気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
王笏の間に辿り着いたが、保管されていた王笏はパーツが欠けていた。その場で黒いヒルらの襲撃を受け窮地に陥るが、赤い男の手によって青いクモが巨大化、凶暴化する。そのままクモが敵に襲い掛かったことにより、その隙を縫って場を脱することに成功。逃げる道中に道化師は錯乱し、相手側へ落ちた。エレベーター前にて、再び配下を引き連れた黒いヒルに追い詰められるも、赤い男の時間稼ぎによってエレベーターは下へ稼働する。
44 Forward
エレベーターが止まった。
騒々しく響いていた音は、距離が開いたせいかもう聞こえない。耳をそばだてる。
…、…。
聞こえない、状況を判断できるものは、何も。
…、…。
見て、聞いたことを考える。
今までの出来事や、投げられた問いを、考える。
…、…。ウスマンは…私を逃がした。友だからではない、協力者だから、というのもきっと正しくない。
彼は友と呼んだナブナブをダダドゥー卿へ嗾けた。私をそうしなかったのは、その方がきっと利がでるからだ。私が囮になって彼自身が下層に行くより、彼が時間稼ぎをして私が進んだ方が得だと判断したのだ。彼は、彼と私の目的の成就のために私を先に行かせた。
…、…。
『君は、外科医を探すんだ』
行かなくては。止まってしまっていては、意味が、ない。
私は手をついて、立ち上がった。
やるべきことを、やらねばならない。余計なことは考えるな。
私は、周囲を見回した。
緑の床。明るい部屋だ。光で空中の埃が漂っているのが見える。人があまり来ていない様子。
モニターが正面の壁に設置されている。床に描かれた文字と矢印。『偉大な一歩!』―――…、…。そのまま矢印が示す位置に立って、ドローンで周囲のスイッチを押す。
予想通り、映像が流れだした。
『スキャン中…』
『アナウンスを検出しました!』
赤い文字が浮かび上がる。女性の声のアナウンスが始まる。
『施設全体規約:違反 が発生しました。全従業員は次のメディアを視聴します』
『ようこそ従業員サバイバルガイドへ!』
『Case8:クモ。―――貴方の手足が捥げないことが最優先事項です。これは、Case8収容違反のシナリオで何をすべきか知っている場合にのみ達成可能でしょう。知識が貴方の力になります』
―――突っ込みどころの多いブラックなアナウンスが始まってしまった。シリアスな気持ちだから勘弁してほしい。
『ステップ1:ヒーローになろうとするな。Case8は貴方より強力で、素早く、攻撃的です』
画面のピクトグラムの人間が、青っぽい何かのシルエットと近づいた後小さくなって消える。画面に残った青いシルエット、ナブナブと思しきソレから小さな吹き出しが出る。『Tasty!』―――食っとるがな。軽すぎるだろ。
『戦わない方がよいでしょう。死にます』
ピクトグラム人間の頭と体が分離してナブナブのシルエットの片手ずつに掴まれている…。
マジか……。
『あとぐちゃぐちゃになったら、施設で片思いしている相手に嫌な目で見られるでしょうから止めておいた方が無難です』
いらん心配をどうも…。音声は時々乱れるようだが、今のところ聞き取れる様子だ。
『ステップ2:隠れろ。Case8に追われていると感じたら、近くの隠れ場所を探しましょう』
低い棚?の下にピクトグラムの人間が寝転んで隠れる。…ナブナブはクエスチョンマークを浮かべている。なるほど、彼は視覚で対象を探すようだ。少なくとも嗅覚や熱反応ではない。
『Case8は俊敏で上空を含むあらゆる角度から攻撃が可能です。隠れることが不可能であれば、できるだけ大きな音を立てましょう』
ピクトグラムでは騒ぐ人間がそのままナブナブに近づかれて小さくなって消えた…え?食われたときと同じ表現だな…?音を立てて…どうするんだその後は???
『ステップ3:我々に知らせる。Case8の存在を確認したら、素早く緊急部隊へご連絡ください。すぐに、貴方の所在地へ派遣されます』
―――画面には、青い3人の人型と、シリンジョンと思しきシルエットが、映し出された。…外科医のはずの彼が、緊急部隊にいるのか。医療班か??
『ステップ4:負責。Case8の安全は重要です。正当防衛あるいはその他の理由でCase8に致死的な武力を行使した場合、契約に従って当社に賠償する義務があります。』
凄まじく音声が乱れたが『現在の給与の158年分に相当』て聞こえた!
すごく人の命が軽い!!―――いや、マスコットの命が重いのか!?施設にとって!?
『緊急部隊は、違反に対処するための訓練を受けています。彼らに任せましょう』
つまり人間側がやるべきことは、見つからない低い机かなんかの下に隠れたり、大きな音を出したり(審議。救援が無い限りそのまま襲われる可能性が高い。単なる周囲への人間に対する警報の役目かもしれない)することだな。ものすごく今更な気しかしないが覚えておこう、一応…。
『―――二名以上の集団で作業してください。自身の命を助けるために同僚の命を放棄したと発覚した従業員は、厳しく処罰されます。利己主義は働きやすい職場の最大の敵です』
処罰の前に最低限の安全を保証してあげないと誰もその決まりを守らないだろう…誰だって我が身がかわいい…。
『以上が安全ガイドです。―――天井を見ることを忘れずに』
ビデオが終わる。画面に文字が浮かぶ。
『出勤してください。キーカードを発送中…』
近くの壁からカードキーが排出された。
どうやら、今見たビデオは出勤前の必須研修…以前見たCase8の報告書で記述があったもののようだ。
思っていたより相当…ナブナブは危険な存在だったんだな…。私は奇跡的にそう何度も襲われずここまでたどり着いたってこと…。気を引き締めよう…。
オレンジのキーカードを手に取った途端、激しい音が当たりに響いた。
―――……上だ…!!!
エレベーターに駆け寄って上に耳を澄まそうとした私の目の前に、巨大な影が落ちてくる。
黒と灰。紫の目。巨大なカメとカメレオンの姿。―――わかりやすくダダドゥー卿に洗脳された様子の、タマタキとキャマタキ!
横倒しに倒れた彼らが藻掻く―――まもなく衝撃と重みに耐えられなかったエレベーターが墜落した。あっという間に下へ落ちた彼らは見えなくなる…。
…、…ウスマンはまだ戦っている!先へ急げ!!!
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階段を駆け上がって、オレンジ色の扉をキーカードで開ける。
―――開いた先に見えた無数のソレに、私は踏み出した足を数歩後退させた。
…、…。
一旦扉の先が見えない位置まで戻った私は、情報を整理しようと試みた。
今見えたものは何だったか。黒くて掌よりかは小さかった。……。
……
気持ちを落ち着かせて足を進める。薄目でなるべく直視を避けて…進…。
床を進むソレの一匹が靴に乗り上げ、私は悲鳴を上げた。
―――無理だ、蜘蛛!!!蜘蛛の大群だこれ!!!
反射的に声を上げたものの動くことのできない私は、自身の靴から蜘蛛が自主的に降りるのを震えて待った。―――幸いにして彼、あるいは彼女は、乗っかったそれが床ではないことに気が付いたのか、すぐに8本の足先を戻して靴を大回りし、通路の壁へ進んでいった。
…、…。
私は来た道を恐る恐る振り返った。他に進めそうな道はなかった…。つまりこれが…唯一の順路だ…。
私は一度目を閉じて…上で戦うウスマンを思い浮かべ…そうして奮い立たせた心でなんとか再び足を踏み出した…。
一歩一歩慎重に…または怖々…進んだ先には桃色の扉があった。同色のキーカードはあるが、パネルが反応しないので、なんとかして通電させる必要がある。…私はなるべく蠢く無数の黒いソレらを見ないようにしながら、部屋を見回した。―――無理だった、どうしても目に入る。鳥肌が立つのを感じながら、周囲の環境を把握する。
現在立っている床の右手側に奈落が広がっている。奈落の中央に存在する謎の装置っぽい桃色の足場を使えば、壁際3か所に点在した床にたどり着けそうだ。
奈落を前にして周囲を観察してみる。4つある桃色の足場は、中央の支柱装置から4方向に生えた棒でつながっている。手前と奥と左右。とりあえず最も床から近い1つに乗ってみると、それに矢印ボタンが付いていることに気が付く。右と左の二つだ。…試しに左方向を示すボタンを押すと…中央装置が右回りに90度回転し、連動した足場が動いて左側の床にたどり着くことができるようになった。なるほど、こう進むのだな。
左右の床からダクトテープ、ライターを発見。使い道はまだ思いつかないが、うれしい拾い物だ。無事に対岸の床にも辿り着いた。パネルが光っていない黄色のドアを横目に見つつ、発見した充電装置を作動させる。
―――これで、元居た場所の桃色の扉が開くようになったはずだ。振り向いて戻ろうとする私の目に、黒い影が映った。
……対岸の足場、その天井に、居る。黒い体。怪しく発光する紫の瞳。元は緑だったはずのリボンは、紫に変色している。
追手だ。最も機動力の在りそうな者が来た。ナブナリーナ。
私は息を殺してそっと姿勢を低くした。…当然床にいるソレらに近づいて怖気が走るがそれどころでもない、命の危機だ。
向こうはまだこちらに気が付いていない…いや早計かもしれない。すぐさま襲い掛からないのは、獲物を待ち伏せしているからか。―――そういやナブナブもはじめは距離を保ってこちらを観察していたなと思い出す。そう、彼女はCase8と類似した振る舞いをする。知識を武器にせねば。
彼女の真下に行ったら、整備室通路のナブナブの時のように襲い掛かってくるだろう。しかしまだ様子見のターンの様子。なんとかして彼女をあそこの場所から誘い出して、その間に対岸の扉を開けて部屋を脱出しなければならない。
何なら彼女の気を引けるだろうか。
…、…。ナブナブの存在が最も確実かつ強力に彼女の気を引くことができるだろうが、生憎彼はいない。似姿を作れるような道具も…ないか…?私は周囲を見回して―――壁際のドラム缶に注意を向けた。中身は…それほど入っていないらしい。私の力でもなんとか横に転がった。物凄く慎重に、少しずつドラム缶をピンクの足場まで転がしていく。
懸念していた蜘蛛たちは…幸いにしてドラム缶が近づくと自主的に逃げてくれた。ありがとう。
賢い蜘蛛たちに感謝をしつつ…もしかしてこの蜘蛛大集合もナブナリーナの力かと、ふと思う。こう、スピーカーの音声でナブナブとナブナリーナが集合したように、彼らに通じる鳴き声などがあって彼女がそれを発したとか、あるだろうか。それにしたって凄い数だが。クモサーの姫…いや、この規模はアイドル並み…。
―――がんばれよナブナブ。相手は結構、高嶺の花っぽいぞ。でも君より強そうなライバルは今んとこいないらしいな。
現実逃避の思考をしつつ、―――だって蜘蛛の動きに意識が向くと滅茶苦茶に鳥肌が立つので―――私は足場にドラム缶を立たせた。拾ったテープでドラム缶が落っこちないように固定しつつ、デコイとして完成度の低いそれを見やる。一旦トライして相手の様子を見よう。もしかしたら真下に来たものに自動的に襲い掛かってくれるかもしれない。
足場の矢印ボタンを押して送り出す。ドラム缶はナブナリーナの真下へたどり着いたが……彼女に、動きはなかった。いや、ちょっと視線を動かしたあと目を瞬いた。認識はしている、でも食指は動かない様子…。
一旦ドラム缶を回収。
もうちょっと興味を引く必要がある。
私は頭をひねった。
彼女の情報は少ない。では彼女に似ているナブナブは、どんなものに興味を……。
私はリュックを探った。
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私が息をつめて見守る先で…デコイを乗せて移動した足場がナブナリーナの真下へ到着する。
彼女の視線が注がれるそれは…魔女っ子帽子を被ったドラム缶だ!
ぱぱん!と軽い音を立ててドラム缶に貼り付けられたロケット花火が賑やかに弾ける。
―――どうだ!リボンの乙女チックな君!ちょっと興味でてきた!?
…、…。やや時間が空く。やがてナブナリーナはするりとドラム缶のある足場に降り立った。
帽子や、未だ煙が立つロケット花火の残骸を見つめている…!
よし!!絵面はなかなか気が抜ける感じのデコイだったが目的は果たした!!
ナブナリーナが気を取られているうちに大急ぎで矢印ボタンを押し、足場を移動させた私はダッシュで扉にたどり着いて部屋を脱した。
我に返って追いかけてくる前に、彼女の目の届かないなるべく遠くの場所へ移動しなければ。
桃色の部屋でパネルを発見。扉が閉まってくれないかと思ったが、『電車呼び出し』の文字を見るに別のスイッチだった様子。操作すると近くのモニタに文字が映し出される。
『接続確立中―――』
『―――電車に接続できません。メンテナンスにご連絡ください』
どうやら電車で逃げる手は使えなさそうだ。自分の足で距離を稼ぐしかない。左右に分かれた道の右手は真っ暗闇だ。左は…床に『Go and you will see…』の手書き文字を見つける。…通称ク〇ピカ理論、左回りの法則。が、よろしい、あえて進もう。
駆け足で進んだ道には大きな瓦礫が転がっている。近づいて見ると、それがレールのような部品が付いた箱型の物であると気が付く。横転した電車だ。なるほど呼び出せない訳だな。
散乱した積み荷の空き箱や電車を避けたりよじ登ったりしながら進み、次のステーションと思しき場所まで辿り着いた。耳を澄ませてもナブナリーナが追ってくる気配はない。
それでも急いで、階段を駆け上がる。
行き着いた先には、たった一つ扉があった。薄青いライトが天井で灯っている。雰囲気が変化したことで、別エリアの入り口であると察し、私は背後を振り返った。―――大丈夫、まだ追手は見えない。
緊急の危機を脱したと見て、私は息を整えた。
―――目的を再度思い出して確認する。外科医を探す。彼は王笏の欠片の在りかを知っているはずだ。
私はキーカードを使って、扉を開いた。
進行方向は暗かった。しかし、進まねばならない。
足を踏み出した途端―――照明が灯る。ほんの微かな明かりによって暗闇の手前のみが照らされ、私は真正面のそれを見た。
宙に揺れる薄緑の身体。細い手足は力なく投げ出され、頭は項垂れている。その体重を支えるのは、天から伸びる、首に掛かった1本の鎖。それが、何名も。
吊られた者達。
……、……。
私は最も近いその体を見つめた。黒い瞳は開かれているが、何も見ていない。死んでしまっているのか。そこに苦悶の色がないか見たが、表情はうまく読み取れない。声もない。ジバニウムは流れていない。床も汚れていない。私に、できる、こと、は?
……、箱、列車の近くに箱があった。それを積み上げれば、鎖は外せずとも体を横たえることはできる。そこまで遠くない、追手を警戒しながらでも取ってこれるはずだ。
顔を上げた私は、遠く、向こうの暗闇に存在する何者かの影に身を固めた。
―――部屋の奥。先へ続く道と思しきその開いた扉の前に、誰かが佇んでいる。2足歩行、4本の腕。特徴的な姿の影。逆光で良く見えないが、そのシルエットは、外科医、シリンジョンと思える。
声を出そうとした私はしかし、その人物がこちらをじっと見ていることに気が付いて止まった。
見られている。言葉なく、静かに。
観察するような―――見定めるような、視線だ、と思った。
踏み出そうとした足が、逡巡に縫い留められる。
吊られた者たちを挟んで、視線が交わる。
―――何かを問われている気がする。答えのわからないそれに臆しそうになる、が、しかし、進まねばならない。
戸惑いを振り切って、私は、一歩足を進めた。あの、と声を上げようとする。
前方の影は、息を吐いた、気がした。
背後から音。―――違う、接近してくる足音だ。急速に近づいたそれを振り返り、その主が吊られた者達に酷似した姿だと認識した次の瞬間には、私は頭を強打されていた。
意識は暗闇に飲まれる。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
気が付いた時…私はどこかに横たわっていた…?
未だぼんやりした視界であたりを見回す。天井のライトが煌々と白く光る。明るい部屋だ。ストレッチャーや点滴…医療器具…ここは…手術室…?
「―――人間というものはつくづく目に余るな」
しゃがれた、男性のものと思しき声がする。ぼんやりしたままその声の方向へ視線を向ける。
紅い姿。黒い瞳がこちらを見下ろしている。
「打撲、切創、擦過傷…その脆弱性は見るに堪えん。貴様らの身体の限界にはうんざりする。―――おい、鋏をとってこい」
傍にいた助手らしい者…吊るされていた者たちと同じ造形…が、離れていくのが見える。
…はさみ…?はて、何を…。
「今、“自分は不運だ”と思っているかもしれないな。だが、実際は名誉なことであると教えてやろう」
視線を動かした先…隣の台に薄緑の同じ造形の者が寝かされている。まるで手術前の患者のようだ。目線の高さからして私も同じように…。
…、…。
「私の作戦に参加できるなど光栄だろう。誰の記憶にも残らない敗者としてではなく、貴様は偉大な計画の一部として死ぬのだ」
―――あコレもしや改造手術!?
どうも外科医というより科学者っぺーな、しかも頭にマッドが付くタイプと見たぞ!?!?
急激に覚醒した私は飛び起きようとした。身体はいう事を全く聞かず微かな身じろぎで終わる。いや待ってほしい。
「―――おまちを、ドクター、」
私は何とか口を開いた。舌が回らない。
つらつらと喋っていた相手は視線をこちらにやり微かに目を眇めた。
「…薬の効きが甘いか、面倒だな」
体がうまく動かないのはソレか!でも効きが甘いといいつつそのまま手を止めないの怖すぎるな!?
「げかいを、さがせと、いわれてきました…!」
何とか話を聞いてもらおうと私は必死に口を動かす。
「はぁ?誰に」
「うすまん、に」
「―――あのクソ人間代表が今更何の用だ?」
急激に下がった声の温度に私は声を張った。
「あかいほう!ぱーてぃはっとの!」
「あぁ?そちらか。紛らわしい言い方をしおってからに」
手術しようとする手が止まらない。待って欲しい。
「へいかが!わらって、いたずらものが、にげました!みんな、おそわれて、おうしゃくの、ぱーつを、さがしに、」
「―――今言った情報は全てに鮮度がない。伝令としては下の下だ。クソの役にも立たん」
もう誰かが辿り着いていて知っているのか?誰だそんな優秀なひとは!―――おわぁ、候補が頭に過った、もしかして彼か?
そんなことを考えている暇はない。刻一刻と紅い手の先のドリルが近づいてきている。死んだかな?
―――いやいや死ぬとしてもその前に言わねばならぬことがある!約束なんだ!
「ついんずが!あなたを、まっていました!」
―――ぴたり、とその手が止まった。
……?私は呆けてそれを見た。何だ…?と思考を回して気が付く。新鮮な、情報。誰も知らないこと。
「うえの、かいで、あいました。おとうさんを、まっていると、つたえてほしい、と」
「知らん者と話すなと言ったはずだ」
「たすけを、もとめて。…いちにちいっぽんは、まもってました、よ?」
「…、…飴をやったのか…」
はぁ、…と彼は顔を歪めてため息を吐いた。面倒そうな顔だ…。
彼は手を横に伸ばした。
「鋏。遅い」
嘘だろまだやるの?
「頭は元のままにしてやる。ツインズについて後で聞くからな」
やめて!私を改造する気でしょう?ショッカーみたいに!ショッカーみたいに!!
「しらん。とっとと寝ろ」
必死でガタガタ揺れる私の元に、助手と思わしき人物が道具を届けに来る。
―――しかしのその手に握られたものは、鋏でなかった。
…、…。
じろり、と差し出されたそれから視線を上げて、ドクターが助手を睨む。
「それは、鋏では、ない」
重々しい声が零れ、そして持ち上げられた紅い右上の腕のドリルが回転しつつ助手に向けられた!
「鋏と!ハンマーの違いを!!何度教えさせる気だ!!!」
彼らが視界から外れる。が、ギュルギュルとドリルが回る高い音が激しく状況を主張する。確実に刺さっている。
「この
ぐらつき始めた視線を何とか動かした先で、外科医の背中が見えた。その向こうで緑の液体が噴出し助手の手足がバタバタしている。―――手術着って緑なのは血液が赤いかららしいね。その点ドクターの体色が紅いのは理にかなって―――現実逃避をしている場合ではない。
なんてこった、助手さんが私のせいで大変なことになっている。と、止めなければ……だめだ、いよいよ、頭がぼんやりしてきた。
「貴様を再利用してやろうか!!!」
―――待ってくれドクター。鋏なら貴方の上部左腕についている。落ち着いてほしい。
私の仲裁は声になることなく、意識は暗闇に飲まれていく……。
P1:多足の虫の特に足の動きが苦手。バッタの怪人と仮面のヒーローを分けるものが何だったか、かつて子ども心に考えたりした。
黒いクモ:指令のままに追いかけてきた。ターゲットには自分からアタックはせず、物陰から観察してじっと待つタイプ。
蜘蛛たち:つられてやってきた。野生故センサーは敏感ですぐ逃げる。
外科医:テリトリーが明確。
助手:2分の1まで絞れていた。急いで触って確かめたが5割を外してハンマーだった。
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あけましておめでとうございます。