気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
就寝までの時間、部屋で会話と情報収集を行った。
目が覚めた。
記憶にある天井だ。眠る前と変わらぬ部屋。
私は目を瞬いて首を傾げた。
…、…。普通に…眠れたな…?人間の睡眠と同じような効果を得られているのか分からないが、感覚的には眠れた。夢を見ないタイプのぐっすり睡眠をした感じを覚える。
え?そうなのか。眠れるんだ…。
いつぞやドクターが言ってた『寝なくていい』というのは、もしかすると本当に効率に極振りした話?例えば「完全な栄養を取れるなら食事じゃなくてサプリでいい」みたいな、QOL的なものを無視した話の可能性が…?
朝からとやかく考えている私に、内側から声が掛かる。
*―――おはよう!
―――おはよう、ぼく。
返事をしつつ、私は眠気に襲われてあくびをした。明るい声が続く。
*―――ぼく、昨日より、眠くない!もっとちゃんと、見たり聞いたりできるかも。うれしいな!ねぇ“わたし”、今日は…。
内側からする声は、元気だ。私は微笑みつつ、もう一度あくびをした。
*―――“わたし”?おはなし聞こえる?
―――…ああ、ごめん、ちゃんと聞いてるよ、“ぼく”。
*―――……あれ…?……、……!
ちょっと沈黙してから、彼は窺うような小声になった。
*―――……“わたし”、ねむ、い?
―――え?…ああ、さっきはちょっとだけ。でも、もう覚めたよ。
*―――……そっかぁ。…、…うん。今日もたのしみだね、“わたし”。
―――そうだね、”ぼく”。
私はベッドから起き上がって伸びをした。丁度そのタイミングで、外から「もしもし」と聞き慣れた声がかかる。
歩いて行ってキーカードをかざすと、扉が開いた。赤い姿が見える。
「―――やぁ、もう起きあがってるね。調子も悪くなさそうだ」
「そうみたい。おはよう、シックス」
「うん、おはよう」
シックスは頷いた。
「さて、今日の予定だが」
彼は考えるように小首を傾げた。
「まずポーラエリア。ミニテストがあるからそれをしよう。終わったらセブンに会って、それから他のブロブに会う」
もう予定が立っている。すごい。……ふいに眠気が襲ってきて、私はあくびをした。
*
「―――ありがとうシックス!ぼく、たのしみ!」
青い両手は、私の意思を離れてひょいと赤い手を取り、それからぶんぶんと、振った―――……!?
シックスは、握られた手を見て、それからこちらの顔を見た。
「どうしたのシックス?…、…あれ?あ!」
ぴょん、と体が跳ねた。喜びの声が口から零れる。
「…すごい!ぼくだ!えっとね、シックス、ぼくは、“ぼく”!よろしく!今日もたのしみ!…あ、あれ、やっぱり、ねむい…かも…」
ふあ、とあくびをする。
シックスの両手を握っていた“ぼく”の手からすっと力が抜けた。感覚が鮮明になって私に戻ってきて、青い手の指先が私の意思に従って動いた。
*―――……あぁ~、…。
…、…。内側でやや考えるような声が聞こえたが、現在進行形で表に出てシックスに凝視されている私は、どうしたもんかとフリーズした。
私とシックスが見つめ合う時間が続く。
「…、…」
「…、…」
「―――えっと。今日は、まずポーラエリアだったねシックス、行こうか」
「いや無理だな流せないよ」
シックスは平坦な声で首を横に振った。
そうか。そう思ってくれるなら、ここが状況説明の好機かもしれない?
「今の何だったの?」
「えっと…、…。元々の…性格…?」
「元々の…?性格…?」
せっかくのチャンスなのだが、私は説明に迷った。
「えっと、二重人格的な…?私が…こう…後から入り込んだ人物で…“ぼく”が…元からいるこの体のあるじ…みたいな…?眠たい“ぼく”の一時的代理が…私?」
「ものすごく疑問符がついてるな」
「よくわかってなくて…」
シックスは口元に手をやって考えているようだった。
「人格の切り替わり…。昨日は全面的に君、つまり“わたし”だったということで合っているかい」
「そう…!」
「…Bみたいなものかな」
「ビイ?」
「いや。で、さっきはちょっと“ぼく”が出てきたんだな。…“ぼく”が元のほうなのか?君じゃなく?」
「うん」
「…ふーん。…本来の方が表に出てきづらいのか。…君は“ぼく”と記憶や思考を共有してるの?」
胸のうちで、楽しそうに青い星が笑う。
*―――そうだよ!すごいねシックス、よくわかるね!
超速で話が進んでいる。今のを数秒で飲み込むのかシックス、マジか。説明する方であるはずの私が置いて行かれそう。
「ええっと。…“ぼく”は、今、内側から見ているし、聞いている。だから、記憶も思考も共有してる、であってると思う。でも、彼、昨日はかなり眠そうだったから、共有してないところも、あるかも…?時間経過で“ぼく”が出てき易くなると思う」
「…。“ぼく”は今も見聞きしてそこに居るわけだな」
ふむ、とシックスは頷いた。黒い瞳が私の目を…いや、その奥を、覗き込んだ。
赤い手が差し出される。
「…じゃあ改めて。知ってるらしいけど、僕はシックスだ。よろしく“ぼく”」
*―――よろしくねシックス!
青い星が胸のうちで嬉しそうに跳ね回る。ので、私は赤い手を握って伝えた。
「“よろしくねシックス”だって。とてもうれしそう」
「そうか。わかった。―――じゃあ、あいさつも済んだし、さっそく行こうか」
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私とシックスはポーラエリアにある、白い小部屋に居た。
ここへ来るまでに、近くで見かけたセブンへ挨拶をしたのだったが、彼女は一瞥とともに「おはよう」と一言だけ挨拶をしてさっさと立ち去って行った。とても塩対応だった。
私と同じように塩対応されたはずのシックスは全くへこたれた様子がなかったので、あれが彼女のデフォルトなんだろう。気にしすぎるのはやめておく。
『Exam pod』…と小さな看板が付いたかまくら…いや、雪ブロックで出来ているのでイグルーだな…の中には、一名のブロブが居た。
シックスは首を傾げた。
「やぁ。君、なんだってこんな所にいるんだい。ここのテストが好きだっけ?」
黒目のブロブは、憐れっぽい声で答えた。
「そんな訳なくない?…聞いてよシックス。セブンが『愚か者は嫌い』と言ってわたしをここに放り込んだんだ。勝手に出てったらどうなるかと思うと怖いでしょ…なんとかしてくれない?」
私は目をぱちぱちさせた。思ってたよりセブンは厳しい性格のようだ。あれ…?と私はにこにこで授業をするピンクリボンの先生を思い浮かべたが、同時に不正解者のボウリングピンの変わり果てた姿も思い出して腑に落ちた。そうだな、彼女は間違いには厳しい。
納得の頷きをする私の横で、シックスが言った。
「それなら丁度よかったかもな。…こっちの新入りがセブンと仲良くなれるよう、賢さの証を取りに来たんだ」
「そうなの?どうもはじめまして」
「は、はじめまして、新入りです」
「で、今から新入りにこの課題をやってもらうわけだが。…彼がここの問題をやっている所を見たら、君も溜めてる宿題の解き方がわかって、ついでに解放されるんじゃない」
「おわぁ…ばれてら…」
「ちゃんと終わらせないとセブンは許さないだろうね」
「はーい…」
ブロブは、大人しく返事をして私の方を向いた。シックスは私に向き直って、肩をすくめた。
「ちょっと観客が増えたけど、やることは予定と変わらないよ。ここにある問題を解いてごらん」
どうやらセブンに認めてもらうための第一歩のようだ。私は頷いて、目の前の装置を観察した。
正面に大きな黒いボード。その下のテーブルには、サイズの違う7個の球が置かれている。モニターの横には小さな吊り下げ看板があり、『ボールを正しい順番でボードに置きなさい』『最も小さいボールから最も大きいボールへと、スライダーが通るようにすること』の文字が書かれている。看板に描かれたイラストと矢印を見るに、横に伸びる直線に乗っかった小さな出っ張りが『スライダー』で、これは直線を左から右へと移動するようだ。
私は改めてボードを見た。ボードの下部に、左端が一部だけ膨らんだ直線が一本引かれている。これがスライダーだ。ボードの上側ほとんどには、曲がりくねった一筆書きのレールが表示されている。レールの上には7個の丸い印が点在しているが、ここにボールをはめられる様子。
ボールを置くはずのレールは複雑に曲がりくねっているが、しかし『昇順にボールが通るように』と言われたスライダーはただの直線だ。はて?
*―――ボール、つやぴか!何でできてるのかな
私も気になってたんだ、気が合うな。
内側の元気な声に、私は微笑んだ。確かに、目の前の球体は、昔に砂場で作った究極の泥団子を思わせる仕上がりだ。
―――そうだね“ぼく”。このボール、きれいだよね。…ちなみに問題について何か思いつくことはない?
*―――うーん…いっかい試してみようよ!
ふむ。ひとまず、一番大きなボールから順に一筆書きのレールに通してみる…7個のボールは、順繰りに印の上で停止した。
7個のボール全てが嵌め込まれると、スライダーが左から右へとゆっくり移動する―――そして同時に、そのすぐ下の『小さい順に並んだボールのイラスト』もライトが付いた。
緑・橙・橙・橙・橙・橙・緑…不正解音が響く。
*―――2こ正解だね!…ほかは何がちがうのかな?
“ぼく”の言葉にうなずく。私はたった2つだけ灯った緑のライトと、そのすぐ上のレール上のボールを見比べた。
緑が灯った、つまり正解なのは、両端の最も小さなボールと最も大きなボールだけだ。
すると?
小さい順というのは…ただ単に、スライダーの動く横の直線上の話らしい。スライダーの始点である左端が最小、右端が最大。ボールの止まる位置が、「ただ左から右に」サイズ順に並べばよい。
レールがどれだけ曲がりくねって高さが変わっていようが、見るべきはボールの止まる位置の「横座標」だけということだ。
私は7つのボールを配置し終えた。スライダーが左端から滑っていく。…ライトは、7つ全てが鮮やかな緑に点灯し、軽快な音が響いた。―――正解だ!
*―――わぁい!やったね!
「わぁクリア!?」
"ぼく”とブロブが声を上げる…が、黒いボードは音を立てて、表示が切り替わった。
同様の形式の、次の問題だ。
「どえぇ、まだあるの」
「本当に理解して正解したのか確かめるためだろう」
ブロブのうんざりしたような声に、シックスが平坦に返答する。
とはいえ、やり方をもう理解している私は、追加の問題も難なくクリアし―――4問目をやろうとした途端、私は強い眠気に襲われた。あくび。
*
見えている世界が、ふっと、ほんの少し遠ざかる。
―――自分の意識を離れて、青い手が動くのが見えた。
「―――あ!まただ!」
ぴょんと“ぼく”が飛び跳ねた。
「ぼくだ!うごける!わぁ、じゃあ、じゃあ…シックス、“わたし”、この問題ぼくも、やっていい?」
…どうぞ、とあくびをかみ殺した私と、小首を傾げたシックスの返事は一緒だった。
「よぉし!ありがとう、がんばるね。―――あ、そうだ、君、はじめまして!ぼくは“ぼく”!」
嬉し気にスキップするような調子で動く“ぼく”は、ブロブに向かって挨拶をした。
「はぁ、どうも…?さっきもう挨拶はすましたよね?なに?」
「彼はさっきまでの“わたし”とは違う子だよ」
「いやずっとここに居たじゃん、入れ替わりトリック?シックスは時々わかんないこと言うよね」
「君には難しい話だったな忘れてくれ」
平坦なシックスの説明を横目に、“ぼく”はボードを眺めた。
…ボールを手に取る前に、彼はレールの印の位置を確認しながら数を数えている。
「えっと、…6番目…5…7…3…4…1…2…」
続いてひょいとボールを手に取ると、それをレールに乗せる前に、床に並べ始めた。
小さい順でいうと6番目の大きさのボール、次が7番目のボール、その次が3番目の、そして同様に4、1、2…。7つのボールが一列に並んでから、彼はそれを端から順にレールに流し始めた。
―――なるほど、一度スライダーが通る順に並べてから一気にレールに流すようだ。何度も座標を確認するより手間もミスも少ないかもしれない。
無事に、7つのボールが配置され、スライダーが動き出す。
軽快な音とともに、部屋に設置された2つの宝箱が開かれたのだった。
「…やった!」
―――おめでとう”ぼく”!
「ありがとう!……あ、まって、やっぱり、ぼく…、ねむ…」
ふわぁ、とあくび。―――力をふっと失った体のコントロールは、私に戻された。
…、…。
*―――……はりきると、すぐ…ねむくなっちゃうかも…、……。
―――“ぼく”。…”ぼく”?
*―――……。
……。胸のうちに呼びかけるが、むにゃむにゃと、不明瞭な寝息のような音が返ってくる。…脳内なのに寝息ってのも変な話だな…しかしともかくそういう雰囲気だ。“ぼく”は昨日よりかは意識がはっきりしているものの、まだそれほど沢山は活動出来ないらしい。
ふと、こちらを観察している様子のシックスと目が合う。私が内側に意識を向けている間、彼はただ静かに見ていたようだ。私は頷いた。
「―――えっと、私です」
「わかるよ」
「えっどのへんで?」
「切り替わるタイミングが…あとよく止まってるのが君でよく動いてるのが“ぼく”だ」
「そう…?」
止まってる…??―――ああ、考え中の時だろうか。脳内は大忙しなのだが、確かに外から見たら停止して見えるかもしれない。
課題の報酬としてか、隣の宝箱が開く。一瞥したシックスが頷いた。
「それが賢さの証になるはずだ。セブンのところに持っていこう」
私は、宝箱の中に入っていた紫のキーカードとA+の評価が付いたテスト用紙を手にした。
キーカードは見慣れたものだが、テスト用紙の方は目新しい。黒い印字の問題文と、ちょっとよれた手書きの文字の回答が書かれている。
Q『悪い子だったことはある?』…A『ないと思う』
Q『好きな友達は誰ですか?』…A『アリクイとヒキガエル』
Q『好きな先生は?』…A『あなた』
Q『膵臓とは何ですか?そして6番はなぜその話をし続けるのでしょうか』…A『なんかおいしいものだと思うから』
Q『この試験の印刷には何が使われているでしょうか』…A『インクマシーン?たぶんちょっと曲がってる↑』
…、…なんのテストだろう。アンケートっぽさを感じるけど試験なんだな…。強いていうなら社会性とか世渡り上手かとかを測れそうかも…?この回答が「A+」だという評価も鑑みると、知識を問うより反応を見ているっぽいテストだ。最後のとか、頓智をきかせろって質問な気がしないでもないし。
私の後ろで、ブロブが息を吐く。
「…ふう!何はともあれ、助かったよ新入りさん!わたしたち、もう友達だ。ありがとう」
「あぁ、いいえ。…溜まってた宿題、できそう?」
「…あー、うん、いけるいける」
「そう?…もし困ったら声をかけてね、力になるよ」
「え、ほんと!じゃあやってみて駄目だったら聞こうかな。よろしく」
見送ってくれるブロブと別れ、シックスと私は雪の家を後にした。シックスはちょっとこちらを横目で見た。
「君やっぱり…ちゃんと賢いな」
その評価は、純粋に基準点には達しているということか。セブンと仲良くなれるかもという希望がもてる。
「そうなの?よかった!」
「さっきの問題には君がはじめに答えたけど、“ぼく”の方も自力で辿り着けたかな?」
「え、うーん、…彼も分かったと思う。でも今疲れて眠いみたいで、だいぶ静かだ…本人には答えてもらえなそう」
「…、…そうか」
ぽつ、と静かな声が落ちた。
「君より彼は、いくらも無邪気で幼いかもな」
ささやかな寂寥に似た憂慮の影が過った。ので、私は軽く頷いた。
「うん、柔らかで伸びしろいっぱい」
シックスは―――ちょっと目を細めた。なんだか苦笑のような、でもどこか愉快そうな薄い微笑みだった。
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我々は、森のエリアに移動していた。
前方には、白が眩しいマスコット…セブンが居る。
すたすた進むシックスは、一切の躊躇なくその背に声を掛けた。
「やぁセブン、調子はどうだい」
「―――変わらないけど。そちらも同じでしょう」
「そうだね。良好だ。でも気分がちょっとは変わる出来事があるかもね」
さらっと返答したシックスは、私を前に押し出した。
ピンクのアイライナーを引いたようなぱっちりした黒い瞳に見つめられ、私はやや視線をうろつかせた。せっかくだから、”ぼく”が出てきてセブンと話せればと思ったのだが、内側に呼びかけても彼はまだ眠たげな声をするばかりだ。悩みつつも私はそうっと声をかけた。
「あの、セブン、こんにちは」
「―――こんにちは、さっきぶりね。まだちょっとしか経ってないけど何か用?」
塩対応の片鱗がすでに見えている。
追っ払われる前に、私は証拠品を差し出した。セブンは差し出したA+の評価の回答用紙をはたりと見つめる。
瞳が何度も瞬く。彼女の視線は紙と私を2往復した。
「…これ…あなた、あのボールの課題を解いたの」
黒い瞳に浮かぶ感情の色は、劇的に変わった。声色が明るくなる。
「あの課題を早くクリアできる子はそういないの。―――そっか、あなたも私といっしょで、勉強するのが好きなんだ」
わずかに微笑むような声で、彼女は私に言った。
「じゃあ、あなたと私は、同じ志の仲間ね。…また声をかけて。時間があるときは一緒に勉強しましょう」
急激な変化に驚きつつ、しかし喜びも覚えた私は彼女に向かって力強く首肯した。
「ぜひ、おねがいします」
「決まりね、よろしく」
「よろしく…!」
弾む心のままに、私は手を差し出した。
「あの、私、セブンほど頭は良くないかもだけど…。でも、貴女と仲良くできたら、とても…とても、うれしい」
丸い瞳は、一度瞬いた。
―――今度こそ明らかに、彼女は微笑んだ。
「うん。そうね、知を求める同志のあなた」
真白い手が、青い手を握る。
優しく同調するように、新入りの手を取る。
―――もしかしたら彼女は、頭が良い人が好きと言うより、勉強家が好きなのかもしれない、と私は思った。
……あともうひとつ、と私は欲張って付け足した。
「―――あと、私、じつは“ぼく”っていう子の時があって、その子とも仲良くしてくれたら、うれしい…。“ぼく”の方も、どうやら問題を解くの、好きなんだ」
「“ぼく”の時…?その子…??」
疑問符の強いセブンの声を聴くにやっぱり厳しいかとも思いつつ、私は精一杯キリっと…つまり、努力して賢そうな表情を試みた。信じてほしい。
「性格が、切り替わる」
「…あなた複数人いるの?」
「この体に、ふたり。私と“ぼく”」
自分を指さした真剣な顔の私の説明は、…眉間に小さくしわを寄せた真剣な顔で受け止められた。
「…約束できないけど、そう。“ぼく”と会ったら考えておく」
「ありがとう!きっと仲良くできると思う」
「――あなたが言うなら、そうかもね」
セブンは少し笑った。
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私たちはセブンと別れて、エリアを移動していた。
「―――君、なんだか、急にセブンと会話が続くようになったな」
シックスが平たい声で言った。ちょっと納得いっていなさそうな顔をしている。
「ええっと、良い感じにアピールができて認めてもらえたから…?」
「そうなんだろうけどそれにしても口数が多い」
思っていたよりセブンが優しい対応をしてくれたということだろうか。シックスとしては予想外の反応でなぜそうなったか要因が気になるということ…?
予測に欠けた要素が気になって、把握したいのだろうか。
「セブンは…いつももう少し無口なの?」
「無口と言うか…端的というか。彼女はルールの理解が早くて適応も早いのだけれど。君とは妙に多く話していた」
いや、最初は塩対応だった。劇的に変わったのは、テストを見せてからだ。
つまりそれは、シックスがとりなしてくれたからでは?
「何かで気分や調子が悪くなかったのかも。でも変化があったのは…方法を考えて引っ張ってくれたシックスのおかげだ。ありがとう」
シックスは、はたりとこちらを向く。
「まぁそうか」
「うん」
実際のところ、あの答案用紙が無ければ言動で賢さを証明するしかないので、詰み…ではないが相当に時間がかかっただろうと思う。相変わらず賢さのアピールには何をすればいいか、私は全く自信がない。セブンにとって腑に落ちる賢さが何かもピンと来ていないし。
当初の彼女の冷ややかさは攻撃ではなくガードっぽいなと感じる。目に見えてわかりやすい物を使って信用を勝ち取り、そのガードを短時間で突き崩すことを可能にしたシックスの方略が優れていたということだろう。
真面目な顔で頷く私を、シックスの黒い瞳が見つめる。
「…それじゃあまぁ…概ね僕の計画していた通り上手くいったし、次の場所に進もうか」
シックスは調子を取り戻して、前を向いた。
…、…。
「ええと、貴方は…貴方が思うほど、完璧に全部を埋めなくても、大丈夫だと、思うよ」
「そうか。それで言うと、君は君が思うほど自粛を必要としないと思うな」
んッ?…えっ?
超速で行われた返答の処理に時間がかかって、私はしばらく沈黙することになった。
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考え込みながら歩くことにはなったが、程なくして別エリアに足を踏みいれる。
辿り着いたのは「Ocian(海)エリア」だ。
床は水色に塗られていて、島っぽい砂地が2つほどある。ヤシの木を模した構造物も設置されていて、どうやら南の海っぽい。
このエリアには、ブロブが二名いるようだ。しかし、彼らはやや離れた場所に居て、お互いの動きを気にし合っている、様子…?
どういう遊び…?
*―――…ふわぁ…あ、ふねだぁ。のれるのかな…。
今のところ乗って遊ぶ感じではなさそうだ。でも乗れたら楽しそうだね。
ちょっと眠気が残る声に私が返事をするうちに、シックスが彼らの一名に声をかける。
「やぁ君、ちょっといいかな」
「アホイ、メイティ!おいちょっと聞いてくれ。あそこのアイツ、宝を自分の物にしようとしてんだよ。―――我がぬるぬるのシカバネの上に乗ってな!」
砂漠エリアと海エリアの堺、砂浜にいるブロブは言った。どこか芝居がかっている。
「そうか。遊びの最中らしいが、新入りを紹介したくてね」
「なるほどな!よしルーキーよく聞けよ、この海じゃ弱ジバ強食がルールだ!チャレンジャーな俺の舟のデンセツを教えてやってもいいぜ、なぁに1日もあれば半分くらいは…」
「よし後回しにしよう」
シックスはすたすたと歩きだした。素早い。相手に「また後でぜひ」と一言断って、私はシックスを追いかけた。
エリア中央の小島に、もう一人のブロブは居た。
「やぁ君。話があって―――」
「やぁやぁ、よく来た。えー、オホン。…聞きやがれってんだ、あのオロカモンは俺サマの宝を盗もうとしている!俺サマが最初に見つけた、俺サマの宝をな!」
ブロブは大仰に言った。彼の背後には黄色い宝箱がある。
あぁなるほど、そういう遊びなのか。
「そうか。遊びの最中のようだが、こちらの新入りを紹介したくてね」
「そうかルーキー。耳の穴をかっぽじってよぉく聞くことだな。あのコソドロが俺サマの宝を狙ってるって時によそ見はできん。おととい来な」
「―――よしいいだろう、そのにらみ合いに決着をつけようか。終わったら僕の話を聞いてもらうよ文句はないね」
だいぶ抑揚のない声のシックスは言った。表情も声も無感情すぎるので、むしろ抑えられているのだとわかりやすい。
私はちょっと手を挙げてブロブに問うた。
「宝の番人さん、そのお宝はなんですか」
「さぁて。宝っていうからには人の心を奪うものだ。…あと私、番人てより海賊だからねヨロシク」
「了解です。分けられないものですか海賊王さま?」
「…ふふ、いいなその調子。―――そうだとも、一個のものをバラして使いたいんじゃないならな!」
うーん…、宝を山分けってわけにはいかないのか…。
*―――…たからもの…!なんだろう
私が海賊王のブロブと話している間に、シックスは先ほどのブロブの方へ戻って話しかけている。
「君さっさとあの島に行って宝を取ってきなよ」
物語を畳みだした。成果を早急に求めすぎている。待ってほしい。
せっかく遊んでるところを後から入っていく形になっているので、せめて全体の納得と満足があるゴールを目指そう。
私は海賊王に一旦別れを告げて、シックスと挑戦者のブロブの方へ戻った。
「そうは言ってもなシックス。俺の船だと低すぎて、この海は危険だ」
「僕らは今歩いてきた」
「海!ここは深い海なの!」
ブロブは近くの壁を体で示した。『警告:深水 ボートの使用を推奨』の文字と、ボートにタイヤが付いた絵。
「俺の船に、もうちょっと高さが欲しいんだよな。じゃなきゃあ門前払いされちまう」
「君がタイヤになるかい、体が丸っこいからできるよ」
「ちょ、俺は船乗り役だからね。やったとしても一輪車モドキにしかならんからやめてね?」
私は船乗りのブロブを見つめた。
「4つ車輪になるものをもってくれば、海賊王の元に行けますか、親分?」
「話が分かるルーキーがいた!そうだな青いの!」
シックス、と私は声をかけた。
「昨日の部屋で貰ったのがタイヤホイールだった。私、残りを運んでくるよ」
「彼らにわざわざ付き合うのか、君。…まぁ、君が友達をつくるのが目的だしな、それがいいか」
まだホイールが3つあったはずだ。お願いしてもらってこよう。
私は昨日の部屋へ急いだ。
P1:相変わらずよくわかっていない。自分に出来そうなことをやっている。
自粛が不要?なるほど、
青い声の主:起き出した。色々と感覚を調整中。楽しんでいる。
赤い男(幼体):身近な事例をもって二重人格を理解した。どっちがどうでどう役立つかあるいは、と考えて見ている。
イグルー内の薄緑の塊:気が乗らないことは後回しにするタイプ。ボール課題見学中に舟をこぎかけて隣の赤いのにつつかれていた。
ピンクリボンの先生(幼体):真面目に過ごしている。新入りは出来が悪くないようだから友達になっても平気かもしれない、と思っている。
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更新頻度低下する詐欺になってしまう。次話を投稿したら本当に間が空く予定。あしからず。