気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
これ以降、以前に増して、捏造設定、独自解釈、妄想が含まれる。ストーリーの大筋は変化なく進行する予定だが、原作キャラクターの印象を著しく損なう可能性がある。原作準拠であることに重点を置く方は誠に注意されたし。
相も変わらず、本作はこまけぇこと気にしない人向け。
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前回のあらすじ
紆余曲折の後、改造手術を回避し、外科医と協力することとなる。完全な王笏が黒いヒルに渡ることを阻止する目的のもと、緑の巨人を利用する作戦を共有する。
「貴様にお誂え向きの物がある。私のアシスタント共が作製した物だ」
連れてこられた先は、銀色の奇妙な装置があった。シリンジョンはその装置にある4つの窪みに腕を入れて押し込む。―――なるほど、彼にしか開けられぬ仕掛けの鍵な訳だ。たちまち横の穴から何かがせりあがってきた。
ソレを腕で示しつつ、シリンジョンが声高に宣言する。
「―――その名も『リモコン2.0』!……、……今付けた名前ではないぞ」
私はそれをまじまじと見つめた。見慣れたドローンのリモコンに似ている。しかし、目の前のそれはアンテナが2本あった。
―――……増やすなら、ボタンの方では、ないのか……。
自分では思いつかないアイデアに感嘆して頷く私を見降ろし、シリンジョンは心持ち得意げな声で続けた。
「手に取れ。貴様にやる」
「ありがとうございます」
持ってみると、やはり馴染みのあるドローンリモコンだ。重さも大して変わらなく思える。
…鞄から前のリモコンを取り出して比べてみた。やっぱりほんの少し重いだけだ。
「―――その古臭いリモコンのような哀れな機械を見ていると、改造せんでは気が狂いそうになるな」
落ち着いてくださいドクター。
研究者気質の外科医の気を鎮めるべく、私は話題を逸らす。
「これにはどんな機能が備わっているのですか?」
彼は楽し気に目を細めた。
「試してみるか?」
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――――結論。すごい!
私はドローンのコントロールパネルから顔を上げた。
現在いる部屋は前面に大きな窓があり、そこから一階層下の様子が見下ろせるのだが、たった今私はドローンを使って、その場所を細かく見ることができたのである。
つまるところ、この新たな機能は『ドローンにカメラをつける』と『移動コマンドに上下を加える』というものだ。以前なら見えず指示が出せなかった位置でも、視認可能になったことで文字通り手が届く範囲が格段に広がる!
私がリモコンを掲げて称える横で、外科医が腕を組む。
「どうだ?」
私は顔をそちらに向けて大きく頷いた。
「素晴らしい改良です!おっしゃった通り、より広く詳しく状況を観察できます。―――多角的に、ですね。優れた視点です。製作は助手の方とお聞きしましたが、アイデアは、貴方が?」
「構想は私だが、組み上げや調整は奴等の仕事だ。…そうか、良いか」
なるほど、目の前の彼もそうだが助手さんたちも優秀なのだな。
頷いて、私はリモコンを持ち上げたり、裏返したり、重さを確かめたりした。―――やはり少しも大きさが変わっていないし、重さもほんの少ししか変わっていない。それも、アンテナが増えた分以下に思える!
「軽量、シンプル、しかし機能的…。中に詰められた技術を思うと驚きです」
もう一度顔を上げた先で見たシリンジョンは、別に機嫌が悪くはなさそうだ。
…、…。対してこちらは浮き彫りになった事実にじわじわ刺されていた。そう、リモコンは素晴らしい。
私は真面目な顔で、告白した。
「―――つまり、問題なのは私の操作技術ということです」
「そうだなクソ人間。未だかつてない飛行軌道だった」
外科医は鼻で笑った。
「負荷耐性でも見とんのかと一瞬思ったが。まぁ性能確認には十分な指示だったな」
製品の耐久性テストみたいな扱いをされたから怒らなかったんだ…複雑な気持ち…。
「その腕でよくここまで来たな貴様」
「…一度だけ、横で見てたウスマンが手伝いを申し出てくれました…」
「なるほどな。クソ中のクソというわけだ」
「…そこまででは…」
一応今までの謎解きはクリアしてきたわけだから、ギリギリでも合格ラインなはず…。
沈む私を見つつ、シリンジョンはやはり鼻で笑った。
「さて、使い方はわかっただろう。見たとこ少しずつまともにはなっているからな。―――そろそろゴリラを探しに出たほうがいい。ダダドゥーが何を考え計画しているかは知らんが、碌でもないことなのは確かだ」
揶揄いの声は一転して、瞬間的にやや冷ややかな声となる。
…ダダドゥ卿。報告書やビターギグルの話によれば、彼らはもともと仲間だったはずである。私はそっとシリンジョンを見上げたが、彼の声色はすぐさま平素の状態へと戻った。真面目な声だ。
「ゴリラの目撃者を通りの一角で待たせていたんだが、貴様のおかげで片付けなきゃならん問題が増えた」
問題、と私はその視線の先を見た。手術台で横たわる…助手さん…。改めて思うが、彼らは一体どういう存在なのだろうか。見た目は、薄緑色の細身の身体に大きめの頭部、大きな目と小さめの口。痩せたグレイタイプの宇宙人を、やや頭部を横楕円型にしたっぽい感じだ。
仰向けの彼は、目は開いているがピクリとも動かない…。
「あの…彼は、その…これからどうなさるので…?」
「改良だが?」
…、…。う…ん…殺生ではない…しな…。私が口を出す範疇ではない…か…。「おせっかい」とシェリフに紹介されたと知ったばかりだ。ツインズがシリンジョンを父と呼ぶなら、助手さんらの身柄も、シリンジョンの管轄だろう。
「で、私は手が離せん。代わりにお前が話してくるというのはどうだ。どうせ誰かを送ることになるかもしれないと伝えてあるしな」
私は頷いた。
「差し支えなければ、私が行きます」
「よし。街は明るい故、ノーティワンズに襲われることはないだろう…、…まだ何か言いたいことがあるようだな?」
助手さんの姿を見て、あることを思い出していた私は頷いた。
「―――お伝えしそびれていました。私が寝ていた部屋にいた患者さんが、咳が酷かったのです」
「奴か。飴でも食わせれば治る」
「拾ったピンクと白の飴をお渡ししたらすぐさまお食べになりました。問題はありませんか」
「…、…まさしくそれで良いが、…ああそうだったな、双子で既に知っていたか」
シリンジョンは、奇妙な者を見る目をこちらへ向けた。
「そういえば聞くのが遅れたな。双子にはどれだけの飴をやった?」
「周囲に散らばっていた、ピンクの飴を8つ。彼ら自身で食べられる位置に置きました」
「…、…問題ない。担当者及び保護者として礼を言おう」
静かな調子だ。その落ち着いたテンションの彼を見ているとやはりマッドな科学者より医者であるという印象が増す。
「やはりあれらの飴は薬なのですね。ピンクと緑があると話していました」
「薬剤と栄養剤の役割だ。主成分にジバニウムとまぁ諸々だが」
なるほど。それでツインズは『急に食べ過ぎると大きくなる』と言っていたのだなと私は頷いた。
「ジバニウムの急激な摂取は負荷が強いと聞きました。あの飴の形は良いですね」
「―――そう思うか」
落ち着いていた黒い瞳がこちらを向いた。頷く。
「小さな子でも時間を掛けて摂取できます」
「そうだろう」
カチリ、と彼の手のプライヤーが鳴った。
「初期の錠剤の処方では摂取し辛そうだったからカプセルからシロップ形態をとったが、一握りの馬鹿ががぶ飲みしやがったので考慮した。液体であるジバニウムの成分調整には苦労したがまあそこは偉大な手腕の持ち主には訳のない壁だ。どんなに舐めても少しずつしか溶けず長時間形を維持する!しかも味もするという優れモノだ。飽きるなどという不心得者のために2種を展開し―――なんだ、何を笑っている?」
怪訝な顔をしたシリンジョンに、私は微笑んだ。好感と敬意からくる明るい気持ちで答えた。
「棒付きキャンディを選んだのですね」
医療の道具を。薬の摂取法を。
数あるモデルから、その、丸く甘い形を選んだ相手を見た。
その試行錯誤を、好いと思った。
「その発明は、とても、素敵なものだと思います」
「―――…貴様に言われんでも知っているが」
「はい。すみません」
私を奇妙な表情で見たシリンジョンは、むすりと顔をそむけた。機嫌を損ねたか、と挽回に口を開きかけたが、紅い腕の一本が器用に私を扉の方へ押し出す。
「貴様がいると話が長くなってかなわん。いらんことに首を突っ込みおって。―――早く使いに行ってこい」
「はい」
これ以上機嫌を損ねても良くない。私は手早く鞄を確認して、…ついで、発見した報告書を拾って急いで扉へ向かう。
振り返った先で、手術台にいる助手さんの姿がちらと見える。―――しかしもうあまり、彼の処遇を心配にはならなかった。きっと良くなるだろうと思えた。
「いってまいります」
一礼して進みだした私の後ろで、医療器具が返事のように鳴った。
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扉があいた先。壁には何やら説明文らしいものがびっしり書かれていた。
シリンジョンのイラスト。
『シティンジョンに入場することにより、以下の規約に同意したものとする
・市長の判断により理由なくいつでも捕縛される可能性があり、それに従うこと
・市長の判断により選ばれた場合はいつでも市長の作戦に参加すること
・市長の判断により理由なくいつでも処刑される可能性があること
・市長の銅像の前を通るときは、必ず頭を下げること。そうしない行為は罪に問われる
・人間やノーティワンズに対するもの以外の他者への犯罪は、事態に応じて起訴される
規則を守り、満たされた日々を過ごすこと』
近代独裁者もびっくりのワンマンルールだ。
…、…。急激に心配がぶり返した私は扉を振り返った。助手さん大丈夫だよね???
「改良」とシリンジョンは言った。処刑ではない。だいじょうぶなはず…。
……いまいち安心はできないまま階段を降りる。
辿り着いた先は、街…シティンジョンの入り口らしき広場だ。天井の高さからか開放感がある。全体的にやや暗いものの照明で視界に困ることはない。
……進む先にいた市民らしき者に2連続で走り去られた私は、前途多難を悟って神妙な顔になった。確実に避けられている。とはいえ進むしかあるまい。
巨大な像を発見。これが説明文で見た市長の像らしい。金属を叩き上げた質感のシリンジョンの像は、ライトに照らされて銀色に鈍く輝いている。4本の腕を広げて上を向き、足を一歩踏み出すようなその形は、静謐さよりも荒々しさを感じる。製作者は彼の静かな知的さより前進するエネルギッシュさを強く打ち出したかったのかもしれない。聳え立つ金属の像には威厳とか確かな自信とかも感じないでもない。
ちゃんと規則通り一礼して…ついでに遠くに見えたゾルフィウスに向けても会釈をする。こんにちは。貴方もご無事なようで何よりです。
また、近くで報告書を発見した。先に見つけたものと一緒に読んでおこう。
Case4の更新番号5だ。
『Case4のトレーニングが本日開始された。この訓練は、Case4がもつType5の4つの資源全てを使いこなすように構成されている。これはCase4が最終的に操作する必要のある複雑な手順を考慮した結果だ。進捗は見られ期待もできるが、次の段階に進む前に、この種の訓練をさらに行う必要がある。
コンディション調整の専門家の1人が提示した通りに、運動スキルトレーニングの後に同時に実施される訓練は、次の3種類で構成される。
* Caseらの外科手術
* 違反者の封じ込め
* 機械のメンテナンス
我々は、将来的に使用が保証されないことを理由にCase4を放棄するのではなく、それを責任のない多目的な技術資産に変換することが賢明な決定であると考えている。この計画に対する経営陣の承認を待っている。
Caseは永久に発表の準備ができていない』
シリンジョンが幼稚園に不適と判断された後の様子だ。下層行き…とまではならず、施設側は彼を裏方の貴重な労働力として運用するために訓練を行っていたらしい…。
もう一つの報告書。Case4の更新番号10-A。
『訓練以外でCase4が作成した生成物に関する観察記録の概要については、添付を参照願う(経営陣の要請による作製)。我々はこの生成物を「Case4B」と命名した。
Case4Bは形状や振る舞いが多少異なる場合があるが、大部分は見た目も動作も非常に似通っている(まるでCase4が自身の技術を完璧にしようとしているかのように思える)。添付の文書は例外を除いたCase4Bの大部分に適用されるものである。
添付の文書を読む前に、我々の専門家はCase4がCase4Bに関して何らかの悪意を持っているとは疑っていないことにご留意いただきたい。
これは、Case4が目的について尋ねられたときの回答によって裏付けられている。それは単に上達するための練習である、というものだ。経営陣にはCase4がこれらの活動に参加することを妨げないよう、再度願う。
Caseは永久に発表の準備ができていない』
Case4Bとは…何度も見ている助手さんらのことだと考えてよいだろう。彼らは一部の例外を除いて良く似ているようだ。シリンジョンはサブケースを自ら作り出した、という事になる。それも、安定した精度で何度も、技術の向上のために。――――その技術の向上は…何の目的意識のもとに行われたのだろうか…。
…、…。報告書を一旦しまい、私は顔を上げた。
さて、目撃者に会いに行こう。
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…街はかなりの規模だった。途中の道でノーティワンズがぶっ倒れていたり、灰色と紫に染まったキティが横倒しになってその前で市民が喜びのダンスを踊っていたりしたのを見るに、『明るいから襲われる心配がない』というのは確かなようである。倒れたままのノーティワンズは気にはなったが、勝手に助けて周囲が襲われては大ごとだ。…そうっと道の端へ移動し楽そうな姿勢に横たえるくらいにしておく。
歩く先の市民に大いに避けられたり無視されたりしつつ、私は何とかシリンジョンから聞いていた特徴の、目撃者らしき人物の元にたどり着いていた。
赤いキャスケットの人物は、私が近づいた段階で顔をしかめていたが、あの、と声をかけた瞬間に盛大にため息をついた。
「―――市長が代わりに寄越した人物ってアンタのことか、まさか?…人間?」
初手で滅茶苦茶に嫌われていることを察した私は、しかし最大限に丁寧に頷いた。せめてこれ以上心象を悪くしないようにしよう。
「どうなっちまったんだこの街は?今は何でも雇ってんのか?」
「ドクターは今、別件で外せず…ボランティアで私が来ました」
ボランティア!とキャスケットの彼は鼻で笑った。
「人間がこの街で。そうかよ。…アンタのレベルに合わせてやるよ。いいか?俺は街を襲ったらしき怪物を見たが、どこへ行ったかは知らん。何か描くもんを寄越したら絵を描いて渡す」
彼は肩をすくめた。
「全部、俺たちのために色々やってくださる市長のためだ。いいな?」
疑うべくもない『てめーのためじゃねぇから!』を念押しされつつ、私はすぐさま紙とペンを渡した。
「よろしくおねがいします」
「…、…。あーそう、準備がよろしいこって」
ペンは突き返された。彼は自身の持ち物であろう鉛筆を手にする。
さらさらとその場で左利きの彼は鉛筆を動かした。
「これが俺にできる最大限だ。他の事なんか求めるんじゃないぞ」
突き出された紙を受け取る。…描かれていたのは、ジャンボジョッシュと、ノーティワンズ、それから何かバルタ〇星人ぽい頭の者…――――いや
私はそれを持ち上げ、明かりに照らしてよく見た。鉛筆の黒で描かれたそれは、しかし濃淡によって一色の絵ではなかった。影と光の表現によって平面的な印象を脱している。描かれた線の1つ1つが、単純で迷いなく明確だ。脳内イメージと出力が齟齬なく行われている様子。描き慣れた者の絵と思われた。
「控えなんて描かないからな。特にアンタみたいな哀れなヤ」
「―――すごい、この短時間で!ありがとうございます!」
飛び出てしまった感想に、何か言いかけていた相手は口をつぐんだ。
しまった。話を遮ってしまった。
「すみません。見事だったもので、つい」
「…みご…」
見事だ。大きく頷く。
「こちらに書かれた2名は、私も知る人物です。しかしこちらの1名は知らない人物でした。―――ありがとうございます、とても、貴重な情報です」
「アンタのためじゃない!」
「はい!市長に、貴方のことを必ず伝えます」
「……なんだよいいよもう!勝手にしろ!早く次の場所に行けって!」
次ってどこだろう、と私はやや考えた。街にはいくつか施設があったはずだ。
「バーにでも行ったらアンタより事件に詳しい奴がいるだろうよ、とっとと行け!」
親切だ。怒ってるけども。
不快だろう人間が目の前からさっさと消えるに越したことはないかもしれない。
「ありがとうございました!」
大きく一礼して、私は次の場所に向かった。
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歩き回って、なんとかバーを発見。道を聞こうにも市民はみんな逃げるか無視なので。
とはいえ相当に嫌われているな…報告書的に、彼らは人間が行えない危険作業を代わりに取り組んでいた可能性もあるし、無理もないかもしれない。…そう考えると、さっきの赤いキャスケットの彼はかなり辛抱強く対応してくれただろう、頭が下がる。不思議なことだが、彼らから敵意はバリバリに感じるが害意は感じない。おかげでそれ程びくびくせずに街を歩けている。
辿り着いたバーの入り口は閉まっていた。手書きで『人間は立ち入り禁止!!』とある。
詰んでるか?
…、…。一応バーの周りを探索してみた。裏手に階段を発見。ついでに帽子が落ちているのも見つける…。
私はそのトップハットを持ち上げて見つめた。
店舗の裏手に落ちていると、忘れものっぽい気がするな…。この街には、帽子を被っている市民もいた。今までは人けがなかったから特に気にせず拾って使わせてもらっていたが、実は帽子の持ち主が近くに存在している可能性が…あるな…。
一旦考えて、拾っておく。後で確認してみよう。
階段を上る。バーの2階の扉も閉まっているが、扉の穴から開いた窓っぽいのが見える。―――お誂え向きにあるドローンのコントロールパネルについて考えると、新たな機能の出番と見た。
私はリモコン2.0を取り出した。
無事に開いた窓からドローンを室内に送り込み、スイッチを押すことに成功した。所要時間は考えないものとする。2階の扉横のパネルが反応するようになったので、キーカードを使って中に足を踏み入れ―――いいのかほんとに?
不法侵入、と久しぶりにその文字が頭に浮かぶ。―――いやいや、シリンジョンのお使いなので。ここだと彼が法律のはずだ。
いやでも人間立ち入り禁止…、…。
…、…。
一旦私は市長に話をしに行くことにした。
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「立ち入り許可ぁ?」
何言ってんだコイツと言わんばかりの外科医の声に、私はそうっと付け加えた。
「こう、建物内を自由に歩いていいよ、みたいな…市民カードみたいな…」
「貴様が私の市民な訳ないだろクソ人間」
「いえそうなのですが」
私は声を絞った。市長は“貴様なんぞの責任を負って堪るか”とぶつぶつ言っている。
「その、目撃者のかたは…赤いキャスケットを被った親切なかたで、市長のためだといって快く情報提供をしてくださったのですが…施設に関しては…。円滑な仕事のために、嫌われていても何とか活動に支障がないレベルの行動権みたいな…こう…簡易捜査令状的な…」
「―――はー、なるほどな」
頬杖でもつきそうなシリンジョンは作業の片手間に何かを書きつけた。
ひらりと私に渡されたそれは、彼のサイン入りのカードだ。『許可証』と書いてある。
「立ち行かなくなったらそれを使え」
「…ありがとうございます!」
「ついでだ、街の様子も報告しろ。混乱はあったか?」
「いえ、特には…。あ、そうでした、途中でノーティワンズやキティサウルスが倒れているのを見ました。脅威はなさそうでしたが…」
「猫の方は対処済みだ。ノーティワンズは…まぁ問題なかろう。明るさも十分なはずだ、動けまい」
十分な明るさ。私はノーティワンを怯ませたドローンのライトを思い出した。あれでは動きを止めることはできず、最終的に有効だったのは打撃だった。…、…。
「ドクター。彼らについて私も知っておきたいと考えています。貴方を…ジバニウムを用いた生物の専門家とお見受けして、ご教授をお願いしたく。―――彼らは、どうなると動けなくなるのですか」
じぃっとこちらを見下ろしたドクターは、言葉を選ぶように、そして私の反応を良く見つつ話を始めた。
「ノーティワンズは私の打撃でもギリギリ昏倒させられるが、それも永続ではない。効果的なのは明かりを当てておくことだ。体全体を照らせるほどなら心配がないな」
「ダダドゥー卿も?」
「いや奴は論外だ」
食い気味に否定が入った。
「そこいらの者の打撃なんぞ相手にならんし、明かりは好まないが根性で立ち上がって平気で行動してくるし、とにかく無理だ」
「無敵な生物の話をなさってます?」
あんまりな話に口が開いた私を見て、シリンジョンが答える。
「―――奴の全盛期を見せてやりたいもんだ」
どこか懐かしむ調子でシリンジョンは言った。
「弱点を物ともせんどころじゃないぞ。…奴には、異論のない野心と献身があった。だが奴は今―――貴様ら人間が我々にしたことを受けて、奴を創ったすべての者を根絶やしにしようとしている。ま、今んとこ貴様は対象外だ、安心しろ。奴の狙いは裏切者共だ。私も含めた、な」
シリンジョンの目は少し遠くを見た。
懐古とは別の、温かさとは真逆の、冷えて落ちた声が零れる。
「―――もしも、我々が捕まったあの時。臆さず奴の側に付いていれば、勝利しただろうかと考えはした。だが、何度考えやり直しても、私はやはり今と同じ場所にいるだろう」
…、…。
不思議な気持ちでその横顔を見上げた。
遺恨というには静かで張り詰めていると思った。
その薄氷のような静けさの奥に、他に何か見えないだろうか見つめる先で、その黒々とした目ははっと我に返ったようにこちらを映して瞬いた。たちまち薄い影は掻き消えて、権威ある外科医で市長の顔が現われる。
「貴様ほんとに話を長くするのが得意らしいな」
し、心外だ…。質問はするが話をしてくれるかどうかは相手に委ねられている。第一、余計な話ではないから長くてもいいのではないだろうか。コミュニケーションは大事だと思う。
「友好的関係には会話も大切だと存じ…」
「誰が私と友達になれと言った?気が済んだら続きに行ってこい」
もう平素のドライな対応だ。切り替えが早い。私は怒られないうちに部屋を後にした。
P1:すごい物を見るとテンションが上がる。素人なので「すごい」のハードルは低い。
些事によって本質を見たと誤解し、他者へ勝手な期待を抱くべきではない。
外科医:自分の能力に自信をもっている。周囲の理解が得られずとも全く意に介さないが、それはそれとして正当な高評価は貰っておく。
鋏を間違えた助手:ジバニウム不足。手術待ち。
猫恐竜(洗脳された姿):対大型の罠にかかった。テンションが下がってふて寝。
絵描きの市民:デッサンをよく描く。ペースを乱された。