気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 エレベーター最後の部品を手に入れるが、道化師に部屋へ閉じ込められる。離れて行動していた雛が保安官へ知らせに走る中、道化師と会話し時間稼ぎを行う。道化師が立ち去った後、ドローンを操作し脱出。急いで王国へ戻る。



33 Converge

 

 

 ハウジングセクターに到着し、王国広場への階段を駆け下りる。

 

 ―――階段の下に、あるものを発見して私は目を見開いた。

 

 ひっくり返って横たわっているのは…、…キティサウルスだ…。

 足が段差に掛かっているので、下り途中に転げ落ちでもしたんだろうか。寝ているというよりは気絶っぽい雰囲気を感じる。…階段途中に張られた縄を発見。これに足を引っ掛けたのか?

 

 とはいえ今は先を急がなくてはならない。周囲にビターギグルの姿を発見できなかった私は、その体を踏まぬよう気を付けつつ走った。

 

 

 

 謁見の間。駆け込んだ先にはすでに関係者がそろっていた。

 部屋の奥、高台に陛下が避難しているのが見える。彼女の隣には……雛だ!やり遂げたらしい小さなその子に向かって大きく頷く。力強い返事が聞こえる。

 

「―――大人しくするんだな、ビターギグル」

 

 入り口付近でシェリフが星型の武器を構えている。

 部屋の中央、玉座の前に陣取ったビターギグルは、振り向いて肩を竦めた。

 

「あー…皆さまお揃いで。呼んでないのにゾロゾロと」

 

 シェリフ、と私は階段を上がって彼の隣に駆け寄った。視線を敵から外さぬまま、保安官は口を開く。

 

「―――よぉ相棒、生きてると思ってたぜ。ちっこいくちばしの知らせを受けて、場を整えられた。お前さんらの手柄だ」

 

 頑張ったのは雛だ。私は首を振った。

 

「ビターギグルを止めないと。…貴方から逃げてここまで来るなんて。彼、強いのか」

 

「…、…よく聞け、相棒」

 

 シェリフの表情は、一層険しくなった。

 

「お前さんの話を受けて、俺も説得ってやつを考えてみたんだ」

 

 …うん?

 

「奴の望みを―――もう一度、ちゃんと聞いてみるべきだと思った。同情じゃなく、詰問じゃなく、互いの利益のためにな」

 

 おお。

 

「俺は言った―――『要求を聞こう』ってな。…で、どうなったと思う?」

 

 シェリフの身体は震えた。

 

「……アイツ―――アイツ!!『()()()にンな事を言えましたねぇ!』と来てそのまま階段上から荷車で俺を轢いて行きやがった!!!」

 

 …、…。…そう…。それで貴方は後ろから彼を追っかける形になったわけだな…。

 道中の壁やら床に刺さっていたのは怒りの手裏剣だったのだと合点がいき、私は口を閉じた。沈黙は金。

 怒り心頭のシェリフは叫ぶ。

 

「オメーこっちが下手に出りゃあよ!!」

「…どういう風の吹きまわしかと思ったんですけど、そっちの人間の入れ知恵だった訳ですか」

 

 へー…、ふーん、みたいな視線が私に刺さる。なんか…こう、なぜかよくわからないけど何かの弁明をしなきゃいけない心地になるな…?

 

「―――今すぐ立ち去りなさい、ビターギグル」

 

 感情を抑えた陛下の声が降る。

 

「口をつぐみ、ただ静かに。さすれば誰も貴方を傷つけません」

「ご機嫌麗しゅう、女王陛下。―――ワタシの傷を慮ってくださるなら。どうかたった一度ワタシのジョークにお耳をお貸しください、それだけでいい!!」

「―――それはなりません。国民たちを傷つける行為を、女王として許すことはできません」

「我が傷は国民のそれではないとおっしゃる!ですが陛下、そうであれば、貴方が守るべき国民は一体どこにいるというのですか!」

「ここに。…無論望むなら貴方も。しかし貴方の願いを選んでより多くの犠牲を良しとはできません。どうかわかって。―――貴方が居ぬ間に、民は増えました。そこの旅人さんもその一人です」

 

 ―――ぐるん、とビターギグルがこちらを振り返って私を見た。表情の抜け落ちた顔の、真っ黒な瞳と目が合う。もう、「へー、ふーん」を超えた何かがその目にぐるぐると渦巻いている気が、する。…いつの間にすげー勢いでヘイトが稼がれてないか???

 

「―――左様ですか、陛下」

 

 前へ向き直った彼がぼそりと言った。いっそ冷静な声だ。怖い、ホラーじゃない怖さを味わっている。

 

「ともかくお前は袋の鼠だ。大人しくお縄につくんだな、ビターギグル」

 

 こちらも若干の冷静さを取りもどしたシェリフが声をかける―――が、言われた当人はゆらりと振り返って言った。

 

「間違っちゃいませんが、役者が足りないでショ?」

 

「―――何だと?」

 

 

 ――――背後から、音が響く。

 

 一歩、また一歩、地面が、揺れる。

 

 

「鼠にゃ猫が付きものってもんデスね!」

 

 GYAOOOOOOO!!

 

 怒りの声を上げて、巨大な猫と恐竜の生き物が突っ込んできた!

 

 

「―――しゃがめッ!!!」

 

 思考する間もなく聞こえた指示に従う。頭上で凄まじい勢いで風を切る音が聞こえた。やばい。

 

「冗談じゃねーぞ、ンな狭い場所で…!」

 

 シェリフの舌打ちが聞こえる。

 言ってる傍から降ってくる牙を避ける。やばすぎる。返事をしている暇もない。

 

「おまけにフラフラと酔拳みたいな動きしやがっ―――」

 

 大きく横に振られた尾っぽが、がくん、と急激に軌道を変えた。

 息を飲む間もなく、世界は一瞬暗くなる。

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 音が聞こえる。

 

 ……、生きている。全身が馬鹿みたいに痛いが、意識は…本当に一瞬途切れただけで済んだ様だ。状況を把握しようと、明滅する世界に視線を走らせる。

 キティサウルスの尾にぶち当たって、私は地面に転がっている。尾の根本付近で当たったらしき私は床に激突して数回転くらいで済んでいるものの、尾の外側が当たっただろうシェリフは遠心力で壁まで吹き飛ばされたようだ。大きく凹んだ壁のすぐ下で彼は…動かない。

 キティサウルスは、ふらついている。…おそらく何度も頭をぶつけて気絶を繰り返したことで体のコントロールがうまくいっていない。しかし依然倒れてはいない。

 ビターギグルは、無傷でそこに立っている。状況は、非常に不味い。

 雛が懸命に鳴いている。声が聞こえる。

 

 ―――立たなくては。

 

 陛下が叫ぶ。

 

「ビターギグル!キティサウルス!今すぐ止まりなさい!!」

 

「自分で止まれるなら、ワタシはとっくに止めています」

 

 くすくす、けらけら、道化師が笑う。

 

 ―――立たなくては。思えど体は上手く動かない。

 

 

「今からもっと楽しいことが起こるのですよ、陛下!」

「おやめなさい!!!」

 

 叫んだ陛下が、いよいよ直接制止をかけるためか飛び降りる。

 ―――私の視界の端で、こちらを見て懸命に声を上げ右往左往していたピンクの小さなその子が、キッと前を睨んだのが、見えた。

 

 

「ピヨ!!!!!!」

 

 

 小さな身体から発せられた声は、しかしその時その場の誰よりも大きかった。華奢な足が床を踏みしめて、ぱっと宙に駆けだす。

 こちらに駆け寄ろうとしたのだと、思う。しかしその飛べず軽い体は、ほぼ真下に落下した。

 

 

 ―――ぱしゃん、と小さな水音が響く。

 

 

「…なんてこと、」

 

 女王が蓋の空いたドラム缶を見て、呆然とつぶやく。

 

「…なんてことなの…!」

 

 ごぼり、とそのジバニウムの表面が沸き立った。―――中から何かが飛び出す。

 

 それは、巨大な鳥だった。

 長く伸びた鋭い嘴。歪に膨らんだ桃色の身体。恐竜に並び立つ大きさ。

 地面を踏む足は、太く長い。黒い爪が床を引っ掻き、音を立てた。身体の半分以上の大きさの翼は、しかし所々羽が抜け落ちたように不揃いだ。無理やりあちこちに突き出た羽が、アンバランスな影を作っている。

 飛び出た白い眼球は…どこを見ているのか、判別がつかない。

 

 緑の液体を滴らせ床に降り立った巨鳥は―――咆哮を、上げた。

 

 空気が震える。

 

「―――ワァ。なんて早い成長」

 

 道化師が平然と肩をすくめる。

 

「残念ながら彼女、完全につぶされちゃいそうですね?」

 

 言い終わるより早く、巨鳥がキティサウルスに飛び掛かった。ほぼ同じ大きさの2つの影は縺れ合って、階段下まで落ちていく。その姿はあっという間に見えなくなる。

 

「―――もう、もう、めちゃくちゃだわ…!」

 

 女王の動揺した声。

 

「陛下」

 

 異様に落ち着き払った道化師が、一歩前に進む。

 

「ワタクシは貴女の全ての御命令に従って参りました。最後にその報いをくださいませんか?貴女を、笑わせたい、それだけなのです」

 

 静かな声の奥で狂気が滲んでいる。目の前で、封印の蓋に手がかかる。それはしかし、厄災を齎す開いてはならないモノだ。

 

 ――――立ち上がらなければならない。

 

 手に力を込める。

 あの子が。

 小さなあの子が、飛べない翼で懸命に跳んだというのに。

 巨大な相手に挑みかかったというのに。

 なんだ、この体たらくは?動けるはずだ、動かねばならない。

 

 かろうじて立ち上がる。視界は狭いし大きく揺れるが構うものか、口は動く。

 

「止まっ、て。…後悔する、それは、貴方がほんとうに求めたものじゃない」

 

 ゆら、と渦巻く瞳がこちらに向いた。

 

「―――はイ?何を言うかと思えば、なんですアナタ?」

 

 苛立っている。いい、それでいい。的外れだろうと、怒りを買おうと、その注意がほんの数秒だってもらえれば。

 ぽっと出の人間に、わかったような口を利かれて怒ってくれ。

 私にできることなど時間稼ぎだ。たったのそれだけだ。

 

「それを完遂すれば。貴方が取り戻したい家族は、諸共滅びる。二度と、元に、戻らない」

 

 言葉を紡ぐ、なんだっていい。会話を思い出す。何かが琴線に触れろと口を動かす。

 

「わかるでしょう、わかるはずだ。貴方が欲しいのはたったの一度の笑いじゃない、かぞくの、」

 

「―――もう遅イ!!!」

 

 大きな叫びに遮られた。ぎらぎらとその瞳に燃えるのは、憤怒か、恐怖か、歓喜か。

 

「もう失った!笑わせられないワタシに価値があるか!すでに二度と許されず手に入らない!…そうならば、そうなのだったら!」

 

 その狂気は爆発する。

 

「せめて最後に一度!存在の証明を!」

 

 叫んだ彼は―――大きく、優雅に一礼をした。

 

「恐れ入ります、陛下…!!」

 

 ―――風切り音を立てて金の星型が走る。が、それは礼をした彼の頭上を過ぎた。道化師は止まらない。

 

「車掌がカンガルーに一言、何と言ったか!」

 

 

「―――『飛び乗れ(Hop on)!』!!」

 

 

 一瞬の静寂。

 

―――――堪え切れない声が、女王の口から零れた。

 

 

 笑い声と共に、彼女のお腹から光が漏れだす―――瞬きの間に、それは巨大な光の柱となって天を貫いた。

 

 轟音。世界が震える。

 

「―――走れッ!!!」

 

 瓦礫から這い出したシェリフが叫ぶ。一も二もなく私は陛下に向って走りだした。

 

「ッ!?そっちじゃ、」

 

 横から狂気の笑い声が響く。陛下に駆け寄ろうとした私は、緑の長い腕に引き倒され、

 

 

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 光の柱が見える。

 シェリフの声が聞こえるまでもない、走る。

 ―――今のは直線で行って駄目だった、じゃあ横だ。

 

 ふらつく足は速度が出ない。近くで高らかな嗤う声。

 

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

 光の柱が見える。

 歯噛みする。駄目だった、間に合わない、―――いやわからない、じゃあ逆方向から、

 

 

「―――バカかそっちじゃねェッ!」

 

 走りだした体は、茶色の腕に阻まれた。外そうと藻掻く。

 

「とめなくちゃ!!」

 

「アレはもう止まらない!」

「わからない!なにか、」

 

「わかるだろ!!死ぬぞ!」

 

 わからない、だって、なにか、きっと、

 

 なにか、…なにか…。

 

 藻掻く。

 目の前で苦しんでいるかもしれないひとを見る。

 いかなくてはならない。

 なにかを。できるなにかをしなくてはならない。

 

「逃げろ!!」

 

 いやだ……

 

「―――お前、このまま俺も死なせる気か!?!?」

 

 ―――…。

 瞬間的に力が緩んだ。頭上で息を飲む音、舌打ち。間髪入れずに体が浮く。

 

 視線が高くなる。

 玉座の間が遠ざかる。

 …、…。

 

 紫の姿が見えなくなる。

 声が聞こえなくなる。

 

 光の柱が、遠ざかっていく…。

 …、…。

 

「―――ごめん、」

 

 担がれたまま、私は呻いた。

 

「ごめん、シェリフ」

 

 己の頬を両手でひっぱたいた。

 

「ごめんシェリフ!―――正気になった!!自分で走る!!!」

 

 

 ぶん、と放られた私は無事地面に着地した。

 

「逃げろ、エレベーターだ!フロアが崩壊する!!」

 

「わかった!貴方は!?」

 

「用事がある、俺を待たずにエレベーターを動かせ。必ず追いつく!」

 

 数歩先で、仁王立ちの保安官の瞳が、私を見ている。

 

「―――先に乗ってる奴は重要参考人だ、ソイツを全力で生かせ。できるな?」

 

 歯を食いしばる。できる、大丈夫。

 

「わかった!!」

 

 

 走る。今はそれだけを考える。

 見えてきたエレベーターには、シェリフの言う通り先客がいた。

 目を閉じて動かないが、橙色のその姿は…

 

 スティンガーフリンだ!

 

 息せききってエレベーターに飛び乗り、稼働させる。ゆっくり、それは下へ移動し始める。フロアの床が離れていく…。

 私は上を見上げた。

 

 まだこない。…まだだ…まだ…、…。

 

 ―――頭上の明かりが陰る。

 

「うまく避けろよ!」

 

 私がスティンガーフリンの方へ身を寄せるのとほぼ同時、エレベーターの端に音を立ててそれは落下してきた。

 

 …帽子を手で押さえつつ、落ちてきた保安官が息を吐く。

 

「―――まぁ及第点か、良く立て直したって具合だな。いや実際は何もかも終わってんだが」

 

「―――用事、間に合った?」

「あぁ、一応な。緑のゴリラを放してきた」

「他のひとは…」

「ちっこいくちばしが知らせに来た時、国民は自由にした。混乱するだろうから、もう逃げとけってな。ゴリラはちと危ないから後になったが」

「…、…」

 

 エレベーターが下に、ゆっくりと降りていく。

 明かりが遠ざかり、周囲は暗くなっていく。

 

 シェリフは何も言わない。

 

「ごめんなさい」

 

 …、…。

 …頭に降った手は、拳でなかった。一度だけ上からぐっと頭を押さえて離れていく。

 

「お前が悪い訳じゃない。―――おし、この話は終わりだ」

 

「…、…はい」

 

「―――生きて下に降りられたら、女王の杖を探す。…、…この混乱を止められるかもしれない、唯一の手段だからな…」

 

 シェリフが帽子を被り直しながら、ぼそりと言った。

 

 

 

 エレベーターは、一つの明かりを灯して、暗闇を降りていく。

 

 

 




P1:SAN値チェック失敗。精神分析成功を受ける。

保安官:雛だったモノの咆哮によって意識が浮上。状況に動揺していなくはないが、横に酷い顔色の奴がいるので冷静になった。

道化師:たぶん低SAN値。一時的狂気。

ピンクの怪鳥:突然に大きな力を手に入れた。自分を見失ったが直前に考えていたことだけは覚えていた。

女王:笑っちゃいけないと思う程笑ってしまう現象。

猫恐竜:幾らか追加で頭をぶつけ、ふらついて階段から落ちた。デカい鳥につつかれて逃げている。…その体に流れる猫じゃない方の遺伝子情報の可能性について考えてみると、それが好きな人はテンションが上がるかもしれない。

橙のクラゲ:割と雑にエレベーターに乗せられている。触手が巻き込まれないよう祈るべき。

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一区切り。次Chapterの内容全体をもう少し整えたいので、次回更新はかなり遅れる予定。

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