気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
赤い彼と2つ目の部品を探して先へ進む。青いクモと遭遇、重要そうなものを奪われ追跡するが、諍いにより赤い彼が凶暴化。青いクモは気絶。赤い彼は直ちに沈静化したものの、動けない様子。しばらくその場にいることを余儀なくされる。
「僕は、この辺りでいくつかやることがあるから、君は先に進んでほしい」
いくらか時間が経って―――壁にもたれたウスマンは、穏やかな声でそう言った。
声色は平気そうだったが、心配は残る。医務室へ行く提案をし、肩を貸す、と言っても相手は大丈夫だと言うばかりだ。その「やること」とやらの手伝いも申し出たが、彼は首を縦には振らなかった。
「大丈夫だから、ほら、パーツを持って行って、女王陛下に報告しておいで」
なんで私が宥められているみたいになっているのか。遺憾。無茶を通そうとしているのはそっちだ。
しぶしぶの態で部屋を戻る私は、扉の前で一度振り返った。…秘密主義らしき相手は座り込んだまま軽く微笑んで手を振った。ある種の頑なさを感じる。
…立てないのに「先に行っててくれ」か。まだまだ信用されてないかもな…頑張ろう…。
扉を出て進み、先程は疾走した通路に出た。
…、…。よし、いつまでも気にしていてもしょうがない。切り替えていこう。私は周囲を見回す。
急いでいたためスルーした飛び石のような足場だ。落ち着いた今見ると、足場を進んだ先になんらかのスペースがあることに気が付く。
…、…。重要な何かがあるかもわからない。一度見に行ってみていいだろう。私はそのアトラクションに挑戦することにした。
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…、…。
何事もなく…というわけでもないが、時間をかけつつ一応目的地にはたどり着いた。壁の文字を見るにここは休憩所…らしい?わざわざこんな位置に設置する意味は気になるが、周囲を探索し、ビデオテープを発見する。
鞄に成果物を仕舞いつつ、一体誰がどういうわけで施設のあちこちにビデオテープを置いているのか、とふと思う。置き忘れてしまったとか、落ちてしまったとか、あまりそういう場所ではないと思うのだが…。
思案しつつ道を進む中、ふいに何かの音が聞こえて私は顔を上げた。
低く長い、一定の音――――――。
前方通路。右手の暗がりの向こうに、灰色の何かが見える…。
速足で向かった先にその存在はいた。聳える巨大な灰色の顔。ふいにウスマンの台詞が思い出される。…『ゾルフィウスに会わせるために』…。
「――――――貴方だったのか…!」
声をあげた私を、彼…ゾルフィウスと呼ばれた灰色の巨塔は確かに見た。
彼は無言で佇むのみだ。
いや…なにか、悲し気な雰囲気でゆっくりと揺れている……?
…、…呼び出されたのにその場に誰もいなかった、という彼の状況に思い至った私は慌てて大きく手を上げた。
「ちょ、ちょ…っと待っててほしい今連れてくる…!」
来た道を急いで走って戻る。呑気に探索なんぞしている場合ではなかった…!
「う、ウスマン疲れているところ申し訳ないゾルフィウスが、」
―――駆けこんだ部屋には彼の姿はなかった。なんで?
ウスマンどころかナブナブの姿もない。いや、幸いにしてカボブマンはそのままの場所に居る!
彼のその細い身体を持ち上げる。
『オープンセサミ!』
…今レア音声を出されても!見た目よりいくらか重量のある彼を抱えつつ私は走る。
…、…。
大急ぎで元の位置へ戻った時、そこには誰の姿もなかった。方々からフラれた私は息を切らしてその場で膝に手を付く。
…、…ゾルフィウスに…申し訳ないことをしたな…。もうちょっと私が早かったら彼は寂しさを軽減できたのだろうか…。いや、ウスマン本人がそういうのを推察するのが苦手だと申告があったので、彼の言う通り本当にゾルフィウスが寂しいかはわからないかもしれない。(なにせウスマンは、Caseの抱える問題に対し、バンバン・ナブナブ・ゾルフィウスの3回とも「寂しいだろうから相応しい隣人をあてがう」という解決策を実行している)。
と、いうかゾルフィウスからすると2度も無駄に呼び出したように見える私の心証はだいぶ悪くないだろうか…。
『行儀よくしてないとバンするぞ!』
ごめんて。君を乱暴につれてきたのも悪かった。
カボブマンの肩を軽く叩いて宥めつつ、しばし呼吸と思考を整えて、数秒。
息を吐いた私はある疑問に立ち返る。うん、それで、なのだが。
―――ウスマンとナブナブ、どこ行った???
私は2名が消えた部屋に戻っていた。
まさか流石に合成されてはいないだろうとは思いつつ、彼らの手がかりが無いかと周囲を探索する。
改めて見ても何のための部屋なのかわかりにくい。壁際にはジバニウム缶。3つある机?には謎の点線が描かれている。私が寝ころんでもまだ余るだろう大きな机ではあるが、真上には天井から同程度の大きさのものが迫り出しているため、机上の空間は非常に狭い。…ビターギグルの身体には似たような線が…あったかもしれない…?いや、彼は実線だったかな…?用途不明の机の近くに、黄色のキーカードと報告書を発見する。
報告書のCase番号は9。更新番号は5だ。QRコードは、『aFPf』と表示された。
『前回の更新で述べた通り、Cace13の行動変容のため用いたGv溶液をCace9に適用し、適用以前に見られた原始的行動の排除を試みた。結果は良好で有望だ。
Cace9は夜行性の睡眠サイクル(これは遺伝子情報提供元を原因とするもので、研究を困難にしていた要因だった)を停止した。現在は二足歩行を可能としており、ヒキガエルのような飛び跳ねる移動法を完全にやめたようだ。
次の段階では、会話という概念を導入する。これについては、Cace9の遺伝子情報提供者である人間が英語を母国語とするため、時間はかからないだろうと考えられる。
Caceは発表の準備ができていない』
どうやら人間の遺伝子情報を適用することによって会話能力や二足歩行を獲得できるらしい。お手軽にヒトみたいな行動様式を入れ込めるようだが、同時に遺伝子提供元の記憶と人格も受け継ぐ…。手っ取り早く成果を得ようとすると、倫理観が滅されてろくでもないことが起こる予感がひしひしとする。
周囲を見回して、閉じられた黒いドアを発見。ウスマンはこの扉から移動したか、あるいは私の知らない通路や移動手段を知っていたのかもしれないな…。ナブナブは気が付かぬうちに天井やダクトを伝ってどこかへ行った可能性もあるし…。
私のような勘の悪い人間にはとんと見当がつかない。まぁ、無事なら別にいいんだが…と進む先で、奥のガラス張りの部屋の黄緑の棚が開いていることに気が付く。
あれ?と思いつつ、そういえばカボブマンがレア音声を喋ったなと思い至った。…え?彼、もしかしてそういう能力が??あるいはマジシャンの彼がしたように、「オープンセサミ」という台詞そのものに効力があるのかもしれない?
棚から得た黄緑色のキーカードを眺める。…どこかにこれと同じ色の開かなかった扉は…あったかな…?
――――長考の末、私は心当たりを一つ見つけた。とはいえ距離がある。ウスマンも見当たらないし、一旦戻ってエレベーターのパーツを届けることにしよう。
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「―――2つ目をもう見つけたのか?よくやったな、相棒」
シェリフは、部品が適合することを確かめて頷いた。
「またしばらく時間を潰してから、陛下に会ってこい。どうやらあの方はお前さんと話すのが楽しいみたいだからな」
そんなことあるか…?と思い掛け―――そういや陛下は、私を子どもを探しに来た親だと思ったままだったな、と思い至る。その恐れ多い共感は、誤解が続く限り私に寄せられたままだろう…。
「…、…。今度こそ…ちゃんと…告白します…」
「おう、まぁ、なんだ…頑張れよ?」
…、…。
シェリフ、と私は静かに声をかけた。もし、私に何かあっても…
「雛を…頼みます」
彼は…しばらく真顔で私を見て…首を捻った…。
陛下に真実を話して王国の敵認定されてしまう前に、大事なことは伝えておくべきだ。私はそばにいる雛にも、しゃがんで目線を合わせて言った。
「シェリフのいう事を良く聞いて、彼に守ってもらうんだよ…」
「ぴよ…?」
一応、といった様子ながら拒否された感じはない返事を聞いて、頷く。まぁ、彼のことだから私なんぞに言われるまでもなく雛を守ってはくれると思うが。言っといて損はない。…一説によると、出がけに「気を付けて」と言われるのと言われないのじゃ事故る確率が違うらしい…よ?
「…なんの話だ?」
「いつどうなるか分からないから、ちゃんと伝えておこうねって話…」
頼れる保安官殿は、やっぱり首を傾げた。
「お前さんのそれは、伝えるってより、自己完結の結論を投げてるだけじゃねえか?」
…、…。主張には説明が付随すべきというごもっともな意見だ。刺さった意見は痛すぎて、私は無言になった。その「説明」が上手だったら、陛下の前で私は堂々としていただろう。でも…でも、そうだな…。
「…わかった…どりょくする…」
えっと…せつめい…説明…。
「……その……たぶん……わたし、おとがめをくらうから、ふたりはげんきでね……」
「…、…そうは…ならなくないか…?」
「ぴよ」
突貫で絞り出した説明は、下手糞すぎて伝わらなかったらしい。
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だいぶ幸先が悪い感じにはなったが、私はシェリフたちと別れ、謁見の間が開くまでに周囲の探索を進めることにした。
時間のあるうちに、王国広場のテレビで、ビデオテープを見ることにする。
1つ目。映し出されたのは…人工の浜辺だ。大砲と宝箱のミッションがあった部屋を、高い位置から見下ろす視点。距離があって見えにくいが、ボートの一つに乗っかる橙色の姿が見える。スティンガーフリンだ。映像の彼は、周囲の物と比較しても、私と対して変わらない程度の大きさに見える。特に動きのない映像は、やがて途切れて暗闇になった。
…、…。これは一体いつの映像なのだろうか。ミッションがある部屋に彼がいる、というのは全く不思議ではない。彼に見せられた幻覚内でも、スティンガーフリンのサイズは映像と同程度の大きさだったと記憶している。しかし、アクアティックセクターにあった彼とのコミュニケーション設備は…明らかに巨大な彼と話をするための広さだった…。そんなに短期間で、運用する際のサイズが変化可能なのか…?
彼らの謎多き生態に思いを巡らせつつ、2つ目のビデオを再生する。
映ったのは…謁見の間。王座におわす女王陛下は足元までしか映し出されておらず、その表情は伺い知れない。彼女の目の前に跪く、2名の背が映されている。シェリフとジェスター…。
横並びのその姿を見つめる。彼らはなるほど、肩を並べる臣下だったのだな、と理解する。
…、…。現在彼らが袂を分かっていると思うとちょっと複雑な気分だ。宮廷道化師たる彼は、なぜ敵対することとなったのだろうか?笑顔とジョークが好きだった彼が、一時は仕えた陛下を狙って世界を滅ぼそうとしているのは、どんな理由から?
彼の部屋らしき場所で見たものを思い返す。自己否定と、行き詰まり…。
…、…今考えたところで答えにはたどり着かないだろう。私は黒くなった画面から視線を外して先に進むことにした。
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私はベンチレーションセクターに移動していた。
黄緑色のキーカードを使う場所…やはりあった、駅を出てすぐ、左手の扉だ。
キーカードで開いた扉の先にあったのは、…会議室?のような様相の部屋。
壁には初めて見るキャラクターが描かれていた―――いや?なんかどこかで見覚えが…。
やや考えて思い当たった。排気口管理室にあった、手配書の顔だ!
壁の絵をよく観察する。赤…というより紅色に近いかもしれない体色。特徴的なのは、その腕。4本の腕の先には、それぞれ異なった工具が描かれている。左手側に鋏、プライヤー、右手側に針、ドリル。
手配書を見た時はハンマーヘッドシャークのよう、と思った彼は、どうやら別に鮫ではないようだ。
『シリンジョン』の名前と吹き出し。
『誰かの傷ついた心の外科医となろう!』
…台詞通りに理解するなら、彼は患者のメンタルケアをも欠かさない優れた医師だ…。彼は…マスコットキャラクターたちの健康管理を担当していたのか?
横のホワイトボードには、緑の滴が描かれている。中央の滴に向って、八方の滴から矢印が出ている。『Cace27 Type6ジバニウムエントラップメント』…医療的意味ならば…『ジバニウムの締め付け』か?絵の解釈は、中央の滴を八方の滴がぎゅっと押さえつけているという事でいいのか。…なんのこっちゃ???
隣のホワイトボードには文字。
『締め付けの可能性:90%
逃走の可能性:0%
反射下の逃走の可能性60%
逃走時 管理者生存の可能性:未知数』
逃走という言葉から察するに、何かを捕縛・収容しようとしているように感じる。おそらく、ジバニウムの締め付ける力を使って。…、…その何かは、『いたずらっこ』達の可能性が高いか?
…、…。重要そうではある情報だが、核心に至るにはまだピースが足りない。私はそれらの写真を端末に収めて、部屋を後にすることにした。
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「…暇を、潰してこいって言ったよな…?」
「え、うん」
私は再びエレベーターの前にいた。謁見の間が、まだ閉まっていたので。…もう王国の広場は一通り見たし…もう一度探しに行ったのにウスマンもナブナブも居ないし…。仕方ないので、シェリフの作業を見学してるわけだ。
「…変わった暇の潰し方だな…」
そうだろうか?機械をいじっているのを見るのは…面白い。仕組みがわからなくとも、そのパーツがそれぞれどう動いてどんな役割を果たすのか、考えるのは楽しい。それらを操作する手元はさらに興味深い。
「……」
「……」
沈黙と、金属のぶつかる小さな音が続く。
「…、あー…、そういや、お前さん、気になってたんだが、」
静けさを破った声に、ぱっと私は顔を上げた。
シェリフはまだ手元に視線をやったままだ。
「前に、借りた荷物を見せろといった時…全部を広げたよな」
考え半分といった様子で作業をしつつ、シェリフは続ける。
「あれは…持ってる物全てが拾ったもんだったってことだ。―――お前さん、一体どうやって、どんな訳でここへ入ってきたんだ?まさか手ぶらだったわけか?」
…、…。
おや。
…、…。おやおや?
「知りたい?」
「―――は?」
シェリフは顔を上げた。私は…頷く。
彼は…自分が聞こうとしたことに今気が付いた、という表情をした。いや、勝手に引いた線を、踏み越えたのはそっちだ。良い機会でもあるので、言ってしまおう。
「気が付いたらこの施設に居た」
「は?」
もう一度、私は言った。
「気が付いたらこの幼稚園にいました」
「―――は???」
―――よし!あれからちょっとずつ考えて整理してきた説明の成果の見せどころだ。やっとこの意味わからなさを誰かと共有できるのでは?
私は、ある一点…ここが自分のやろうとしたゲームの世界の夢ではないかという事…
つまり、日常生活を送っていた自分は、前後の記憶なく突然この施設の上層の一室に立っていた、ということを。どうやって来たかわからないので必然的に家にどうやって帰るかもわからず、とりあえず目の前にある施設の謎を解こうとしている現状を語る。…話す間、彼は静かに耳を傾けてくれていた。意味わからん事情を話しても怒られないし正気を疑われないって素晴らしいな…。一旦は聞いてくれているという実感をもてて心から安堵する。
しばしの沈黙の後、顎に手をやって考えていたシェリフは口を開く。
「すると…なんだ。お前さんは、自分がどこから来たのかはっきりとはわからなくて…でもそのまま上の入り口に戻ったところで状況は進展しないだろうし帰れないから…しかたなく事態の解決法と帰り道を探して奥に進んでいるってことでいいのか」
考えつつシェリフの話を聞いて―――うん、相違がないと頷く。その通りだ。
「―――そりゃあ、お前さん。不法侵入じゃねえな」
静かに考えていた保安官が、言った。
「『迷子』って言うんだぜ」
…、…。
「…、…。あー…シェリフ?」
「なんだ相棒?」
「ちょっと大人と子どもと言う言葉の定義について話が…」
「あー、あぁ…なるほどな?いや、そうだな、相棒。いいぜ、迷子じゃない。そういうことにしとこう」
「ちが、ちょっと、きいてほしい話を」
成人のラインについて懸命に話をする私を、シェリフは相槌を打ってあしらい続けた。
選挙権があるなら社会的に大人でいいと思うんだが!!駄目か!?
「お前さんが大人だろうが大人じゃなかろうが、状況は一緒だろう」
「沽券にかかわる」
「…大人が道に迷って家がわからねぇことの方がよっぽどじゃねぇかな…」
…そうかも…。
私は静かになった。
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「――――よくぞ戻られました」
謁見の間。
穏やかな声で迎えられて、私は顔を上げた。以前と変わらず、優しい瞳が私に向いている。
「貴方の旅が有意義であり、エレベーターが少しでも良くなることを願っています」
「―――ありがとうございます、陛下」
彼女は微笑んだ。
「完全に修理できるまで、あと少しと言ったところですね。あなたが探す子どもたちが無事であることを、心から願っています」
私は腹に力を入れて口を開いた。
「―――大変、恐れながら、陛下。私は告白しなければなりません」
彼女の親愛に満ちた瞳が変化すると思うと気が重たくなるが、言わねばならない。
「…まぁ。一体どうされましたか?」
背を伸ばす。前を見つめる。
「私は…私は、自身の子どもを探しにきたのではないのです。誰の親でもありません。ただ、落ちてきただろう子どもを探しているという点は…間違いがありません」
「まぁ、―――まぁ!では、あなたは、一体どんなご事情で…こんな場所に、危険を冒してまで、単独で、子どもを探しにやってこられたのです?そこまでする理由とは、何でしょう?」
当然の疑問だ。私は…答えを、もっている。
―――感謝だ、シェリフ!一回誰かに話したおかげかそこまで焦らないで済む。
私は、しっかり、自分の考えを見つめ直して言葉にした。
「解決の道を、探しているのです」
陛下は、瞳を瞬いた。
「解決の…道を?」
頷く。
今まで見てきたものたちが頭を過る。
警戒、怒り、痛み、悲しみ、諦観。
好奇心、許し、微笑み、思いやり。――――記憶が私の意思をつくる。
「告白いたします、陛下。私は…詳細な記憶のないままに、この施設の上層の部屋に居ました。自分の名前やどう生活していたかは思い出せます。しかし、どうやって来たかわかりません。よって、帰り方もわかりません」
一度息をつく。言葉を続けようとする。―――やっぱり言わないほうがいいのでは?と袖を引く囁きを無視する。
「…ただ…意味が…私がここにやってきたのには、なにか意味や理由があるはずなのです。ですから、ここで起きている、何か重大らしき事件について知りたいと思っています。知って、成すべきと思ったことをやりたいと思っています。そして、それらの道程が―――結末そのものを変える力が私にはないのだとしても―――できれば誰にとっても、より良い道であることを望みます。ですので…あの…」
喋っていて段々こんがらがってきた。
―――夢だろ、ゲームの夢だ。と、ふいに頭の隅で自分が哂う。入れ込み過ぎだ、本気になって恥ずかしい。子どもじみている、目を覚ませよ、と。
その冷笑を受け止め、もう一度よく考える。…いいえ、と私は答えを掲げる。
もはや私は、彼らの心を存在しないものと思えない。夢だと思ってそれらを適当に扱って後悔するより、夢でないと本気で扱って徒労だったと知った方がましだ。
まだ胸を張れる、それでいい。
―――怖気が生み出しただろう嘲りを取り下げて、私は言葉を続ける。
「子どもが…閉じ込められているのでしたら、可能なら見つけて安心できる場所に返してやりたいのです。道中の誰かが…困っているのなら、共に考えて手助けをしたい。もし、目の前の誰かが、懸命に何かを成そうとしているのならば、」
…凄まじくどっちつかずな回答だ。都合が良くて甘くて身勝手。堅い決意とは真逆の、流動的でその時その場でいくらでも色が変わるもの。
しかし、嘘ではない。せめてと前を向く。
「力になりたいのです、陛下」
女王陛下は、無言だ。
私は、とうとう耐えられずに視線を落とした。
「…解決の道、とはつまりそういう訳です。全てが終わったとき、私は自分がここにやってきた理由や意味や帰り道が…判明するのではないかと希望をもっています。―――こんなことを言って、陛下を大変失望させたと思います。子どもを守る立派な親であると、きっと期待していただいていたでしょうに。…ごめんなさい…」
「…まぁ。―――あらあら、まぁ。まぁ!」
突然に弾んだ声が上がって、私は驚いて顔を上げた。
何?いったいなんです???
「そう、―――そうですか、あらまぁ。あなたは、つまり、親ではなく…そう、そうなのですね」
にこにこと、陛下は楽しそうにこちらを見ておられる。え?
「そうですか―――若き旅人さん。それも、よき方」
え、あ、はい…はい?
「理由を探して旅をしてこられたのですね。しかし、あなたは決してご自身の利のみを目的とせずに進んでいらっしゃる。危険を伴う中で、それはとても難しいことです。そうですね、ふふ―――ええ、とても、『えらい!』です。『たいへん立派』です。…あなたに、変わらぬ敬意を表します」
予想されていたどの反応とも違うそれに、私はただ固まっている。
おや?あれ??
「あなたが旅を終えられたら、いつでも我が王国へ足を運んでください。次の旅の為に羽を休め、英気を養ってください。―――そして、また、その旅の終わりにぜひ。いつだって歓迎いたします」
はい???
美しくも穏やかで温かい光を宿した瞳が、私を見つめている。
「そして、あなたの旅路が…どうか、よいものでありますように」
うん????
糾弾と投獄を覚悟していた私は、全く自由の身で謁見の間を後にした。
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「あれ…シェリフ…私…許された…」
「あ?まぁ、そうだろうな」
そうか…彼にとっては別に意外ではないようだ…。
「…まぁ、ちゃんと頑張ったんじゃないか」
女王陛下の類まれなる慈悲深さはシェリフの知るところだった様子。そりゃそうだ、私より付き合い長いんだろうしな…。
「すごい方だなあのひとは…そうか…シェリフの忠誠も納得の、懐の異次元な深さの…偉大なお方だ…」
「…。お前さん、それはひょっとしてジョークで言ってるのか?」
「え?」
「…、…ッなんでもない!!」
謎にちょっと切れたシェリフは、完全に私に背を向けた。ぶつぶつと、ここには居ない誰かに文句を言っている様子だ…。
「…いいか、今の一件は忘れろ。そんで一応確認しとくが、お前さん、女王の話をちゃんと聞いてたよな?この後何をするかわかるか?」
「3つめの部品探しだ」
「それもだが違う。…お前さんが居ぬ間に、多くの来客があったから、会っておけって話だ」
…、…。放心してて聞き逃してた…。
私は彼を見た。やっぱりどうにも話に詳しい、呆れた彼の目と、目が合う。
…、…。
それなのに親切だなぁ、と私は笑った。
「ありがとうシェリフ」
「…どういたしまして…」
P1:文章構成には時間を要する。ようやっと進む意味を定めて宣言した。決断も進行も遅いが歩みは止めないだろう。
無駄骨だ。ゲームだと言っているだろうに。
赤い男:色々思うことはあるが、回復して計画のために動いている。
青いクモ:目が覚めてひとりだったので、とぼとぼ天井を歩いていった。ぬか喜びばっかり。
灰色の巨塔:呼び出されても誰もいなかった。小さい誰かが一回手を振っていたが、すぐ立ち去ってしまったので、仕方がなく帰った。
保安官:与えられた役割に忠実。ゆえに、荷物を取り戻した人間が広場で何をしだすのかしばし偵察していたし、謁見中の女王の護衛も毎度していた。結果はお察し。
女王:快く旅人を歓迎した。人間が親ではないとわかったが、親近感が賛助の気持ちに代わっただけである。