気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 死ななかったぜ!



ChapterⅡ
4 Observe


 

 

 意識が戻った時、私は見覚えのない場所にいた。どうやら、オピラバードに襲われた時のようには、時間は巻き戻っていない。

 

 死んだかと思ったが、死んではいなかったようだ。

 

 痛む体を動かしつつ自身の怪我の有無を確認する。落下した割にそこまでのダメージはない、安堵の息をつく。周囲は薄暗く、上には明かりが見えるのであそこから落ちたのだろう。このエレベーターはもう使えそうにない…上にまだ開かなかった紫色の扉があったことを思い出し、見逃したな、とちょっとため息。

 

 改めて周囲を見て、私はぎょっとした。乗っていたと思しきエレベーターの真下に下敷きになっている、緑の巨人が見えたのである。

 

大慌てで飛び退きその巨人――おそらくジャンボジョッシュを見るが、ピクリとも動かない。…まさか、偶然にも彼が下敷きになったおかげでこちらが怪我をしなかったとかではあるまいか、と、妙な罪悪感が鎌首をもたげる。

 

 いやいやいや、そもそも彼(もしくは彼女)がエレベーターに手を伸ばさなければ墜落はしなかっただろうし、と思えど、目の前の光景は、見れば見るほどなんだか…気の毒になってくる…。ドローンを飛ばして反応があるか見ようかと思ったが、リモコンを押しても機体は動いてはくれなかった。よく見ずともリモコンのアンテナの形が歪になっているので、落ちたときにでも衝撃で壊れたのだろう。

 

 …なぜジャンボジョッシュがエレベーターを掴んだのか、こちらを襲う意図はなかったかもしれない、まだ敵対しているかギリギリわからない、と考えが浮かぶ。墜落の前に見えた巨人の歯は…丸みを帯びていた。壁の言葉の通り野菜を主食にするのなら、実は穏やかな性格かも、しれない。その可能性は別に高くないことを理解しつつ捨て置けなった私は、そうっとそちらへ歩み寄った。

 

「大丈夫?」

 

 反応はない。その緑の体を揺すろうとしてみる…が微動だにしないので軽く叩いてみる。やはりぬいぐるみと言うよりかは硬い質感のそれは、ぼふ、と籠った音を立てた。表面は凸凹としていて、所々無理に形が変わったような皺が浮かんでいる。まるで一度限界まで伸びたビニールがちょっとばかりしぼんでくっついたようだ。片手の先はなぜか色が違った。手の形がグーで固定のようなので、橙色のなにかにぶつけでもしたのか…?服でこすってもそんなに色移りしないので液体が最近ついたものではないし、表面にしかついていないので内側から流れ出るものでもないのだろう。

 

「聞こえますか?」

 

 うつ伏せで全ては確認できないが、目に見えて致命的な損傷…大きな変形、破裂等…は見られないように感じる。上に乗っている物や落ちた高さを考えると相当耐久のある体だ。同時にその頑丈さは、振るわれた際の破壊力の高さを意味する。よくよく留意しつつ…ただ、どんなに近づいても音がしなかった。「死んでしまったのか」という考えと共に、はたしてそもそも「生物か」という根本の疑問が頭によぎる。

 

 体を押し潰しているリフトをどかせやしないかと引っ張ってみたが、当然のようにびくともしない。全力による数分の格闘の末、独力では無理と見切りをつける。と、すれば誰かや何かの助けを得るしかない。

 

 …、…。

 

「ごめんよ」

 

 相手の損にも益にもならない謝罪をしつつ、緑の体をとんとんと叩き私は立ち上がった。見つけた橙のカードを使って先に進めば、助けになる何かがあるかもしれない。

 

 子どもを探す以外に新たなタスクを頭に入れ、荷物を確認しつつ、私は扉を開けて先に進んだ。

 

 ―――途中振り返りながら歩を進めたが、ついぞ、その体が動くことはなかった。

 

 

 

 

 

 通路を進むと唐突に視界が広がる。

 

 開けた空間。

 

 暗がりに目を凝らすと、左右に巨大な建造物が立ち、いくつもの窓が並んでいた。明かりの灯らぬそれらの奥には暗闇が広がり、中は窺い知れない。

 

 ビルか、はたまた校舎のようなその四角い部屋の列は、上に、そして下に、闇に溶けるようにどこまでも続いている。…こんな建築は可能なのか?秩序立っているようでどこか無計画さをも感じる外観に言い知れぬ不安感を煽られる。

 

 足場からわずかに身を乗り出して下を覗く、が、底は見えない。これらが幼稚園の地下にある、という不気味さがいよいよ迫ってきた。

 

 足元にキーカードとメモが落ちていた。拾い上げて読んでみる。

 

『我々のやってきたことが最後には牙をむく』

『みんな行ってしまった』

『奈落からの囁きはどんどん大きくなる。大きな顔がいくつか浮かんでいるようにさえ見える』

『奈落に投げ捨てられたものはみな死ぬと言っていたが、我々は騙されていた』

『もしこれを読む者がいたら、』

 

『―――立ち去ってくれ。ここにあるものは全て忘れられ、歴史から消え去るべきだ』

 

 …。凄く…厄ネタだ…。

 

 文面からひしひしと、「やっちまった」類の嘆きを感じる。で、厄ネタは文章から考えるに下も下…奈落に存在する、またはそこからすでに上にやって来ていると見ていいだろう。

 

 オピラバードのようなもののことを指し示しているのか、とも思ったが、あの鳥は上の階にある幼稚園に設置されていた。卵集めのミッションを考えるに、どう考えてもあの鳥は場に組み込まれている。あそこが表層に近しい場なら(窓のない時点であそこも地下である可能性も高いが)、牙を剥いただろう奈落のものとは根本的には別だ…。あれはゲームの序盤敵、そしてチュートリアルなのだ…という至極自然な考えに辿り着き、私は宙を見上げた。

 

 そうか…あれよりヤバい中ボスと、もっとヤバいボスと、そしてたぶん裏ボスとかがいるのかぁ…。

 

 そっとメモをしまい、気を引き締めて周囲を見回す。背後には自分が出てきた建物である「アウターセクター」。左に「メディカルセクター」の文字を見つけ、緑の巨人のことが頭に過った私は助けが得られるかもとそちらへ進んだ、が、残念ながら赤く光った廊下の先の扉は開かなかった。同じく「テスティングセクター」と書かれた青いライトの前方の建物も開かない。

 

 ―――自然、「コムスセクター」つまり通信棟と書かれた黄色のライト、右側の建物に進むことになる。

 

 

 

 建物に入って真っ先に見えたのは、壁に書かれた『クモは実在する』という文字だった。

 

 手書きだ、それも、撚れている。書き手の動揺が顕なそれを見つめるが、意味はわかれど要領を得ない。バリケードのように横倒しに並べられた机の裏に、メモを見つける。

 

 『クモは実在する』と同じ文章が繰り返されたそれはちょっとした狂気を醸し出している。計16回同じ文が書かれた後に、このテーブルではそれを防げない、とメモはそこで途切れていた。

 

 …、…。ここに居た人間は「クモ」に襲われたという事か?

 

 注意しつつ横の階段を上る。

 

 壁には橙色の細長い線…おそらくスティンガーフリンの手…の絵と、『成功へのエレベーターはあるが、階段はよい運動になる』と言う教訓が書かれていた。今度は階段を上りきった反対の壁に、撚れた手書きの文字。

 

 『クモは実在し、いま来ようとしている』

 

 なんのこっちゃ、と視線を戻そうとして、私は階段下の何者かと目が合った。

 

 

 

 …、…おお…。

 

 

 

 建物の入り口。開いた扉の向こうから、何かがこちらを覗いていた。

 

 青い体に3つの目。長く伸びた片手が見える。体の中央に開いた大きな口らしき場所には、鋭利な牙がぐるりと生え備わっていた。わかりやすく肉を齧り取る形をしている。

 明らかに警戒を示すべき身体的特徴に反し、頭に小さなパーティーハットが乗っかっているのが、非常にノイズだ。気になって注目がそっちにいってしまうから勘弁してほしい。

 目の前のものが、「クモ」か?と私はじりじりと目を離さないまま扉の方へ移動する。不思議なことにその存在は3つの目で私を見つめるのみで、動くことはなかった。

 何の障害もなく扉に辿り着いた私がそれから目を外す前に、「クモ」はさっと姿を消してしまったのだった。

 

 …、…。なんだったのだろう。最初にオピラバードと出会った時を思い出す。彼らは何を基準として私に襲い掛かってくるのか?ただただ目の前の生き物に反射のみで襲い掛かる、というわけではない、気がする。様子を窺うような仕草が見られるのは…私には少なくとも彼らが何かを考えているように思える。と、すれば、なにか、打開策が見つかりそうな気もするが。

 

 

 考え事をしつつ私は先へ進んだ。

 

 

 




P1:可能性は色々考えておきたい。事件を「過去に起こったもの」と認知しており、子どもの生死というストーリー上重要だろうイベントが自分の行動に左右されることはないと無意識下で考えている。よって時間はべつにデリケートな問題ではない。

青いの:人間を観察中。
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