気が付いたら幼稚園らしいけどここ暗くないか??? 作:ぱんのみみ。
前回のあらすじ
極地エリアで課題を1つクリア。友人を追加で1名獲得。海エリアで2名に接触し、道具を取りに上階の部屋を目指す。
海エリアを後にし、私は昨日の部屋に向かった。
梯子のアスレチックは落ちないよう慎重に……と思ったが、元気いっぱいの「ぼくがやる!」の台詞とともに体は身軽に梯子を飛び移って行った。
「……よし!やった、とうちゃく!」
青い足が楽しげに目的地のブロックを踏む。動きにぎこちなさとか逡巡はまるでない。やっぱりちゃんとした体の主なだけある。
昨日の私とえらい違いだ…運動神経とか体の感覚の違いとかを痛感…。
―――すごい。あっという間に登れたね。
「ありがとう!ぼくこれ得意かも」
―――体を動かすの、好き?
「すき……うん、好き!たのしいね!じゃあ“わたし”、また―――…ええっと、んーっと、…こう…、…こう、?ふ、ぁ」
ぱっと、引っ張り出されるような心地がして、私の体の感覚は明瞭となった。
青い指先は、私の意思に従って動く。
―――“ぼく”、もういいの?
*―――うん、ふふ…ちょっと、きゅうけい…。
微か笑った声は、また眠たげになったようだった。寝息のような音が、聞こえる…。
…、…。
……、……。
……こう……こう?……、こう…!!!
彼の掛け声を真似してえいっと力を入れてみても、手ごたえは全くなく、ただ青い手の指先がぎゅっと握られただけだった。
“ぼく”の意識が私の前に出て来る気配は、ない。
…、…。
私は息を吐いて、道を進んだ。
辿り着いたブロックの奥。青い廊下の先。
目的地の部屋には、昨日と同じくブロブが居た。
あ、と思わず声を上げる。
昨日と異なり、彼はライトのつく課題のボードの前、ホイールの上に居た。ぴょん、と何度もジャンプをしている。
私の声に反応して、彼はジャンプをやめてこちらを振り返った。あ、とあちらはやや気まずげな声が彼の口から零れる。私は会釈をした。
「おはよう。課題をしてたんだね」
「あー…おはよう。いや別に…、でも、ああも言われたらやらないのはむしろ負けっていうか」
もごもごとブロブが言いよどむ。私は課題のボードに目をやった。
一番下と、その1つ上の列は緑に光っている。
「…もう2つできてる…!」
ホイールの上の彼は、やや身じろぎした。
「いや、アンタは昨日全部さらっとやったじゃん」
「ううん、今貴方がやったことだよ。昨日の今日に、今、自分で。すごい!」
…もぞ、と彼は動いた。
「…うん…いやでもこれで打ち止めかも。もう届かないし」
視線を横に逸らすブロブや、彼の乗っかったホイールを見る。先ほどの彼のジャンプの様子だと、確かに一番上までは距離がありそうだった。
私はそわりと彼を窺った。
「…手伝ってもいい?」
「え。…いや、え?まぁありがたいけど…」
私は急いで部屋の隅からホイールを持ってきた。彼が乗っていたホイールの上に、ちょっとずらして積む。
…これならボードの上方のボタンに届きそうだ。
「どうぞ!」
「ええ…アンタが押すんじゃないんだ…」
「だって貴方が頑張ってる!」
「…、うん」
数度ジャンプした彼は、見事ボタンをタイミング良く押した。下から3列目が、クリアを示す緑に光る。
私はもうひとつ、ホイールを置いた。
「すごい!もう一段!」
「…、…おし、ここまで来たら、やってやる」
4列目も飛び跳ねた彼によって問題なく押された。
ラスト、5列目。最上段。
3つのホイールを積み上げてもちょっと足りない高さは―――しかし、ブロブが更に大きなジャンプをしたことで補われた。
飛び跳ねた緑の体が、ぴったりのタイミングでボタンを押す。順繰りだった明かりが、目当ての電球でパッと光った。
高く跳んでバランスを崩し、彼は落下しかける……私の伸ばした手は、間に合った。
私と彼が見る先で、軽快な音とともにランプが付く。
「やった」
腕の中でややぽかんとしたブロブが言う。
やったね、と笑んで返した私の声に、やっぱりぽかんとしたままの彼は「うん」と短く返事をした。
*
…ふいに、眠気が私の襟首をひっつかんだ。
そうと思った時には、すでに私の…いや、“ぼく”の両手がブロブを持ち上げていた。ブロブの驚いた顔を見上げる。
「おわ、」
「―――
青い体が、その場でくるくる回る。
「すごい!―――すごーい!がんばった!やったね、うれしい!」
高々と持ち上げられて一緒に回るブロブは、口を開けていたが…やがて笑いだす。
“ぼく”も楽し気に笑った。
「君、とってもぴかぴかだ!」
掲げていた腕は下ろされ、嬉しそうにぎゅっと緑の体を抱きしめた。
あくび。
―――ふっと、体の明瞭な感覚が、私に戻される。
…、…。
青い星はまだ楽し気に内側で飛び跳ねている。
あれ、“ぼく”?と彼にした呼びかけに、返答はない…けどやっぱりまだ眠くはなさそうだ…。
きぃ、と音を立てて景品棚が開く。昨日はギターが入っていたが、それはシックスに渡されたので今は何も入っていない。
…、…。
「…ごほうびは一回きりなのかな」
「うん、そうかもな」
私の両腕に身を預け、腰を落ち着けた様子のブロブは、ほうと息を吐いて笑んだようだった。
「でももういいや」
私は、腕の中でぺったりとやや平たい形になっている彼を見つめた。台詞は諦めの言葉に似ていたが、しかし声色はそうではなかった。
満ちた者の声で彼は言った。
「もうもらったよ」
…、…。
“ぼく”、ともう一度呼びかける。胸の内で、青い星は、ころころと嬉しそうに転がっている。
―――“ぼく”?眠くなさそうだね。まだ話したり動いたりできるんじゃないかな。
*―――ううん、いいの、うれしかったから、飛び出しちゃっただけ!そのこは“わたし”とお話してたの、君がいてあげてね。
…、…。
……、……。
腕の中のブロブが、身じろぎをしてこちらを見上げた。
「なぁ、アンタ。…俺がこんなこと言うの変かな、でも、嬉しかったんだ。ありがとう」
「…いいえ。一緒にやらせてくれて、私も嬉しい。…、…あのね、さっき君を抱きしめたのはね、私じゃなくて、“ぼく”って子なんだ」
「―――はん?なんだそりゃあ、オカルトなやつ?スピリチュアルな話?」
「スピリットな話かもしれない。…二重人格ってわかる?」
「うん?まぁ。…はぁーん、そうか。さっき、ちょっと声が違ったもんな。元気有り余ってる方が“ぼく”で、大人しめの方が“わたし”っていう今のアンタ?」
「う…うん、多分そう…?あの、さっき沢山くるくる回ったのが“ぼく”なんだ。“ぼく”のこと、今、ここに呼んでいい?」
「お?おー、いいよ」
*―――…あれ?“わたし”?
―――…ねえ“ぼく”。彼には貴方の自己紹介がさ、まだだったと思うんだよ。
*―――あ、そうかも?そうだね、まだだ!
―――私と交代してもらっても、いい…?やれる?
*―――うん、
ぱっと。
即答の声と共に、私の意識は内側へと引っ張られて、世界への感覚は少し離れた。
指先の動きを確かめた“ぼく”が頷く。ブロブを見つめて楽し気で元気な声が告げる。
「はじめまして。―――ぼくは“ぼく”!これからよろしくね」
視界の中の相手も、楽し気に応えた。
「ああ、よろしくな」
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ブロブに一言断りを入れて、“ぼく”はそのままタイヤホイールを部屋から廊下に運び出した。
船乗りの所まで戻ろうとする中……ふと、視界に赤い姿が映る。
「…あれ?シックス!」
“ぼく”が顔を向けて見やる先で、シックスは片手を上げて気軽くあいさつした。
「やぁ」
「どうしたの?君もここに何かご用事?」
シックスの目がはたりと瞬かれた。
「ああ君、“ぼく”の方だな。―――うん、用事だ。タイヤはこの部屋に3つあったからね」
「えっ?」
彼は、そのままひょいと置かれたタイヤの2つを転がし始めた。
「残りを頼むよ“ぼく”。一往復で済む」
「…なるほどそっかぁ!」
残りの1つを押して転がしながら、“ぼく”は進み始めた赤い背を追いかける。
「ありがとう、シックス!」
「時間は有限だからね」
追いついて並んだ“ぼく”が笑う。
「シックス。君やさしいね」
「ん…ん、?」
シックスの前を向いていた視線は、一瞬“ぼく”を向いた。
「一度もされてない総評だな」
「えっそう?でも“わたし”も思ってるよ」
―――おぉ!?!?
急に言及されて内心を暴露された私は内側でびっくりした。別に心の中でだってはっきり言葉にしたわけじゃなかったと思うんだけど。
*―――そう…? “わたし”、シックスのこと、『そうかな?そうかも。そうだね』ってずっと思ってたよ。
…、本人に直接言うほど知れたつもりにはなれなかったが、まぁ…そうか…。今のところ、シックスは集団のために論理立てて行動する印象だ。目指す先は自分の利益だけではなく他者の利益を含んでいる。
それは十分、他人に優しい。
…あとたぶん、理屈の及ばぬところでも彼はちゃんとちょっと優しいと、思う。
「そうだよね。ほら、ぼくと一緒に遊んでくれるし」
「海エリアや今の話か。手早く事態が進展するからね」
「そうなの?」
「そうだよ」
そうかなぁ。
「“わたし”、すこし笑ってるよ?」
「君が変わったことを言ったからじゃないかな。…ところでちょっと聞きたいんだが、内側で別の人格が笑うってどう分かるんだ?声?」
「ん…ん-…?声も、だけど、もっとこう…触り心地が、ふわっと…?」
「感覚的だな…。具体的に観測できそうなものはないかな」
「えー…うーん…。…、…おなかが…ぽかぽかっと…?」
「…。…ふむ…温度…」
…温度!どうしような体温計とかで測りだしたら。
試行錯誤のようなどこか不思議な会話を、私は余計な口出しを避けて静かに聞いた。
シックスと“ぼく”は、続きを喋りながら並んで進んでいく。
中央のエリアにタイヤを降ろし終えたころ。
コロコロとタイヤを転がす“ぼく”の視界はやや揺れて霞みだした。
「…あ、」
―――……。“ぼく”、眠い?
*―――うん…。うーん…こう、強くなりすぎないように…抑えながら表に出るのが難しい…眠くなりやすいかも…。
―――大丈夫?
*―――うん…。でも、ちょっと、おねがい。
あくび。
ぱっと、体の感覚は私に渡された。
*―――…うん、大丈夫。ちょっと、きゅうけい!
…、…。内側であくび混じりの声が聞こえる。“ぼく”の様子に注意を向けつつ進む私に、隣のシックスの一瞥が向いた。
「君、今“わたし”だな」
「うん、合ってるよシックス。…今って動きが止まってた?」
「いいや?」
「…あれ。じゃあどうしてわかったの」
「あくびだ」
……なるほど?
内と外を行ったり来たりしてる私からすると眠気とあくびはずっとついて回っているのだが、外から見るとあくびが切り替わりのスイッチなわけか。
「…君、なにしてるの?」
「……。意図的に…あくびができて眠くなれるかなと…」
「ああ…。“わたし”だな」
その納得はどういう意味だ…?
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船乗りのブロブの場所に戻ってきた。
彼の傍らにあるボートには、すでに1つのタイヤが、取り付けられている…。
目を瞬く私に、シックスはサラリと言った。
「君の部屋にも1つあったよね」
「早い。ありがとう…!」
「―――いやシックスに言われて運んできたのは俺ね?船に取り付けたのはシックスだけども」
「そうなの?ありがとう」
「いや俺の船だし別にいいんだけど…。一応船長は俺よ?」
「効率的な適材適所だよ」
「…おかしいな…俺、船員にいいように使われてね…?」
舟に4つのタイヤをセットする。少々時間がかかったが、…不思議とぴったりだ。
「よし、やったぜルーキー!カンペキだ!」
チャレンジャーな船乗りのブロブが喜び勇んで、舟に飛び乗った。
「ヨーソロー!」
元気な掛け声が響く。
波の無い海では船は動かなかったので、私はそっとそれを押した。
「親分、海賊王に会ったらどうするんですか?」
「そりゃあ宝を前にして漢がやることと言ったら決まってるだろ!ケットウだ!」
決闘!
「勝算はありますか、親分。戦いもいいですが、競り勝負とか物々交換とかどうでしょう」
「んあ?交換?なんか持ってんのかルーキー」
「実は、昨日と今日で良いキーホルダーが入りまして」
「アンタ海賊じゃなくて商人やってる?」
*―――…あ!ぼくね、帆の係がいいな!
―――いいね、大事な役だ。風向きをよく見ててほしい。
内側の声に返事をする。…どうやら“ぼく”は割と短時間で復活しそうだ。もう少し時間が経てば遊びに参加できるかもしれない。私は船乗りのブロブに問いかけた。
「親分、帆の係もやっていいですか?」
「お?急にテイスト変わったな。帆?いいけども」
*―――やったね、ありがとう!
色々話す我々は中央の浮島に辿り着く。シックスは徒歩でボートについてきた。
待ち構えていた海賊王が口を開く。
「来たなコソドロ!」
「いいや違うね!俺はこのために7つの海を渡ってきた船乗りだ!」
「そうか、しかしキサマは何も得ることはない。その旅もここで終わりだ!」
「こんにちは海賊王さま。宝物とこれを交換してもらえないでしょうか」
「…」「…」
「親分もどうですか?えっと、よかったらお好きなのを選んでください」
「…変わった仲間を連れているようだが、俺サマの宝はちょっとやそっとで渡せる物じゃない」
「コイツ多分商人なんだよ、海賊王」
「―――んっ?あ、そうなんだ?じゃあキミここに何のご用事?」
「ええと、平和的な宝の活用法を探しに…」
「んあ?悪い、違ったわ海賊王。商人じゃないかも…?あ、帆の係だっけ?」
*
「―――あれ、ぼく?そう!えっとね、風をよく見てる!お店やさんなのは、“わたし”!」
「んんん…?おや?キミ、一人二役やってる?」
「あ、つい出てきちゃった!そうだね自己紹介がまだだ。…えっと、ぼくは“ぼく”!二重人格?っぽい?ていねいなほうは“わたし”!よろしく!」
「ちょっと待とうか。ルーキー君のキャラ付けが異様に濃い」
「うん、ちょっと待ってね、今“わたし”に交代する!―――…あ、え!?…ええと…。すみません、しっかりした自己紹介は後でするつもりで…混乱を、しますよね。でも、一緒にたのしく遊べたら、嬉しいです」
「しかもちゃんとキャラを切り替えてくる。…え?『もう一人のボク』的なごっこ?それとももしかして真正?」
「…おお?なんかよく分かんないけど海賊王が押されてるぞ、やるなルーキー!」
「情報が渋滞している!…いやいや、えーっと、オホン!―――ああ、ともかく、この宝は俺サマの物だ!誰にも渡しやしない!」
ぺち、と海賊王がチャレンジャーの体を押す。
「何だと海賊王!?―――やっぱわかりやすくケットウだな?それしかないな!?」
「なんだとぉやるか!?」
彼らは柔らかい体を使って互いをどつきあっている。私が止める間もなく、ぺちぺちと彼らの体がぶつかり合う音が聞こえる…。
*―――あっ、えっ、どうしよう“わたし”???
効果音も見た目もかわいい感じだが当事者らは結構本気っぽい。引っ込んで小さくなってしまった“ぼく”に代わって、私は平和的解決を試みた。
「あの、ええと、とりあえず宝箱の中身を見てみませんか、みんなで宝を共有できるアイデアが思い浮かぶかも…」
間に入ろうとする私の目の前で、ぺっちん!と良い感じに力が入った音が響いた。
あっ、と見つめる先、…海賊王の方のブロブが、ぺちゃ…と床に体を横たえて、動かなくなる…。
「…」
「…」
「いい所に入ったな、気絶した。決着がついたね」
シックスの冷静な解説が入る。
船乗りのブロブが…恐る恐る相手の顔を窺った。
「あの…もしもし?」
海賊王のブロブは…動かない…。
「―――なんてことをしちまったんだ…」
船乗りのブロブは、よろよろと地に膝(?)をつくようにかがんだ。「いや極軽度の気絶だよ」とシックスの平坦な声がもう一度告げる。
「ゴウヨクは…全てをハメツさせる…」
打ちひしがれるブロブは続ける…。
「…宝はお前がもっていけよ、ルーキー…。俺には…俺にはもう、何もいらない…」
えーっと…。
衝撃の結末に私は真顔で固まった。身の内の“ぼく”もすっかり縮こまっている。
「終わった?」
シックスが背後から声をかけてくる。次に行きたそうだ、ちょっと待ってほしい。
ごっこ遊びは苦い教訓とともに、悲劇的な終わりを迎えようとしている…。あんなに楽しそうに遊んでいたというのにどうしてこうなったのか…。
私は頭を悩ませ…自らの罪に沈み込むブロブを見つめ…そして苦し紛れに…手を挙げた。
「じつは私は連絡装置を持っている商人です」
―――?―――
周囲からの変な者を見る視線に刺されながら、私は歩みを進めた。
海賊王のブロブの横にかがんで彼の様子を見る…。別に損傷はない、ジバニウムの流出もない、目の前で見ていたので衝撃の程度は軽いと分かってはいるしシックスの発言の後押しもあるが、一応の確認だ。通信機に見立てたキーカードを持ち上げつつ、私は口を開く。リングに付けていたキーホルダーが揺れて、耳元で小さな音を立てた。
「大丈夫ですよ船乗りさん、彼は助かります」
「な、なんだって、でもこんな海のど真ん中じゃ何も…」
「とても腕のいい医者を知っているんです」
*―――ほんと?なんとかなる…?
私は――まだ役の決まっていない赤い姿を振り返った。
「…、…」「…、…」「…、…」*…、…。
「―――いや、僕はいいよ」
*「「―――!」」
我々は気落ちした。私は急いで新規のルート開拓を試みた。ええと、
「…、…」「…、…」「…、…」*…、…。
ええっと…ええっと…どうしよう…。
視線を彷徨わせた先で……物凄くゆっくり、シックスが動く。
「―――…、…僕が、天才外科医だ。…それで、ぬるっとした患者はどこだ?」
シックスは、両腕をやや広げて宣言した。
我々は目を輝かせた。
「―――いやさっきも言ったけど軽い衝撃による気絶だからごく短時間で目を覚ますよ」
「ありがてぇ!天才外科医先生!アンタは俺の恩人だぜ!」
「いや別に。大げさだが高評価はまぁ受け取っておくよ」
「ありがとうシックス」*―――ありがとう!
「いやええと、別に…」
シックスは足先をパタパタと動かした。
海賊王のブロブから、呻き声が聞こえる。
「う、うー…ん…」
本当にごく短時間の気絶だったらしい。わかっていても、私もほっと息を吐く。
「おお!気が付いたかオマエ!」
「…私は…いや俺サマは…そうか…キサマに敗れたか…」
まだそのキャラ続いてるのか、気合入ってるな…。
海賊王はしゃっきりと起き上がる。船乗りが口を開く。
「海賊王、アンタとの決闘に勝ったのは俺だけど、でもアンタを助けたのはルーキーたちと天才外科医のシックスなんだ」
「そうか…。いつのまに頼れる役柄が増えやがって、時代ってのは早々と変わっちまうもんだな…」
「そっちのルーキーたちと外科医に宝をやってもいいかな、海賊王」
「いいぜ、宝は命の恩人のオマエたちにくれてやる」
海賊王は、歩みを進めると、パカリと宝箱を開いた。
中に入っていたのは…ピンクの…リボンだ!?
―――ピンクリボンの先生の、あのピンクのリボンだ!?
「これは…」
私の声に、船乗りのブロブが答える。
「俺とコイツが昨日、部屋のクイズの景品で貰った奴なんだ。どっちのもんにするかで遊んでたんだけどよ。…上手く使えよルーキー!」
私はそのリボンを手にした。つやつやのピンクだ…。
「ええと、本当にもらっていい物…?貴方がた2人が使ったりは…」
「いやぁ、俺ら別にそのリボンにはそんなにキョーミがないし。イカす帽子とかネクタイとかなら話は別だけど」
「まぁ、宝箱が空じゃ盛り上がりに欠けるしなぁってね。…あと、改めてありがとう。青い君、それからシックス?」
「まぁうん」
ブロブに笑いかけられてやや落ち着きなさげなシックスを横目に、私はリボンを見つめる。
そうなんだ…。彼らがやりたかったのは宝を巡る冒険譚であって宝箱の中身は別にこだわりはないらしい…。
ぴょんと胸のうちで青い星が飛び跳ねる。
*―――セブンにとっても似合いそう!
似合いそうっていうか、もはや彼女のために用意されているものな気がするな。
*―――そうなの?セブンに渡したら、喜ぶかな。
嬉し気な“ぼく”の言葉に、うん、と答える。
成長した彼女が身に着けているのを考えると、気に入るだろうと思える。
シックスが近づいていて宝箱を覗き込む。
「リボンだ。僕は別に好みじゃないけれど。君が身に着ける?」
「ううん。あの、シックス…もし貴方が欲しいんじゃないなら、セブンにこれを渡してもいい?」
彼の元々丸い瞳は、さらにきょとんと丸くなった。
「その発想はなかったな。…僕は別にいいと思うよ、上手く行くかは別として」
「ありがとう」
「まぁ、ともかく…無事に落ち着いたし、改めてちゃんと紹介するけど。―――こっちの青い子が新しく僕らの仲間になった」
「新入りです、どうぞよろしくお願いします!」
ブロブたちは笑った。
「もう友達だよ。なぁ船乗り?」
「そりゃあ勿論な!―――ハプニングもあったけど、でも一緒に遊べて楽しかったぜ!」
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私は、リボンを手にセブンに会いに戻った。
セブン、とかけた声に、彼女は振り返る。
「あ、新入生。さっきぶり」
新入生、と私は目を瞬いてその言葉を繰り返した。彼女はやや笑んだ。
「そう、新入生。私とおんなじ、知識を探究する新しい生徒」
ニュアンス的には距離が近くなったという認識でいいのか。ピンクリボンの先生から呼ばれる『転入生』とちょっと響きが似ていて嬉しい気持ちもする。
「それで、新入生は何の用事?」
「えっと、渡したいものがあって。ブロブたちから譲ってもらったものなんだけど…気に入るといいな」
私はリボンを彼女に差し出した。
「…これを、私に?……ありがとう」
リボンを見つめる彼女の瞳は、ぱっと輝いた、ように見えた。
いそいそと彼女は左耳の下にリボンをつける。白い体に、ぴんと皺ひとつないピンクのリボンが眩しい。
おなじみの姿。
ぴったりだ、あまりにぴったりだった。
「―――どうかな?」
「とても似合ってる。まさに貴女のためにあるリボンだ」
私は微笑んで頷いた。
彼女は、はにかんだようだった。文句なしにかわいい。
*
「とってもかわいい!」
気が付いたら青い手は真っ白な手を握っていた。
ぐん、とかつてない勢いで眠気に襟首をひっつかまれる感覚を受けた私は、声を掛けようとし…いや、それを内側から見守るにとどめる。
「目元がきれいな色だから、そのリボンもよく似合うね。セブンにぴったり!」
セブンの瞳は瞬いた。彼女の瞳に移る青いマスコットは、楽し気ににこにこしている。
彼女は握られた手を見て、それから、もう一度こちらの顔を見た。
「―――あなた、“ぼく”?」
「―――!そっか、ええとはじめまして、リボンのとっても似合うセブン。ぼくは、“ぼく”」
セブンの瞳の中で、ふにゃりと“ぼく”が嬉し気に微笑む。
「…きみと、なかよくなれたらうれしいな」
両手を握られたままの恰好のセブンは、こちらを開いた目で見て小さく返事をした。
「えっと、…ええっと、ええ。あの…わたしも…」
「!ほんとう?うれしい。よろしくね、セブン」
「う、うん…よろしく。リボン、とてもうれしい…」
「それはよかった。―――あ、そうだ。ぼくも“わたし”といっしょで、パズルが好きみたい。今度いっしょに、勉強しようね」
「え、ええ、わかった。うん」
「ありがとう、たのしみ!」
―――ふあ、と“ぼく”はあくびをした。セブンの両手を握っていた手から、するりと力が抜ける。
身体の感覚が明瞭に返ってきた私は、どこか緊張と喜びを湛えた表情のセブンをそうっと見た。
…、…。
「―――ええっと、ごめん、セブン、今“私”の方に切り替わった。その、“ぼく”とも仲良くしてくれて、ありがとう…。大丈夫…?急でびっくりした…?」
「―――えっ、ああ、ちょっと、驚いただけ。…そう、“ぼく”って、あんな感じなの、わかった」
セブンは頭を振った。たちまち、いつも通りの落ち着いた彼女に戻った。いや、私を見つめる目には、まだはにかみが残っている。表情は柔らかい。
「ありがとう、あなた。リボン、本当にうれしい。大事にする」
「えっと、喜んでもらえてよかった」
私は微笑むセブンから視線をそっと斜め後ろにやった。
無の表情のシックスが、頭を45度くらいに傾けてこちらをじっと見ていた。
「―――僕もプレゼントをあげたことがあるんだけど」
とても腑に落ちていない顔だ!
いつか見た緑の瞳を想起した私は、慎重に口にした。
「…それは一体どんな…」
セブンから解説が入った。
「あれはキノコだった。プラスチックでできたキノコ」
「しかし大事なのは心だよね」
物凄い平坦な声でシックスに同意を求められた私は、返事に窮した。
「補足するけど僕が渡したキノコも同じ系統の色だった」
そ、そうなんだ…。似合う色だと思ったってことでいいんだな…?
私は言葉を選んだ。
「自分のためを思って選んでくれたって感じられたら、嬉しいかな…。それが更に自分の好みのものだったら、とっても嬉しいかな…」
…へー、ふーん…みたいな目でシックスがこちらを見ている。
「みんなってああいうのがいいの?ああいう、気安い感じのよくある誉め言葉がいいの?」
「ひ、ひとによるんじゃないかな…」
「本心からだから良いのよシックス。ねぇ新入生?」
「そうなのか?」
「こ、心のこもった言葉は嬉しいひとが多いよね。でもストレートに言われるのがいいかは、やっぱりひとによるかも、しれないね…」
「セブンは、ああいうのがいいのか、そう。君も?」
「え!?」
座った目のシックスがこちらを見ている。
「い、いいんじゃないかな。好感度は高いよ」
素直は美徳だしお得だとも思う。開かれた心は相手の懐に入るのに効果的だ。
シックスの目は座ったままだ。セブンはどこか、呆れたように彼を見ている。私はふいに、バンバンとバンバリーナが手を取り合いくるくる回るケーキを思い出した。
もしかしてこれ……馬に蹴られるかもしれないやつ……???
「…あの、でも、ストレートじゃなくても、それはそれで惹かれるものがあるよね…」
白いマスコットと赤いマスコットの間で、私は視線をうろうろさせた。なんでこんなに肩身が狭い感じを味わっているのか。おかしいな、助けてくれないか“ぼく”。
…胸の内の青い星は、満足そうに、寝息を立てていた。
P1:間に挟まれに行きがち。本人は場の均衡を保とうとしている。誰かの路の邪魔をしたり間に挟まりたいわけではないが、結果的にそうなっている。言い逃れができない。
…救急、電話。…いや瑣末だ。―――主体の切り替え。身体の制御権の移動。意識保有時での行動操作。利用可能か?
青い声の主:感覚を掴みかけてきた。覚醒度はすでに上がっているが何故か自身の出力を抑え気味で調整しようとしている。
赤い男(幼体):納得がいかない。心の動きや感情の作用については経験値を積み中。
ジャンプの薄緑の塊:目に見えない何かを得た。
船乗りの薄緑の塊:全力で遊びきった。満足している。
海賊王役の薄緑の塊:楽しくやりきった。良い遊びだったと思っている。
ピンクリボンの先生(幼体):他者の心には割と敏感。ストレートに心を渡されたのでストレートに受け取った。
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予告通りに次話投稿までは間があく予定。あしからず。