気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
悪戯者たちの親玉と遭遇。試行錯誤しつつ、いくらかの犠牲を払い見逃される。赤い男と道化師は負傷により倒れる。
動けぬウスマンを慎重にストレージベイに送り届けた後、私は元の場所まで戻っていた。
……その前にひと悶着……というか話し合いがあったが。
ダメージを負ったウスマンをそのまま放っておくという事は避けたかった。私が彼を背負うなり抱えるなりして「隠れ家まで一度戻る」という提案に、ウスマンは辞退を表明した。穏やかで冷静だったが力強い固辞だった。私は粘ったがウスマンも粘った。彼は理由として「役割適正」と「効率」を挙げ、私は「危機への対応力」と「安全」を挙げた。そうこうする内に、時間経過によって彼はやや回復し、肩を貸す程度で歩けるようになった。ようやく彼の首は緩慢に縦に振られ、無事にストレージベイまで送り届けた訳だ。
…まあ、ウスマンの全体重を支えるのはフィジカルの関係で厳しそうではあったので、幸いだった。ともかく、彼は現在比較的安全な場所であると思われる隠れ家で過ごしている。安心だ、早く元気になるといい。
閑話休題。
さて、再びこの場所に走って戻ってきたのには理由がある。まだだった小屋の中の探索…と、もう一つ最優先事項。
……変わらず倒れたままの2色の人型を覗き込む。
一応、細心の注意を払って肩を揺らした。…程なくして、微かに呻く声がその口から零れる。
「…う、うう…」
「気が付いた?」
「…アレ…ワタシ…」
「貴方、ノーティワンズの親玉に跳び掛かってふっ飛ばされたんだ。…怪我は?どこか痛む?」
「…あぁそうでした、ダダドゥー卿に…。…うー…あー…ダメですね。これは、折れてマス…」
!!!
「どこ。すぐに今、」
様子を見ようとした私の手を取り、彼は自身の胸部へ導いた。
「心が…」
……。
―――速やかに私は立ち上がり、出口へ向かおうとした。
「待ってジョーク!!ジョークですよ、ね!?おいてかないで!!」
跳び起きて足元に縋り付いた道化師を見やる。折れてんだろ、心がよ。
「いやそこで寝てて。すっぽり包めるくらいの布団を探してくるから。でっかくてふっかふかのやつを」
そのなげー手足がちゃんと全部入るようにな。
「あ違うこれボケ側だ!?ぶ、無事ですよ、立てますから!!」
そうか。負傷報告の発言には責任をもってほしい。
私は彼に向き直り、丁寧に伝えた。
「心配するのでそのジョークは笑えない」
「ウワーーッ!!?心底そう思ってる顔…!」
今度こそ彼は胸を押さえて倒れた。ちょっと残酷なことを言ったかもしれないが、こちらも普通に怒ったので今後はやめてほしい。
一旦私は口を閉じて彼を観察した。しょもしょもと下を向くビターギグルは、呻きつつもひょいと立ち上がる。どこか(心以外)を痛がったり庇ったりするような動きはない。
「怪我はなさそうだね」
「いやぁ、ええ、ハイ。回復しました、怪我とかありません。ご心配ドーモ…」
私は息を吐く。
一番に言いたかったことが後になってしまった。苦笑する。
「―――さっきは、助けてくれてありがとう」
きょとん、と目を瞬いた彼は…、じわじわとその顔に喜色を滲ませた。
「へぇ……、へぇー!!」
ぴょん、と一度飛び跳ねた彼は、私の周りをくるくると歩き回る。
「なーんだ、てっきり『敵に情けなんぞかけられてたまるか!』ってタイプかと思ってました、そうですかーへぇー!」
絶妙に誰かさんを思わせる声色の台詞に苦笑いをする。
「貴方こそ、助けてくれるタイプとは思わなかったな」
「えー、信用無いですねー。そりゃ、やることは一緒ですから、協力しますよ。…ほら、次のスイッチ!行きましょう!」
コロコロと表情が変わる。―――人好きのするそれだ、無邪気で軽快であけすけ。人の構えを解かせる天性の才能。
しっかりもっていたはずの警戒心がするすると萎んでいってしまうのを感じて私は息を吐く。ひとたらしってのはこういうのを言うのだろう…。
先を急かす彼に一旦待ってもらい、小屋の中の棚をこじ開け…開け…、開か、ない!建付けが悪いそれに拾っておいた謎の金属棒を使って開け、中にあった紫のキーカードを回収しておく。
歩み始めると彼は当然のようについてくる…。
「…てっきり貴方に嫌われていると思っていた」
「はい?自意識過剰じゃあないですか。アナタに個人的な思い入れなんて何も、」
そうか…???
「…国民とか…相棒とか…」
「……なかったり…なくなかったりしましたよ、ええ、ええ!!」
気持ち不貞腐れたような顔で―――本当に表情豊かだ―――彼はそっぽを向いた。
「そりゃあ、思うところはありますけど!」
「まぁ、貴方を怒らせたよなぁ…」
「別にアナタになんか怒ってませんけど!?」
口をへの字に曲げた彼に、やっぱり苦笑する。
「…そう?」
「……、……。シェリフと陛下と。……あっという間に親しくなったんですね」
彼自身は横を向いたまま、蛇の右手を突き出して顔を隠した。
……『ジェラシー!』と、甲高い声で、パペットの紫蛇がパクパク開く。縦に。
ああ、その部分が開閉するんだソレ…。
そうかぁ、と私はその緑かもしれない目を見て頷いた。
「自惚れでなければ少しだけ、親しくなれていたかも…。貴方の事情も、多少は察するよ…私は邪魔だったよね」
「…アナタにいくらかきつく当たったのは…つまんない嫉妬でした」
「大事なことだったからでしょう」
「―――……。……だって、ねぇ!?」
がばっと彼はこちらを見た。
「ワタシが!出奔してからそんなに日が経ってませんよ!?ちょっと覗きに行ったらなんですかあの保安官、平気な顔で新しい奴を相棒とか呼んでるし!あんなに嫌いだった人間を!?もっとこうあるでしょ相棒を失って傷心するターンが!凹め!!もっと!!」
すごい。犯人が全力で開き直ってる。
「陛下も陛下で、なんでそんなに簡単に降って湧いたどこの誰とも知れない人間を国民にしちゃうんですかぁ!ワタシが陛下の道化師で国民なのに。ジェスターと、役を貰ったときからそうなのに…」
彼は急激に声を萎ませて…やがて肩を落として下を向く。
「ずっと…心から忠誠をささげていた方だったのに。…ワタシは…」
満杯の水瓶を私が揺らしてしまった心地だ…。とはいえ以前のような狂気は感じられない。…うん、爆発して凶行に走るより健全だ、ちょっとずつ零した方がいい。その点、元から敵対関係の私には、ぶち撒けやすいかもな。
私は頷いた。
「貴方は、本当に家族が好きなんだな」
「…、…」
こっちを見た彼は半べそでもかいているような顔だった。
「…そうデス…心から笑ってくれないとか、耐えられません…」
「そうかぁ…」
―――そうだね。周りのひと達には、笑顔で居て欲しい。
彼を突き動かす心理の根っこが純粋であるとわかって、私は深く頷いた。
他者の笑顔を望むその動機と行動は、通常なら平和的だ。ところが彼の周囲の状況が特殊で、『笑わせちゃうと女王の身も世界もヤバイ』から、仲間から見ればとんでもねー犯罪者になり得てしまったわけなんだな…。宮廷道化師という君主を笑わせる立場にも関わらずそれは禁じられ、我慢を重ねたものの自己存在が揺らいで不安定となって、刺激(私。ごめん)により爆発した…。家族が好きで笑ってほしいが、それをすると家族が崩壊する。自己矛盾。
その波立つ感情を聞きながら、一応、と口にする。
「シェリフは、結構凹んでたと思う」
「……へえー…そうですかー…」
全然信じてない声だ…。さっきの落ち込みようはどこへ行ったのか、ジト目になった彼を見る…。
「…アナタにわかりますか。超スピードで知らん人間が自分の場所にすぽっと納まってた時の気持ちが…」
心情は察せられるが、その認識にはズレがあるな…。
そうこうしているうちに、紫色の扉に辿り着いた。
キーカードを使って扉が開いた先、暗闇に続く階段を降りていく。
ドローンの明かりを眺めつつ―――そういえば、と口を開く。
「いたずらっ子たち…ノーティワンズは明るいと襲ってこないと聞いたのだけれど、その親玉は別に光が苦手ではなかったりする?」
「ダダドゥー卿ですか。彼は…いたずらっ子よりかは明るいのに耐性がありますね。短時間なら普通に出張ってきますよ。でも好きじゃないと思います」
なるほど、それであの部屋で襲ってきたのか…。明かりへの忌避よりウスマンと私への攻撃に天秤が傾いたってこと…。
「ダダドゥー卿、すごーく怒ってましたよね…まぁそりゃそうでしょうけど怖すぎです…」
「うん、怖いひとだったな。めちゃくちゃ怒っているのに笑ってた」
「あーそうです、それ!こう、中身がグラグラ煮え立ってるのに一見全然平静でクレバー!昔とちょっとまた違う感じでした…」
「…むかし」
「あれ、言ってませんでしたっけ。元は仲間で…そう、彼、みんなを引っ張るエネルギーに溢れた仲間でした。さっきの彼は、ぜーんぶ踏みつぶしそうで怖かったですけど。昔はなんというか」
彼は小首を傾げた。
「あのひと、もちろん敵にはやっぱり容赦なかったですけど。ぽーんて仲間に欲しい言葉をくれるので。きっと誰かの欲しいものも欲しくないものもよくわかってるんだろうなー…と」
…、…。
味方だと怖くても心強いんですけどネー、と息を吐く彼は、はたりとこちらを見た。
「あ、そういえば、ダダドゥー卿がどこへ向かったか見ました?」
「いや…あの部屋の外へ向かったけど、詳しくはわからないな…」
「そーですよね。どっかでワタシたちの邪魔をしてくると思うんですけど…気を付けていきましょう」
…、…。
長い…長い階段を下った先は、なんかの機械?っぽい部屋だった。いくつもスイッチがあるのが見える。
「あ、この場所、知っています」
ひょい、と彼が部屋に進み入った。
「上のオフィスに王笏のスイッチがあるんですが、そこまで辿り着くには長いですよ。下から扉の4つのロックを解除しなきゃダメです。あと、どうやらコレ壊れているので、先に修理する必要がありますね。―――それから電力も要ります」
手順が多いな。今までで一番厳重に守られている。
「確か、電源を起動させると、施設全体に犯人の場所がわかるようシェリフが細工してるのも見ました」
「すごい、盗難防止アラームか」
「そうです!とはいえ今アラームが鳴ったら来てほしくない悪戯者も呼び寄せちゃいそうですけど」
ああ…ここ暗いしな…。返す返すシェリフと決別したのは痛いな…。
「なんて仕事ができる保安官なんだ…」
「まぁ結構器用なんですよね…。ちょろっと教えた手品とか、簡単な仕掛けならすぐモノにしちゃうし」
…上階にいたマジシャンを思い出した。
「貴方も手品を?しかもマジックの先生ができるのか」
「まぁ、多少は?」
くるりと手首を翻した彼は、どこから出したのかスパナを手にしている…。
「一芸に秀でた者には敵いませんが一通りの芸はできますよ。なんたって究極のジョークスターですからね!」
彼は、拍手に胸を張った。
「国民としてはワタシの方が先輩ですから?シェリフにも色々教える機会が…、あの頃は彼、今よかずっとトゲトゲのツノガエルでしたけど。だって新人研修のとき、ワタシの小粋なジョークを丸無視でしたよ、信じられません!」
…それは多分気分がどん底だったんだと思うよ…。
「まぁ、気合で最後は笑わせてやりましたけどね!」
ほんとか!
「それはすっごい功績だ…!」
「でショ!」
喋りつつも彼はスイッチを覗き込んでいる。
「ちょっと待っててくださいね、回路を確認してみます」
…、…。
その間に、周囲の探索を先に行うことにする。彼に一言断って、階段を上っていく。
2階部分にスポットライトや充電装置と書かれた機械を見つけた。…ついでに報告書を発見。Cace8の更新5だ。
『回収チームは、Cace8が脱走してから5回にわたり再収容に失敗している。死者数は今朝2桁に達した。
経営陣の要請に伴い、人命損失を最小限に抑えるため、Cace8とその危険性に関する啓発会議を全スタッフ参加を義務付けて、毎週開催する。
現行の回収方法が毎回無益だったことは明らかであるため、経営陣には別の回収方法の指示を申請した。
Cace8を探しに行くのではなく、捕獲できる場所に誘い込むという非暴力的な手段を提案する。専門家は、外見や振る舞いが似た別のCaceがCace8の好奇心を高め、潜伏から誘い出すだろうと提言している。今後の方針は経営陣の判断を待つ。
Caceは発表の準備ができていない』
……。大変なことになってる…。
ナブナブは捕まらず、犠牲者はかなりの数に及んだようだ。混乱による同士討ちとか大規模事故とかでない限り…彼によって…。
……。超重量級の事案に私は沈痛な顔で報告書を見つめた。今更ながらスティンガーフリンの言葉が過る。『過去を変えることはできない』。それに、自分が返した言葉を考える。…、…。
……。
―――思案に閉じていた目を開けて、私は思考を再開した。
次だ。報告書にはCace8に似たCaceを用い、誘い出して捕獲する作戦が提案されている。遺伝子情報元であるアシダカグモは、巣を張らず動き回って狩りをするタイプの蜘蛛だ。移動する相手を捕まえるために、追い掛け回すより定置罠方式にしたということだな。Cace8と似たCaceというのは、おそらくナブナリーナのこと、だろうと思うのだが…。私はちょっと首をかしげる。ウスマンが私にしたナブナリーナに関する説明と、やや解離があるように感じる。どこが、と考えて……思い至る。ウスマンは捕獲のための囮としてと言うより、攻撃性への解決策としてナブナリーナを起こしたのだ。脱走事件への一時的対処ではなく、ナブナブが有する高い攻撃性という問題の原因へのアプローチ。『寂しいのかも…では、仲間が居れば?襲わなくなるのでは?』という、心理面へ働きかけ。
私が頭をひねっている中…下で装置を見ていたビターギグルが頷く。
「―――うん、仕組みは変わっていない。ワタシが修理してる間、アナタが援護してくれたら、うまく行くかもです」
私は報告書を仕舞って、彼の近くに戻った。
「アナタは、上からワタシの周りの12個のライトをよく見ていてください。赤く光ったら、敵が来た合図です。スポットライトを操作して、そこを照らしてくれれば、追い払えます。追い払うのが間に合わず、敵が押し寄せ過ぎたらワタシたちは終わりですけど、まぁ、大丈夫ですよ」
結構重大な援護だな…。位置的に危険度が高いのはビターギグルの方だ。彼の安全は私の仕事に掛かっている。
「あと、天井も忘れずに気を付けて見ていてください。上を照らすライトは唯一充電が必要ですから、手が空いているタイミングで充電しとくのが良いですね」
素人相手にすっげーわかりやすく説明してくれてる…有難い…。
つまりモグラ叩きゲームみたいなことをすればよい訳だ。武器はハンマーじゃなくてライトだが。
やることを整理する。操作方法やボタンの位置を確認。脳内でシミュレート。
……よし、行ける。
「準備はいいですか?」
「OK、やろう」
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サイレンと赤い光。ライトの色と現れる黒い姿。目まぐるしく状況は変わる。
「―――――終わりました!!」
修理を終えたビターギグルの声が響く。
ちょうど、でっかいノーティワンズの一名にライトを照射して引っ込んでもらったところだった。自分の頭以上のサイズの口がある相手、普通に怖い。
ともかく、赤いライトがビカビカ光りけたたましい警戒音が焦燥を煽る中、我々はタスクを終えた!
照明が元に戻り、アラートも鳴りやんだ。
2階通路を走り回っていた私はそのまま転がるように階段を駆け降りる。
「スイッチを入れて戻りまショウ!一刻も早くこんなとこから、」
「―――無事!?どこも齧られてない!?」
「…あは!無事です、無事ですよ」
やった!やり遂げた!
喜びに手をあげる私を、ビターギグルが見る。
…イヒヒ、と可笑しそうに笑う彼の左手と私の手が、パチンと音を立てた。
「ホラホラさっさと2階にあるスイッチを押してきましょう!」
そうじゃん…降りてくる前に押してくれば良かった…。
心底可笑しそうに笑う彼を置いて、スイッチを押しに戻る。
開かれた部屋には、王笏マークが交差したマークと機械。キーカードを使って作動させる。
近くに報告書が落ちていた。拾って目を通してみる。
Case4。…初めて見るケース番号の報告書だ。更新番号は2。遺伝子情報は、ヒトとジバニウム。通称、外科医。…以前絵で見た、腕が4本の紅色のマスコット…『シリンジョン』か?特徴的な外見ではあるが、遺伝子情報に他の生物が入っていないんだな…。
『Case4についてKASスコアの更なる調査が行われた。経営陣の予想通り、Case4のスコアは、見送られた他のコンセプトより遥かに低い値を出した。これは機械のアームであるType5のCase10、11、12、13を装着しているためである。これらのType5は子ども達にとって恐ろしく危険であることが判明している。
Case4の代替となるコンセプトが、これまで見送られたものも含めて、経営案に提案された。
“マルチタスク”は施設で教えなければならない最も重要な教訓の一つであるため、すべての代替案はこれを主軸として展開される。
今後の方針は経営陣を待つ。下層輸送チームはこの件に関して出動する可能性について通知されている。
Caseは永久に発表の準備ができていない』
…、…。シリンジョンが危険だと判断され、下層に送られる直前の報告書のようだ。KASスコアというのがどんなものか詳しくわからないが、どうやら幼稚園に適しているかの数値の基準があったらしい。KAS…なんだろう、Kindergarten Appropriate Status とか…いや全然根拠も何もないあてずっぽうだけども。
シリンジョンはマルチタスクを教えるための先生だったが、腕についた鋏やらドリルやら注射器やらが子どもにとって危険であると判断されてお披露目を見送ることが決定した…。で、代替案のCaseが考えられていた。
…、…。危ないって器具をつける前に気が付きそうなものだが…?よしんば後から気が付いたとしても、カバーとか付け替えとか、どうにかならなかったもんか…?あるいは、Caseの特性上それが難しかったのだろうか???
私は報告書を仕舞いつつ階下のビターギグルに聞いてみた。
「外科医のことを知っている?気難しい?」
「え?なんです急に。―――シリンジョン?そりゃ、もちろん!」
そうなんだ…。じゃあ…苦慮した上でのことだったのかもな…。
今のちょっと音がよかったデスね、とメモを取り始めるビターギグルと共に、私はセクションを後にした。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
帰り道。街灯がぽつぽつと光る道を歩いていく。
初めは真っ暗闇であったこの道も、セクターを歩き渡るうちに明かりが増えた。
頭上に灯る光を見上げて、我々は少しずつ進んでいく。
「―――やっぱりシェリフは、結構凹んでたと思う」
「もういいですよ、無理に慰めなくて」
隣で歩く彼は笑った。
…、…。慰めという訳ではないんだけどな…。
―――窺い見た相手の調子は悪くなさそうだ。私は食い下がった。
「貴方を逮捕しなきゃならないと苦く思ってた…と感じたけど」
「いや、あの悪に対して容赦なく、仕事に関しちゃド真面目がそんな訳…」
「…、…」
私は逡巡した。でもやっぱり言うことにした。
「貴方のことは、シェリフから教えてもらった。『友人の道化師だ』と―――貴方の言う『ド真面目』な人が、国家転覆を目論む相手をまだ『友人』だと言う事について…その、なにか思ったり、する?」
「…、…」
「…。陛下は貴方を攻撃したくないみたいだった。捕らえるより、何もせず逃げてほしいみたいだった、よね」
「……」
二人にとっても、貴方の代わりは居なかったんじゃないかな、と。
…言うのはやめた。その横顔は、本当に寂しそうだったので。
「…ねぇ、シェリフを見つけたら、もう一度話そう。先に私から怒られてくるから、それで、」
「アナタとワタシの扱いが同じな訳ないでしょ」
「…そうだね、そうだよ。貴方と同じにはなれない、私は彼の無二の友ではない」
「……。…でも、話して、どうするっていうんですか。だってもう、ワタシのせいで陛下は居ないかもしれない。シェリフはワタシを許せないはずだ」
もう一押し、と言葉を探す。
…ふいに。冷ややかな自分が、余計なお世話だと後ろ指をさす。―――周囲を乱すな、口を閉じてただ先へ進め、お前には関係がない。
そうかもだ。そうかもだけれど。足を引っ張ろうとする思考を、振り払おうとする。
「怒るほど大事だったんでしょう。まだ相手と話せるのに、伝えなくていいのか。謝罪を受け入れてもらえないとしても、少なくとも関係は凍結しない。だって、―――だって、貴方、寂しそうだ!仲直りしたいなら!仲直りしようとすべき!てつだうから!」
「ワァ…前半大人しく聞いてたんですけど、後半の急なお子さまワードにびっくり…」
そうだよ、喧嘩した友達が双方ともに寂しがってんだからやることは「ごめんなさい」と仲直りしかないだろうが!その二者の間に、自分の存在価値の話とか陛下殺傷疑惑とか正義とか悪とかごちゃっとしたものが横たわっているだけだ!!…だけって言える程度の問題かは甚だ疑問だが、そこを話し合いでなんとかするしかねぇ…!
「あー、つまり考えてもよくわかんなくなった訳デスね」
「当事者が余裕そうな顔をしている…!」
「おかげさまで?…ははぁ、アナタ普段口にしないだけで頭の中は結構愉快なのでは?」
今その台詞が出てくるあたり、貴方こそ結構いい性格しているのではないか、と私は相手を見あげた。
「割と全力で真面目に考えてるんだけど」
「…変なの!やーっぱりアナタ、アホ程イイコちゃんなんじゃないですか」
…言われた内容の割に妙に反発心は湧かない、どうにも相手が軽やかだからかもしれない。
「そうですね。―――そうですよね。皆の安全を守るなんて仕事を喜んでやるのは、ちょっとウザったいくらいのお節介と決まってます!」
彼は笑って腕を広げた。
「驚くほど真面目で一生懸命なヒトってなんていいます?―――『
にっこにこで両手を上げた彼に応えるように…暗闇のあちこちで笑い声がする…。
「…、…」
「わぁ…!聞きました!?彼ら!笑いました!」
「…よかったね…」
目をキラキラさせるビターギグルをよそに、ジョークには拍手しつつネタにされた私は言葉をよくよく選んだ…。
そこらでまだまだ忍び笑いが聞こえる。流石陛下のお腹の子たちだな…笑いのツボが似ているのかもしれない。ノーティワンズには、たしかにカンガルーの耳っぽいのがあったね…。
上機嫌でスキップし始めたビターギグルを、私は小走りで追いかけた。
P1:自分では警戒心が十分あると思っている。協働は嫌いではない。
他者の心を勝手に代弁するな。
赤い男:一回休み。ストレージベイへ向かう長い階段で、危うく両脇を持って引き摺られそうであったが矜持で立った。…僕ならできる…できるはずだ…。できたので、よくやったと自分を褒めた。
道化師:家族の笑顔を望む。家族と主君と同僚と友達の分化は曖昧。すきなひとたち。協働は好き。笑顔が好き。他の誰でもない自分が笑わせることができたなら、さらに喜びでいっぱい。
問題児たち:狩りごっこと聞いて遊びに馳せ参じた。たべちゃうぞー!やーらーれーたー!たーのしー!