞれのボタンの上にはマスコットキャラクターの顔が描かれている。

 

 棚の右側の壁に3つ。逆三角形を描くように配置されたボタンは、左上から時計回りに、バンバン、ナブナブ、バンバリーナの順。

 左側の壁にも同じように、トードスター、セリーヌ、ジョッシュの順だ。

 

 近くにあった書類を拾い上げて読んでみる。何かのヒントだと良いが。

 

『経営陣のユーモアセンスがこんなに酷いなら、この施設が幼稚園の運営に問題を抱えているとしても全く不思議じゃない。

 彼らがこの悪戯部屋にどれだけリソースを割いているかは神のみぞ知る。しかも、これを見つけて経営難に文句を言うだろう従業員のためだけに。

 もっと悪いことに、これは世界が終わる時にしか見つからないのだから、期待されてた僅かな笑いさえ起らないわけだ。

 我々がこれを生き延びたら、誰かが予算の優先順位を制御する必要がある。…でもよく考えると、これを設置した誰かはおそらくもういなくなってるだろうし、いずれにせよやらなくちゃならないことだ。

 待てよ…もしも、今までの全部が経営陣の悪戯で、実はみんなが無事だったら?これは私がこの場所で人気者になるチャンスかもしれない。無駄にしない方がいいな!』

 

 全然謎解きのヒントではなかった。最初は皮肉ぎみに始まった文章は、最後には超楽観的に締められている。書き手が心配になる文章だ…。この入室に手間がかかる上に謎のギミックが付いた部屋は、従業者にとっては財政を圧迫する不満の種だったようだ。…本当に、いたずらの為だけの部屋なのだろうか?設置した誰かにとって、捨てられない何かを隠しておきたい、いつかひっそりと見つかることを望む…そういう、仕掛けの可能性は?

 

 私は6つのボタンを見つめ、謎解きに挑むことにした。重要な何かがそこに隠されていると信じて。

 

 

 

 落ちていた帽子を回収しつつ、ひとまずポチポチと触ってみる。が、エラー音がでるのみだ。ボタンを決まった順に押していくタイプだと思うのだが…。

 描かれたキャラクターと順番…つまり数字が結び付けられる“何か”は今までにあっただろうか?

 

 頭をひねる。一番最初に思いついたのは、Case番号だ。絵があるキャラクターで報告書から番号がわかっているのは、Case6バンバンとCase7バンバリーナのみ。あとはジャンボジョッシュがなんとなく順番が早そうだという気がするくらいで、確定はできない。…他を総当たりはちょっと骨が折れそうだ。それは最終手段として、ひとまず他の可能性も考えてみよう。

 他には…、キャラクター紹介絵の、横並びの順はどうだろうか。鞄の中から端末を取り出し、写真を確認してみる。…左端からと考えると、ナブナブ、セリーヌ、ジョッシュ、バンバリーナ、バンバン、トードスターの順…。ボタンを押してみるがエラー音だ、一応逆順も試したが、違うらしい。

 では…彼らが居た階層順…入り口から進んで出会う順とか?ちょっと状況によって差異がありそうだが…。…ジョッシュ、ナブナブ、バンバン、バンバリーナ、セリーヌ、未だ出会わぬトードスター…。エラー音が鳴る。違うらしい。順番の怪しい幾つかを入れ替えてみたが、これもまた違うようだ。

 

 さて、いよいよアイデアが無くなってきた。何か、他にヒントがなかっただろうか。

 Case番号の確認も含めて、私は今までの報告書を床に広げてみた。

 やはり、番号を確定できるのは、バンバンとバンバリーナのみだ。あとはボタンに絵がない、オピラが10で、フィドルが12で、フリンが13…。フリンのことを『新しいひとね』と言っていたセリーヌは13より早い番号だろうが…。うーん…。

 

 並べた報告書を眺める。

 

 ―――ふと、それらに、ある違いを見つけた。…、…。QRコードのついているものと、ないものがある…。

 

 時系列による書式の変化かと思ったが、違う。報告書の早い遅いに関係なく、刻印されたものとないものがある。

 

 QRコード、と見て私は横に置いていた端末を手に取った。カメラを起動する。

 

 

 はたして、圏外を示すその端末は、コードを読み取った。ある画像が映し出される…。

 

 

 ほぼ黒色の、明度の極端に低い画像は…うっすらと、何かが映っているように見える。写真アプリで明るさを上げると、それは浮かび上がった。

 

 ―――2つのパーティーハット。端に小さく、3の数字。

 

 これに違いない。私は片っ端からQRコードを読み取り始めた。

 

 ほどなくして、全てを確認し終わった。いくつかは画像ではなく文字を読み取り、黒いインクのQRコードは『完璧な幼稚園などというものは存在しない』『それらは生きていない。生きているわけがない』『クラゲを信用するな』といった文章を映し出した。ホラー演出によくある、微妙に核心に至らない言葉で恐怖感を煽るそれっぽいやつだ。ピンク色のインクのQRコードは、いずれもマスコットキャラクターの一部と数字を示した。現時点でトードスター、ナブナブ、ジョッシュ以外の番号がわかる。…空白を埋めるのはたったの6パターンだ。容易に正解にこぎつけられる。

 

 得られた情報をもとに、ボタンを押していく。

 

 1ナブナブ、2セリーヌ、3バンバン、4トードスター、5ジョッシュ、6バンバリーナ

 

 棚が、開いた。

 

 中に入っていたのは、一枚の紙と音声データだった。

 紙に書かれた文字を読んでみる。

 

『私たちの決断について、自分なりに見つめ直してみた。私たちは、もっとよく考えるべきだった。長期的な結果について考えなかったんだ。

 私たちは利己的だ。だって、彼が普通になることは決してない。彼の大きさでここから連れ出せたとしても、その次は?どんな家が彼にぴったり合う?どんな学校が彼を受け入れる?どんな政府が、この忌むべきものをずっと手元に置いておくことを許してくれるだろう?

            そんなものは、ない。

 彼が怖がったり怒ったりするときに何が起こるのか、まだ一度も見たことが無い。その結果を想像したくない。

 他の怪物たちを彼の近くに置いておくことがどれほど危険か言うまでもない。彼はおもちゃみたいに彼らで遊び、投げて、命令し、あらゆるすべてをする!

 人生は時として美しい贈り物を与えてくれないこともある。そして私たちはそれを受け入れるべきだった。でも、私たちはここで正しいことをしている。私は、私たち2人を誇りに思うよ』

 

 

 …。重たい文章だ。

 苦悩と後悔。現在に至るまでの決断を利己的だったと否定しつつも、この時点で2人で行っていることに対しては肯定的だ。『私たち2人』というのは…散々出てきたウスマン・アダム氏とメイソン氏の2名だろうか。何らかの計画が2名の間で進められて、きっとそれは正しいことだと考えられていた。

 

 ふと疑問がわく。文中の『彼』というのは、一体誰の事だろうか。体が大きく、他のマスコットキャラクターたちをおもちゃのように遊び、投げて…と聞くと、ジャンボジョッシュのようにも思えるが、そうすると『命令し』のところで違和感が出る。他に身体が大きいとなると、黄緑のフィドルズ…は、同様の言葉で違和感。スティンガーフリンは、…他の誰かをおもちゃのように遊んだり投げたりをするか…?やはり彼でもイメージがわかない。…あと大きな体と言えば、名前の分からない灰色の塔みたいな細長い体と平べったい頭の何者かがいるが、やっぱり『投げて、命令し』のところで違和感がある…。

 未だ出会っていない何かがこの先に居るのかもしれない。資料を見る限り危険な存在かもしれないのでよく覚えておこう。

 

 

 続いて私は音声データを再生しに、アクアティックセクターに向かう。…スティンガーフリンの部屋も覗いてみたが、残念ながら彼はいなかった。

 

 気を取り直してスピーカーを使う。

 

 モニターに物々しく『!』マークと文字が表示された。

 赤く、『認識不能な集会への呼び出しが行われました。緊急プロトコルを実施します』と書かれている。

 

 …、…。やっちゃいけないやつだったか、これは?

 

 ちょっと冷や汗をかきつつじっとしていたが、特に周囲に変化はない。何が起こったのかわからないまま、私はケーブルカーに戻り―――――それと、目が合った。

 

 

 灰色の巨塔。奈落から伸びる細い体。大きな顔。

 

 窪んだ黒い目は、こちらを向いている。

 

 

『…ごめんなさい…』

 

 

 喋った…。

 

 衝撃の事実の前に私は固まる。

 会話が可能なタイプだったとは。

 と、いうか上の階で見た時だってその頭はかなり上方にあったが、今なんで目線が合っているのだろうか。もしかして屈んでる?

 

 声はどちらかというと男性的だったが、何より最も気になるのは、その非常に悲し気な雰囲気だった。

 

 短く重い声の謝罪以降、目の前の存在は何も喋らない。相も変わらずその表情はよくわからないが、酷く気落ちしている印象を受ける…。

 

 微かにゆらゆら揺れる悲し気な存在を見上げる。何か言わなくてはならない気になるが、そうするにしては、私は何もかもを知らなすぎるのだった。彼が何に謝っていて何に悲しんでいるか知らない以上、無責任に返事をするのは憚れる…。

 

 

 いや、言えることはある。私は首を振った。少なくとも―――

 

 

 

「私に、謝らなくて、大丈夫です」

 

 

 何も申し訳なく思わなくていい。私の前で縮こまったり謝罪したりする必要はないはずだ。

 

 

「大丈夫です、何も、責めていません。怒っていないし、困っていません」

 

 

 …だからそんなに、気を落とさないでほしい…。

 

 なにを言ったらいいのか、私は逡巡した。考え考え言葉を絞る。

 

 

「…何を悲しんでいるのか、教えてもらうことは、できますか」

 

 

 

 答えはない。

 

 

 …、いかんせん隔たりが多すぎて、隣に腰を下ろしたり背を撫でたりができそうもない。

 

 

 灰色の巨大な彼は、ただ悲し気にそこにいる。

 

 私はやれることをすっかり失って、しばらくただそこで彼を見上げていた。

 

 

 

 




P1:寄り道が多い。

ピンクリボンの先生:一言請われればついていくつもりだった。自分なりに「素敵な先生」を考えた結果、自分を待っている生徒たちのところへ戻ることにする。

青いクモ:未だショックから回復せず。

灰色の巨塔:縮こまっている。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。