気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回までのあらすじ
色々あって橙とのクラゲとの交渉は決裂。関係に亀裂を入れるためか赤い姿の声の主(変貌した姿)を嗾けられるも、緑の巨人の乱入により場は混乱、結果的には事なきを得る。
進行を妨害する者は軒並み姿を消し、なぜかピンクの雛をお供に先へ進むこととなった。
23 Guard
雛と共に、私はエレベーターに乗り込んでいた。
…、…。あのままこの小さい子を置き去りにはできない…。
正直連れていったほうが危険なのではないか、という考えが思い浮かばない訳ではなかったが、放置の方が問題が重いと判断した。雛は私の後をついてきて自分からエレベーターに乗り込んできたので、本人(鳥)としても一人でいたくはないのだろう。
脳裏にオピラバードの顔が思い浮かぶ…。私は雛より恐らく年上である…責任は果たすべきだろう…。
エレベーターの前には、ホワイトボードが設置されていた。それを囲むように椅子が4つ。
『王国を見つけろ
保安官を見つけろ
道化師に見つかるな』
…王国???幼稚園の…地下に???
国というからには土地と国民が存在するのだろうか。
これが誰向けのメッセージなのかを考えつつ、私は下の階へ降りていく。
エレベーターが止まった先は、部屋…というより狭い廊下といった様相だ。すぐ隣に緑の扉があるがスイッチはなく開きそうもない。先へ行こうか、と足元の雛を伺うが、しかし雛はぴたりと動きを止めてこちらを見上げている。…?疲れたのか?
…自分では動きたくない様子なので、抱えて歩くことにした。ピヨ、と控えめに雛は一度だけ鳴く。…?なんか、元気が無―――――
エレベーターから降りて、扉に背を向けて歩みを進めようとしたとき、その扉は速やかに開かれた。
接近音。振り返った先に見えたのは、巨大な2つの頭。こちらへ突っ込んでくる巨体を視認した私は、咄嗟にエレベーターの方へ抱えていた雛を押し出し、
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私はエレベーターに居た。腕の中にはピンクの丸いもの。雛はこちらを見て控えめにひと声鳴いた。
…、…。
一瞬過ぎてちゃんと見ることができなかったが、おそらくカメとカメレオンの彼らだ…。
以前は見逃してくれたが、私が下層に移動したのを追いかけてきたのか。スルーして進んだのを怒っているのかもしれないな…明らかにイベント戦ぽかったし…。
雛を置いていく…という選択は…置いていった後で雛が危険な目にあう可能性を否定できないので無しだ。
私は呼吸を整えてから、スタートダッシュを切った。
背後で轟音が聞こえるが、振り返らない。逃げの一手だ。
直線はまずい、舌と水鉄砲がくる…と考えが浮かんだが、通路はお誂え向きに曲がり角が多い。
ひたすらに走り、走り、…もうそうそろスタミナ切れかもしれないいやまだ止まるわけにはと思考がちらつくところで、視界がやや開ける。私は小部屋に飛び込んだようだった。
―――出口は開いていない。急がねば、と焦燥に周囲へ視線を走らせたところで、迫る音が止まっていることに気がつく。
振り返った先には、頭だけが部屋に突っ込まれているカメとカメレオンがいた。
……ええ……。
通路が狭過ぎて、身体の大きな彼らは間に挟まったらしい。
ぜいぜい言う私と、彼らはしばし見つめ合った。表情は読みにくいが、ジタバタもせずまるで動かない様子を見ると、茫然としているように思えてくる…。
未だ整わない息のまま、私は雛を扉の近くに降ろした。どこか哀愁漂う彼らへ歩を進める。
攻撃が来ないかと横から慎重に進んだが、手が触れられるほどの距離まで近寄っても、舌も水鉄砲も飛んでこなかった。恐らく攻撃に必要な予備動作が行えないのだろう。
壁と彼らの隙間は…無くはないが甲羅?の凹凸が引っかかっている様子。通路の狭さに気が付いて縦になって突っ込んだはいいが、丁度真ん中で止まったあげく、足も宙に浮いて踏ん張れない…といった感じだ…。
黒い二対の瞳には、「…もうにどとうごけない…」みたいな絶望を感じる。
私はひっくり返った亀を見た心地で、しょっぱい顔で目を閉じた…。ああ…でももう見てしまった…。
伝わるかはともかく、触りますよ、と一言断って壁と彼らの隙間に手を突っ込む。甲羅に触れられたので、体重を掛けて向こう側へ押し込んでみる…がびくともしない。引っ張ってみても同様。…ここまでされても相手は大人しいものだ。余程茫然自失と見える。
それならば、と少し遠慮をやめて、真正面から体重を掛けてみた。
…駄目だ、完璧にはまり込んでいる。あと多分重量があり過ぎて動かない。
数分格闘し、壁と彼らの隙間へと潜り込んで全体重を掛けてみたりしたが、結局少しだけ向こうへ動いた程度でそれ以上は何とも移動しなかった。
少しだけ向こうに動いた分、あとちょっと本人(匹?体?)が頑張れば向こう側に足が出そう…な気が…しなくもないかもわからんな…。
流石に体力も底をつきかけているので、申し訳ないがこれ以上は勘弁願おう…。
「すみません、これ以上は私では力になれそうにありません…。私は、貴方がたを傷つけたいのではなく、先に進みたいだけです」
彼らはまだ茫然としている様子だが、急に我に返ってこちらに向かってこようとしたら元の木阿弥だ。さっさと彼らの視界から外れるのが良いだろう。
私は部屋の端っこに寄りつつ、周囲を見回した。
床に意味深なパネルが2つ設置されている…。押してみると、ライトの色が赤から緑に変化した。…、…足をちょっと伸ばして2つを同時に押してみる。
軽快な音が鳴り、扉が開かれた。
続く部屋にも似たような仕掛けがある。スイッチ同士は離れて設置されていたので、雛の手(足)も借り、同時に押して無事扉は開かれた。
…、…。扉の先は、今度は薄暗い。
進もうとするが…雛はついてこない。おいで、と手を広げても駆け寄ってこなかった。
私は扉の先を見つめる。…エレベーターから降りようとする時も、この子は立ち止っていた。私と初めて会った時も、確か雛たちは随分遠くからこちらを見て逃げて行った。…何かがいる、という気配がわかって、避けようとするのかもしれない。
「わかった。君はそこにいて」
先に一人で安全確認をしよう、と背を向けた私は、数歩で足元から聞こえた声に止まる。
小さな嘴が私のズボンの端を咥えていた。華奢な足がそのまま一歩後退しようとし、力が足りずに両方の足を突っ張っている。
…、…。オピラによく似たその雛を、私はそっと抱き上げた。
目を合わせる。人間と異なる顔の造形は、やはり表情を読み取るのは難しい。でも、と思う。
「ありがとう。先に何かがあるんだね。わかった」
意図して微笑む、雛の不安を多少なりとも減らせたら良いのだが。
「少し見てくるだけだ。君はここにいて、それから…何かあったら、とにかく逃げる。いい?」
雛は返事をしない。…弱ったな、話が難しいか?
雛を床に降ろす。小柄な体は、私の足元を落ち着かなげにうろちょろした。
いってくるよ、と手を振りつつ足を進める。雛は…しばらく足元を回っていたが、私が扉を越えると、そこに境があるように立ち止まり、右往左往した。
…、早いとこ調べて戻ってこよう。
暗い部屋を進む。少し歩いた先に、天井から明かりがあった。柱の陰に設置されていたのは…小さなテーブル。その上には、あるものが置かれていた。
手のひら大の四角い箱。中央には黄色いボタンが一つ。てっぺんにはアンテナ。
私は手元の持っていたそれと見比べた。ドローンのリモコン…のようだがアンテナの形が少し異なる。もっとよく調べてみようと手を伸ばし――――
―――瞬間、後頭部を襲った衝撃に、私は身体のコントロールを失った。
なすすべなく前方に倒れる。徐々に狭くなる視界の中で、自分の身体がズルズルと引きずられて移動されるのを感じた。まもなく意識は暗闇に飲まれる…。
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…、…。
気が付いた時…私は、暗い部屋に座っていた…?
目の前には机。白いライトが、私とその周囲だけを照らしている。周りに人の気配は…ない。…後頭部?首の後ろ?が痛い。
「―――良く聞け、犯罪者」
朗々と謹厳な声が暗闇に響く。
「意識がないふりをしても俺には通用しない、心するんだな。お前は今、囚人だ」
―――取調室だ。
罪の意識がある私は恐れおののいた。
「…本罪はなんですか…!」
「―――なんて?余罪も有んのか、その風貌で?意外とやってるか?」
謹厳そうだった声は若干揺れた。
まだよく働かない頭のまま私は答える。
「…はい…。不法侵入と借りパクをしています…」
「スムーズな告白だ。ご協力感謝だが俺の仕事を増やさないで欲しいとこだな」
…。声はそこまで冷たい印象を受けない。
ちょっと落ち着いてきた。猶予を感じて、私は視線を彷徨わせる。
「ピンクの雛が…近くに居ませんでしたか。あの子は無事ですか?」
「…、…言動の通りに小物か、あるいは油断を誘う演技派か…さて、どっちかな…」
調子狂うな…と厳しそうだった声が若干しなびる。
大いにクソザコだと侮ってほしい。そんで雛の情報がほしい。
声の主は私の問に答えることなく咳払いした。
「いいか、お前さん。…今から俺が質問することに、喋らず『はい』か『いいえ』で答えろ」
声はまた真面目な雰囲気に戻った。逆らってもしょうがない。首を縦に振る。
「横にボタンがある。『はい』の時は右、『いいえ』の時は左を押せ」
右のボタンは親指を立てたイラスト、左は親指を下げたイラストだ。○×ではないんだな、となんとなく思って…そういや、○×がYES、NOの意味をもつというのは海外だと一般的ではないんだっけかとふいに思い出す。アメリカとかだと✓マークと×なんだったか。日本であれば〇と✕の中間を示す△も、対応する記号は特にないと…。…あれ?と同時に、違和感を覚える。私は確か…。
「操作は理解したか?」
考え事をしていた私は、問いかけに慌てて首を縦に振り…右のボタンを押した。
「OK、上出来だ。―――、1つ目。」
目の前のスクリーンに、映像が映し出される。…ピンクのバケツが、10個。
「誰かが上の階の沼地で、犯罪者共全員を調べあげた。やったのはお前か?」
…、アボリアルエリアの、トードスターのミッションだ…。やったかやってないかで言ったら、やった。『はい』を押す。
「そうか。お前さんは一分一秒が惜しい誰かさんの時間を節約してくれたわけだ。ありがとよ。誰かってのは、まぁ言わんでおくが」
言い回しに剽軽さを感じて私はやや微笑んだ。全然意図していない事柄でも誰かの役に立ったと言われたならうれしい。ごほん、と咳払いがする。
「次だ。ボードに映っている“脅威”に遭遇したか?」
キャラクター紹介絵のジャンボジョッシュだ。…出会っている。『はい』
「本当か?お前さんがまだバラバラになってないってのは驚きだな」
…、…。ジャンボジョッシュはやはり怪力で知られているようだ。いまだ五体満足である事実を有難がっておこう。
「次だ。ボードに映っている“脅威”に遭遇したか?」
スティンガーフリンの絵。『はい』
「―――では追加だ」
スクリーンの画像が変わる。
「ボードに映っている“脅威”に遭遇したか?」
私は…首を傾げた。
映っているのは、紫と緑色の人型だった。イラストの雰囲気は、今までのキャラクター紹介絵とよく似ている。しかし、私はこのキャラクターを見たことがない…。
右半身は紫色で、凸凹と波打つ線で輪郭が描かれている。靴と目の周りだけが緑色。
左半身は緑色で、緩やかな線で輪郭が描かれている。靴と目の周りが紫色。
半分笑っていて…半分悲しんでいるような、不思議な口元だ。
よくよく見ても、私は該当する記憶を探し当てられなかった。『いいえ』を押す。
「―――そうだろうぜ。お前は上の階から来たんだからな」
…試されていたか?私は身じろぎする。やり手の刑事のような相手に、ちょっと落ち着かない気持ちだ。
「次、5つ目。ボードに映っている“脅威”に遭遇したか?」
ナブナブ。『はい』だ。
「…俺は奴を見ただけでぞっとするね…」
クモが苦手だったりするか?ちょっと親近感だ。
「6つ目。ボードに映っている“脅威”に遭遇したか?」
―――映し出されたのは、黒い帽子の茶色いカエル。
あー…えーっと…、うーん…?
私は、映し出された絵と声の聞こえる暗闇の方へと視線を行ったり来たりさせた。
多分恐らく発言の内容から考えると…この声の主はトードスターなんだと思うのだが…。遭遇…したかと言われると微妙だな。彼の自己認識がどうなっているかもわからないので、『いいえ』を押しておく。と、いうか今更だけど相手は非常に流暢に喋っているし確かな理性を感じる…。彼もヒトの遺伝子情報をもっているのだろうか?
「そうか。今のように、お前さんの他の回答が真実だと良いがね」
ボードの絵が消える。
「―――よし、いいだろう。後ろの荷物をとって、部屋からでてくれ」
…声から厳しさがやや拭われた。先程までは尋問用の声だったのかもしれない。
後ろに置かれていたリュックとドローンのスイッチを持った。
…もう一度「はい」と「いいえ」のボタンを見る。記憶をたどって…やはり、私は赤い例の彼に〇×△マークを見せている。でも…違和感なく伝わっていた様子だった…?いや、そういえば、彼は△マークに特に言及せず『バツではない』からと私の思考を推察していたな…。
…、…全然意味がわからない記号を見て、それでもとやかく言わずに状況やら私の様子やらから判断してくれたのだろうか。向こうも向こうで謎解き状態だった訳だな…心底頭が下がる思いだ…。
色々考えつつ私は部屋を出る。予想に違わず、そこには帽子をかぶった茶色のカエル…シェリフトードスターの姿をした人物が立っていた。私は彼を見上げる。
「…時間の無駄だったな。お前さん、何も悪事ってやつを働いてないだろう。顔を見りゃわかる」
「不法侵入と借りパクを…」
「…、…そうだったな…」
続きやるか?と暗い部屋を示されて、私は小さくなった。
「…はい」
「あー…やっぱ止めだ。ここで良いな、まぁ、座れよ」
素早い撤回後に手近なソファを示されて、私はおずおずと座った。
「不法侵入…ってのはまぁ、置いといてだ…上から来たんだろ、不思議じゃない。借りパクってのは?」
3人分くらいの距離を開けて、隣のソファに相手が座る。身長差が縮まって若干威圧感が無くなった。声も、先程の尋問中と比べるといくらか気安い。
「進んでる最中に…役に立つかもと思って、拾いました。まだ元の場所に返していません…」
私はリュックをカエル姿の彼に渡そうとした。彼は首を振る。
「いや、いい。自分で広げて見せてくれ」
―――クレヨン、ペン、資料の束、端末、小銭、紐、注射器、いっぱいの帽子、フォーク、スプーン、ナイフ、ロケット花火、ドローン用ハンマー。
床に並べられたそれらを、保安官は腕を組んでじっと眺める。
「…お前さんに反抗の意思がないのはよくわかった」
軽い思案の後、黒い帽子の彼は言った。
「俺は鞄の中身をあらかじめ知っていた。―――正直さに免じて押収はしない。とはいえ、荷物は一旦預かるし、しばらくは監視の目があることを承知しとけよ」
…、…。対応には温情があるが、脇は甘くもなさそうだ。いくらか気安い素振りも、私の反応を見た意図的なものだったのかもしれない。自分の立場を確認し、私はしっかりと頷いた。
いくぞ、と促され、慌てて荷物をまとめる。その背に追いついて、声を上げた。
「あの、雛は…」
「―――今はまだ会わせられん」
厳粛な声に、私は食い下がった。
「無事ですか」
「…、…、無事に、保護されている」
―――よかった。
息を吐く私の横で、こちらを横目で見た保安官もなぜか軽くため息を吐いた。
「…気をつけろよ、ここはあまり頑丈じゃない」
注意を受けつつコンクリートの橋?を渡る。手すりもないその真下は…先の見えない暗闇だ。
やがてレンガ造りの壁と床のエリアに辿り着く。カエル姿の彼は振り返って、芝居ががかったように言った。
「―――ようこそ、王国へ」
巨大な木製の扉が、音を立てて開かれる。
進みだす彼の背に、私は小走りで後へ続いた。
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門の先は…レンガ造りの空間だった。巨大な光るキノコのオブジェ、天井から吊り下げられた雲、荷車、足場や松明…ともかく全体の雰囲気としては中世西洋っぽいテーマパークのような様相だ。気になる物は色々あるが、今は大人しくカエル姿の彼についていく方が優先だろう。
「お前さんをどうするのかってのは、俺が決めることじゃない。女王と話さなきゃならん。―――その時は…敬意を払えよ」
…どうやら女王バウンセリアに謁見するようだ。敬意を念押しされて素直に頷いた。
あのキャラクター紹介絵を思い出す。…無礼を働いたらお腹にしまわれてしまうのだろうか…。
頭上にある『しずかに』の看板を見て、私は口を堅く閉ざした。
階段を上った先には、大きな紫のカンガルー…壁の紹介絵そのままの姿の存在がいた。
「―――女王陛下、新たな捕虜の尋問が終了いたしました」
沢山のジバニウムの缶を背後に、玉座に腰掛けた彼女はゆったりと口を開く。
「それで、その尋問の成果を、10段階でいくつと評価しますか?」
落ち着いた印象を受ける声だ。はっきりした話し方と雰囲気には確かな威厳を感じる。
質問に、尋問官は臆さず答えた。
「0です、陛下。彼らはあまり話しません。…おそらく表層から来たのだと思いますが」
「表層?それは…新たなことですね。彼らはこの地下で何を行っていたか話をしましたか?」
「残念ながら何も」
女王の表情はやや曇った。吐息が零れ、視線はやや下を向く。
「…私にはわかっています。心配事をもつ親と言うのは、1マイル先からでも他の心配事をもつ親を見つけられるものです」
その憂いを湛えた瞳が、気遣わしげに私を見た。
「上から悲鳴と破壊音が聞こえてきました。あなたは、子どもを探しに来たのでしょう」
ん…んん…?間違っ…ては、ないな…。でもなんかちょっと違う捉えをされている気もする。
親ではないです、と発言が許さるのだろうか。しかし、そもそもどのタイミングで面を上げていいかも分からず私は中途半端に地面へ視線を下げている。どうしよう、宮廷マナーとか当然全く知らない…。
「残念ですが、ここでは子どもたちを見つけられないでしょう。ほとんどの人間は長い間このフロアに降りてきていません。…我々は、貴方が上の階へ戻ることは手助けできます。しかし、まずは自己紹介させてください」
発言ができぬまま話が進んでいく。
「私は、女王バウンセリア。この国の統治者です。こちらは保安官のトードスター。王国の守り手で唯一の市民です」
女王は穏やかに微笑んだ。しかし一転、再び憂いを帯びた表情となる。
「手荒い出迎えとなったことを、私と保安官の2名を代表してお詫びいたします。近頃は皆、小さなことに神経を尖らせているのです。…あなたであれば、きっとお分かりいただけると信じています。―――シェリフ、エレベーターの調子はどうなっていますか?」
「よくはありません。重要な部品がいくつか欠けています。―――正確には、3カ所」
「それらがどこにあるか、わかりますか?」
「はい陛下。以前は多忙ゆえそれを見つけに行くことはできませんでしたが」
女王は軽く頷くと、私へ視線を向けた。
「我々を取り巻く今後の情勢は、荒れたものとなるでしょう。しかし、それは親であるあなたの戦いではありません」
毅然とした声は続ける。
「シェリフ、この方に付き添って、欠けている部品を探しにいきなさい」
「―――恐れながら陛下。我々は貴女をお守りすることに専念すべきかと」
「いずれそうなります。貴方が部品を手にここへ戻ってきたら、の話ですがね」
「…、承知致しました、陛下」
いくぞ、と無言で示され…私はなるたけ神経を尖らせ礼をして、彼の後を追った。
「―――驚くほど無口なままで、よくやるじゃないか。お咎めなしどころか、援助を引っ張り出した」
俺も今度そうしてみるとするかな、という保安官の台詞に、やっと私は固く閉ざしていた口を開いた。呼吸もようやくまともにできた気がする…。
「…もしかして喋ってよかったのですか?」
「んん?狙ってやってた訳じゃないのか。…まさかお前さん、律儀にあの看板の文字をそのまま守ってたのか?」
「…、そうです…」
「生真面目だな。まぁ、次の機会には多少喋ってみたらどうだ。もちろん敬意を払ってだが。どうやら女王陛下はお前さんに悪感情がさなそうだしな」
…ロイヤルな方と何を話せばいいのかはさっぱりだ…。とても私ごときに話し相手が務まるとは思えないが…。
「…で、だ。陛下のお許しも出たからには、例のやつも見せなきゃな」
例のやつ?と首を傾げた私の耳に、――――ぴよ!と、その声が聞こえた。
前方に、ピンクの小さな姿。
私は、駆け寄ってきた雛をしゃがんで受け止めた。
鳴き声は明るい。恐怖も痛みもなさそうだ。抱き上げてよくその体を見る。…怪我もない。
もう一度しっかり目を合わせて…雛が元気に鳴くのを確認して…。
…、…よかった、無事だ!
小さい体をちゃんと抱えた。ぴよぴよと耳元で嬉しげな声がして、安堵に思わず表情が緩む。
保安官を振り返る。
「この子を保護してくださって、ありがとうございます」
「…無事だと言っただろ。まぁ現場にいた…参考人みたいなもんだしな」
「成り行きですが一時的に預かっていたんです。無事に親御さんの元まで届けなくては」
「…そうか」
「貴方が発見してくださらなければ、あそこでずっと、ひとりぼっちで不安だったと思います」
「…そうか…」
私はご機嫌な雛を抱え、感謝を込めて相手を見た。
「ですから、保安官さん。本当にありがとうございました」
「…どういたしまして…」
なんか…相手は物凄い形容し難い雰囲気だ。不味いものを口に入れたような…というのはちょっと違うか…?…ブラックコーヒーだと思って口にしたものがお汁粉だったみたいな…いや、どういう感情…???
…彼はやや頭を振った。微妙な雰囲気は霧散する。
「陛下の話は聞いてたな。俺たちはエレベーターの修理を仰せつかった。…たった今から俺たちはバディってわけだ」
「―――はい。ええと、貴方を何とお呼びしたら…」
「よせよせ、堅苦しいのは無しだ」
保安官が軽く手を振る。
「俺はシェリフ。シェリフ・トードスター。敬語もいらんし好きに呼べ」
おどけた様子で手が差し出される。
「よろしく頼むぜ、
私は彼を見つめた。躊躇なく私を相棒と呼び握手を求める、親しみやすさの奥。何か、確かな冷静さを感じさせる、その瞳を。
私は差し出された大きな手をゆっくりと握った。
「わかった。…よろしく、シェリフ」
P1:ひっ捕らえられたが、釈放。警戒心はそこそこ。
雛:気配に敏感。元気。
カメとカメレオン:はさまった。ふと我に返ったとき、彼らは後ろ足が地面につくようになっていることに気が付く。
保安官:この度の仕事で、ちっこいのと中くらいのを拾った。中くらいのは野良だったので、慈悲深い上司にお守を任された。
女王:子を抱える母であり国を統べる王。人間の親にほのかな共感を抱く。
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注意喚起
次話以降、以前に増して捏造会話が増える。ストーリーの大筋は変化なく進行する予定だが、原作準拠であることに重点を置く方は注意されたし。
相も変わらず、本作はこまけぇこと気にしない人向け。