気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
あらすじ
青い幼体マスコットの体で、施設内を案内されつつ友人一名を獲得。一日は終わりを迎えようとしていたが、Case6(赤い幼体)とコミュニケーションを図ろうとする。
「実を言うと、完全消灯まであと1時間はある。大抵のCaseはそれより先…つまり自分の部屋に戻ったらそう時間を掛けずに横になるけどね」
部屋に足を踏み入れつつ、シックスは言った。
私は今日見たいくつかの個室を思い浮かべる。現在いる部屋とほぼ変わらない、椅子と机とベッドとあと棚くらいの、シンプルな造り。まぁ、物の少ないあれらの部屋ではあまりやることもなさそうだしな…。帰ったらすぐ寝てしまうのが自然な流れかもしれない。
周りを見回したシックスは、やがてこちらを向いて小首を傾げた。
「それで、何を話そうか。おとぎ話?」
―――か、完全に私を幼児扱いしてくる。昼間の奮闘がすっかり帳消しだ、誠に遺憾。
とはいえここはこちらが大人になろう。
……張り合おうとしている時点で負けでは?……冷静な指摘をそっと脇に置く。
「仲間のこととか、テストのこととか、教えてほしいな」
「真面目だな」
「パズルは、今日もやったみたいなもの?」
「そうだね」
「難しさは、あれが普通?」
「今日君がやったのは平均的なやつだ。だからそれ程心配ないよ」
「ありがとう。でもきっとシックスはもっと早くできるよね。クリアまでの時間を計ったりすること、ある?」
「そうだね、ある。とはいえ物凄く重視される訳ではないな」
「そっか。…それから、ええと、体を動かすやつは…」
「跳んだり、登ったり、走ったり。色々あるよ。君は今日、梯子に苦戦していたね、高い所は苦手?」
「うーん…むしろ身体の感覚が…まだあまり慣れてなくて…」
…、…はた、と彼の黒い瞳が瞬かれた。
「君、」
「うん?」
「…いや。まだ聞きたいことはあるかな」
ええと、と私は視線をさまよわせて、自分たちが未だ部屋で立ったままだったことに気が付いた。ついついそのまま話し込んでしまったな…。
立ち話もなんだった、と私は椅子を引いた。シックスに手で示すと、彼はもう一度瞬きをした。
「君の椅子だよ」
「…?」
部屋に招いている相手に椅子を提供するのは普通のことでは?私は首をかしげる。
どうぞ?と手でやっぱり彼に椅子をすすめる。
「君、椅子は一つだよ」
…、…。
……、……。
ぐいぐい押して、私は彼を席に座らせた。
それから私はベッドに腰かけた。
…自室に友達を招くときはよくやるスタイルだ!これが年の功という奴では?
にっこり微笑んだ私をみて、…シックスはちょっと沈黙した。
……。
理由はわからないが何かを察知した私は、立ち上がる。
「ごめん、いやだった?」
「…、…」
「ちょっと遠い?…こうがいい?」
私は彼が座る椅子の横に立った。
「どう?」
やや間を開けて、彼は返事をした。
「…そうだね、うん」
「わかった、こうする。ねぇ、寝る時間までもっと話をしよう、シックス。聞きたいことがたくさんあるんだ」
「…うん、僕もだ」
彼は不意に立ち上がると部屋の隅へ向かった。
そこに置かれていた物…昼間貰ったホイールを机の隣に転がして立たせた彼は、その手で私を引っ張ってそこへ乗っけた。彼は再び椅子に座る。
…、…。
突貫の椅子に腰かけた私は、目を瞬いた。
「…ありがとう…?斬新な椅子だね」
「いいえ。何事にも例外は作られるものだと思わない?」
「椅子の概念が…?シックスと楽しく話せるなら全然それでいいけれど」
「…うーん…君…。まぁ、いいか…。それで、ええと、君は他に何か聞きたいことはあるの」
どこか呆れた感じのシックスの目を見つつ、聞きたいこと、と考える。
「…じゃあ、貴方のことも知りたいな」
「ふーん」
仲良くなれたら、と日常的で重くない最初の質問を選ぶ。
「えっと、シックス。貴方は、何か好きなもの、ある?」
「膵臓」
「…、…」
軽いジャブのつもりで放った質問に、強いストレートが返ってきて私は固まった。
「そっか…えっと、それは、どの辺が好き…なの…」
「いい匂いがするしおいしいな」
「そっ…か…」
初期のCase6は全然好きなんだな膵臓が…。するとウスマンが言う『忌避感が強い』とは人間の倫理観がインストールされて生まれた感覚な訳だな…。後からそれが発生するの精神が削れるだろうなぁ…そうかぁ…。
「君は?」
君は!?
「…、…。そうだね…あえて肉の部位を指定するなら…牛タンとか…好きだよ…」
「ぎゅうたん?」
「牛の舌のこと」
「
目の前の彼の舌は一瞬引っ込んだ。…またすぐ出てくる。
「臓器は?君は別に好きじゃないかな?」
とてもむずかしいしつもんだ。
私の思考は、焼き鳥屋に逃げ込んだ。
吊られた木のメニュー板を一生懸命に眺める…。臓器…。
「強いて言うなら…ハツとか…」
「はつ…ハツ?…Heart?」
「ああそう、それ」
「―――
丸い瞳をますます丸くした彼は、興味深げに私を覗き込んだ。
誤解…誤解じゃないんだけど誤解を生んでいる気がしてならない。
「君はそれのどの辺が好きなんだい」
これは焼き鳥の話、焼き鳥の話…。
「食感が…」
「そうなのか…!」
「踊り食いとかはしないです…」
「僕だってしないよ。食べていいのじゃなきゃ食べない」
よかったそこは共通認識できそうだ!安心度がちょっと上昇!
好奇心と微かな興奮に目をピカピカさせる彼は、こちらを見ている。
「…そっか。そうか。…やっぱりあれは何かの間違いじゃないかな…。だって…君、話がわかる奴だ…」
楽し気だった声が、やや小さくなった。
「…じつは君は…つまり…他の数番号のCaseだったり、しないだろうか…」
…、…。他の、数番号。
……。
「…、…ねぇシックス。もっと他の話もきかせてほしいな。うん、仲間の話も聞きたい」
「―――そうか。誰からがいい?」
「セブン!」
「君、彼女のこと、気になるの?」
「とても」
「あんな風にあしらわれたのに?」
こっちの台詞―――口には出さないまでも顔に出たかもしれない。
シックスはちょっと笑った。
「彼女は本人の言う通り、賢い相手にはそれなりに対応するから、それを示すのがいいだろうな」
賢いアピールには絶望的に自信がない。でもそれをしないとそもそもスタート地点にすら立てないということ…。
「がんばる…」
「そうか」
「うん。ええとそれから、舟のとこにブロブが居たね、彼らはよくああやって遊んでる?」
「そうだね、明日にでも声をかけてみればいい」
「そうする。ええと、砂漠の所のブロブと、船の所に二人、それからギターの課題の一人…ほかにも仲間がいる?」
「うん。よくポーラエリアにいるブロブもいるな。そこにも行ってみよう」
「ありがとう!」
「いいえ。今日は広場に居なかったけど、今言ったブロブの他にも番号のあるCaseがかなりいる」
シックスはこちらを見つめた。
「君は仲間作りにも分け隔てなく意欲的だったね。どうして?」
「えッ、だって、その…ええ…?おんなじ仲間だから…?仲良くしたい…」
「ふむ」
「ええと、シックスも交流に意欲的にみえた。じゃあ貴方はどうして?」
「僕?僕はそれが得をすると知ってるからだよ」
―――得をする。
えっ。
「僕は、僕が彼らに何を与えられるか明確に知っているし、彼らが僕に何を与えてくれるか知っている。集団の改善と、リーダーの地位。―――互いに利益がある。ね?」
えっと、ええっと。
―――私は、いつかのウスマンの問いかけを思い出した。『どうして彼と仲良くなりたいんだ?』…私は、それに『とってもお得では?』と…―――
…、…答えたのに、今、それと変わらないはずのシックスの返答に、私はなぜ言葉を探しているのだろう。
「利益…得だから、仲良く…ええと」
「うん?うん。君は違う?」
「…シックス、あの…」
「なんだい」
「り、利益がないと、友達になっちゃ、だめ…?」
「なっちゃ駄目というか、」
ぱちりと彼の黒い瞳は瞬いた。
「それって友達になる意味がある?」
私はしわしわと渋い顔をした。いや、それもそうかもだけど、なんかこう、なんかこう…。
「その、利益って…得って…こう…即物的じゃないやつでも…いい…?」
「即物的」
「あー、ええっと…私…貴方が…リーダーだからじゃなくて…何かに秀でたひとだからじゃなくて…私のためになるからじゃ、なくて…」
「…、…?」
どうして友達になるの?
利益を見据えて仲良くしようとしている訳では、なくて。―――自分のために仲良くするわけじゃないって心から言える?ほんとか?やっぱり結局は自分のためなのでは?自分のために、相手に何かを求めてるんじゃないか?
……そうかも、自分のためなのかも……でも、その源は、決して、『お得だから』じゃないと、思うん、だけど…。
上手く言葉を見つけられない。私は塩を掛けられた菜っ葉みたいに萎んだ。
『どうして仲良くなりたいんだ?』『相互に利用し合う関係―――君はそれを、友と呼ぶ?』
互いに何かを与え合うことができると信じて、仲良くなりたいと思うのは、嘘ではない。
ではその“何か”って何?
―――やっぱり利益?
私は、言葉尻に反応して、綺麗な言葉で言い繕おうとしているだけなのだろうか。
「…友達って…なんだろうね…」
「君が何に肩を落としているかわからないけれど、安心してよ。君は僕の友達だよ」
「お得じゃなくなったら友達じゃなくなっちゃう…」
「うん。…?ああなるほど、君は寂しがりでそれから不安なんだな」
「なんで…??」
謎の判定に私は顔を上げた。シックスは笑った。
「自分のもたらす利益に自信がないから、友達でいられるか心配なんだ。大丈夫だよ、僕がリーダーだから。君は集団に貢献できるポテンシャルをもってるし発揮できる」
―――なんて論理的で大人な思考だ。私のなけなしのプライドが消し飛ぶ。実際の所おいくつですか?
私はじっと彼を見つめた。黒目がちの丸い瞳。幼さの残る顔立ち。
どういう精神発達をしたらこんなマスコットの子どもが存在するようになるんだろうな。教育者は誰だ。
よくよく考えても反論の材料が上手く思いつかない私は、結局事実のみを口にした。
「励ましてくれてありがとう…」
「どういたしまして」
…、…。
友達ってなんだろうか。
いつぞや答えられなかった問いを思い出し、そうしてシックスの言葉が頭に残った。
まだ上手く形にできないけれど、考え続けたいと思った。いつか、ちゃんと答えたいと、思う。
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シックスと時間いっぱいまで話して(彼は途中で時間に気が付くと駆けて帰って行った)、私はベッドの上で横になった。
寝るって、自然と眠れるのだろうか。前にドクターに聞いた話では、本質的には睡眠は必要ないけれど、睡眠サイクルを模倣することはできる…んだった、な?
とりあえず、薄暗い部屋の中、ベッドに寝転んで、目を閉じてみる。
部屋は静かだ。
…、…。
*―――……。
*―――ぃ。
*―――ぉーい。
*―――おーい…もしもし…?
がばっと私は起き上がった。周囲を見回す。
薄暗い部屋には誰もいない。
*―――もしもーし…。ねぇ、“わたし”?
…、…。私は上体をベッドに戻した。目をつぶって、その、内側からする小さな声に、耳を傾けた。
―――ええと、はい。私です、レイです…。
*―――わぁ、そう、わたし…ぼくは、”ぼく”!
相変わらずふわっふわの自我の返事に、私は頭を抱えた。
*―――ええと、“わたし”?おやすみ…?ううん、おはよう…?
自我がふわっふわなのに加えて状況が混乱を生んでいる。私は整理を試みた。
―――貴方は目が覚めたみたいですね。“おはよう”で合っています。対して私は今寝るところだったので“おやすみ”で合っていますが、貴方と話を続けたいので、起きていようと思います。
*―――そう、おはよう…!でも、まだ、ちょっと、ねむい…。
声だけの主は、しかし声だけで器用にあくびをしたようだった。不思議だ…。
―――まだ貴方はこの身体を動かせそうにないですか。
質問に、相手の声は揺れた。
*―――うごかせない…。あと…お話のしかた、そうじゃないほうがいいなぁ…。
―――え?
*―――シックスの時と、おんなじ感じがいい…。
若干の寂しさを感じ取らせる相手の声に、私は慌てて返事をする。
―――ごめん。貴方の話し方の邪魔をしないようにしていただけなんだ。
*―――うん、ありがとう。でも、いまの話し方のほうが、うれしい…。
―――わかった、こうする。それでええと、何か私に話が…?
*―――うん…うん…?なんか、お話しできそうだったから、声をかけちゃった。昼間の冒険、楽しかったし…。
―――…、昼間の…。そういえばさっき“シックス”と言ったね。私の行動を見ていて今日の記憶がある?
*―――うん、なんとなく…。
ふわふわと相手は微笑んだようだった。
*―――パズルもジャンプもして遊んだね。友達もできたね。いっぱい話したね。たのしかった!シックス、セブン、ブロブたち…。
まだ若干眠たげな声が、笑う。
…、…。…今言った経験は、きっと、本当は…。
…本当は、貴方が…。
…、…。
―――貴方の名前は何というんだろうな…。もし名前がわかったら、貴方がはっきり目を覚ますのに役立つかな…?
*―――なまえ。シックスのおとなりだから…セブン…は、もういるし…???
セブンもシックスもエイトも既にいる、ファイブである線はなくはないものの順番的に可能性は低…いや、そうじゃなくて。
―――こう…バンバンとかバンバリーナとか、あるいはウスマンとかでもいいんだけれど。貴方が目を覚まして、貴方自身で、友達と遊んだり、話したり…できるように…なるきっかけにならないかな…。
*―――…うーん???
私はそう不思議そうな声を出す彼の、成長した姿を思い浮かべた。キャラクター紹介絵。一度しか見ていないが…青い体に黄色い模様。金色にも見えたな、と思う。長い睫毛や髭に似たその模様は…何かこう、太陽のような意匠にも思える。
―――貴方、恒星とか太陽とかの単語を聞いてピンとくるものはあるかな。
*―――太陽?なんで…??
―――そういうふうに見えた、と言うか…。
私は、ベッドの横の壁のイラストを見ながら言った。サンライズ。それ関連の名前付けがされていたりしないかな…。
相手はくすぐったそうに、ふにゃふにゃ笑ったようだった。
*―――…太陽。えへ…。
―――…いやあの純粋な見た目の印象の話でね?
*―――ふふふ…太陽!それじゃあ君は…、…おほしさま。…空からぼくのところに落っこちてきたの。
……星!!驚くほど上等な物だな…。萎びたブロッコリーに例えられたこともある人間にふさわしいとは思えないが。
自分の中に突然押し入ってきて不法占拠してる相手を流れ星扱いとは恐れ入る。純粋が過ぎるしガードが緩すぎる…大丈夫か…心配だ…。
とはいえ、嬉し気でふわふわな相手の優しいアイデアを全否定するのも憚れるところだ。人間です、というマジレスも気が引けるし。
悩みつつ言葉を選ぶ。
―――…よくて宇宙塵くらいかな…。
*―――ううん…!ぴかぴか。
私は微苦笑した。
一瞬に満たぬ時間で消え去る定めだ。
*―――ほんとだよ、たのしいよ、わくわく。…ぼく、きっとまた、眠たくなっちゃうけど、…また明日も、いっしょにいて、いろいろ見せてね。
―――ええと。貴方のお願いなら…一生懸命がんばるよ…。たぶんいいマスコットとして力を尽くすよ…。
ふあ、と器用に、また声だけのあくびが聞こえる。
*―――やっぱり、もう、ねむい、かも…ええと、…“おやすみ”…?
眠たげな声に、私は微笑んだ。
―――おやすみ。“ぼく”。
返事はなかったけれど、胸のうちの青い星は、安心したように息をついた、ようだった。
P1:夜更かしはあまりしないほう。自分が青い体の中に転がり込んだ異物なことは理解しているが、どうしたらいいかは分かっていないのでとりあえず模索しつつ何かを頑張ろうとしている。
押しやって奪いながら呑気に笑うな未熟につけ込んで合意や許しを得たなどと努々思、……星!石ころだろうと外様から降れば隕石か。
――ああ、いや。最後に燃え消えるならば。その落とし込みは、あるいは有用やも。
赤い男(幼体):好奇心は割と強いほう。時間は有効に使うべきだと思っている。既に保有する遺伝子情報の影響もあり、思考能力は高く行動様式は人間寄り。誰それの教育の賜物で、割と理屈屋。
青い声の主:眠たいけど起きていたかったりでも抗えなかったりするほう。抗わなくても大丈夫かもとなんとなく思っている。眠気はあるものの、現在かなり意識が浮上。もう起きそう。まだATフィールドゆるゆる。