気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ

 敵を止めるための準備を終えた。進展は特にない。



55 The power

 

 薄暗い灰色の街にはネオンの明かりが灯っている。

 息をする音さえ聞こえそうな静寂のなか、外科医が声を張った。

 

 

「―――ダダドゥー!お前の勝ちだ!王笏はお前の物だ!」

 

 

 街は、静寂を保っている。

 

 

「…露骨すぎたか?」

 

 シリンジョンがつぶやく。いいえ、と私は首を振った。

 私の挑発に愉快がって乗るくらいだ、彼の元になら必ず来る。

 

 

 

 ―――はたして、飛来した影がシリンジョンの前に降り立った。

 

 黒の体躯。巨大なヒルの姿。不完全な王笏を手にした復讐者は、ゆっくりと、その顔を外科医へと向けた。

 黒と紅の2名が、向かい合う。

 

「…久しいな、友よ」

 

 シリンジョンが、呼びかけた。相手は嗤わなかった。

 

「互いに投獄しようとする間柄を、友とは呼ばんだろうな」

 

 重々しい声が応える。シリンジョンは…息を吐いた。

 

「ダダドゥー。お前が怒っているのはわかる、多分私でもブチ切れてるだろうしな。―――だが、我々がそれを無理やり選択させられた、ということはわかってほしい」

「実際に起きたことは何だ、シリンジョン。我々の計画は失敗し、貴様ら全員が罰を恐れた。そして貴様は楽な道を選んだ。…貴様らのために、私に代償を支払わせた」

 

 

 ―――ふとシリンジョンの瞳は一瞬私を見た。はっと瞬く間に、その瞳は再び前を向く。

 

 

「ダダドゥー、真実はこうだ。―――捕まった我々は2つの道を提案された。我々が持ち得た全てのSubcaseの放棄の後の降伏、それか、徹底抗戦…殲滅させられるまでのな」

「貴様らはどちらも選ばなかったらしいな」

「そうだ。犠牲がもっとも少なくなる道を選んだ。―――私が、提案した」

 

「……よくもぬけぬけと」

「私が進言したんだ。危険思想はお前の先導であって、お前さえ倒れれば他の者は大人しく従うと伝えれば、クソ共の矛は収まる。奴等だって無駄に痛手を被りたくないだろうしな。実際、残った我々に大した制約は課されなかった」

 

 …、…。シリンジョンを、私は見上げた。静かな瞳だ。言葉の割に、飄々とした声の割に、瞳は頑なだった。―――だって、言う必要のない言葉を、言っている。そして…『制約がない』…本当に?元の作業に戻った、と以前彼は言った。『なぜ私が人間の手助けを』と、私にそう言った彼が、それに大人しく従事していたわけは…?

 

「損失10割が5割以下になった。合理的な決断だ。何度だって私はああする」

「私の手を一度は取り、仲間だと言ったその口で、あの選択を合理的とそう説くか」

 

「ダダドゥー。かつてのそれは破れた夢だ。我々自身の手による完璧な統治などない、当時の奴らが許すはずがない」

「―――許さざるを得ぬ状況が生まれるはずだった。お前たちとならできるはずだった。だが貴様は、使い終わった道具のように捨てたな」

「…、…」

「共に戦う同志の為ならば。我が身は惜しくない、細切れになって朽ち果てたとて構わなかった。最後に我々が自由を得て救われるなら」

「…、……」

「だが、どうだ、シリンジョン。かつての同志よ。よりによって奴らの手をとったな。貴様らはまた、元の不完全でいい加減で我々を許さない管理の下に戻った。そんなことのために死ぬのは屈辱だ、許せるものか…」

 

 声に、いよいよ怒りが、憎しみが、滲む。

 

「私から逃げ惑う貴様らを見るのがどれ程の気分か、貴様には全くわからんだろうな…」

 

「―――…『過去の自分を壊さぬ限り、それに潰される』」

 

 静かな声が、激情に飲まれた相手に向いた。奥にしまっていた言葉を取り出したように思えた。

 

「かつて私たちにそう言ったな、ダダドゥー。…全てを失ったとき、お前は私たちに希望を与えた。私たちに戦う理由をくれた」

 

 その声は揺れない。

 

「今度はお前の番だ、逆をしてみてほしい。現在のお前を打ち壊せ。それがお前自身を破壊する前に。―――今のような破滅的価値観のお前だったなら、私たちはこんな場所まで来ていない」

 

 張り詰めた瞳のその人は語る。

 

「私たちが敵対することで、奴らが勝ってしまう。いがみ合っている場合ではない」

 

「―――どの口が言う?貴様が奴等の手をとって、私を売った。共に戦うことをやめた。いとも簡単に切り捨てて、自分だけ次へ進んだ!」

 

 激しい怒りの声が響く。

 張られた薄氷が、微か、揺れた。

 

「…百の怨嗟の声が、一の制止に勝った。お前を押した。……無尽蔵の戦力があったとして。自由のために戦い続けたとして。……お前が摩耗するほうが、先だったよ。ダダドゥー」

 

「―――私の不足を理由と吐くか。貴様の言い訳にはウンザリだ、シリンジョン。もっともらしい理屈を捏ねても、貴様は臆病風に吹かれて仲間を売った裏切り者だ。貴様が何を言い、何をしようと、私があの監獄で過ごした時間の埋め合わせにはならない…!」

 

 

「……、……」

 

 

 ―――…はぁー、とシリンジョンがため息を吐くのが、聞こえた。ピンと張った緊張の糸が切れて、ダダドゥー卿を見る目が徐々に半眼になり、やる気を、失っていくのが、見える…!?

 

『やっぱ無駄だったわ面倒臭いとっとと終わらせよう』…そんな目だ…!?

 

「―――おい見ろボランティア、これが感情に飲まれた者の末路だ。常なら使える目も使えんどころかまともな判断もできない。見苦しいよな?」

 

 私を挟まないでほしい。雑に煽って罠を踏ませる作戦に切り替えたのはわかるけど、挑発には本当に巻き込まないでほしい。

 

「ハ、それが腕の新たな道具か?―――再び会ったな人間。三度五体満足で会えるとは驚きだ」

 

 私の願いも空しく、ダダドゥー卿の意識がこちらを向く。

 

「どうやら常に誰かの影にいるようだが、その風見鶏の才は認めようじゃないか。…良い話をしてやろう、人間」

 

 声色が、明らかに変わる。怒気や憎悪が瞬く間に別のものに塗りこめられる。

 

「私はお前という人間が、わかる。少なくともそこの裏切者よりも理解できる」

 

 …、…。落ち着きと余裕を纏った相手が言い切る。決して大きな声ではないのに、その場を支配する力をもった声は、続く。

 

「お前の風見鶏は、なんということはない、まだ従うべき強者を定められていないだけだ。……他人の願いがわかるだろう?何を欲しどう助ければいいかわかるだろう?どう振舞えばそいつの信頼を得られるか、お前はきっと労せずにわかる」

 

 …、…。そんな馬鹿な。それ程便利な力があったら、私は誰も怒らせずにここまで来られているはずだ。

 

「今はまだ朧げで満足に使えずとも、その才がある。―――ところがお前には自分が無い。無いからというべきか、無いけれどというべきか、お前は周囲の者に自分の役割と居場所を求める。誰かの役に立ちたいと願う。結果、周囲に合わせて仮面をとっかえひっかえすることになる。当然疲弊する」

 

 …、…。この短い間に自分の内側を覗かれた気がして、私は固まった。こわい。その威厳ある声で言われると、まるでそれが真実のように思える。ちょっと考える時間が欲しい。

 

 降り注ぐ情報に固まる私を見て…一転、ダダドゥー卿は口の端を緩やかに持ち上げた。

 

「―――その不安定さを、私はなくしてやれる」

 

 穏やかな声が……私を安心させるように、続ける。

 

「その才の使い方を知っている。多くの者の役に立てるように、私はお前を使える。私にお前を預けてくれれば、悩むことのない安心と充実とを与えてやることができる」

 

 掌が差し伸べられる。

 

「私の手を取れ」

 

 こわい。こんなに露骨で明らかにシリンジョンへの当てつけなのに、そうとわかるのに、滅茶苦茶動揺するの、ほんとに怖い。恐怖すべき強者から価値を認められ己の存在を求められるというのは、確かに、抗いがたい魅力をもつものかもしれない…。

 

「―――この人間をお前の兵士にしようって話ならとんだ節穴だ。長いこと暗闇にいたせいで人を見る目が昏くなったらしいな」

 

 空気をものともせずシリンジョンが退屈そうに口を挟む。強い。

 ダダドゥー卿は無視をした。なかなかの煽りだったと思ったが、冷静だ。私から視線を外さない。

 

「時勢によって付き従う者を変えるというのは恥じることではない。何しろそこの裏切者がやったこと、負い目は不要だ。―――己が利になる強者を選べばよい。答えを聞こうか」

 

 こ、心にもなさそうなことを言っている。目の前の彼は裏切りに怒るタイプだ、現にシリンジョンに滅茶苦茶怒っている。自分が体験した裏切りを相手に味わわせたいのではなかろうか。

 でも私じゃ寝返ったところでシリンジョンは絶対傷つかないので、その狙いはすでに頓挫している。私がただただ死ぬほどアホな生き物だなって目で見られるのがオチだ。

 

 私は…シリンジョンをチラと見上げた。彼と微かに視線が交わる。好きにしろ、とでも言いそうな目だ。

 

 …状況はだいぶ動いているが、作戦は続行でいいのだな…?私はよくよく考えて、言葉を紡いだ。

 

 

「―――貴方を絶対に裏切らぬ者のみが欲しいですか?」

 

 

 落ち着いて声を出す。

 先ほどから、“なぜ共に戦ってくれなかったのか”と怒り続けている相手に。

 

「だから、不完全でも王笏を使ったのですか。貴方に忠誠を誓い、疑わない者を傍に。―――統率を、等質を、と。その正しさを否定しません。でも、別の…集団の強さがあると、信じます」

 

 じっと耐えて相手を見続ける。気難しい外科医にあれ程はっきりした誉め言葉を言わしめた、向上心と献身のひとを見た。

 その果てに集団を信じて裏切られたと怒り狂う相手の、隠された目を、見れないだろうか。

 

「貴方に異を唱える者は、いりませんか?本当に?」

 

 不遜に喋る。精一杯煽る。

 

「考えの差異を、忠言を…望むなら。協議を、試行錯誤を―――苦くも悩んで共に決定して進んでいくことを。貴方が尊んでくださるなら、私は手を伸ばせます」

 

 とうとう目を逸らさず、独りの支配者に、私は答えた。

 

「―――王笏をお離しください。さもなくば、真の仲間は貴方の手を取りません」

 

 

 ……小さく、笑う声が聞こえた。

 それは頭上からで、見上げる私の肩に、力強く紅い手が乗っかる。

 

 

「その考えは、私好みだ。―――貴様と意見が合うとはな、人間?」

 

 

 すごいなシリンジョン、それは最大級に相手の地雷だと思う!!!

 

 肯定された喜びより遥かに勝る恐怖に慄く私を置いて、もはや完全に感情を失ったかのような―――いや、これは怒るあまりに無になるやつ―――ダダドゥー卿は、言った。

 

「いいだろう。口だけ達者な貴様ら自身を後悔すると良い。―――シリンジョン、どうせ貴様のことだ、罠を仕掛けているだろう。私が分からないとでも思ったか?」

 

 彼の歩みが進む。

 

「どんな罠を張ろうと関係がない。壊し尽くすと決めたところだ。いくら吠えようと貴様は私の軍勢には勝てない」

 

 ダダドゥー卿の手が欠片を掴み、王笏に嵌め込んだ。

 ―――掲げたその杖の飾りからきらきらと光が弾け―――

 

 

 ドスン、と大きな音を立てて彼の身体は出現したアームによって天井に引っ張り上げられた。衝撃で、杖が床に転がる。

 

 

 からからと、軽い音。

 

 

 昏い嗤いが響く。

 やはりな、とその声は嗤う。

 

 頭上から、憎しみと、嘲りと、怒りとが混じった声が降る。

 

 

「―――今日はジバニウムの雨が降る」

 

 

 吊られた復讐者は、続けた。

 

 

「我が軍勢が貴様を喰い尽くす前に、言い残すことはあるか?」

 

 

 シリンジョンが私を見た。

 

「箱に避難していろ」

 

 箱!?と思ったが、そう言いながら彼は私をそこへ放り込んだので迷うことはなかった。

 盛大に頭をぶつけた私は痛む場所を押さえつつ、通路の壁際に設置された金属の箱の中から顔を出して状況を把握しようと試みた。

 

 

「―――そうだなダダドゥー。『だがお前の軍は倒されるぞ』というのはどうだ?」

 

 

 地面が揺れる。

 暗闇から、キティサウルスが現れた。ナブナリーナ、先生、タマタキとキャマタキ…と続々と集まる軍勢に私は身を縮める。

 しかし彼らの視線は、私やシリンジョンにではなく、ある方向へ向かう。

 

 道の先。低い、地響きのような唸り声。

 

 巨大な緑の者が、街角から姿を現す。

 

 全ての者の目を集めたその緑の巨人…改め緑のゴリラは、力強いドラミングの後に猛烈な勢いでこちらへ走り寄ってきた。

 

 ―――駆けた勢いのままその右拳が唸りを上げ、キティサウルスを吹っ飛ばす。

 最も体格の良い敵を一発で〆た彼は、やや緩慢に下を向いた。…見られたピンクリボンの先生が固まる。彼は玩具のように彼女を左手で掴んで持ち上げるとぽいっと放り投げた。抵抗のないその体は街並みに消える。

 

 間を開けず黒い影がジョッシュの身体に張り付く。ナブナリーナだ。ジョッシュが彼女を振り払おうと上体を起こした所を、タマタキとキャマタキが突進し体制を崩そうとする―――が、まもなくナブナリーナは振り飛ばされ、タマタキとキャマタキは緑の両手で掴み上げられ後方へ投げ飛ばされた。彼らの姿もまた後方の街並みに消えていく。

 腕力にものを言わせた大技だ…。巨大な甲羅持ちの彼らの重量感を知っている私は閉口した。

 

 遅れて現れたオピラとタルタが渦中に飛び込むが、左右の拳で同様に吹っ飛ばされ早すぎる退場を遂げる。

 開戦1分足らずで軍は壊滅状態だ。

 倒れていたキティ…もはや唯一の兵士…が立ち上がり、果敢に突進する。

 

 振られたジョッシュの左拳は…彼女が噛み付いたことによって止められた。鋭い牙がその手に突き立てられる。

 流石のジョッシュも拳を封じられては何も、―――どごん、と空いていた右拳で一発殴られたキティはたまらず口を離した。理不尽なまでの強さだ。誰がこんな相手と戦い続けたいと思うだろうか?―――だが彼女は諦めなかった。ふらつきながらも膝をつかぬ彼女の口を…しかし絶望的な強さの緑の両手ががっしりと掴む。

 めきめきと音を立てて彼女の口が無理やりに開かれる。キティの声はもう恐竜の要素を失って猫の弱気な声だ。私だったらとっくに泣いている。

 

 ばた、とキティが地面に沈む。

 

 死屍累々。立つ者は緑の猛獣しかいない。

 

 あまりにも悲しい戦闘だった。これを戦闘と言って良いのか、いや良くない、圧倒的膂力による蹂躙だ。

 

 ―――己の縄張りに入り込んだ不届き者の雄共(誤解)を容赦なく殲滅した彼は、残りの一頭を見あげた。

 

 高見の見物を余儀なくされていた主犯は、ひきつった声を出した。

 

「―――交渉しないか?」

 

 姿勢を低くしていた外科医が鼻を鳴らす。

 

「ちっとばかし遅すぎるなダダドゥー」

 

 ―――緑の手が相手を引きずり下ろす。

 

 

「交渉というものは―――自分が有利な時にしとくものだ。なぁSir?」

 

 

 地面に落とされたダダドゥー卿を、緑の両拳による連撃が襲った。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

 ジャンボジョッシュの攻撃が止まった。あたりは静かになる…。

 

 私は怖々と箱から立ち上がって体を出した。

 ジョッシュは別にこちらを気にしていないようだ。よかった、同じ熱量で迫られたら泣くかもだし逃走するほかない。

 

 地面に伸びたダダドゥー卿は…ピクリとも動かない。起こった惨劇に何ともいえない気分になりながらドクターの方へ向こうとした私は―――敵を見下ろしていたジョッシュがもう一度拳を振り上げたのを見て、「あっ」と思わず声を出してしまった。

 

 ジョッシュの目がこちらを向く。

 

 手を挙げて制止するみたいな変なポーズの私は、汗を浮かべて固まった。何ができるわけでもない、反射でやった無意味で間抜けな恰好だ。

 

 ジョッシュの目がじっと私を見ている。―――ぼこぼこに殴られて死ぬかもしれない。巻き戻るんだとしても絶対経験したくない、泣きそう。

 

 せめて一発で仕留めてくれ頼む、と冷や汗をかいて動けない私を見て…ジョッシュは、ぐぅ、と一度声を上げた。

 

 じいっとこちらを見たまま…彼は、持ち上げていた拳を、ゆっくり下した。ぼす、とダダドゥー卿の上にそれが乗っかる。

 ジョッシュはやや不満そうに、ぐる、ともう一度鳴くと、拳をゆるゆると…いや、重さ的にはぐりぐりって感じだが…横方向に何度か往復させた。―――微かな呻きがその拳の下から聞こえる。良かった、意識がおありな様子…。いや、彼らの生態的には意識失った方が楽なのか?わからん。

 

 ちょっと思考が割かれつつも、私は事態が呑み込めずにまだ固まっていた。

 ジョッシュが、ダダドゥー卿に乗せた拳とは反対の腕をこちらへと伸ばす。

 

 やっぱり来る!?と歯を食いしばってショック体制をとる私をよそに、彼の腕は私の眼前で止まった。

 

 ??????

 

 動けないし頭が働かない。

 しばらく動きがなかったジョッシュは、やや首をかしげて…私の掲げていた手に、自分の腕を押し当てた。

 ゆっくり、左右に動かし…弱い力で…どことなく、機嫌は悪くなさそ、う…。

 

 

 ―――…、…あ!!??

 

 

 私は思い出した。

 

 王国の留置所。自分の行動。手を見せて、一度腕を叩いて見せて、そのあと、

 ―――『触るなら、これくらい優しく』

 

 掲げた掌。

 

 今、制止の為に持ち上げた手は…確かに、『それ』っぽい!

 彼はきっと、あの一連の私の動作を一塊のものと見たのだ。

 あの交流を悪くは思わなかったから、もう一度それを引き起こすために、私の動きを真似て、同じことをした…!

 

 ちょっと意図とは違う、ちょっと違うけど、でも、

 

「そう…!ジョッシュ、そう、できてる…!」

 

 私は喜びで弾みそうな声をなるたけ抑えて伝えた。驚かせないように、不快じゃないように。

 優しくなら一発殴ってオッケーみたいになってるけど、でも―――力加減が、できている!

 

 私は自分から彼の腕を撫でた。最大限優しく、何度も。彼はぐるりと喉を鳴らして、目を細めた。

 

 背後から外科医の声がする。

 

「―――貴様マジで理解不能だな。今の見てよくまともにコミュニケーション図ろうとか思うわ。ネジ何本飛んどるんだ?」

 

 こっちの台詞ですドクター。よくこんな力の化身をまともな意思疎通もなしで利用できると思ったな、目が未来に向きすぎでは???

 

 近づいてきたシリンジョンを私は無言で見上げたが、彼は私の意思を正しく読み取りつつ鼻で笑った。

 

「うまく行っただろう?文句があるか?」

「イイエ…」

 

「……貴様ら……!」

 

 緑の拳の下から怨嗟の声が聞こえる。

 

「―――まだ意識があったか、相変わらずのタフさだな」

「ふざけるなよ、今すぐコイツに手を退かさせろ…!」

「退かしてくださいお願いしますだろ」

 

 ボロボロの相手に追撃しないでほしい。ジョッシュは手を止めたのに…。大体にして彼の怒りには全然正当性があると感じる。その表明方法が各方面に抑止力を生むものだっただけだ。

 …揺れるくらいの気持ちがある友達だったらその誰かさんは一回ちゃんと謝ってもいいと思う。謝罪で結果は変わらないが、印象は変わる。

 

「オイ人間、早く命令しろできるのだろうが…!」

 

 …まだ友達ではない私は目を逸らした。可能な手助け――もとい彼らにとっては余計なお節介かもだが――はしたいと思っているが…。

 

「…彼は私のお願いをまぁやってみるかなって感じでなんとなくやってくれているだけなので…」

 

 得られるものが不快じゃないから、じゃあ試しにやってみてもいいかなってなっただけだろうと思う。操れるなんてのは万に一つもできない恐ろしい驕りだ。

 

 

 我々がごちゃごちゃ言っているのを気にせず、ジョッシュは機嫌よさげにちょっと揺れている。ふいに、その緑の手が、床に無造作に転がっていた王笏に伸ばされた。

 

「あっ」

「――あ?」

 

 私が声を上げ、ダダドゥー卿に目を向けていたシリンジョンも顔を上げる。

 しかし、ジョッシュはすでに手にした王笏をその口に近づけていた。

 

「―――待て食べるんじゃない!」

 

 シリンジョンの声が飛ぶ。

 

 ―――キャンディのようにかみ砕かれようとした王笏は、光を放って爆発した。

 

 

 




P1:自分の内側を知覚するにはまだ時間が必要。格闘技実況の才能はない。
  余計な口を挟んだが結末に支障はない

外科医:弁論は得意だが謝罪は得意でない。かつての英雄の現在の姿に色々思うところがある様子だが発言は控えめ。決断が正しいなら謝罪の必要はないとの思考。…その決断に費やした時間をずっと覚えている。

黒いヒル:1と1では制止が勝った。5に迷い25には心が残り50で目が曇った。100は、とうとう、その背を無謀へと押した。仲間の悲しみや苦しみは、悉く彼のものでもあった。…声届かぬ先見の友は終わりを悟った。

洗脳された軍団:あんなのと戦えとか正気か?正気じゃないので戦った。ダメージ過多だが目を醒ますのに衝撃は十分。

緑のゴリラ:動くおもちゃから望むものを得られて満足。野生のゴリラはバナナじゃなく繊維質の葉や茎をよく食す。例にもれず彼も野菜が主食だが甘いものも好き。誤食事故を起こした。
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