気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 赤い彼と別れ入手した部品を届けに戻る。道中、紆余曲折あり部屋に戻るも、赤い彼と青いクモは姿を消していた。
 保安官にパーツを渡し、女王の謁見までに時間を潰しつつ探索を行う。
 謁見にて誤解を解く告白を行い、ひとまずお咎めはなく退室を許された。



31 Own business

 

 シェリフと別れ、私は医務室と書かれた扉へ向かっていた。

 通路を進むと…ウスマンが居た医務室には誰もおらず、周りのガラス張りの部屋に見知った姿が見える…。

 

 …、…来客っていうか…これ、やっぱ留置…。

 

 ちょっと閉口しつつ、扉の横のパネルに赤いキーカードを使う。…扉は開かれず、代わりに音声が流れた。

 

『これを、トードスターアーカイブ、NO.1としよう。悪党に関する情報はすべて集めるつもりだ』

 

 私はそれらを、静かに聞く――――。

 

『犯罪者番号1、カタツムリ。本官がパトロール中に王国正門付近で逮捕した。殻に隠れている際に確保し、以来、隠れたままである。

 当初は殻の中はカラと思われたが、静かな泣き声が聞こえきた。対象に自分の殻から出てくるよう説得したもののそれは失敗した。この極度の嘆きの原因は不明だが、仮説はある。…この犯罪者は、この辺りの者ではない。そして体調が優れなかったようだ、と、とある証言があった。王国外部の好ましくない環境がこの不自然な行動を引き起こしている可能性がある。―――この情報は更新予定だ』

『犯罪者番号2、教師。3階から降りてきたエレベーター付近で確保した。同現場では、以前人間も確保している。

 カタツムリと異なり、教師は本官に対し非常に攻撃的態度を見せた。ここまで降りてきたのは、授業を欠席した生徒を探すためだと語った。何度も脱走を試みるも失敗し、ようやく諦めた様子だ。

 落ち着かせるために何種類かの物を提示したところ、数本のボウリングピンだけに何らかの効果があったようだ。教師は部屋の隅に座り込み、「遅刻はダメ」との発言を何度も繰り返している。

 興味深い事例だ』

『犯罪者番号3、4、鳥。この場所に誘い込む形で確保。王国の壁内に突然現れ驚かされたが、現在は安全に収容されている。縄張り意識が非常に強いようで、留置室に近づかなければ攻撃的な態度を示すことはない。なにやら必死に探しているようだったが、それが何なのかは不明だ。

 収容されてから、これらに動きはまったく見られない。室内へとこちらを誘う罠の可能性もある。その手には乗らないが。―――新たな情報は追って出す』

『犯罪者番号5、緑のゴリラ。本官が考案しフィーディングセクターに仕掛けた罠にひっかかり確保。現在緑のゴリラは鎖に繋がれており、それほど多くの有益情報は引き出せていない。

 本日、僅か数時間ですでに7件の事案が発生している。非常に不自然だ。上階で起きた何らかの出来事が、これらの事案が流れ込んでくる原因となったと考えられる。

 この状態の馴染みの顔を見るのは心が痛むが、気が狂ったかもしれない友人を助けるために、自分を犠牲にはできない。―――追って更新する』

 

 …、…。

 

 

「シェリフ、あの…、大変立場を超えた発言だとは、思うんだけれど、…ご一考をお願い申し上げたいことが…」

 

「―――…あ?すでに盛大にヤな予感がするな。一応聞いてやるが、なんだ?」

「ええと、留置所にいる方々なんですけれど」

 

 私は縮こまって口を開いた。

 

「ちょっと、中に入って彼らとお話させていただくことは、可能でしょうか…」

 

 保安官は…めちゃくちゃ渋い顔をし、腕を組み、一度天井を見、そして私を見つめた。

 

「…死にたいのか?」

「いいえ!?」

 

 私は自分が正気である説明を試みる。

 

「あの、留置所にいる彼ら全員に、私は上の階で会っていて、多少なりともコミュニケーションが図れそうというか、」

 

「あー…つまりなんだ?追加の尋問を担当したいと?」

「ちょっと違…違くはないのか?彼らが下の階に降りてきた理由に少し思い当たりがあるから、もしかしたら貴方の疑いや、余計な仕事が減らせるかも…しれないと思いました…」

 

「…、…お前の…考えはわかったよ…。言っとくが、奴らは俺に多少なりとも攻撃的だった。中に入るってんならお前の安全は保障できない。で、当然、お前が何を話そうとするか、俺は外から監視する義務がある。―――それでもやるか?」

「ありがとうシェリフ!」

「…やるのか…マジかよ…」

 

 

「ええと、まず、そうだ、スロ…カタツムリさんに関して、あれからどうだった…?」

「どうも何も、お前さんから話を聞いたあと、ちと働きかけてはみたが、ノーリアクションだ。殻の中から声が聞こえなくなってるから、まぁ…寝てるかもな。もうちょっとそっとしといてやってもいいんじゃないか?」

「…、…。…痛そうだった?」

「いや?ありゃあ…どっちかっていうと、悲しみ?か?」

「…、…」

 

 本当のところ、苦しんでいるかもしれない彼女のところへ、最初に行こうと思っていたのだが…。眠っているところを起こすのは悪いかもしれない。

 

「それじゃあ…まず、オピラチックを連れて行っても?」

「…あ?なんでまた…。―――…、…そういやお前さん、雛を親から一時的に預かったって言ったな…」

 

 はたりとシェリフの言葉が一度止まる。

 

「…あの鳥たちの探し物ってのはもしかして…」

 

 我が意を得たり。私はうんうん頷いた。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 雛を抱えた私が、オピラとタルタの部屋へ入ったとき、彼らの攻撃性は現れなかった。…外から見た時の留置室はガラス張りだと思ったが、どうやらマジックミラーだった様子。中から外の様子は見えず、必然的に外で監視しているシェリフの姿も見えない。

 両鳥は私を視認すると、首をぴんと伸ばしてその黒い瞳でこちらをまじまじと見つめた。

 

 お返しします、と私が元気に鳴く雛を床にそっと降ろす。

 

 雛は嬉し気にオピラの足元まで歩くと、彼女を見上げて飛び跳ねた。

 オピラは首をよく動かして雛をあちこちから眺め、やがて満足したのかひと声だけ鳴くと、静かになる。タルタバードはその間2匹の周りをくるくる回っていた。

 

 ―――よかった、と私は安堵の息を吐く。

 

 一家の様子は穏やかだ。オピラチックが、何事かオピラに向って元気に鳴いている。

 

「ぴよぴよ ぴよ!」

「くえ」

「くえ!?」

 

 母子の会話の横で、何故かタルタバードが2羽を凝視しビタっと動きを止めた。

 

「ぴよぴよぴ」

「―――くえ」

「クエ!?クエ!!!」

 

 母と子は穏やかに会話しているが、父は突然大きな声を上げバタバタし、―――て、オピラにしばかれた。尻を鋭利な嘴でぐっさりつっつかれた彼は、床に転がっている…、

 

「くえ」

「ぴよ!」

 

 母を向いて力強い声を上げた雛は、一旦転がる父にも近づく。

 

「ぴよ!」

「…くえ…」

 

 雛は変わらず力強い声だが、父はやや元気がない。どこか切なげだ…。

 

 雛はくるりと方向を転換すると、こちらに向かってきた。

 

 私の足元で雛は元気に鳴いた。

 別れのあいさつかな、と私はしゃがんでそれを受ける。

 

「元気でね」

「ピヨ」

 

 …、…。いつまでたっても雛は私の足元から去らなかった。…あれ?

 

 私は困ってオピラを見た。彼女は穏やかな声で一度鳴いて、そして動かない。

 あれ…??

 しょうがないので雛を撫でて退室しようとする…。

 

「ぴよ!」

 

 雛は一度だけ母を振り返って元気に鳴くと、私のあとをついて部屋から出た…。

 

 

 …あれ???

 

 

 

「おう、ご苦労さん。驚いたな、お前さんの思った通りか」

 

「…いや…?なんかちょっと思ってたのと違ったっぽい…?」

「そうか?お前さんは預かりものを無事に送り届けて、約束は果たし終わったようにみえるが」

「え?そうか?継続してない??」

 

 私は思わず、足元を見た。小さな雛はまっすぐこちらを見て立っている。

 …なぜか誇らしげに見えるな…。

 

「ああ、責任の所在はお前にはなくなったようだ。…あの夫婦も完全に大人しくなったしな。ケースクローズだ。一応事態が収拾するまで、この場所には居てもらうが」

「えっそうなのか」

「そりゃあな。混乱時に所在が分からないんじゃ、守れないだろ?」

 

 彼の中では、容疑者というより国民寄りの扱いに代わった様子。

 …オピラとタルタに対する疑いは晴れたようである。じゃあ、まぁ、いっか…。

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「先生」

 

「―――てんにゅうせい!」

 

 しょんぼり、椅子に座って背を向けていた彼女は、ばっと顔を上げて叫んだ。

 

「ああ、あなた、無事だったのね、よかった!」

 

 近寄った彼女は私の手を取って、矢継ぎ早に言葉を紡ぐ。

 

「わたし…私、生徒を、探しに来たの。…クールな子がひとり、見当たらなくって。サボりだと思うけれど、そうは言っても気になるでしょう?だから、エレベーターで下に…。ちょっと進んだら、暗い部屋で、テーブルの上に、何かを見かけて、そしたら、いきなり頭にガツン!って」

「…あー…なるほど…」

「よくわからないまま尋問を受けて…声からして相手は男だった、『まだ解放できない』とか言われて目隠しされて、今ここ!あなたも同じ目にあったんじゃないかと心配で…!」

 

 シェリフ…。私は視線だけ振り返ってマジックミラーの向こうを見つめた。僅かに開いたままの扉から咳払いが聞こえる。余計なことは言うなと仰せだ…。

 

「私も同じように、一度捕まって尋問を受けました」

「大丈夫だったの!?」

「はい。非常に幸運なことに…この場所の最高責任者が私の目的に理解を示してくださり、捜索を続けて良いと。…先生も、国に害をなすかもという疑いが晴れれば…無事にここから出してもらえるはずです。ですから、もうしばらくの辛抱ですよ」

「―――そう…。そう、なの…。わかった。これからは…余計なことはせず、ちょっと大人しく…してみる…」

 

 …、…。彼女がビターギグルの仲間で女王を害すとは考えられない。しかし。

 私の意見のみでは…彼女を今すぐ解放することは、難しいだろう。堅い表情の、彼女を見つめた。先程までの丸まった背と頼りなげな表情を思うと胸が痛む。

 アーカイブによれば彼女は何度も自力で脱出を試みている。ただ座して待たないその行動力は彼女の強さではあるが、今回は上手く働かないとみた。…焦って彼女が再び行動を起こそうとすれば、疑念は晴れにくくなるだろう。

 

「…先生、」

 

 私の右手を握る彼女の両手に、左手を重ねる。白い嫋やかな手は…やはり、力が入っている。

 

「…転入生?」

「今すぐ貴女の無実を証明し、助け出すことができれば良いのですが。私にはその力がありませんでした。すみません。せめてと思ってここに来ましたが、あまり力に、なれていませんね」

「い、いいえ。あなたのせいじゃ…ないわ」

 

 先生の声は少し揺れた。

 ―――動揺している、と私は彼女の様子に目を伏せる。安心させたい、でもそれは酷く遠い。言葉を探す。

 

「貴女の無実を知っています。その強さも。…今、必要なのは、耐える強さです」

 

 何かができないかと、言葉を絞る。

 

「幸いにして私は、中立に近い立場を貰っています。何か起きても、貴女の無実を訴えます。…ですから、ここでどうか、待っていてくださいませんか。―――私は、貴女の味方のつもりです、先生」

 

 一度下げた視線を上げて、見つめた先で…先生の視線はどっかへ行った。あれ?

 

「…わかったわ転入生…もう大丈夫…」

 

 え、はい。

 

 そっと離した白い手は、しゅっと引っ込んだ。

 …きゅ、と彼女は口を結んで自分で自分の手を握ったり離したりしている…。

 

「…ありがとう。あの、しばらくほんとに大人しくしてるから」

「わかりました。先生、どうかあまり気を負わずに」

「…ええ…あなたも、無理しないでね…」

 

 そわそわしつつも静かになった彼女を心配しつつ…これで無茶な行動をしなくはなるかもしれない、これ以上できることもないだろう、と私は退室した。

 

 

 

「…お前…、…お前…?ちょっとこっちきて一回喋ってみろ」

 

 出入り口が閉まった途端に、シェリフから呼び止めがかかった。え?

 

「何…?シェリフ?」

「…、…。お前、友人の数は?」

「は?…え?少な…いや何の話?いじめ???」

「OK、距離感バグったクソ鈍感の系譜だな。わかったよ」

「す、すごい速さで悪口を言われた?なにが起きた???」

 

 超スピードだとかそんなチャチなもんじゃない。何をされたかわからないまま私はシェリフを見上げるが、彼は私の肩に、ぽんと手を置いた。

 

「変なのには餌撒かんようにな」

 

 まじでなんの話???

 

「…まぁ、あの教師も実のところ疑ってたわけじゃない。とはいえ勝手に何度も外に出て好きにされちゃ敵わんから、部屋で大人しくしててほしかったわけだが。…それも解決だな、お手柄だ」

「…役に立ったなら…よかったよ…?」

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 次の部屋には、ジャンボジョッシュがいた。両腕ががっちり固定されている…。

 

 彼に関しては、単純に誰の味方とか敵とかではなく、ただ成り行きで上から降りて来ただけだと思う、と私はシェリフに進言した。シェリフは頷いた。

 

「まぁ、そうかもな」

「じゃあ…」

「いや、こいつに関しては何をするにしても危なすぎるから、いずれにせよこのままで居てもらう」

「…、…」

 

 王国の守り手が少ない以上…仕方がない対応なのかもしれない、が…。

 

「だからお前さんが話をつける必要はないぞ」

 

 私は、その言葉には首を横に振り、ごく個人的な用向きがあることを伝えた。

 

 

 

 …、…。

 

 

 そろっと、私は部屋の入り口から顔をのぞかせた。

 

 真っ黒い瞳がすでにこちらを補足している。緑の彼と私の気まずい沈黙。

 

「…、こんにちは…」

 

 互いの出方を伺う視線が交わる。

 

 私はゆっくり動いて害意がないことを示しつつ、慎重に慎重を期して入室した。

 両手を拘束されている彼の身体は、若干身構えた。

 

 ちょっと警戒されてる…私はしょっぱい気持ちで目を閉じる。

 ゴリラの心は繊細なんだ。大きい声を出してごめんね…。

 

 急な動きは威嚇行為とみなされる可能性もあるな…ひとまず、彼の目線や首の角度が苦しくない程度の位置へ移動した。

 話そうと試みるべき内容は…あのゴタゴタで流れたままになっている「何が駄目か言ったならどうなら良いのか言うべき」問題だ。

 

 そもそも彼とはどの程度言語によって意思疎通が可能なのだろうか。

 フィドルの時は…報告書での数字の理解への言及や、ホワイトボードの単語の練習から…抽象概念の理解ができると踏んでイラストと言葉を使って意思疎通を図ったが。

 ジャンボジョッシュに、イラストという簡略・抽象化したものが伝わるかは…うーん…どうだろうな…。

 とはいえ遺伝子情報提供元がゴリラなんだとしたら、その賢さには希望が持てる気がする。

 ゴリラ…ゴリラか…。私は以前に彼に閉じ込められていた部屋を思い出す。繊細ゆえに環境の変化に目ざとく、目の前の事象の変化に敏感だったのかも…しれない。…、…具体物の差異には気が付く、なるほど。

 

 私は、とりあえず、彼の目の前に座った。伝えなければ、と思っていたことがある。

 

「おどろかせて、ごめんね」

 

 ゆっくり、大きすぎない声で、言葉を口にする。

 …、…相手は無言だ。変わらぬ瞳でこちらをじぃっと見つめている。

 

 ―――うん、と私は思い出す。エレベーターではじめて出会ったときから…こちらを見つめる彼の瞳はずうっと、変わらなかったのだろう、と、思った。

 

 攻撃でなく、防御でもない。

 

 両腕が自由だったらきっと、彼はこちらに手を伸ばしただろう、と思う。

 子どもが、未知にひょいと手を伸ばして、触れて知ろうとするように。

 

 それは、「理解」に至る手前の段階だ。希望を見て、私は彼にほんの少し近づいた。

 

 

 ―――微苦笑が浮かぶ。相手が拘束されて安全が確保できているからと、一方的に話しかけようとする私は狡い。それでもこの機会を見ないふりはできなかった。

 

 ごめんよ。今から伝えようとするのは、独善かもしれない話だ。

 

 

「あなた、とても強いんだよ」

 

 掌を掲げる。彼のよりも小さなそれで、自分の腕をゆっくり撫でて見せる。

 

 もう一度、掌を見せる。同じ調子で…しかしよくよく反応を見つつ…「さわるよ」と彼の腕を、同じようにゆっくり撫でた。

 

 不思議そうな顔だ。拒絶はない。…そうするほどの刺激ではないのかもしれない。

 

 掌を見せる。さっきより勢いをつけて、自分の腕を触る。…ぺちぺちと軽い音。

 掌を見せる。同じように、彼の腕を触る。小さい籠った音。…不思議そうな顔。

 

 掌を見せる。さっきより、もっと、勢いをつけて、自分の腕を触る。―――ばちん!と良い音。

 …、…、ちょっと勢いをつけすぎたな…。

 若干涙目になりつつ、私は自分の腕についた、赤い手形を見せた。

 

「周りのひと、あなたより弱いんだよ」

 

 彼に触れた手は、ぼす、と極めて軽く籠った音を立てた。…若干遠慮してしまって軽い力になり過ぎた気がする。比較としては詐欺行為になってしまうか??でも痛いのは絶対駄目だし…。

 

 ジャンボジョッシュの反応を伺う。黒い瞳は…相も変わらず不思議そうだ…。

 

 正直どれだけ伝わってるか怪しいな…。

 事実の提示より、短い言葉の方が伝わるか???

 

 えーと、仲裁しようとしたフリンへの八つ当たり気味攻撃を駄目と言ったので、ではどうすれば良いと私が思っているか伝えねばならない。友達に腕力で訴えかけるのは良くないが、とはいえ言葉で『NO』を言えない彼から、ボディランゲージそのものを禁じて取り上げるのは酷だ。だから、えーと、伝えるべきは「やり過ぎは厳禁」と…短い簡単な…言葉で…。

 

「…いちげき、めちゃいたい。もっかいは、よくない。おーけー?」

 

 黒い瞳はゆっくり瞬いて心もち首の角度が横に…傾げられた。

 …、…。

 うーん、さっきより反応はいまいちかもしれない。そもそも、瞬時にフィードバックして伝えるべきものを、今になって伝達しようとしているので難易度が跳ね上がっている。乱闘が起きたその場じゃないと、何を言おうとしてるかリンクしにくいだろうしな…。

 

 自身の強力さの自覚と、他者の脆弱性への意識。無暗に過剰な攻撃をしないでほしい、とかどうやって伝えればいいんだ…?弱者側の都合の話だし。…しかし私は兎も角ウスマンやフリンを筆頭にした誰かと助け合えるなら、彼にとってもその方がいいと思うんだよな…。仲間になれると誰かに思ってもらえるなら、彼への扱いも変わるはずだ。彼をちゃんと大事にしてくれる相手もいるだろう。

 

 一応、ジョッシュの私に対する警戒度はどんどん下がっている…気がする。友好的な個体であると判断されたか、私の攻撃が自身を傷つけられない程度のクソ雑魚だと理解しかけているか。前者だと良いな…。

 思い悩みつつ、私は彼に静かに近寄った。…相手の反応はそれほど芳しくない。伝えることは…絞るべきだろう。うんうん悩んで、たった一つに決める。

 

 私は彼と目が合っていることを確認しつつ、その体に、掌で触れた。

 誰かに触るなら、

 

「これくらい、やさしくがいいなぁ…」

 

 撫でる手に、やっぱりジョッシュは不思議そうな顔をしたのだった。拒絶はなかった。このコミュニケーションが彼にとって不快でないものだとするならば、そうと記憶の片隅に残るなら。―――ひとまずそれでいい。きっと。

 いつか、それが活きる時もあるかもだ。

 

 

 まぁ、力の加減についてはうまく伝わってなかったとしても、私よりずっと頑丈なウスマンやフリンとの連携についてはまだ希望が持てるし…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「お前さんな」

 

 退室した私への第一声は、呆れた声だった。

 

「大した向こう見ずの度胸だな、いつ頭をがぶっと行かれるか肝が冷えたぜ」

 

 なるほど、両手を拘束されてるとは言え、そんな可能性もあったな…。

 

「…ジョッシュは人間より野菜が好きなはず…」

「そうだな…」

 

 ため息とともに彼が手に持っていた星型の武器が仕舞われようとする。…いつでも投げられるようにしていたのか、と気が付いてお礼を言い掛け…

 

「…それどこから出てきてどこに仕舞うの…?」

「スリケンはソウルからと相場で決まってる。弾切れ(ソウルドアウト)もないしな」

「いや、ジョークのフリじゃなくてだ」

 

 星型のそれは、翻った彼の手から手品のように消えた。

 

「―――最高機密(トップシークレット)だ」

 

 シェリフは、ウインクしてにやっと笑った。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 私は最後の部屋に入った。

 

 スロウセリーヌは、いまだ、動きが無かった。近寄って声を掛けても反応は何もない。

 …、…。

 私は、彼女へ呼びかける名がちゃんとわからない。会話能力と高い知能を感じる言動から、ヒトの遺伝子情報が使われているかもしれないとは思う。フリンのように自身をそういった存在(マスコットキャラクター)と理解しているのか、はたまたウスマンのように遺伝子情報提供したヒト自身だという自己認識なのか。…、…。

 

 彼女の悲しみはなんだろう。

 

 私は無言で彼女の殻を撫でた。そうっと身を寄せて、何かが聞こえないかと目を閉じて集中した。

 

 音は、いくら待とうと聞こえなかった。

 

 

 …、…。

 

 

 なんの成果も上げられないまま、私はシェリフに促される形で退室した。

 最後に未練がましく後ろを振り返ったが、堅固な殻は最初と変わらずただそこに居るだけだった。

 

 苦しんでいなければいいが。

 

「…、…」

「…、…」

 

 何かすれば、彼女の状態は変わっただろうか?薬は手にしておらず、結局私は彼女に何もできていない…。

 

「…、…」

「…、…」

 

 頭上から息を吐く音、と思う間もなく、背中にばしんと衝撃が走った。

 

「―――っあだぁっ!?」

 

 驚きで顔を上げて―――自分の目が床を向いていたことに気が付く―――シェリフが肩をすくめて手をひらひらさせた。

 

「くよくよすんな。成果に胸をはって今出来ることを見ろ。―――行くぞ相棒、次だ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「次のエレベーターの部品は、エンプロイヤーエクササイズセクターにある」

 

 私は保安官と雛とともに医務室にいた。次の動きの確認だ。…あれから一応スティンガーフリンの部屋も確認したのだが、彼はまだ眠っている様子だった。

 

 ホワイトボードの前、ペンを握るシェリフが言葉を続ける。

 

「部品があると思われる地点へ行くには、いくつかの『エクササイズ』…まぁ、簡単な謎解きが必要だが、お前さんの今までの様子を見ると問題なくパス可能だろう。従業員向けの、大した危険もないテストだしな」

 

 歯車マーク――エレベーターの部品だろう――が描かれる。シェリフは腕を組んだ。

 

「一方で気になるのは『()()』の動きだ。元ジェ()()()…もといビターギグルは、あれから目立った動きがない。不気味なほどにな。そろそろ行動を起こすだろうと思っといたほうがいいだろう」

 

 ジェスターの顔マーク。…絵柄から推察するに、やはり手配書の絵はシェリフの手による物のようだ。

 ホワイトボードの下の方にも絵が描き足される。シェリフの顔マークと、それから…オピラに似ているがこの丸っこい顔は、雛の絵に違いない。かわいい。その隣のチョコチップクッキーの絵は一体なんだろうかと、彼の話の続きを聞く。

 

「―――つまり、作戦はこうだ」

 

 シェリフはクッキーの絵を指さして続けた。

 

「お前さんは、エレベーターの最後の部品を探しに。俺は女王陛下の護衛…王国入り口の警戒に当たる」

 

 …、…。私はチョコチップクッキー改め私の顔の絵を静かな気持ちで見つめた。…そうか…。 

 

 作戦に…異論はない。私は頷いた。

 

「で、ちっこいくちばしはお前さんの補佐だ」

「待って?」

 

 やや動揺しつつ私は異を唱えた。

 

「その、この子は…王国の安全な場に居た方がいいのでは?」

「ピヨ」

「その安全な場ってのはどこのことだ?」

 

 質問されて気が付く。そうか、敵襲があるかもしれない、つまり危険度がより高いのは、むしろ王国内の方なのか。

 

「―――申し訳ない。撤回する」

「いんや。…まぁ、なんだ、お前さんらは部品を探すのを最優先にしつつ、敵を見かけたら速攻で帰って来い。情報伝達も立派な仕事だ」

「ぴよ!」

 

 なるほど、雛が居るなら索敵には適している。

 

「以上。質問や意見はあるか?」

 

 挙手。目線で指名を受ける。…私はそっと彼に寄って小声で聞いた。

 

「索敵を期待するなら、雛は貴方の傍でも有用だと思う。それでもやはり、貴方の傍の方が現状危険度が高く、避けるべき?」

「それもある。…あとな、お前さん。そのちっこいくちばしは、お前さんについてく気満々だ」

「…、…」

 

 我々はそっと足元の雛を見た。…心なしか瞳に力が入っている気がする…。

 

「…なぜ…?」

「さて。だがやる気があるらしい」

「…、…なんで……?」

「知らん。餌でも撒いたんじゃないか?」

「…いや…なんもあげてない…」

 

シェリフはちょっと笑った。

 

「熱意はあるぜ、汲んでやったらどうだ?」

「わかっ…た…」

 

「よし、役割分担は決まりだ。他、なんかあるか?」

 

 

 

 ―――…あ、と一つ話したいことあったことを思い出した。

 

「そういえば」

 

 私は情報共有を試みる。

 

「ビターギグルの部屋らしき場所を見つけた。」

 

「―――そうか」

 

 予想に反して、平坦な反応が返ってきた。あれ、と思ったが、報告を続ける。

 

「わかったことから…容疑者像を掴めるかもしれないから、共有しておく。彼、なんだか行き詰っていたようだった。ジョークがうまく行かない感じで」

「……そうか。だが……ある意味その方が、良い」

 

 歯切れが悪い。…、…ちょっとした違和感。毅然とした様子ではない。

 

「…、…。貴方は、彼は笑顔とジョークの両方が好きだと言っていた。でもどっちもうまくいかなかった?なにか、知っている?」

「…」

 

 相手の反応は、良くはない。静かだ、凪いでいる……表面上は。

 私は言うべきか一瞬逡巡した。しかし言うことにした。

 

「練習したら成功すると信じて…でも駄目で…ちょっと、追い詰められている、様相だった」

「…、…」

「彼…彼は、どうして、陛下を笑わせたいんだろう。ほんとに、世界を滅ぼしたい?」

 

 シェリフは、こちらを見た。静かな―――決定し終えた顔だった。離反に傷ついて、しかし飲み込んだ瞳だった。

 

「それを考えて、どうする?どんな理由やビジョンがあっても、アイツは俺たち全員を終わらせようとしてるんだぞ」

 

 …、…。激情は、見えない。かつて渦を巻いただろう葛藤や諦めは…その静かな声の奥に仕舞いこまれている。

 

「奴は、国家転覆を目論むテロリストだ。逮捕すべき犯罪者。そこに同情心はいらない。知る意味はない」

 

 堅い声だった。立場を固めた宣言だった。

 私は頷いた。

 

 

「貴方は正しい」

 

 

 彼は保安官だ。治安維持のための役割、王国の守り手。国を脅かす敵に対して、旧友だからと情でその縄を緩めるべきではない。そうしないシェリフが正しい。

 

 ―――正しく、そして強いひとだ。私はもう一度、大きく頷く。

 そして、私は保安官でないので、別の立場の視点が提示できる。

 

「これはあくまで、ちょっと部外者で協力関係な個人の、貴方が追従する必要は全くない話だけれど、」

 

 彼がそんな目をするくらいなら、それを諦めなくて済む方法を勝手に模索する、都合が良い部外者が居てもいいかもしれないと思った。

 

「やりたいことと、やっていることと、できることは、似ていても違うことが往々にしてある。一人で考えて思いつめて最適を選択できることは、きっと多くはなくて。彼、手段と目的が…ごっちゃになっている可能性が、ある?」

 

「…、…」

 

「…相手の本当の願いが分かれば、別の道を共に探せるかもしれないと思う。滅びそのものこそが彼の望みでないなら…あるいは」

 

 ビターギグルの心からの願いが、破滅でないなら……決定的事件を未然に防ぎ、彼らはまた手を取り合えるかもしれない。

 シェリフ、と私は彼を見つめた。

 

 ―――貴方の願いは、本当に彼を捕まえること?

 

 と、その問いは辛うじて飲み込む。

 …なぜなら目の前の瞳は、十二分に動揺していたので。

 

 私は、ぐっと立ち止まった。ずかずかと酷い踏み込み方をしかけたかもしれない。激しい拒絶があって不思議でないぐらい、度を越えて繊細なものを暴き立てようとした。

 悪癖、と後ろ指をさす自分を自覚。反省。

 

 …教唆をしたいわけではなく、役割分担の話をしようとしただけだ。彼の信念や行動を邪魔する意図はない。

 軌道修正しつつ、私は言葉を続けた。

 

「シェリフの捜査方針に異論は全くない。…ビターギグルの本当の目的が分かれば、捜査上有利になることもあると思う。交渉や、囮とか。ええと、一考の価値はあるかもしれない、と記憶してくれたら嬉しい」

 

「あ、あぁ…わかった。そう、だな、お前さんが言ってるのは犯行動機ってやつか。そっちへの揺さぶりだって確かに有用だろう」

 

 若干まだ圧されつつといった様相で、シェリフは返答する。

 急激な方向転換だったが、明らかな拒絶はなく一応頷いてもらえた。

 

 下から様子を伺う私の視線に気が付き…彼は、はっとして頭を振る。―――瞬く間に揺れた雰囲気は霧散した。

 

 素晴らしい切り替えだ。見習いたい。

 

「―――あと何か言うことはあるか?」

「ありがとう。もう大丈夫」

 

 シェリフが頷いた。咳払いの後…よし、と張りのある声が掛かる。

 

 

「―――作戦開始だ。健闘を祈るぜ、相棒?」

 

 




P1:いろんな理由から友人関係は狭く深く。凄まじいお節介且つ遅延行為をしているが本人にその自覚はない。悪気もない。
RTA走者だったら発狂してる。

保安官:拾った野良改め迷子について、まぁそこそこ信じて使えると考えて用い始めている。仕事では色々とドライに切りたい。できるかは不明。
あと、どこの馬鹿だCace用西部劇メディアに忍殺まぜたのは?

雛:胸を張って自分の二本足で立っている。

ピンクの巨鳥:安堵。送り出した。

水色の巨鳥:安堵。のち驚愕。仕方なく送り出した。

先生:そわそわしている。しかし室内には留まるだろう。

緑の巨人:一応よく見ていた。拘束が無かったら、掴んで持ち上げて振って回して眺めていた。

カタツムリ:意識はここではないどこか。

橙のクラゲ:疲労により、よく眠っている。

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次回更新はちょっと遅れるかもしれない予定
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