気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか???   作:ぱんのみみ。

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 前回のあらすじ
 
 Case6に連れられて施設の案内と構成員の紹介に回りはじめる。ジバニウム塊(Case番号不明)と会話し友人の称号を得るも、その後の梯子での移動で苦戦。時間をいくらか消費して次の場所に向かう。



59 Step by step

 

 梯子を無事に登り、辿り着いた先…壁に埋まった水色ブロックの穴の奥には通路が続いていた。

 

 道の左右に3つずつ部屋の扉が並んでいる。私が目覚めた部屋のある場所と造りはよく似ているようだ。

 

 「ここらにもブロブがいるはずだ。彼にも顔を見せよう」

 

 シックスが迷いなく進んでいくのを、私は追いかける。

 廊下の奥、一室だけ扉が開いた部屋がある。

 

 ―――…。

 ふと、廊下の突き当り、暗がりに何かを見た気がして、私は立ち止まった。

 シックスが首をかしげる。

 

「どうかした?」

「いや、何か…誰か?いた気がして」

 

 曲がり角からちょっとだけ見えていた…気がしたのだけど。何か動いたな、と思った時にはもう見えなくなってしまっていた。

 

「そう?ブロブの誰かかな。緑だった?」

「小柄で、でも色は、よく見えなか――」

 

 *―――…むもにゃ…むらさき…?

 

「…、…まって」

「なに?」

「シックス今しゃべった…?」

「しゃべってるよ」

「そうだよね。いやでもちょっとごめん、まってほしくて」

「なにを?」

 

 *―――ぴんく…?かも…ふわぁあーぁ…

 

「…!しゃべった…!」

「そうだってば」

 

 私はぎゅっと目をつぶった。内側に居るだろう相手を揺り起こせないかと、何とか試みた。この体の持ち主、『ぼく』。

 

 ―――もしもし…!おはようございます!

 

 会話ができるならうれしい。『ぼく』が眠くて体を動かせないのだとしても、意思を聞いて私がその通りに動くとかもできるので、ぜひちょっとでも思いを教えてほしい。がんばってくれ家主さん。

 

 ―――もしもし…『ぼく』、きこえますか…。

 

 …、…。

 返事はない。さっきは微かに聞こえた気がする声も、今はもう音沙汰がない。

 …、…だめだ、聞こえない…。

 

 手ごたえのなさに肩を落として、私はつぶっていた目を開ける。

 

 

 開けた瞬間に真っ黒い瞳とがっつり視線がぶつかり、思わず固まった。

 真正面にいたシックスが、私を眺めている。

 …ニュートラルで感情の感じられない瞳だ…。硝子の向こうを観察するような目だ…。

 

「何してるの君?」

「……。…音を、聞いてました…」

「足音か何か聞こえる?君、耳が良かったりするのかな。僕もそう耳は悪くないはずだけど、今は何も聞こえないな」

「いや、足音じゃなくて、…声を…」

「声?さっき見かけた誰かの声が聞こえる?」

「い、いや…――ええと、…あの、自分の、内側の…」

「……」

「……」

「…ふーん」

 

 シックスの瞳が無感動にこちらを見ている…。説明しづらい…。

 ここで詳しく事情を言ったとしても、更にヤベー奴だと思われかねない気がする。…挙動不審の不思議ちゃんくらいで収まってるかこれ?マスコットとしてセーフ?ごめん『ぼく』…。

 現時点では証明もなにもできない。信じてもらうためにも、説明にはもう少し時間が要るだろう…。

 

「…あの、見かけたのは、紫とかピンクの色の誰かかも…」

「へぇ。……あのこかな?まぁ、そのうち会えるさ。先に部屋を見て回ろう。…―――やぁ君、お邪魔するよ」

 

 

 切り替えたらしいシックスの背を、慌てて追う。

 

 部屋には、ブロブが居た。先ほど会ったダイブが好きなブロブとは少し姿が違う。こちらは白い目でちょっと四角っぽい形。別の子だ。

 

「―――おわ、何の用事?俺、暇じゃないんだけど」

「新入りの紹介だ、ほら」

 

 促されて慌てて前に出る。

 

「こ、こんにちは、お邪魔します。ええと…新入りです、これからよろしく」

「はぁどうも。シックスに似た形だな。…アンタらの手ならできるかも」

 

 はい…?と私は目を瞬いた。

 

 ブロブは、部屋にある謎のピカピカ光る装置を体で示した。

 

「これ、これだよ。―――アイツら、俺にこの妙なボードを解く課題を寄越したんだ。クリアしたら景品があるってさ」

 

 ブロブはふっと皮肉気に笑った。

 

「試しもしなかったよ俺は。アイツら俺にボタンを押す手がないってことを忘れてんのさ」

 

 彼は床で体を傾けた。

 

「俺をこの問題から解放してくれるなら、この部屋にあるタイヤのホイールをやるよ。没収されずにすんだ物だ」

 

 …シックスは私を見た。

 

「友達を作るチャンスじゃないかい」

「…や、やります」

 

 私は頷いた。

 

 部屋の奥へ進み入って、謎のパネルを見つめる。

 横に5つ並んだ電球と、右端に『←』の形のボタン。その下にも同様のセットが並び…全部でセットは5列ある。

 横並びの電球は、端から順繰りに光っている。一番左端の電球にだけ、手のひらのマークが描かれていた。

 …、…。ひとまず『←』のボタンを押してみる。

 ボタンを押したタイミングで、順繰りだった光は停止した。左から3番目の電球が光っている。…ブザーっぽい音が響いて、また電球は順繰りに光り始めた。

 …、…。今度は、唯一手のひらマークが付いた電球が光ったタイミングで『←』ボタンを押してみる。

 軽快な音が響いて、その一列は緑一色に光って動かなくなった。正解っぽい。

*―――あぁそっかぁ~…

 なるほど、タイミングを合わせてボタンを押せばよいらしい。

 私は2列目を見た。先ほどより電球が光る速度が少し速い。3列目、4列目、5列目と少しずつ早くなるようだ。

 何度も押せるので難しいことはない。

 

 

 

 …いくらか時間は掛かったものの、私は残りの列も問題なくクリアした。

 パネルは緑一色に光っている。

*―――わぁい!

 ブロブが声を上げた。

 

「おお、この時をまってたよ。やるなアンタ!」

 

 キイ、と音を立ててパネルの隣にあった棚が開く。中に入っていたのは……ギター!すごくちゃんとしたギターだ!

 私はそのピカピカのギターを見つめた。木目が見えてつやつやしている。形はシンプル、持ちやすそうなサイズ感だ。ナイロン弦ぽい?

 ブロブが残念そうな声を出す。

 

「ええ?手が無いと弾けないギターか。やっぱ部屋を間違えたかな」

「―――君、先ほどから気になっていたんだが、」

 

 …こちらを眺めていたシックスが、首を傾げてブロブに声をかけた。

 

「なんで君は課題を試さなかったんだい」

 

「あん?手がないからだってさっき―――」

「飛び跳ねてみなかったの?……道具は?探しに行かなかった?棒状の物を口に咥えてボタンを押せるか考えなかった?―――ねぇ、君。そこにあるホイールを積み上げて足場にして体で押してみようって、どうして考えなかったんだい?」

「―――」

 

 ちょ、圧がある。相手が気圧されている。

 シックスは平坦な声で、あるいは心底不思議そうに、言った。

 

 

「なんで君そこでただ座ってたの?」

 

 

 おわあ!!

 それ以上いけない。折れる!!

 

 

 私は素早くかつさりげなく2名の間に入ろうとし、失敗して躓いた後に音を立てて床にスライディングした。

 ……。

 …、…カットインはしくじったが結果的に注目を集めることに成功した私は、顔を押さえつつ、のろのろと立ち上がって口を開く。

 

 

「…あの、シックス、ブロブは自分には向いてない課題だって思ったんじゃないかな」

 

 そうっとした発言に、シックスはほんの少し首を傾げた。

 

「それは挑戦しない理由にならなくないかい」

 

 転んだことには言及しないでくれるらしい。やさしい。

 

「…ええと。出された課題が、あまりにも自分に合ってないと感じたら…自分のことは、出題者にあんまり見てもらえてないのかもって、…やる気が、萎んじゃう、かも…。ねぇ、貴方、そうでもない…?」

 

 ブロブは必死な様子でぶんぶん頷いた。本当にそうなのか流れてきた藁をただ掴んだだけなのかは不明だが、同意を貰った私は言葉を続ける。

 

「頑張れるのは…ちゃんとやればできるって思えて、相手に応えたいって思えるからじゃないかな」

 

 ふうん、とシックスは目を瞬いた。

 

「自分に合った課題のみが渡されるなんて都合がいいことはないと思うけれど」

「そうだね。大きくなってからは、とくにね」

「…だから『今はまだ』と?やる気を他者に頼ってたら、自分からやらないよ」

「ちょ、おいおいおいやめろてシックス、俺が悪かったよ!喧嘩すんなよ!」

「?喧嘩してないよ?」

「うん喧嘩じゃないよ大丈夫」

「なんなのアンタら!じゃあ俺を挟まないでくれない!」

「いや君にとても関係ある話だ、いるべきだよ」

 

 ブロブの主張を下げたシックスは、口元に手をやって私を黒い瞳でみた。

 

「話を戻すけど、やる気は自分で生み出すものじゃない?僕はなりたい僕のために努力するけど」

 

 私は微笑んだ。

 

「なりたい自分があるんだね、シックス。すごいことだよそれは」

 

 黒い瞳を見つめかえす。リーダーだと、胸を張った彼を思った。

 

「誰しも初めからそうじゃない。…自分の目指す先があって、そのために頑張れるのは、すごいことなんだよ」

 

 何ができるかわからなくて、何をどうしたいのかもわからなくて。自分は大きくなったってまだ悩むことが沢山だ。

 皆を引っ張っていくだろうリーダーを見つめる。

 

「努力するには、その先きっとできるんだって信じる力がいる。…最初からは苦しい、かも?」

 

 何かを信じられなくちゃ、頑張るのは、難しい。

 ええと、だから、着地点…は……、……。

 

「―――はじめは、ちょびっとだけ頑張ればできる課題がいいんじゃないかな。やる気がでるように」

「なんでアンタ課題を出す側の視点なの?新入りだよね?」

「君はこのブロブにはまだ初歩の初歩が必要だと言うんだな。立ってすらいないから」

「俺のサボりがめちゃくちゃ時間を掛けて説明されている」

 

 ブロブが真顔で首を横に振った。

 

「やめろって。いや、もう景品あげるから許してくれない…?次からは不貞腐れないで課題に取り組むってば。―――ほら景品持って、ほらほら行った行った!」

 

 

 我々はホイールとギターを手に、部屋を追い出された。

 

 

 

 

「……全然思ってたやり方ではなかったけど、結果的に彼の無気力は多少良くなる兆しが見られたな」

「ええと、うーん……よかった…のかな…?」

 

 いや、最後は相手を結構怒らせたよな…もうちょっとうまくいく方法がなかったものか…。当人をほっといて私が話したのが良くなかったかな…。あと自分は幼体かつ新入りなんだった。どこ目線てのは気をつけるべき…。

 ホイールを持ちつつ頭を悩ませる私をよそに、シックスは頷いた。

 

「うん。…うん、良いな」

 

 ギターを抱えているシックスは続けた。

 

「僕がするより時間は掛かるけど。僕だけでするより、彼は自分でも動いたね」

 

 …、…。

 

「ねぇシックス、私が課題を引き受けた時に、一緒にやってみようって誘えばよかったかな。彼、そしたら楽しくやってみてくれたと思う?」

「…ふむ…。僕は、彼の思うことはよくわからないけど、でも、うん、そういう可能性も、なくはないかもね」

「うん…」

「僕は彼がやらない理由を考えたかったんだけど、質問せずとも君にはわかったの?」

「え、いや、わからないよ…」

「でも頷かれてた」

「そうかもって思っただけで、わかったわけじゃない」

「なんでそうかもって思ったの?」

「…うーん…」

 

 質疑応答はしばらく続いた。シックスの探究心…あるいは問題解決に向けたエネルギーは強いようだった。

 私はなんとか自分の中にある言葉にしづらい感覚というか感じたことを口に出し、シックスはそれらを「こういうこと?」と言い直した。私たちは、「うん」と「ううん」を繰り返しながら、並んで帰り道を進んだ。

 

 

 

 中央の広場に戻って間もなく。

 

 

 

 ――――ポーン、と唐突に、頭上から音が聞こえた。続いて音楽が流れ始める。

 

 ゆったりとした、どこか郷愁漂う感じの曲だ。

 

 

「そんなに経っていたなんて思わなかったな。時間だ」

 

 

 ぴょん、とシックスは中央広場の岩の前に立った。

 わらわらと、そこにブロブたちが集まってくる…。

 

 

「並んで。順番に戻るよ。先頭のブロブ、まず君から。―――それから新入りの君。君は僕についてきてくれ」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 

「…さて、君で最後だ。なんとなく一日の流れは分かったかな」

 

 最後のブロブを部屋に送って閉じられた扉の前。シックスは言った。

 どうやら彼は、Case全員がちゃんと部屋に戻ったか確認しているらしい。寮長とか監督生みたいなことだろうか。

 

 うん、と私は頷く。

 

「ありがとう、シックス」

「いいや。…君は昼過ぎに目を覚ましたから今日は何もなかったけれど、日によっては別の場所に呼ばれてテスト…をすることもある。でも、君、おそらくクリアできるだろうな」

「今日の謎解きみたいなもの?」

「そうだよ。あとは体を動かすもの」

「…そっちはあまり得意じゃないかもしれない」

「そう?…ああ、うん、なるほど最初のうちは確かに…」

 

 話すうちに、私が最初に目覚めた部屋の、扉の前まで来た。

 

「時間になったら自然と起きられるだろうけど、また呼びに来るよ」

 

 シックスが言う。私は、開かれた扉の向こうにいる彼を見つめた。

 

 

 ―――携帯端末の時計が頭をよぎる。

 

 残り時間。できることは、ほんの少し。

 

 

 

「貴方は?」

「うん?」

「もう寝るの?」

「うん。…うん?」

 

 きょと、と彼は目を瞬き……続いて、ははぁ、とどこか合点顔になった。

 

「君、あれかい。ひとりで眠れないタイプかな」

 

 いや、全然違う。違うがなんと言ったものか。

 

「うん、みなまで言わなくていいよ。そういうやつも時々いるからね。どうしようか、歌でも歌う?」

「結構です」

「そう遠慮しないでよ。気遣いは受け取って置くものだ」

 

 揶揄うために過剰に親切なふりをしている、なかなかいい性格だ。

 

 …でもまぁ、そういうことでもいいかもしれない。

 私は、明後日の方向を見て口を開いた。

 

 

「―――…時間が許すなら…もう少し話したり、しない?」

 

 

 へえー、とか言いだしそうなやや温い目のシックスは、「いいよ。リーダーとしてつきあうよ」と返事をした。

 

 




P1:知りたい、仲良くしたい気持ち。仲間のことや周囲の状況がわかったら、”ぼく”に多少は役立つかもしれない、と考えている。着地はズレがち。
 乗っ取り紛いで何を呑気に。早急に進んで立ち去らねばならない

赤い男(幼体):新入りの世話をなんだかんだ続行している。リーダーとして。新入りは案外話せるやつかもしれないと思い始めている。結構変なやつだとは思っている。

薄緑の塊:気力は低め。課題については、まぁ能力的に向いてる奴がやってきて簡単にやるだろうとただ眺めていた。クリアするのは自分じゃない。だれも期待なんかしてないんだし。

青い声の主:まだ眠い。覚醒にはもうちょっと。スペイン語がわかる。

紫の水玉模様の:様子見のターン。知らないひとが居てびっくりしたので引っ込んだ。

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