気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 赤い例の彼の回復を待つ間、橙のクラゲと会う。全力の謝罪は受け取られたが、蟠りは解消されず。再び精神世界に誘われ、なぜか青いクモと友情を築くための閃きを得る。橙のクラゲに今後の提案を試みるも失敗、機関車型の謎生物に強襲を受けた後、爆発オチで精神世界での意識は途切れた。



28 Barely passed

 

 

 気が付いた時、私は見覚えのある場所にいた。

 

 …、…元の部屋だ…また放置されたらしいな。

 思わず振り返ってスティンガーフリンを見る…が、彼は目を閉じて動かない。

 

 …、…。眠っている…?

 そうっと近づいて声を掛けてみるが、反応はない。まだ彼は精神世界にいるのか?それとも睡眠中?

 …ついでに非常に今更だが、彼に見せられる幻覚の中の登場キャラクターは私の想像したそれなのだろうか。それともスティンガーフリンの?私と話をしたウスマンやナブナブは、めちゃくちゃ精巧な演算…ということ?

 うーんと私は首をかしげる。あるいはもしかすると、彼によって眠らされた者が複数いる時は、その世界を共有できるのだろうか…。

 いずれにせよ、現在の所は詳細が不明だ。こっちでもちゃんとナブナブと友達になろうと改めて伝える必要があるだろう。

 

 スティンガーフリンに反応がないため、私は周囲を探索することにした。…ビデオテープを発見。それから、奥の扉は…残念ながら開かない。

 睡眠の邪魔をしないよう、静かにその場を後にする。

 

 廊下に出て、ウスマンの様子を見ようと部屋を伺うが――――いない。

 私がスティンガーフリンに幻覚を見せられている間に、回復して駅に向かったのかもしれない。

 …すぐ隣の全く動いていないセリーヌも確認しつつ…急がねば、と私は速足でそちらへ向かった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「遅かったね、待ってたよ。…スティンガーとの話は大丈夫だったかい」

 

 予想の通り、ウスマンの姿は駅にあった。

 

「待たせてごめん。彼に謝罪した後にちょっと夢を見ていた…」

「ああ、アレか。…何か見せられた?」

 

 何かっちゃ何かだが説明が難しいな…。

 私は曖昧に頷く。…しかし、大切な気付きを得たのは、確かだ。

 

「うん、得難きを教えてもらった。貴方はもう体調はいいのか」

「…ああ、問題ない」

 

 彼は何か言いかけたようだった。しかし、私が近寄って彼を見上げると口をつぐむ。

 視線が注がれている…。

 

「…ええと?」

「…いや。次のエレベーターの部品は、2つ目の駅にあるはずだ。フィーディングセクターだね、さっそく向かおう」

 

 彼の後を追って、同じ車両に乗り込んだ。ボタンを押そうと頭上に手を伸ばす…がひょいと隣から赤い手がそれを押した。高いところにあるので助かる。

 

「ありがとう」

「いや」

 

 …、…やっぱりなんか視線を感じるな…。見上げて首をかしげると、彼はやや逡巡した様子の後、口を開いた。

 

「…僕はまだ、自分のことをちゃんと話していなかった、と。君に名を聞かれて、やっとそのことに気が回ったよ」

 

 彼はゆっくりと言葉を続ける。

 

「僕は…この場所で働いていたんだ。全てが文字通り――そして比喩的にも――音を立てて崩れ落ちる前にね」

 

  …、…ボールピットの大崩落。この幼稚園施設が崩壊する契機となったのは、やはりそれなのだろうか。

 ふ、と彼の視線が私から外れた。

 

「君がここで目の当たりにすることになったものについては…とても想像が及ばない。僕と同僚たちはもっと早く声をあげるべきだったし、恐らくその時点で、全てを阻止するべきだった。…とはいえ、ここの所数か月僕と同僚とは仲が良かったとは言えないから、そうするためにはかなり良いプランが必要だっただろうね」

 

 落ち着いた声が、ぽつりとそれを告げる。

 

「―――理由もわからず、突然、友人に敵意を向けられたことがあるかい」

 

 …私は静かに首を横に振った。彼は頷いた。

 

「そう、だろうね。…敵意、というのは僕にとっては控えめな表現だ。同僚たちは突然僕と会話をしなくなった。彼らが僕に向けたのは…怪物か何かを見るような目だったよ」

 

 黒い瞳は揺れた。

 

「僕は時折怒りっぽくなる、それは確かだ。でも彼らのあの目は…そうにしては過剰だったと思う。少なくとも、僕は今もまだ…混乱しているんだ…」

 

 声色は冷静だ。だが、彼の強い混乱を言葉で感じ、私は静かに頷いた。

 今の発言においては、彼の記憶と認識は人間であるウスマン・アダムと連続しており、動くマスコットキャラクターになったという自覚がないように思われる。ところが以前、彼は私に『僕の姿を見たら信用しなかっただろう』と発言していた。…少なくとも彼は自身の見た目がなんらかの異常性をもつことを自覚しているはずである。

 …でも、きっと、認めてしまいたくないのかも、しれない…。

 

「―――到着したね。こんな話をして君こそ困惑しているだろう、すまない。行こうか」

 

 ひょい、と彼は先頭車両にいたカボブマンを背負った。そのまま歩いて行こうとする。

 私は慌てて彼を追いかけた。

 

「―――彼…カボブマンを連れて行くのか」

 

「必要だからね」

 

 …必要だから…。

 さらりと言われた言葉に思うところがあって、私は彼を見上げる。

 

「…貴方のことを話してくれてありがとう。…ずっと聞きたかったことが一つある」

 

「―――なんだい?」

 

「貴方の目的だ。貴方は子どもたちの捜索に協力するといってくれたけれど、私は貴方の力になれるだろうか」

 

 彼は足を止めた。

 

「…、…僕は、」

 

 いくらか言葉を探すような時間が開く。

 

「―――今よりこの場所の状況を良くしたい。現在のところ僕らは…最悪の一途を辿っていると思う。人が消え、ほとんどすべてが放棄されて…新たな供給が見込めない…。僕も含めてここにいる全員が、このままだといずれ、滅ぶ」

 

 彼の瞳は、前を向いている。

 

「なんとかしたいと、そうずっと、考えている」

 

 ……。

 てっきり、彼はどこかに居る誰かを助けたいのだと思っていた。

 彼は、私に「自分の子どもを探しに来たのだろう」と言って、「それに協力できる」と言った。「子どもを探す」という目的が自分の目的と相反することはないとわかっていたわけだ。…あるいは「相手の目的なんて全くどうでもよいので協力する態で適当を言った」可能性もなくはないが…そっちは一端横に置いておこう。

 「子どもの救出」と矛盾しないだろう目的…それとほぼ同義か、一方の目的の過程でもう一方が達成可能である目的。得た情報を思い返す。

 スティンガーフリンに匿われただろう3名。『大人をどうするかはさておき、少なくとも一人は正気で』という台詞。ウスマン・アダム氏とメイソン氏の関係と、その記憶を引き継いだCace6がメイソン氏と面会を望んでいたこと…。

 

 今まで読んだ資料から、彼は…子どもと一緒にいるだろうメイソン氏を助けたがっているのかもしれない、となんとなく思っていたのだが。

 

 ―――この場所の状況を、より良く、か。

 

 施設内の者の滅びの回避と、それから子どもの救出。…それが彼が考える『より良い』であるならば。

 

 私は隣の彼を見つめた。彼の口から目的を聞いた今、改めて思うが、なるほど。

 

 

「貴方の目的に協力したい」

 

 

 黒い瞳が私を見る。

 ―――その願いは、きっと私の進みたい道と矛盾しない。

 

 

「これまで力を貸してくれてありがとう。…私も、できることなら貴方の力になりたい」

 

 しばしの沈黙の後、彼はそわり、と視線を彷徨わせた。

 

「…、それは…願ってもないこと、だ。ええと、…何というべきかな。嬉しいよ」

 

 一度持ち上がってこちらに伸ばされた右手が、逡巡したように引っ込みかけた、ので、私はその手を捕まえた。

 

「これからも、どうかよろしく。ウスマン」

「―――うん…、よろしく」

 

 握った手は大きくて私の手からはみ出す。両手で握った。…まだ余るんだが?でっかい。この矮小な手でどこまでできるかわからんが精一杯やろう。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 決意も新たに、ピンクの壁の部屋を進む。今更だが『フィーディングセクター』って何だろうか。えさやり…。ジバニウム缶がいっぱいあるとか?

 

「―――待って。伏せてくれ」

 

 ぱっと視線を左に向けた彼がそのまま床に屈んだ。意味の分からないまま、しかし素早く姿勢を低くする。

 

「…何か…?」

「―――もうじき来る。なるべく音を立てないように」

 

 地面が揺れる。低い、地響きのような音が、私にも聞こえ始める。

 

 

 我々が居る橋のような通路の眼下。向こうの暗がりから、それは現れた。

 緑の巨人、ジャンボジョッシュだ。

 

 …彼もこの階層に降りてきたのか!

 

 息を殺して見つめる先で、ジョッシュはゆっくりとフロアに進み入ってくる。視線は中央に設置されたテーブルに固定されていて、今の所こちらに気が付く様子はない。

 

 彼はテーブルの上にあるものを、首をかしげてよく見ていた。

 

 …、…どっかでみたことあるブロッコリー擬きだ…。

 

 野菜が好きだという事前情報に違わず、彼はすっかりそれに目を奪われている様子。

 ゆっくりと緑の手を伸ばし―――それに触れたとたん、何かが彼の足を捕らえた。

 

 別方向から飛び出した縄のような何か。

 素早く片足に巻き付いたそれに、彼はバランスを崩す。

 

 驚愕からか、短い声があがる。しかし、相当の重量があるはずの彼は、あっという間に暗闇に引きずられて行って見えなくなった。

 

 …、…。

 数秒のうちに完遂された捕縛に私は言葉を失った。

 スティンガーフリンとのゴタゴタのときに必要だった、考え得る限り最もスマートな方法が今ここで行われた…。

 

 ウスマンが立ちあがった。

 

「―――あれは保安官が最近仕掛けた罠に違いないだろう」

 

 そうでしょうね…。あと多分、私がひっ捕らえらえた時も今の要領で『餌』としてリモコンが使われたと理解する。

 

 

「可哀想に、ジョッシュ…。彼が今どれ程混乱しているかは想像できないな…」

 

 そうだね…。私はジャンボジョッシュに起こった今までの出来事を思い返す。

 エレベーターに押し潰され…何とか抜け出して這いずっているうちに下に落ち…治療を受けて、動く玩具を追いかけて捕まえるが、ちゃんと確認してたのにいつの間にかいなくなってて…探してたら赤いのに張り付かれて殴られるし橙のに止められるし玩具にはなんかデカい声出されるし…それで好物を見つけて食べようとしたらなんかに捕まるし…。

 

 …、…控えめに言って散々では…???

 

 彼に大きな声を出した手前、非常にバツが悪い。今度会ったら最大限優しくしよう…。

 

 

 

 

 通路を進むと、開けた空間に辿り着いた。ウスマンは扉の前で立ち止まり、首をかしげる。

 

「以前、ここの扉は開かれていたはずなんだが…まぁ、開けるのはそれほど難しくないはずだ。少し周囲を見てみよう」

 

 

 私はあたりを見回した。…謎のボタンが壁に設置されている。縦横4×3列の計12個でひと塊のボタン。それが左右に1つずつ。

 押すと緑に光るが、現状ヒントらしきものはない。

 ―――近くのオレンジの扉は…持っているキーカードで開いた。

 ウスマンを呼ぶ。

 

 扉の先、かなり長い階段を降りると…紫とピンクの左右2色に塗り分けられた空間に辿り着いた。

 壁には見覚えのある2頭一体のイラストと、『安全にやれば、君はOK!』との文字。

 …。OKの文字は露骨に4×3の点で示されている。

 

 とりあえず目の前の扉を開けようとスイッチに触れてみる。

 扉の上部、右側のドローン用スイッチが点灯した。赤いそれはドローンで押すと…扉上部左側のスイッチも赤く点灯する。…。これ左右のスイッチを分ける意味あるか?やたらと左右に分けたり二分割にしてないか?

 

 …扉の先に見えた部屋には…変わった天井の形とドローン用スイッチ、そして黄色いバッテン印が見える。

 ドローンを使ってボタンを押す仕掛けのようだ。

 奥に見える棚は…周囲のランプを見るに、恐らくドローンで押せる4つのスイッチ全てを押せば開かれると思われる。

 

 よし、任せてほしい、と私はリモコンを握った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 …。…。

 

 周囲の探索を、と一度部屋を出たウスマンが再び顔を出した時、私はまだドローンの操作と格闘していた。

 一旦私を見た黒い瞳は、散歩しては壁にぶつかるドローンをしばし観察する。

 

 …ええと、とウスマンが口を開く。

 

「…手伝おうか…?」

 

 …、…。

 

 正直に言うと…やり遂げたい…だって任せてほしいって言った仕事だし…。

 …隣に居る彼を待たせてさえいなければ、だが…。

 

 …、…。

 涙をのみ、私はリモコンを彼に献上した。

 

 

 

 

 ドローンをあそこに行かせてそれからこうしたい、と伝えると、ウスマンはひょいとそれを成し遂げてくれた。あまりにスマートにやるので嫉妬心すら抱かない。完敗だ。

 

 棚は見事に開いて中からオレンジのカードを獲得する。

 手に入れたそれをウスマンに駆け寄って差し出す…が、一瞬の空白の後彼は首を横に振った。

 

「君が持っているといい」

「…いや、貴方のものだと思う」

「危機的状況の際の逃走に使えると考えると、君が手にしておいた方が…君から一度は全部奪っておいてなんだという話だけど…」

「いや、気にしてない。それに、どう考えてもこれは貴方の手柄だ。私は何の仕事もできていない」

 

 ふむ、と彼は口元に手をやった。

 

「―――ではこうしよう。僕は上のスイッチの答えに見当がついたので、先にそれを試している。君はその間に、そのキーカードを使って、周囲の探索を進めていてくれ。…どうかな?」

 

 ―――わかった。手伝ってもらった分を別に働けるなら気が済む。私は頷いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 階段を上るウスマンを見送り、私は探索を再開した。

 

 ピンクの壁の方向には、扉が一つある。

 木の柵やら花で飾られた扉前の雰囲気は…これまでの部屋と随分異なる印象だ…。

しゃがみこんで花が植わったプランターをよく見てみる。

 …生花ではない。環境を考えるに、それもそうかもしれないな…。天井の明かりがドピンクなので色はわかりづらいが、何種類かある…。設置者のちょっとしたこだわりやセンスの意識を感じるつくりだ…。

 私は謎の円形ゲートみたいなものに囲まれた扉の上部を見つめる。描かれているのは道化師、ビターギグルの姿だ。すると…ここは彼のミッションがある部屋だろうか?

 

 …、…。またいきなり現れて襲われたりするだろうか…?

 周囲を見回したあと、私は扉の穴からそうっと中を覗き見る。見えた室内は…すでに猛烈に怪しげな雰囲気がするが、それはそれとして室内に動きは…特に見られない。耳をそばだてるが音も聞こえない。誰かの気配はなさそうだ。

 

 床に落ちている紙を発見。読んでみる。手書きのメモだ…。

 

『ここに来るなんて何を考えていたんだろうか。ロッカーか、隔離された部屋かどこかに隠れればよかったのに…。

 でも、私は満足している。私がここで死ぬとき(それはもう時間の問題だと受け入れた)少なくとも私の心は楽になるだろう。何週間も眠れなかった問いに対する答えをついに得た。

 ようやく、ここに何があるのかが分かったんだ。そして、これを目撃した後、奇跡的に生還できたとしても、二度と安心して眠ることはできないと考えると、ここで死ねることに満足している。

 この施設がGvについて調査する目的で雇った者が何であれ、従業員が巨大な粘土生物に食べられるとは考えもしなかっただろうな…』

 

 …、…。書き手は従業員が消える謎について、何かを目撃し、答えを得たようだ。

 

 …、…。危険が…あるっぽいなぁ…。

 捕食されるかもしれない、と考えが及び、しかしシェリフは『食べられはしない』と言っていたと思い出す。いや、『そのヘビは』と但し書きが付いたな…。この手記が単なる書き手の勘違いだったらいいが、そう楽観視ばかりもしていられない。なにせ、実験Caseは必要がなくとも飲食を行うと報告書で読んでいる。また、ジャンボジョッシュはあのブロッコリー擬きに引っかかったし、凶暴化したウスマンは膵臓を食べたがっていた。

 報告書によれば、彼らは生態的には食事を必要とはしないはずだ。栄養不足からくる飢餓によるものでないなら、何を目的として人を食べるような事態になるだろうか。単純な嗜好品として?あるいは狩りを娯楽として?仮に食べられそうになった場合、その目的達成のための代替手段を用意して、私を食べるのを見逃してもらえるようにできればいいが…。

 

 私は慎重に、扉を開けた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 ―――扉の先には、ナニカがいくつも置かれていた。

 

 聳える巨大な円柱型の水槽。中は、液体で満たされている。そこに浮かんでいるのは、体色が2つに分かれた…人型…。

 

 有体に言ってしまえばビターギグルの色違いだ…。

 

 ピンクと青緑のそれに瞳はなく、脱力した身体に意思は感じられない。隣の水槽には黄緑と紫の身体…頭部がない…。

 反対に目を向けると、また別の色違い。こちらは水色と黄色の胸から上の像で、瞳はあるが机に置かれている。動きはない。

 

 否応が無しに、「クローン」という単語が頭に浮かぶ…。

 

 …、…。ホワイトボードに文字が書かれている。

 

『なにもたのしくない…』

 

 涙を零す、ビターギグルの顔の絵だ…。

 

 言いようのない書き手の閉塞感を感じて、私はすぐそばに置かれた黄緑とピンクの頭部をじっと見つめた。近くに落ちている紙にも目を通す。

 

『練習が必要だ。そうすれば完璧になれるはず!

 ジョークリスト:

 ・カンガルーとクラゲと、ヒキガエルがバーに歩いて入っていく…それだけです。まぁ、実際誰も「歩いて」なんかいませんよ。

 ・クラゲはどうやって海底に降りて行きました?―――ジェリベーターで。

 ・カンガルーが手術することをなんといいます?―――ホぺレーションです。

 

 全部酷いな。ワタシの存在がジョークか何かなんです?』

 

 …、…。

 ビターギグルは…ジョークと笑顔を好むキャラクターだと聞いた。

 部屋のあちこちの様相が示す「行き詰まり」の感覚。

 

 異様に悲しい気持ちになってくる…。

 

 奥にある棚を調べる。開いた中にあったのは…王冠?

 重苦しい雰囲気のこの部屋の中で、それは何か毛色が違うように思えた。ピカピカと輝くそれを手に取り、不思議な気持ちで見つめる。

 

 

「―――ワァ。あなた」

 

 

 声が聞こえ、私は飛び上がった。振り向くと、目が合う。…置物だとばかり思っていた、黄緑とピンクの頭部が…喋っている。

 

「ここへ来て、ただワタシたちの物を盗んで、立ち去っていくわけですね?」

 

 滑らかな声が告げる。

 

「あなた方人間は皆そうですね。厚顔な泥棒。底なしの欲望で、たったの少しも制御不能」

 

 愉し気に謡うように目の前の彼は続ける。

 私は頭を下げた。

 

「―――申し訳ない。貴方がたの物を盗むつもりはありませんでした。お返しします」

 

「いいえ?ワタシたちの物と言いましたが、実際の所ワタシのものではありませんので。どうぞ持って行ってくださいな、全然気にしません。代わりにワタシの詩を聞いていってくれたら喜ばしいですね」

 

 不思議な言い回しだ。この部屋の中で、輝くこれは…一等大事に仕舞われていたと感じるが…。

 

「ええと、これは、宮廷道化師であったビターギグル…さんのものですか?」

 

「そうですね?そうでもありませんけれど」

 

 YESとNOで答えられる質問をしたのに謎かけみたいな物言いをしやがるぞ…。楽し気に彼は謡う。

 

「だって、それは未来の王様のものですからね。でも誰が被るんでしょう。自分じゃないからしまってあるんでしょうけど。ワタシたちは相応しい誰かに渡すため、ただ預かっているだけだと思いますね」

 

 …、…。私はまじまじと王冠を見つめた。中央にある3つの紫の宝石のデザインは…バウンセリア女王陛下のものとよく似ていることに気が付く…。

 

「女王陛下…バウンセリア女王のものでは、ない?」

「陛下はすでに王冠をお持ちですから」

 

 ふむ…未来の王様…。この国の王位継承権は何を条件として発生するのだろうか…彼らの生まれる過程を考えるに、単純な血統ではないだろうな…。…統率能力…とか…?

 

「ああ、でもやっぱりワタシたちのものかもしれませんね」

 

 穏やかながら悪戯っぽい声が笑う。

 

「―――だってワタシたち、『クラウン』と親戚みたいなものだと思いません?」

 

 

 …、…ああ、道化師(clown)王冠(crown)

 少々時間が掛かって合点がいった私は、頷いて拍手した。もしかして今までの謎かけみたいな話は、単なる盛大な前振りだった…?

 

 目の前の彼は、観客から得た反応を味わうようにしばし口をムグムグ動かしていたが、やがて首を(と、いうか頭部全体を)傾げた。

 

 …『なんかちょっと違うな…』という顔をしている…。

 

「まぁ、良いでしょう。詩を聞いてもらったのでもう行っていいですよ」

 

 物凄く手早く用済み宣言されたな…。私は王冠を元の位置に戻して棚を閉めようとし…

 

「持って行って良いといったでしょう。そういう時は貰っとくものですよ」

 

 私は中途半端に固まって彼を見つめた。

 

「ビターギグル…さん、はこれが無くなったら悲しむのでは…」

「手に渡るはずの相手には怒られるかもですが、悲しみはしないでしょう。それに、」

 

 謡う調子の彼は笑った。

 

「ここに帰ってきませんよ」

 

 …、…。

 

「我々は違うと答えを出したようなので」

 

 …、…。

 

 私はゆっくりと彼を見つめ…

 

「―――ソイツのいう事を気にしない方がいいと思いますね!」

 

 別方向からまた声が掛かって私は再び飛び上がった。

 …入り口近くの上半身の像がこっちを見て喋っている…。

 

「ただ自分の詩を聞かせたいだけ!まともに聞いちゃいけませんよ!」

 

 目の前の謡うような調子の彼とは違い、こちらは張り上げるような堂々とした喋りだ。

 

「さぁて、ではワタシは?―――アナタへ驚くものをご覧に入れましょう!」

 

 彼は腕を広げる。目の前の詩的な方の彼は「過度な期待はご遠慮を!」と小声で囁いた。

 

 

「マジックトリック!――――オ~~プン!!セサミ!!!」

 

 

 いつの間にか閉じていた入り口の扉が……音を立てて……開いた……!

 

 

 ―――やり遂げた彼はしたり顔をした。

 

「これは拍手喝采を浴びていいと思いますね」

 

 自信たっぷりの彼に、私は微笑み頷いて拍手をした。ポエムにマジック…彼らはアーティスト…芸人なのだな、と理解する。目の前の自信満々の彼は、なんというか、見ていて楽しくなるマジシャンだ。

 手品師の彼は、しばし観客から得た反応を吟味し―――…やっぱり『なんか違うな』と言う顔をした。…何故…??

 

 満足度60%みたいな微妙な視線の彼らは、互いを見て何か通じ合うものがあるのか頷き合っている。

 

 

 もう行っていいですよ、と手品師と詩人の2名に再び送り出された私は、妙に腑に落ちぬまま部屋をあとにした。

 

 

 




P1:芸術に関して造詣が深くない。よって素直に感心する性質。

橙のクラゲ:精神および身体的疲労により活動休止中。

赤い彼:対象となる変数の反応を観察しつつアップデート中。

緑の巨人:野菜が欲しかった。獲得はならず。

詩人:傾聴と陶酔が欲しかった。得たのは納得顔の拍手。

手品師:驚愕と喝采が欲しかった。得たのは微笑まし気な拍手。
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