気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 1つ目のエレベーターの部品探しをベンチレーションセクターで行う。部品がある管理室へ向かうため、扉を開錠する手立てを探す。周囲の探索をする最中に道化師に襲われるも、保安官の救援もあり撃退に成功。扉が開き、管理室へ向かう。



25 Preconception

 

 

 進み入った先は…灰色のメタリックな空間だった。排気口通路というだけあって、ダクトが規則正しく大量に並んでいる。薄暗い入り口の横の壁に、白い、手書きのメモ…?

 

 『危険を察知できる』という文字と、これは…雛の絵?すぐ横に、くちばしと左右反転した音符…イコール…感嘆符…。

 

 

 …、…。幼稚園へ来てからたびたび見る特徴的な音符のマークを見つめる。

 ともかく、これは、雛が危険な存在に気が付いて声をあげる、ということで良いのだろうが…。

 

「…『危険』とは…さっきの道化師?」

 

「いや?違う奴だ。―――どうやら尾けられてるな」

 

 思わず周囲を見回す。

 

「ここらにある排気口は相互に接続されていて、奴っこさんは完璧な罠を張ってるらしい」

 

 顎に手をやって考えつつ、彼は視線を寄こした。

 

「…まぁ、お前さんはもう検討がついてるかもしれないが。どうやら蜘蛛の糸のような罠を探し当てる方法はあるようだな」

 

 2名分の目に見つめられた雛は、ぴよぴよと元気に鳴いた。

 

 話し合いの結果私が雛を抱えて進むこととなった。『お前さんが抱えてた方がこいつも大人しいだろ』、とはシェリフの言葉だ。…信用と受け取ろう。シェリフの両手が開いている方が有事の際も便利だろうし異論はない。

 

 とりあえずまっすぐ進み…ダクトが左右に並び立つ通路を進んで数歩で、雛がひと声鳴いた。すぐさま立ち止まって雛を見つめる。…ふる、とその体が震えたので、速やかに一歩下がった。

 …、…。一旦戻って、右手の通路を…鳴いた。シェリフと互いに目を合わせつつ、道を戻る。

 今度は左手側の通路を進む…慎重に…進んだが…特に雛は鳴かなかった。

 

 

 ―――なるほど。こう進むのだな。

 

 

 勝手が理解できて、慎重かつ確かに一歩ずつ進んでいく。それにしても、とダクトとダクトの間でいったん立ち止まりつつ、腕の中の雛を見つめる。

 これ、この子は結構…かなり…怖いんじゃなかろうか。

 

 労いと感謝を込めつつ、その頭や体を撫でる。ちょっとは緊張が和らげばいいのだが…。表情は…やっぱりわかりにくいが、過度な疲れは今のところなさそうだ。

 

「…ありがとう、ごめんよ」

「ぴよ?ピヨ」

 

「…、…。お前さん、随分とそのちっこいのと仲が良さそうだな」

 

 横から聞こえた声に、思わず腕の中の存在を見る。

 

「雛と?仲が…いいなら、嬉しいけれど」

「ぴよ!」

 

「…オピラチックは確かに、無害ではあるが…」

 

 顔を上げて私は彼を見つめた。

 

「―――オピラチック?この子が?」

「あ?ああ…誰かがそう呼んでるのを聞いただけだが」

「ええと、オピラの雛である6匹全体をそう呼ぶ?それとも、単体で?」

「あー…どうだろうな」

 

 私は抱き上げた雛と目を合わせた。

 

「―――君、オピラチックというのか」

 

 私の手の中の小さな命は首をかしげて、ぴよ、とひと声鳴く。

 うーん…、…?

 

「もし私の言葉がわかるなら…『はい』のとき、ぴよぴよで、『いいえ』のとき、ぴよっていうのはどうだろう?」

「ぴぴ ぴよぴよ」

 

「君はオピラチック?」

「ぴよ ぴよ」

 

「君達はオピラチック?」

「ぴよぴよ ぴよぴよ」

 

「君をオピラチックと呼んでいいかな」

「ぴよぴよ?」

 

「君のお母さんはタルタバード?」

「ぴ…、ピヨ ピヨ!」

 

 うーん???話は通じてるような通じてないような…受け取り手の私側がうまく判別できてないか?

 コミュニケーションを図ろうとする我々を、しばらく眺めていたシェリフがため息をついた。

 

「名前ってのはそんなに大事かね…どう呼ぼうがそいつはそいつだろう」

 

「うーん…この子らはどうも兄弟とそっくりなので…判別はできたほうが…。あと、意思確認ができたのならその方がいいし…」

「ぴよ?」

 

「…、…。…それが、わかったところで…」

 

「…うん?」

 

「あー…いや、いい。仲は良さそうで何よりだ」

 

 何か言いたげな視線と目が合ったが、シェリフは首を振ってやめたようだった。代わりに、彼は雛を覗き込む。

 

「まぁ…、よくやってるぜ、ちびっこ。星を何個かやってもいいくらいだ、無理せずその調子で頼むぜ」

「ぴよ!」

 

 わしゃわしゃと撫ぜられた雛は元気に鳴いた。

 なるほど、元気を出してほしい時には謝罪より称揚だな。私に足りない視点だった。

 

 なんだかんだいって雛もリラックスした様子となり、私の当初の目的も達成された。雛の名前と意思疎通法に関しては確証がもてないため一旦置いておくことにしよう。

 

 雛の声を頼りに、私たちは一歩ずつ道を進んだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 問題なく奥の部屋へと辿り着いた。落ちていたビデオテープを回収しつつ、扉を開けて中へ入る。

 

 小部屋の壁には、モニタがいくつも並んでいる。『System Operable』と三本線(おそらく風のマーク)が緑で表示されている。

 

 …近くの机に資料を発見。一応読んでおく。

 Hey、と気さくな挨拶から始まるこれは…手紙、だ。

 

『下層輸送チームが数日以内にここへ来ると連絡があったから、彼らが来るまでは連絡をやめておくのが最善だと思う。誰かがこの手紙を見つけたら、私も君も終わりだからね。

 私たち2人ともがマークしていない候補者を外した結果、候補は3つになった。これは私たちにとって重要な決断だ。後戻りはできないから、よく考えて選択する必要がある。

 管理者がこれらの低下層をそのまま放置しているのは奇跡的だ。私たちと同じように、子育てという素晴らしい贈り物を否定されてきた人々にとってはチャンスが多すぎる。

 下層輸送チームが立ち去ったら、私たちは、この酷い状況を抜け出してより良い生活を送ることができる幸運な生物がどれなのかを、選ぶことができる。

 私の個人的な好みは、複数の言語を話せる存在だ。それは極めて困難な人生を少し楽にするだろうからね』

 

 …、…。さらっと読むべきもんじゃない気がする。とりあえず、更新番号12にあった謎単語『LLTT』は『Lower Level Transport Team(下層輸送チーム)』の略称だとわかったのは良しとして…。

 …、…。この手紙でやりとりしていた2人組は、周囲から隠れて何かを選別していたらしい。何か、というのは恐らくここで作られた生物で、彼らはたった1つの幸運な存在として選んだものと一緒に逃げる算段だった…。きっと、その存在を子育てするようなつもりで。

 この手紙の時点で候補は3つに絞られている。手紙の主は逃亡生活を考えて複数の言語を話せる存在が好みだとあげているようだ…多分…。

 

 …、…ちょっと穿ち過ぎた読み方だろうか??でもそうなんだったらその方がいいまであるな…。この2人組がウスマン・アダム氏とW・メイソン氏なんだとしたら…闇が深いぞ…。

 

「相棒、こっちだ」

 

 周囲を見ていたシェリフが手招きで私を呼ぶ。

 私は報告書をポケットにしまってそちらに向かった。

 示す先には『一時停止ボタン』だ。持っていた紫のキーカードにそれは反応した。―――モニタが『System Inoperable』と✕マークの赤文字に変化する。…これ、ほんとにやって大丈夫なやつ…?

 

「換気システムが止まったな。これで、俺たちを追ってきていた奴もダクト内を自由に動けなくなっただろう」

 

 頷きつつ、開いた棚から歯車を回収する。シェリフの話によれば、これがエレベーターに必要な3つの部品のひとつだ。

 

「戻って、部品がちゃんと合うか確かめるとするか」

「わかった」

 

 シェリフを追って部屋を出ようとして、ふと壁の手配書に気が付いた。今までのは一目で誰が描かれているのかわかったのだが…目の前のこれは…誰だろう?

 頭の形が特徴的だ。ハンマーヘッドシャーク…シュモクザメ…みたいな…?でも目の位置がシュモクザメとは異なるな…。

 

「―――行くぞ相棒?」

 

 ダクト前で立ち止まったシェリフに呼ばれ、私も小走りで部屋を出て彼に追いつく。止まらず通路をそのまま進もうと、

 

 

 

 ―――ピヨ!!!と甲高い、声が響いた。

 

 

 

 息をのんで、私は視線を走らせた。すぐそこにいるぎょっとした表情のシェリフと目が合い、私はとっさに、雛をそちらへ投げ―――

 

 

 る、前に私は引っ張り倒されるようにダクトから離された。

 目の前すれすれを青い影が横切り、音を立てて反対のダクトへ突っ込む。先が封鎖されていたのか、青い影は再び外に飛び出して、配管を伝って天井へ向かい…、…音は遠ざかって行った。

 

 心臓が早鐘を打っている。首根っこを捕まえられて後ろに倒れたまま、私はしばし放心した。

 

「…ひな…けが…ない?」

 

 お腹に抱えたままのその存在を見る。

 雛はこちらを一生懸命見上げてぴよぴよと細かに鳴いた。

 

「ごめん、君を危ない目に…」

 

 いや…驚いた。完全に油断していたので心臓が止まるかと思った。青い彼がダクト内を自由に動けなくなったのだとしたら、まだそこに居るのは当たり前だ…。大慌てで何とか帰ろうとしたに違いない…。

 

 私は長く、息を吐く。その間に、後ろから引っ張り上げられて上半身が起こされた。

 ああ、お礼を言わねばと振り返った先に居たのは、じっとこちらを無言で見やる保安官である。

 …、…。

 いえ、あの、迂闊だとおっしゃりたいんですね?システムが止まったと聞いたのでもう大丈夫だと勝手に、はい、すみませ…

 

 

「―――そいつはお前の子どもじゃない」

 

 

 は?と意味を理解するために思わず固まる。動きが止まった私をどう解釈したのか、彼はぐっと真面目な声で続けた。何に怒っていらっしゃる…?

 

「いいか。そいつを自分の子どもの代替にするな」

 

 

 …??…――――!?!?

 

 

「―――ちが、」

 

「違わない。赤の他人を我が子と重ねて庇い立てて身を挺して守るんじゃねえ」

 

 いや違うんだって話を聞いてほしい。

 慌てる私の両肩に、落ち着かせるように保安官の手が置かれる。鋭い視線がこちらを覗き込む。…あ、違うな単に怒ってるんじゃなくて、これは、何か、義侠心というか、あるいは…―――義憤、か?

 

「お前が本当に守んなきゃならないのは、自分の子どもだ」

 

 

 …どうしたらいいんだこの空気を??

 

 

 非常に言いにくい。でもこの善意と危惧に、誤魔化しで逃げるのは…違うだろ…。

 私は迷った末に汗をかいて誤解ないよう端的に答えた。

 

「…イイエ…私に子どもはいないです…」

 

「―――…あぁ??」

 

 素っ頓狂な声が空間に響いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「…つまり…お前さんは別に子持ちってわけではなくて…それどころか別に知り合いでもなんでもない子どもを探しに…地下に潜ってきたってことか?」

「…ハイ…」

 

 横に座って話を聞いていたシェリフはやや考えた。

 

「…なぜ…?」

「ハイ…当然の疑問です…」

 

 私は小さくなる。スティンガーフリンとの会話時も思ったが、進むに当たっての動機が…弱すぎる…。なんと説明したものか…。

 シェリフは、どうもちっとばかり若いと思った、親じゃねえとは、と独りごちている。

 抱えている雛の無垢な瞳が私に刺さる。…そうだね不審者だよね…。

 

「ピヨ?」

 

 三角座りでぐるぐる考え込む私を見て…シェリフはしばらくしてから息を吐いた。

 

「…まぁ、言いたくないならあえて聞かねぇが」

 

 シェリフは立ち上がった。

 

「言いたくない訳ではなく…うまく説明できる自信がなくて…」

「そうか。無理に聞かないし別に言わなくていい。敵側に組してないってのが重要であって、それ以外のお前さん側の事情は知ったこっちゃないしな」

 

 び、と見えない線を引かれた、気がした。―――立ち入らない、立ち入るな、と。

 

「…。お前が、そのちっこいの自体をちゃんと見て守ってるなら、別にとやかく言わねぇよ」

 

 私は彼を見上げる。

 

 それは…どういう心情だろう?雛を我が子の代替とすることに怒りを覚えていたのなら、彼は雛の心配をしていたのだろうか。いつか本当に想ってはいないと私に裏切られることになるから?

 しかし、あの真剣で危惧する瞳は、私にも向かっていたと感じる。我が子が手から遠く離れて動揺する親を憐れんだのだろうか…。

 

 …『知ったこっちゃない』にしては少々…。

 

 …、…。いずれにしろ、と思う。

 

「優しいね、シェリフ」

「あ!?今の話でどうしてそうなった?ちゃんと突き放したよな俺は??」

 

 やはりと言うべきか、つまり意図して距離をとろうとしているんだな貴方は?

 私は微笑んだ。かつて受けた仕打ちゆえに警戒しながら…あるいは敵かもしれないと線引きをし続けながら、どうにも冷酷に徹しきれない相手に。

 

「後、一応確認だが女王と話した時なんで親じゃないと言わなかった?」

「…口を…開いちゃいけないと思いました…」

「…そうだったな…。後でしっかり訂正しとけよ」

「…ハイ…」

 

 そのちゃんとした所も非常に信用できるので、是非そのままでいてほしい。

 

 




P1: どストレートに好感度が蓄積していくタイプ。相手を信用する条件は単純。話を聞いてくれる相手はもれなくいい人だと思っている。

保安官:思い込んだら直線。理不尽と裏切りに怒りを覚える。なぜか拾った野良に懐かれ出した気がする。度々人間というものへの解釈違いを起こしている。

雛:「是」と「非」くらいの判別ができる。

青いクモ:隠れて様子を伺っていたが急に近づかれるとびっくりして飛び出す。突然移動ができなくなり慌てた。
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